バルセロナ(ウォール・ストリート・ジャーナル)米検索大手グーグル(Nasdaq:GOOG)にとって、欧州債務危機は
逆境の中の希望の光だった。債務危機でひどく打撃を受けた国でグーグルの携帯電話向け基本ソフト(OS)「ア
ンドロイド」を搭載したスマートフォン(多機能携帯電話)が、米アップル(Nasdaq:AAPL)の「iPhone(アイフォ
ーン)」に対して優勢に立っているからだ。
昨年は、アップルの注目を集めた「iPhone4S」の販売開始にもかかわらず、米IT専門調査会社IDCによると、ギ
リシャでのスマートフォン売上高のわずか5%、ポルトガルでは9%がアイフォーンだった。残りのほとんどは、
グーグルが通信産業分野での足場固めとして販促に力を入れているアンドロイドを搭載したスマートフォンだっ
た。
この結果は、幅広い消費者層に手頃な価格で提供するため、通信事業者各社の販売補助金にかなり頼っていると
いうアップルの数少ない弱点を明示することになった。通信事業者各社の販売補助金という商慣行はアップルに
とって大きな利点であることは証明されている。直近の四半期でアップルの収益は、たとえば米スプリント・ネ
クステル(NYSE:S)といった通信業者による販売補助金のおかげで前年比73%増を計上した。スプリントは昨年秋
からアイフォーンの販売を始めたが、2015年まで同社にとって利益にはならない。
アナリストらによると、米国の通信業者は消費者がアイフォーン1台を2年契約で購入する度にアップルに対し約
400ドルを支払っている。スプリントはアイフォーンの販売補助金がほかのスマホより平均40%割高だとしている
。スマホを購入しやすくし、通信・通話料の契約から時間をかけて収益を上げるのが目的だ。一方、消費者と契
約をしない「プリペイド制」の通信業者は携帯電話本体の価格を消費者が払うことになる。
アップルは直近の四半期で3700万台のアイフォーンを販売し、前年同期比2倍以上という記録を打ち立てたが、
株式市場はプリペイド制の通信業者に対する販売戦略について同社を厳しく問いただした。アップルはほぼ3年目
となる「iPhone3GS」モデルをプリペイド制のユーザーを含む低価格志向の消費者層に向けて展開し続けている。
それでもギリシャのコスモテでは契約なしに535ドルで販売されている。
アップルのトム・クック最高経営責任者(CEO)は1月、アナリストらに対し、長期的にみてプリペイド市場で低
価格機器がどう展開するか「話すのはまだ早い」と述べ、アップルはアイフォーンの全体的な販売増に「興奮し
ている」と言った。
クック氏は今月の投資家会議でプリペイド型を使うことの多い新興市場はアップルにとって「重要」だとしなが
らも、各国で状況が異なる上、時が経つにつれ進化する場合もあるとした。クック氏によると、中国の中国聯通
(NYSE:CHU)(0762.HK)に対しプリペイド制に加え、契約制と販売補助金による販売方法の導入を検討するよう説得
し、手ごたえがあったという。
クック氏は「世界中の国で将来より良い事業を行うために、われわれがどう対応できるかを学びながら詳細を煮
詰めている」と述べた。
今週、バルセロナで開催される通信関連産業の年次会合で通信業者、インターネット企業、携帯電話メーカーが
顔をそろえる。携帯機器の販売補助金をめぐる議論は、通信業界で覇権を握り、利益を確保しようと企図するこ
れら関連業者間の綱引きの1つとなっている。
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米英のような国では、販売補助金の手助けにより、昨年のスマートフォン市場の20%以上をアイフォーンが占め
た。しかし、ほとんどの消費者が通信業者と契約をしないで携帯電話の本体を購入する一部の南欧諸国のような
国でのアイフォーンの販売状況をみると、デンマークやスペインで起こったように、一部通信業者が本体価格の
負担に疲弊すると、アップルはとたんに苦しい立場に追い込まれることを物語っている。
ポルトガルの通信業者オプティマスの広報担当者カルロス・アルベルト・シルバ氏は「スマホの浸透や採用は、
基本的にアンドロイドを搭載した低価格機器の参入によって促進された」という。
通信業者との契約なしに200ドル(約16000円)未満で購入できるアンドロイドが搭載されたスマホは欧州の広い
地域で買うことができる。英ボーダフォン・グループ(NYSE:VOD)(VOD.LN)のポルトガルの公式サイトによると、
同社は最も安いアイフォーン―旧型iPhone4の8ギガタイプ―を680ドルで販売している。一方、アンドロイド搭載
のスマホは最も安いもので106ドル、また韓国サムスン電子(005930.SE)の新型「ギャラクシーエスII」でさえ、
アイフォーンの最も低価格のものよりも安い。
消費者がブランドにかかわらず通常200~300ドルをスマホに払う米国のような市場では、本体価格は重要ではな
い。しかしギリシャやポルトガルのように通信業者がほとんどの携帯電話の本体価格を負担しない国では逆だ。
ギリシャの最大手通信業者コスモテ・モバイル・テレコミュニケーションズで昨年、最も人気があったスマホは
サムスン電子の「ギャラクシーミニ」だという。価格は契約なしで188ドル。結果、同社が昨年販売したスマホの
60%以上がアンドロイド搭載の携帯だったという。
アンドロイドの成功はグーグルが最大の収益源である検索エンジンに加え、地図情報や他のサービスをあわせて
携帯機器にプレインストールすることを確実なものにする手助けとなった。
グーグルは携帯機器メーカーにアンドロイドのライセンスを無料で提供し、機器販売代の分け前を得るわけでも
なく、「アプリ」と呼ばれるソフトの販売から得られる小さな収益を得ているだけだ。
(続く)
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