「画鬼・暁斎ーKYOSAI」 三菱一号館美術館

三菱一号館美術館
「画鬼・暁斎ーKYOSAI 幕末明治のスター絵師と弟子コンドル」
6/27-9/6



三菱一号館美術館で開催中の「画鬼・暁斎ーKYOSAI 幕末明治のスター絵師と弟子コンドル」のプレスプレビューに参加してきました。

かつての三菱一号館を設計したイギリス人建築家、ジョサイア・コンドル。日本美術の愛好家でもあった彼は、明治時代の絵師、河鍋暁斎に弟子入りをして、絵を学んでいたことがあったそうです。

コンドルの目を通して、河鍋暁斎の業績を検証します。出品はコンドルの作品も含めて135点。うち途中に一度、展示替えを挟みます。殆どは河鍋暁斎記念美術館のコレクションです。ほかにも数点、静嘉堂文庫、そしてメトロポリタン美術館から作品がやって来ています。


河鍋暁斎「東京名所之内 上野山内一覧之図」 明治14年 河鍋暁斎記念美術館

二人の出会い、それは明治14年の上野でした。同年に上野の山で行われた内国勧業博覧会、そのパビリオンとも言える上野博物館の本館を若きコンドルが設計します。


河鍋暁斎「枯木寒鴉図」 明治14年 榮太樓總本鋪

それを暁斎が錦絵、「東京名所之内 上野山内一覧之図」に描きます。また博覧会は美術の公募展でもありました。暁斎も4点ほど出品。うち「枯木寒鴉図」が絵画の分野での最高賞を受賞しました。


ジョサイア・コンドル「鯉之図」 明治時代 河鍋暁斎記念美術館

おそらくはそれをコンドルを見たことでしょう。この年、暁斎に弟子入り。暁斎50歳、コンドル29歳のことです。二人はとても親密に交流します。明治18年には日光へ連れ立って写生旅行。その旅立つ姿を暁斎は「暁斎絵日記」に描きました。また絵の手習いを受けていたコンドルも作品を残しています。例えば「鯉之図」です。暁斎の「鯉魚遊泳図」に倣った一枚。二匹の鯉が上下に向き合うように泳いでいます。タッチは軽快です。ただし鱗の描写は細かい。小魚を加え、鯉の大きさを強調してもいます。


河鍋暁斎「大和美人図屏風」 明治17-18年 京都国立博物館(寄託)

彩色鮮やかな屏風に目を奪われました。暁斎の「大和美人図屏風」です。二曲一隻、いわゆる遊女でしょうか。ともに立派な立ち姿をしています。赤い衣に花かご、後ろの屏風には稲作の様子が描かれています。ほかに漆器や畳みなど、これでもかというほど日本の文物を描きこんでいますが、実は本作、コンドルが自国に持ち帰ることを想定して暁斎がわざわざ制作したもの。一年もかけて完成した作品でもあるのです。


ジョサイア・コンドル著「Paintings & Studies by Kawanabe Kyosai」 明治44年 河鍋暁斎記念美術館

裕福であったコンドルは暁斎の弟子でありながら、作品のコレクターでもありました。また暁斎の死後、画家の人生や業績を記した「Paintings & Studies by Kawanabe Kyosai」を出版。カラーの口絵に「大和美人図屏風」を掲載しています。結果的にこの本によって暁斎が西洋で知られるようになったそうです。

さて本展、確かに起点はコンドルと暁斎の二人にありますが、展示中盤からは言わば暁斎祭。怒濤のように暁斎画が並んでいます。

それにしても暁斎、何でも描けてしまいます。まさしく芸達者です。動物画に神道や仏教主題の人物画、そして幽霊・妖怪画に山水、戯画、風俗画に美人画などと幅広い。風刺画でも人気を得ていました。しかもそれらがいずれも魅せる。国芳に弟子入りし、狩野派の門を叩いた暁斎。有り余る才知を絵に表現してはぶつけたのでしょう。明治3年には書画会で描いた作品が原因で捕えられてしまったこともあったそうです。ともかく活動は一定の枠に収まりません。


河鍋暁斎「鳥獣戯画 猫又と狸」 明治時代 河鍋暁斎記念美術館

「鳥獣戯画 猫又と狸」はどうでしょうか。右上に猫又、左は狸、下にはイタチにモグラもいます。それらが脚を振り上げながらも一本脚で立つという作品。ともかく猫又の眼光が鋭い。何やら劇画調です。エグ味すらある。構図にも躍動感があります。


河鍋暁斎「三番叟図」 明治前半 河鍋暁斎記念美術館

一転して軽快なのが「三番叟図」です。能や狂言の題からとった舞の姿。素早い筆遣いには迷いもありません。彩色にも透明感があります。ちなみに暁斎、自らが舞台に立つほど能に通じていたそうです。


河鍋暁斎「美人愛猫図」 明治前半 岡田美術館

また「美人愛猫図」も素晴らしい。懐に猫を入れて愛でる遊女。小袖の紋様が艶やかです。女性の表情も穏やかで優しい。着物を少しはだけて描いているのが暁斎風なのでしょうか。肉筆浮世絵の伝統的な画題を美人画として描き出しています。


「画鬼・暁斎ーKYOSAI」展春画コーナー

春画に目を向けているのもポイントです。暁斎もほかの江戸の絵師同様、当然の如く春画を描いています。ここで特徴的なのは「貴賎を問わず入り乱れ、暁斎らしい狂騒が繰り広げられている」(図録より)ことです。情事を笑い飛ばして見るかのような明るさがあります。また古典をパロディー化した作品も目を引きますが、そこにあえてやまと絵の描法を踏襲しています。一筋縄ではいきません。

なお春画のコーナーはカーテンで隔離されています。18歳未満は大人同伴でないと観覧出来ません。ご注意下さい。


右:河鍋暁斎「木菟図」 明治21年頃 メトロポリタン美術館
左:河鍋暁斎「小禽を捕らえる鷲図」 明治21年頃 メトロポリタン美術館


100年ぶり里帰りした連作も要注目ではないでしょうか。現在の所蔵はメトロポリタン美術館です。かつてコンドルの暁斎の共通の知人であるイギリス人が所蔵していたもので、後にアメリカのコレクターへ渡り、メトロポリタン美術館に収められた作品です。

いずれも主題は動物、また子どもを描いて風俗画的な様相も見せています。蛙を捉まえる猫なども可愛らしいもの。押さえつけられた蛙がまるで叫び声をあけているかのようにひっくり返っています。またおそらく元絵となった「英国人画貼下絵」(河鍋暁斎記念美術館)もパネルで紹介されています。見比べるのも面白そうです。


河鍋暁斎「横たわる美人に猫図」 明治前半 河鍋暁斎記念美術館

最後に特に惹かれた一枚を挙げておきましょう。それが「横たわる美人に猫図」です。実は本作、今よりもう10年も前、私が初めて暁斎を見知ったステーションギャラリーの「国芳 暁斎展」で強く印象に残ったもの。もちろんほかの展覧会にも出品されていたかもしれません。ともかく涼し気な眼差しで猫を見やる女性が美しい。映像的と言うには語弊があるやもしれませんが、ふとその一瞬、猫に顔を向けた女性の動き、ようは所作を巧みに切り出しています。


「画鬼・暁斎ーKYOSAI」展館内撮影パネル

暁斎の弟子、コンドルにもゆかりのある三菱一号館美術館での暁斎展。会見時には、河鍋暁斎記念美術館の館長で、暁斎の曾孫でもある河鍋楠美さんが「ありのままの暁斎を知って欲しい。」とのメッセージを寄せられました。確かにここでは等身大、とはいえ常人では到底及ばぬ画業を展開した暁斎の姿を知ることが出来ます。

図録が秀逸です。論考は充実の全8本。本展を担当された一号館の野口学芸員の論文をはじめ、安村先生がメトロポリタン美術館の「動物画帖」を検証したテキスト、また河鍋楠美さんがドナルド・キーンや隈研吾と対談したインタビューなどが掲載されています。いずれも読み応え十分です。

「芸術新潮2015年7月号/河鍋暁斎/新潮社」

会期中、一部作品の展示替えがあります。

前期:6月27日~8月2日
後期:8月4日~9月6日

既に早々から多くの方で賑わっているそうです。金曜の夜間開館(20時まで)なども狙い目ではないでしょうか。また一号館は後半に混雑が集中する傾向があります。まずは早めの観覧をおすすめします。


「画鬼・暁斎ーKYOSAI」展会場風景

9月6日まで開催されています。

「画鬼・暁斎ーKYOSAI 幕末明治のスター絵師と弟子コンドル」 三菱一号館美術館@kyosai2015
会期:6月27日(土)~9月6日(日)
 *展示替えあり。前期:8月2日(日)まで/後期:8月4日(火)から
休館:月曜日。但し7月20と8月31日は開館。
時間:10:00~18:00。
 *毎週金曜日と会期最終週の平日は20時まで。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:大人1500円、高校・大学生1000円、小・中学生500円。
 *ペアチケットあり:チケットぴあのみで販売。一般ペア2600円。
住所:千代田区丸の内2-6-2
交通:東京メトロ千代田線二重橋前駅1番出口から徒歩3分。JR東京駅丸の内南口・JR有楽町駅国際フォーラム口から徒歩5分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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