スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

「12月合意」により、スウェーデン議会の再選挙が回避される (その1)

2014-12-28 01:55:40 | 2014年選挙

出典:スウェーデン議会 (Riksdagen)

12月3日の予算案採決において、社会民主党・環境党による新政権が提出した予算案が否決され、野党である中道保守4党が共同で提出した予算案がスウェーデン議会で可決した。中道保守4党の議席数は、連立与党である社会民主党・環境党と閣外協力をしている左党の3党合計に劣るものの、極右政党であるスウェーデン民主党が最終採決において中道保守4党の予算案の支持に回ったため、そのような結果となった。

これを受けて、当初はロヴェーン首相(社会民主党)が内閣総辞職を行い、その後、与党もしくは野党による新たな組閣が行われるものと見られていた。しかし、ロヴェーン首相は人々の予想を大幅に裏切った。新たな議会選挙を実施し、有権者の判断を仰ぐ意向を表明したのである。

過去の記事:
2014-12-03: 予算案の採決はどうなる?
2014-12-04: スウェーデン国会、野党の予算案を可決。首相は再選挙を決断

しかし、議会選挙を新たに行うことに対しては、私もこのブログで既に書いたように疑問点が数多くあった。そもそも与党の予算案が否決されるという混乱状況に至った原因は、社会民主党・環境党・左党左派陣営と、穏健党・自由党・中央党・キリスト教民主党中道保守陣営が、どちらも議会の過半数の議席を取ることができず、極右のスウェーデン民主党キャスティングボードを握っていたためである。では、新たな選挙によってこの膠着状態が瓦解し、左派・右派のどちらかの陣営が過半数を支持を取れるかというと、そのような可能性は極めて小さかった。12月に入ってから行われた世論調査によると、各党の支持率は9月の国政選挙の得票率からあまり変化していなかった。つまり、再び選挙をやっても、よっぽどのことがない限り、今と同じような膠着状態が続く可能性が高かったのである。

新たな選挙を実施する意向を12月3日に表明したロヴェーン首相だったが、正式な決定は12月30日に下されることになっていた。スウェーデンではその間、再選挙よりも良い打開策がないかどうか、様々なところで議論が続けられてきた。

議会運営をめぐる現行制度の問題点の一つは、少数与党が政権を担当した場合に政権運営が困難であることだった。それは少数与党なので、議会制民主主義のもとでは当然といえば当然だが、一方で、一つの内閣が議会の信任を受けて誕生しても、予算が議会で否決されるたびに内閣が総辞職したり、再選挙を行わなければならないとすると、政治そのものが麻痺してしまいかねない。具体的に問題なのは、数ステップに分けて行われる予算案採決のルールである。つまり、議会に提出された予算案が3つ以上ある場合、支持の最も少ない案同士を最初に戦わせて、最後の決選投票のおいては、それまで勝ち抜いた案と、支持が最も多い案を戦わせるという方法である。この方法だと、早い段階で自党の予算案が否決された党の議員が、決選投票において与党以外の予算案を支持することもできるので、与党の予算案が否決されるという事態も起こりうるのである。

今回がまさにその好例である。9月半ばの国政選挙の結果を受けて、左派3党中道保守4党を議席数において勝利した。中道保守4党は自分たちでは組閣は難しいと判断したため、左派3党が過半数の議席数を得ていないにもかかわらず、中道保守4党は左派側の首相候補であったロヴェーンが首相になって政権を樹立することを許した(首相選出の議決において棄権したからである。極右のスウェーデン民主党と組めばロヴェーンの首相就任を阻止することができたものの、極右政党との協力は彼らにとって考え難いことだった)。にもかかわらず(中道保守4党の直接的な意図ではないにしろ)与党の予算案が否決されてしまったのである。

おそらく、この採決ルールが作られた時には、少数与党による政権運営については考慮されていなかったのだろう。スウェーデンはかつては社会民主党が高い得票率を維持していたので、単独、もしくは、1、2党の閣外協力を得ながら、首相選出や予算案採決では過半数を確保し、安定した政権運営ができた時代が長く続いてきたが、近年になり、その状況も変わってきた。そのため、新しい状況により適したルール作りが必要なのではないかという声が、9月の選挙後から徐々に上がっていた。(私が12月初め、講義をするために私の古巣であるヨーテボリ大学経済学部を訪ねた時にも、一緒にランチを食べた同僚同士でこの話題に大いに花が咲き、危うく昼からの講義の開始を逃すところだった)


【 与野党の垣根を超えた合意の模索 】

12月3日に行われた予算案採決の前日、極右のスウェーデン民主党「予算案の決選投票において野党である中道保守4党の予算案を支持する」と表明した。それまでは、彼らは決選投票で棄権する可能性もあると考えられており(実際のところ、2010年から14年までは棄権したため中道保守4党による少数与党の予算案が可決できた)、そうであれば与党の政権運営に何の問題はなかった。しかし、スウェーデン民主党のこの発表によって、翌日の与党予算案の否決がほぼ確実なものとなった。そのため、焦ったロヴェーン首相はその晩(つまり採決の前日の晩)、中道保守4党の党首と会談し、事態の打開を図ろうとしたものの、中道保守陣営の側は断固として譲らず、妥協は得られなかった。

その結果、既に書いたとおり、与党の予算案が否決され、中道保守4党の予算案が可決し、ロヴェーン首相が再選挙の意向を発表する事態に至ったわけである。

この後、与野党間の建設的な合意を模索する動きが見られたが、実はこの時に動いたのは中道保守4党側だった。12月9日の主要日刊紙DNのオピニオン欄において「少数与党でも内閣を樹立させ、安定した政権運営ができるような長期的なルールを作るために、与党側とダイアログを持つ用意がある」と表明したのである。



出典:Dagens Nyhter

中道保守4党にとっても、新たな選挙は何の解決にもならないであろうから、できれば回避したいという気持ちがあったようだ。それに、2010-14年がそうであったように、自分たちが近い将来、再び政権に就いたとしても、議会で過半数の議席を取れなければ、今の社会民主党と同じ少数与党の立場に立たされることになる。与党の予算が否決されるたびに再選挙を行っていては政治が麻痺してしまい、スウェーデンの社会や経済にとっても良くない。それなら、今のうちに、新しいルールを作りたいという焦りがあったのだろう。

この「誘い」に与党側は乗った。日刊紙DNの報道によると、12月半ばから水面下で与野党間の協議が始まり、クリスマスの直前から本格化していったという。実際のところ、このころ内部筋からリークによって、水面下で協議が続いていることがニュースでも話題になったが、与野党の関係者は明確な発言を避けていた。

クリスマス休暇中も続いたこの協議は、12月26日の晩に実を結んだ。協議に関わったすべての党の党首が最後に集まり、握手を交わしたという。


【12月27日10時30分: スウェーデン議会のプレスセンターにて 】

スウェーデンは26日までのクリスマス休暇の後に週末が来たため、長い休みのまっただ中だが、記者会見が開催された。会場に現れたのは、中道保守4党社会民主党、環境党の党首であった。


環境党は党首が男女2人なので、6党とはいえ全部で7人。
穏健党はラインフェルト党首が既に退陣を表明しているため、次期党首候補のバトラが党首代行を務めている。
出典:Dagens Nyheter

この6党の党首は、この前日に至った合意を「12月合意 (Decemberöverenskommelsen)」と呼んだ上で、その内容を説明した。合意は、議会運営のルールと解決すべく重点課題について定めたものであり、次の4点からなる。

(1) 首相選出においては、最も有力な党派の候補者(つまり、支持する議員が最も多い候補者)を首相に選ぶ。
(現行制度では、過半数の反対票がなければその候補者が首相に選出される、という規定のため、過半数の議席を確保できなかった党(党派)の候補者を、それ以外の党が過半数で否決でき、少数与党による政権樹立が阻止される可能性がある。今回の合意では、そのようなことがないように、最も有力な党派以外の議員は首相選出において棄権することを定めている。これは今年10月初めの首相選出において、野党である中道保守4党が既に実行している。その結果、ロヴェーンが首相になることができたのである)

(2) 少数与党による政権が予算案を議会で可決できるようにする。もし、その予算案が否決される可能性がある場合には、その他の党は予算案の採決において棄権する。
(これは、「その他の党」がそもそも自分たちの予算案を提出しないのか、それとも、提出した上で採決においては棄権するのか、不明である)

(3) 議会で既に可決した予算の一部の項目を取り出して、それを後から否決するようなことはしない。
(これは、2014年の予算において、当時野党であった社会民主党などの左派政党が国税所得税の課税最低限を巡って実際に実行したおかげで、大きな混乱に至った。決着はまだついていない)

(4) 防衛、年金、エネルギーの3つの領域において、与野党の垣根を超えて協力を行い、ダイアログを持つ。
(例えば、年金問題については、現行の年金制度の基礎となった超党派合意には環境党が含まれていない。今年秋の新政権樹立後に、今や与党となった環境党がこの超党派の協議に参加しようとしたところ、中道保守陣営側はそれを拒み、退席してしまった。しかし、今回発表された合意によって、環境党も与党であるかぎりは、年金問題をめぐる超党派の協議に参加させてもらえることになる)


ロヴェーン首相は、この合意が野党との間で結ばれたことで再選挙の必要はなくなったと判断し、12月3日に表明したその意向を撤回した。

ちなみに、この合意に加わっているのは、先に挙げた6党であり、左党スウェーデン民主党は合意に加わっていない。議会における影響力を大幅に削がれることになったスウェーデン民主党は不満を露わにし、内閣不信任案の議会への提出も辞さない構えだが、提出したところで議会を通る可能性は全くない。一方、左党のほうは、ロヴェーン政権へ閣外協力をしているため、政権の続投を可能にするこの合意に賛意を示している。(9月半ばの選挙直後と同様、左党を蚊帳の外に置いたのは、中道保守陣営との合意形成を円滑にする上で良かったと思う。蚊帳の外に置かれたとはいえ、水面下で続けられた協議の進捗状況については逐次、報告を受けていたようだ)

また、この合意は2015年の春予算の審議から適用され、適用期間は2022年まで、とされている。


【 画期的で建設的な合意 】

今回発表された超党派の合意は、1990年代初めに結ばれた超党派の合意に匹敵するくらい画期的なものだと評されている。1990年代初頭にスウェーデンを襲った経済危機・金融危機・通貨危機という深刻な危機に際して、当時の政権第一党である穏健党と野党第一党である社会民主党が手を組ぶことで、例えば、破綻銀行への公的資金の注入や国有化などを実行に移すことができ、困難を乗り切れたときの超党派合意のことである。

その見方に私も同意だ。9月の国政選挙以降、左派陣営も中道保守陣営も過半数の議席を取れなかったにもかかわらず、あたかも塹壕戦のごとく、互いに妥協することなく、批判ばかりしあっていた。左派ブロック中道保守ブロックによる膠着状態を打破し、それぞれの政党が政策ごとに柔軟に協力し合い、過半数を得られるような状況が作り出せばそれが最善だったろうが、それが難しい。一方で、極右のスウェーデン民主党はキャスティングボートを握る立場にあるため、得票率・議席数に比例しないくらい大きな影響力を議会運営において発揮してきた。この状況を打開するためには、党派を超えた建設的な合意が必要であったわけであり、私も今回のような合意を心待ちにしていた。無駄としか思えない再選挙が回避されたことも非常に嬉しい。

今回の合意は、議会の力を減らし、内閣の力を強化するものであるため、民主主義の後退とも解釈できる。しかし、議会制民主主義の原則と、政権の安定的な運営という2つの目標を両立していくための妥協として、必要な物だったと私は思う。このような現実的で、建設的な合意が超党派で至ることができるのは非常にスウェーデンらしいところである。

おそらく、今回の合意は、議会法を改正するまでの暫定的なものと思われる。だからこそ、2022年までという期限がついているのであろう。今回の合意に盛り込まれた新しいルールを法制化するためには議会法を改正する必要がある。しかし、そのためにはまず調査委員会を設立して綿密な準備をする必要があるし、そのような重大な法律を変えるためには一つの国政選挙を挟んで2度、議会で採決するのが慣例とされているようだ。(ただし、政治学者によると議会法は基本法の一つではないため、変えようと思えば、一度の議決で変えられるらしい)

一つの懸念として挙げられているのは、今回の合意によってスウェーデン民主党を除くすべての党オール与党になるのではないか、ということだ。しかし、今回の合意はあくまで首相選出と予算案採決における手続きを規定しているにすぎない。それ以外の法案審議については、今後も与野党間で意見の対立が続くであろうし、政策的・イデオロギー的対立も今後も維持されるであろう。与党の法案が否決される可能性や、中道保守4党から内閣不信任案が提出される可能性もこれまで通りあるため、左派政権の側も安心してはいられない。中道保守4党の側もその点は強調している

(続く・・・)

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