駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『RED&BEAR』

2020年01月26日 | 観劇記/タイトルや・ら・わ行
 サンシャイン劇場、2020年1月25日18時。

 香港から日本へ向けて出航した豪華客船「クィーンサンシャイン号」。そこでは人気絶頂のアイドルグループ「Here Come The Sun」のプロモーション・クルーズが行われるため、大勢のファンやパーサー、マネージャーなど関係者が乗船していた。しかし開催直前に脅迫状が届き、不穏に思ったマネージャーは無事に本番を迎えるため、ひとりの探偵に捜査を依頼した。探偵の名はRED(七海ひろき)。REDは偶然その船に乗り合わせた刑事・熊田(西岡徳馬)と共に事件を追うが…
 原作/林誠人、脚本/天真みちる、演出/中島康介、音楽/遠藤浩二、振付/YOSHIKO。13年前に上演された『ケータイ刑事銭形海~演劇者殺人事件』という戯曲を、刑事を探偵に、演劇者をミュージシャンに、劇場を豪華客船に設定を変えてミュージカル化。全一幕。

 宝塚歌劇団卒業後、声優やアーティストとして活動してきたかいちゃんの初舞台と、同じくライブの構成や朗読劇の台本なんかを手がけていたたそのミュージカル脚本デビューが観たくて、出かけてきました。
 たその脚本については、そもそも原作になった戯曲があるということなので、今回は評価は保留かな。プログラムによれば歌詞にもこだわっていたようですが、残念ながらそんな繊細に味わうような音響や歌唱ではなかったですし…でも、今後ますます活躍していってほしいなと思います。かいちゃん同様、才能と才覚とスキルとやる気があれば、OGのみんながみんな東宝や帝劇のミュージカル女優として成功するわけでなし、はたまた単なる謎のインスタグラマーになってしまうんでない道が何かもっとあるはずなんだと思うので、開拓していっていただきたいですし何より元気で幸せでいてほしい、そしてエンタメ業界にいてくださるというのならお客として投資も応援もしたいと思うのでした。
 作品自体は、まあハコにふさわしいと言いますか、ザッツ・2.5次元の香りがしましたよね…バンドのメンバーは『ハイキュー!!』など2.5次元ミュージカル経験者のようで、他の出演者も声優、歌手といったキャリアの方々でしたし。座組がBSとキングレコードと明治座というのがなかなか新鮮だったかと思いますが、これで興行的にも成功するなら今後もこういう形は広がっていき定着していくのでしょうか。でも良きことですね。
 個人的には、連続殺人事件をエンタメにするならその時点でリアリティは放棄するしかないので、クライマックスに犯人の動機を巡る泣かせ芝居を持ってくるのはつらいだろうとは指摘したいです。そういう世界観、価値観の物語じゃないはずじゃん、と感動したり共感して泣くというより単にシラけちゃうと思うんですよね…もっと全体にポップに作るしかなかったはずだと思うのです。
 その上でバンドメンバーにはもうちょっと個性が欲しかったですし、その他のキャラクターたちにももう少しドラマを与えて、全部で2時間になるようにしてもよかったんじゃないのかなーと思います。今、容疑者候補として目くらましのためだけにいるような感じでもったいないし、バンドのメンバーもちょっと芝居のしようがないように見えました。2.5次元ミュージカルなら原作準拠のキャラクターにどれだけ見えるか、なりきれるかだけ工夫すればいいんでしょうが、今回は彼らにあてて書かれたオリジナルのキャラクターなので、もう少し、たとえば優等生のリーダータイプとか喧嘩っ早くて情熱的なタイプとかナイーブで神経質な芸術家タイプ…とか脚本が書き込んであげればやりやすかったろうし、彼らもそういう演技がしやすかったんじゃないのかなあ。そういうのがないままに、中途半端にアイドルめいた若手俳優に中途半端にアイドルグループの役をやらせるのは、彼らのファンだけが観るならいいかもしれないでしょうけれど普通の舞台ってそうじゃないから、つらいでしょ? みんな長身でスタイル良くてそれぞれイケメンで(私は男性に関してはまったく面食いでないので、キャラが弱いため上手く識別できませんでしたが…)、これから舞台俳優としてなんとでも花開いていけそうに見えただけに、そのあたりは残念でした。
 そしてこのお話の中で最もファンタジーなのは、性別年齢不詳の探偵、というつっこみどころしかない設定の主人公なわけですが、かいちゃんはそれをちゃんと的確な演技でやって見せていたんだと思うんですよね。ミステリアスでひょうひょうとしていてどこか浮き世離れしたキャラクターをちゃんと造形しているのです。そこに彼女の男役芸が必要だったのだ、と言ってもいい。なのに作品自体の芝居が残念ながら全体に雑な作りのために、もしかして観る人によってはこのクールでスカした(褒めてます)演技がただの棒に見えるんだろうか、と一周回ってそこまで私は勝手に心配しながら観劇することになってしまいました…うーむ、もったいないし難しいものだなあ…
 でも、おもしろいことをやろうとしているし、小劇場チックな演出や笑いもよかったし映像の使い方も客席の使い方もよかったし、バンドのライブのアンコールとしてのフィナーレ、というアイディアも素敵でした。楽しかったです。そして何よりかいちゃんが素敵でした。
 宝塚歌劇の舞台メイクでないお化粧の、けれど素化粧ともまた違うお化粧で、男装で、舞台の上で役を演じて生きているタカラジェンヌOG男役を見ることはそうそうないので、そういう意味でも新鮮でしたし(昔々、退団後のヤンさんのハムレットとか観たかな…あとターコさんとかも…)、でも活躍の仕方としてアリだろうしなかったなら広げていけばいいことで、別にまだ男役をやっちゃって…みたいには思わなかったなあ。それはでも、女優さん相手にラブを演じていたわけではなかったからかもしれません。私はかいちゃんのお芝居が好きだったから、女優として女性キャラクターを演じるかいちゃんも今後観てみたいものですが、ファンの想いはまた違うのかもしれないし、何より本人が望むことを上手くお仕事にしていければそれでいいんだと思うので、何かを強要する気はさらさらありません。がんばっていっていただきたいです。
 そしてたそのますますのご活躍にも期待しています。cakesの連載の文才は素晴らしいし、エッセイストなんかもできるのかもしれません。でも脚本家、演出家として舞台のお仕事を続けていってくれるんだったら嬉しいなー。それもまたOGの地平を広げることですよね。がんばってください!

 …ところでバンド名は「~comes」ではないのだろうか…
 あとネタバレですがマネージャーが共犯者だったなら彼女が探偵に依頼したというのはおかしいのでは…






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『RUMOR』

2020年01月18日 | 観劇記/タイトルや・ら・わ行
 赤坂RED//THEATER、2020年1月17日19時。

 1960年フランス、オルレアンのブティックには、試着室から人が消えるという「都市伝説」「噂」があった…
 構成・演出/荻田浩一、作曲・音楽監督/奥村健介。小劇場で少人数によるコッテリしたひねくれた「Tabloid Revue」。全一幕。

 演目の発表が流れてきたとき、出演者の顔ぶれのせいもあって惹かれたのですが内容が今ひとつどころかふたつもみっつもつかめず手を束ねていたところ、以前シャンソニエでのライブなんかに行ったことがあるグンちゃんのところからチケットのご案内をいただけたので、出かけてきました。
 ミホコがブティックのオーナーで、としちゃんがそのお客で、試着室に入り、いなくなり…そこからいろいろと始まる夢と現の狭間のあれこれを歌とダンスで魅せる、というコンセプトのレビューです。
 ミホコがいいと聞いていたのですが、私は宝塚歌劇団卒業後は初めて見るとしちゃんがとても鮮やかに艶やかに見えて、楽しかったです。男性陣もみんな芸達者でした。
 ただ、100分は長いなと感じました。散漫に感じたというか…AKASAKA歌合戦があってもなんでもいいんだけど、ゲストふたりがいるとはいえやはりメイン5人でやれることのバリエーションには限界があると思います。退屈しないこともない…といううちに舞台が再びブティックに戻って、ああもう終わると安心したら意外とそこからも長くて、しかもそれがまたけっこうおもしろかったので、ならば中をつまんでせめて80分くらいにまとめるとよかったんじゃないかしらん…と思いました。でも私は現役時代も特にオギー信者ではなかったので(当時は何故か、演出家としての個性をあまり明確に感じていなかったのです…少なくとも意識した記憶がまるでない)、そのあたりの感覚の違いはあるのかもしれません。好きな人は絶賛するでしょうし、こういう作品って他にあまりない気がするので、いいんじゃないでしょうか。としちゃんのセーラー服は、私は世代なのでウケましたけれどね…でもなんだったんでしょうね(笑)。
 グンちゃんも素敵だったけれど、ライブなんかにも行っておきながらアレですが別に歌の人じゃなかったのにな…と今回も思いました(^^;)。でも素敵だったのでいいのです、満足です。
 この回はもうひとりのゲストは三井聡さん、もちろん素敵でした。

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宝塚歌劇花組『DANCE OLYMPIA』

2020年01月18日 | 観劇記/タイトルた行
 東京国際フォーラム、2020年1月8日18時、14日18時。

 第1幕ではギリシア神話の英雄・アキレウスが現代のニューヨークへタイムスリップしたことから起こる騒動をコミカルに、第2幕は世界の多彩なパフォーマンスがダイナミックかつ華やかに繰り広げられるダンスコンサート。
 作・演出/稲葉太地、作曲・編曲/太田健、高橋恵、長谷川雅大。花組新トップスター柚香光のプレお披露目公演。

 初日タイムラインから「とにかく踊りまくり」みたいな情報を得ていたのですが、本当にダンス!ダンス!!ダンス!!!なダンス・コンサートでした。コンサートというと歌がメイン、というイメージですが、完全にそのダンス版。本公演のショーはもうちょっと作品としての体裁、枠組みたいなものがあることが多いと思うのですが、今回はそれがなくて、とにかくダンスを詰め込みました並べました見たいやらせたい踊りみんな入れました!みたいなコンセプトに感じられて、潔くて良いです。まあもうちょっと歌手もいてもいいやろ、とは思いましたが…せめてカゲソロの下級生たちは舞台に出してもよかったんじゃないかしらん?
 もちろんオリンポスとか2020年とかの枠は一応ありますし、ちゃんとひとつの場面になっている部分もあるんだけれど、とにかく綺麗すぎていないというか、整えすぎていない印象を受けました。それも、あえてそうしていたんだと思うんですよね。そしてそこがいい。いいプレお披露目公演だし、別箱だからこそできるおもしろいチャレンジかなと思いました。どなたかの感想ツイートに「すれっからしのファンでも感動する」みたいな言葉がありましたが、私がまさしくそれでした。
 第1幕はお芝居仕立て。れいちゃんアキレウスがタイムスリップして、親友パトロクロスとそっくりのマイティーやその仲間のひとこ、ほのちゃんと出会って、オーディションやダンス対決…と、まあわりとよくあるストーリーではありますが、ダンスがちゃんと目新しくてよかったです。私はくわしくないのですが、おそらく日本のアイドルとも韓流アイドルともまた違う現代的な(という形容詞がそもそも自身の反現代化、老化を示していることには気づいています)ヒップホップふうダンスを、れいちゃんが素敵にバリバリ踊ってみせてくれて、見惚れました。
 こういうダンスは宝塚歌劇の本公演のショーやレビューだとどうしても、若手スター8人口とかにごく短い一場面でちょっと踊らせて終わり、みたいになりがちですけれど、本当はもっと深いし濃いしバリエーションもいろいろあるし見せ方も文法ももっと違うダンスなはずなんですよね。そのあたりにチャレンジしている姿勢が新鮮で、よかったのです。宝塚歌劇の場合は、究極的にはダンスとしていい、上手いとかよりスターとしてカッコよく見せられる、ということの方が求められるんでしょうし、それでいいしそうあるべきなんだと思うんだけれど、それとは別にこういう機会に、高いレベルのいろいろなダンスを純粋に追求してみる、習得を目指してみることって大事だと思うし、それをトップスターができちゃいそうならそらやらせてみたいし、みんなも引っ張られてがんばるしいいことだよね、というのをまざまざと見せつけられた気がしました。
 その一方で、わりとありがちではあるブロードウェイのショー・ステージだの夜の公園のデュエットダンスだのにはこれまでのミュージカルの、そして宝塚歌劇の、花組のダンス場面のオマージュなんかも垣間見えて、そういう伝統継承とリスペクト、さらなる追求とブラッシュアップも大事!と感心しました。そういうバランスがとてもよかったです。
 しかしこの第1幕が前座に思えるくらいに、第2幕は圧巻のダンスダンスダンス祭りだったのでした…! もちろん単純に上演時間が長い、というのもあるのですが。
 幕開きは和太鼓、法被の下の黒はソーランのときのものかしらん? リズムで滾って、客席下りとタオルを使っての客席参加もあって、私はタオルは買いませんでしたがクラップ参加だけでも難しかったし楽しかったし、盛り上がりました。
 その後のれいちゃんのソロ歌客席下りタイムは、まあこれからはトップスターってこういう座持ちもさせられるし選曲にもよるけどもう少し聴かせられるようになるといいんだろうから、発奮してください…悪くはなかったかと思いました(^^;)。
 次がひとこサロメとほのかヨカナーンの場面かな? こりのちゃんが語り部。がっつり男顔したひとこが長いウェーブの髪振り乱してバリバリ踊るのも最高、パンツの隙間からチラチラ脚見せるのも最高、とまどい怯え抗うほのちゃんを追い詰めるの最高! 断首はどうするんだろうと思っていましたが、ちゃんとひとこの長く美しい腕がほのちゃんの首をかっ切って見えました。拍手の入れようがない終わり方もいい。ナギショーのヘロデ王に出てきてもらって「あの女の首を斬れ!」と言ってもらいたいくらいでした(作品が違います)。
 そしてシャンゴ、これもおもしろいダンス、場面でした。ちゃぴのときのお衣装のアンサンブルもいい! 神話によれば華ちゃんとマイティーはともにれいちゃんのお妃さまなのかな? でもふたりが王の寵愛を争っているというよりは、それぞれ違う力を王に授けようと競っているようで、華ちゃんとマイティーはちゃんと違うところで勝負しているようでよかったです。てかデコルテも背中も腕もマジで凜々しいというか雄々しいなマイティー!(褒めてます)
 なみけーの「クンバンチェロ」からのラテンもノリノリでみんな熱く素晴らしく、そこからの下級生男役娘役各8人がかわるがわるバンバン出てきてアピールしまくる「Explosion」もとても良くてテンション上がりました。
 なのに一転してのフラメンコ場面、れいちゃんの鬼気迫る美しさ激しさよ…! みんなが加わってからの構成も素敵でしたし、場面終わりのひとこソロもとてもよかったです。
 花組メドレーは、大好きな「ビューティフルラブ」をひとこで聞けて嬉しかったのと、れいちゃんがナツメさんの「Dance with Me」を歌ってくれたことが嬉しかったです。「心の翼」があるのは聞いていたんですけれどね。久々にダンスの花組が復活しますよね…!
 主題歌からのラインナップもよかったです。みんな弾けてました!

 れいちゃん、改めてトップスター就任おめでとうございます。なんかのショーでなんかの抜擢を、ってのはスカステ「はじまりの時」を見ていて思い出しましたがルパラのフィーでしたね。ダンスはもちろん芝居がいいスターだと思うので、大劇場二作目は文芸路線のお芝居よ来い!と願っています。
 華ちゃんは私は顔が苦手なんだけれど(すみません…)、今回も歌もダンスもがんばっていたと思いますし、これからどんどん磨かれると思うので期待しています。ブリーゼ、よかったよね。強い女も似合いそうで楽しみです。
 れいちゃんの相手役はむしろマイティーだったかな、みたいな八面六臂の大活躍でしたねマイティー。これまたこれからさらに期待しています。
 組替えしてきたひとこの華や佇まいがこれから組と本人にどう作用していくか、これまた楽しみです。
 ほのちゃんも新体制下でよりのびのび育っていろいろ吸収できるといいなあ。
 そして気がつけばキョンちゃんとさなぎがすごく良く目立っていてさすがの上級生で、頼もしかったです。さらになみけーの上手さもやはり貴重だと思いました。戦力になっていきますね。
 娘役ちゃんはもっと個別に顔を覚えたかったなあ、かがりりやなっち、うららちゃんくらいはもちろんわかるんだけれど、ちゃぴ似の星空美咲ちゃんもあーちゃん妹の美里玲菜ちゃんももっとゆっくり見たかった。都姫ここちゃんも識別できるようになりました。他になんかいつも目が笑っている可愛い子がいたんだけれど、誰だろう…
 あ、あとはらいとばっか見てました可愛いよ愛しいよいつも一生懸命で全力投球で好きだよ清々しいよ晴れ晴れするよ!!!
 あとは何度でも言いますがさっさとはなこに新公主演させてくださいね劇団…!

 体力勝負だろうし、全員怪我なく完走することを祈っています。『はいからさん』再演にはあまりテンションが上がらないんだけれど、いつかナツメさんのショーの再演をするとかはおもしろいんじゃないかしらん。これからも期待しています!




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宝塚歌劇花組『マスカレード・ホテル』

2020年01月13日 | 観劇記/タイトルま行

 シアター・ドラマシティ、2020年1月11日16時。

 都内で起きた不可解な連続殺人事件。残された暗号から、警察は次の犯行現場をホテル・コルテシア東京だと推測し、大胆な潜入捜査を断行する。フロントクラークに扮するよう命じられたのは、警視庁捜査一課の刑事・新田浩介(瀬戸かずや)。彼の指導を任された山岸尚美(朝月希和)は、風貌も言動もおよそホテルマンにはふさわしくない新田に眉をひそめる。刑事として、「客」という「仮面」をつけてホテルに来る人々の正体を暴こうとする新田と、ホテルマンとしての誇りを持ち、その仮面を守ろうとする山岸。立場も性格も異なるふたりは衝突を繰り返すが…
 原作/東野圭吾、脚本・演出/谷正純、音楽監督・作曲・編曲/吉﨑憲治、作曲・編曲/植田浩德。シリーズ累計発行部数3360万部を越えるベストセラー小説で、2019年には映画化もされた傑作ミステリーの舞台化。全2幕。

 2020年遠征始め、楽しく敢行して参りました。関西のお友達と新年会もして、梅田の定宿はツインにアップグレードしてくれて、宝塚牛乳のざらめヨーグルトもルマンのサンドイッチも食べられて、だいぶできてきた新しい宝塚ホテルも眺められて、雪組大劇場公演も友会で当てたSS席でバッチリ堪能してきて、大満足でした。ドラマシティでも大劇場でも何人ものお友達にバッタリし、新年のご挨拶ができたのもよかったです。贔屓が卒業しても私はヅカオタを辞めません! てか祝・インスタ開始!!(笑)

 というわけで『マスカレード・ホテル』、昨年秋に原作の文庫を読み、お正月にテレビ放送があった映画版も観て臨みました。
 小説も映画も、意外と地味だな、という印象を受けたので、どう舞台化するのか興味津々でしたが…悪くなかったと思いました。物語の舞台がほぼホテルの中、フロントか客室か、たまに捜査本部や総支配人室…みたいな構成なのは、舞台劇にはかえって向いていたのかもしれませんね。ホテルの制服のお衣装は、あきらとひらめがお稽古場で着ていた、先日大阪のどこかで開業したなんちゃらいうホテルのものの方がシックで素敵でしたが、あのままでは舞台では地味だったんだろうな…
 アンサンブルのダンスナンバーみたいなものは上手く考えられていて、作品を上手くショーアップしていましたが、主役の新田さんや山岸さんの歌はややトートツで、「ここで歌うの!? なんの歌!?」と当惑することが多く、もう少し工夫していただきたかったです。かりにもミュージカルの歌は歌うキャラクターの心情とリンクしていて、彼らの感情が盛り上がったところで歌わせるべきだと思うんですけれど、場つなぎや場面転換のためかはたまた「そろそろこのあたりで入れておくべき?」みたいな演出都合みたいな、脈絡のなさが残念だったのです。
 また、私は原作も映画も予習していたので「アレをどう舞台化するのだろう」という興味で観られましたが、普通の宝塚ファンは花組を、あきらやひらめを好きだから舞台を観に来るのであって、ミステリーには興味がないしまして作中の殺人事件の真相とか真犯人とかどうでもいい、という人が実はほとんどだと思うんですよね。連続殺人事件の捜査の過程をホワイトボードで説明するアナログさが話題(笑)でしたが、説明台詞を担当させられていた生徒さんたちはみんなしっかり応えていましたがだからって観客にすべてが伝わるものでもないし、たいていの観客はここは耳と脳を休めてしまうと思います。説明は素通りしてしまう。だって犯人が誰かとか興味ないもん、観客は刑事じゃないからさ。観客は観客なので、物語はどうせ事件が解決して終わるってのは予想がつくわけですし。なんならヘタしたら配役で予想がつくわけで、だからそこではドキドキなんかしないのです。
 だからもっと、キャラクターのドラマを作ってドキドキさせなきゃいけなかったんだと思います。ぶっちゃけて言うと新田さんと山岸さんにもっとラブを!ってことです。原作は、新田さんがやたら山岸さんを勝手に値踏みするような「何様だよこの男」みたいな描写が多いのですが(男性作家だからか? ちょっと前の作品だから、とか主人公像のキャラクターとして、とかを考慮してもいいけれど、それでもどうかと思うし品性に欠けるぞ東野圭吾…!)、別にふたりは惹かれ合いも恋に落ちもしないままに終わるんですよね。異性同士だけどラブ抜きの、立場も性格も違うバディもの…みたいなものを書きたかったのかなあ? 続編を読んでいないので、その後どう展開したか私は知らないのですが。そしてキムタクと長澤まさみの映画版も、特にラブの気配はありませんでした。
 でも宝塚歌劇でやる以上、もっともっとラブくするべきなんだと思うんですよ。だってあんなオチに改変してるじゃないですか、スモークまで炊いてチューまでしちゃってるじゃないですか。じゃあそこまでの過程が必要でしょう!
 それが全然ないのに、「あなたの香りが」とか言われても、ヘタしたら「キモっ!」ってなるとこですよ!? てか私はあそこでひらめ山岸さんが急にどぎまぎときめく芝居をしたとき「マジで!?」って失笑しちゃいましたもん。変ですよ、唐突すぎますよ、事前にもっと、惹かれ合い反発し合い…ってのを演出として仕込んでおかなきゃダメですよ。でなきゃ殺人事件にそもそも興味なんかない観客の興味を引っ張れません。それができてたら、あのラストはついにラブラブハッピーエンド!ってんで、もっともっと盛り上がったのに…
 そもそも、そういう恋愛的な惹かれ合いと、だけど職務や人間観、仕事観、人生観みたいなものの違いによる反発…というものがあって初めて、山岸さんが何かあったらこのホテルを辞めるしホテルで働くことごと辞めると言い、受けて新田さんが刑事を、警察官を辞めると応えるあのエピソードに重さが、意味が出るんだと思うんですよね。恋に落ちかけている、異性として気になる、好き、でも仕事としては考え方が違う、そこは譲れない…ってジレンマになるのがドラマとしておもしろいわけで、今のままだと仕事が違うんだから対立するのは当然ですね、それぞれ同等の覚悟をするってだけのことですね、みたいになりかねない。それだとインパクト半減でもったいないと思うんです。くっついてほしいのに、くっつくべきなのに、恋愛とは別に、守りたいもの、譲れないものがあるふたりなのだ…とした方がより盛り上がるはずなんです。そういうドラマにしていただきたかったです。あんな、とってつけたよーなオチだけのラブをただつっこんでもダメなんです。歌の入れ方以上に雑!
 別に男と女がいたら恋が生まれるはずだとか言っているわけではありません。でも宝塚歌劇ではソレをやらなくてどーする、と私は言いたいのです。現実にはろくな男がいず、幸せな恋愛は生まれにくい。だからせめて宝塚歌劇ではあらまほしき男性像、女性像を提示しその人間同士としての理解、幸せな恋愛を描いてほしいのです。私はそこに夢ではなくて理想を見ているタイプなんですね。多様化の認識が広がりみんながいろいろな形で自由に幸せになれるのはもちろんいいことですが、その上で、単に数として多数派である異性愛の理想のイメージを、宝塚歌劇でくらいやってみせなきゃ、なんかホントある種のよりどころがなくなっちゃうようで私は怖いのです。自由ってなんでもありってことだけど、突き詰めるとそれは何もない、みたいになっちゃうんじゃないかと思うからです。男女が恋に落ち成就し結婚し子供が生まれ…みたいなベタな流れの素晴らしさをフィクションがきちんと表現し、それが現実にもきちんと立脚して初めて、それ以外のいろんなパターンの幸せも成立していくんじゃないのかなあ…今、大本命がグラグラだから少子化が爆進行して人類が滅びそうなわけじゃないですか。まあ究極的には人類が滅ぶことなんて想定内なんですけどね。…まあいいや、ちょっと話が逸れました。私のSF人類史観はまた別の機会に。
 とにかくこの作品でのラブの雑な扱いは本当に残念でした。むしろ完全にラブ抜きでやるなら、逆に現代的な、新しいバディものとして評価できたかもしれません。

 ただ、私自身は先述したように原作も映画も予習していったため、どう舞台化するかという興味で集中して観られたため、かなりおもしろく観てしまいました。生徒がみんな大健闘していたというのももちろんあります。
 いやぁ、昨年後半のパソカレからタカスペポスター発表とかで「え? まさか新生花組の2番手ってあきらなの?? 今さら???」って申し訳ないけど思ってしまった私でしたしそういう印象を持った方も多かったろうと思うのですが、どうしてどうしてさすがのカッコ良さ、主役力、真ん中力で圧巻でした。プロローグとか2幕冒頭とか、確固たる男役芸がないとああカッコ良くは絶対できません。
 下級生時代はPちゃんとかだいもんとかの方が器用に見えて起用が早く、上げてもらっていたまぁ様はあっぷあっぷしていたけれど花組若手男役スターは他にも粒揃いでたくさんいて、そんな中なんのショーでしたっけ、れいちゃんにピエロみたいな通し役がパッとついて、ああ花組ってこういう顔のスター好きだよね、踊れるんだろうな、未来の「ダンスの花組」を背負わせるべく押していく気なんだろうな…ってすぐわかったりしたものでしたが、そんな疾風怒濤の時期でも『サブリナ』新公主演をなんとか滑り込みでやって、でもやっぱりその後も何故かふわっとした立ち位置のままで、逆に近年はちなつとシンメで別格ポジションで、でもこうしていざ真ん中やらせたら腐っても上級生というか(言い方)、スタイルいいしタッパもあるし肩幅もあるし声も低くて男らしさ抜群、渋くてカッコ良くてスマートで素敵なワケですよ。ダンスもキマるし、歌も問題ない。今まで培ってきたスキルが開花した感じでした。『アインシュタイン』とのきにはそこまで強い印象を私は受けなかった記憶なので、本人的にもやはりスイッチがひとつ入ったのかなあ?
 この男臭さはフェアリータイプの下級生スターにはもちろんないもので、ライトだったりさわやかなスターが多くなってきた今の時代に、かなり貴重ですしやはり受け継がれていくべきものだと思います。以前のあきらは、これだけのスペックを持ちながら今ひとつ垢抜けないというかもさっとした印象で、何が上手いわけでもない不思議なスターさんだなあ、でもこういうスターさんっているよなあとか私は勝手に断じていたのですが、不明を恥じました。カッコ良かったよ、カッコ良くなったよあきら! そして新田さん像としてもとても的確な演技ですごくよかったと思いました。
 そして中堅娘役がごそっといなくなってしまった花組に帰ってきてくれたひらめがまた、いい山岸さんでした。ホテルマンとして新田さんをてきぱき指導するだけの台詞や場面が多く、単なるデキるビジネスウーマンになってしまいそうなところを、ちゃんととまどいや悩み、揺らぎもある、けれど懸命にがんばるひたむきな女性像を浮かび上がらせていてさすがでした。ラストのドレスアップの案配もいいし、フィナーレのデュエットダンスはさすがの艶やかさたおやかさ可愛らしさ美しさでした。劇中の歌はなんかもっといいのを歌わせてあげたかったなー、でも今後の本公演でも活躍の場はあるのではないかしらん。期待しています!
 『ダンオリ』を観たときに、宝塚歌劇にはそこまで必要ないのではというくらいにダンス力を向上させようとしているな、と思ったものでしたが、こちらも宝塚歌劇にはそこまで必要ないだろうというくらいみんながおじさん芸を向上させていたのも印象的でした(笑)。さおたさんが上手いのなんかわかってるんだけど、ホント卑屈でしょぼくれた栗原さんをすごく上手く演じていましたし、最近は歌手起用が多い和海しょうもホントこういう刑事さんいそう、公務員さんいそうって感じのいい感じに暑苦しい強面の稲垣さんで、もっと線が細い印象があっただけに意外でした。上手かったなあ。びっくが上手いのはもう当然ですよね。まひろんはあいかわらずなので、こういうところで何かもうひとつアピールできるといいんだけどなあ…
 あ、あとはこれまたなんでも上手いのはみんな知ってるつかさっちの、また絶品の上手さね! 能勢の設定の改変は大正解でした。
 そして毎度毎度の音くり劇場ですよ…! 本当に上手いよね場をさらうよね!! ただこれは原作がそうだから仕方ないんだけれど、流産した女性の逆恨み、というネタは女性観客が多い宝塚歌劇でやるにはちょっと微妙だったかもしれません。すごくデリケートな問題ですからね。あと、ここの伏線となる、宿泊者の情報を外に漏らしてはいけない、みたいなエピソードがカットされていたのは物語としてちょっと良くなかったかと思いました。
 あとは、私は最近ゆきだいやくんの顔にときめいているのですが(笑)、何役もやっていて観ていて楽しかったのと、フィナーレとっぱしでセンターにいるつかさっちの真後ろの位置をもらっていて、私の席もほぼどセンターだったため、もう目が離せなくてときめきまくりでタイヘンでした。
 そう、フィナーレがけっこうがっつりあって、かつ本編とほとんど無関係に超王道でクラシカルで素敵で、それもザッツ・花組!感があってよかったです。

 『ダンオリ』組と合流しての本公演、まあ演目が『はいからさん』なのが残念は残念なんですけれど、上手く大劇場版にバージョンアップしていることを期待して、楽しみに待ちたいと思います。トップの代替わりもしたし上級生もけっこう抜けちゃったなと思いきや、やはりそこはみんな埋めてきて新たな輝きを見せてくれると思うんですよね。そして2作目に何をやるかが、今から本当に楽しみです。頼みますよ劇団!




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