オウム真理教1
ドキメント小説
オウム真理教 最期の真実
DANGER ~the last story ~
~「オウム真理教の真実!」
今だからこそ、オウム真理教の狂気
ハーフノンフィクション小説
total-produced&PRESENTED&written by
Washu Midorikawa
緑川 鷲羽わしゅう
this novel is a dramatic interoretation
of events and characters based on public
sources and an in complete historical record.
some scenes and events are presented as
composites or have been hypothesized or condensed.
”過去に無知なものは未来からも見放される運命にある”
米国哲学者ジョージ・サンタヤナ
あらすじ
「オウム真理教(改名名はアレフ)」…社会に衝撃を与えた「松本サリン事件」(死者8人負傷者150人超)、「地下鉄サリン事件」(死者13人負傷者6300人超)あの狂気と暴走とはなんであったのか?毎朝新聞報道部佐藤良夫は「なぜオウムは暴走したのか?」の著者・早坂 武禮(はやさかたけのり・仮名)に取材の為あった。早坂はオウム真理教の古参幹部ではない。しかし、本を読んでも「暴走の謎」がわからない佐藤は、早坂からオウム真理教・元古参幹部で塀の外にいる女性・鈴木麗子(仮名)を紹介される。彼女と早坂は婚姻関係にあるという。子どもはない。かわりは猫たちだ。麗子はオウム真理教・古参幹部のなかでは何の罪も犯しておらず、教団発足当時から「麻原彰晃(本名・松本智津夫)」逮捕まで知っていた。だが、教団暴走の謎は理解できていない。オウム真理教からの脱退はしたもののまだ「何故オウム真理教が暴走したのか?」の答えがない。それは佐藤良夫との取材で、明らかになる。
1 オウム真理教の狂気
「オウム真理教」は「テロリスト集団」であった。
今では当たり前のことだが、当時はまだ「麻原彰晃が悪魔だ」、とはわからない状態である。ちょうど第二次世界大戦のナチスドイツのヒトラーが「悪魔だ」と当初わからなかったのに似ている。ヒトラーはユダヤ人600万人を大量殺戮(ホロコースト)した。麻原彰晃(本名・松本智津夫)は暴君と化し、「オウム真理教(改名名はアレフ)」…社会に衝撃を与えた「松本サリン事件」(死者8人負傷者150人超)、「地下鉄サリン事件」(死者13人負傷者6300人超)をおこした。あの狂気と暴走とはなんであったのか?毎朝新聞報道部佐藤良夫は「なぜオウムは暴走したのか?」取材をまかされていた。あの地下鉄サリン事件や麻原彰晃逮捕から早いものでもう20年くらい経つ。
「喉元過ぎれば熱さ忘れる」
なのか?オウム真理教(改名名・アレフ)には38億円の賠償金の懲罰がある。が、20億円は未払い。しかし、アレフは当時3200万円しかなかった資産が2012年時点で4億円あるという。オウムのテロリズムを知りもしない無知なガキが入信しているという。
馬鹿な奴ら、といってしまえばそれまでだ。
今なお世界のテロ専門家たちは「オウム真理教(アレフ)」の事件を調査している。
元・米国海軍長官リチャード・ダンジク氏もそのひとりだ。氏は「世界中の人々が化学兵器サリンによるテロがふたたび繰り返されない為にも、オウム真理教のテロから学ぶべきときにきている」と辛口だ。
毎朝新聞報道部は毎朝ビルの4階だ。毎朝ビルは戦後すぐに建てられた建物で、永い歳月によるいたみも目立つ。報道部の佐藤良夫は現在42歳、オウム事件の時はまだかけだしの20代のペイペイであった。当時は右も左もわからず山梨県上九一色村の教団のサティアン前で取材をしていた。彼はイケメンな方だ。現在はまだ結婚はしていないが、どこかアイドルの田原俊彦を彷彿させる男前であるから、女性がほってはおかない。無論、良夫が童貞な訳ない。恋多き男前である。
だが、恋愛と結婚は別だ。
彼は毎朝新聞から「オウム真理教の暴走」について取材するように依頼されていた。もし新聞で連載して、反響がいいなら出版化や電子書籍化してくれるという。これはやらねばならない。これは自分の記者生命が懸っている、佐藤良夫はストイックに思った。
根が「まじめ人間」なのだ。
死刑囚や数多い元・信者からデータをとり、700本にも及ぶ極秘テープなどから「オウム真理教の暴走」に迫る。麻原は教団発足当初から毒ガス・サリン70トン(致死量70億人超)をつくり、「アルマゲドン(世界のおわり)」を実現しようとしていた。
サリンは(*塩化メチル*ヨウ化メチル*塩化チオニル*三酸化リン*フッ化ナトリウム*フッ化水素*フッ化カルシウム*フッ化カリウム*イソブロビルアルコール*メチルホスホン酸ジクロリド*メチルホスホン酸ジメチル*メチルアルコール*五酸化リン*亜リン酸トリチミル)からなる。元・神奈川県警はサリンまで後少しに迫っていた。だが、教団の中に警察関係者の親戚がおり、「ガサ入れ情報」が教団に漏れていたという。
元・警視庁警備局長(公安トップ)の菅沼清高氏は「オウム真理教をマークしておけ、とは警視庁内に指示してはいた。が、まさかオウムが猛毒ガス・サリンを使うとまでは想像もしていなかった」と下唇を噛む。無念であったろう。
ちなみにオウム真理教の設立の目的というものがある。以下のようなものだ。
「主神シヴァ神として崇拝し、松本智津夫(別名・麻原彰晃)はじめにシヴァ神の意思を理解実行する。その指導のもとに、古代ヨーガ、原理仏教、大乗仏教を背景とした教養を広め、行事を行い、信者を強化育成し、すべての生き物を輪廻の苦しみから救済することを最終目的とし、その目的達成するために修行する」
何じゃそりゃ?言っている理想とテロ行動が結びつかない。
所詮は教祖の指示を妄信しただけだ。
ちなみに教祖・松本智津夫(別名・麻原彰晃)の風貌を知らぬものはすくないだろう。ぶくぶくと太って背は低く髪や髭が長く、髭ダルマ親父みたいな感じだ。視力が悪い(頭も悪いのだろうが(笑))。盲学校卒でインテリでもイケメンでもない。おっさん、だ。
何故このような男に騙された人間が多かったのか……?「結果論」ならいくらでもいえるが当時はどうだったのか…? 何故オウムの暴走を止められなかったのか?
「おい、どうだ?佐藤」
毎朝新聞編集部のデスクの一席で佐藤良夫は、時代遅れのテープ式ウオークマンのイヤフォーンからの音声に聞き入り、ネコ背で椅子に座りしきりにメモをとっていた。
当然というか、上司の野田部長の声は聞こえない様子である。
「おい佐藤!」
野田部長が佐藤良夫の肩を叩いた。それでやっと佐藤は、
「あ、部長」と気付くのだった。イヤフォーンを外して佐藤良夫は昼飯もまだだったことに今更気付いた。「そんなにオウムの説教テープが面白いか?」
「いいえ」佐藤は間をおいてたどたどしくいった。「面白いとかそういうんじゃないんです」
「じゃあなんだ?」
「なんというか麻原の言葉は死んだオヤジに似ているんです」
「おまえのおやっさん死んだのか?」
「はい、交通事故で…」
「そうか。でもお前オウムに入信するなら原稿上げてからにしろよ」
部長は冗談をいった。ふたりは笑った。
「しかし、部長。よくこれだけの極秘テープ音源が警察に押収もされず残っていましたね」
「ああ」部長はタバコを口にして「全部で700本…しかも極秘テープだ」
「警察は何で押収しなかったんですかね?」
「まあ1995年の地下鉄サリン事件…そして麻原彰晃逮捕で「おわった」ってことだろう?警察は俺らジャーナリストと違ってさ、逮捕して送検しておわりだ。おわりの元など興味なかったんじゃねえか」
「なんか日本の警察らしいですね」
「まあな、アメリカとかイギリスなら二度と同じテロが起きない様にさ、CIAやFBIやMI6がいろいろ研究したりするんだろうがな」
「ほんとに日本の警察って大丈夫なんですかね?こんなに教団の極秘テープをうち(毎朝新聞)に流出されても平気なんて…」
「そういやお前バイリンガルだったな」
「ええ、アメリカ時代は近所で麻薬事件があっただけで僕ら家族まで何度も捜査対象になったり、日本の警察よりなんていいますか……タフ…そうタフなんですよ」
「日本の警察はソフトボールか?」
ふたりは笑った。
「まあ、とにかくオウム事件を風化させたり研究しなければ日本はまた「いつかきた道」に逆戻りですよ。部長、俺、この早坂にあってみます」
「「なぜオウムは暴走したのか?」の著者・早坂 武禮(はやさかたけのり・仮名)か?」
「そうです。彼自身古参信者であるそうです」
「だが、いいか佐藤」野田部長はゆっくり言った。「世の中は「今更オウム真理教?」みたいな風潮もある。インパクトだよ。朝日の橋下徹伝記連載や文春の孫正義伝記みたいな…」
「3・11東日本大震災以後「脱原発オンパレード」でしょう?今更のオウムでも…どかんとインパクトある連載にしますよ」
佐藤は顔を紅潮させていった。「必ずヒットしますよ。北朝鮮拉致事件記事みたいなものに!」
「そりゃ頼もしい」野田はたばこをくゆらせた。「早坂にはアポとってんのか?」
「はい、もちろん。もう少し時間がありますんで俺はもう少しテープ聞いています」
佐藤はまた猫背でイヤフォーンを耳にあて、再生させた。
「おいおい、昼飯忘れてまでオウムか?本当にオウム真理教…ったっていまは「アレフ」か?に入信せんでくれよ」部長は苦笑した。
そうオウム真理教は1995年「地下鉄サリン事件」を起こした。事件というよりテロである。地下鉄の丸ノ内線などの霞が関駅近くで、実行犯の林郁夫・林泰男・広瀬健一・横山真人・豊田亨らが、新聞にくるんだビニール袋入り液体サリンを混雑する列車内部で床にそっと落とし、先の尖った傘で袋を突き、逃げ去り、大量殺戮を犯したのだ。
実行犯を突き動かしたのは「救済の為ならポアしても構わない」という麻原彰晃の教え、であった。
「警察は何をやっていたのか?」
夫の高橋一正さん(列車のサリンを拭いて亡くなった)の妻・高橋シズエさんは故人となった一正さんの遺影で涙を堪える。故人となったのではない。麻原彰晃とオウム真理教に殺されたのだ。麻原彰晃(本名・松本智津夫)はカルト教団をつくるにあたり、ある新興カルト教団の男からアドバイスを受けている。
「宗教や占いやカルトに入信する輩は心が弱い人間だ。魚釣りみたいに餌で何人も釣り上げればいい。お金を吐き出させ、「お金は命の次に大事なものだ。それを献上させて「解脱」だのといい」お金儲けしろ」
何ともいかがわしいアドバイスだが、オカルトや占い師など殆ど全部嘘っぱちである。皆さんはオウムの「ポア」が理解できないだろう。福永法源の「(手相ならぬ)足相」などわかるまい。勿論、私だってわからない。
占いだの宗教だの「お金儲けの手段」なだけだ。
くだらないんだよ。血の海を泳ぎ、地獄を見てきた私にしたら「何を戯言言ってんだ、馬鹿!」でしかない。
自身も元古参信者で、元・オウム真理教広報部長で、偽証罪で懲役3年の刑を受けた上祐史浩氏(宗教団体「ひかりの輪」代表)はいう。
「オウム真理教の武装化は1993年ではなく1990年熊本県波野村(なみのそん)で、麻原は集団救済の為ではなくヴァジラヤーナ(殺人の教え)の為に軍事兵器をつくろうとしていた。熊本県波野村に300人を送り込んだのです」
今は上祐氏は「オウム真理教(現在・反上祐派「アレフ」と上祐派「ひかりの輪」)」の派生宗教団体で生活している。事実上のオウムの元・幹部ではあった。
しかし、麻原の教えは間違いであった、と認めてもいる。
麻原はテープで「第二次大戦で何人死んだ?」と上祐に問う音源があるという。
麻原「第二次世界大戦では戦死者は?」
上祐「え?第二次世界大戦でですか?世界でですか?」
麻原「市民も含めて…」
上祐「爆撃で死んだ市民だけで9000万人くらいでしたか」
麻原「兵士も含めると」
上祐「億いくんじゃないですか?」
麻原「だろう?一度戦争が起こると億単位でひとが死ぬんだよ」
上祐「世界大戦は起こるんですか?ソ連も崩壊してしまいましたが…」
麻原「いいか。世界大戦…いわゆるアルマゲドンは絶対にくるんだよ」
上祐「アルマゲドンで何億人くらい死にますかね?」
麻原「多分オウム真理教信者以外全員死ぬ」
上祐「え?全員ですか?」
麻原「そうだ。だから教団は武装する。攻撃は最大の防御、だよ」
アルマゲドン(世紀末戦争)を信じて暴走したオウム真理教。
オウム真理教の犯罪事件は「信者A殺人事件」「坂本弁護士一家殺人事件」「サリン・プラント建設・殺人予備事件」「LSD密造事件」「覚せい剤密造事件」「麻酔薬密造事件」「メスカリン密造事件」「元信者B殺人事件」「滝本弁護士殺人未遂事件」「自動小銃密造事件」「松本サリン事件」「元信者C殺人事件」「経営者VX殺人未遂事件」「会社員VX殺人事件」「被害者の会会長VX殺人未遂事件」「宮崎資産家拉致事件」「公証役場事務長監禁致死事件」「都庁郵便物爆破事件」「新宿駅青酸ガス事件」「地下鉄サリン事件」
首謀者の麻原彰晃は一切証言しないまま「死刑確定」した。
麻原彰晃(本名・松本智津夫)は認知症(ボケ)の仮病をつかいおむつをしてボー然と監獄の天上の照明を眺めている。だが、「死刑確定」の日はひとりになると「何でなんだよ!糞っ!」と悔しがった。病気なんだから死刑はないだろう、などと浅知恵だった訳だ。
麻原彰晃にはまだ「一連の事件の証言」が残っている。
死刑は当たり前だが、殺さず一日でも地獄の日々を送らすのだ。
本当のことを話す日まで。
麻原の音源テープはうつろな声でささやく。
麻原「私はこの世の救世主だ。オウム真理教は世界一の教団だ。イスラム教でもキリスト教でもない仏教でもないオウム真理教が世界を救うんだ。アルマゲドン…第三次世界大戦は必ず来るしそのためにオウム真理教が救済の為に…」
麻原「救済するぞ!救済するぞ!救済するぞ!」
1995年山梨県上九一色村には30棟のサティアンという工場みたいな白い壁の建物があった。(現在は更地になり平和碑がある)毒ガス対策で籠の鳥をもった機動隊ガスマスク隊がいき、遠まきに報道陣が報道している。まだ20代の毎朝新聞記者の佐藤良夫の姿もある。
ガスがないと知ると、盾と武装した機動隊が出撃。鋼鉄の壁を電気カッターできり、突入!会談の中2階の隠し部屋に札束を積んで寝そべっていた麻原彰晃が発見された。
機動隊の男は壁を壊しながら「浅原か?」ときく。
「…はい」麻原は赤い教団着のまま言った。髭ダルマみたいな男が連行され護送車に入れられる。マスコミのカメラは鉄格子の護送車の窓に見える髭ダルマを写し、
「浅原です!麻原彰晃代表逮捕です!」
「浅原逮捕です!」
と大々的に報道する。
あれから17年……。2012年42歳となった佐藤良夫は、旧式のウオークマンで「オウム真理教極秘テープ」をイヤフォーンで聴いていた。場所はある山梨県の湖畔のホテルに向かう自家用車内である。まだ午後少し、くらいだ。
毎朝新聞報道部佐藤良夫は「なぜオウムは暴走したのか?」の著者・早坂 武禮(はやさかたけのり・仮名)に取材の為あった。そのホテルでアポイントメントをとっていたのだ。
早坂は意外と若い感じを与える中年男である。
白髪頭に猫背で、華奢な感じにも見える。服装は佐藤は背広なのに早坂は普段着である。
「どうも、毎朝新聞の佐藤良夫です」
「早坂です。オウム真理教のことを聞きたいそうですね?」
ふたりは握手をすると、ホテルのまどろむ日差しの中のロビーのイスに座った。
「早坂さんも古参信者でしたね?ほとんどの古参信者は塀の中です」
「私に何が聞きたいのですか?本にすべて書いていますから読めば大体はわかりましたでしょう?」
「確かに…しかし、肝心な何故オウムが暴走したのか?わからなかったんです」
「文章が弱かったかなあ」
早坂の冗談に佐藤は笑わなかった。
「私は二度とオウム真理教のテロ事件が起きない様に「オウム真理教のすべて」が知りたいのです!」
早坂はちょっと考えてから、「ちょっといいですか?」と席を立ち、携帯で話した。
そして戻ってきて、
「佐藤さん猫大丈夫ですか?」ときいてきた。
「え?」
意味が解らない。
とにかく佐藤は早坂を乗せて、案内通りに…地方の假家に猫たちと住むオウム真理教の元・古参幹部で同棲中の鈴木麗子(仮名・50代)を紹介した。
鈴木麗子は最古参信者で髪の長い平凡な顔をしたおばさんだった。太ってはいない。
「彼女はサマナナンバー30番、選挙にも出ましたよ。村井、早川より入信は早い」
早坂は苦笑いした。
「おふたりはご夫婦ですか?」
家でお茶をだす鈴木麗子に聞いた。麗子は質素な服のままで「いいえ、同棲っていうんですか?身分が身分ですし……。私たちだけが幸せになってもオウム真理教の被害者の方たちに申し訳ないですし…」とか細い声だ。子供はない。かわりは沢山の猫たちだ。
鈴木麗子(仮名・NHK未解決ファイルでの仮名は深山織枝)…オウム真理教元・古参幹部。
村井秀夫(同じ時期に入信し、地下鉄サリン事件後刺殺される)佐伯(岡崎)一明死刑囚(松本弁護士殺害)、オウムのすべての殺人に関わった新実智実死刑囚(にいみともみつ・禿頭)、教団の武装化を進めたのが早川紀代秀死刑囚…しかし鈴木麗子(仮名・NHKでは深山織枝)はそうした面々と同時期に教団に入信して、事件に関わることがなかった稀有な存在だという。
早坂は「このひとは鈴木麗子…もちろん仮名でNHKでは深山織枝だけど(笑)」と彼女を紹介した。「どうも毎朝新聞の佐藤です」名刺を差し出す。
「早速ですいませんが、オウムに入信したところからでいいんで…お話を聴かせてもらえますか?」
佐藤ははやる気持ちを隠しきれず聞いた。
「はあ」麗子は戸惑った。「私のような人間の経験談がお役にたつかどうか…」
「是非オウムの真実をお聞きしたいのです。貴女と同期の古参幹部はすべて塀の中です。あなたに聞く以外考えられません。無論早川や新実や佐伯には手紙のやりとりはしているのです。ですが、彼らの証言は検察のフィルターがかかっていて真実に辿り着けない」
「はあ」麗子は覚悟した。「子供の頃から夢と現実がわからなかったんです。自分のまわりが違うんじゃないかって」
時代は1986年11月、バブルの入り口…。
麗子はコンサバな服を着て眉毛を太く書いた厚化粧で、広告のイラストレーターをしていた。「よう麗子ちゃん、髪形決まってるね。この間みたいな広告頼むよ!お金なら幾らでも出すしね」ショップで派手な背広の上司は笑顔でいった。「まかせといて!そういやあ遠藤さん今日も合コン?」「そうさ!お金はじゃんじゃんつかわなきゃね!バブル万歳!」
ひょっとこみたいな顔の遠藤上司は上機嫌で出て行った。
麗子は当時20代、ボーイフレンドと同棲していた。夜にタバコをふかして帰ると、
「ああ、なんか疲れるなあ。ねえ、もっといい給与の会社にトラバーユしちゃおうかなあ?」
と当時のボーイフレンドに愚痴った。「何読んでるの?」
ボーイフレンドの読む本は「超能力の研究 著者麻原彰晃」あのあぐらをかき宙に浮いている写真がカバーであった。(あぐらをかいて本当に宙に浮けるわけではなく、あぐらのままぴょんぴょん脚をしていると一瞬だけ宙に飛び上がりすぐ床に落ちる。飛び上がった瞬間を撮影しただけ)
「この麻原ってどう?」当時のボーイフレンドは麗子にきいた。
「浮いたってしょうがないでしょう?」
麗子は当時苦笑いをしたという。
しかしそこからが違った。何故か麗子(NHKでは織枝)は麻原の本を朝方まで熱心に読みふけった。熱中したといっていい。朝方起きだしてきた同年代のボーイフレンドは、
「あれ?その本眠らずに朝まで?」
「うん。あっくんなんかね。このひとの言っていることすごくわかるの!」
「宙に浮く人の?(笑)」
「まあ、それはそれでね。でもこのひとも孤独なのよ。夢と現実の狭間で孤独に耐えているの」
「(笑)…そう?」
ボーイフレンドは上っ面ばかりだ、麗子は不満である。本にある電話番号に電話してみた。当時は携帯電話もスマートフォンもない。
「はい、オウム神仙の会です」
「あのう、麻原彰晃さんの本を読んで電話したものですが?」
「ああ、合宿の予約のお電話ですね?」
「合宿?」麗子は戸惑った。が、女の電話の声は合宿はこれこれで幾らお金がかかってとロボットのように速射砲だ。「わかりました」
鈴木麗子(NHKでは深山織枝・仮名)らは中規模バスに乗せられ人気のない山道を登っていた。ポロシャツの村井秀夫は前の席で「麻原先生はアルマゲドンが必ず起こるっていっていたよ」という。「それホンマ?」早川紀代秀は怖がった。
麗子とボーイフレンドは顔を見合わせ「これってそういうところ?」と囁いた。
バスは雪の積もる木造合宿所(清流荘)前に着いた。赤い教団服の新実ともうひとりが出迎える。「ごくろうさまです。オウム神仙の会(オウム真理教の前身)へようこそ」
新実らは頭を下げる。
「さあ、こちらです」
木造の合宿所はオンボロだが、年期がはいっている。中に入ると意外と綺麗に整頓してあると驚く。麗子は私服の麻原の姿を見かけた。
大きな部屋には20人が入った。教団服の佐伯(岡崎)一明は「皆さん床にお座りになって座禅を、ダメな方は蓮華座でいいので」
「蓮華座ってなんでっか?」早川はきいた。
「座禅のくずしたもので片足だけ組む座禅ですよ」
一同は座禅を組む。
そこに金色のマントと宗教服の麻原が来た。髭ダルマみたいな太った男だ。
説法が始まった。
麻原「例えばあるひとがお金があれば高価な車も買える。彼女は玉の輿に乗ったといっても何も感じない。昨日今日のコメがあればいいではないか?一千万円も百万円もいらない。そう思えるようになる。つまり世の中にあふれているインフォメーション、情報というものが役に立たなくなる。それが「解脱(げだつ)」だ。いいですか?皆さん」
一同は案内されて外の通路をあるいていくと、
「あれ見て!」
「すごい!」
と、感心した。髭ダルマ麻原彰晃が、上半身裸で雪の上で座禅を組んでいる。少し距離がある。真冬である。「寒くないのかなあ?」一同はざわざわしだした。
寒かったに違いない(笑)。我慢したのだろう(笑)。
新実は「先生は最終解脱しているため寒さを感じないのです!」
とにやりと自慢する。
なにが最終解脱だ?(笑)
だが、一同は関心した。凄い!凄い!
ドキメント小説
オウム真理教 最期の真実
DANGER ~the last story ~
~「オウム真理教の真実!」
今だからこそ、オウム真理教の狂気
ハーフノンフィクション小説
total-produced&PRESENTED&written by
Washu Midorikawa
緑川 鷲羽わしゅう
this novel is a dramatic interoretation
of events and characters based on public
sources and an in complete historical record.
some scenes and events are presented as
composites or have been hypothesized or condensed.
”過去に無知なものは未来からも見放される運命にある”
米国哲学者ジョージ・サンタヤナ
あらすじ
「オウム真理教(改名名はアレフ)」…社会に衝撃を与えた「松本サリン事件」(死者8人負傷者150人超)、「地下鉄サリン事件」(死者13人負傷者6300人超)あの狂気と暴走とはなんであったのか?毎朝新聞報道部佐藤良夫は「なぜオウムは暴走したのか?」の著者・早坂 武禮(はやさかたけのり・仮名)に取材の為あった。早坂はオウム真理教の古参幹部ではない。しかし、本を読んでも「暴走の謎」がわからない佐藤は、早坂からオウム真理教・元古参幹部で塀の外にいる女性・鈴木麗子(仮名)を紹介される。彼女と早坂は婚姻関係にあるという。子どもはない。かわりは猫たちだ。麗子はオウム真理教・古参幹部のなかでは何の罪も犯しておらず、教団発足当時から「麻原彰晃(本名・松本智津夫)」逮捕まで知っていた。だが、教団暴走の謎は理解できていない。オウム真理教からの脱退はしたもののまだ「何故オウム真理教が暴走したのか?」の答えがない。それは佐藤良夫との取材で、明らかになる。
1 オウム真理教の狂気
「オウム真理教」は「テロリスト集団」であった。
今では当たり前のことだが、当時はまだ「麻原彰晃が悪魔だ」、とはわからない状態である。ちょうど第二次世界大戦のナチスドイツのヒトラーが「悪魔だ」と当初わからなかったのに似ている。ヒトラーはユダヤ人600万人を大量殺戮(ホロコースト)した。麻原彰晃(本名・松本智津夫)は暴君と化し、「オウム真理教(改名名はアレフ)」…社会に衝撃を与えた「松本サリン事件」(死者8人負傷者150人超)、「地下鉄サリン事件」(死者13人負傷者6300人超)をおこした。あの狂気と暴走とはなんであったのか?毎朝新聞報道部佐藤良夫は「なぜオウムは暴走したのか?」取材をまかされていた。あの地下鉄サリン事件や麻原彰晃逮捕から早いものでもう20年くらい経つ。
「喉元過ぎれば熱さ忘れる」
なのか?オウム真理教(改名名・アレフ)には38億円の賠償金の懲罰がある。が、20億円は未払い。しかし、アレフは当時3200万円しかなかった資産が2012年時点で4億円あるという。オウムのテロリズムを知りもしない無知なガキが入信しているという。
馬鹿な奴ら、といってしまえばそれまでだ。
今なお世界のテロ専門家たちは「オウム真理教(アレフ)」の事件を調査している。
元・米国海軍長官リチャード・ダンジク氏もそのひとりだ。氏は「世界中の人々が化学兵器サリンによるテロがふたたび繰り返されない為にも、オウム真理教のテロから学ぶべきときにきている」と辛口だ。
毎朝新聞報道部は毎朝ビルの4階だ。毎朝ビルは戦後すぐに建てられた建物で、永い歳月によるいたみも目立つ。報道部の佐藤良夫は現在42歳、オウム事件の時はまだかけだしの20代のペイペイであった。当時は右も左もわからず山梨県上九一色村の教団のサティアン前で取材をしていた。彼はイケメンな方だ。現在はまだ結婚はしていないが、どこかアイドルの田原俊彦を彷彿させる男前であるから、女性がほってはおかない。無論、良夫が童貞な訳ない。恋多き男前である。
だが、恋愛と結婚は別だ。
彼は毎朝新聞から「オウム真理教の暴走」について取材するように依頼されていた。もし新聞で連載して、反響がいいなら出版化や電子書籍化してくれるという。これはやらねばならない。これは自分の記者生命が懸っている、佐藤良夫はストイックに思った。
根が「まじめ人間」なのだ。
死刑囚や数多い元・信者からデータをとり、700本にも及ぶ極秘テープなどから「オウム真理教の暴走」に迫る。麻原は教団発足当初から毒ガス・サリン70トン(致死量70億人超)をつくり、「アルマゲドン(世界のおわり)」を実現しようとしていた。
サリンは(*塩化メチル*ヨウ化メチル*塩化チオニル*三酸化リン*フッ化ナトリウム*フッ化水素*フッ化カルシウム*フッ化カリウム*イソブロビルアルコール*メチルホスホン酸ジクロリド*メチルホスホン酸ジメチル*メチルアルコール*五酸化リン*亜リン酸トリチミル)からなる。元・神奈川県警はサリンまで後少しに迫っていた。だが、教団の中に警察関係者の親戚がおり、「ガサ入れ情報」が教団に漏れていたという。
元・警視庁警備局長(公安トップ)の菅沼清高氏は「オウム真理教をマークしておけ、とは警視庁内に指示してはいた。が、まさかオウムが猛毒ガス・サリンを使うとまでは想像もしていなかった」と下唇を噛む。無念であったろう。
ちなみにオウム真理教の設立の目的というものがある。以下のようなものだ。
「主神シヴァ神として崇拝し、松本智津夫(別名・麻原彰晃)はじめにシヴァ神の意思を理解実行する。その指導のもとに、古代ヨーガ、原理仏教、大乗仏教を背景とした教養を広め、行事を行い、信者を強化育成し、すべての生き物を輪廻の苦しみから救済することを最終目的とし、その目的達成するために修行する」
何じゃそりゃ?言っている理想とテロ行動が結びつかない。
所詮は教祖の指示を妄信しただけだ。
ちなみに教祖・松本智津夫(別名・麻原彰晃)の風貌を知らぬものはすくないだろう。ぶくぶくと太って背は低く髪や髭が長く、髭ダルマ親父みたいな感じだ。視力が悪い(頭も悪いのだろうが(笑))。盲学校卒でインテリでもイケメンでもない。おっさん、だ。
何故このような男に騙された人間が多かったのか……?「結果論」ならいくらでもいえるが当時はどうだったのか…? 何故オウムの暴走を止められなかったのか?
「おい、どうだ?佐藤」
毎朝新聞編集部のデスクの一席で佐藤良夫は、時代遅れのテープ式ウオークマンのイヤフォーンからの音声に聞き入り、ネコ背で椅子に座りしきりにメモをとっていた。
当然というか、上司の野田部長の声は聞こえない様子である。
「おい佐藤!」
野田部長が佐藤良夫の肩を叩いた。それでやっと佐藤は、
「あ、部長」と気付くのだった。イヤフォーンを外して佐藤良夫は昼飯もまだだったことに今更気付いた。「そんなにオウムの説教テープが面白いか?」
「いいえ」佐藤は間をおいてたどたどしくいった。「面白いとかそういうんじゃないんです」
「じゃあなんだ?」
「なんというか麻原の言葉は死んだオヤジに似ているんです」
「おまえのおやっさん死んだのか?」
「はい、交通事故で…」
「そうか。でもお前オウムに入信するなら原稿上げてからにしろよ」
部長は冗談をいった。ふたりは笑った。
「しかし、部長。よくこれだけの極秘テープ音源が警察に押収もされず残っていましたね」
「ああ」部長はタバコを口にして「全部で700本…しかも極秘テープだ」
「警察は何で押収しなかったんですかね?」
「まあ1995年の地下鉄サリン事件…そして麻原彰晃逮捕で「おわった」ってことだろう?警察は俺らジャーナリストと違ってさ、逮捕して送検しておわりだ。おわりの元など興味なかったんじゃねえか」
「なんか日本の警察らしいですね」
「まあな、アメリカとかイギリスなら二度と同じテロが起きない様にさ、CIAやFBIやMI6がいろいろ研究したりするんだろうがな」
「ほんとに日本の警察って大丈夫なんですかね?こんなに教団の極秘テープをうち(毎朝新聞)に流出されても平気なんて…」
「そういやお前バイリンガルだったな」
「ええ、アメリカ時代は近所で麻薬事件があっただけで僕ら家族まで何度も捜査対象になったり、日本の警察よりなんていいますか……タフ…そうタフなんですよ」
「日本の警察はソフトボールか?」
ふたりは笑った。
「まあ、とにかくオウム事件を風化させたり研究しなければ日本はまた「いつかきた道」に逆戻りですよ。部長、俺、この早坂にあってみます」
「「なぜオウムは暴走したのか?」の著者・早坂 武禮(はやさかたけのり・仮名)か?」
「そうです。彼自身古参信者であるそうです」
「だが、いいか佐藤」野田部長はゆっくり言った。「世の中は「今更オウム真理教?」みたいな風潮もある。インパクトだよ。朝日の橋下徹伝記連載や文春の孫正義伝記みたいな…」
「3・11東日本大震災以後「脱原発オンパレード」でしょう?今更のオウムでも…どかんとインパクトある連載にしますよ」
佐藤は顔を紅潮させていった。「必ずヒットしますよ。北朝鮮拉致事件記事みたいなものに!」
「そりゃ頼もしい」野田はたばこをくゆらせた。「早坂にはアポとってんのか?」
「はい、もちろん。もう少し時間がありますんで俺はもう少しテープ聞いています」
佐藤はまた猫背でイヤフォーンを耳にあて、再生させた。
「おいおい、昼飯忘れてまでオウムか?本当にオウム真理教…ったっていまは「アレフ」か?に入信せんでくれよ」部長は苦笑した。
そうオウム真理教は1995年「地下鉄サリン事件」を起こした。事件というよりテロである。地下鉄の丸ノ内線などの霞が関駅近くで、実行犯の林郁夫・林泰男・広瀬健一・横山真人・豊田亨らが、新聞にくるんだビニール袋入り液体サリンを混雑する列車内部で床にそっと落とし、先の尖った傘で袋を突き、逃げ去り、大量殺戮を犯したのだ。
実行犯を突き動かしたのは「救済の為ならポアしても構わない」という麻原彰晃の教え、であった。
「警察は何をやっていたのか?」
夫の高橋一正さん(列車のサリンを拭いて亡くなった)の妻・高橋シズエさんは故人となった一正さんの遺影で涙を堪える。故人となったのではない。麻原彰晃とオウム真理教に殺されたのだ。麻原彰晃(本名・松本智津夫)はカルト教団をつくるにあたり、ある新興カルト教団の男からアドバイスを受けている。
「宗教や占いやカルトに入信する輩は心が弱い人間だ。魚釣りみたいに餌で何人も釣り上げればいい。お金を吐き出させ、「お金は命の次に大事なものだ。それを献上させて「解脱」だのといい」お金儲けしろ」
何ともいかがわしいアドバイスだが、オカルトや占い師など殆ど全部嘘っぱちである。皆さんはオウムの「ポア」が理解できないだろう。福永法源の「(手相ならぬ)足相」などわかるまい。勿論、私だってわからない。
占いだの宗教だの「お金儲けの手段」なだけだ。
くだらないんだよ。血の海を泳ぎ、地獄を見てきた私にしたら「何を戯言言ってんだ、馬鹿!」でしかない。
自身も元古参信者で、元・オウム真理教広報部長で、偽証罪で懲役3年の刑を受けた上祐史浩氏(宗教団体「ひかりの輪」代表)はいう。
「オウム真理教の武装化は1993年ではなく1990年熊本県波野村(なみのそん)で、麻原は集団救済の為ではなくヴァジラヤーナ(殺人の教え)の為に軍事兵器をつくろうとしていた。熊本県波野村に300人を送り込んだのです」
今は上祐氏は「オウム真理教(現在・反上祐派「アレフ」と上祐派「ひかりの輪」)」の派生宗教団体で生活している。事実上のオウムの元・幹部ではあった。
しかし、麻原の教えは間違いであった、と認めてもいる。
麻原はテープで「第二次大戦で何人死んだ?」と上祐に問う音源があるという。
麻原「第二次世界大戦では戦死者は?」
上祐「え?第二次世界大戦でですか?世界でですか?」
麻原「市民も含めて…」
上祐「爆撃で死んだ市民だけで9000万人くらいでしたか」
麻原「兵士も含めると」
上祐「億いくんじゃないですか?」
麻原「だろう?一度戦争が起こると億単位でひとが死ぬんだよ」
上祐「世界大戦は起こるんですか?ソ連も崩壊してしまいましたが…」
麻原「いいか。世界大戦…いわゆるアルマゲドンは絶対にくるんだよ」
上祐「アルマゲドンで何億人くらい死にますかね?」
麻原「多分オウム真理教信者以外全員死ぬ」
上祐「え?全員ですか?」
麻原「そうだ。だから教団は武装する。攻撃は最大の防御、だよ」
アルマゲドン(世紀末戦争)を信じて暴走したオウム真理教。
オウム真理教の犯罪事件は「信者A殺人事件」「坂本弁護士一家殺人事件」「サリン・プラント建設・殺人予備事件」「LSD密造事件」「覚せい剤密造事件」「麻酔薬密造事件」「メスカリン密造事件」「元信者B殺人事件」「滝本弁護士殺人未遂事件」「自動小銃密造事件」「松本サリン事件」「元信者C殺人事件」「経営者VX殺人未遂事件」「会社員VX殺人事件」「被害者の会会長VX殺人未遂事件」「宮崎資産家拉致事件」「公証役場事務長監禁致死事件」「都庁郵便物爆破事件」「新宿駅青酸ガス事件」「地下鉄サリン事件」
首謀者の麻原彰晃は一切証言しないまま「死刑確定」した。
麻原彰晃(本名・松本智津夫)は認知症(ボケ)の仮病をつかいおむつをしてボー然と監獄の天上の照明を眺めている。だが、「死刑確定」の日はひとりになると「何でなんだよ!糞っ!」と悔しがった。病気なんだから死刑はないだろう、などと浅知恵だった訳だ。
麻原彰晃にはまだ「一連の事件の証言」が残っている。
死刑は当たり前だが、殺さず一日でも地獄の日々を送らすのだ。
本当のことを話す日まで。
麻原の音源テープはうつろな声でささやく。
麻原「私はこの世の救世主だ。オウム真理教は世界一の教団だ。イスラム教でもキリスト教でもない仏教でもないオウム真理教が世界を救うんだ。アルマゲドン…第三次世界大戦は必ず来るしそのためにオウム真理教が救済の為に…」
麻原「救済するぞ!救済するぞ!救済するぞ!」
1995年山梨県上九一色村には30棟のサティアンという工場みたいな白い壁の建物があった。(現在は更地になり平和碑がある)毒ガス対策で籠の鳥をもった機動隊ガスマスク隊がいき、遠まきに報道陣が報道している。まだ20代の毎朝新聞記者の佐藤良夫の姿もある。
ガスがないと知ると、盾と武装した機動隊が出撃。鋼鉄の壁を電気カッターできり、突入!会談の中2階の隠し部屋に札束を積んで寝そべっていた麻原彰晃が発見された。
機動隊の男は壁を壊しながら「浅原か?」ときく。
「…はい」麻原は赤い教団着のまま言った。髭ダルマみたいな男が連行され護送車に入れられる。マスコミのカメラは鉄格子の護送車の窓に見える髭ダルマを写し、
「浅原です!麻原彰晃代表逮捕です!」
「浅原逮捕です!」
と大々的に報道する。
あれから17年……。2012年42歳となった佐藤良夫は、旧式のウオークマンで「オウム真理教極秘テープ」をイヤフォーンで聴いていた。場所はある山梨県の湖畔のホテルに向かう自家用車内である。まだ午後少し、くらいだ。
毎朝新聞報道部佐藤良夫は「なぜオウムは暴走したのか?」の著者・早坂 武禮(はやさかたけのり・仮名)に取材の為あった。そのホテルでアポイントメントをとっていたのだ。
早坂は意外と若い感じを与える中年男である。
白髪頭に猫背で、華奢な感じにも見える。服装は佐藤は背広なのに早坂は普段着である。
「どうも、毎朝新聞の佐藤良夫です」
「早坂です。オウム真理教のことを聞きたいそうですね?」
ふたりは握手をすると、ホテルのまどろむ日差しの中のロビーのイスに座った。
「早坂さんも古参信者でしたね?ほとんどの古参信者は塀の中です」
「私に何が聞きたいのですか?本にすべて書いていますから読めば大体はわかりましたでしょう?」
「確かに…しかし、肝心な何故オウムが暴走したのか?わからなかったんです」
「文章が弱かったかなあ」
早坂の冗談に佐藤は笑わなかった。
「私は二度とオウム真理教のテロ事件が起きない様に「オウム真理教のすべて」が知りたいのです!」
早坂はちょっと考えてから、「ちょっといいですか?」と席を立ち、携帯で話した。
そして戻ってきて、
「佐藤さん猫大丈夫ですか?」ときいてきた。
「え?」
意味が解らない。
とにかく佐藤は早坂を乗せて、案内通りに…地方の假家に猫たちと住むオウム真理教の元・古参幹部で同棲中の鈴木麗子(仮名・50代)を紹介した。
鈴木麗子は最古参信者で髪の長い平凡な顔をしたおばさんだった。太ってはいない。
「彼女はサマナナンバー30番、選挙にも出ましたよ。村井、早川より入信は早い」
早坂は苦笑いした。
「おふたりはご夫婦ですか?」
家でお茶をだす鈴木麗子に聞いた。麗子は質素な服のままで「いいえ、同棲っていうんですか?身分が身分ですし……。私たちだけが幸せになってもオウム真理教の被害者の方たちに申し訳ないですし…」とか細い声だ。子供はない。かわりは沢山の猫たちだ。
鈴木麗子(仮名・NHK未解決ファイルでの仮名は深山織枝)…オウム真理教元・古参幹部。
村井秀夫(同じ時期に入信し、地下鉄サリン事件後刺殺される)佐伯(岡崎)一明死刑囚(松本弁護士殺害)、オウムのすべての殺人に関わった新実智実死刑囚(にいみともみつ・禿頭)、教団の武装化を進めたのが早川紀代秀死刑囚…しかし鈴木麗子(仮名・NHKでは深山織枝)はそうした面々と同時期に教団に入信して、事件に関わることがなかった稀有な存在だという。
早坂は「このひとは鈴木麗子…もちろん仮名でNHKでは深山織枝だけど(笑)」と彼女を紹介した。「どうも毎朝新聞の佐藤です」名刺を差し出す。
「早速ですいませんが、オウムに入信したところからでいいんで…お話を聴かせてもらえますか?」
佐藤ははやる気持ちを隠しきれず聞いた。
「はあ」麗子は戸惑った。「私のような人間の経験談がお役にたつかどうか…」
「是非オウムの真実をお聞きしたいのです。貴女と同期の古参幹部はすべて塀の中です。あなたに聞く以外考えられません。無論早川や新実や佐伯には手紙のやりとりはしているのです。ですが、彼らの証言は検察のフィルターがかかっていて真実に辿り着けない」
「はあ」麗子は覚悟した。「子供の頃から夢と現実がわからなかったんです。自分のまわりが違うんじゃないかって」
時代は1986年11月、バブルの入り口…。
麗子はコンサバな服を着て眉毛を太く書いた厚化粧で、広告のイラストレーターをしていた。「よう麗子ちゃん、髪形決まってるね。この間みたいな広告頼むよ!お金なら幾らでも出すしね」ショップで派手な背広の上司は笑顔でいった。「まかせといて!そういやあ遠藤さん今日も合コン?」「そうさ!お金はじゃんじゃんつかわなきゃね!バブル万歳!」
ひょっとこみたいな顔の遠藤上司は上機嫌で出て行った。
麗子は当時20代、ボーイフレンドと同棲していた。夜にタバコをふかして帰ると、
「ああ、なんか疲れるなあ。ねえ、もっといい給与の会社にトラバーユしちゃおうかなあ?」
と当時のボーイフレンドに愚痴った。「何読んでるの?」
ボーイフレンドの読む本は「超能力の研究 著者麻原彰晃」あのあぐらをかき宙に浮いている写真がカバーであった。(あぐらをかいて本当に宙に浮けるわけではなく、あぐらのままぴょんぴょん脚をしていると一瞬だけ宙に飛び上がりすぐ床に落ちる。飛び上がった瞬間を撮影しただけ)
「この麻原ってどう?」当時のボーイフレンドは麗子にきいた。
「浮いたってしょうがないでしょう?」
麗子は当時苦笑いをしたという。
しかしそこからが違った。何故か麗子(NHKでは織枝)は麻原の本を朝方まで熱心に読みふけった。熱中したといっていい。朝方起きだしてきた同年代のボーイフレンドは、
「あれ?その本眠らずに朝まで?」
「うん。あっくんなんかね。このひとの言っていることすごくわかるの!」
「宙に浮く人の?(笑)」
「まあ、それはそれでね。でもこのひとも孤独なのよ。夢と現実の狭間で孤独に耐えているの」
「(笑)…そう?」
ボーイフレンドは上っ面ばかりだ、麗子は不満である。本にある電話番号に電話してみた。当時は携帯電話もスマートフォンもない。
「はい、オウム神仙の会です」
「あのう、麻原彰晃さんの本を読んで電話したものですが?」
「ああ、合宿の予約のお電話ですね?」
「合宿?」麗子は戸惑った。が、女の電話の声は合宿はこれこれで幾らお金がかかってとロボットのように速射砲だ。「わかりました」
鈴木麗子(NHKでは深山織枝・仮名)らは中規模バスに乗せられ人気のない山道を登っていた。ポロシャツの村井秀夫は前の席で「麻原先生はアルマゲドンが必ず起こるっていっていたよ」という。「それホンマ?」早川紀代秀は怖がった。
麗子とボーイフレンドは顔を見合わせ「これってそういうところ?」と囁いた。
バスは雪の積もる木造合宿所(清流荘)前に着いた。赤い教団服の新実ともうひとりが出迎える。「ごくろうさまです。オウム神仙の会(オウム真理教の前身)へようこそ」
新実らは頭を下げる。
「さあ、こちらです」
木造の合宿所はオンボロだが、年期がはいっている。中に入ると意外と綺麗に整頓してあると驚く。麗子は私服の麻原の姿を見かけた。
大きな部屋には20人が入った。教団服の佐伯(岡崎)一明は「皆さん床にお座りになって座禅を、ダメな方は蓮華座でいいので」
「蓮華座ってなんでっか?」早川はきいた。
「座禅のくずしたもので片足だけ組む座禅ですよ」
一同は座禅を組む。
そこに金色のマントと宗教服の麻原が来た。髭ダルマみたいな太った男だ。
説法が始まった。
麻原「例えばあるひとがお金があれば高価な車も買える。彼女は玉の輿に乗ったといっても何も感じない。昨日今日のコメがあればいいではないか?一千万円も百万円もいらない。そう思えるようになる。つまり世の中にあふれているインフォメーション、情報というものが役に立たなくなる。それが「解脱(げだつ)」だ。いいですか?皆さん」
一同は案内されて外の通路をあるいていくと、
「あれ見て!」
「すごい!」
と、感心した。髭ダルマ麻原彰晃が、上半身裸で雪の上で座禅を組んでいる。少し距離がある。真冬である。「寒くないのかなあ?」一同はざわざわしだした。
寒かったに違いない(笑)。我慢したのだろう(笑)。
新実は「先生は最終解脱しているため寒さを感じないのです!」
とにやりと自慢する。
なにが最終解脱だ?(笑)
だが、一同は関心した。凄い!凄い!