「狩野一信 五百羅漢」展 記者発表会 (前編)

来春、江戸東京博物館に狩野一信の「五百羅漢図」が空前絶後のスケールで登場します。増上寺で行われた「五百羅漢 増上寺秘蔵の仏画 幕末の絵師 狩野一信」展の記者発表会に参加してきました。



「五百羅漢 増上寺秘蔵の仏画 幕末の絵師 狩野一信」公式WEBサイト


増上寺 大殿本堂

芝の増上寺といえば、東京タワー側のすぐ側に位置し、かの三門でも知られる江戸東京のランドマークではありますが、今から遡ること約150年余、江戸末期の絵師狩野一信(1815~63)はこの増上寺の依頼を受け、畢竟の大作である「五百羅漢図」、全100点幅を描きました。


狩野一信 五百羅漢図「第59幅 神通」

厳密に定義すると一信は96幅の時点で没したため、残りの4幅は妻・妙安や弟子の手によって完成されました。そして1863年、一信の没した年に増上寺へ一括して奉納されます。以降、妙安の努力のもとに境内には羅漢堂が建立され、しばらくは一般にも公開されてきましたが、妻の死後は次第に一信の存在自体も忘れられ、この「五百羅漢図」も言わば幻の作品として歴史の彼方に消えてしまいました。


大殿本堂内部

それが近年、改めて細かな研究と調査修復が行われ、いよいよ来年春、浄土宗の開祖、法然上人の八百年御忌という記念すべき年に、江戸東京博物館でその全て、つまりは100幅が同時に展示されるということに相成ったわけです。


狩野一信 五百羅漢図「第22幅 六道 地獄」

実のところこの「五百羅漢図」は最近、例えば栃木県立博物館での「狩野派」展など、数幅ずつ公開されてはきていましたが、少なくとも今回のような全幅での一括展示はありませんでした。それがとうとう実現します。まさに空前絶後の展覧会と言えそうです。

「五百羅漢」展のみどころ
・増上寺秘蔵の大作「五百羅漢図」(各172×85センチ)全100幅を一挙初公開。
・東京国立博物館所蔵「五百羅漢図」(縮小版模写)を増上寺本と並べ、比較展示。
・港区内の寺院(大信寺、大松寺)に所蔵される下絵類を展示し、製作過程を検証。
・成田山新勝寺が所蔵する超大作「釈迦普賢文殊四天王十大弟子図」(427×543センチ)、「十六羅漢図」を特別出品。



一信の追善供養

如何せん私自身もこの展示は猛烈に期待しているのでいささか前振りが長くなってしまいましたが、記者発表会の当日、一部作品の内覧等に先立ち、ご遺族も参列されての一信の追善法要、また展示の成功祈願が行われました。


主催者一同

続いて増上寺の執事長蓮池光洋氏をはじめ、江戸東京博物館副館長の小林淳一氏らの挨拶が行われました。


右、明治学院大学教授山下裕二氏、左、 増上寺執事長蓮池光洋氏

さらには展覧会の監修を担当した明治学院大の山下裕二氏による概要の説明がありました。その内容を以下にまとめてみます。

~展示に際して~
・3年ほど前にこの展示の企画の依頼があった。それ以前、自分が五百羅漢図を取材したこともある。
・開催に際して一番に思ったのは「一信が渾身の力をこめて描いたこの五百羅漢を全て同時に展示しよう」ということ。

~五百羅漢図と狩野一信~
・一信は1863年、48歳の若さで亡くなった。(おそらくはうつ病。)この作品はおおよそ30歳末から約10年かけて描いたことがわかっている。
・一信の画業はこの五百羅漢図の他に殆ど知られていないが、今回の展示では成田山所蔵の壁画大作の他、東博にある羅漢図の下絵も合わせて紹介する。

~幻の作品~
・一信は96幅までを描いた時点で没し、残りを妻と弟子が完成させたが、特に妻のよるこの作品を残そうとしてきた献身的努力は特筆すべきものである。
・妻・妙安は一信亡き後、境内に建てられた羅漢堂のお守をしていて、作品の公開も行っていた。かの黒田清輝が妙安に会ったという記録もある。
・妻の死後、五百羅漢の存在は次第に忘れられた。また第二次大戦の空襲で堂が消失。幸いにも作品自体は戦火を逃れたものの、収蔵庫の奥底に眠ることになってしまった。

~五百羅漢の復権へ向けて~
・昭和58年、港区の文化財の調査で五百羅漢図の存在が美術史家に知られることになった。
・それ以来、作品の一部がいくつかの展覧会で紹介されるようになる。
・いまだかつて五百羅漢図を全てカラーで写した文献すらない。(今回の展示に合わせて小学館から画集が刊行される予定。)
・病に倒れた一信の無念と妙安に思いを馳せ、忘れられた絵師の復活を願う展覧会にしたい。

以上です。山下氏の説明にもあるように、現在でも一信の存在はとても一般に知られているとは言えません。しかしながら、ここで全て世に問うことで、その魅力を衝撃的な形で伝えることになるのは間違いなさそうです。

説明の最後に山下氏より力強い一言が放たれました。知られざる一信を公開することで、日本美術史に一つの楔を打ちこみたいということです。

かつて相国寺で若冲の動植綵絵が一同に会した際、非常に大きな話題となりました。作品こそ異なりますが、私自身もこの展覧会はその熱狂の再現となるのではないかと確信しています。


大殿本堂内での「五百羅漢図」展観

全体の説明の後、この日特別に公開された12幅の簡単な説明が行われました。そちらの様子は「後編」ということで、次のエントリにまとめます。ともかく12幅だけでも頭がくらくらするほどのインパクトがありました。

「法然上人八百年御忌奉賛 五百羅漢 増上寺秘蔵の仏画 幕末の絵師 狩野一信」
会期:平成23年4月29日(金・祝)~ 7月3日(日)*変更されました。
会場:江戸東京博物館 1階展示室 (東京都墨田区横網1丁目4番1号)
主催:東京都江戸東京博物館/大本山増上寺/日本経済新聞社
監修:山下裕二(明治学院大学教授)
企画協力:浅野研究所


*関連エントリ
「狩野一信 五百羅漢」展 記者発表会 (後編)

注)写真の撮影と掲載は主催者の許可を得ています。
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