「クレマチスの丘 2005」その1 『ビュフェ美術館』

クレマチスの丘(静岡県駿東郡長泉町)
「ビュフェ美術館」

大分前に出かけて来た美術館なので、今更の記事になってしまいますが、先月、静岡県駿東郡にある「クレマチスの丘」へ行ってきました。この「クレマチスの丘」とは、イタリアの現代彫刻家ジュリアーノ・ヴァンジのコレクションを集めた「ヴァンジ彫刻美術館」と、世界最大のビュフェ・コレクションを誇る「ビュフェ美術館」、それにこの地にアトリエを構える木村圭吾氏の「木村圭吾さくら美術館」などが一体として並ぶ、さながらアートのテーマパークです。また、専門的なレストランや、「クレマチス・ガーデン」なども整備されています。半日以上は十分に楽しむことの出来る施設です。

三島駅北口から無料シャトルバスが出ていますが、本数はとても少ないので注意が必要です。ちなみに駅北口は、今再整備工事の真っ最中で、あちこちが掘り返されています。そのせいか、バス乗り場が非常に分かりにくい…。駅であらかじめ聞いておいた方が確実です。

ようやく見つけたバス乗り場でしばらく待っていると、「クレマチスの丘」と大きく書かれた、白い、かなり旧式のマイクロバスが到着しました。乗り込んだのは、私と連れを含めて10名ほど。駅からクレマチスの丘へは、約30分ほどの道のりです。

クネクネとした細い道ばかりが目立つ三島市街を抜けて、東名高速を跨ぐと、富士山麓の広い裾野を上がって行く、傾斜のある道へと入ります。少し赤茶けた土を剥き出しにした畑の数々。視界が一気に広がってきます。(残念ながら富士山は見えませんでした。)途中、静岡がんセンターを通り越すと、突如、区画が大きくとられた閑静な住宅街へと進みます。クレマチスの丘はもう間もなくです。

目的のビュフェとヴァンジの美術館は、少し離れていて、バス停も異なります。まずは先にビュフェ美術館を目指しました。鬱蒼とした森の中でバスは停まります。



中央に見えるのが、菊竹清訓氏設計のビュフェ美術館。右手に見えるのはカフェで、左のテラス席も気持ち良さそうです。


入口前に立つ彫刻作品。この幾何学的な線と面。まさにビュフェです。


館内の人影はまばらです。贅沢にたっぷりと、ビュフェの静謐さを味わうことが出来ました。円形の展示室の並ぶ「本館」(1973年)と、自然光が柔らかく差し込む「アネックス」(1988年)。さらには「版画館」(1996年)と「ビュフェこども美術館」(1999年)。ビュフェ美術館はこの4つによって構成されています。作品数はそう多くはありませんが、じっくり見れば数時間はかかるでしょう。

当然ながら、今年の夏に、新宿の損保ジャパン東郷青児美術館で開催された「ビュフェ展」(リンクは私の拙い感想です。)の作品も多く並んでいます。ただ、その展覧会がなければ、ここへ足を運ぶこともなかったと思います。全く違う空間で、静かに、あくまでも穏やかに佇むビュフェの作品。ビュフェには、夏の展覧会にてかなり惹かれていたので、再会出来た喜びもひとしおでした。

一押しの作品は、何と言っても「受難」シリーズです。この作品は、ビュフェが1952年に公開した三点の連作ですが、ここではその内の二つ、「笞刑」(1951年)と「復活」(1951年)が展示されています。縦2メートル80センチ、横5メートルの巨大なキャンバスに描かれたキリストの受難。白く渇いた場面には、ビュフェ特有の直線的な輪郭線によって人物が描き出され、無慈悲な受難の場面を、半ば感情を排すかのように、淡々と、しかし圧倒的に見せてきます。ともに中央に存在するイエス。「笞刑」でのイエスは傷だらけです。もはや死んでしまったのか、首をがっくりと落としながら、笞を受け続ける。その周囲で、もうなす術もないかのように祈る女性たちの姿は、このシーンの緊張感を高めます。一方の「復活」はかなり異様な作品です。イエスが大きく両手を伸ばして、まるで十字架のような姿となって、棺の上に浮遊するかの如く描かれています。それにしても、このイエスは痛々しい。足にはまだ釘が刺さり、体には傷も残っています。むしろ、「笞刑」のイエスよりも、その苦しみが伝わるとも言えるでしょう。復活により救済が始まったはずのこの構図。これほど絶望感に満ちた様子で描かれているとは驚きです。棺の前に転がる骸骨と、復活を喜ばないばかりか、むしろ苦痛に満ちた表情でイエスを見る人々。復活が悲劇の始まりとなった。リンゴを食べてしまった人間が、楽園を追放されたように、イエスの復活がさらなる哀しみをもたす。今この現実が、まさに受難であることを言っているのかもしれません。

興味深いビュフェの版画などもゆっくりと見た後は、再び表へ出て、今度は「ヴァンジ彫刻庭園美術館」の方へと向かいます。ここはもちろん徒歩です。森の中には簡単な遊歩道が整備されています。



かなり長い吊り橋です。


てくてくとのんびり森林浴です。


遊歩道の後は、一部、一般の道路を歩くことになりますが、歩道もしっかり整えられており、何ら問題はありません。15分程度でヴァンジ彫刻庭園美術館に到着です。(その2へ続く。
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