都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「坂茂 建築の考え方と作り方」 水戸芸術館
水戸芸術館
「坂茂 建築の考え方と作り方」
3/2-5/12
水戸芸術館で開催中の「坂茂 建築の考え方と作り方」へ行ってきました。
主に再生紙による「紙管」に注目し、「紙の家」や「ハノーバー国際博覧会日本館」などで知られる建築家、坂茂(ばん・しげる)。かねてより災害支援活動にも積極的に取り組み、阪神大震災や四川大地震、そして東日本大震災においても、仮設校舎やコンテナ仮設住宅などを提供。その活躍は近年さらに目覚ましいものとなっています。
しかしながら意外や意外。その多大な業績をまとめて紹介する機会はこれまで一度もありませんでした。
ここに坂茂の初の大規模個展が実現。初期の「紙の家」から「ポンピドゥー・センター・メス」などの代表作、さらには災害復興支援のプロジェクトなどを写真、模型、映像などで紹介。またウォークイン方式の実物大モックアップも。体系的でかつ体感的に坂の仕事に接することが出来ます。
「紙の茶室」(2008年) ロンドン
なお嬉しいことに会場は写真撮影が可能です。早速、エントランスから。お出迎えは「紙の茶室」(2008)。ロンドンで作られた作品、言うまでもなく素材は紙に他なりません。
「紙の茶室(内部)」(2008年) ロンドン
壁面には80×80角の紙管がずらり。屋根は和紙でうっすらと光が差し込んできます。
「紙の家」(1995年) 山梨県 実大模型
そして続いては山中湖にあるという坂の別荘、その名も「紙の家」(1995)。実寸大です。ぐるりと空間を取り囲むように立ち並ぶのがやはり紙管。そして紙管こそが極めて重要。と言うのも坂が80年代から一貫して取り上げ続けてきた建築の構造材なのです。
アムステルダムの「ペーパー・シアター」(2003年)で用いられた「紙管」模型
この紙管、坂が世界で初めて再生紙を建築の構造体として用いたものだとか。紙というとかく脆い、また水に溶けやすいなどと思いがちですが、実は様々な加工をすることで防水や難燃、そして強度をもたせること可能。しかも軽い。また再生紙を利用することで低コストにも。効果的な建築素材として活用出来るようになったそうです。
「ハノーバー国際博覧会日本館」(2000年)ハノーバー 15分の1模型
ドイツのハノーバーで環境をテーマに開催された、2000年の万国博覧会のパビリオンもご覧の通りの紙管製。まるで竹細工の如く紙管がアーチを描いています。
坂茂展会場風景(紙管が立ち並んでいます)
ちなみに紙管自体も展示会場で活躍。パネルで建築を紹介するブースの区切りとして利用。まるで回廊状のように並んでいます。(坂の設計したノマディック美術館と同じだそうです。)
「ノマディック美術館(写真)」(2005-2007年) NY、サンタモニカ、東京
さて紙管建築を見たあとは災害復興へ。坂が20年近くにわたり世界で実践し続ける難民、被災者の支援プロジェクトです。
「成都市華林小学校紙管仮設校舎」(2008年) 成都 実大模型
まずは四川大地震により建て替えられた仮設校舎。構造はもちろん紙管です。しかも一般のボランティアでも建設出来るほどシンプルな構法。当地のボランティアや日本の学生の手により僅か40日で3棟完成しました。
「成都市華林小学校紙管仮設校舎(内部)」(2008年) 成都 実大模型
こちらも実寸大。映像には実際に使われている様子も映されています。
「避難所用間仕切りシステム」(2011年) 岩手県、山形県、宮城県、福島県、新潟県、栃木県、神奈川県
そして東日本大震災です。まずは避難所で使われた間仕切りシステム。4×3スパンでの実寸展示。そしてこれこそが私がニュースで見聞きして坂さんのアイデアに強く感心させられたプロジェクトです。
「避難所用間仕切りシステム」(2011年) 岩手県、山形県、宮城県、福島県、新潟県、栃木県、神奈川県
これが簡素ながらも大変に優れもの。紙管に白い布がカーテン状に吊るされる仕掛け。ただそれだけと言ってしまえばそれまでかもしれませんが、極限の状況にある避難所生活の中、この間仕切りの存在が避難者のプライバシーを少しでも守ることになったはず。あるとないとでは全然違うはずです。
「紙のログハウス」(1995年) 兵庫県
また阪神大震災で仮設住宅として用いられた「紙のログハウス」も。壁と小屋組は紙管、屋根はテント。また断熱性能にも配慮されたとか。基礎がビールケースというのにも驚きですが、この辺にもシンプルでかつ組み立てやすさを求める坂さんのアイデアの表れなのかもしれません。
「ポンピドゥー・センター・メス」(2010年) メス 柱脚5分の1模型
ラストは最近の建築として「ポンピドゥー・センター・メス」やスイスの「タメディア新本社」などのモックも登場。なおポンピドゥーとはパリの分館として坂が設計、2010年にフランス北東部のメスでオープンした美術館です。
「ポンピドゥー・センター・メス」(2010年) メス 外観写真など
会場では写真パネルとともに柱脚の5分の1模型も展示。屋根を支える六角形の木組み。また屋根の構造は中国の竹編帽子から着想されているそうです。
「大分県立美術館」(2015年予定) 大分 構造体 実大模型
坂の建築には再生可能な紙とともに、木を構造材として重要視しているのもポイントかと。一階部分はガラスシャッターで外の公園の空間を取り込む工夫もなされています。
「大分県立美術館」(2015年予定) 完成予定図
ちなみに坂は国内でも美術館のプロジェクトを進行中。2015年に完成予定の大分県立美術館についての紹介もあります。その姿はまるで竹工芸。独特の外観が目を引きました。
さて本展、実は美術館外にも重要な作品が控えています。それが広場にある仮設コンテナの実寸模型。これこそが東日本大震災の被災地、女川に設置された仮設住宅に他なりません。
「女川町仮設住宅」(2011年) 宮城県 実大模型
坂はノマディック美術館の例を挙げるまでもなく、海運用のコンテナを建築に取り入れているのも特徴的なところ。この仮設住宅もコンテナで出来ています。
「女川町仮設住宅(内部)」(2011年) 宮城県 実大模型
この模型は中へ入ることが出来ます。モデルは9坪タイプのものだそうですが、ともかく内部は機能優先。家具をも構造として利用する坂のこと、収納も実に効果的に設置しています。
「建築家は一般社会のために役に立っているのか?」と問う坂茂。紙と木の可能性を追求しつつ、素材に由来する美しさを引き出した建築物。そして地に足の着いた災害支援活動。尊敬する建築家の一大個展を見ることが出来て感無量でした。
「Voluntary Architects' Network──建築をつくる。人をつくる。/坂茂/メディア・デザイン研究所」
5月12日までの開催です。もちろんおすすめします。
「坂茂 建築の考え方と作り方」 水戸芸術館(@MITOGEI_Gallery)
会期:3月2日(土)~5月12日(日)
休館:月曜日。但し4/29、5/6(月・祝)は開館。翌4/30、5/7(火)は休館。
時間:9:30~18:00 *入館は17:30まで。
料金:一般800円、団体(20名以上)600円。中学生以下、65歳以上は無料。
住所:水戸市五軒町1-6-8
交通:JR線水戸駅北口バスターミナル4~7番のりばから「泉町1丁目」下車。徒歩2分。
「坂茂 建築の考え方と作り方」
3/2-5/12
水戸芸術館で開催中の「坂茂 建築の考え方と作り方」へ行ってきました。
主に再生紙による「紙管」に注目し、「紙の家」や「ハノーバー国際博覧会日本館」などで知られる建築家、坂茂(ばん・しげる)。かねてより災害支援活動にも積極的に取り組み、阪神大震災や四川大地震、そして東日本大震災においても、仮設校舎やコンテナ仮設住宅などを提供。その活躍は近年さらに目覚ましいものとなっています。
しかしながら意外や意外。その多大な業績をまとめて紹介する機会はこれまで一度もありませんでした。
ここに坂茂の初の大規模個展が実現。初期の「紙の家」から「ポンピドゥー・センター・メス」などの代表作、さらには災害復興支援のプロジェクトなどを写真、模型、映像などで紹介。またウォークイン方式の実物大モックアップも。体系的でかつ体感的に坂の仕事に接することが出来ます。
「紙の茶室」(2008年) ロンドン
なお嬉しいことに会場は写真撮影が可能です。早速、エントランスから。お出迎えは「紙の茶室」(2008)。ロンドンで作られた作品、言うまでもなく素材は紙に他なりません。
「紙の茶室(内部)」(2008年) ロンドン
壁面には80×80角の紙管がずらり。屋根は和紙でうっすらと光が差し込んできます。
「紙の家」(1995年) 山梨県 実大模型
そして続いては山中湖にあるという坂の別荘、その名も「紙の家」(1995)。実寸大です。ぐるりと空間を取り囲むように立ち並ぶのがやはり紙管。そして紙管こそが極めて重要。と言うのも坂が80年代から一貫して取り上げ続けてきた建築の構造材なのです。
アムステルダムの「ペーパー・シアター」(2003年)で用いられた「紙管」模型
この紙管、坂が世界で初めて再生紙を建築の構造体として用いたものだとか。紙というとかく脆い、また水に溶けやすいなどと思いがちですが、実は様々な加工をすることで防水や難燃、そして強度をもたせること可能。しかも軽い。また再生紙を利用することで低コストにも。効果的な建築素材として活用出来るようになったそうです。
「ハノーバー国際博覧会日本館」(2000年)ハノーバー 15分の1模型
ドイツのハノーバーで環境をテーマに開催された、2000年の万国博覧会のパビリオンもご覧の通りの紙管製。まるで竹細工の如く紙管がアーチを描いています。
坂茂展会場風景(紙管が立ち並んでいます)
ちなみに紙管自体も展示会場で活躍。パネルで建築を紹介するブースの区切りとして利用。まるで回廊状のように並んでいます。(坂の設計したノマディック美術館と同じだそうです。)
「ノマディック美術館(写真)」(2005-2007年) NY、サンタモニカ、東京
さて紙管建築を見たあとは災害復興へ。坂が20年近くにわたり世界で実践し続ける難民、被災者の支援プロジェクトです。
「成都市華林小学校紙管仮設校舎」(2008年) 成都 実大模型
まずは四川大地震により建て替えられた仮設校舎。構造はもちろん紙管です。しかも一般のボランティアでも建設出来るほどシンプルな構法。当地のボランティアや日本の学生の手により僅か40日で3棟完成しました。
「成都市華林小学校紙管仮設校舎(内部)」(2008年) 成都 実大模型
こちらも実寸大。映像には実際に使われている様子も映されています。
「避難所用間仕切りシステム」(2011年) 岩手県、山形県、宮城県、福島県、新潟県、栃木県、神奈川県
そして東日本大震災です。まずは避難所で使われた間仕切りシステム。4×3スパンでの実寸展示。そしてこれこそが私がニュースで見聞きして坂さんのアイデアに強く感心させられたプロジェクトです。
「避難所用間仕切りシステム」(2011年) 岩手県、山形県、宮城県、福島県、新潟県、栃木県、神奈川県
これが簡素ながらも大変に優れもの。紙管に白い布がカーテン状に吊るされる仕掛け。ただそれだけと言ってしまえばそれまでかもしれませんが、極限の状況にある避難所生活の中、この間仕切りの存在が避難者のプライバシーを少しでも守ることになったはず。あるとないとでは全然違うはずです。
「紙のログハウス」(1995年) 兵庫県
また阪神大震災で仮設住宅として用いられた「紙のログハウス」も。壁と小屋組は紙管、屋根はテント。また断熱性能にも配慮されたとか。基礎がビールケースというのにも驚きですが、この辺にもシンプルでかつ組み立てやすさを求める坂さんのアイデアの表れなのかもしれません。
「ポンピドゥー・センター・メス」(2010年) メス 柱脚5分の1模型
ラストは最近の建築として「ポンピドゥー・センター・メス」やスイスの「タメディア新本社」などのモックも登場。なおポンピドゥーとはパリの分館として坂が設計、2010年にフランス北東部のメスでオープンした美術館です。
「ポンピドゥー・センター・メス」(2010年) メス 外観写真など
会場では写真パネルとともに柱脚の5分の1模型も展示。屋根を支える六角形の木組み。また屋根の構造は中国の竹編帽子から着想されているそうです。
「大分県立美術館」(2015年予定) 大分 構造体 実大模型
坂の建築には再生可能な紙とともに、木を構造材として重要視しているのもポイントかと。一階部分はガラスシャッターで外の公園の空間を取り込む工夫もなされています。
「大分県立美術館」(2015年予定) 完成予定図
ちなみに坂は国内でも美術館のプロジェクトを進行中。2015年に完成予定の大分県立美術館についての紹介もあります。その姿はまるで竹工芸。独特の外観が目を引きました。
さて本展、実は美術館外にも重要な作品が控えています。それが広場にある仮設コンテナの実寸模型。これこそが東日本大震災の被災地、女川に設置された仮設住宅に他なりません。
「女川町仮設住宅」(2011年) 宮城県 実大模型
坂はノマディック美術館の例を挙げるまでもなく、海運用のコンテナを建築に取り入れているのも特徴的なところ。この仮設住宅もコンテナで出来ています。
「女川町仮設住宅(内部)」(2011年) 宮城県 実大模型
この模型は中へ入ることが出来ます。モデルは9坪タイプのものだそうですが、ともかく内部は機能優先。家具をも構造として利用する坂のこと、収納も実に効果的に設置しています。
「建築家は一般社会のために役に立っているのか?」と問う坂茂。紙と木の可能性を追求しつつ、素材に由来する美しさを引き出した建築物。そして地に足の着いた災害支援活動。尊敬する建築家の一大個展を見ることが出来て感無量でした。
「Voluntary Architects' Network──建築をつくる。人をつくる。/坂茂/メディア・デザイン研究所」
5月12日までの開催です。もちろんおすすめします。
「坂茂 建築の考え方と作り方」 水戸芸術館(@MITOGEI_Gallery)
会期:3月2日(土)~5月12日(日)
休館:月曜日。但し4/29、5/6(月・祝)は開館。翌4/30、5/7(火)は休館。
時間:9:30~18:00 *入館は17:30まで。
料金:一般800円、団体(20名以上)600円。中学生以下、65歳以上は無料。
住所:水戸市五軒町1-6-8
交通:JR線水戸駅北口バスターミナル4~7番のりばから「泉町1丁目」下車。徒歩2分。
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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2月9日にブリヂストンの土曜講座で坂茂さんの講演を聴いて、
水戸美術館で展覧会があるとききましたが、行けないので、
はろるどさんの記事を拝見し、とても詳しく書いて下さって
いて嬉しく思っています。
ノマディック美術館の頃から、ずっと追いかけて?います。
すばらしい方ですね。
こんばんは。コメントありがとうございます。
>2月9日にブリヂストンの土曜講座で坂茂さんの講演
お聞きになられたのですね。私も行きたかったのですが、別件有りで叶わず…
>ノマディック美術館の頃
その展示を観られなかったのが心残りです…