都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「国宝 風神雷神図屏風 - 宗達・光琳・抱一 琳派芸術の継承と創造 - 」 出光美術館 9/16
出光美術館(千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階)
「国宝 風神雷神図屏風 - 宗達・光琳・抱一 琳派芸術の継承と創造 - 」
9/9-10/1
琳派三巨匠の手による「風神雷神図屏風」が、何と66年ぶりに集いました。館内改装を終え、ロビーやミュージアムショップが見違えるほど美しくなった出光美術館による、半ば歴史的な展覧会です。
展示では、まず宗達の屏風が一つだけ置かれ、その先に光琳と抱一の屏風が仲良く並んでいました。出来れば、3点全てが横一列に揃えば良かったと思いますが、スペース上の都合からして無理なのでしょう。それにしてもどれも素晴らしい作品です。宗達を忠実にトレースして描いた光琳、そして宗達の作品の存在を知らず、あくまでも光琳の屏風だけを見て描いた抱一。結果的に同じ画題の作品が3点生まれたわけですが、少なくともその価値や良さは、それぞれ全く異なる高みに達していました。そういう意味では、この構図を生み出した宗達にオリジナルの優位があるとしても、宗達と比べて光琳はどうだとか、またさらに抱一はどうだとか言うのはハッキリ申し上げて野暮なことだと思います。どれも等しく輝いているからこそ価値を持つ。一部、キャプションに「あがき」などという記述があったのには幻滅させられました。学問的な観点による比較は大いに結構ですが、少なくともこの3点に関する限り、その優劣云々を印象付けるような解説はいただけません。彼らは別に、間違い探しをして欲しいが為に描いたわけではないのです。作者への敬意をもう少し払うべきです。
力強くまた荒々しい風神雷神を創造した宗達、そしてそれを雄大に、しかし全く隙のない構成感にて画面へと収めた光琳、さらには神を人間に置き換えたかのようにして人懐っこい図屏風に仕立てた抱一と、これら3点には、各絵師の持ち味がそれぞれに上手く発揮されていました。ちなみに、また抱一かと言われてしまいそうですが、私が好きなのはやはり抱一の作品です。まるで風神や雷神のお面をかぶった人が、舞台の上で踊っている。天上でその力を誇示しているというよりも、それぞれが役者となって神の業を演じているようにも見えました。そして、大きなバチを持つ雷神はとても愉しそうです。風神をしっかり見つめて、あたかも挑発するように体をくねらせていました。もちろん、ゴロゴロと轟く音も舞台上の大げさな効果音でしょう。淡い雲の描写が、さらにこの場を天から地へと降ろしています。実に微笑ましい神の暴れる作品でした。
風神雷神図の他にも、見応えのある作品がたくさん出ています。その中では抱一の「紅白梅図屏風」が絶品でした。抱一得意の銀屏風に描かれた伸びやかな紅白梅。特に左隻の白梅が見事です。白い梅が銀と共鳴して美しく輝いている。また、大きく弧を描く幹や枝の描写も、抱一にしてはとても力強く躍動的でした。光琳の同名の至高の名作とは似ても似つかない作品ですが、私はこの白梅にも魅力を感じます。ちなみにこの屏風は、少し屈んで見上げたり、また横から眺めてみたりすることをおすすめしたいです。照明の加減が上手く作用して、その表情の移ろいを楽しむことが出来ました。プライス展の光の演出を思い出させます。
また抱一では、東博では既に展示を終えた「夏秋草図屏風」の下絵が出ていました。ところで、彼の燕子花二点では「燕子花図屏風」の方が好みです。光琳の構図を模した「八ッ橋図屏風」よりも、彼らしい柔らかな線が画面を泳いでいます。隠れるように咲く三つの白い花と、滑らかな葉の先に凛と佇むとんぼが一匹。その情緒溢れる風景描写こそ抱一の大きな魅力です。
来月1日まで開催されています。まずはおすすめしたいと思います。
「国宝 風神雷神図屏風 - 宗達・光琳・抱一 琳派芸術の継承と創造 - 」
9/9-10/1
琳派三巨匠の手による「風神雷神図屏風」が、何と66年ぶりに集いました。館内改装を終え、ロビーやミュージアムショップが見違えるほど美しくなった出光美術館による、半ば歴史的な展覧会です。
展示では、まず宗達の屏風が一つだけ置かれ、その先に光琳と抱一の屏風が仲良く並んでいました。出来れば、3点全てが横一列に揃えば良かったと思いますが、スペース上の都合からして無理なのでしょう。それにしてもどれも素晴らしい作品です。宗達を忠実にトレースして描いた光琳、そして宗達の作品の存在を知らず、あくまでも光琳の屏風だけを見て描いた抱一。結果的に同じ画題の作品が3点生まれたわけですが、少なくともその価値や良さは、それぞれ全く異なる高みに達していました。そういう意味では、この構図を生み出した宗達にオリジナルの優位があるとしても、宗達と比べて光琳はどうだとか、またさらに抱一はどうだとか言うのはハッキリ申し上げて野暮なことだと思います。どれも等しく輝いているからこそ価値を持つ。一部、キャプションに「あがき」などという記述があったのには幻滅させられました。学問的な観点による比較は大いに結構ですが、少なくともこの3点に関する限り、その優劣云々を印象付けるような解説はいただけません。彼らは別に、間違い探しをして欲しいが為に描いたわけではないのです。作者への敬意をもう少し払うべきです。
力強くまた荒々しい風神雷神を創造した宗達、そしてそれを雄大に、しかし全く隙のない構成感にて画面へと収めた光琳、さらには神を人間に置き換えたかのようにして人懐っこい図屏風に仕立てた抱一と、これら3点には、各絵師の持ち味がそれぞれに上手く発揮されていました。ちなみに、また抱一かと言われてしまいそうですが、私が好きなのはやはり抱一の作品です。まるで風神や雷神のお面をかぶった人が、舞台の上で踊っている。天上でその力を誇示しているというよりも、それぞれが役者となって神の業を演じているようにも見えました。そして、大きなバチを持つ雷神はとても愉しそうです。風神をしっかり見つめて、あたかも挑発するように体をくねらせていました。もちろん、ゴロゴロと轟く音も舞台上の大げさな効果音でしょう。淡い雲の描写が、さらにこの場を天から地へと降ろしています。実に微笑ましい神の暴れる作品でした。
風神雷神図の他にも、見応えのある作品がたくさん出ています。その中では抱一の「紅白梅図屏風」が絶品でした。抱一得意の銀屏風に描かれた伸びやかな紅白梅。特に左隻の白梅が見事です。白い梅が銀と共鳴して美しく輝いている。また、大きく弧を描く幹や枝の描写も、抱一にしてはとても力強く躍動的でした。光琳の同名の至高の名作とは似ても似つかない作品ですが、私はこの白梅にも魅力を感じます。ちなみにこの屏風は、少し屈んで見上げたり、また横から眺めてみたりすることをおすすめしたいです。照明の加減が上手く作用して、その表情の移ろいを楽しむことが出来ました。プライス展の光の演出を思い出させます。
また抱一では、東博では既に展示を終えた「夏秋草図屏風」の下絵が出ていました。ところで、彼の燕子花二点では「燕子花図屏風」の方が好みです。光琳の構図を模した「八ッ橋図屏風」よりも、彼らしい柔らかな線が画面を泳いでいます。隠れるように咲く三つの白い花と、滑らかな葉の先に凛と佇むとんぼが一匹。その情緒溢れる風景描写こそ抱一の大きな魅力です。
来月1日まで開催されています。まずはおすすめしたいと思います。
コメント ( 14 ) | Trackback ( 0 )
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>「あがき」などという記述があったのには幻滅させられました。
ほんと、そうですよね~。
個人としていろいろと思うのはいいとして、キャプションにこういう主観的な意見を書くのはちょいと疑問ですね。
「紅白梅図屏風」はキレイでしたね~。あの銀色がたまりません。白と赤の梅でこうも印象が違うってのがすごい!
前半の主役が風神雷神図ならば、後半の主役は間違いなく抱一(の光琳への思慕)ですね。
光琳の絵を尋ね歩き、構図を記録し、鑑定し、箱書きし、模写をする。元々優れた描写力を持つ抱一が、異様なまでに光琳に傾倒する様は、悪女に騙される男のようにすら見えます。
見応えたっぷりでした。
宗達という絵師の存在を知っていたのかなぁと
ふと疑問に思いました。
光琳の今、MOAにある紅白梅図屏風も見たこと
なかったらしかったのですよね。
気楽に見ることができなかったから、見たいと
いう思いが強烈だったので、素晴らしい作品を
残したのだなぁと実感しました。
特に“漫画チック”という表\現。
ボキャブラリーの無さに呆然。他にいくらでも言葉があるでしょうに…
40周年を記念にした展示会の品位が落ちます。
先日訪れた松岡美術館やルネラリック美術館の学芸員さん達は“当館の作品(持物)”というモノにプライドがあり、
真摯な態度で質問に応えてくれます。
くしくも、抱一は出光の物。
あんなに酷評して何の特になりましょう。
私が行った時は空いてたのですが、キャプションを読み笑いながら抱一の絵の前で
「ホント、漫画だね~」
「鉄アレイに見えるよ~」
と話して居る30代と思しきカップルが居ました。
哀しい限りです。
長くなりました。スミマセン…(;´д⊂)
後日TBさせて頂きます。
こんばんは。
早速のコメントとTBをありがとうございます!
>個人としていろいろと思うのはいいとして、キャプションにこういう主観的な意見を書くのはちょいと疑問
変な先入観を植え付けるようなキャプションはいただけません。
今回はどれも素晴らしいだけに、余計にそう思いました…。
>あの銀色がたまりません。白と赤の梅でこうも印象
銀に白梅は映えますよね。
状態も良いようで、まさに輝いていました!
@mizdesignさん
こんばんは。コメントありがとうございます。
>元々優れた描写力を持つ抱一が、異様なまでに光琳に傾倒
風神雷神図もトレースしたかったのかもしれませんね。
八ッ橋図屏風はやや消化不良気味かと思いましたが、
ともかく光琳へのラブラブ(?)ぶりには驚かされます。
>悪女に騙される男
これは手厳しい…。でもそうかもしれません!
@一村雨さん
こんばんは。
>光琳の今、MOAにある紅白梅図屏風
抱一はこれも見ていないのですよね。
もちろんだからこそ全く別の作品になったわけですが、
もし見ていたらどう吸収したのかも気になります。
>気楽に見ることができなかったから、見たいと
いう思いが強烈
それはありますよね。
彼らを並べて楽しんでいる我々は、
本当に幸せ者なのかもしれません…。
@さなえさん
こんばんは。お久しぶりです!コメントありがとうございます。
>優劣という書き方や見ている人を自分の見方に強引に引き寄せようという態度
もう少し控えめにやっていただければ良かったのかもしれません。
ひいき目にはなりますが、あれでは抱一が可哀想です。
優れた作品が三つ連なっていると言うことが、
この一連の屏風の価値を高めることにも繋がると思うのですが…。
@るるさん
こんばんは。コメントありがとうございます!
>漫画チック”という表現。
ボキャブラリーの無さに呆然。他にいくらでも言葉があるでしょうに…40周年を記念にした展示会の品位が落ちます。
私もボキャブラリーに不足しているので偉そうなことは言えないのですが、
確かに品位に欠けていた部分がありましたよね。
主催者としてもう少し配慮していただければと思いました。
>キャプションを読み笑い
キャプションはあくまでも脇役として控えめにしていただきたいです。
今回はちょっと前に出過ぎていた感がありました。
抱一の紅白梅図、屏風の前でうっとりと感激しつつ、
はろるどさんのことを思い出してしまいました。
梅の木が佇むあの銀泊の空間がなんともいえません。
それにしても内容の濃い展覧会でした。
解説についてはみなさまがおっしゃるように私も同感です。
コメントありがとうございます!
>屏風の前でうっとりと感激しつつ、
はろるどさんのことを思い出してしまいました
これは大変恐縮です…。ご鑑賞の妨げになってはいないかと…。
>梅の木が佇むあの銀泊の空間
抱一の銀はどれも非常に状態が良いですよね。
助かります。良く映えていました。
>内容の濃い展覧会
私も風神雷神図の他にも、
あれだけの名品を見せていただけるとは思いませんでした。
これほど一点に時間をかけた展覧会もないほどです。
>抱一の「紅白梅図屏風」が絶品でした。
ここはろるどさん的には強調文字でしょう~
私もこの絵観ながらはろるどどさんの
笑顔思い浮かべていました。
コメントとTBをありがとうございます。
>はろるどさん的には強調文字でしょう~
私もこの絵観ながらはろるどどさんの
笑顔思い浮かべていました。
はい、ズバリ強調文字です。
風神雷神図のキャプションで少し騒いだ血を、
この作品で冷ましました。(?)
TBさせていただきました。
ところで私は3つの屏風を比較して、良し悪しを拙ブログに書いてしまいましたが、はろるどさんのご意見に痛く反省しています。
これら個性豊かな絵師による絵だからこそ、現在まで3枚とも形として残っている。
そのことに喜びを見出すべきでした。
やっぱり、はろるどさんは抱一がお好きなんですね~
なんだかいいですね
>良し悪しを拙ブログに書いてしまいましたが、はろるどさんのご意見に痛く反省しています。
いえいえとんでもございません!
お感じ方はそれぞれに自由ですし、
アイレさんのご見識にはいつも納得させられることばかりです。
私が気になったのは、少し印象を誘導するような美術館の姿勢でして…。
>個性豊かな絵師による絵だからこそ、現在まで3枚とも形として残っている
少なくとも私はそう信じています。
似ているからとか、たんに模倣され続けたから、今まで賞賛されてきたわけではないのだと…。
どれも優れているからこそ、この風神雷神図が輝いているのかと思います。
>はろるどさんは抱一がお好きなんですね
そうみたいです!
ぎりぎりで見てきました。
行けないかも・・と思ってたので、行けてよかったです。
はろるどさんの真摯な言葉には、私も共感です!
TBさせていただきました。
>ぎりぎりで見てきました。
行けないかも・・と思ってたので、行けてよかったです。
それは良かったです!
次、また半世紀後などと言われてしまえばもう…。
>はろるどさんの真摯な言葉には、私も共感です
ありがとうございます。
早速拝見させていただきます。