都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「しめかざりー祈りと形」 武蔵野美術大学民俗資料室ギャラリー
武蔵野美術大学13号館2階 民俗資料室ギャラリー
「しめかざりー祈りと形」
10/16〜11/18
武蔵野美術大学民俗資料室ギャラリーで開催中の「しめかざりー祈りと形」 を見てきました。
古くから日本では、神事でしめ縄を用い、特に江戸時代以降は、装飾を凝らしたしめかざりが作られるようになりました。
そのしめかざりが約100点ほど集まりました。いずれも同大学を卒業生し、しめかざり研究家でもある森須磨子氏が、一括して寄贈したコレクションでした。
「宝船」 秋田県秋田市
まずは定義です。そもそもしめかざりとは、正月に年神を迎えるため、家の内外に飾る藁の飾りのことで、古来のしめ縄から派生しました。縄の内側を神聖な場所とするしめ縄は、「記紀神話」にも登場し、平安時代にも門戸に用いられた記録が存在しているそうです。
そのしめ縄が、造形的にしめかざりと化したのが、江戸時代でした。しかし当時は、しめかざりとは呼ばれず、飾縄、ないし飾藁と称されていました。いつしかしめかざりと言われるようになり、かつてほどではないものの、現在においても、正月を迎えるに際し、玄関や床の間などに飾る風習が続いています。
「海老」 新潟県 ほか
何よりも重要なのは、藁を素材としていることです。米の文化が根付く日本では、米だけでなく、藁も神聖視するようになりました。しかし藁が取れない地域では、アシやイグサなどを用いる場合もあるそうです。
全国のしめかざりを、構造面から捉えると、おおむね5つの傾向に分類することが出来ます。まず1つが牛蒡ジメで、一定の太さで一文字になわった形を表し、多くは紙垂などを下げ、玄関などに飾りました。横一文字に飾るのが一般的ですが、縦に飾る地域もないわけではありません。
右:「大根ジメ」 大分県大分市 ほか
2つ目が、牛蒡ジメの中央が太くなった大根ジメで、太い部分には芯を入れて飾ります。また両端を細くなわった形を、両ジメと呼びます。両端を広げたり、丸めて輪っかにして飾ることもあるそうです。
前垂れ「オカオガクシ」 群馬県吾妻郡中之条町
続くのが前垂れで、のれん上に藁を垂らし、玄関などに飾りました。サイズは様々で、中には玄関の間口いっぱいに広げる場合もあります。また江戸時代には、門松に前垂れを掛ける風習も存在していました。
玉飾り 静岡県伊東市 ほか
4つ目が玉飾りです。まさに玉を思わせる太い輪が特徴で、輪の下から藁束を垂らして飾ります。輪は一重のものが一般的ですが、西日本では、二重、三重と増えていく傾向も見られます。
輪飾り 静岡県菊川市 ほか
最後が輪飾りです。いわゆる場所を限定せず、汎用性のある小型のしめかざりを意味し、家の勝手口や乗り物にも飾ります。一般的な家庭においては、正月の若松に飾る方もおられるかもしれません。
「眼鏡」 広島県庄原市 ほか
また正月らしく、縁起物が多いのも特徴です。その例に宝船、宝珠、俵などがあり、特に面白いのは眼鏡でした。先を見通すという意味を持ち、岡山県や周辺でよく見られるそうです。
左:「鶴」 大分県由布市
生き物を象ったしめかざりも目立っていました。もちろん縁起物と同様、吉祥主題に因むもので、鶴、亀、海老、さらに馬や蛇などを象っています。
左:「蛇」 滋賀県大津市 ほか
うち意外なのが蛇でした。確かに蛇は魔物としても扱われますが、一方で神の使いとしても崇拝され、脱皮を繰り返すことから、再生や生命力のシンボルとして受け止められていました。また古来のしめ縄は、蛇を象ったという説もあります。その観点からも重要かもしれません。
それにしても驚きました。全国津々浦々、しめかざりの造形は極めて多様です。お気に入りの一点の探すのも、面白いかもしれません。私の一押しは、やはりチラシの表紙を飾る、大分県の大根ジメのしめかざりです。まるで人が楽しげに両手を振り上げているように見えました。
「宝珠」 広島県
会場は、戸谷成雄展開催中の美術館ではなく、大学構内、13号館の2階の民俗資料室ギャラリーです。スペースは広くなく、狭い一室のみでの展示でした。
「しめかざりー祈りと形」会場風景
美術館からは歩いて1、2分程度でした。受付で場所を尋ねると丁寧に教えて下さいます。私も戸谷展に出かけた際、初めて開催を知りましたが、しめかざりに囲まれた空間は清々しく、思いのほかに興味深く見ることが出来ました。
充実したリーフレットも無料で配布中でした。撮影も出来ます。
「しめかざりー新年の願いを結ぶかたち/森須磨子/工作舎」
11月18日まで開催されています。
「しめかざりー祈りと形」 武蔵野美術大学13号館2階民俗資料室ギャラリー(@mau_m_l)
会期:10月16日(月)〜11月18日(土)
休館:日曜日、祝日、10月30日(月)。
*10月29日(日)は特別開館。
時間:10:00~17:00
料金:無料。
場所:東京都小平市小川町1-736
交通:西武国分寺線鷹の台駅下車徒歩約20分。JR線国分寺駅(バス停:国分寺駅北入口)より西武バスにて「武蔵野美術大学」下車。(所要約20分)
「しめかざりー祈りと形」
10/16〜11/18
武蔵野美術大学民俗資料室ギャラリーで開催中の「しめかざりー祈りと形」 を見てきました。
古くから日本では、神事でしめ縄を用い、特に江戸時代以降は、装飾を凝らしたしめかざりが作られるようになりました。
そのしめかざりが約100点ほど集まりました。いずれも同大学を卒業生し、しめかざり研究家でもある森須磨子氏が、一括して寄贈したコレクションでした。
「宝船」 秋田県秋田市
まずは定義です。そもそもしめかざりとは、正月に年神を迎えるため、家の内外に飾る藁の飾りのことで、古来のしめ縄から派生しました。縄の内側を神聖な場所とするしめ縄は、「記紀神話」にも登場し、平安時代にも門戸に用いられた記録が存在しているそうです。
そのしめ縄が、造形的にしめかざりと化したのが、江戸時代でした。しかし当時は、しめかざりとは呼ばれず、飾縄、ないし飾藁と称されていました。いつしかしめかざりと言われるようになり、かつてほどではないものの、現在においても、正月を迎えるに際し、玄関や床の間などに飾る風習が続いています。
「海老」 新潟県 ほか
何よりも重要なのは、藁を素材としていることです。米の文化が根付く日本では、米だけでなく、藁も神聖視するようになりました。しかし藁が取れない地域では、アシやイグサなどを用いる場合もあるそうです。
全国のしめかざりを、構造面から捉えると、おおむね5つの傾向に分類することが出来ます。まず1つが牛蒡ジメで、一定の太さで一文字になわった形を表し、多くは紙垂などを下げ、玄関などに飾りました。横一文字に飾るのが一般的ですが、縦に飾る地域もないわけではありません。
右:「大根ジメ」 大分県大分市 ほか
2つ目が、牛蒡ジメの中央が太くなった大根ジメで、太い部分には芯を入れて飾ります。また両端を細くなわった形を、両ジメと呼びます。両端を広げたり、丸めて輪っかにして飾ることもあるそうです。
前垂れ「オカオガクシ」 群馬県吾妻郡中之条町
続くのが前垂れで、のれん上に藁を垂らし、玄関などに飾りました。サイズは様々で、中には玄関の間口いっぱいに広げる場合もあります。また江戸時代には、門松に前垂れを掛ける風習も存在していました。
玉飾り 静岡県伊東市 ほか
4つ目が玉飾りです。まさに玉を思わせる太い輪が特徴で、輪の下から藁束を垂らして飾ります。輪は一重のものが一般的ですが、西日本では、二重、三重と増えていく傾向も見られます。
輪飾り 静岡県菊川市 ほか
最後が輪飾りです。いわゆる場所を限定せず、汎用性のある小型のしめかざりを意味し、家の勝手口や乗り物にも飾ります。一般的な家庭においては、正月の若松に飾る方もおられるかもしれません。
「眼鏡」 広島県庄原市 ほか
また正月らしく、縁起物が多いのも特徴です。その例に宝船、宝珠、俵などがあり、特に面白いのは眼鏡でした。先を見通すという意味を持ち、岡山県や周辺でよく見られるそうです。
左:「鶴」 大分県由布市
生き物を象ったしめかざりも目立っていました。もちろん縁起物と同様、吉祥主題に因むもので、鶴、亀、海老、さらに馬や蛇などを象っています。
左:「蛇」 滋賀県大津市 ほか
うち意外なのが蛇でした。確かに蛇は魔物としても扱われますが、一方で神の使いとしても崇拝され、脱皮を繰り返すことから、再生や生命力のシンボルとして受け止められていました。また古来のしめ縄は、蛇を象ったという説もあります。その観点からも重要かもしれません。
それにしても驚きました。全国津々浦々、しめかざりの造形は極めて多様です。お気に入りの一点の探すのも、面白いかもしれません。私の一押しは、やはりチラシの表紙を飾る、大分県の大根ジメのしめかざりです。まるで人が楽しげに両手を振り上げているように見えました。
「宝珠」 広島県
会場は、戸谷成雄展開催中の美術館ではなく、大学構内、13号館の2階の民俗資料室ギャラリーです。スペースは広くなく、狭い一室のみでの展示でした。
「しめかざりー祈りと形」会場風景
美術館からは歩いて1、2分程度でした。受付で場所を尋ねると丁寧に教えて下さいます。私も戸谷展に出かけた際、初めて開催を知りましたが、しめかざりに囲まれた空間は清々しく、思いのほかに興味深く見ることが出来ました。
【民俗資料室】「しめかざりー祈りと形」 多くの方にご来場いただき、ありがとうございます。 会場では展示カタログをご用意しています。表紙を入れてカラー24頁、無料です。大変ご好評をいただいております。(部数に限りがあり郵送等はお受けしていません。)RB #展覧会 #パワースポット #美術 pic.twitter.com/qH8qUT0XYo
— 武蔵野美術大学 美術館・図書館 (@mau_m_l) 2017年11月1日
充実したリーフレットも無料で配布中でした。撮影も出来ます。
「しめかざりー新年の願いを結ぶかたち/森須磨子/工作舎」
11月18日まで開催されています。
「しめかざりー祈りと形」 武蔵野美術大学13号館2階民俗資料室ギャラリー(@mau_m_l)
会期:10月16日(月)〜11月18日(土)
休館:日曜日、祝日、10月30日(月)。
*10月29日(日)は特別開館。
時間:10:00~17:00
料金:無料。
場所:東京都小平市小川町1-736
交通:西武国分寺線鷹の台駅下車徒歩約20分。JR線国分寺駅(バス停:国分寺駅北入口)より西武バスにて「武蔵野美術大学」下車。(所要約20分)
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