駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『アルカディア』

2016年04月29日 | 観劇記/タイトルあ行
 シアターコクーン、2016年4月26日マチネ。

 19世紀初頭、英国の豪奢な貴族の屋敷シドリー・パークの令嬢トマシナ・カヴァリー(趣里)は13歳10か月。家庭教師セプティマス・ホッジ(井上芳雄)に付いて勉強中の彼女は早熟で、天才的な頭脳と旺盛な好奇心を持ち、耳慣れない言葉を聞いてはセプティマスを質問攻めにしている。一方200年後の現代、同じくカヴァリー家の屋敷で、ハンナ・ジャーヴィス(寺島しのぶ)は庭園の歴史を調べていた。そこにバイロン研究家のバーナード・ナイチンゲール(堤真一)なる男が現われる…
 作/トム・ストッパード、翻訳/小田島恒志、演出/栗山民也。1993年ロンドン初演、2009年リバイバル上演、2011年ブロードウェイ上演。全2幕。

 貴族の屋敷を舞台に19世紀と現代が行き来し、やがて交錯する構造の作品で、作家がカオス理論に魅せられて書いたものだそうです。作家は思想劇と笑劇をカップリングしたい、とも語っているそうです。
 好評のようで、縁あって出かけてきましたが、私は残念ながらピンときませんでした。もしかして絶賛しているみなさまとは違うものを観てきたのかしら…なのでこの作品にすごく感動した、という方には以下読んでいただかない方がいいのかもしれません。くさすつもりはないのだけれど、まったく的外れな感想なのかもしれなくて恥ずかしいので。
 やっていることがわからないとか言いたいことがわからない、ということはない、つもりなのですが…おもしろく思えなかったというか、そういうことを描いた作品なら例えば他にもっといい作品を知ってるけれどな私、と思ってしまった、というか…うーん。
 私はプログラムを必ず買いますし、開演前にざっと目を通しますが、いわゆるあらすじとかストーリーのページはネタバレが嫌で読みません。そして観劇後にゆっくり読んで、「え? そうだったの?」とか「え? あの舞台をこんなふうな言葉でまとめちゃうの?」と思うことがままあります…今回もそうでした。
 このブログの記事の冒頭のあらすじはたいていそのプログラムから書き写していますが、今回はちょっと編集しました。最初の一文から「えええ? そう始めちゃうんだ???」というものだったので…そういう点も含めて、私はもしかしたらこの作品を大きく見誤っているのかもしれません。
 私は大学で物理学を専攻しましたが、今は物理とはまったく関係のない仕事をしていますし、大学での勉強なんか全部忘れました。大学受験までしか勉強しなかったしなー。なんか難解な台詞が多い知的な作品だとも聞いていて、わかるのかいなプライドが傷つくかなーとかビクビクして出かけましたが、でも別にたいしたことは出てこなくて拍子抜けしました。義務教育とは言わないまでも、高校で勉強した程度のことじゃん、という気がしました。庭園デザインに関しても、幾何学的なのが流行ったり野生を模すのが流行ったりいろいろしたんだよね、程度の知識は、海外の映画を観たり小説を読んだりしていれば教養というほどのことはなくとも蓄えられると思うし、なんかいろいろ肩透かしだったんですよね…うーん。

 この作品は、ひとつには、200年前の事実が、記録や日記などが残っていたとしても現代に正確に伝わるとは限らないし、埋もれて忘れられてしまったり誤解されて伝わったり誤って解釈されたりすることがある…というそのせつなさやおかしみを描きたかったのでしょうか? でも私にはなんとなく、そういうことってままあるし、わりとあたりまえなんじゃないかな…としか思えなかったのですね。
 あるいは、数学の証明とか科学の発見とかも、今最初に成し遂げたとされている人より以前に成し遂げていた人がいて、でもそれが女性だったり若かったり無名だったりして認められることなく歴史に埋もれることがある…というせつなさ、悲しさを描きたかったのでしょうか。でもこれまた私はそらそういうこともあるやろ、としか思えなかったのです。何をあたりまえのことを、という…
 あるいは、熱は高い方から低い方に移るのみでその逆はなくて、宇宙はビッグバンからこっちどんどん消滅に向かっていっているんだけれど、それがわかっている天才少女でも恋をする、死に向かっていてなお人は恋するのだ、というようなことを描きたかったのでしょうか。でもそれもとてもあたりまえでことさらなことには思えなかった…
 またなあ、ワルツがなあ…別に正確なフィガーを踏まなくてもいいんだけれど、アレ全然ワルツじゃなかったじゃん。人が恋をして音楽に乗って踊る、ってああいうことじゃないんじゃないの?と私は思ってしまったのでした。
 死に至る宇宙と人間の色恋、あるいは時のあわいの愛、みたいなものは、例えば少女漫画SFでもっと傑作があってそこですでに十分に描かれていて、それを超えるものはなかなかないのではなかろうか、みたいな、私の狭い了見が邪魔をしたのかもしれませんが…例えば萩尾望都の『スター・レッド』、『マージナル』、『銀の三角』とかとか、ね。

 あと、登場人物が板の上で何かをしたまま暗転になっておしまい、というのはよくあると思うのですが、そのあとカーテンコールとかラインナップで舞台が再び明るくなるときに、私は暗いうちに役者は一度袖にハケていてもらいたい派なのですね。そこで役から降りて、役者に戻って、舞台に再度出てきてお辞儀とかしてもらいたいワケ。
 でもわりと、暗転から明るくなると役者はそのまま舞台に板付いていて、そこからふっと役を降りて見せて、笑顔になって正面に向き直って並んでお辞儀…とかが多いですよね。今回もソレでした。私はこれが苦手なんだよなあ、役者が役でなくなる瞬間を見たくないんだよなあ…でもこの瞬間を見せたいがためのこういう演出なんでしょうね。感覚的にサッパリわからん…

 というワケで、クラシカルなお衣装の芳雄くんを堪能し、神野三鈴のよくわからない色気にアテられて、浦井くんのパワーに感心しただけで終わった気がしました…こんなんですみません。ま、たまにはそういうこともありますよね…






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『グランドホテル』

2016年04月24日 | 観劇記/タイトルか行
 赤坂ACTシアター、2016年4月15日14時(RED)、20日19時(GREEN)。


 1920年代ベルリン、様々な人間のドラマが交差する豪華ホテルの一夜を描く。若く美しく、だが貧しいフェリックス・フォン・ガイゲルン男爵(宮原浩暢/伊礼彼方)はギャングによる借金の取り立てから逃げている。帝政ロシアで一世を風靡したバレリーナのグルシンスカヤ(安寿ミラ/草刈民代)は引退興行のためにベルリンへ。重い病を患う会計士オットー・クリンゲライン(中川晃教/成河)はこれまでの貯金をすべて使って人生の最期の日々を豪華なホテルで過ごそうとしている。傾きかけた工場の娘婿社長プライジング(戸井勝海/吉原光夫)は会社を立て直す会合のため、ハリウッドでスターになることを夢見るタイピストのフレムシェン(昆夏美/真野恵里菜)はプライジングとの仕事にためにホテルを訪れる…
 脚本/ルーサー・ディヴィス、作詞・作曲/ロバート・ライト&ジョージ・フォレスト、追加作詞・作曲/モーリー・イェストン、演出/トム・サザーランド、振付/リー・プラウド、音楽監督/マイケル・ブラッドリー、翻訳・訳詞/市川洋二郎、美術/大橋泰弘。ヴィッキー・バウムが1929年に発表した小説『ホテルの人々』を原作に32年に映画化、トミー・チューンの演出・振付で89年ブロードウェイ・ミュージカル化、93年には宝塚歌劇月組で上演。15年にブラッシュアップされたサザーランド版がロンドンで上演。

 ウォルフォード版を観たときの感想はこちら
 宝塚OGキャストが気になりつつも特にチケットを手配していなかったのですが、お友達のおかげで2パターンとも観られることになりました。
 双方観るとやはり比べてしまうものですね。観た順の印象や期待値もあるかもしれませんが、個人的には、男優陣は医者を除いてREDチームが良く、女優陣はGREENが良く思えました。
 私は初・成河さんだったんですけれど、すごーくよかったなあ。あと伊礼くんもいくつか観てきているし上手い人だなと思ってはいましたが、本当に素晴らしい男爵でした。宮原さんはちょっと貴族っぽくなかったかも…お芝居はまだまだなのかもしれません。オッテンシュラッグ医師(光枝明彦/佐山陽規)は、佐山さんがずいぶんノーブルに見えてやさぐれ感が足りなく思えたので、光枝さんの方がはまっていたように見えました。
 草刈さんは美しいんだけどやはり台詞と歌がダイコンに見えてしまっていましたよね…ラファエラ(樹里咲穂/土井裕子)も土井さんはだいぶ地味に見えて物足りなかったです。
 シングルキャストはみなさん素敵でした。そしてスペシャルダンサー(死)(湖月わたる)なるワタル、素晴らしかったよね…! ニコリともせず踊るチャールストンがたまりませんでした。こういう非人間的な何かの化身役に、宝塚歌劇の元男役トップスター女優というのは本当にはまるなあ…

 REDがハッピーエンドでGREENがアンハッピーエンドの「ふたつの結末、ふたつの演出」と言われているそうですが、そういうことでもなかったように感じました。
 双方一度ずつしか観ていないので気づけなかっただけかもしれませんが、本編はほとんど同じでしたよね。まあ同じ演目だからあたりまえなのかもしれませんが。ただ、REDの方が、記憶にある、スタンダードな形の『グランドホテル』に思えました。
 GREENは冒頭とラストにナチスの演説が流れたりして、同じ時代を描いていても数年だけ後ろ、より第二次世界大戦に近づいている年の話のように見えました。それだけ現代的、とでも言いましょうか。
 このお話は、ホテルに客がやってきては去っていき、けれどホテルはそこにあり続け、毎日明日はチェックアウトすると言い続けている医師が毎日「もう一泊するとしよう」と言って長逗留を続けていて、ホテルはそれを受け入れ続ける…というところにキモがあるのだと私は思っていますが、だからそれからするとGREENの結末はやや逸脱しているようにも感じました。
 ホテルはナチスに接収されて営業をやめ、客を放り出し荷物を投げ捨て、従業員たちは軍のために働くようになる。エリック(藤岡正明)は乳飲み子を抱えて命からがら落ち延びていく…ホテルがホテルでなくなる結末を描く『グランドホテル』というのは、なかなか痺れます。でもそういう演出が生まれるくらい、今は戦争の影が窺える時代なのだろうなとも思うのです。怖い。
 もちろんREDだってハッピーエンドとは言いきれません。オットーはいずれパリで死ぬのでしょうし、フレムシェンがハリウッドに行くことはないのでしょう。男爵は死んで社長は逮捕され、グルシンスカヤが踊る劇場が満員になることはもう決してなく、しかし彼女がラファエラの腕の中で休むことも決してない。幸せな結末などない。それでも人生は続き、回転扉は回り続け、ホテルはあり続ける…
 というぐるぐる回遊を、双方観ているとやめられなくなりそうなところが、今回の企画のキモだったのかもしれません。
 ところでなんで赤と緑なのでしょうね? 代表的な補色ではありますが。ルーレットやトランプなら赤と黒だし、白と黒というのも強烈な組み合わせではありますが…金と銀とか、ルビーとサファイアとか? それはポケモンか…


***

●4月26日追記(珠城日記2.5)●

 23日の夜に、今回の舞台を観ていて、宝塚版の初演の記憶もあるお友達たちと盛り上がって話していて、また宝塚でも観たいよね、今なら雪組かな、ちぎちゃんオットーにゆうみフラムシェン、だいもん男爵なんていいんじゃなーい!?とか騒いでいたのですが…
 権利が東宝でまとめて買えているとか、何かそういう事情でもあるのか!? なんとたまちゃぴ新生月組お披露目公演として昨日、発表されましたね! 公式サイトはこちら。びっくりぽん!!
 珠城さんオットーだと死にそうにないし珠城さん男爵だとギャングの借金取りに勝てそうだけど(笑)、それでも男爵が観たいよ! ちゃぴはグルーシンスカヤだよ!!
 初演当時はトミー・チューンがカナメさんの個性を見てオットーを主人公に据えたんでしょう? でも原作はあくまで群像劇だし、映画は男爵が主役っぽかったんですよね。
 みやちゃんがオットーを演じる、というのも素敵なのではないかな? みやちゃん、カナメさんのファンだったんだもんね。フラムシェンはさくさくで見たいな、わかばとかくらげとかではもうないのではなかろうか。
 プライジングやオッテンシュラッグも組子でやってほしいなあ。ガルシアをがんばったカチャにプライジングなんてどう? でもまゆぽんかなー。できるだろうし上手いだろうけど、まゆぽんにはもっと二の線の役をやらせてあげたい気もする…
 ラファエラはあーさとか? エリックはありちゃんかしら。エスカミリオよりはニンだろう…そして新公主演はれんこんにやらせてほしいなー、がんばると思うけどなー!
 まあ、まだこの先、組替えの発表とかもあるかもしれませんけれどね(><)。
 二幕ものに引き延ばしたりせず、むしろ90分にタイトにまとめるというのも素晴らしい。お披露目が新作ショーつきの二本立てになるなんて、珠城さんの作品運の良さは素晴らしすぎます。たいてい一本もの再演になるからなーと思っていて、『オーシャンズ11』とかどうかしら…?とか考えていたりしたのでね。『ロミジュリ』は新公で観たし、『ファントム』もニンじゃないし、とかとか。
 ああ、よかった、楽しみ! 初演には生では間に合っていないだけに、本当に楽しみです。大晦日から宿はすでに抑えてあります、二年連続のムラ年越しですよ。それも楽しみ!!
 ラストはね、白燕尾の珠城さん男爵が腕一杯に赤い薔薇の花束抱えて、スモークの中、回る盆に乗ってセリ上がってくるの。そんで男爵の歌をリプライズで歌うの。ちゃぴグルーシンスカヤがその周りをくるくる踊るんだけど、ふたりは触れ合わないの。それで幕なの。泣ける…!
 そんでね、それをちゃぴのサヨナラショーでもやるの。わあ泣ける…!!
 そしていつか、珠城さんのサヨナラショーでもね…夢が広がるなあ。本当に楽しみです!!!







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宝塚歌劇雪組『るろうに剣心』

2016年04月23日 | 観劇記/タイトルや・ら・わ行
 宝塚大劇場、2015年2月12日13時。
 東京宝塚劇場、4月19日18時半。

 動乱の幕末、修羅さながらに人を斬り、その血刀を以って新時代を切り開いたひとりの志士がいた。人呼んで「人斬り抜刀斎」。討幕派の遊撃剣客として刀を振るったその男は、新時代の到来とともに人々の前から姿を消し、時は流れて明治11年。その男は人を斬ることを自らに固く禁じ、流浪人・緋村剣心(早霧せいな)としてあてのない旅を続けていた…
 原作/和月伸宏、脚本・演出/小池修一郎、作曲・編曲/太田健、青木朝子。

 原作漫画の感想はこちら

 大劇場初見時には、暴れました。
 1幕はおもしろく観たんですよね。だいもんの加納惣三郎(望海風斗)のカッコ悪さにのっけから仰天させられながらも(もちろんだいもんのせいではありません、あくまで脚本に問題があります)、『オーシャンズ11』方式(?)で原作のエピソードを拾いつつ多彩なキャラクターを見せてイケコ特有の1幕ラスト全員の大合唱で幕、だと予想していてまずまずそのとおりでしたし。原作ファンではない私でもキャラクターの再現度と組子のがんばりには感心しましたし、ここまでは楽しかったのです。意外にプチ・ガルニエのセットがしょぼいな、というのと、『スカピン』なんかに比べたらラストの楽曲が盛り上がりに欠けたかな、というガッカリ感は多少ありましたけれどね。
 でもねえ、2幕がねえ…ここからがむしろ話の本筋であるはずじゃないですか。オリジナルキャラクターである加納さんというかジェラール山下さん(名前を変えて身を偽るというのはともかく、ハーフに見えるという設定なのか? 意味不明…)がキーパーソンになって、ここからオリジナルストーリーが展開されるはずでしょう? 彼が主人公である剣心と対峙し、薫(咲妃みゆ)をめぐって恋敵になり、ドキドキのドラマと手に汗握るアクションが展開されてひとひねりあって落着してハッピーエンド、となるはずじゃないですか。特に恋敵云々についてはプログラムで原作者自身がそう言ってるし、そう期待するじゃないですか。
 でも…話が、ない。ストーリーが、ドラマが、ない。だから盛り上がらない。
 呆然としているうちに、これまたイケコ特有の二番手セリ上がりから銀橋渡りの主題歌熱唱があってフィナーレになだれ込み、覚悟していたとはいえトンチキ衣装に悶絶し、ヘンなヒップホップ・ダンスがなかったのはいいにしてもなんだあのデュエダンのつまらない黒い衣装は!と絶句しているうちにパレードまで終わってしまっていたのでした…
 これでいいと思ってるの? ねえ!?
 キャラクターとストーリーがあって、そのドラマにドキドキするのでないなら、それはただのアトラクションになってしまう、と私は考えているのです。ジェットコースターに乗ったってそりゃドキドキするし、電飾キラキラのパレードを見たってそりゃときめきはするでしょう。でも私が舞台に、あるいは映画やテレビドラマや漫画や小説に、要するに「物語」に求めているのはそういうアトラクションではありません。ショーはいいよ、筋なんかなくて、ただ歌と踊りを楽しむものだから。でも芝居は、ミュージカルはそうじゃないだろう。人間と、心の動きを描かなきゃダメだろう。
 組子がどんなにがんばったって、こんな何もない脚本じゃ芝居のしようがないし、だからどんなに体を張ってすごい殺陣やアクションを見せようと盛り上がらないのです。キャラクターに感情移入できないから、勝負の行方に興味が持てなくて、どうせ主人公が勝つに決まってるじゃんとしか思えないからつまらないのです。こんなことを生徒にやらせてはいけない。人気公演のチケットをがんばって取ってワクワク期待して劇場を訪れた観客にこんなものを見せてはいけない。本当に憤りました。
 イケコは海外ミュージカルの翻案や改訂演出には手腕を発揮するけれどオリジナル脚本は今ひとつ、とは言われていますが、私は史実があるとはいえデビュー作の『ヴァレンチノ』は珠玉の名作だと思っていますし、悪役の顛末が同じじゃんとの指摘もある『アポロンの迷宮』も私は生では観ていないのですが再演されていいおしゃれな佳作だと思っているんですよね。だからけっこう期待していたのです。そこまでのレベルには達しないにせよ、物語作りのごく基本的なセオリーを踏襲して、主人公と対峙する悪役を造形し、ヒロインを利用しようとするうちに恋しちゃって、対決と横恋慕が盛り上がって、主人公も一度はピンチに陥るも逆転勝利、大団円…というストーリーを作ること自体は、仮にも劇作家として仕事をしているのなら最低限できるはずだろう、と信じていたのです。それが裏切られたから驚倒したのです。
 外部の仕事もたくさんしているし、忙しいのだろうとは思います。原作側の口出しなどもうるさかったのかもしれません。しかしこのクオリティはひどいよ、素人レベルだもん。話になっていないんだからさ、発表していいレベルじゃないですよ。
 柴田先生でさえ老いるということは『黒豹の如く』でまざまざと感じさせられましたが、イケコはまだそんな歳じゃないでしょう。手抜きなの? 事故なの? なんなの?というレベルで動揺し、絶望しました。原作人気で、組子人気で客が入っているからいい、という問題ではないと私は思いました。これを通す劇団首脳にも物申したいです。

 東京公演でも特に変更はないと聞いていましたので、怒りを再確認するつもりで観に行きました。もちろん割り切り、開き直って楽しみたいとは考えていましたよ? どうせなら楽しく観たいですしね。でもできないだろうなと思っていたのです。
 ただ、唯一当たった友会のチケットが上手ブロック最前列という超良席でしてね…てか『ホッタイズ』でココ欲しかったよね…SSSS(スーパーサヤトスミキシート)だったよね…
 そうしたら、やっぱりこういう席からだと、全体は観づらい代わりに、「生徒」を見ちゃうんですよね。そうしたら…楽しかったんですよね(笑)。チョロいな私!
 ありがとう咲奈! 『パルム』でオペラグラスの上がらなさハンパないとか書いてごめん! オペグラいらない距離だったってのもあるけどホント痩せたしカッコ良くなったよね、次元もがんばってたけど今回さらに声がよく作れてたよね! 「やべぇ咲奈かっけー…」って思ってしまってからはもう何かが振り切れて、完全に生徒を見るモードになっちゃったんですよね。ありがとう咲奈!!(二度言う)
 そこからはなんかもう、だいもんかっけー!とかれいこ美しー!とかでもやっぱひとこが好きー!とかあすくんとまなはるやっぱ上手ー!とかカリ様美人…!とかきんぐ好きだったよきんぐ!とかがおりのおっさん芸ホントすごいな!とかくらっちもりさも可愛いよてかみちるー!とかだ、大ちゃん…!とかきゃびいあゆみカレン濃いなーあんり素敵だなー、とかやってたら、終わりました(笑)。仕方ない、それもまた宝塚歌劇だ!

 あと、そもそも原作漫画もバトルものであってたいしたストーリーはないというのもあるし、組子のがんばりがよく見えると群像劇色がより強く見えて、トータルでこれはこれでアリなのか、と思えてしまいました。
 宝塚歌劇はすべからくトップトリオの三角関係ラブロマンスを演じるべきである、というのはここで再三書いている私の持論であり、だから私は今回も剣心と薫と加納さんの三角関係ラブロマンスが見たかったわけですが、今回のお話は「剣心と愉快な仲間たち」みたいな群像劇になっていて、加納さんは仲になりきれなかった悪役キャラクターのひとりであり、なんなら剣心も物語の主人公というよりは群像劇の主役格のキャラクター、程度になってしまっていますがそれはそれでいいというのであればいいのだろう、ということで、納得することにしたのでした。

 加納さんは、朱音太夫(桃花ひな)に横恋慕して強盗とかしてるってのがまず情けないんだけどそれは報われない純愛なんだろうからいいにしても、そのあと桂(蓮城まこと)たちに囲まれたときにその太夫を人質にして身の安全を図ろうとするってのが完全にNGですよね。こんなしょうもない男の役をスターに書いたことについてはイケコ一生の汚点として私は絶対に忘れることなくことあることにあげつらっていこうと思っています。それくらいヒドい。
 結局彼はそのまま維新に納得できずに渡欧し、拗ねて心を閉ざしたままただただ復讐と再起を夢見ていたわけですよね。維新を認めず、明治政府の転覆を狙い、新時代に順応して生きている剣心を逆恨みし、人斬りに戻してやろうと画策する。
 一方、剣心は、かつての姿を捨てて浪人として生きていて、これまたある種心を閉ざしているのだけれど、薫にほだされたりなんたりして新たな関わりが生まれていって、左之助(鳳翔大)やら弥彦(彩みちる)やらの友達というか仲ができていく。蒼紫(月城かなと)ですら、一度対決したあとはある種の仲みたいになって協力してくれたりする。
 加納さんはそこに加われなかったから、去るしかなかった…そんな流れのお話なのだ、ということで、一応、納めることにしました。
 本当は、薫を利用しようとするうちに本気になっちゃって…みたいなドラマが見たかったし、剣心を抜刀斎に戻そうとするときのやりとりの意味不明さはなんとかしてほしかったですけれどね。剣心が自らの影(永久輝せあ)を斬るのって、彼がついに刀を抜いた! 再び人を斬った!みたいなことなのか、それとも過去の自分、人斬り抜刀斎と真に決別した! ということなのか、全然わからなかったので…カタルシスがありませんでした。
 でもまあもうそういうのはいいや、ってことで、いいです。
 そのあとトートツにラブ展開になるのも痒いし、『銀英伝』か!ってつっこみたくなりましたけど、ラブはやらないよりやったほうがいいのでもういいです。
 フィナーレでだいもんが、本編でゆうみちゃんが歌う主題歌というかタイトルが入っている歌を歌うのも、要するに加納さんは剣心にこだわり剣心ラブだったんだもんね、ってことでもういいことにしました。
 ゆうみちゃんの喉はつらそうでしたが、代わりにデュエダンをものすごく生き生きのびのびと踊っていたので、光沢もないヘンな黒のお衣装は似合っていないと今でも思っていますがもういいことにしました。
 こういう凡作、たくさん観てきました。だからもういいです。
 愛があるから怒れるのであり、そういう意味では私は投げ出してしまったわけですが、担組じゃないし、1,2回観る分には十分ですってことで、もういいことにしました。実際、二回目はホントに楽しかったので。組ファンは楽しく通っているのかもしれないし、あまり観てもらえていないかもしれませんが原作ファンにもまあまあ好評だと聞くし、いいんじゃないでしょうか。投げやりに聞こえたらすみません、人の時間もお金も愛も情熱も有限なのよ駄作にかける余分はないのよ私も老い先短いんだからゴホゴホ(年寄り芸で逃げる)。

 『ローマの休日』は役が少ないし2幕ものにするほどの話じゃないと思っているので激しく心配ですが、その次の本公演のハリーに期待することにします。
 せしる、きんぐ、ご卒業おめでとうございます。それでも雪組はまだまだスターがたくさんいる、充実した組になっていますよね。2.5次元力だけでない、演技力やスター性が真に発揮できる良い演目に当たることを祈っています。イヤまあどの組もそうなんだけれども、ね!
 話題作りは大事、集客ももちろん大事。でも志の低い物語作りや、宝塚歌劇作りはやめていただきたい。こういうのもアリなんだ!はいいけれど、こんなんでいいだろう?はご勘弁願いたい。そこは、ファンとして強く言っていきたいと思っています。











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宝塚歌劇月組『激情/Apasionado!!Ⅲ』

2016年04月20日 | 観劇記/タイトルか行
 梅田芸術劇場、2016年3月19日15時半(初日)、20日12時。
 オーバードホール、4月2日14時。
 金沢歌劇場、4月3日14時。
 市川市文化会館、4月9日14時。
 福岡市民会館、4月17日11時、15時(千秋楽)。

 19世紀。フランスの作家プロスペル・メリメ(凪七瑠海)はスペインのアンダルシアを旅行中にひとりの男と出会い、彼をモデルに小説を書く。男の名はドン・ホセ(珠城りょう)。ホセはセビリアの春の祭りで、情熱的な瞳を持つジプシーの踊り子カルメン(愛希れいか)と出会う。この出会いがのちに自らを破滅に導くなどとは思いもよらず…
 原作/プロスペル・メリメ、脚本/柴田侑宏、演出・振付/謝珠栄、作曲・編曲/高橋城。1999年に宙組で初演、2010年に星組全国ツアー公演で再演された名作の三演。

 初日雑感はこちら

 まず、このたびの熊本を中心とする大地震の被害に遭われました方々に心よりお見舞い申し上げます。
 すぐに自分に何かできることといってもなかなかないもので、むしろ自分の身の周りを改めて確認しました。寝室やリビングにおいてある懐中電灯の電池が切れていないか、玄関に置いてある避難リュックの中身が古くなっていないか、などなど。
 支援物資を送ったりボランティアに出かけたり募金したり、といったことももちろん大事だと思うのですが、きちんとやらないと意外と現地の邪魔になるだけだったりしますよね。だとしたらこの災難を他山と石とせず、次に自分が被災したときに身を守りスムーズに避難し周りに迷惑をかけずにがんばれるようにしておくこと、その準備を怠らないこと、がせめてまず一番にできることかな、と思ったりしたのです。
 この火山列島に住んでいる限り、地震と一生無縁ではいられませんものね。断水する前にお風呂などに水を張っておくこと、避難するときにはブレーカーを落としていくことなどなど、今回また改めて心に留めた注意事項もありました。地震からは逃げられなくても、身の安全は図れるよう、被害を少なく留めるよう、改めて準備したいと思います。
 余震が続く中の福岡公演開催決定、私は嬉しかったです。日帰り予定でしたが、万が一スムーズに帰れないことになってもしばらくは大丈夫なように支度して、行ってきました。結果的には地震は関係なく、むしろ関東の強風のせいで帰りの飛行機が遅れただけで、無事に帰宅できました。
 生徒さんたちも不安な中の公演となったかもしれませんが、観客に夢と希望を与えるべくがんばってくれたことに感謝したいです。お疲れさまでした、ありがとうございました。
 そして本当にいい公演になりましたよね。休演者も出ましたし、代役はもちろん主演の珠城さん以下みなさん本当に大変でしたでしょうが、元気に全国を回ってファンを増やしてきてくれたことと思います。得るものも多かったことでしょう。次の本公演も楽しみです!

 思えば会社の後輩たちとセブ島に女子旅バカンスなんぞに出かけていて、ホテルのエステからのんびり戻ってWiーFi環境に出たらLINEの未読数が大変なことになっていて、これは何かニュースがあったのだなとまず公式サイトをチェックして、「ほほう、月の全ツは『激情』と『アパショ』の再演か、いいねいいね! で裏は何? え? まさおのコンサート? じゃ全ツは誰がやるの? え!? たまちゃぴ!? え!?!? え!?!?!?」みたいな順番の認識でした。
 で、慌ててLINEトークに加わって…後輩たちをほっぽり出してホテルの庭で延々スマホいじって、あらぶったなあ(笑)。
 そこから友会入力時にはお友達に頼みまくってチケット当ててもらいまくって、被り分を譲ったり交換に出したりして調整して、宿や電車を手配して、富山や金沢ではお花見もお散歩もできたし、あちこちでひとりで呑んだりみんなで呑んだり全国の宝塚友達とバッタリ会ったり、楽しい全国行脚でした。
 花全ツは宙『エリザ』東京公演とダダ被りなのでおとなしくしておくことにして、宙全ツは振り分けにかかわらずまたあちこち行きたいと思っています。楽しいですよね、全ツ。そしてこうやって懲りずに経済を回すのも、被災地以外在住の人間の仕事かとも思っています。自粛しないぞ、不謹慎とか言われても耳貸さないぞ!

 というワケでまずは珠城さん、ホントに素敵なホセでした。
 私は、実際におつきあいするのはけっこう大変そうでご勘弁とか思ってしまいますが、物語のキャラクターとしてはこういう男性、大好きなんですね。真面目で誠実でまっすぐで朴訥で不器用で、一生懸命突き進んでいるだけなのにいろいろ面倒なことになっていってしまうというタイプの人…実にドラマチックですよね。
 珠城さん自身にも、真面目すぎていらない苦労をしているようなところがあるようなので、それもあってピッタリだったのではないでしょうか。若く青いホセ、という感じになったのもいいと思います。
 また、『Bandito』でもそうでしたが、結果的に祭り上げられちゃって、でもそれなりに役割をこなしちゃう、みたいな役回りが本当に似合うし、それもリアルなのかもしれません。ドラマはそれがのちに崩壊する方が盛り上がるからたいていそう展開するけれど、現実はきっと大丈夫ですからね。次期トップスター就任決定、本当におめでとうございます。ナイアガラつきの大羽根を待っています、応援しています!
 ところで
「不屈の面魂の中に、深い孤独の影を宿している」
 というような冒頭の台詞がありますが、ホセが故郷を出ざるをえなくなった「友達を傷つけた」事件とは、はたしてどんなものだったのでしょうね? 原作には設定や描写があるのかな? それがたまたま偶然に、不幸にして起きたようなものだったとしても、傷害というよりは殺傷レベルの事件だったのでしょうね。
 それから考えるとホセは、光の中を歩いて来たと言われているけれど、ただの純朴な田舎の好青年ではなく、そういう事件を起こす可能性もある、どこか危なっかしげなところもある若者だったのでしょうか。ニンでないこともあって珠城さんにそこまでのギラギラさや狂気やなんらかの欠落の色は出せていない気もしますが、まあでもそれはそれでいいやね、台詞でうまくフォローされているんだからね!(甘くてすみません)
 でも例えばみりおなら、まさおなら、たとえばそんな危なっかしいホセを演じてくれたのでしょうか? ちぎちゃんなら? 私は『コルドバ』のエリオも『琥珀』のクロードも同タイプのキャラクターだと思っているのですが(すべて柴田ロマンの主人公ですね、好きです…!)、でも『コルドバ』再演のちぎちゃんにはあまり感心しなかったからなあ…まぁ様も上手いかもしれないな、みっちゃんはニンじゃないかもね。そういえば同じ「昭和感」でも珠城さんとみっちゃんは違うよな、なんなんでしょうね…
 でもとにかくホセの中のそういうある種の揺らぎ、危なげをカルメンは目ざとく見つけて、それでコナかけてきたはずなんですよね。そりゃ単純に見目のいい兵隊さん、ってのもあったんだろうけれどさ。ホセの方はその前に街の女の子におそらく「あの子はジプシーよ、いやぁね」みたいなことを言われているはずなのに、そしてそれに生返事しているのに、カルメンから目が離せなくなっちゃってますよね。そらカルメンにはいいカモに見えたことでしょう。お金はなさそうでも、火遊びにからかうのにはちょっとおもしろそう、みたいな、ね。
 そうして出会ってしまったふたりなのでした…

 ちゃぴのカルメンは本当に本当に素晴らしい。
「高慢そうなところが気にくわない」
 初演のスカステ放送を録画しておいて初日のあとに見てみたのですが、このあたりちょっと台詞が変更されていますね。再演からかな?
 今見るとズンコのホセってけっこう冷たく思えて、びっくりしました。でも確かにメリメの言うとおリ、こういう引っかかり方をしているというのは、すでに惹かれているということなのです…

「何か食べにいく?」
 ホセのこのときの優しい物言いが本当に好き!
 ミカエラ(早乙女わかば)は、配役発表時にはわかばのニンではないのではないかと個人的には心配していたのですが、今回すっごく良かったと思いました。私はわかばは稀代の姫役者ながら演技は棒だと思っているんですけれど(すんません)、今回はそれがいい方に出たというか…あまり地味で辛気臭くてしんねりウェットなミカエラになると、ホセの男も下がるしカルメンとの対比としてもつらいしストーリーとしても盛り上がらなくなると思うので、わかばの華が添えられた、でもとてもがんばってしとやかにしているふうのミカエラですごく正解だったと思うのです。珠城さんと同期、というのももちろん強みですよね。時ちゃんとかでなくてよかったよ…(私は時ちゃんをあまり買っていないのです、すんません)
 これまた久々に見たらズンコのホセがけっこうミカエラにつっけんどんに見えて残念だったので、たまわかばのあたたかさがいいなと余計に思いました。ついつい母親のことばかり先に気にしがちだけど、ホセはちゃんとミカエラのことを想っていたはずなんですよ。てかそうあってほしいし、珠城さんのホセはそうなっていたと思う。よかったです。そらミカエラもこのときおなかすいてなかったかもしれないけど嬉しくてうなずくよな!ってのがまた可愛いんだ!!
 「女の人がいるのね」もよかったし、「祈ることだけね」のあと顔を覆って走り去るのもとてもよかった…!

「恋人は?」「…うん」
「ジプシーは嫌?」「…ううん」
 もうこの短い応答だけでごはん三杯いけますね!!!
 というかこのロープ場面は本当に秀逸ですよね、神演出ですよね。「故郷」と書いて「くに」と読む感じから、同郷だなんてわかりやすい嘘にうっかりだまされちゃうホセとか、「ならあたいと同じじゃない」にうっかり「…そうだな」って笑っちゃうホセとか、「もうしゃべってはいけない!」みたいな全然実効のない禁止の仕方とか、「きみなら売れっ子だろうな」「そんな高級なところへは…」みたいな馬鹿正直さ加減とか、もう本当にたまりません。「♪きらめく星はふたりのため」のあたりのちゃぴの振りも可愛い。
 突き飛ばす直前にキスするようになったのは再演からなのかな? 変更GJですよね。そのあとのホントに「ペタン」って描き文字が見えそうなホセの尻餅のつき方と、呆然とする顔がまたたまらん!

「甘酸っぱい香りに包まれて、私はとろけてしまった」
 営倉での独り言ということを別にしても、臆面もなくこんなことを言っちゃうホセがホントに可愛いよ。というかホセをこういう男だとしてこういう台詞を書く柴田先生を本当に尊敬します。
 このあと出てくる情念の精が私はけっこうツボで、これって結局、若い男が閉じ込められてイロイロできなくなる(オイ)からそういう欲求が願望として現れて、カルメンの姿になったりミカエラの姿になったりするのかなーとか思えて、ミカエラともそもそもどの程度の関係なのかわかりませんが(カトリックだろうからプラトニックなのかな?)せっかくこっちで会えたんだしやっときゃよかったよなーとか思ってるってことなのかなーとか、ついつい考えちゃってニマニマしてしまいました。すみれコードですかすんません。
 でも母親の声が回想されると浄化されて情念の精が消え去るってはそういうことなんだと思うし、とにかくツボなのです。
 あと大の字になって「私はもう伍長ではなーい」とか言ってる珠城おじさんがホント好きです(^^)。

「気をつけて帰るんだぞ」
 囚われてるのは自分の方なのに、あくまでカルメンのことを気遣うホセ…なんて優しいの、なんて甘ちゃんなの、そらカルメンも惚れるわな。
 しかし柵越しのキスなるものは何故ああまで萌えるのか。ふっと伸びてぐっと止まる珠城さんの左手がヤラしくてたまらん。そのあと輝くばかりの笑顔で恋に落ちた喜びを歌っちゃうのとか可愛すぎてほとんど反則。というかこの歌詞ホントに素晴らしい。
 気持ち音程が不安定なのも私は許すよ!(甘い)

「生きてる甲斐があるのか!?」
 この台詞、「意味があるのか」かな? それとも自分たちが「生きてる価値があるんだ!」と言っているのかな?
 ジプシーみんなで言ってるからってのもあるけれど、聞き取りづらくてとても残念でした。でも白やパステルカラーのお衣装の街の男女と、黒やどぎつい原色のジプシーの男女との対立と対比の場面は鮮やかすぎて素晴らしすぎました。当時の西欧社会での憎悪と反目はものすごかったんでしょうね…もしかしたら今現在もなお。
 れんこんの実業家(蓮つかさ)がよかったなあぁ。後半ぐっと痩せて、シャープになってすごーくよかったです。としちゃん、まんちゃん、ひかちゃんにやすのもよかったわ。あとまゆぽんの色気ね! すーちゃんなっちゃんちゅーちゃんはーちゃんも濃いよね。
 終盤で、ジプシーたちの「♪ライラライラ…」が街の女たちの「♪ライラライラ…」にスライドしていくところとかも本当に秀逸だと思いました。
 ところで「ジプシー」という言葉は欧米ではニグロとかジャップとかよりもひどい差別用語とされているそうですが、日本ではなかなかそこまでの認識にはなっていませんよね。まあカタカナで書かれている限りは、つまり日本語で表記されている限りは、当該の方々に読まれ傷つける恐れは低いということでご容赦いただくしかないのでしょう。本当に特殊な極東の島国ですよね…その特殊な文化圏の中での特殊な、ヘンにロマンティックに解釈された、あくまでファンタジーとしてのものなのだ…という意識は持っていたいと、個人的には思っています。

「♪勝負、オレは好きさ」
 今のありちゃんにエスカミリオ(暁千星)役は、やや高いハードルでしたかね。でも珠城さんはそういうのをずっと越えてきたんですよ。がんばれるはずだし、がんばっていこう! 歌は上手くなってきていたのに今回はどれもキーが合っていないのか、全体に苦しそうでちょっと残念でした。これまた後半は顔がけっこう痩せて、野心ギラギラのイケイケの時の人に見えてきたのはよかったです。
 あと、闘牛士仲のあちくん、いいよね…!
「カルメンってそんなにいい女かな」「エスカミリオってそんなにいい男か」
 という対比も好きです。わざとだと思う。
 そもそも恋愛の理由なんて当人たち以外にはなかなかわからないものだけれど、わけてもカルメンとエスカミリオの恋はそれぞれ手練れの火遊びめいたところがあるだけに、余計に外からはこういう言葉で冷やかしたくなるものなのでしょう。まあホセの方は冷やかすなんて軽いノリじゃないんだけどさ。揶揄、難詰ですよね。つらい、せつない。

「♪ふたりがひとつになるとき」
 ここの振り付けも本当に素晴らしいですよね。ザッツ・前戯っつーかなんつーか(すみれコードですかすんません)。ダンスとしても素晴らしい、リフトも美しい。
 というかカルメンがひとりで鼻歌歌っていて、そこにホセがやってきて…からのくだりは本当に流れるようで素晴らしい。枯れて色が落ちた薔薇を嬉しげに差し出すホセのいじらしいこと! カルメンの腿を撫で上げ、下腹部に頬を寄せて、そのあと上目遣いにカルメンを見上げるホセの切羽詰まった瞳とかね!
 前楽では、スニーガ(飛鳥裕)が現れたときホセが制服の上着を上手く着られなくて(左袖が裏返っていて腕が通らなかったのかな?)、結局そのまま場面の残りを黒シャツのままで通したのも目撃できました。それもまたいい。

「女の息吹」
 自由に羽ばたくカルメンが、それでも最後に帰るのは自分のところだと信じたい、というのはホセの、というか男の甘さなんだけれど、それも可愛いからいいです許します。
 というかこの台詞、いい意味でざらりと引っかかって私には印象的でした。抽象的なようで肉感的で、ホント柴田先生ってこういう言葉をぶっこんできますよね。
 実際の社会ではまだまだ女性は生きづらくて、その女性性を自ら抑圧したり忌避したり否定したりした方が楽だったりすることも多々あるのだけれど、宝塚歌劇では女性キャラクターの女性性というものが至極当然に扱われ肯定され崇められているのではないか、そこが女性観客の(そして心の柔らかい男性の)支持を得ているのではないか、と最近私は考えるのでした。

「仕方ないだろ? 向こうと先に出会ったんだから」「暇ができたら会ってやるって? 俺は嫌だ!」
 カルメンのこの男っぽいざっくりした言い方と、ホセの女々しい物言いが、もうおかしいやらせつないやらわかるやら苦いやらで、ねえ…!
 やっぱりこのふたりはねじれているというか、ずれているということが、どんどん露わになっていく…「♪ジェラシー」って歌われちゃうのはベタすぎるんだけど、わかりやすいダイレクトさのインパクトがまたたまりません。

「好きよ、愛してる。でも縛られるのは嫌」
 カルメンがこういう考え方をするに至ったのは、逆にそれだけ、若いころ、というか幼いころに、縛られ抑圧され蹂躙され踏みにじられた経験があったからなのだろうな…と思わないではいられません。そういう過酷な育ちをしてしまったから、たとえ心底愛した相手に出会っても自分をすべて預けるなんてことができない、悲しい人間になってしまったんですよね。愛がすべてを変えられることもあるけれど、愛をもってしても変えられないこともまたあるのです。ホセにはそれが最後までわからなかったのでしょう。あるいはわかったとしても、どうしようもなかったのでしょう。だから殺して縛るしか、そして自分も死ぬしかなかったのです…
「♪愛すること、生きることはどうしてせつないのか」
 こんなものすごい修辞疑問、あるかいな…この四重唱は本当に美しく、たいていダダ泣きしてました。

「そうは言っていない。おまえの心はもう俺から離れてしまったのかと聞いてるんだ」「そうかもしれない。そうでないかもしれない」
 千秋楽は、ちゃぴがここでもう大粒の涙をボロボロこぼしていました。それまでわりと無表情に言うことも多かった台詞だったと思うのだけれど、そのときは本当に苦しそうに悲しそうに言っていて。だからカルメンもつらいんだけど、こんなふうに言いたくないんだけれど、でも言わないではいられないし、だから立ち去るしかないんだなってのが伝わって、こちらも爆泣きでした。
 カルメンだって、ホセを愛していた。でもホセが望むようには生きられない。それをホセにわかってもらえないこともわかっている。だから言い捨てて立ち去るしかない。そうしたらホセにはもうナイフを取り出して止めることしかできないのです。
 ラストシーンは幻想であって、カルメンが待っていて、笑っていて、ホセに手をさしのべてくれているなんていうのはホセの願望でしかないのかもしれません。でもカルメンの願望でもあったのではないでしょうか。そんなふうに相手にすべてをゆだねて生きてみたかったはずなのです、カルメンだって。
 ありえたかもしれない、けれど現実には得られなかった、幸福な世界。なんの飾りもない舞台に、ただ美しく立っているだけのちゃぴカルメン。まぶしそうに、いかにもおっくうそうに起き上がる珠城さんホセ。珠城さんからはちゃぴが見えないのに、ちゃぴが笑いかけるタイミングと珠城さんが笑顔になるタイミングとが毎回本当に絶妙で、珠城さんが振り返ってからはその表情はちゃぴにしか見えないワケで、その絆にもう毎回号泣でした…!

「♪生まれてきた真実求め」
 カチャは健闘していたのだと思います。でもやはり弱いというか、持ち味としてちょっと微妙だったのかなー。私は過不足は特に感じなかったけれど、それでもやっぱりもう少しパンチがあってもよかったかなとは思ったかな…
 人が生まれてくる理由、生きる理由なんて本当のところなくて、ただ生きることがあるのみなのかもしれません。でも愛する人に出会うこと、愛に生きることができれば、それがどんな形で終わろうと幸福であり、真実なのかもしれません…


 ファナティック・ショーは作・演出/藤井大介。2008年月組で初演、2009年の宙組博多座公演、2012年宙組中日公演で再演されたショーの三演。
 中日に通いまくった身としては、もう拍手も手拍子のタイミングもバッチリなので楽しすぎました。大空さんとは全然違って、そのことがまた新鮮でおもしろかったです。
 大空さん担友達と話して、比べると本当に大空さんって「陰」タイプだったんだね、ということにも妙に納得しました。大空さんだって100%陰ではないんだけれど、どちらかと言えば明らかに陰であり、そして珠城さんも100%陽ではないタイプだけれどどちらかと言えば明らかに陽であり、だから同じことをするとその差、持ち味の違いがものすごく出るんですよね。おもしろかったなあ。
 いくら若いとはいえ出番の多い、タイヘンなショーだったと思いますけれど、ちゃんとやれていました。真ん中力は問題ないし、バリバリのダンサーって訳でもないけど当人比で上手くなっているし見せ方も良くなっていました。もちろんみんなが盛り立ててくれていますしね。
 額に輝くクリスタルな汗は…美しく出るのもスターの仕事だと思うので、お化粧が流れるほどの汗はなんとかしていただきたいと思いますけれど、今は仕方ないだろう!(甘い)
 ダイスケがまだ元気なころのショーでもあり、変更部分も含めてよくできていたと思いました。

 まず、会場が静まりきらない中、レイナのちゃぴが上手奥から走り出てくるところに拍手を入れることが始まります。でないとお客さんたちが静まらないからね。さすが全ツ。
 そして開演アナウンス、みんながアパショナードを呼ばわると、いわゆる小林幸子登場! 全ツの階段は数段しかないショボさですが、さすがにどよめきます、さすが全ツ!
 詠唱(笑)のあと「オーレ」で拍手、マントが取れてライトが当たってすぐ手拍子ですよ、楽しすぎる!!
 みんなが半円になって珠城さんを囲んでくれるのに、毎回ウルウルしそうになりました…プロローグの客席下りもテンション上がりますよねー! 

 主題歌のあとは珠城さんが残って、お姉さま方をひとりずつ相手していきます。侍らせていてもチャラくない、つねに誠意を持ってひとりひとりに相対する若きツバメ…という感じがたまらん。たらちゃんとかえつ姉とか好きだったなー、という思い出の幻想もまた楽しい。
 しかしチカは時ちゃんじゃなくて舞雛かのんちゃんか、辞めちゃうんでもったいないというなら姫咲美礼ちゃんとかで見たかったよ…ここは美少女枠でしょう! 時ちゃん、最近妙に役付きいいけど、個人的には不思議だわ…

 吸血鬼場面では歌手のまゆぽんはーちゃんの美声に聞き惚れます。はーちゃんがまた一段下に立つもんだからまゆぽんの超絶スタイルと長身が引き立ってたまらん。ここでバリバリ踊るとしちゃんもたまらん。れんこんもよく見てたなー。カチャにあまり興味がなくてすみません…

 ヴァレンチノに憧れる三青年はお芝居の闘牛士仲。さっきも言ったけどあちくんが好きー! そしてナターシャのちゃぴが台詞がどんどん良くなって、ショーの中のお芝居仕立てのシーンにちゃんとキャラクターとして存在しているのがよくわかりました。
 珠城さんヴァレンチノはタキシードでなく黒スーツになっていましたね。素敵! ヴィオレッタはちゅーちゃん、ドンニャ・ソルはわかば、ヤスミンははーちゃん。みんな素敵でした。しかし三人の歌手は最初はともかくあとのふたりが千秋楽までつらかった…もっと歌える人はいないの???

 そして中詰め、お花ちゃんたちは元気ハツラツありちゃんから。ひかちゃんもれんこんもフツーに可愛いよ、組長オチ枠(オイ)のまゆぽん愛しいよ、るねっこもほのかに漂うオカマ感が愛しいよ、まんちゃんも代役のあちも素敵だったよ、そしてとしちゃんの圧倒的な存在感ね…! 鬘も何種類か用意してましたよねノリノリでしたよね!?
 オルキデアはカチャ、さすがスレンダーでスタイルよくてたまらん! 年上の女感がよかったです。でもグァバロサのちゃぴが主題歌を歌うのにスキャットを重ねるのはつらかったのでは…
 ここの客席下りもヒートアップしましたねー!
 ちゃぴはそのまま残ってすーちゃんなっちゃんとドリームガールズ。女子いいよね女子!

 かつてともちんがやったジャングル・チャンピオンはライオン珠城さんマチョが客席登場! これまた鬘がふたつあったようでしたが、私は初日の『太陽王』みたいなのが好きだったなー。千秋楽は違う方で出てきたので、DVDはあっちかな、残念。
 雌豹たちもセクシーでしたがシマウマちゃぴの色っぽさたまらん! 後ろ向きで両脚がっと開いてお尻突き出して立つところとかホント、すみれコードってナニ!?って感じでした。
 片手でライフル扱うとしちゃんハンターの悪い笑みがまたたまらん! そこからのキングギドラ復活もたまらん!! 周りのお衣装は変わっていましたね。ここのカチャとありちゃんの歌はまろやかでよかったなあ。

 それからとしちゃんまゆぽんれんこんのスパニッシュの新場面があって、ハーモニーが素晴らしく、耳福でした。
 ロケットのセンターはるねっこ、脚の付け根ばっかガン見してましたすみません。ロケットのお衣装は前回ママでもよかったのになー。ちょっと貧相に見えてしょんぼりしました。

 そこからの珠城さんフィナーレ三曲ぶっ通しがたまらん。まずまたまたお姉さんたちをひとりずつお相手し、黒燕尾で男役たちを従え、汗もいい感じに流れてきたところにちゃぴとのデュエットダンスです。
 タイヘンですよ、でも尺がたっぷりあってリフトもきちんとあるこのデュエダンの振り付けが、今のたまちゃぴにぴったりで、観ていて本当に気持ちがよかったです。珠城さんがちゃぴの体重をきちんと支えてあげてるから、ちゃぴが安心して心ゆくまま反れている! 脚上げている! アイ・コンタクトばっちり! がっつり手をつなぎ合っている! 微笑み合っている! 珠城さんが先にハケるちゃぴを愛おしそうに最後まで見送っている! 泣けました…
 エトワールはとしちゃん、歌声たっぷり聴かせてくれました。

 
 来週の集合日から、また激動があるのかもしれません。でもきっと大丈夫。ファンは信じて、愛して、ついていきます。
 次の本公演も、いい演目になりますように。大劇場は珍しく(笑)あまり通えないかもしれませんが(お茶会も都合悪くて行けないのです、しょぼん…)、初日は行く予定です。期待しています!!!







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澄輝日記5

2016年04月15日 | 澄輝日記
 前回の日記はこちら

 先日、久々にお稽古入り待ちに行ってきたのですが、なんというか…暴力的な美しさにホントに衝撃を受けました。自ら進んで会いに行ったはずなのに、なんか目の前に現れたイキモノのあまりの美しさに圧倒されて、ちょっと逃げ出したくなるような…何しに来たんだって話なんですが。
 私は東京公演の入り待ちには熱心なのですが、そこではこちらはしゃがんでいて向こうは立っていて、かつ寝起きってほどじゃないにしても基本的にすっぴんにハットと伊達メガネとかで顔をやや隠して来る来るわけで、かつこれからお仕事のはずなのにまだなんかすごくほやんとしている人を出迎えている…という感じなのですね、私の中では。
 でもお稽古入り待ちだと、まずお化粧していてその美しさが理解の範疇を超えているってのもあるし、こちらも立っているのでいくら向こうが背が高いったってやっぱり距離が全然近くて動揺する。まず目がくらむし、放つオーラがもうホントにすごくて、物理的に衝撃を受けて後ずさりしそうになるくらい気圧されるんです。でも吸い寄せられるんだけど(笑)。
 というワケで博多座公演『王家に捧ぐ歌』も着々と格好がついてきているようです、楽しみ! チケットはダダあまりの気配が窺えて、心配ではありますけどね…私はできる限りは通いますよ!!

 というワケで前回の公演『Shakespear/HOT EYES!!』も元旦から楽しく通いまくりまして、東京公演の入り待ちはどうしても抜けられない会議があった日と実家に帰った日、月全ツ初日遠征に浮気した日の三日以外は皆勤できました。毎度毎度みんなでわきゃわきゃして、楽しかったなあぁ。本当に気持ちのいい会です。出待ちは苦手で基本的には行ってません、軟弱者ですみません…
 東京公演初日の一週間ほど前に博多座『王家』の配役発表があって、そりゃやっぱりショックでした。私はまず集客的に役替わりはやった方がいいと考えていて、みりおんアムネリスにずんちゃんアイーダならおもしろみも目新しさもあるしありえるんじゃなかろうか、とか(新進男役スターに女役をやらせて人気を出させ扱いを上げる、ってよくあるじゃないですか)、アイーダはどうしてもみりおんでというならアムネリスをずんちゃんとしーちゃんの役替わりで、とか、なんならあっきーやりんきらでだって見たいよ!とすら思っていたので、そもそも役替わりがないということ自体がしょんぼりでしたし、その場合はあっきーはフツーにウバルドかなと思っていたので、まさかのケペルでずんちゃんがウバルドというのはホントに驚きましたし、ぶっちゃけショックでした。もちろん、これで順当だよと考える人がいることもわかっています。それでも、ね。
 以前にも言いましたが、私は今の宙組で四番手というものがあるとすれば(三番手はもちろん愛ちゃんです)それはずんちゃんのことであってあっきーのことではない、と考えていますし、それからしたらむしろ当然で本当に順当な配役なんだけれど、でも『HOT EYES!!』ではまだ微妙にずんちゃんよりもりくよりもあっきーを立ててくれているように見えた気がしたので(でも私の視界はとても狭くて何しろ全体がよく見えていないので、この判断もかなり怪しいのですが)、ここに来てついに逆転に打って出られるとは思っていなかったのでした。次の本公演からならともかく…なので、油断していました。なんならフィナーレ五人組のセンター、パレードの二番手羽くらいまで夢想してたんですから。そうかそれも全部ずんちゃんに持ってかれちゃうかもしれないのか、上級生だからってもう気なんか遣ってもらえないのか…とそりゃ落ち込みましたよ。あんま周りには言わなかったけど。だって普通に考えたらある意味あたりまえのことだし、騒ぎ立てても悲しくなるだけだったしね。まあ金ピカ着せてもらえて嬉しいからいいかとか、まぁあきキャッキャウフフが見られるからいいかとか、すぐ気を取り直しましたしね。私は弱虫なので落ち込み続けていられるほど強くないのです、すぐ慰めを見つけてしまうの。
 『エリザベート』に関しても、そもそも演目発表時にせいぜいエルマーだよね、下手したら大臣とかだよねとか低めに考えて(これらの役をしてきた生徒たち、これからする生徒たちを貶める意図はありません)心の準備をしてはいたつもりでしたが(私は高望みしてあとで裏切られて落ち込むのが嫌いなので、なるだけ最初から低く見積もって期待しないでおくという、あまり良くない癖があるのです)、こうなるといよいよ老け役もきちんと覚悟しておこう…くらいまでは考えました。
 だからルドルフ役替わり発表には心底驚きました。そりゃ見たいとちらりと思いはしたよ、役が少ないからこここそ役替わりがあるだろうと思ってはいたよ、でももうこの流れ的にそれこそずんそらもえことかでやるに違いないと思っていたのです。うちも、りくファンも、イヤ一緒にするのもいろいろ問題あるのかもしれないけれど、すんごい驚いたしすんごい嬉しかったのではないでしょうか。私はすんごい驚いたしすんごい嬉しかったです。入り待ちに向かうべく家を出るところへの会メールで、あわてて公式ニュースをチェックしましたが、手は震えてブーツ履けないしモタモタしてたら電車に乗り遅れてスタンバイ時間に遅刻しそうだしでもうタイヘンでしたもん。単に現時点ではこの三人の方がまだ客が呼べると判断されただけなのかもしれないけれど、そしてこういう役替わりってたいていその中の最下級生のためのものだったりするとも承知しているけれど、それでも、なんであろうと、いただけるチャンスはありがたくいただくよ期待に応えるよがんばるもん絶対!とか、ものすごく力が入りました。その日の入り待ちですぐにお祝いが言えたの、嬉しかったなあぁ…!
 公演日程が出て、貸切公演も多いんだけれど3人とも担当回数はほぼ同じで、登板順は学年順というか番手順というか微妙な空気だし、結局のところ初日や大千秋楽、おそらくDVD撮りもずんちゃんが担当するんだけれど、そしてそれが劇団の意図で本命だってちゃんとわかってるんだけど、でもそういうことはもういいの、とにかくやらせてもらえるだけで嬉しいの。あきルド初日がマイ・バースデーという恐ろしい余録もあるし、十分です。
 だってすごいことですよ、やっぱり。私はこれまた以前に書きましたが『エリザベート』という作品にあまり納得したことがなくて、作品として好きか嫌いかと言われればどっちでもない程度くらいでしかないようなファンなのですが、それでももちろん大作で劇団の財産だと思っているし、ファンが多い作品だとも知っているし、そんな中でこんなメインキャストに入ってのちのちまでも歴史に名を残せるなんてすごいことだと思うのです。大空さんもやった役だしね…! あのときの大空さんもたいがいな学年でしたが、そういうこととは関係なくあれはやはりあの人の当たり役のひとつになり出世作になったと思うし、そういう力がこのキャラクターとポジションにはあると思うし、それに応える力が今の私の贔屓にはあると私は思うのです。これは本当はオフレコなんでしょうけれどあくまで自分の体験として批判覚悟であえて書きますが、お食事会で、劇団から配役を言われたときの感想を聞いたとき、「…嬉しかったです」ときゅっと笑って顔を輝かせたのを隣で見られたことは私の宝塚人生の宝物のひとつになるかと思います。聞いてよかった、聞けてよかった…あの顔が見られて嬉しかったです。
 思えば『NW!宙』の「主な出演者」に決まったときの本人の反応は、もっと薄ぼんやり(オイ)していたと思うのです。ちょっとこちらが心配になるくらいに…それからしたら、やっぱりいい意味で欲が、やる気が出てきているのではないかしらん。
 こんなふうに変化していく贔屓にこんなふうに寄り添え応援できるファン活動が楽しすぎて嬉しすぎて、先日別のお友達とまったく別件で盛り上がったときに「これをリア充でないとは言わせない」とか本気で言い合っちゃいましたよ。そりゃこんなすでに廃れた流行言葉とは比べ物になりませんよね、なんせ100年以上連綿と続いているワケですからね、この営みは。

 変化と言えば、今回の東京お茶会が本当に、なんというか、特殊で独特でした。たまたまだったんだろうけれど、今までにない回でした。
 私が行かなかった前日の出待ちで当人が「持てる力のすべてを出し切ります」みたいな宣言をしていたそうなのですが、二回公演×三日連続の疲れのピークに来るイベントに最後の元気を振り絞る、というような意味かなとか、はたまたがっつり萌えを仕込んだ萌えイベントに仕立て上げて盛り上げてみせる、みたいな意気込みかなとか、思っていたのですが…
 そういうんじゃ、なかった。なんか、なんか…巧まずして、本人の素の人柄全開の、あたたかくてやさしい、不思議な、奇跡的な、幸せ色に染まった、時間と空間になっていたと思いました。終わったとき、全然言語化できませんでした。まったくつぶやけなかった。今もうまく言葉にできる気がしませんが、ちょっとがんばってみるとですね(書かないと結局忘れるので)。
 私が初参加したのは確か『風共』東京茶で、そこから東西ほぼ欠かさず三年近く行き続けていると思うのですが、こんなにもいい意味で会の仕込みや仕切りがなかった回は今までになかったと思うのです。
 私はお茶会というものは、もちろん生徒本人の魅力が一番の目玉なのだけれど、トークやゲームの進行にせよ会販や記念写真撮影や握手会、お見送りその他のオペレーションにせよ、会の仕切りで盛り上げかつスムーズに進められることはたくさんあると思っていて、そういう部分が今ひとつだとホント残念でもったいなく、生徒を気の毒に思ったりするのですね。それくらい会の仕切り、イベントの仕込みというものに重きを置いているというか、逆に言うと生徒本人には実はあまり多くを期待していないというか、なのです。だって舞台で輝くことが彼女たちの一番の仕事であって、素のトークがおもしろくなかったりモタモタしかしゃべれなかったりしても仕方ないじゃん!とまたまた期待を低くして、幻滅するのをガードしようとしてしまうのですよ私は。逆にあざとく賢く回しすぎちゃう生徒とかには、すごいと感心はするけどちょっと怖いし嫌だわ…とすら思っちゃうので。
 で、澄輝茶はここ数回、会がきちんと仕込んだ萌えゲームに、ド天然で本当は何がウケてて何が望まれているのかよくわかっていない、あざとさゼロの本人(あくまで私のイメージです)がニコニコ言われるがままに役割をこなしなんなら望まれる以上のことをやってみせたりして、それがその天然さ込みで会場を萌え焼き野原にする…ということが多かったと私は思っていて(ことに前回は、本質的なことはやっぱりわかっていないなりに臨機応変力が増していて、さらに大きな萌え焼き野原を生み出していて、私はけっこう驚き、本当に感心し感動したのですが)、それですごくちゃんと成立しているな、と思っていたのです。
 が、今回、会の仕切り、仕込みがほとんどなく、本人に任された部分が多くて、本人のペースでなんだかなりゆきでゆるゆる進んで、でもそれがグダグダになりすぎず、完全にあの時間と空間が本人色に染まって、お花畑が…天国的な奇跡の異世界(笑)が現出していたように思えたのです。
 特別なことは何もしていません。登場してまず挨拶があって、司会者の質問があって、そこに答える当人がノリノリで語り始めたら切れなくてどんどん脱線していって、でも司会者も特に止めず、当人も脱線していることはわかっていて自ウケしたり自分で軌道修正を試みたりしつつもやっぱり話したいことを話したいように話し、その話がまたおもしろくて転がっていって全然場が保っていて、会場みんなが笑って楽しんでいたように私には思えたのです。下級生たちに慕われているらしいこと、あたたかな組の空気が感じられて、みんながほっこりしていました。
 ゲームも、まずは「アンを探せ!」というもので、お茶会参加者全員にまず立ってもらい、当人がその場で思いついた「アンの条件」を上げていって、条件に合わない人から座っていき、最後に残ったのがこの会場のアン、というものだったのですが、「弟がいる」「植物を育てている」あたりは順調だったんですけれど、だんだん条件に悩み出して間が開き出して、でもその悩む様子も可愛かったし、確かに最後にひとりだけ残るよう上手く条件を出すのは難しかったと思うんだけどちゃんとやりとげて、見事アンになった方の手を取って会場の前方に連れていってあげて花冠をかぶせてあげる紳士っぷりがまた素晴らしかったのです。
 その次のゲームも、オーベロンに関するクイズを事前に当人が考えてきて、抽選で当たったテーブルに出題しつつヒントを出したり参加者たちをいじったりするもので、問題が絶妙に難しくておもしろかったし、いじりもSっぽかったり優しかったり会場全体にかけたりで、めちゃくちゃよかった。
 歌のプレゼントはスカステ「音楽の宝箱」で歌った「青い星の上で」で、スイッチの入り方が素晴らしく、番組で聞くよりしみじみ聴かせてくれましたし、歌い終わるとまだ後奏が残っているのにテレてスイッチ切って「ハイ!」ってシメちゃうのがまた最高にキュートでした。
 その前に、参加者からのプレゼントを『エリザベート』のお稽古で着るルドルフの軍服ふうのお洋服にさせてもらった、という話があって、そこでことさらでなく配役に触れさらりと抱負を語るのがまた抜群にカッコよかったです。
 本当に、なんだったんだろうな。奇跡だったのかな。ここに来て、会が生徒さんに任せてみた、というのはあるのかもしれません。
 初めての会場で、本当に大きなところで、私なんか埋まるのかしらと心配していたくらいなのですが、練り歩くのが大変なくらいにテーブルがぎっしりになっていて、でもそこをくまなく歩いてくれて、終始ニコニコでご機嫌で。
 青が好きなのに本当に珍しく赤と黒のジャケットを着て来て、それは今回のショー仕様でもあったのだけれど、やっぱりなんらかの気合いの表明だったのかもしれません。
 本当に本当に、幸せにさせていただきました。いっぱいお友達も呼べたし、よかった!

 なので、次のエジプトという名の博多も楽しみよ!とか思っていたら今日、さらにその先のウィーンという名の天国ポスターもぶっこまれましたね!? 切手でも入れて嬉しい! 祝・本公演初ポスターメンバー!!
 いやあ、こんなちっちゃい画像でもわかるノーブルさ、ロイヤルさ、スマートさ。繊細そうで、はかなげで、悲しげで、脆そうで。あとなんか若い! とにかくイイ!!
 素の当人はお高いところがまったくないのに、どうしてこんなにロイヤルに変貌できるのか、本当に謎です…しかし美しい…
 ああ、ナウオンも呼んでよね、ニュースで役替わりトークもやってよね!
 スマホやPCの画面からでは小さくて拡大しきれないので、早く本物のポスターを入手して日々眺めたいです。
 そんなこんなで、日々楽しくやっていますという日記でした。毎度しょーもなくてすみません。ファンの方でお目障りに思う方がいましたらすみません。あくまで個人の感想であり日記です…でもみなさん優しいからスルーしてくださっていますよね、ありがたや。
 では今回はこれにてどろろん。








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