駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇花組『メランコリック・ジゴロ/EXCITER!!2018』

2018年11月30日 | 観劇記/タイトルま行
 神奈川県民ホール、2018年11月22日16時(初日)。

  1920年代のヨーロッパ。上流階級の女性をパトロンに持つジゴロのダニエル(柚香光)は、気ままに優雅な生活を送っていたが、田舎娘との浮気をきっかけにパトロンを失ってしまう。住んでいたアパートも追い出されて困ったダニエルは、ジゴロ仲間のスタン(水美舞斗)が持ちかけた儲け話に思わず飛びつく。それは、預金者が死亡したり行方不明になっ足りしたために放置されている「睡眠口座」の金を、相続人になりすまして手に入れようという計画であった…
 作・演出/正塚晴彦、作曲・編曲/高橋城、編曲/高橋恵、振付/尚すみれ。1993年に花組で初演されたサスペンス・コメディの五演目。

 2008年花組中日公演の感想はこちら、2010年花組全ツの感想はこちら、2015年宙組全ツの感想はこちら。直近で観劇したMMG版はこちら
 ちなみに併演のスパークリング・ショー『EXCITER!!2018』の、2009年初演の感想はこちら、2010年再演の感想はこちら、2017年三演の感想はこちら
 何度も何度も語っていますが、私の宝塚歌劇ファン人生は1993年花組東京公演『メランコリック・ジゴロ/ラ・ノーバ!』を観てから始まっているので、何を差し置いても観なければならなかったのでした(笑)。

 というわけで、翌日から宙組東京公演が始まるため観に動けるのは初日のみ、ということで超チケ難を潜り込んで観に行って参りました。まあ初日だったよね、てかハコがデカすぎましたよね。
 つまり、テンポとか間とか滑舌とか、コメディに特に必要なものがまだまだうまくできていなくて、上滑りしている部分もあったような気がしますし、舞台を盛り上げ支えるような拍手や手拍子とかも全然少なくて、なかばぎくしゃくしつつも、でもなんとかかんとか完走した、というふうには、ちょっと見えた気がしたのです私には。でも、ここからノリをつかんでどんどん仕上げてくると思うし、ファンも楽しみ方や盛り上げ方がわかってくると思うし、確かに若いは若い座組なんだけれど、これで全国回って熱い風を吹かしてこーい!って劇団から与えられた任務を、ちゃんとやりとげられるだろうと思いました。期待しています。

 さて、れいちゃんのダニエル、意外や意外、良かったですね。イヤこういう言い方はアレなんだろうけれど。
 とにかく歌が心配でしたしそれは引き続き課題だなとは思えたのですが、ひとりで寂しげに歌う「ダニエルのテーマ」が、情感が漂っていていいなとほろりとさせられたんですよね。多少音程が怪しくても、イヤそれは今後背負うものを考えるとホントなんとかもう少しずつでも改善していってほしいんですけれども、でも、とにかくハートが伝わる。こういうふうに歌いたい、こういう想いを届けたいというのが見えるれいちゃんの歌が、私はわりと嫌いじゃないのでした。
 そして私はれいちゃんのお芝居はもっと好きなんですけれど、これについてはむしろ不安が私にはあって、それはまとえりもまぁまかもそうだったんですけれど、というかまとぶんもまぁ様もどちらかというとスタンの方がハマりそうなタイプで、というかダニエルってある種の辛抱役でけっこう難しいキャラクターだと私は思っていて上手く演じるのはなかなかしんどいのではないかと危惧していて、今回もれいまいだと逆の方がニンじゃない?とか心配していたんですね。当時、いずれも、えりたんやゆりかちゃんの方が真面目な役にハマりそうに思えた、のです。
 でも蓋を開けてみるといずれも、まずスタン役者がすごく軽やかに豹変してみせて、口八丁手八丁の貴族出身というけどそれもどうだか、な天然詐欺師みたいな、でも真の悪人ではない男、みたいなキャラクターをきっちり演じてくれて、それと対比する形でダニエルがちゃんとより真面目で不器用な男に見える…という形で成立してきたように思えました。
 ただまとぶんだとなんか、ジゴロで学費を稼いでいる学生…って感じがあまりしなかったし、まぁ様もやっぱりジゴロっていうかなんかもっと華やかな仕事もしてそうだけど…って感じはあったかな。要するに学年とかキャリアもありますが、ふたりともあまり学生に見えなかったのかもしれません。ダニエルの歳はアントワンの28歳と近いのでしょうが、休学しながらも卒業はしようとしている若き苦労人なんですよね。れいちゃんは当時のまとぶんやまぁ様に比べたらぐっと下級生でしょうから、ちゃんと学生に見えて、それがよかったのかもしれません。
 あと、ヤンさんのダニエルとは全然違うダニエルで、でもちゃんと成立していて、そこがとてもよかったです。
 ヤンさんのダニエルって、当て書きだからあたりまえですけれど、真面目で不器用でちょっとシャイでとにかくナイーブで上手くジゴロ稼業がこなせなくてメランコリックになっているさみしげな青年、って感じだったんですよね。苦学生というのがまず先にあって、友達のスタンに紹介されて学費のために慣れないジゴロを苦労してやっていて、でもそれも不器用だからあまり上手くやれてないしもちろん楽しめてもいなくて、レジーナのことも満足させられていないしアネットに対しても浮気とかではなくてたとえば高い参考書のための臨時収入が欲しくてがんばったんだけど上手く逃げられなくて…みたいな、いい感じのダメダメさがあったと思うのです。それは本当にヤンさんの持ち味、ニンのままのキャラクターだったと思うのです。
 しかもダニエルってキャラクターとして本当に辛抱役というか巻き込まれ型でほぼ活躍しない、カッコ良く見せるのが難しい主人公だと思うんですよね。活躍するのは主にノルベールであり、最後にベルチェを連れてくるスタンなんですから。これは魅力的に見せるのが本当に難しい役だと思います。
 でも、巻き込まれた中で、フェリシアを守ろうとするし、筋を通そうとするし、ラストはノルベールに対してフェリシアの面倒を見ることを宣言する優しさ、強さ、誠意がある。そういうものこそ、それこそオスカルが言うような男らしさだと思うのだけれど、世間では評価されづらいし物語でも損な役回りになりがちな、そういう複雑な魅力を持ったキャラクターです。それを上手く素敵に見せられることが宝塚歌劇の男役には担わされているんですよね。逆にリアル男性の男優にやられると、けっこう「ケッ」となるキャラクターだと思ったりもするのです(笑)。つまり、私が偏愛しているキャラクターです。
 れいちゃんのダニエルは…ジゴロでしたよね(笑)。仕事を紹介したのはスタンかもしれないけれど、もうある種天職なんですよ。すんごい上手に働けてそう(笑)。学生の方が副業になりかけている。
 ただ若いから、アネット(春妃うらら)との浮気がバレてレジーナ(華雅りりか)に捨てられて宿無しになるようなポカもする。で、「なんだってんだいったい!」ってガラ悪くキレる。そう、歴代一ガラが悪く、子供っぽいダニエル(とスタン)だったかもしれません、でもそれがまた似合っていたし、そういうダニエル像もあるなと思わせられました。
 学費のためにバイトとして始めたジゴロだけれど意外に水が合っていて楽しくなっちゃって、でも若いからミスもして、ちょっと別口で稼ぐかと思って友達の口車に乗ったら詐欺の片棒担がされて、金はないわ妹はできるわ父の親友だという男が借金返済を迫ってくるわで…って、巻き込まれ型のダニエルにちゃんとなっている。そしてそんな中で、ひっとんフェリシア(舞空瞳)への気の遣い方が優しい! 最初はもちろん面倒に思っているんだけれど、「幸せの夢」を歌うあたりから、そしてアネットと再会するくだりからの、地金も見せちゃったしもういいやとなってからの意外な真面目さ、誠実さ、シャイさ加減に私はもうキュンキュンしました。超絶美人だけれど素のれいちゃんにはそういう部分がちゃんとあるんだと思うんですよね、それが上手く表れている。
 そして特にラブいことをやっているわけではないんだけれど、ちゃんとラブストーリーに見えましたし、それはひっとんのヒロイン力によるところもあるのかもしれませんが、れいちゃんの魅力でもあるかと思いました。
 そしてキレッキレのダンスの鮮やかさ、素晴らしいですね!
 ラストシーンは、もうちょっと、深みが出てくるとよりいいかなと思いましたが、それもこれからなのでしょう。千秋楽はみんなキュンキュンでダダ泣きかもしれませんよね。私はもう観られませんが、進化に期待しています。

 そしてひっとん! 私は華ちゃんはちょっと男役顔すぎないか?と思っていて、どちらかというとひっとん派なのですが、やっと新公ヒロインが来たと思ったら次は別箱ヒロインと、とんとん拍子で起用されて嬉しい限りです。顔が小さくて手足が長い超絶スタイルと長身は、宝塚歌劇の娘役としては並ぶ相手を選んで難しい場合も多いし、今のところダンスが上手すぎて周りから浮きすぎるきらいがあるのもちょっと問題かもしれません。男役さんへの寄り添い力とか、男役さんとふたりでいるときが一番綺麗に見える、とかも大事なことだと思うので、そのあたりはこれから場数を踏めばいいのかなあ。その上で将来的にはひとりでも光り輝ける娘役さんになれると、ちゃぴ級のビッグスターになれる逸材かもしれません。とにかく期待しています。
 フェリシア役は、ちょっと地味に作りすぎかな?と思わなくもありませんでしたが、ミハル以来のどんくさいのろまキャラというよりはおとなしくて引っ込み思案で強く前に出ていけないタイプで…という女の子を、ウザくなく、とてもいじらしく演じてくれていました。可愛かった! こちらもラブ度はもう少し上げていっていけたらいいなとは思いますが、成長と進化に期待しています!

 マイティは私は本当にダンスの人だと思っていて、お芝居は実はピンとこないことが多くて、ですね…なのでスタンとしてはもうちょっと軽やかさが欲しかったです。
 華ちゃんのティーナ(華優希)は案配がちょうどよかったかなと思いました。あまりアーパーに作るのは今の時代もう古いと思われるので、うまくウザさといじらしさを出す必要があるキャラクターだと思うので。ちょっと華はありすぎたかもしれませんけれどね。
 つかさっちバロットは、決してやり過ぎていないのにちゃんとおもしろいという絶妙さがありました。愛ちゃんバロットのやり過ぎだからこそおもしろい、愛しいってのも良かったんですけれど、それはもう芸風の差かな(笑)。
 はなこちゃんマチウもとても愛らしくて良かったです。モンチマチウは私には地味に感じられたから…めおちゃんとかそれこそタモを思い出しました。てかショーもホントはなこちゃんは垢抜けてきて、目覚ましいですよね。今の花組路線からしたらやや骨太すぎか?とこっそり危惧していたのですが、劇団が起用する気があるのなら是非とも使っていっていただきたいです。

 パンチのあるアネットやいかにもなしっとり感が素晴らしかったレジーナの他にも、絶妙な笑いを取るイレーネ(乙羽映見)やいい女感がたまらないルシル(真鳳つぐみ)、いいウザさだったシュザンヌ(雛リリカ)、色っぽかったカティア(鞠花ゆめ)と、娘役ちゃんがちゃんと仕事をしているのも素晴らしかったです。
 ベルチェ(冴月瑠那)とロジェ(和海しょう)は逆でも良かったかもしれません。びっくのフォンダリ(羽立光来)の存在感は素晴らしすぎました。
 バート、アルマン、クロードでない客の男でやたら踊れる子がいたなあ、あれは誰だったんだろうなあ…
 カフェのジュークボックスらしき音楽があいかわらず邪魔だったりもしましたが、とにかく楽しく観たのでした。


 スパークリング・ショーは作・演出/藤井大介。さすがにちょっと人数が足りなくて、階段の数も足りなくて、寂しかったかもしれません。こちらの主演はれいちゃんと華ちゃんで、どちらも歌が弱かったのもショーとしてはつらかった気がしました。歌上手に分業してもらうにしても、主演はある程度は歌わないとならないし、再演となるとキーを合わせて作曲してもらえるわけでもないので、まあしんどいのは仕方ないかな。
 でもノリノリだし楽しかったですけれどね。
 チェンジ・ボックス場面の混沌さがおもしろくなりすぎていてファンにしかわからなくて全ツにどうなんだ問題、は感じましたが(笑)、豹柄ツナギのマイティってマジ正しい気がしたので無問題です。
 そしてハバナクィーンのひっとんの素晴らしさね! 素直に拍手入れたくなりますよねアレは!
 ダブルデュエダンのパートナーチェンジも良かったし、この座組ではこれが正解という気もしました。代替わりしても、トップと二番手が同期でしばらくいってもいいんじゃないかなあ。95期はどこも渋滞しているので…
 そのあたりを見据えた、いい修行の場になっていると思います。風邪など引かずに、怪我に気をつけて、がんばって全国回って旋風を起こしてきていただきたいです!



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我が愛しの愛と希望のドリームガールへ~愛希日記ファイナル

2018年11月23日 | 大空日記
 2018年11月18日、月組トップ娘役・愛希れいかさんが宝塚歌劇団を卒業していきました。
 私は上野のライビュで見送りました。『エリザ』についてはやっぱりおなかいっぱいかなと思いましたが(でもやっぱり病院場面でダダ泣きしましたが)、サヨナラショーが本当に本当に良かったですねえ。最近だとみりおんのワンマンショーっぷりも圧巻でしたが、今回はすーさんの扱いも素晴らしく、胸に響きました。
 それにしても「愛希」とはいい芸名だなあ…
 本当に立派な、ビッグな、一時代を画す娘役になりました。でも、こんなになるとは当初全然思っていませんでしたよ…(^^;)
 そんな話を、今回はしたく思います。ちなみに愛希日記その1はこちら、その2はこちら。すでにして懐かしいですね…

 珠城日記によれば、珠城さんのことは研2の『ラスプレ』新公できりやんの役に抜擢されたときに「おっと」と思った記憶があり、そのあたりから私の第二期ファン人生も加熱していって月組もまあまあ通うようになったはずなのですが、ちゃぴの記憶はあまりありません。『スカピン』のルイ・シャルルにも、「こういう配役をされるってことは押されている若手なんだろうな」と思った程度の記憶…舞台の記憶は特にない気がします。
 しっかりした記憶があるのは『ジプシー男爵』で娘役がまわってきたときで、これまた若手男役を押すときに劇団がよくやる手ではあるけれど、二番手スターの恋人役で実質二番手娘役みたいなことをやるにはいかにも場数が足りなくて立ち居振る舞いがまだまだなってなくてメイクもなんだかなな出来で、フラフラぴよぴよしていて心配したことをよく覚えています。ダンサーではあるんだろうけど、他はまだまだ何にもできないじゃん…とかわいそうになるくらいでした。
 そうしたらあれよあれよという間に娘役に転向してしまい、ということは起用する気があるってことなの劇団!?と思っていたらあっという間にトップ娘役に就任してしまった、という印象です。
 しかし当時の月組はまさみりダブルトップ体制、お披露目公演の『ロミジュリ』はちゃぴにとっては相手役が毎回変わるという試練でした。なんだかなあ、気の毒だよねえ…と不憫に思いましたが、そのわりには公演自体は健闘して見えた記憶はあります。
 しかしまた『ベルばら』でまさみりがオスカルとアンドレの役代わりでちゃぴはロザリー…正直トップ娘役がやる役ではないと私は思っていますし(過去最悪だったのはディアンヌ。許さん。てかもう誰か若手に譲って全面リニューアルして植Gマジで…(ToT))、せっかくトップ娘役にしたのにこんな扱いでいいんかいなと憤ったことも覚えています。必死に小さくなろうとして見えたのがまた痛々しかったなあ…
 みりおが組替えして、まさおだけの相手役になってから、やっと少しおちついて、そしてそこからまさおにビシバシと鍛えられ、それにめげずにがんばったのか見違えるように垢抜けていきましたよね。ショースターっぷりが発揮されていったのも目覚ましかったです。
 『1789』のアントワネットは本当に素晴らしかったですし、当人もある種の納得というか満足というか手応えを感じて卒業ということを意識し出した、というのも納得です。ただ、劇団が慰留してくれたのかまさおが残るよう言ってくれたのか、とにかくちゃぴはそこでは卒業しないでくれました。近年最も若い学年でトップスターとなる珠城さんへの代替わりの架け橋に、劇団は相手役としてやはり経験者をきちんとそばに置きたかったのでしょう。それは正しい。そしてちゃぴも、もうちょっとくらいならやってみたい、とは思ってくれたのかな? 残ってくれて本当にありがとう。だってでないとあのグルーシンスカヤに、あのルイに出会えなかった…!
 全ツ『激情』が決まったときには本当に嬉しかったし、次はたまちゃぴコンビでいくってことだよね!?とめっちゃテンション上がったものでした。何箇所も追っかけたもんなあ、楽しかったなあ。
 そして『グランドホテル』、初日を観ましたよ震えましたよ…てか『グラホ』と『AfO』は双璧だなー、どっちが作品として好きかとかちゃぴの役として好きかは、悩むなー。『グラホ』は名作だけれど再演ものだし、そもそも宝塚歌劇オリジナルではない、というのは私としては減点。でも私は実は、愛は成就したが人は死に別れる、みたいな悲劇のメロドラマが大好物で、この点は大正解。そしてちゃぴのグルーシンスカヤの素晴らしかったことよ! ちゃんと年かさの女に見えていた、けれど恋に心震わせる少女のような「ボンジュール、オムール」の愛らしさが演じられていた、そして男爵に死を与える幻の女のすごみ…! しかしてその一方で、『AfO』はオリジナルだし上手く作るのが意外に難しいと私が痛感しているラブコメで、でもこれはすごくよくできていてだからすごく評価したいのですが、一本ものなのが減点材料…ことほどさように甲乙つけがたいのです。ルイ/ルイーズみたいな役がちゃぴみたいに男役から転向した娘役にしかできない役、だとも私は思いませんしね。でもちゃぴルイのキュートさは出色だったなあ…! てか早く再演しないかな、そうして評価を固め高めていってほしい作品だわー。そういうことをきちんとやらないプロデュース力の低さは課題だぞ劇団!!
 『エリザ』はおなかいっぱいだったけれどちゃぴのシシィはとてもよかったし、改めてラブストーリーとしてせつなくていいな、この役をやるのはタイトルロールだから実質主役だから嬉しいというのもあるかもしれないけれど、それより何よりヒロイン冥利に尽きるだろうなと、変な日本語ですが娘役がみんなしてこの作品をやりたがる意味がやっとわかった気がしたりしたので、そういう意味でも納得して、ちゃぴの卒業を寿げた気がします。

 そして、サヨナラショーが本当に素晴らしかったですよね。ごくシンプルで、でもそれだけ、ひとりで歌だけであの大きな空間を埋められるスターになったという証で、立派でした。 髪飾りに白い花、白いドレスで「♪私はまだ何も知らない十六の乙女だけれど…」と歌うジュリエットから、年上の同性に憧れる、でもそれは確かに恋だと歌うロザリー、愛に迷い「♪わかるなら教えてよ愛がなんなのか」となかばやけっぱちに歌う人生に倦み疲れたマノン、そして妻となり母となって家族への愛と神の許しを請う歌をせつせつと聴かせるアントワネットへ…どの歌にもその情景が浮かび、泣けました。そしてセリ下がり…! 実はなかなかないことですよね!!
 なかなかないと言えば続くすーさんもそうで、要するにちゃぴのお着替えタイムの捻出のためなんだけれど、いくら組長さんとはいえ娘役にこの扱いは破格だったと震撼しました。上手スッポンのセリ上がりから一曲まるまるソロ、銀橋ゆっくり渡って本舞台は下級生の二組の男女(ありちゃんと時ちゃん、おだちんとゆいちゃん。ああ、ゆいちゃんの色っぽさはマジで罪…!)を踊らせて、下手スッポンのセリ下がりまで。ないないない、普通こんなのない。組長、副組長の管理職ってものっすごく大変だと聞くし、だから慰労もかねて何年かしたら専科に移してゆっくり自分のことに専念できるようにするとも聞くけれど、そのまま専科として卒業すると下手したらひっそりご報告だけなんてとこもあるし、大劇場公演への特出で卒業したとしてもこんなショー場面が与えられることはほぼないし、組子で卒業するって大事…!とかまでいろいろ考えちゃいました、下賤ですみません。
 再び現れたちゃぴは組カラーの黄色のドレスで、珠城さんとの『グラホ』は当然上演時より歌が上手くなっていて、そこにさらにまゆたんはーちゃんカゲソロでのデュエダンですよ息ぴったりでしたよ合わせなくても合ってるんですよ自然に一体になっていましたよ、たまらん…!
 そして「ドリームガールズ」!
 映画も大好きですが主題歌も元気が出ますよねー。原曲の歌詞としてはまんまショーガールの気概を歌っているというか、男たちに夢を見せるドリームガールズとしての私たち、というようなことを歌っているそうですが、英語で聞き流せたというのもあるけれど(^^;)そんなこたぁ全然気になりませんでした。
 もちろん昨今のフェミニズム的には男性の性的搾取対象としてのみ女性が存在する、なんてことは糾弾され否定されているわけですが、それとはまた別の問題で、きちんと平等で対等で納得できているのならシスジェンダーヘテロセクシャルのマジョリティが性愛を謳歌するのは健康的で自然なことであり(というかあらゆるSOGIが健康的で自然なことなのですが、ともすれば反動的に異性愛が悪く語られすぎる面もいささかあると感じているので)、雄のクジャクが雌に羽根広げるのと同じでなんの問題もないわけで、そらいくらでも歌い上げてほしい、むしろ歌い上げるべきことなのです。
 そしてそういうこととはさらに別に、誰かに夢を見させるとかそのドリームやファンタジーを演じてみせる、ということとはまったく別に、タカラジェンヌは、というか全女性は、自分の夢を夢見て進み生きるドリームガールズなのです。そういう歌なんだと思います、そうだということに今しました(笑)。
 誰のためでもない、自分のための夢であり、自分のための人生です。自分の人生を、自分の夢を抱きながら生きていく。その健やかさ、強さ、まっすぐさ、けなげさを歌い上げているのだと勝手に解釈して勝手に感動したのでした。
 この「ガール」という単語がまた良くてね。そりゃ我々もいい大人ですから、女性として、つまり「性」の部分もちゃんと我がこととして引き受けて、全部背負って立って初めて本当の成人ですよ。でも、それがときにかったるいこともある、わずらわしいときもある。といって性がまだ未分化な幼児の頃にはさすがに戻れない。
 でも、性以前の、ぶっちゃけ初潮以前の、身体が重くなり出す前の、ただの「女の子」になら、戻れる。ここでなら、この時空でなら。そんなパワーが宝塚大劇場と東京宝塚劇場の空間には、宝塚歌劇の演目には、ある。女の子たちの歌やダンスや芝居を見て、女の子に戻れる魔法にかかれる。そのことが素晴らしい。それをひしひしと感じて、泣けて泣けて仕方がなかったのでした。
 かつて花總まりにあこがれたたくさんの娘役が輩出されたように、これからは、というかすでにもう今、愛希れいかにあこがれて娘役になったという生徒さんがたくさん出るのでしょう。それくらい、時代を築き上げましたよ。それは単にトップ在任期間が長かったということだけによるものではないはずです。
 そしてもっと幼い少女たちも、ちょっと前ならセーラームーン、今ならプリキュアとかがマイ・ヒロインなのかもしれませんが、ちゃぴを見られたのならそこにちゃぴは立派に加われますよね! ママが見ているDVD越しでもそのパワーは伝わると思うな(笑)。ちゃぴはそうやって、日本の、いや世界中の女の子に夢と希望と勇気とパワーを与えてくれた天使だったと思います。
 ご卒業、改めておめでとうございます。今後も舞台で観られたら嬉しいです、ご活躍をお祈りしています!






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虫歯『天国in the HELL』(集英社EYES COMICS Bloom)

2018年11月18日 | 愛蔵コミック・コラム/著者名ま行
 プロデュース業に営むユタカは出張ホストとしても働いている。ある日、指名されて待ち合わせ場所に行くと、客として待っていたのは自分より長身で超強面の男だった。その男・ツカサと言葉を交わすうち、不器用ながらも可愛い一面に興味をそそられるユタカ。誘いに乗り、いざセックスしようとしたところ、ツカサが見習い中のサキュバスであることを知ってしまい…!?

 私は自分が恋愛体質ではない方だからか、物語では余計にラブストーリーを求めてしまうところがあって、それでBLもわりと好きなんだと想うのです。葛藤とか障害とかがある恋愛の方がやはりドラマチックに盛り上がるものですからね。
 そしてBLってやはりファンタジーだからか、男女の恋愛ものよりも身分の差とか社会的立場の差、年齢差、みたいないわゆる格差を盛り込んでくることが多くて、ただでさえ同性同士という障害があるのになおさら盛り上げる、みたいなことが多い気がします。イヤ私がそういうタイプのものを好んで探して読んでいるだけなのかもしれませんけれど。
 で、種族の差というかなんというか、そういうものもよくよく盛り込まれがちですよね。人外ものジャンルというか。この作品はいわゆる受けがサキュバスという設定です。いわゆる淫魔、夢に現れて性交を行うとされる下級の悪魔で、女性の姿をしたものはインキュバスと呼ばれます。
 で、サキュバスのツカサが生きていくためには人間の精液が必要で、けれどセックスどころか誘惑にもビギナーで…みたいな設定をまず読み取って、私はニヤニヤしたのです。こういう、愛とセックスとなんらかの義務とか必要性とかの捻れと、そこから生まれる葛藤が大好物なので。本来なら愛し合う者同士で行われるべきセックスを、生死のためにしなければならないという状況と、それに煩悶する心理を読むのが大好物なので(…って書くとホントただのヘンタイみたい…ところで「精子に生死がかかってんだね」というユタカのギャグのしょーもないおもろさはホント空前絶後な気がします)。
 で、すごくおもしろかったのです。なんせ「出していいよ」って言われて出しちゃうのが角と翼と尻尾なんですからね!(笑)
 けれど、さらに予想外におもしろかった、というか私がツボったのはむしろ攻めのキャラクターのユタカの在り方です。アートスペースと雑貨屋を経営していて、インディーズのCDレーベルを持っていて、ときどき自身で出張ホストもやり、いつかアイドルをプロデュースしてみたいと思っている男。「他人の才能を自分の手柄にしたい」「こんな才能を見つけられる俺はセンスが良いでしょうと/世間に知らしめたい」という、実に浅ましい男です。垂れ目で優男の美形なんだろうけれど、笑顔でも目が暗くて笑っていない、自己肯定感の恐ろしく低い男です。どういう育ちでこんな人間になってしまったんだろう、普通にしてたらこれで充分高スペックな男なんだろうに…というキャラクターです。この暗さ、闇深さは、なかなかない。
 そんな、したあと「君には才能と素質がある/俺とアイドルを目指そう」と言っちゃったり「改めてもう一度スカウトさせて/俺と一緒にナンバーワン風俗嬢を目指そう」とか真顔で言うような困った、捻れた発想しかしなかった男が、「好きです」って言われて「好きだよ」って応える、そんな簡単な、あたりまえの、「これだけの事」に至るまでの物語なのです、この作品は。BLって基本的には受けが主人公というかヒロインというか読者が感情移入するキャラクターなんだと思いますが、この作品の陰の主役はユタカなんだよなあ、と思いました。おもしろい構造の作品だと思います。
 ところで「その後in the HELL」は描き下ろしなのでノーカンなのかもしれませんが、ツカサが他の客たちとは実はやっていなかった、としたのには、私はそこまで受けに処女性というかフィデリティというか、を求めなくても…とちょっと思ったんですね。だってユタカはそれ以前にバンバンやってんだから、ツカサだってバンバンやってちょうどイーブンで対等、じゃないですか。それをユタカがちょっと嫌に思おうがそれごと引き受けてこそだろう、とも思ったんですよね。でも、ユタカもまたツカサと出会ってから「君以外とセックスどころか恋愛もしてない」と言うし、ならツカサの側だけに「嫌だけどする」を強要するのも理不尽だな、と思い直しました。
 出会うまでの過去は変えられない。出会ったときまでの過去が出会ったとときのその人を作ったのだし、それで恋に落ちたのなら、そこからはふたりが作っていくもので、そこにフィディリティがあればいいのだと思います。そう、こういう一対一関係というか超ロマンチック・ハイフィデリティを私はBLには求めがちかもしれません。それもまたファンタジーだからなのでしょう。男女なら、それだけじゃないはずじゃんとかもっといろいろあるかもしれないじゃん、とかついリアルが邪魔をするからです。
 ちょっと不思議というか意味不明なタイトルは、ユタカの名字が「天国(あまぐに)」というところからも来ているのかもしれませんが、作者あとがきによればマーク・トウェインの「天国にユーモアはない」という言葉を踏まえているそうで、そこからの「BLは私にとって大切なユーモアのひとつです」という言葉が深いなと思いました。
 とはいえ全体にはそんな哲学的な話ではなくて、むしろギャグで、濡れ場もバンバンあるし、「ここをケシてなんの意味があるんだろう…」とか不思議に思っちゃうくらいなんですが(笑)、そういう点も含めて、とても好みの作品に出会えて嬉しかった、というご報告でした。






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小池田マヤ『女と猫は呼ばない時にやってくる』(双葉社ジュールコミックスシリーズ全6巻)

2018年11月18日 | 愛蔵コミック・コラム/著者名か行
 東京・高円寺にあるお酒とサラダを楽しむ店。詩が趣味のOL・ヒラリーはそこで様々な女性客に出会う。謎の美魔女や主婦、独身女性、そしてシェフ。みな楽しく語らうもそれぞれ胸には抱えるものがあり…

 シリーズ第1巻の刊行は2012年。私は知らない漫画家さんで、でもごはんものというかレストランものがジャンルとして好きなので、ジャケ買いしてみたんだと思います。そこから『老いた鷲でも若い鳥より優れている』『鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす』『カラスと書き物机はなぜ似てる?』、そして完結『仕事は狼ではなく森へは逃げない』上下巻まで、動物のことわざをタイトルに連載されてきたのを新刊が出るたびに追っかけてきました。
 オムニバス連作というか、確かに軸となるヒロインはヒラリーなんだけれど、順にフィーチャーするキャラクターを変えていって、ラストは銀さんそしてヒラリー、とまとまる構成が美しくして、大好きです。このふたりがくっつくだけでなく、小鳥遊さんは嫁を迎え九さんには恋人ができて新上さんにはママ友ができました。大人になっても、後半生になっても、世界は閉じて行くばかりでなく広げられるんだ、という作者のメッセージのようで、心強いです。
 ヒラリーの仕事の描かれ方というか扱われ方がまた良かったです。お仕事漫画ではないんだけれど、ヒラリーは仕事ができるっぽくてだからこそ職場で便利遣いされているっぽくて、古い体質っぽい営業でのセクハラやパワハラもありそうだしとにかく拘束時間が長くて家で寝る以外ほとんど会社にいるようで、そのわずかな隙間にこの店に来て骨休めをしていることが充分窺えて、なのにそこにチャラくて仕事ができない同僚かつ元カレが上司になっちゃってさらに面倒くさくて、疲弊して…というのが、ごくわずかな描写でちゃんと見えるんですね。
 けれど自分のためだけのごはんを、自分を大事に想ってくれる人に作ってもらえて、自分もそれをすごく楽しみにしていることにやっと自分でも気づけて、そういうことがすべて身に染みてやっと、自分でも自分を大事にする覚悟ができて、他のことはすべて投げ捨てる覚悟ができて、仕事のチームから外してくれ、もうできない、と涙ながらでもはっきり言える。そんな強さをついに手に入れたヒラリーの姿に、こちらも泣くしかありませんでした。
 そこまでの銀さんとの紆余曲折がまた良くて。恋愛ってホント、ある程度心の余裕がないと始められないし、その隙間は何度か寝た程度では埋まらない。でも身体のつながりができたことって、確実に心や状況をも動かす大きなことではあるのです。寝てもときめかなかったヒラリーが、調子に乗ったり怒ったり落ち込んだり忙しかった銀さんが、そこから変化して、ゆっくりゆっくり落ち着くべきところに落ち着いていって、手をつないで、目を見交わして、周りに祝福されてやっときちんと告白し合って。なんて微笑ましいんでしょう、幸せのあるべき形だと思いました。
 でも周りのこういうつかず離れずな空気やつきあいも大人にならないと絶対できない。盛り上がって主役を邪魔して私が私がとなるような人がひとりもいない、美しく気高く、練れた、大人の社交と、それを育む場が大事。それは奇跡のようなことなのだろうし、だからこその物語なのかもしれませんが、読む者のハートを確かに温め幸せにしてくれるのでした。
 いいシリーズでした、愛蔵して何度も何度も読み返したいです。

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『深夜食堂』

2018年11月16日 | 観劇記/タイトルさ行
 新宿シアターサンモール、2018年11月11日13時(千秋楽)。

 新宿の路地裏。看板も出さず、深夜0時から朝7時まで営業している「めしや」は「深夜食堂」と呼ばれている。この食堂を営むマスター(筧利夫)は目の上にある意味深な傷跡のせいで少し強面に見えるが、食堂を訪れた客の話を黙って聞き、客の望む料理はできるものならなんでも作って出してくれる。ちょっと腹ごしらえをしてまた明日を生きるために、客たちはマスターの素朴な料理を求めて今日も深夜食堂の扉を開ける…
 原作/安倍夜郎、脚本・歌詞/チョン・ヨン、作曲/キム・ヘソン。演出/荻田浩一、上演台本・訳詞/高橋亜子、音楽監督・編曲・歌唱指導/福井小百合、振付/木下菜津子。「ビッグコミックオリジナル」連載中の原作漫画はテレビドラマ化、映画化もされ、韓国では2013年テハンノ初演でミュージカル化。その翻訳輸入上演、全一幕。

 原作漫画は飛び飛びですがまあまあ読んでいて、ドラマは見ていませんでしたが映画は見ました。韓国でも漫画が人気とは聞いていましたが、ミュージカルにするとはさすが韓国です。
 でも、酔っ払いって歌って踊るものですし(笑)、街の裏通りの飲み屋から窺える人生模様の描写に歌やダンスはやはり最適ですよね。小さな舞台でしたがイメージは自由自在に時空を飛び、鮮やかでした。楽しかったです。
 役者はみんな達者で何役もこなし、それもまた見応えがありました。
 あゆっちは卒業後もいくつか舞台を観ていたのですが、えりたんは卒業後初めてで、生き生きしていて安心しました(^^;)。配役がまたいいよね! キュートでラブリー、歌声も現役時代となんら変わりない感じで、そういえば男役としてはそもそもちょっと高めの声なんだったかな? ヘンに無理したりしていなくて、とてもよかったです。むしろあゆっちが痩せすぎなことの方が心配でしたよ…
 ふたりのキャットファイトもファンにはひとしおですね。
 藤重政孝の「いるよねこういうおっちゃん!」って上手さと小林タカ鹿のいかにもすぎる強面ヤクザっぷりも印象が強かったです。

 ところでシアターサンモールには初めて行ったのですが、というか新宿御苑前駅もそれこそお花見に行くときくらいしか降りない駅なのですが、周りの雰囲気が良くて暮らしやすそうな街で、素敵でした。劇場も、ロビーはやや手狭ですがこじんまりとして見やすく、良かったです。また何かで観劇に行ったときには、前後にゆっくりごはんしたいなあ…



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