都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
新国立劇場 「ドン・カルロ」 9/10
新国立劇場 2006/2007シーズン
ヴェルディ「ドン・カルロ」
指揮 ミゲル・ゴメス=マルティネス
演出 マルコ・アルトゥーロ・マレッリ
合唱 新国立劇場合唱団
管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団
キャスト
フィリッポ二世 ヴィタリ・コワリョフ
ドン・カルロ ミロスラフ・ドヴォルスキー
ロドリーゴ マーティン・ガントナー
エリザベッタ 大村博美
エボリ公女 マルゴルツァータ・ヴァレヴスカ
宗教裁判長 妻屋秀和
修道士 長谷川顯
テバルド 背戸裕子
レルマ伯爵/王室の布告者 樋口達哉
天よりの声 幸田浩子
2006/9/10 14:00- 新国立劇場オペラ劇場 4階
新国立劇場の新シーズンの幕開けです。ヴェルディの「ドン・カルロ」を聴いてきました。
一概に決めつけることは出来ませんが、この日の「ドン・カルロ」は、公演に対する聴き手の要求をどの辺に設定するかによって印象が大きく変わるかと思います。重厚でかつ、壮大な心理劇「ドン・カルロ」を、歌、オーケストラ、演出ともに、とりあえず手堅く纏めたと言えば十分に及第点です。歌では、フィリッポ2世のコワリョフやカルロのドヴォルスキーがとても力強い。声をホールいっぱいに響かせて、ひたすら真剣に台本をなぞっていきます。彼らの憎しみや苦しみが、常に力一杯ぶつかり合う形にて表現されていました。女声陣では、真摯な演技が好印象の大村やエボリのヴァレヴスカが目立ちます。「ドン・カルロ」は主役さえ歌えれば良いオペラではありません。この作品のために凹凸なくキャストを揃えたという意味では、間違いなく充実していたと言える内容だったと思いました。
舞台は最近の新国立劇場らしいシンプルなものでした。十字架状にくり抜かれた巨大なキューブが、劇の展開に合わせながらまるで回転ドアのようにクルクルと回っていきます。ここで繰り広げられる恋愛憎悪劇は、あくまでもその十字架の中で、あたかもカルロ5世の呪縛に踊らされるようにして進むに過ぎません。彼の墓場は、ちょうど十字架の交差する地点に置かれていました。結局全ては、十字架によって終始印象付けられるカルロ5世の墓場へとたどり着くのです。また、火あぶりのシーンなど、場を多彩に変化させる照明も秀逸でした。ただもう一歩、登場人物の心理を演技でサポートしていればとも感じます。少し棒立ち気味でした。
さて音楽を楽しまれた方には大変申し訳ないのですが、私は指揮のマルティネスについて全く評価出来ません。前回登場の「マクベス」の際にも感じましたが、これほどリズム感の欠如したヴェルディを聴かされると、たとえ他の要素がどれほど優れていても公演そのものが台無しになってしまいます。基本的に力押しする指揮者です。「マクベス」よりはその音楽に合った指揮だったのでしょう。しかしそれでも、表現の方向性があまりにもフォルテ一辺倒です。宗教裁判長やフィリッポの二重唱など、迫力あるシーンではそれなりの音楽を聴かせてくれましたが、心理状態が絶え間なく揺れ動くエボリの「むごい運命よ」などの部分では、繊細に変化する音楽を示すことが殆ど出来ません。(エボリ関連では「ヴェールの歌」にも驚きました。恐ろしく鈍重なリズムです。)どこをとっても、足を引き摺って歩くようなリズムの音楽が、ひたすら重々しく、まるで金太郎飴を切るように続いていきます。ただ、オーケストラはしっかり鳴らし切る指揮者です。チェロも金管も非常に豪快に鳴り響きます。その点では、上にも書きましたが、とりあえず手堅くオーケストラを纏めていたのかと思いました。少なくとも破綻はありません。
いつもは優れた合唱を聴かせてくれる新国立劇場合唱団も、この日ばかりはマルティネスに煽られたのか、やや力で押し通す箇所が目立ちました。美感の乏しい指揮に合唱が潰されてしまっていたのでしょうか。久々に大味な合唱を聴いたように思います。これは、本来ならもっと繊細な声を持つ合唱団にとっても残念なことです。勿体ないと思います。
今回のプロダクションは全4幕ミラノ版でした。私はイタリア語5幕版が好きなので、どうも唐突にカルロの愛が語られるこの版には違和感を覚えるのですが、5幕版だとやはり長くなり過ぎるのでしょうか。また改めてこのオペラを聴くと、ヴェルディの音楽によってエボリに強いキャラクターが与えられていることが感じられます。原作では、もっと策士で、それでいてナーバスな部分も見せる難しいキャラクターですが、オペラではもっと白黒のハッキリしたドラマテックな性格へと変わっていました。もちろん、フランドルの解放に重点を置き、またそのために更なる高邁な精神を発揮するロドリーゴの美しい原作にも妙味があります。それに原作では驚くほどあっけない幕切れも、オペラではわざわざ亡霊を登場させて一応の山場を作り上げています。色々比べてみても愉しそうです。
ヴェルディの歯切れの良い音楽には、思わず手に汗を握り、また心を踊らせるようなリズムがあります。しかし、今回はそれを感じ取ることが出来ませんでした。別の指揮者の方で、是非このステージをもう一度拝見してみたいです。
ヴェルディ「ドン・カルロ」
指揮 ミゲル・ゴメス=マルティネス
演出 マルコ・アルトゥーロ・マレッリ
合唱 新国立劇場合唱団
管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団
キャスト
フィリッポ二世 ヴィタリ・コワリョフ
ドン・カルロ ミロスラフ・ドヴォルスキー
ロドリーゴ マーティン・ガントナー
エリザベッタ 大村博美
エボリ公女 マルゴルツァータ・ヴァレヴスカ
宗教裁判長 妻屋秀和
修道士 長谷川顯
テバルド 背戸裕子
レルマ伯爵/王室の布告者 樋口達哉
天よりの声 幸田浩子
2006/9/10 14:00- 新国立劇場オペラ劇場 4階
新国立劇場の新シーズンの幕開けです。ヴェルディの「ドン・カルロ」を聴いてきました。
一概に決めつけることは出来ませんが、この日の「ドン・カルロ」は、公演に対する聴き手の要求をどの辺に設定するかによって印象が大きく変わるかと思います。重厚でかつ、壮大な心理劇「ドン・カルロ」を、歌、オーケストラ、演出ともに、とりあえず手堅く纏めたと言えば十分に及第点です。歌では、フィリッポ2世のコワリョフやカルロのドヴォルスキーがとても力強い。声をホールいっぱいに響かせて、ひたすら真剣に台本をなぞっていきます。彼らの憎しみや苦しみが、常に力一杯ぶつかり合う形にて表現されていました。女声陣では、真摯な演技が好印象の大村やエボリのヴァレヴスカが目立ちます。「ドン・カルロ」は主役さえ歌えれば良いオペラではありません。この作品のために凹凸なくキャストを揃えたという意味では、間違いなく充実していたと言える内容だったと思いました。
舞台は最近の新国立劇場らしいシンプルなものでした。十字架状にくり抜かれた巨大なキューブが、劇の展開に合わせながらまるで回転ドアのようにクルクルと回っていきます。ここで繰り広げられる恋愛憎悪劇は、あくまでもその十字架の中で、あたかもカルロ5世の呪縛に踊らされるようにして進むに過ぎません。彼の墓場は、ちょうど十字架の交差する地点に置かれていました。結局全ては、十字架によって終始印象付けられるカルロ5世の墓場へとたどり着くのです。また、火あぶりのシーンなど、場を多彩に変化させる照明も秀逸でした。ただもう一歩、登場人物の心理を演技でサポートしていればとも感じます。少し棒立ち気味でした。
さて音楽を楽しまれた方には大変申し訳ないのですが、私は指揮のマルティネスについて全く評価出来ません。前回登場の「マクベス」の際にも感じましたが、これほどリズム感の欠如したヴェルディを聴かされると、たとえ他の要素がどれほど優れていても公演そのものが台無しになってしまいます。基本的に力押しする指揮者です。「マクベス」よりはその音楽に合った指揮だったのでしょう。しかしそれでも、表現の方向性があまりにもフォルテ一辺倒です。宗教裁判長やフィリッポの二重唱など、迫力あるシーンではそれなりの音楽を聴かせてくれましたが、心理状態が絶え間なく揺れ動くエボリの「むごい運命よ」などの部分では、繊細に変化する音楽を示すことが殆ど出来ません。(エボリ関連では「ヴェールの歌」にも驚きました。恐ろしく鈍重なリズムです。)どこをとっても、足を引き摺って歩くようなリズムの音楽が、ひたすら重々しく、まるで金太郎飴を切るように続いていきます。ただ、オーケストラはしっかり鳴らし切る指揮者です。チェロも金管も非常に豪快に鳴り響きます。その点では、上にも書きましたが、とりあえず手堅くオーケストラを纏めていたのかと思いました。少なくとも破綻はありません。
いつもは優れた合唱を聴かせてくれる新国立劇場合唱団も、この日ばかりはマルティネスに煽られたのか、やや力で押し通す箇所が目立ちました。美感の乏しい指揮に合唱が潰されてしまっていたのでしょうか。久々に大味な合唱を聴いたように思います。これは、本来ならもっと繊細な声を持つ合唱団にとっても残念なことです。勿体ないと思います。
今回のプロダクションは全4幕ミラノ版でした。私はイタリア語5幕版が好きなので、どうも唐突にカルロの愛が語られるこの版には違和感を覚えるのですが、5幕版だとやはり長くなり過ぎるのでしょうか。また改めてこのオペラを聴くと、ヴェルディの音楽によってエボリに強いキャラクターが与えられていることが感じられます。原作では、もっと策士で、それでいてナーバスな部分も見せる難しいキャラクターですが、オペラではもっと白黒のハッキリしたドラマテックな性格へと変わっていました。もちろん、フランドルの解放に重点を置き、またそのために更なる高邁な精神を発揮するロドリーゴの美しい原作にも妙味があります。それに原作では驚くほどあっけない幕切れも、オペラではわざわざ亡霊を登場させて一応の山場を作り上げています。色々比べてみても愉しそうです。
ヴェルディの歯切れの良い音楽には、思わず手に汗を握り、また心を踊らせるようなリズムがあります。しかし、今回はそれを感じ取ることが出来ませんでした。別の指揮者の方で、是非このステージをもう一度拝見してみたいです。
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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私も《ドン・カルロ》(13日)観てきました。
エボリの「ヴェールの歌」は、私も同じように感じました。
もっとエキゾチックで歯切れの良いワクワクする歌ではなかったかなぁ?う〜む?って思いながら聴いてました。(^^;
私はマルゴルツァータ・ヴァレヴスカさんが、いまいちなのかと思って、休憩時間、連れにブツブツ言ってたのですが、そうか!指揮者のせいだったのですね。
3幕の「むごい運命よ」は、まずまず持ち直してましたものね。
それから、私も機会があれば、イタリア語5幕版が観てみたいです。
4幕に歌われるエリザベッタのアリアの歌詞の意味も、より解りやすくなりますよね。(^^)
こちらこそお久しぶりです。
コメントありがとうございました。
>そうか!指揮者のせい
申し訳ありません…。
指揮者の方にはかなり辛口な記事になってしまいました。
が、どうしてもやはり…。
ヴェールの歌は残念でしたよね…。
>イタリア語5幕版
ちょっと古いですが、
ジュリーニのCDがおすすめです!