都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「オルセー美術館展」 東京都美術館(その1)
東京都美術館(台東区上野公園8-36)
「オルセー美術館展 - 19世紀 芸術家たちの楽園 - 」
1/27-4/8
春の上野を彩る名画展です。思っていたよりも写真や工芸品の展示が多いように感じましたが、さすがに見応えのある作品はいくつか揃っていました。混雑必至の展覧会です。
今回、一番惹かれたのは、ズバリ、ゴーガンとゴッホでした。特にゴーガンは、タヒチ行き前に描かれた素晴らしい作品が展示されています。全くの思い込みではありますが、これまであまり良い印象のなかったゴーガンに魅力を感じたのは初めてかもしれません。
「黄色いキリストのある自画像」(1890-91)は、手前の画家本人と後ろのキリストの描写が見事な対比を見せています。後景のキリストは、淡く、また軽やかな黄色のタッチにて、何やら劇画調にまとめあげられているのに対し、自画像の方はズッシリとした絵具の重みが伝わるような、極めて質感に溢れた描写にて象られています。また、額の明るい肌色と、鼻筋から顎へのびた茶褐色のコントラスト、そしてこの絵画全体の重心を下げるかのようなどっしりとした青い衣服が、画家の存在感や意思を示していました。そして、キリストの黄色や本人の青、さらには右手の陶器の赤と、それこそ三分割されたような色彩感も器用におさまっています。これは素直に美しいと思えるゴーガンです。
田園風景の描かれた「黄色い積みわら」(1889)は、積みわらをはじめとするその温かい黄色に包み込まれるような作品でした。赤ともピンクとも付かぬ鮮やかな暖色にて配された小径を脇に、二人の女性が積みわらへ向って黙々と作業しています。左手の女性が手に持っているのは、わらを刈る鎌でしょうか。手前には鶏のような小さな動物たちが、その様子を微笑ましく眺めかのように佇んでいます。そして小径の先に見えるのは、空へとまっしぐらに伸びた木の幹と、眩いばかりの白が塗られた一軒の家屋です。右手へ連なるわらを壁にして、その小屋から長閑な空間が回り込むように広がっています。巧みな構成です。
ゴッホでは、チラシの表紙を飾った「アルルのゴッホの寝室」(1889)がまず印象に残りました。殆ど閉塞感すら思わせる、奇妙な遠近感をとった部屋が描かれていますが、その歪んだ空間に反して色調は明るく、寝室にしては華やいだ雰囲気にまとまっています。実際に木板の一枚一枚を張付けたかのような質感を見せるベージュ地の床と、うっすらと紫色を帯びたブルーの壁や戸、そしてベットの華々しい黄色が鮮やかなコントラストを描いていました。ただ、少し離れた場所に置かれた二つの椅子、特に左手前のそれが何とも寂し気です。誰かの座った後の光景というよりも、誰かに座ってもらいがたい為に置かれている椅子のようにも見えました。
喧噪の一コマが切り取られた「アルルのダンスホール」(1888)は、どこか抽象画的な空間構成を見せる面白い作品です。ホールにて踊る人たちが、右から左へとなだれ込むかのように描かれています。切れ目なく、まさに折重なって連なる人々と、あたかも宙に浮かんだようなランプの描写は幾分デザイン的です。それにしても、この賑やかなはずの光景を前にしても、やはり何らかの寂寥感を受けるのはゴッホだからなのでしょうか。ここに居る人たちの表情の多くはハッキリと確認出来ません。大勢の人の中で受けるような疎外感を思います。見ている者ただ一人だけが、このホールの輪より閉め出されている感覚です。
感想が少し長くなりそうです。以下、他に印象深かった作品については、「その2」へ続けたいと思います。
*関連エントリ
「オルセー美術館展」 東京都美術館(その2)
「オルセー美術館展 - 19世紀 芸術家たちの楽園 - 」
1/27-4/8
春の上野を彩る名画展です。思っていたよりも写真や工芸品の展示が多いように感じましたが、さすがに見応えのある作品はいくつか揃っていました。混雑必至の展覧会です。
今回、一番惹かれたのは、ズバリ、ゴーガンとゴッホでした。特にゴーガンは、タヒチ行き前に描かれた素晴らしい作品が展示されています。全くの思い込みではありますが、これまであまり良い印象のなかったゴーガンに魅力を感じたのは初めてかもしれません。
「黄色いキリストのある自画像」(1890-91)は、手前の画家本人と後ろのキリストの描写が見事な対比を見せています。後景のキリストは、淡く、また軽やかな黄色のタッチにて、何やら劇画調にまとめあげられているのに対し、自画像の方はズッシリとした絵具の重みが伝わるような、極めて質感に溢れた描写にて象られています。また、額の明るい肌色と、鼻筋から顎へのびた茶褐色のコントラスト、そしてこの絵画全体の重心を下げるかのようなどっしりとした青い衣服が、画家の存在感や意思を示していました。そして、キリストの黄色や本人の青、さらには右手の陶器の赤と、それこそ三分割されたような色彩感も器用におさまっています。これは素直に美しいと思えるゴーガンです。
田園風景の描かれた「黄色い積みわら」(1889)は、積みわらをはじめとするその温かい黄色に包み込まれるような作品でした。赤ともピンクとも付かぬ鮮やかな暖色にて配された小径を脇に、二人の女性が積みわらへ向って黙々と作業しています。左手の女性が手に持っているのは、わらを刈る鎌でしょうか。手前には鶏のような小さな動物たちが、その様子を微笑ましく眺めかのように佇んでいます。そして小径の先に見えるのは、空へとまっしぐらに伸びた木の幹と、眩いばかりの白が塗られた一軒の家屋です。右手へ連なるわらを壁にして、その小屋から長閑な空間が回り込むように広がっています。巧みな構成です。
ゴッホでは、チラシの表紙を飾った「アルルのゴッホの寝室」(1889)がまず印象に残りました。殆ど閉塞感すら思わせる、奇妙な遠近感をとった部屋が描かれていますが、その歪んだ空間に反して色調は明るく、寝室にしては華やいだ雰囲気にまとまっています。実際に木板の一枚一枚を張付けたかのような質感を見せるベージュ地の床と、うっすらと紫色を帯びたブルーの壁や戸、そしてベットの華々しい黄色が鮮やかなコントラストを描いていました。ただ、少し離れた場所に置かれた二つの椅子、特に左手前のそれが何とも寂し気です。誰かの座った後の光景というよりも、誰かに座ってもらいがたい為に置かれている椅子のようにも見えました。
喧噪の一コマが切り取られた「アルルのダンスホール」(1888)は、どこか抽象画的な空間構成を見せる面白い作品です。ホールにて踊る人たちが、右から左へとなだれ込むかのように描かれています。切れ目なく、まさに折重なって連なる人々と、あたかも宙に浮かんだようなランプの描写は幾分デザイン的です。それにしても、この賑やかなはずの光景を前にしても、やはり何らかの寂寥感を受けるのはゴッホだからなのでしょうか。ここに居る人たちの表情の多くはハッキリと確認出来ません。大勢の人の中で受けるような疎外感を思います。見ている者ただ一人だけが、このホールの輪より閉め出されている感覚です。
感想が少し長くなりそうです。以下、他に印象深かった作品については、「その2」へ続けたいと思います。
*関連エントリ
「オルセー美術館展」 東京都美術館(その2)
コメント ( 14 ) | Trackback ( 0 )
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マネ。モネ。ルノアール。モロー。セザンヌ・・・・
どれもこれもステキな作品が多くて嬉しかったです。
ゴーギャンの自画像は都美術館の階段下の一等地にありましたね。
私も見とれてしまいました。
はろるどさんの文章にはいつも惹かれます。
“ゴッホの寂寥感”…そうですね。どの絵を見ても押寄せる寂しさが私には辛いのかも知れません。
数年前にオルセイ行きましたが、
東京で見ると、こんなのあったんだ~~~
ってなるのは私だけでしょうか(笑)
僕がマオリの展示に行ってオルセーの混雑状況を確認したところ並ぶまではいっていませんでしたね。
これから混雑するのでしょうか?
久しぶりに週末は岡本太郎と向き合ってきます。
こんばんは。早速のコメントありがとうございます。
>どれもこれもステキな作品が多くて嬉しかったです。
ゴーギャンの自画像は都美術館の階段下の一等地
そうでしたね。確かに目立っていました。
ただあの一角は、いつも混雑してしまうのがちょっと残念です…。(構造上の問題?)
その点、モローはゆっくり拝見出来たと思います。
@るるさん
こんばんは。コメントありがとうございます。
勿体ないお褒めの言葉まで嬉しいです!
>モローが見たいので頑張って行こうと思います。
その2にも書きましたが、今回のモローまた素晴らしいですよ!
この一点だけでもとりあえず満足出来るくらいです。
身動き取れなくなってしまう前に是非どうぞ!
@グリシーヌさん
こんばんは。
現地でもご鑑賞なさっておられましたか。
羨ましい限りです。
やはりそちらですとゆっくり拝見出来るものなのでしょうか。
都美はいつも混み過ぎですから…。
@okiさん
こんばんは。
申し訳ありません。
写真は佳いものがたくさんあったのですが、
今回は絵の方ばかり見てしまいました…。
オルセー所蔵写真展などあると嬉しいのですが…。
これから上野はシーズンですし、
また大変な混雑になりそうですね。
いつものことながらこの手の名画展の集客力は凄まじいです!
あの2コンボはやばいですよね~。
はろるどさんが2回に分けて書くのも納得です。ほんと、充実の内容でした。
ゴッホの「部屋」の絵。
実物は随分と発色が
鮮やかでしたね!
これには驚きました。
贅沢かもしれませんが
アムスのゴッホ美術館にある
同じ作品と並べて欲しいです。
それと勿論、アオキットもね!!
こんばんは。TBをありがとうございました。
ゴッホ良かったですよね。
彼の作品はどこで拝見しても立ち止まってしまうのですが、
今回もまたじっくり見入りました。
喧噪のゴッホ展で味わった感動が懐かしいです。
@Takさん
こんばんは。コメントありがとうございます。
>実物は随分と発色が鮮やか
やはり見てみないと分からないものですね。
これほど色調が鮮やかとは思いませんでした。
>アムスのゴッホ美術館にある同じ作品と並べて欲しいです。
それと勿論、アオキット
それは贅沢です!いつかは実現すると良いですね!
充実の展覧会でした。私も一つの記事にまとめるのが難しく2回に分けましたが(と言っても、まだ2回目は書いてませんが)
お気に入りのモローは後回しにしてしまいました。
以前、オルセーに行った時に購入した日本語版図録に載っていた多くの作品が今回来ていたことに驚きでした。混雑もむべなるかな…です。
TBをありがとうございます。
>以前、オルセーに行った時に購入した日本語版図録に載っていた多くの作品が今回来ていたことに驚きでした。混雑もむべなるかな…です。
アイレさんも現地へ!良いですねえ…。
いつかはと思うのですが…。
日本人に人気の名品を集めた(?)のでしょうか。
確かに混雑にも納得です。
「アルルのゴッホの寝室」は僕も大変気に入りました。
>誰かの座った後の光景というよりも、誰かに座ってもらいがたい為に置かれている椅子のようにも見えました。
という見方は深いですね。
コメントとTBをありがとうございました。
ゴッホは相変わらずの強い存在感でしたね。
混雑も凄まじかったのですが、
やはりしばらく絵の前で見入ってしまいました。
後ほど記事を拝見させていただきます!
ゴッホとセザンヌを並べちゃダメですよね!7重の人だかりで、作品に辿り着くまでにかなりの時間を要しました…ふぅ。。。
《アルルのゴッホの寝室》は色合いが綺麗でしたね。「もしかしたら西美の常設に飾られたのかも…」と複雑な思いを胸に鑑賞しました。
10時前でこんなに混雑していたのは久しぶりです。
もちろん退出時は入場制限。2回目行きたいのですが…
コメントありがとうございます。
>ゴッホとセザンヌを並べちゃダメですよね!7重の人だかり
確かに仰る通りです。
ゴーガンのところもスペース上の問題か、
凄い人だかりでした…。拝見するのもやっとです。
>「もしかしたら西美の常設に飾られたのかも…」と複雑な思いを胸に鑑賞しました。
そうですね。西美のゴッホを少々印象に薄いですからね…。
あの作品があれば強烈だとは思います。
>10時前でこんなに混雑していたのは久しぶりです。
もちろん退出時は入場制限。2回目行きたいのですが…
私ももう少し余裕があれば再度チャレンジしたいのですが…。
満員電車並みの混雑なので(?)遠慮するかもしれません。
後ほど記事をじっくり拝見させていただきます!