1991年、サイモン・ラトルとバーミンガムは2度目の来日をしました。
昨日は2月7日の演奏会を紹介しました。
今日はこれです。
.
1991年2月10日(日)7:00pm
サントリーホール
.
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第3番
ピアノ、ピーター・ドノホー
.
ラヴェル/ダフニスとクロエ(全曲)
.
合唱、晋友会合唱団
サイモン・ラトル指揮
バーミンガム市交響楽団
.
興味尽きないプログラムであるが、やる気度はもちろん後半のラヴェル。
ドノホーのピアノは別の日のプログラムのトゥーランガリラのピアノと兼務といったところか。
.
第3場の夜明けの音楽は、オーケストラに少なからず濁りがあるものの、肉厚のステンドグラスが多角的な模様を醸し出すような実に迫力ある弱音からの音楽生成であった。見事というほかない。それもこれも第1部の最初の音からの積み重ねである。
ラトルはリズムにあまりとらわれない指揮者だ。リズムをことさらとりたてて強調するようなやり方はしない。ダフニスはバレエ音楽であるのでリズミックなイメージを想起しがちであるが、ゆっくりと流れる音楽が素晴らしい。音は分厚いはずなのになぜか透明な音色。ラトルの色彩感覚がよくあらわれている。赤く透明な音色がラヴェル的だ。
突き刺すリズム感覚は2月4日に演奏されたメシアンのトゥーランガリラ交響曲を聴くのが正解であったろう。何故か今回は聴きのがしてしまった。昨日書いたマーラーの9番、そして今日のダフニスのほうを選んでしまった。今となってみれば痛恨の極み。無理をしてでも4日のトゥーランガリラも聴くべきだった。あとで、しまった、と思うこともあるものだ。
ところで、
この日のプログラムは、2月6日に福島でも行われているが、合唱がついたのはこっちの10日の演奏会のほうだけ、というユニークなもの。
国内編成の合唱団であるが、それなりに練習を重ねたことだろう。ラトルの表現にうまく合致しコントロールされた色彩の歌声で聴きごたえがあった。
結局、この日のダフニスの全体印象としては、60分にもおよぶ曲なのに、なにか蛇腹に押しつぶされたようなぎっしり詰まった音楽、10分ぐらいの時間感覚。そのなかに全部の色彩が詰め込まれたような、妙な圧縮の音楽を感じた。
.
前半のベートーヴェンの3番の協奏曲であるが、この暗くて息の長い曲は必ずしもラトルの得意な分野ではないのかもしれない。またドノホーはいかにもイギリス演奏家といった感じで、個人の演奏が国の歴史を感じさせてくれるようなところがある。
噛めば噛むほど、というやつで、日本ではあまり有名ではないが、イギリスではこのような温和な演奏スタイルがいいのかもしれない。
この曲を知るには絶好の機会であり、またそのような聴き方にふさわしい演奏だ。
おわり
.