愛聴盤の、
カラヤン/新ウィーン楽派管弦楽集
は、棚に置いたまま、名前だけ同じヘルベルト、実はフルネームをヘルベルト・ケーゲルという自殺一年前に生聴きしてしまったその人の棒を見たことがあるけれども、あまりさっぱりだったこの指揮者の魅力的な昔のCDもといSACDをお蔵から取り出して、じめじめした梅雨にふさわしいなどと独り言を言いながら聴き始めた。
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アントン・ウェーベルン作曲
パッサカリア op1
5つの楽章 op5(弦楽合奏版)
6つの小品 op6
5つの小品 op10
交響曲 op21
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ヘルベルト・ケーゲル指揮
ライプツィヒ放送交響楽団
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録音:1977年10月26-29日
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SACD ハイブリッド
(コピーコントロールCD)
2310円
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5曲も並べてあるけれども、トータルで50分弱だ。一番のお気に入りはパッサカリアかなぁ。やっぱり。
パッサカリア。古い音楽と決別し、無調、十二音階へと進んでいくのに、なぜか形式は陳腐なままだ。シェーンベルクもソナタ形式から抜けきれなかったのではないのか。
パッサカリア。形式はそのままだ。繰り返される音楽。
しかし、冒頭から揺れ動くウェーベルンのパッサカリアの音楽の魅力には抗しがたい。
ライプツィヒのやや埃っぽい中性能のオーケストラをうまく操っているとは思えないし、そのつもりもない棒から見事な音楽があふれ出てくるのはなぜなのか。
冒頭の秘密めいたピッチカートからクラリネットや他のウィンドが妖しげに揺れ動く見事な音楽。我々聴衆の、今いた時代的位置がこれほど明確に感じられる音楽も少ない。
あの揺らぎの音楽は、過去の伝統と未来の無調のがけっぷちでどちらに転んだら幸せなんだ、と言わせたがっているように思える。
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音楽はアップテンポとなりかなり性急な感じになる。
こうなると音楽の少し大時代的な部分が出てきてしまい後戻りしたような錯覚にとらわれる。カラヤンはこのあたりうまくこなす。
いずれにしても、全体的に早い。作曲者指定15分のところ12分しかかかっていない。カラヤンも同じくらいだがあまり性急な感じはしない。
そして音楽は再び落ち着きを取り戻し、
最後は、
まるで、
マーラーの交響曲第6番第4楽章の終結部さながらの悲劇的な結びとなる。
なんと魅力的な音楽であることか。
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このSACDの収録1曲目はパッサカリア、最後が交響曲。
結局、形式から抜け出せなかったヨーロッパの音楽を見事にあらわしている。
音楽とは面白いものだ。
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このSACDの効果はいかばかりか。
ウェーベルンの秘密めいた音楽を非常によくとらえら素晴らしい音質で、1977年と今の違いがあまりわからないレベルに達している。技術的には機能的ではないが、たまに馬力をだすあたり、無調十二音音楽に熱を感じさせてくれるので、これはこれで白熱の演奏。
このケーゲルはSACDという相乗効果もありなかなかの値打ちものだ。おすすめ。
なお、カラヤンの有名な新ウィーン楽派管弦楽集にはシェーンベルク、ベルク、ウェーベルが収録されている(3枚もの)。
ウェーベルンはほぼケーゲル盤とほぼ同じだが、カラヤン盤には、
5つの小品 op10
は、はいっていない。
おわり
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