「六本木クロッシング2007:未来への脈動」 森美術館

森美術館港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階)
「六本木クロッシング2007:未来への脈動」
2007/10/13-2008/1/14



昨年秋より開催されていながら、ついうっかりと見逃していた展覧会です。ジャンル、世代を超えて集う計36名(組)の現代アーティストが、多様なアートの可能性を模索します。2004年に次いでの第二回「六本木クロッシング」です。



今回のクロッシングの魅力として一番に挙げたいのが、作品、特にオブジェに見る、一種の職人技とも言える高い造形力です。この手の展示としてはお馴染みの映像アートや、森美の得意とするインスタレーションなども出品されていましたが、むしろそれより見入るのは、各作家がまさに精魂込めて作り上げ、また描いたようなオブジェや絵画の数々でした。そしてそれは、あの魅惑的な四谷シモンの人形が約10点ほど出ていることを見ても納得出来ます。「機械仕掛けの少女」らの並ぶ中で特に印象深かったのは、羽の生やした天使の人形「自前の愛」です。憂いの漂わせた、言い換えれば少年、少女期だけに持つ独特の切ない表情を顔にたたえた天使が、十字架を手に抱いて静かに佇んでいます。朽ち落ちた両足と、その骨組みも覗く体の様子が、どこかまた儚い生き様を象徴しているようでもありました。



精緻という点で、この展覧会の右に並ぶものがいないとさえ思うのは冨田悦子の銅版画です。1981年生まれの、一昨年にはじめて山本現代で個展を開催したという若いアーティストですが、生み出される作品にはその世界観を含めて強い魅力が感じられます。ともかく極限の細密な線にて象られた植物や動物が、有機的にも交わって一個の巨大なモチーフを作ることからして圧巻ですが、例えば花鳥画風の作品には若冲の濃密なイメージも重なって見えました。特に魚や動物たちが図像的に群れている版画には、かの「樹下鳥獣図屏風」のような雰囲気も感じられます。本展示で一推しの作家です。



職人技というよりも、作家の根気とも執念ともいえるようなものを感じるのは、新聞各面をそのままそっくりドローイングに写した吉村芳生の「ドローイング新聞」です。完成した作品よりもむしろその制作の過程に思いを馳せてしまうわけですが、いつの間にやら実物の新聞よりもじっくりと文を追ってしまうことにアートを感じてしまいます。またその他では、フィルムを24枚ほど重ねて、写し出された風景などをあたかも抽象画のように見せる、中西信洋の「レイヤードローイング」や、スポイトで一滴ずつ垂らした磁土を固めて焼いた、さかぎしよしおうのオブジェ、さらには生成する巨大生物とも洞窟ともいえるような名和晃平の作品なども印象に残りました。これらはどれも作家の細やかな技が冴えた作品と言えそうです。

三が日の森美術館は空いていました。14日、成人の日までの開催です。
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コメント
 
 
 
Unknown (秋映)
2008-01-13 01:14:00
はろるどさん、こんばんは。
冨田悦子さんの銅版画は、昨年秋、横浜美術館のアートギャラリー「若きアーティスト」展に10点ほど展示されていました。
至近距離で見ると、離れている時に見えないものが見えてくるので驚いた覚えがあります。
 
 
 
Unknown (oki)
2008-01-13 11:36:26
ふむ、三が日の森美術館はすいていましたか。
展望台とセットだから物見遊山が来ると思ったのにー。
「美術手帖」で当たったこのチケット、僕は使わないことになりそうです、明日までの展示って、ほかに行くとこ決めている!
板橋のブルーノ・ムナーリも、年末30日にチケット送ってきた会社があっていけないっていうの/苦笑。
森美術館は過去のカタログを見られるコーナーを展示最後の個所に作りましたよね、だんだん美術館らしくなってきた!
はろるどさん、森アーツセンターでやっていたウルトラマンは/笑。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2008-01-13 19:57:28
@秋映さん

こんばんは。冨田さんの銅版画は横浜にも出ておりましたか。全くノーチェックでした…。
「細密ここに極まる。」とでも言えるような実に精緻な作品ですよね。
仰るように、近づいても、また遠くから見ても様々なイメージの浮かびました。是非個展で拝見したいなと思います。


@okiさん

こんばんは。私も正月だから混んでいるかと思って、気合(?)を入れていきましたが、本当に拍子抜けするほど空いていました。森美の展望室も、さすがに前のようにはいかなくなったのかもしれませんね。感覚的にではありますが、ミッドタウンが出来てからヒルズ自体の観光客がかなり減ったような気もします。

ウルトラマンはパスしました…。別料金だったもので…。
 
 
 
Unknown (Tak)
2008-01-13 21:41:07
こんばんは。
実は明日の最終日に
田中氏が来館します!

 
 
 
Unknown (秋映)
2008-01-13 22:32:28
横浜美術館の片隅のスペースでの展示でした。
11月3日~12月2日まで、シュルレアリスム展と同じ時期でしたが、横浜美術館のHPでは全く触れてなかったんです。
私は好きな日本画の方の絵を見るつもりで行きましたが、冨谷さんのエッチングは印象的でした。

今夜、六本木クロッシングを見てきました。
2時間近くがアッという間。楽しかった!
 
 
 
Unknown (はろるど)
2008-01-14 01:10:30
@Takさん

オーディエンス賞の田中さんのご登場ということでしょうか。
ということはtakさんはご覧になられるということで…。記事楽しみです!


@秋映さん

こんばんは。
シュルレアリスム展の時でしたか…。確かあの時は夜に出向いた記憶があるのですが、もしかしたらその時はギャラリーは閉まっていたかもしれません。気が付かなくて残念です。

クロシッングは一点一点しっかり見ていくと結構時間がかかりますよね。
次回も楽しみです!
 
 
 
Unknown (みどり)
2008-01-14 12:53:28
あけましておめでとうございます。
気がつかなかったのですが、はろるどさんがこの展覧会の記事を書かれていた夜に観に行っていました。
吉村芳生さんの「ドローイング新聞」のすごい集中力
にはびっくりですね。

はろるどさんの見方は奥が深いですね、私も感想を書いたところですが私の見方はかなり浅かったな反省してます。
ちょっと恥ずかしいですが、トラックバックさせていただきました。

今日はこれから急いで「小堀遠州美の出会い展」へ行ってきます!
 
 
 
街の空気 (mizdesign)
2008-01-14 13:03:44
こんにちは。
僕は街の空気(喧騒、活気、移ろい)をそのまま持ってきたような展示だと思って見ました。
そして妙に楽しかった。
はろるどさんの視点はアートワーク寄りですね。見落とした部分がカバーされて、視野が広がります。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2008-01-14 22:25:45
@みどりさん

こんばんは。コメントとTBをありがとうございます。
拙ブログ記事を参考にして下さって嬉しいです!

ドローイング新聞は本当に「ここまでやるか。」と言ってしまうかのような作品ですよね。根気というか、一体どのくらいの時間を費やしたのかと考えるだけでも途方に暮れてしまいます。

夜間も良さそうですね。夜景とセットで楽しめそうです。
小堀展のご感想も楽しみです!


@mizdesignさん

こんばんは。

>はろるどさんの視点はアートワーク寄りですね。

どうしても私は見る時に、そのコンセプトよりも、作品自体の面白さや魅力がどこにあるかを考えてしまうようです。現代アートは往々にして前者優先というような風もありますが、今回も結局、その後者に重点の見出せる作品に目が向いてしまいました。いけませんね…。

ただ全体としてもなかなか楽しめたのは事実です。
仰るような街の空気とでも言うのか、多様な良いもののエッセンスを重箱に一通り揃えたような展覧会だったと思います。森美らしいですよね。
 
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