限りなき知の探訪

45年間、『知の探訪』を続けてきた。いま座っている『人類四千年の特等席』からの見晴らしをつづる。

通鑑聚銘:(第7回目)『大樹將軍、馮異』

2009-09-17 00:53:18 | 日記
資治通鑑(中華書局):巻39・漢紀31(P.1267)

中国の歴史書を読む面白さの一つが、ほれぼれとするような粋な役者に出会うことだ。その一人に後漢の創建に多大な貢献した将軍、馮異(ふうい)がいる。

彼の人柄は次のように記述されている:謙遜して、威張ることなく、文官などが戦いに巻き込まれないように注意をし、常に行軍のしんがりを勤めた。
『謙退不伐、敕吏士非交戰受敵、常行諸營之後』

本物の歴史書の面白さの真骨頂は、実は、このように淡々と事実を述べている箇所ではなく、これに続く次の文にある。



『毎所止捨、諸將並坐論功。異常獨屏樹下、故軍中號曰:「大樹將軍」』
(止捨する所ごと、諸將、並び坐し、功を論ず。馮異、常に独り樹下に屏す。故に軍中、號して曰く「大樹將軍」)

彼は大樹將軍というあだ名を奉られたのだが、それは、戦いのあと、将軍達が我勝ちに戦功を盛んに論じている時に、彼は常に我関せず焉として口を差し挟まず、大樹の下に一人泰然と座っていたというのだ。

私は、中国の歴史書というのは、単に過去の事実(らしきもの)の集積ではなく、実例をベースとして、人として踏むべき道を教えてくれる哲学書である、と思っている。その一例をこの馮異の大樹將軍というあだ名の由来に見ることができる。馮異ほどの人物であれば、他にも書くべきことが山とあったはずだが、それらを差し置いて、このエピソードを青史に載せるという点に、中国人の行動規範や価値観を如実に知ることができる。
コメント
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