駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『ハザカイキ』

2024年04月03日 | 観劇記/タイトルは行
 THEATER MILANO-Za、2024年4月1日18時。

 芸能記者である菅原裕一(丸山隆平)が担当することになった、国民的人気タレント橋本香(恒松祐里)と人気アーティスト加藤勇(九条ジョー)の熱愛疑惑。このスクープをリークしたのは、なんと香の友人・野口裕子(横山由依)だった。菅原には同棲している恋人・鈴木里美(さとうほなみ)と親友・今井伸二(勝地涼)がいて、里美との生活に安らぎを得、今井には仕事の愚痴をこぼしたりとごく普通にすごしていて、そんな平和な日常が続くと信じていたが…
 作・演出/三浦大輔、音楽/内橋和久、美術/愛甲悦子。全2幕。

 映画『娼年』『何者』とかはけっこう話題になっていたかと思うのですが、私は見られなかったのでこれが初・三浦大輔作品となりました。『ザ・シェイプ・オブ・シングス』で向井理、『裏切りの街』で田中圭、『物語なき、この世界。』で岡田将生、『そして僕は途方に暮れる』で藤ヶ谷太輔、映画『娼年』では松坂桃季、『何者』では佐藤健と主演させてきている人なので、私もどこかで観ていてもおかしくなかったのになー…今回も、大空さんさまさまです。いつも素敵な出会いをもたらしてくれる贔屓に感謝、です。
 タイトルは「端境期」ということでしょうね。何と何の、と言うのは難しいですが、とっても「今」な作品でした。こんなに今っぽい、生っぽい作品ってなかなかないと思いました。ザラザラと怖くて、とてもおもしろかったです。
 着想自体は七年前のものだそうで、「芸能人の謝罪会見というものに興味を抱いた」ところからスタートしたんだそうです。「大勢の人々に囲まれた状態で何かしらの自己表現をするって、非常に演劇的だと感じた」ので、「演劇作品として立ち上げて、ライブ空間でお客さんに見ていただく」ことにした、と。
 でも、多少はわざとではあるんでしょうが、場面数が多いこともあって、ほぼ終盤までずっと、これは映像向きの作品なのでは…と私は考えていました。舞台の上手と下手にそれぞれ小さな盆みたいなものがあって、下手は香の部屋や事務所、上手は菅原と里美の部屋や香の母・智子(大空ゆうひ)のスナックのセットがその盆に乗っていて、盆が回ってそのセットが現れるとそこで寸劇みたいな短い場面が演じられて…ということの連続だったからです。そしてマイクの調整の問題もあるのか、役者たちの演技もわざとなのか、下手というのとは違うんだけれど、芝居がすごく平面的で、映像っぽいというか、奥行きがなく、演劇っぽくない感じがしたのです。舞台上でテレビドラマが演じられるのをそのまま眺めさせられている感じ、というのか…舞台って、演劇って、その場で生身の役者が演じている、というリアルとは別に、というかだからこそ、何故か不思議なファンタジーの膜を一枚被るものだと思うんですけれど、それがほとんどないように感じる、異様な生っぽさがある作品だったのです。大空さんはプログラムで「とてもリアルで、現代社会をそのまま鋭い感覚で描いているような印象」「私は、もう少し拡大した世界観の舞台に立つことが多いので、これは私にとって新しい挑戦」と語っていますが、私がよく観る舞台、演劇もそういうものだな、とも感じました(そしてここで「拡大した世界観」という言葉を用いる大空さんよ…! 好き!!)。
 でも、クライマックスで、ああこれは舞台でないと、演劇でないと駄目だ、と思いました。これがやりたくて作った作品なんだ、ここに意味があったんだ、という驚きと、納得。そして圧巻のワンシーンでした。
 恒松さんは私は『ドン・ジュアン』や『ザ・ウェルキン』で観ていてもちろん認識できている女優さんで、しかしこうもすさまじい芝居ができる人だとはついぞ知りませんでした。脱帽です。ファーストクレジットにすべきだろう! ここの台詞は、脚本ももちろんすごいが演技が本当にすごかったです。テクニカルな意味でも、感情表現という意味でも…!
 あとは本水が使いたかったのかもしれませんね、これも舞台ならではでとても効果的でよかったです。
 1幕が短く、確かに起承転結の起というか、いろいろ並べて仕込んで終わり、という感じで、2幕が100分ある構成でしたが、それも納得だし、緊張感を持っておもしろく観ました。なかなか意趣格闘感ある座組ですが、みんな達者でしたしね…!
 しかしわけても大空さんと香の父で智子の夫・浩二(風間杜夫)役の風間さんとの場面が、なんかホントよかったです。ここは往年の人気俳優、人気女優で(しかし智子は演技力はあるけど顔は…と言われるタイプの女優だったらしい。ちょっとどういうこと!? いろいろつっこみたいわー…)、結婚したときは世紀のビッグ・カップルと騒がれたんだろうし、その後浩治の不倫が大スキャンダルとなってふたりは離婚、ともに引退し、浩二は芸能事務所を立ち上げて娘のステージ・パパとなり、智子はちょいと場末感あるスナックのママとなっています。香は何かあると母親のところに逃げ込んだりもしていて、そういう意味では良き家族ではあるのでしょう。けれど…という顛末の芝居が、なんか正しい意味で昭和感があるふたりなのと、わざとベタなテレビドラマ演技をしてもやっぱり上手さが滲み出ちゃう感じとかが、なんかもうホント観ていてツボでした。あと、このあたりから、ああこれはメインキャストみんながいろいろな形で謝る、謝罪の物語なんだな、とも思いました。
 でも裕子って謝りましたかね…? 結局彼女の心情というか、リークの理由とかがよくわからなかった気がするのですが、私が何か読み取り逃していますかね? 別に実は香を好きだった、とかではなかったかと思うのですが…香の裕子への謝罪のなんだかなあ感とか、でもするとすればそうなるよね、みたいなザラつきとかは、リアルでまたよかったんですけれどね…
 香のマネージャー・田村(米村亮太朗)と浩二の謝罪とかもね…この浩二の暴言とか暴力とか差別発言とか恫喝とか威嚇とか、ホントあるあるすぎてまたたまらんリアルなんですけど、そのリアルさが本当に絶妙でおもしろかったです。過剰になりすぎたり、綺麗事にまとめたりしない感じとかね…上手い。
 ところで主人公は菅原なのかと言われると(ところで三浦大輔の作品の主人公はみんな菅原裕一でその恋人は鈴木里美なんだそうな。おもしろいですね!)まあそうなんでしょうけれど、いい意味でフツーの人ですんごい目立つとか話を回すとかでないところもおもしろいですよね。そこをいわゆるアイドルの人がやっちゃうところもね。
 しかしここのBL(BL言うな)はすぐわかりますよ、だって勝地涼がまた上手いんだもん…! イヤちゃん台詞もあるわけですけどね。でもこういうホモソーシャル関係、またまたあるあるすぎるワケですよ…!!
 今井は菅原を名字で呼び、菅原は今井を「伸二」と名前で呼ぶ。学生時代からの友達で、一度告白してフラれていて、でもずっと友達で、今井は今はただの会社員で菅原の仕事とはなんの関わりもないけれど、愚痴を聞くだのなんだので3日と空けずに会って呑んでいる。菅原は今井が今でも自分を好きなことをわかっていて、でも知らん振りして、でもいじる。今井はそれがつらくても、菅原が好きでつきあい続けている。他に彼氏はいるのかもしれない、でもそれとは別なんだよね。里美もいるし、望みはほぼないってわかっていても、ワンチャンあるかもって希望が捨てきれないんだよね。だからサウナも、本当は興味なくてもつきあっちゃうんだろうし、それはまさしく裸のつきあいなわけでさ…
 それは里美は嫌だよね、わかるよ。でも今井を呼び出してなじるのは駄目だって、それは男ではなく浮気相手の女を呼び出してなじる女仕草すぎるでしょう。本当は菅原に言わなくちゃいけないことだし、なんなら結婚しようって自分から言わなきゃ駄目なんだよ。でも今井に当たってしまう里美、くうぅ…
 そして菅原も、そんなふうにしてずっとそばに置いていた今井に、いざ迫られたらビビるのか、それとも嫌悪感を抱いてしまったのか、突き飛ばしてしまう…どうなんでしょうね、今井は菅原に抱かれたかったのかなと私は思っていたけれど、菅原も抱いてやってもいいくらいに思っていたのかもしれないけれど、逆は嫌だったということなんですかね…それで今井は菅原に謝る。くうぅ…
 でもオチは、実家に帰っていた里美がいろいろ考えて戻ってくることにしたのはいいにしても、妊娠したから、とかだけは止めてよね…と念じながら私は観ていました。そういうイージーなの、ホント要らないから。でも逆で、里美が帰ってきてくれたことが嬉しくて仕方ない菅原が、思いついたようにプロポーズしちゃうオチでした。でもこれもすごく安易なんだよね、でもシスヘテロ男子の結婚観なんてホントこんなもんじゃん。このリアルさよ…! そして里美は、ずっと待っていた言葉だろうけど、意外にも喜ばない。そういうことじゃないんだよなあ、とわかっちゃったんですよね。だから返事はしない、でも一緒の家に帰る。膝カックンして菅原を笑わせて、暗転。イチャついている微笑ましいシーンのようでもあるし、女が好きな男にできる抗議の暴力ってせいぜいこの程度なんだよね、ということでもあるな、とも思いました。声を荒らげるとか、クッション投げつけるなんてのより、ずっとマシです。それが愛で、尊厳で、人間でしょう。菅原が学んでくれることを祈ります…!
 香も勇も、才能はありそうだし、きっと違う形でも仕事はしていきそうですよね。生きてさえいれば、なんとでもなるのです。まあレベチはかわいそうだったかな(笑)。しかしこういうところもホント上手かったです。あとワイドショーやコメンテーターのしょうもなさとかね…! 智子のスナックの女の子ふたりも、上手い。ホント細かくて上手い、唸らされました。
 三浦大輔は「映像向きの題材を演劇で扱うことに関しても、これが最大級のもの」「次回作は一周回って素舞台で、ワンシチュエーションものの演劇性の強い作品をつくるかもしれません」とも語っていて、なかなかにこの先が楽しみです。機会あればぜひ観てみたい! 映像も地上波か、せめてBSに下りてくれれば見るんだけれど…
 GWの大阪公演まで、どうぞどんどん盛り上がりますように。無事の完走をお祈りしています。











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