長尾景虎 上杉奇兵隊記「草莽崛起」<彼を知り己を知れば百戦して殆うからず>

政治経済教育から文化マスメディアまでインテリジェンティズム日記

名探偵・緑川鷲羽わしゅう「地獄島殺人事件」アンコール連載1

2012年02月20日 11時09分24秒 | 日記
緑川鷲羽事件簿

地獄島殺人事件

          みどりかわわしゅう  ~じごくとうさつじんじけん~
                ~斬新なミステリー!渾身の書き下ろし
                 伝説の悪霊・鬼神の謎が甦る!
                 total-produced&PRESENTED&written by
                   Midorikawa washu
                   緑川  鷲羽


 ~この物語はフィクションです。登場する人名・団体名・組織・地方などはすべて架空  のものです。ご了承下さい。~











 Ask and it willbe given to you;Seek and you will find;Knock and the door
 will be opened to you.

  求めよ、そうすれば与えられるだろう。探せ、そうすれば思い出すだろう。
 門をたたけ、そうすれば開けてもらえるだろう。
             ……… 聖書より………





         地獄島殺人事件~あらすじ

 昭和二十五年(1950年)
  岡山県警の女刑事・梅は、父親から恐ろしい話しをきいた。それは、地獄島の森に住む悪霊「鬼神」のことだ。鬼神は人を殺して肉や耳鼻や手を剥ぐという。少女は恐ろしくなった。でも父親は、迷信だよと笑った。そして、梅は成長し、日本敗戦後警察官へ。さっそく、地獄島で連続猟狂的殺人事件が起こる。捜査する探偵緑川鷲羽と梅や同僚たちだったが、同僚を殺され犯人に逃げられる。責任をとって梅は警察をやめようとする。しかし、とめられ、岡山県地獄島仲駐在所へ左遷に。梅は、転勤地に殺人鬼が逃亡した、という匿名の情報を得る。復讐に燃える梅。
 瀬戸内海の地獄島では悪霊「鬼神」のことを町のひとたちは恐れていた。そして、その町で次々に連続猟狂的殺人事件が起こる。     おわり

                      
  敗戦後、すぐに緑川鷲羽はアメリカへと渡った。三十五才の青年である。
 うっくつした気分のままその男は米国で感覚を磨く。この若者の推理力に目をつけた日系人の富豪ジョニー太田が金を与えた。「探偵なんてどうだい?」
その一言で、緑川は東京で探偵事務所をひとりでたちあげることになる。
 のちの名探偵・緑川鷲羽の誕生である。


         悪霊「鬼神」の伝説


 昭和二十五年(一九五〇)岡山県地獄島……
  運転席の光景は見慣れたものであったが、助手席の事態が尋常ではない。
 女が座っている。いや、首がひん曲げた女の死体が、横たわっているのだ。偶然通りかかった黒人の老人は息を呑んだ。死体は血色をなくし、泥のようで、鼻や目が鋭利なナイフかなにかでそがれている。深夜で死体発見は不気味だ。老人は頭頂から爪先まで、冷気が滝のように走るのを感じた。手足が震えて、思うように力が入らず、腰を抜かした。ボンネットに皿が置かれていて、そこに死体の脳味噌がそえられていた、からだ。
  斎藤梅は頭のいい女性である。
 彼女は現在三十四歳。頭もいいが、美貌で、性格もいい。彼女は日本敗戦後まもなく女性としては初めて刑事となった。岡山県警でばりばり働いている。
 いったいどうして彼女が、仏教の家庭で、厳格なしつけを受けて育った、美しい、頭のよい娘が、きびしい学徒動員を経た彼女が、岡山県警にはいることになったのだろう。もっとましな仕事もあったはずだ。梅は立ち尽くした。
 ……両親…それが理由だ。
 ここのところ地獄島で、連続猟狂的殺人事件が発生している。そこで、地元駐在所や岡山県警が大規模な捜査をしている。その中に、梅の姿もあった。
「…早かったわね」梅は地獄島駐在所の金子直人にいった。彼は確かにハンサムで、若い。すらりとした細い体に、がっちりした首や肩。背広がぴったり似合う。瞳もひかっていた。「そうですか? 俺は事件を鼻で嗅ぎ分けるんです。…クンクンクンクンってな」
「それじゃ、まるで犬じゃない」
 ふたりは笑った。そして、梅は思い出していた。
 ………優しい父、斎藤博文との思い出を。梅の父親の斎藤博文は、子煩悩で、優しかった。母は、もうすでに彼女が幼い時に死んでいた。病気で、だ。
 博文は確かに不思議な印象を与える人物であった。細い体にぴしっとした背広をきていて、逞しく清々しい。瞳は優しさにきらきら光っていた。瞳で人格を表現していた。
父はよく愛娘に話しをきかせた。
 彼は、町の警察官だった。そこで、娘にもひそかに「警察官になってくれたら…」などと思っていたという。夜、寝る前の蒲団で、ハンサムな父親は九歳の娘に話しをした。
 いろいろなお話しを…。梅は少年のような笑顔でお話をきいた。好奇心いっぱいだ。少女の梅は夜に、「お父さん、おしっこ…。怖いから連れてって」といったが、父はひとりでいかせた。けして甘やかさなかった。自立を促した。
「…怖いと思うから怖いんだよ。でも、ひとりでやれることはやらなくては…」
 父は優しい口調でいった。その瞬間、愛情と優しさの波が、全身の血管をかけめぐった。そして、父は、悪霊「鬼神」の話しを娘にきかせた。その悪霊「鬼神」とは、なんでも地獄島の森の中に住む悪霊で、姿は白い霧のようで…。ひとを殺しては生き血をすすり、鼻や耳や皮膚を剥ぐという。その霊はひとを殺して喜ぶが、森の守り神であるという。そして、今日も鬼神が森の中をさまよい……。生き血を啜り…。
「……怖い」
 少女の梅は怖くなった。
 でも、優しい父は、「迷信だよ。鬼神なんていうのはいないよ。伝説のお話しさ」
 といって微笑んだ。そして、「さぁ、もう遅いからおやすみ」とひとり娘のおでこにキスして去った。そして、梅はゆっくり眠りにおちた…。
 ある日、梅は父親に夢を語った。
「わたし……大きくなったらお父さんみたいな警察官になる。そして、悪いやつをやっつけるの!」少女の梅はそういった。梅はその夢に心踊ら、心臓を早鐘のように高ならせ興奮した。
 すると父親はほんわり笑って、優しく彼女の髪を撫でてくれた。なんとも暖かい。博文と梅。博文と娘。父と娘。
「そうか。お父さんと同じに?ははは…そりゃあいい。親子二代で警官か」
 といって愛娘の髪を撫でた。だが、愛情の絆は突然断ち切られた。
 そんな優しい父親も、梅が十歳になったばかりの時に死んだ。病気で、だ。そこで、彼女は親戚の家にもらわれた。ててなし子であった彼女は、他人を見返してやりたい一心で勉強にはげみ、一流大学を首席で卒業したのだ。そして、県警に…という訳である。父と同じ警官へ…。岡山県警に配属された。終戦まもないときで女性警官は初であった。梅はふと、そんな記憶を脳裏によぎらせた。
「……お父さん…」楽しかったことを思いだして、梅は微笑んだ。父の顔。しかし母の顔は思いだせない。脳裏に浮かぶが、それはきっと写真を思い出しているに過ぎない。
 彼女は父のことを思うと、今でも泣きたくなるほど胸が締め付けられる。きゅっと、息ができないほど。そして、しんと少し憔悴する。…梅は今でも父のことを忘れられない。それから、母が大事にしていたという形見のネックレスも。
 そりゃあそうだ。忘れられる訳がない。しんとした感傷…は。
 梅はいつも母の形見のネックレスをしていた。この現場でもそうだった。
 彼女と同僚は警察の立ち入り禁止のテープを乗り越え、殺人現場へ向かった。そこは、古ぼけたアパートの一室であった。鑑識や警察の連中がごったがえしている。
「やぁ」梅に声をかける男があった。「遅かったな、お嬢ちゃん」背広はピチピチであるが、それは太っているためで、スタイルは無様であった。頭だけはいい。その男は彼女のライバル、斎藤一警部だった。一は四十二歳だが、とても太っていて、豚みたいな男だ。顔も冴えない。しかし、頭はよいようで、梅のライバルだった。性格も意地悪で、肥満のためか糖尿病の気があるらしい。
 彼は、梅を「お嬢ちゃん」とよんで軽蔑していた。
 豚みたいな男がなにをいわんやかな、だ。

  現場に足を踏み入れると、死臭がした。…床に仰向けに転がった裸の遺体は、耳と鼻がない。鋭利なナイフか何かで削がれたようだ。顔や胸の皮膚もそがれている。朱色の血が周りにドバッと滴っていて、不気味だった。誰がみても「他殺」だ。
 死因となったのは、刃物で胸を一突き…ということのようだった。梅は息をのんだ。さすがの梅も一瞬、冷静さを失った。
「また……連続猟狂的殺人事件の犯人の犯行か…」
 斎藤一はにがにがしくいった。警察は何をやっとるんだ?! 彼の顔にそう書いてある。「まったく……ひどいものだ」一は苦く言った。これは県警の威信がかかっている。威信がだぞ!
 梅がハンカチで口と鼻をおさえると、一が、歯をみせて笑った。
「吐くのかい?お嬢ちゃん」と嫌味を言った。ニヤニヤしていたが、目だけはベーリング海のように冷たかった。
 それに対して彼女は「…違うわ」といった。そして続けて「……お嬢ちゃんはやめて。あたしはもう三十代の女性なんだから」といった。
「はん!」一は鼻を鳴らし、「惨殺死体もまともに見れんのに?」
 と、また悪態をついた。
「ほっといて」
「はん! 惨殺死体もまともに見れんのが犯罪担当で…こりゃあ犯人も捕まらねぇや」
 一は、また悪態をついた。だから梅は、
「捜査が進んでないのは全体にあるのよ。あなただって警察じゃない」と、いった。
「そりゃあどうも」彼はそっけなく言った。皮肉な顔だった。梅は無視した。
 一は死体に近付き、目を近付けてじっと見た。血と腐敗した臭いがむっとする。皮膚がそがれたところは血がかたまり、かさぶたのようになっていて…。かぎりなく不気味で悲惨で醜悪な遺体だった。死体は若い女性のようだ。胸のふくらみと丸い体型で分かる。
「こいつは人妻だな……乳首が黒い…」
「なにみてんのよ」
 梅が一にいった。
 すると、斎藤一が「さぁ、お嬢ちゃん…どいたどいた。あとは我々にまかせろ!」といって彼女をどかし、遺体を運んでいった。梅は蚊帳の外である。
 彼女は「干されて」いた。頭はいいが、まだ若く女であるため、信用されていなかった。それを彼女は悔しく、苦々しく思っていた。が、無論、言葉にはしない。そんなことをしても無駄だ。いかに自由を手にいれた日本とはいえ、女性差別がまったくない訳ではないのだ。そんな梅を慰めるのが金子であった。
「梅さん、気にすることないよ。あの豚男(斎藤一のこと)なんざにゃすぐに勝てるよ。逆転満塁ホームランをかっ飛ばそうぜ! 犯人を捕まえてさ」
「……そうね。ありがと、金子さん」
 梅は唇に笑みを浮かべた。…彼女はもう三十代の女性であったが、童顔のためかもっと若く見える。髪は長く黒髪だ。それを後ろで束ねている。化粧は薄く、唇もド赤ではなくピンクだ。肌は透明なミルクのように白い。体型はスレンダーだ。
 服は警察服を着ていて、すらりとしていて爽やかである。性格も優しく、目が大きく、全身が細くて、とてもチャーミングである。
 梅に化粧なんて、百合に香水をかけ、金にメッキをするようなものだ。完璧な美に、カヴァーはいらない。しかし、それにしても連続猟狂的殺人事件の犯人はどんなやつなのだろう……?鼻や耳や皮膚を削ぐ……まるで悪霊「鬼神」だ。
 ……馬鹿馬鹿しい…。
 梅はひとりで苦笑した。…幽霊なんている訳ないじゃないの。
 しかし、梅のなかの緊張感はどんどん高まって、ついには眉や首におよんだ。しかし、なんということだろう? 駐在所の友人金子直人が殺害されてしまうなんて…。 捜査はいっこうに「結果」がでなかった。あの猟狂的殺人事件から数週間経過しても、犯人の足取りは掴めなかった。犯人はプロだ。……地元警察はそう睨んでいた。 だが、それがわかったくらいで目立った成果はなかった。ゼロだゼロ。
「……いったいどうなってんの? まだ捕まえられないなんて……。相手はプロだわね」 梅が署の事務所で溜息まじりにいうと、鈴木という同僚が、
「いっそ、CIAにでも協力してもらいますか?」と冗談をいった。
「いえ、NASAにすべきよ。犯人はきっと宇宙人よ。でしょ?」
 梅の冗談に、一同はどっと笑った。とにかく笑いの中にもっていこうとした。恐怖を忘れるために。
 しかし、笑いごとで済ませられないほど捜査は進んでいなかった。

  その夜は、月がぶ厚い雲に隠れて、漆黒の夜のようだった。
風がひゅうひゅう吹いて、辺りの靄をぐんぐんと広げていくかのようだった。金子直人は任務も終ったので自転車で島の端にある自宅へと向かっていた。彼は既婚者で、愛する妻と小さい娘がひとりいる。今日は娘の誕生日だ。ほんとうはもっと早く帰って娘とハッピーになるはずだったが、例の捜査で遅くなってしまった。だが、そんなに遅刻という訳でもない。重大な遅刻というにはそんなに時間がたっていない。
「このプレゼントで喜ぶぞ、さだ子は」笑みが口元からこぼれた。
 金子はハンドルに手をおきながら、籠の大きなパンダのぬいぐるみをチラリと見た。それが愛娘への贈物である。愛らしいパンダのぬいぐるみが…。
 やがて、自宅についた。
 車をとめると、異変に気付いた。部屋の明りがついているが、物音ひとつしないくらい静かで、しかも玄関のドアが少し開いているのだ。金子直人は「昌子! さだ子!」と声にしたが、返事はなかった。彼は異変にむなさわぎを感じ、懐から銃を取り出し、慎重に構えてから玄関をあけた。そして、駐在所自宅の中にはいった。呼吸が荒くなり、動悸がした。銃を前に構えて、忍び足で進む。そうしながらも、金子は緊張で背筋に汗がしたたるのを感じた。……妻や娘は……?くそったれめ!
 落ちつかなければと焦れば焦るほど、力が抜け、足がすくんだ。あせった。
 金子はもう一度、「昌子!さだ子ー!」と声にしたが、返事はなかった。
 裏戸があいていて、風で薄い生地のカーテンがひらひらしている。
 銃を前に構えて、忍び足で進む。そして、金子は発見した。
 なにを? 妻と娘の惨殺死体を、である。驚きのあまり女のような悲鳴をあげそうになった。「くそったれめ!…昌子! さだ子!」がくりとへたりこんだ。
 金子直人は死体に抱きつき、叫んだ。涙声で。死体は彼の妻と娘で、畳に仰向けに倒れて血だらけで生き絶えていた。鼻や顔と腕の皮膚が削がれて、血が辺りに散出して辺りを朱色に染めていた。眼球も鋭利なナイフかなにかでえぐりとられたようだ。
「くそったれめ!くそったれめ!」
 冷静さを保とうと彼は額に手をあてて首をふった。怒りで壁をどんどん叩いた。くそったれめ! 歯をぎりぎりいわせて叫んだ。手の痛さは怒りのため感じなかった。
 金子は怒りで両眼から涙を流した。そして、外で不審な物音を耳にして、すぐ沈黙した。裏戸の辺りに人の気配がする。間違いない。犯人の糞野郎だ!
 ……連続猟狂的殺人事件の…犯人?妻や娘を殺した憎い犯人か……?
「やろう!」金子は銃を構えて、駆け出した。犯人の元へ……。ぶっ殺してやる!
 外に飛び出す。走る。駆ける。すると、遠くの怪しい人影が走ってにげるのを発見。追う。とにかく必死に追いかける。走る。駆ける。
「……待て!とまらんと撃つぞ!」
 しかし、犯人の影はとまらない。やがて、大きな国立公園に足を踏み入れた。
 そして、金子は荒い息で立ち止まった。犯人を見失ったのだ。彼は、憔悴し茫然とうっそうと茂る木木や暗い森のパノラマを360度ゆっくり見渡した。そして、銃を構えて前につきだした。怒りと動悸で息をぜいぜい吐き、無理に息を吸い込んだ。
 ………見つけ次第、殺してやる! 妻や娘を殺りやがって!
 うっそうと茂る木木や暗い森のパノラマは静かで、辺りは漆黒の夜だった。彼は、忍び足で森の獣道を進み、そして銃を前に構えながら、犯人を探した。…くそったれめ!
「きやがれ! このくなちょこ野郎!」あせって声がうわずった。
 金子直人は叫んだが、無論、返事はなかった。しかし、突然、背後から犯人が出現し、ナイフで一撃された。「…ぐうっ」彼は首の動脈を斬られ、首から血が噴水のようにふきだして、どさりと倒れこんだ。
 即死だった。

「…首の動脈を鋭利な刃物で斬られ…即死…」
 翌朝、現場にかけつけた梅に、警察の同僚がいった。梅はショックを受けた。親しい友人が殺されたのだ。あの犯人に…。衝撃を受けるな、というほうがどうかしている。くそう!
「まぁ自分をせめなさんなって」斎藤一はいった。「首の急所をひと斬り…やっぱり犯人はプロだな。プロの殺し屋だ。なんで皮膚や鼻や耳を削ぐのかは知らんが…」
 梅は口を開き、何もいわずまた閉じた。世界の終りがきたときになにがいえるだろう。心臓がかちかちの石のようになり、胸にずっしりと垂れ下がるのを感じた。同時に血管の血が氷のように固まっていく間隔に囚われた。
  葬儀はすぐに行われた。しかし、梅は憔悴し、落ち込み、何週間も膝を抱えて悩んだ。自分が…悪い……きっと…。そして、彼女は警察を辞める決心をした。やめて、もっと自分にあった仕事を探そう…と思ったからだ。浅はかな考え…。
 しかし、彼女は同僚や上司にとめられた。…君の責任ではないよ…というのだ。
 そこで、梅は失業はしなかったが左遷された。会見はおわったのだ。梅はてぶらで帰るしかない。犯人にくさびを打ち込む気でいたなら失敗した訳だ。しかし、このまま終わってたまるもんですか!
 左遷地は”岡山県地獄島駐在所”で、ある。
  斎藤梅は荷物をまとめて、”岡山県地獄島駐在所”に引っ越した。左遷ではあったが、彼女は自然が大好きだったので、苦にはしなかった。ただ、友人の死からのショックがまだ抜けてなかった。……そんな時、彼女の元に匿名の電報がはいる。
”連続猟狂的殺人事件の犯人が島に向かった”
 というのだ。彼女はそれをきき、復讐心にぎらぎら燃えた。復讐での心が燃えた。
 ……金子やその家族の無念を晴らす!復讐するのよ!
 すぐに梅は勤務管轄の岡山県警の上司に報告した。すると、すぐに”捜査のために”県警の一団がやってきた。その中に斎藤一の姿もある。
「やぁ、お嬢ちゃん」
 一は豚みたいに笑った。「こんなところで会うとは」
「ふん!」梅は鼻をならした。そして、「よく県警を招集できたわね」と言った。「なにしに?」
「…もうすぐにまた事件が起きるさ。そりゃあ君も知ってるだろ? 岡山県警は先手を打つのさ」
 梅はなにもいわなかった。でも、匿名の情報が本当なら、ここでも連続猟狂的殺人が発生する。彼女は恐れた。そして、その恐怖は現実のものとなる。
 連続猟狂的殺人が発生したのだ。この地獄島の避暑地であり金持ちの別荘が建ち並ぶ田舎で…。
 遺体は全員若い女性で、例によって顔の皮膚や鼻耳、目や頭髪などが鋭利な刃物かなにかで削がれていた。遺体の辺りに血しぶきが飛んだあとの…赤赤とした血の海がある。
「……やっぱり犯人がここに…?」その自分の言葉が、歓迎せぬ蜜蜂の群れのように頭にワーンと響いた。
 梅は吐き気を催しながらも、林道に横たわる惨殺遺体をじっと見た。……ひどい……犯人の目的は?すると一が「…いった通りだろ? あとは県警に任せろ!」
 と横柄に言った。梅は漠然と立ち尽くすのみだ。斧できられたように…
 島の人々は恐れた。殺人は、町に伝わる伝説の悪霊「鬼神」の仕業だ…というのである。島の人々は子供から老人まで、皆、戦々恐々とした。
 ………悪霊「鬼神」の怒りに触れてしまったために鬼神が人を殺した……。島長も一般市民も悪霊「鬼神」の供養をしようと動きだしていた。…すべては霊の怒りだ。少なくても島人はそう考えて、恐れた。しかし、県警はもちろんそんな「霊が…」などということははなから頭にない。皆、武装して捜査に当たっていた。鬱蒼とした山々や森を捜索した。だが、なんら手掛かりは見つからなかった。
 その頃、梅はどうしていたかというと、”干されて”いた。
 捜査はすべて斎藤一が指揮していて、彼女は”蚊帳の外”だった。
「……どうぞ」コーヒーが出た。梅は顔をあげた。
 地獄島にきていた県警の同僚・沖田が、茫然としていた梅にコーヒーのコップを渡した。彼は若い独身男で、かっこいいマスクをしていて優しいやつだった。
 彼はにこりと笑った。
「ありがと」梅はコーヒーを喉に流し込んだ。温かくて、心までポカポカするようだった。「……それにしても……犯人はいったいなぜ皮膚や耳や鼻を…?」
 梅が疑問に思っていると、沖田が「コレクターなのかな?」と冗談をいった。「まさか」 梅がにやりとすると、続けて「絶対に検挙しなくては…女性ばかり狙う犯人なんて、どうせ変態スケベおやじよ。でも、耳や鼻を削ぐってのはわからないけど」
「とにかく県警も捜査してるし…捕まるでしょ」
「どうかしら」
「ところで…」沖田が話題をかえた。「どうして、梅さんは警官に?」
「あぁ。それはね。父のおかげなの。死んだ父も警察官だったのよ」
「へえ~っ」
「それで、警官になって悪をやっつけるんだって…父と約束したの」
「いい話しですね」
「今でも気持ちは変わらないわ。この日本中の悪を私の手で一掃してやるわ」
「ははは」沖田は笑った。「そりゃあいいですね。でも犯罪組織と警察はイタチごっこで、麻薬も銃問題も……僅かな警察組織だけでは無理でしょ?」
「無理?」梅はきっとした顔をした。「じゃあコロンブスは?地球が平であるっていわれ新大陸発見なんて無理だっていわれたのに発見したじゃない。リンドバーグは?大西洋無着陸横断は無理っていわれてたのにパリまでついたじゃない。ライト兄弟は?空を飛ぶなんて無理っていわれてたのに飛んだわ……何事もやれば出来るわ。無理なんてない」
 彼女は夢を語った。そんな純真な彼女に、沖田はぽうっと惚れてしまった。彼は梅に目をやり、今日初めてまちもに彼女をみた。いい女だ。しかも頭もプロポーションもいい。感謝だな。この女が俺のものになったら、どんないい気分にもさせられる。
 強気の梅だったが手柄はライバルが獲得した。
 島の別荘地の豪邸で、海運業を営む豪商の大熊熊次郎が殺されたのだ。ナイフで刺されて、耳を削がれて…。しかし、これだけなら「鬼神」の仕業か鬼畜の犯人の仕業だ。だが、今回は違った。凶器のナイフが遺体に刺さって残っていたのだ。そして、そこから指紋がでた。それは大熊の親友で工場長の近藤歳三という男の指紋だった。歳三と大熊は同い年の五十八歳で、妻の大熊良子は五十三歳、娘の順子は十七歳であり、いずれも美貌の人達であった。
 大熊熊次郎の死亡推定時刻は二十時から二十一時で、家族らにはアリバイがあった。娘の順子は外出中。妻・良子は友達と食事中、家政婦の志村おばさんは田舎へ帰省中。大熊の友・近藤歳三は工場の連中と酒飲み…。大熊の弟子の土方勇は東京にいた。
 確かに、近藤歳三にはアリバイがある。だが、
「近藤歳三が犯人だ。惨殺事件もやつの仕業だ」と一はいきまいた。
 なんせ、凶器に指紋という物証がある。
 ……悪霊「鬼神」の正体は近藤歳三だ!
 こうして、一や県警は、歳三を逮捕して事情聴取にふみきった。一はにやりと笑って、胸を張った。何様のつもり?! 梅は眉を少しだけしかめた。
「これで俺の勝ちだな? お嬢ちゃん」と梅にいった。「これで事件解決だ」
 だが、事件はそんなにすぐに解決するほど甘くはなかった。
「あの、どういう意味?」梅は冷静に尋ねた。
「つまり、鬼神の仕業にしようって奴がいるってこと」テッドはにやりとした。「誰なの? それ?」梅の中の緊張がどんどん高まって、ついには肩や首にまで及んだが、彼女は冷静さをよそおった。一がこちらの知りたいことを話してくれるまでは、彼を怒らせても無駄なだけだ。
「それは県警にまかせてくれ」いかにも有能な警官らしくいった。

  その頃、大熊熊次郎の未亡人となった良子が、歳三の汚名挽回のために東京の探偵をやとった。それが、緑川鷲羽だった。まだ若い三十五才の男である。暑いのに厚着をして、コートをはおっている。
 そして、「頭がいたい」といっては薬をのみ、「腰がいたい」といっては薬をのみ、それから「眠れない」といっては薬をのんだ。
 麻薬以外では薬漬けで、探偵・緑川鷲羽には薬がすぐにでも必要であった。


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