「鳥居清長 - 江戸のヴィーナス誕生 - 」 千葉市美術館

千葉市美術館千葉市中央区中央3-10-8
「鳥居清長 - 江戸のヴィーナス誕生 - 」
4/28-6/10

江戸・天明期(1781-89)を代表する浮世絵師、鳥居清長(1752-1815)の大回顧展です。国内外より選ばれた約270点(展示替えあり。)の品々が集います。かつてない規模の清長展です。壮観でした。



まず副題の「江戸のヴィーナス」が気になりますが、これは清長がいわゆる「清長美人」、つまりその特徴的な八頭身美人を描いたことに由来しているのだそうです。彼はその美人を、二枚、あるいは三枚続きのワイドな画面に、さながらポスターでも飾るかのようにして所狭しと並べました。それが当時、極めて斬新であり、また大いに受けていたというわけなのです。

清長が「清長美人」を作り出した時期は意外にも限られています。八頭身を描いたのは、鈴木春信の様式に倣った画業初期の安永期(1772-1780)を経た天明期(1781-89)に入ってからのことですが、その後、喜多川歌麿らの登場によって早くも飽きられてしまい、寛政期(1789-1800)の後期には歌舞伎の絵看板や番付絵の制作へと移ってしまいます。とすると、画業のピークは10年、長く数えても15年程度ということでしょうか。ちなみに寛政期は、かの天才浮世絵師、写楽の出現した時代でもあります。ここに、目まぐるしい浮世絵表現の変遷を見ることも出来そうです。



八頭身美人の妙味を味わえる作品としては、「美南見十二候 七月 夜の送り」を挙げないわけには参りません。墨によって表現された闇夜を背景に、清長美人が左右へと広がるかのようにして並んでいます。ここで興味深いのは、登場している人物の関係です。左から二番目にいる男性は、先導する女性に連れらながらも、やや名残惜しそうに右の女性を見つめています。そしてもちろん、その視線は互いに交じり合っていました。ここは「清長美人」に見入りながら、錯綜する男女の関係を詮索してみるのも面白いかもしれません。



清長は、お得意の八頭身美人を、実際の江戸の光景とリンクして描くことにも長けていました。ちらし表紙にも掲載された「大川端の夕涼」では、足を開けたり団扇を持つ八頭身美人が、まさに隅田川沿いの大川端(現在の中央区佃)で気持ち良さそうに夕涼みする光景が描かれています。また「亀井戸の藤見」でも、花の美しく垂れる藤棚の元、例の美人がこれ見よがしと広がっていました。(場合によっては九頭身美人というのもあったそうです。)また、総じて時代が進むほど、江戸の「名所絵」と「八頭身美人画」の組み合わせは凝ったものになっていきます。江戸っ子を惹き付けるための努力だったのかもしれません。

私自身、浮世絵には苦手意識があり、どうも気の利いた感想を書くことが出来ないのですが、(申し訳ありません。)ともかく「六大浮世絵師」(歌麿・広重・北斎・写楽・春信・清長)の一人を余すことなく紹介する展覧会です。清長の作品は早い段階から海外へ流失し、その研究も殆ど進んでいなかったそうですが、今回の回顧展では、メトロポリタン、ボストン、シカゴなどの美術館からも多数「里帰り」しています。まさに史上最強の清長展と言えそうです。

6月10日までの開催です。もちろんおすすめします。(5/20)
コメント ( 9 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
美人画 (とら)
2007-05-31 09:01:14
貴重な展覧会でした。珍しく図録を買ってきて、眺めています。多分「美人画」だからでしょう。浮世絵の好みは美人画>風景画>芝居絵>相撲絵です。
 
 
 
美術館も (花泉)
2007-05-31 13:42:44
千葉市美術館も素晴らしいとききました。
6/10まで、行けるかしら・・・行きたい!
 
 
 
Unknown (はろるど)
2007-05-31 21:53:14
@とらさん

こんばんは。こちらにもありがとうございます。

図録も立派でしたね。
展覧会にかける美術館の意気込みも伝わりました。
千葉市美、今年一番の内容になるかもしれません。


@花泉さん

こんばんは。
浮世絵、江戸絵画などがお好きであれば、もう間違いなく必見の展覧会だと思います。
清長の二度とない回顧展かもしれません。

>千葉市美術館も素晴らしい

そうですね。区役所と一体になっているのですが、
歴史的建造物を残すような感じで面白いと思います。
(一階のホールは必見です!)
ただ駅からのアプローチが良くないので、
地図をご持参された方が確実です。
千葉駅から歩くと15分くらいかかります…。
 
 
 
僕も苦手 (oki)
2007-06-01 22:20:07
浮世絵はどうも苦手ですね。
けど出光の「肉筆浮世絵のすべて」でなんとなく感じがつかめた気もします。
ほんとになんとなくですがー。
次の千葉の企画展示はシャガールですね。
僕が美術に入ったのがシャガールなのですよ!
これは必ず行きます。
その次が「若冲とその時代」ですか、うーむ
千葉もブームに完全に乗っていますねー。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2007-06-02 01:39:57
こんばんは。
okiさんも浮世絵が苦手でしたか。
出光の展覧会は実際のところ行くかどうか迷っていたのですが、
「感じがつかめる。」となると行くしかありませんね。
そろそろパス購入しようかなとも思っています。

>次の千葉の企画展示はシャガールですね。
僕が美術に入ったのがシャガールなのですよ!
これは必ず行きます。

これは楽しみですね!そして若冲も!
同館所蔵の鸚鵡図も出るでしょうね。桝目の白象図などが出たりするとさらに嬉しいのですが…。(欲張ってます。)
 
 
 
江戸の名所 (一村雨)
2007-06-06 19:32:42
清長の頃は、まだ北斎、広重のような純粋な浮世絵の
風景画は無かったのですね。
まだ、美女とのリンクが主流だったでしょうね。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2007-06-07 01:03:10
一村雨さんこんばんは。

>まだ、美女とのリンクが主流

そうですね。清長が風景浮世絵を描いていたら、
さぞや豪勢なものになっていたような気もします…。

西洋の遠近法を思わせる鳥瞰的な構図にも見入りました。
 
 
 
清長とボッティチェリとモーツァルト (岩波八尋)
2008-08-12 07:42:14
時代遅れで申し訳ありません。
今 拝見いたしました。
清長展は入れ替えもありましたので見てきました。
実はモーツァルトのウィーン時代と清長の江戸のヴィーナス作製期間非常に良く重なります。

12世紀に断絶していたギリシャ文化がイスラム圏からヨーロッパに伝わり、大センセーションが起こり、その結果としてルネサンスがはじまり、その初期にボッティチェリが初めてヴィーナスを描いたようです。
江戸ではヨーロッパから伝えられたギリシャ文化の八頭身美人を源内などから教わって、清長が描いたのでしょうか。
ということで
「夜の送り」「大川端夕涼み」とボッティチェリの「春」「ヴィーナス吹き寄せ」を比較してみると、日本は、ギリシャと背景となる文化的連続性がありますので良くこなれた画面ができますが、ボッティチェリの画面では、ヨーロッパと全く異なるギリシャ文化を書物を読んで理解して頭で考えているという感じがどうしてもしてしまいます。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2008-08-13 21:04:45
岩波八尋様、こんばんは。
ご丁寧なコメントをどうもありがとうございます。

>モーツァルトのウィーン時代と清長の江戸のヴィーナス作製期間非常に良く重なります。

ギリシアの八頭身美人を源内経由で清長というのは、興味深いご指摘ですね。徐々にその身長が長くなっていく彼の美人画の変遷はとても面白いのですが、そのような点に関連があったとは知りませんでした。
ボッティチェリと是非見比べてみてみたいものです。
 
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