酒井道一 「夏草雨図屏風」 東京国立博物館

東京国立博物館
平常展・本館1階(ジャンル別展示)18室「近代美術」
「酒井道一 - 夏草雨図屏風 - 」

近代美術を展示する第18室(本館1階)に何故、抱一の「夏秋草」があるのかと訝しく思った方も多いのではないでしょうか。これは酒井抱一(1761~1829)の代表作として名高い「夏秋草図屏風」(1821)の右隻ではなく、それより約70年ほど時代の下った明治期、抱一門下の酒井道一(1845~1913)の描いた「夏草雨図屏風」(1893)です。基本的に模写された作品なので、当然ながら登場するモチーフ、構図ともほぼ同じ内容によっています。


*道一の「夏草雨図屏風」。「夏秋草」と同じ銀屏風です。

酒井道一は、抱一と直接の血縁関係にはありませんが、東京・根岸にあった抱一の隠宅「雨華庵」(うげあん。抱一の画塾、工房です。)の四世当主を継いだ画人です。もちろん彼自身も江戸琳派の伝統に連なる者として様々な制作活動(日本美術協会、帝国絵画協会会員。)を行っていましたが、例えば1893年、抱一の50回忌にかねて「抱一展」(「抱一書画追善展覧会」。上野・桜ケ岡の日本美術協会列品館にて。)を開催するなど、明治期における抱一画の受容にも努めていました。




*部分拡大。

「夏草雨図屏風」は抱一50回忌展と同じ年、シカゴで行われた「コロンブス博覧会」に出品するために作られました。これはコロンブスの新大陸発見400年を記念して行われた万国博覧会で、日本の様々な「造形物」が西欧にて史上初めて「美術品」(*1)として扱われたという、歴史的な意義も大きいイベントでもあります。そしてその際、日本の障壁画や調度品などを並べる陳列館として「鳳凰殿」(平等院鳳凰堂を模した建物です。)がつくられ、中にそれぞれ徳川と藤原・足利時代の文物を飾る部屋が設けられましたが、そのうちの徳川時代の部屋(「徳川氏書斎用」)に、道一の屏風が置かれることになりました。ちなみにこの展覧会で、抱一オリジナルの「夏秋草」は展示されませんでしたが、「夏草雨」がそれにかわる作品として来場者を楽しませていたことは容易に想像がつきます。

また当時、抱一の「夏秋草図屏風」は徳川家(徳川達道)の所有でした。よって道一は模写をする際、雨華庵にあったいくつかの下絵を参考にして描いたと考えられています。それに彼が初めてオリジナルを見たのも、このコロンブス博の準備の時の可能性が高いそうです。


*こちらは抱一の「夏秋草図屏風」の右隻です。図版より。

ところで、オリジナル「夏秋草図屏風」の東博での展示についてですが、去年の平常展の際に一度、既に出品されています。と言うことで、今年出ることはまずなさそうです。ただし今月28日より、本館8室(書画の展開-安土桃山・江戸)にて、重文指定も受けている抱一の「月に秋草図屏風」が展示されます。これについてはまた近い内に別エントリでご紹介したいと思いますが、抱一ファン(?)必見の作品です。お見逃しないようおすすめします。

ちなみに道一の「夏草雨図屏風」は、2004年に竹橋の近代美術館で行われた「RIMPA」展でも出品されています。(抱一の「月に秋草図屏風」も同様です。)図録をお持ちの方は、そちらの解説もご参照下さい。

9月2日までの展示です。

*1 それまでの万博(パリ万博など。)では、日本の造形物が西欧のそれと同じように「美術品」として陳列されることはなかったが、この展覧会では初めて「美術区」に配され、同列に扱わるようになった。ただし道一の「夏草雨図」は、あくまでも装飾品等を扱う陳列館(鳳凰殿。「美術区」ではない。)の展示だったため、その文脈に沿った「美術品」とは言えない。

*関連エントリ
酒井抱一 「秋草図屏風」 東京国立博物館(月に秋草図屏風)
コメント ( 8 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
Unknown (グリシーヌ)
2007-08-18 09:04:37
酒井道一 - 夏草雨図屏風
のタイトルを一瞬観て
よくみて

今月の末から「月に秋草図屏風」観られるんですか!
また自転車こいで行きます!

そういえば、秋に抱一、其一の切手が出るそうですね~

あと、来年の秋に京都で淋派やるそうで、
メインが抱一だとか??
 
 
 
Unknown (はろるど)
2007-08-18 12:56:09
グリシーヌさんこんにちは。

>酒井道一 - 夏草雨図屏風
のタイトルを一瞬観て
よくみて

作者、タイトル名ともに間違い易いですよね。
私も遠目で見た際は、一瞬「抱一?」と思ってしまいました。

>今月の末から「月に秋草図屏風」観られるんですか

そうです!またブログでご紹介しますね。

>来年の秋に京都で淋派やる

なんと!細見ですか?それは拝見したいですね。
 
 
 
月に秋草図 (るる)
2007-08-18 23:59:12
こんばんは

抱一情報ありがとうございます♪楽しみです

以前観ている筈なんですが 、記憶が無く…(^_^;)

重文の抱一とあらば、今からウットリです
 
 
 
Unknown (はろるど)
2007-08-19 00:34:28
るるさんこんばんは。

>抱一情報ありがとうございます♪楽しみです

いえいえこちらこそ。でも楽しみですよね。
出来れば初日に見にいければと思うのですが…。
 
 
 
道一 (Tak)
2007-08-21 07:39:53
こんにちは。
宮尾登美子「天璋院篤姫(上)」講談社文庫
表紙絵に道一が使われていますね!
 
 
 
Unknown (はろるど)
2007-08-21 20:55:44
Takさんこんばんは。

>宮尾登美子「天璋院篤姫(上)」講談社文庫

おお!ありがとうございます。それにしても何故道一なのでしょうね…。
 
 
 
抱一と道一 (あべまつ)
2007-09-01 23:12:11
こんばんは。
昨日、禅を見た後、平常展を見学し、抱一と道一を
一度に見る事ができ、ラッキーでした。
初めて道一の名前を知りましたが、
夏草がとてもきれいでうっとりしました。
裏に何か描かれちゃいないか、覗いたのですが、
風神もなく、静かな裏でした。
はろるどさんの解説と画像があって、
納得したのでした。
道一、発見でした。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2007-09-02 00:04:35
あべまつさんこんばんは。コメントありがとうございます。
今なら抱一と道一がいっぺんに楽しめますよね。ファンにはたまりません。

>裏に何か描かれちゃいないか、覗いたのですが、
風神もなく、静かな裏でした。

そうですね。秋草図がないのがまた面白いなとは思うのですが、
さすがに時代も新しいということで色付きも鮮やかでした。

「月に秋草図屏風」も早速先日楽しんで来ました。
またそちらも別記事にあげたいと思います。
 
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