「日本美術総まとめ」 BRUTUS

雑誌「BRUTUS」最新号、特集「日本美術総まとめ」を読んでみました。

「BRUTUS/日本美術総まとめ/マガジンハウス」

バンと見開きに「松林図屏風」から始まる特集「日本美術総まとめ」。東京国立博物館ことトーハクに完全準拠。同館の所蔵品から、考古、絵画、工芸のジャンルを問わず、日本美術を年代別に辿っていく企画となっています。



しかしながら単に年代別とは言え、教科書的な解説で済ませるわけではないのがブルータス流。様々な作品のエッセンス、魅力を親しみやすいテキストで紹介。実際に作品を見た方には「そうそう。」と頷き、また作品を見てない方には「見たい!」と思わせるような語り口です。構成の橋本麻里さんのセンスが光っていました。

では早速、少し中身を。まずはその年代別の美術品。はじまりは縄文です。各時代には例えば縄文は「縄文は爆発だ!」、また弥生・古墳時代には「用の美で行こう。」などのキャッチーな見出しがつきます。



また思わずうまいと感心したのは平安時代を「不安時代。」としていることです。半ば意に反し、地震や噴火や疫病などの災厄に襲われたかの時代。そこから救いを求めるための密教と浄土教の話へ。彫刻中心だった仏教美術において曼荼羅などの仏画が重要になるのもこの時代です。美術を常に社会と関連付けて解いています。

さらに鎌倉の仏像を「人間だもの。」だとするのは端的ながらも明快です。確かに鎌倉の仏様、運慶仏をあげるまでもなく実に「リアリティ」に富んだもの。それに「地獄草紙」を地獄ガイドブック、ミシュランとも紹介。コピーが作品の核心、要点を突きます。



圧倒的なビジュアルで攻めるのは安土桃山。「黄金時代。」と名付けられた永徳の「檜図屏風」です。作品は現在、修復中で、来年に東博で公開される予定ですが、よく表紙を見てみればこちらも同作品が。口に筆をくわた永徳が、大見得を切るかのように檜図へ向き合う姿が描かれています。もちろん絵を手がけたのは一目瞭然、山口晃さんです。

また東博の常設ではともすると影の薄い近代美術についても言及。ずばり「迷える近代。」。そもそも東博は明治5年、ウィーン万国博への出品作を展示した日本初の博覧会を創設の年としています。

その他には日本美術の贋作事件や日本美術のコレクターさんの紹介、また東博の出品予定スケジュール表なども。うち特に興味深いのは「教えて中の人、美術品の扱い方。」



いつもガラスケースの中にある状態でしか見たことのない作品たち。それが一体、展示や調査にあたってどの扱われているのか。簡単なイラストで分かりやすく紹介しています。安定しない壺は中に重しとして砂袋を入れて扱っているのだとか。初めて知りました。また陶磁のケースは全て免震機構が採用されているそうです。

さて最後にもう一つ忘れていけないものが。現在平成館で開催中の特別展「和様の書」についての特集。これまた良く出来ています。



タイトルは「ブルータスの美文字練習帖 書いて楽しむ『和様の書』」。ずばり書が読めなくても展示を楽しめるよう工夫された企画。また練習帖とあるように「なぞり書き」のコーナーまで。しかもわざわざ紙の質を変えてノート風にしているのです。何と芸が細かい!



「BRUTUS 日本美術総まとめ」特集号@マガジンハウス

ブルータスの「日本美術総まとめ」。さすがに楽しめます。「和様の書」はもとより、この夏、丸一日、東博の展示を見て回るのにも最適な一冊ではないでしょうか。

「BRUTUS 2013/8/15号/日本美術総まとめ/マガジンハウス」

東博のショップでも扱っていました。まずはお手にとってご覧ください。

「日本美術総まとめ」 BRUTUS (ブルータス)
内容:東京国立博物館(トーハク)に行けば、ぜんぶわかる!日本美術総まとめ。
価格:600円(+税)
刊行:8/1発売(8/15号)
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「坂田栄一郎ー江ノ島」 原美術館

原美術館
「坂田栄一郎ー江ノ島」
7/13-9/29



原美術館で開催中の坂田栄一郎個展、「江ノ島」へ行ってきました。

上の一枚のちらし表紙に載せられた写真作品の図版。砂地にだらりと被さる血のように赤いタオル。その上には食べ尽くされたスイカの切れ端が一つ、無造作に置かれ、中にはたばこの吸い殻が二本突き刺さっている。

失礼ながらも作家、坂田の名を知らなかった私は、このちらしを見た瞬間、ただ直感的に強く引かれ、一体どのような展示が待ち受けているのかと期待に胸を躍らせながら原美術館へと向かいました。

光り眩しき江ノ島の砂浜。そこに開けていたのは不在のポートレイト、そして事物を越えた絵画的とも呼べる、鮮やか極まりない色彩世界です。

「AERA」表紙のポートレイトの仕事でも知られる写真家、坂田栄一郎は、約16年にも渡って夏の江ノ島に通い、砂浜に残された様々なモノを写真におさめました。


坂田栄一郎展 gallery2 会場風景

本展ではそれらを一括して紹介。いずれも未発表の40点の写真作品が展示されています。

さてまずは不在の感覚。確かにここにはいずれも人の姿はなく、砂にまみれたレジャーシートやポーチ、サンダル、それに蓋のあいたビール缶や食べかけのおにぎりなど、いずれもモノばかりが写されていますが、そこにはどこか持ち主たちの気配が残されているのです。



モノからわき上がる強い人の存在感。ヒョウ柄のタオルはどういう人が使っていたのか。また飲みかけのビールで思い浮かぶ砂浜での宴会。それにマスコットや子どもの浮き輪から連想される家族の肖像。そうしたイメージが次々とわいてきます。

いわば静物的なモノにも関わらず、これほど浮かび上がる人、その強く漂う生活の臭い。ポートレイトを追い求めた坂田だからこその表現なのかもしれません。

さてもう一つの魅力。それは絵画的展開です。今、静物とも呼びましたが、砂浜上のモノがさながらコンポジションを形成するかのように展開し、一つの抽象画とも言うべき地平が。これが色に形に強度を持って、実に鮮烈な印象をもたらします。



例えばシートを捉えた上の一枚。光を受けて銀色に輝くビニールシート、ペンギンの模様が描かれ、空き缶やオイルの容器などが散乱していますが、これがもはや一つの美しき人工的景色として立ち上がってくる。光の屈折がまたテクスチャに多様な表情を与えています。

坂田は基本的に残されたモノに対して何らかの作為をしないそうです。にも関わらず、この意図されたかのような絶妙な構図感。写真として切り取ることで生まれる新たな風景を獲得しています。



またいずれも砂浜のごく一部分、打ち捨てられたシートなどの狭い範囲を捉えていますが、それが不思議と広がりをもっているように見えるのもポイント。距離に対しての感覚を揺さぶります。砂にせめぎあうシート、タオルが、巨大なランドスケープを作り上げていました。

真夏の砂浜に潜んだ美の世界。ギラギラとした陽射しが色自体の魅力を引き出していく。なお2階には同じく江ノ島で撮影したポートレイトも。こちらは水着姿の若者たち。いわば不在のポートレイトの主たちです。強い自信、生命感に満ちあふれていました。

なお会場内、一階のgallery2のみ撮影が可能でした。本エントリに掲載した写真はいずれもgallery2の作品です。(作品はいずれも「江ノ島」)

「LOVE CALL 時代の肖像/坂田栄一郎/朝日新聞出版」

9月29日までの開催です。これはおすすめします。

「坂田栄一郎ー江ノ島」 原美術館@haramuseum
会期:7月13日(土)~9月29日(日)
休館:月曜日。(但し祝日にあたる7月15日、9月16日、9月23日は開館。)7月16日、9月17日、9月24日。
時間:11:00~17:00。*水曜は20時まで。
料金: 一般1000円、大高生700円、小中生500円
 *原美術館メンバーは無料、学期中の土曜日は小中高生の入館無料。20名以上の団体は1人100円引。
住所:品川区北品川4-7-25
交通:JR線品川駅高輪口より徒歩15分。都営バス反96系統御殿山下車徒歩3分。
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8月の展覧会・ギャラリーetc

今月の気になる展覧会をリストアップしてみました。

展覧会

・「ET IN ARCADIA EGO 墓は語るか」 武蔵野美術大学美術館(~8/10)
・「生誕130年 彫刻家・高村光太郎展」 千葉市美術館(~8/18)
・「谷文晁」 サントリー美術館(~8/25)
・「<遊ぶ>シュルレアリスム」 損保ジャパン東郷青児美術館(~8/25)
・「浮遊するデザインー倉俣史朗とともに」 埼玉県立近代美術館(~9/1)
・「大妖怪展ー鬼と妖怪そしてゲゲゲ」 三井記念美術館(~9/1)
 #前期:7/6~8/4、後期:8/6~9/1
・「幽霊・妖怪画大全集」 そごう美術館(~9/1)
・「第19回 秘蔵の名品アートコレクション展」 ホテルオークラ東京(8/7~9/1)
・「特別展 和様の書」 東京国立博物館(~9/8)
・「浮世絵 Floating Worldー珠玉の斎藤コレクション」 三菱一号館美術館(~9/8)
 #第1期:6/22~7/15、第2期:7/17~8/11、第3期:8/13~9/8
・「鹿島茂コレクション3 モダン・パリの装い」 練馬区立美術館(~9/8)
・「PAPERー紙と私の新しいかたち」 目黒区美術館(~9/8)
・「アンドレアス・グルスキー展」 国立新美術館(~9/16)
・「プーシキン美術館展」 横浜美術館(~9/16)
・「日本の絵 三瀬夏之介展」 平塚市美術館(~9/16)
・「八谷和彦 OpenSky 3.0」 3331 Arts Chiyodaメインギャラリー(~9/16)
・「アートがあれば2ー9人のコレクターによる個人コレクションの場合」 東京オペラシティアートギャラリー(~9/23)
・「ルーヴル美術館展ー地中海 四千年のものがたり」 東京都美術館(~9/23)
・「米田知子 暗なきところで逢えれば」 東京都写真美術館(~9/23)
・「中村不折コレクション 江戸ワールド」 台東区立書道博物館(~9/25)
・「速水御舟ー日本美術院の精鋭たち」 山種美術館(8/10~10/14)
・「レオナール・フジタ ポーラ美術館コレクションを中心に」 Bunkamura ザ・ミュージアム(8/10~10/14)
・「アメリカン・ポップ・アート展」 国立新美術館(8/7~10/21)

ギャラリー

・「政田武史『それはこうして現れる。世界が吹き出す時に。』」 HAGIWARA PROJECTS(~8/10)
・「大田黒衣美 不知火の水まくら」 青山|目黒(~8/10)
・「高橋大輔 絵の絵の絵の絵」 アルマスギャラリー(~8/10)
・「西森瑛一 天国について」 児玉画廊東京(~8/10)
・「楽園創造(パラダイス) Vol.2 池崎拓也」 gallery αM(~8/24)
・「TWS-Emerging 改田憲康、江川純太、松井沙都子、市川紗也子」 TWS本郷(8/3~8/25)
・「ミン・ウォン展」 資生堂ギャラリー(~9/22)

さて今月はあえて一つ。ともかく一番楽しみなのが国立新美の「アメリカン・ポップ・アート展」です。



「アメリカン・ポップ・アート展」@国立新美術館(8/7~10/21)

コロラドのコレクター、ジョン・アンド・キミコ・パワーズ夫妻のポップ・アートコレクションが日本はおろか、世界でも初めて大きく公開される展覧会。作品数は圧巻の200点です。ウォーホルの「200個のキャンベル・スープ缶」でも話題ですが、リキテンスタイン、ラウシェンバーグ、ジャスパー・ジョーンズらの傑作も。特にリキテンスタインは私も大好きなアーティスト。早々に行くつもりです。

「ウォーホルの芸術 20世紀を映した鏡/宮下規久朗/光文社新書」
*ウォーホルといえば、宮下先生のこちらの新書がおすすめです。

ギャラリーの展示もいくつか挙げましたが、8月は多くのギャラリーが夏休みに入ります。お出かけには前もってサイトなりをチェックしておいた方が良いかもしれません。

さて最後に私事で恐縮ですが、先月初旬から非常に忙しくなってしまい、7月中は展覧会を殆ど見られませんでした。(そのため上のリストも7月とあまり変わりません。)8月に入り、多少落ち着いてきましたが、夏休みなどどこへやら、と言った状況がまだしばらく続きそうです。たくさんの展覧会をリストアップしましたが、この中から見たいものを絞って動ければと思っています。

「BRUTUS (ブルータス) /日本美術総まとめ/マガジンハウス」
*ブルータスの日本美術特集が発売されました!

それでは今月も宜しくお願いします。(ブログもしばらく不定期で更新します。)
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