スウェーデンの今
スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員
 



民間企業への大規模な公的支援、各種銀行への資金注入、そして、保険会社の国有化・・・。アメリカではここ数ヶ月の間に、市場自由主義・資本主義を標榜する国とは思えないくらい大胆な市場介入策が行われてきた。金融危機に対処するためではあるが、市場に対する国の関与とコントロールは着実に拡大している。

銀行や金融機関への公的資本の注入や国有化は、スウェーデンが1990年代初めに行い、当時の金融危機・経済危機を3-4年のうちに最悪の状態から立て直すことに成功した教訓がある。このことは昨年秋にもこのブログで「the Stockholm Solution」として特集した。
2008-09-15: The Stockholm Solution (1)
2008-09-17: The Stockholm Solution (2)
2008-09-19: The Stockholm Solution (3)
2008-09-21: The Stockholm Solution (4)

当時、財務副大臣としてその舵取りを行ったボー・ルンドグレーン(Bo Lundgren)は、現在は国債管理庁の長官を務めるが、アメリカ発の金融危機の懸念が囁かれるようになった昨年春からIMFなどに招かれて、スウェーデンの教訓を説いて回っていた。今年の3月にも、アメリカ議会に招かれて、演説を行っている

また、世界の新聞や雑誌にもたびたびインタビューを受けてきた。下のリンクは、そのほんの一部を紹介。
2008-09-22 (New York Times): ”Stopping a Financial Crisis, the Swedish Way”
2009-01-22 (New York Times): Sweden’s Fix for Banks: Nationalize Them
2009-02-15 (the Washington Post): "Nationalize the Banks! We're all Swedes Now" (by Matthew Richardson and Nouriel Roubini)

(注:ただし「the Stockholm Solution」はあくまで金融システムのメルトダウンを防ぐ措置であり、アメリカ政府が自動車産業に対して行っているような民間企業への積極的支援は含まれない。これまで書いたように、スウェーデンは企業の救済をすることには非常に消極的だ。また、アメリカやフランスなどで見られるような保護貿易主義経済ナショナリズムも、スウェーデンの過去の教訓とは関係がない。)
――――――――――

とはいえ、政府による大規模な経済介入を懸念する声も、さすがアメリカとあって根強い。オバマ政権の緊急経済プランを批判したい人たちにとって、アメリカ世論を震え上がらせるためには、ある一単語を叫ぶだけで十分。その単語とは、socialism

そう「自由経済への介入は、社会主義への第一歩だ!」というわけだ。しかも「このままだと、スウェーデンみたいな社会主義国になってしまうぞ!」と叫んでいる人もいる。アメリカでは「社会主義」という言葉に対する拒否反応が強いらしく、このような大袈裟な主張もまことしやかに議論されているようだ。


そんな中、アメリカのコメディー番組「The Daily Show」が、スウェーデン特集を放映した。「社会主義国」スウェーデンがどんなに恐ろしい国で、人々が惨めな暮らしをしているのかを調査するために、スタンドアップ・コメディアンのWyatt Cenacがスウェーデンに渡った!


(↑画像をクリック)


高い税金のおかげでお先真っ暗なスウェーデンでは、車までもが海に身投げするほど。


と、ここまでの出だしは良かったのだけど、次第に明らかになるのは全く予期しなかったスウェーデン像・・・。あれっ、人々は普通に生活しているし、何だか幸せそうではないか・・・!


しかし、資本主義の魅力とは、成功した者が報われること。スウェーデンのお金持ちはきっと贅沢な暮らしをして、大きな家やテレビをいくつも所有し、「社会主義」の社会に不満を漏らしているに違いない。というわけで、スウェーデンのポップスター、ロビン(Robyn)の自宅を訪ねることに。

だが、ここでも期待が外れる。しかも、最後の極めつけはロビンの台所で見つけたあるもの。「スウェーデンではポップスターも、こまめに牛乳パックを洗って、リサイクルしていた!」


頭の中がすっかり混乱してしまったこのWyatt Cenacは、最後にスウェーデン人に向かってこう叫ぶ。
「Wake up, people! You are living in a socialist nightmare!」

――――――――――

今日はこのリンクをスウェーデン人の同僚に送って、みんなで大爆笑していた。
「Do you really want to change America into Sweden!?」 とマジな顔をして警告しているオッサン(上のほうの写真)に対抗するためには、これくらいな軽いタッチのルポタージュのほうが、むしろ効果があるかもしれない。

コメント ( 10 ) | Trackback ( 0 )


« 歴史的な低金... 「社会主義国... »
 
コメント
 
 
 
Unknown (H.Usui)
2009-04-24 15:09:22
米国人は共産主義嫌いだったけど何時から社会主義嫌いになったのだろうか。しかしオバマは大きな政府を選んだ大恐慌にはこれしか処方箋がないのか解らんか、少しは歴史書を読めと言いたい。
彼らの浅博さはこの結果をもたらしたのだ。自動車、兵器、医療、保険、金融各産業に支援されたBush政権は富裕層の税金を半分以下にして新自由主義とやらで市場がすべてが決定するなんて幼稚な考えを金融工学とかで誤魔化して信用バブルをGDPの3倍まで拡大させ役員報酬としてたっぷり戴いてカリブ海に10万トン級のクルーズ船35隻に乗って毎日酒池肉林の騒ぎしていた一方イラク戦争で油の高騰を招き志願兵を殺し民間人を大量に巻き込みいくら裁いても裁き切れぬ大罪を犯しているのによその国に来て何事か、もっと怒れと言いたいですね。
  
 
 
 
Unknown (American)
2009-04-25 03:59:09
FOXとかはヒドいよ。
大統領選挙前にも

「オバマ政権になったらアメリカは社会主義に突入する!」
「アメリカがアカになる!彼の政策は
資本主義の否定だ!」
とかそんなアジテーションの連続。

それに反応したThe Daily Showの姉妹番組、
Colbert Report
(司会者スティーブン・コルベアはかつての
Daily Showのレギュラー。人気が出たので
単独の番組を持つようになった)

ではアメリカ共産党の大統領候補、
ブライアン・ムーア氏を招いた。

コルベア「ブライアンさん、あなたは
共産党ですよね?オバマ氏を応援していますか?」
ブライアン「とんでもない」

コ「でも彼は社会主義者ですよ!」
ブ「いや、彼は社会主義から最も離れた
存在だよ。オバマのやろうとしていることは
共産党のポリシーとは最もかけ離れている。
彼は社会主義者ではない、資本主義者だ。
彼の党も資本主義の党だ」

(中略)

コ「でも、あなたは本当の
『アメリカ共産党の大統領候補』ですよね?」
ブ「そうだ。バラク・オバマ候補を社会主義者
と攻撃、社会主義と共産党の解釈を誤って
いる。ミスリーディングだよ」


FOXもそう煽るんだったら社会主義者を
番組に連れてくればいいのに・・・。
 
 
 
主義とかどうでもいいよ… (kui)
2009-04-25 15:58:07
 資本主義とか社会主義とかはどうでもいいのにね。
 国民にとっては「圧政」されているかどうか。
 それが最重要なのではないの?
 独裁国家でも、国民の為の良い政治を行なえるなら最も良いシステムです。どの主義のリスクが高いのかを考えて、現状は民主・資本主義で手を打っているだけ。
 
 
 
Unknown (inumash)
2009-04-25 21:13:51
ヒラリーが皆保険制度を実現させる為に動いた時の保守派のネガキャンも「医療の社会主義化だ!」でしたね、確か。
 
 
 
Unknown (Unknown)
2009-04-26 19:17:23
4月から失業して雇用(失業)保険給付を受ける身になった俺だが、
90日しか給付されないわ、とにかく給付を必死こいて制限しようとするシステム
(あきらかに”不正給付”を調査するためのコストの方が不正給付より多い!)やら
10年ぐらい前に最初の失業した時と比べてなんも変わってないのがなー

好景気の時に税金上げてセーフティネットを構築できなかったツケが
ドッカン来てる気がするなぁ>日本

まあ俺は貯金で株をデイトレしながら次の職捜してるわけで、
まだ持つ側にいるから大丈夫だけど、若者なんて親の貯金頼りだよな
とかパソコンの前で思ってみたり。
 
 
 
Unknown (Yoshi)
2009-04-26 19:41:06
>FOXとかはヒドいよ。

そうですね。この番組の最初に登場するディベート番組のクリップも、全部FOXみたいですね。ジャーナリズムの観点から見たら、報道やディベートの質はかなり低いですね。

>FOXもそう煽るんだったら社会主義者を
番組に連れてくればいいのに・・・。

そうですよ。「社会主義」という言葉だけ独り歩きさせて、自身は安全な塹壕の中に隠れて本性を見せず、相手の批判ばかりしているようではまともな議論はできませんね。
 
 
 
Unknown (Yoshi)
2009-04-26 19:50:35
>資本主義とか社会主義とかはどうでもいいのにね。

>保守派のネガキャンも「医療の社会主義化だ!」でしたね、確か。

レッテル張りだけで相手を批判して、悪いイメージを有権者に与えるだけのしょうもない「ネガティブ・キャンペーン」では、深い議論はできませんね。


>独裁国家でも、国民の為の良い政治を行なえるなら最も良いシステムです。

これは言い過ぎでしょう。圧政のない独裁システムが存在するのか疑問です。先進国の社会システムのほとんどには、所得再配分の制度など、多かれ少なかれ社会主義的要素が含まれているので、社会主義そのものが決して悪いもの・危険なものであるとは思いませんが、やはりそれが民主主義の枠内で行われた場合のみに、正当性および制度としての安定性を持つのかなと思います。

法の下の平等や、政府に権利を侵害されたときに政府を訴えることができる「安全装置」がシステムの中に組み込まれていなければ、必ずどこかで「圧政」を受けている人がでてくるように思います。

もちろん、民主主義と一口にいっても、成熟度には差がありますので、民主主義の制度でも「圧政」はあることは否定できませんが。
 
 
 
Unknown (Yoshi)
2009-04-26 20:01:44
>資本主義とか社会主義とかはどうでもいいのにね。

とはいっても、日本の学校教育で「政治イデオロギー」つまり「主義」とかいうものをもう少し学ぶことができたら、とも思います。一般教養として、高校の公民や社会系の科目などに、
世の中にはどのようなイデオロギーがあって、それがどう関連しているのか、どのような歴史的背景があるのか、などをあくまで「中立的」に教えると言うことです。

日本人が政治議論をするのが苦手なのは、一つには関心の低さも問題かもしれませんが、もう一つは、理念のフレームワークがしっかり備わっていないのために、軸足のしっかりしない、ふらふらとした議論しかできないことだと思います。考えの枠組みが整っていないと、「レッテル張り」に簡単に流されてしまうでしょう。

社会主義だけでなく、自由主義にしても「何でも無責任で、好き勝手にしていいということだからけしからん」というような幼稚な発言をよく耳にします。
 
 
 
Unknown (欧州の消化器科医)
2009-05-13 07:09:10
ストックホルムで医師をしております。楽しく拝見しました。一部、引用させていただきました。今後ともよろしくお願いします。ちなみにスウェーデンのシステムは概ね気に入っております。改善すべき点も、もちろんありますが、日本よりは落ち着いた社会を構築できていると思います。
 
 
 
Unknown (Yoshi)
2009-05-13 08:50:07
コメントありがとうございます。

スウェーデンの社会も完璧なものではなく、いや、より正確に言えば、完璧な社会などあるはずがなく、どこの社会も様々な問題を常に抱えています。

抱えている問題の一部はその社会特有のものです。私たちはとかく「日本とスウェーデンの違い」などというように「違い」とか「その社会特有のもの」にばかり目が行きがちです。一方で、どこの社会にも共通した問題が実はたくさんあり、どの国も似たようなことに頭を悩ましていたりもします。

私の視点というかスタンスは、そのように似たような問題に頭を抱えるスウェーデンや日本、そしてその他の国々が世界中にあるものの、それに対する対処の仕方は様々であり、それに応じて結果もまちまちだし、人々の満足度も様々だ、ということです。つまり、問題を解決しようと努力する(もしくは努力しない)過程を比較することで、本当に学ぶべき、興味深い核心が見えてくるように思うのです。

政治的コントロール、社会の中での議論、説明責任、追及、無力感(徒労感)、満足感・・・

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