松本竣介 「Y市の橋」 東京国立近代美術館

東京国立近代美術館
所蔵作品展
「松本竣介 - Y市の橋 - 」

東京国立近代美術館の常設展示から、松本竣介(まつもとこうすけ、1912-1948)の「Y市の橋」(1943)です。全体を覆うくすんだ青みが、無機質な都市の光景を重々しくまとめ上げています。比較的、展示機会の多い作品です。印象深い方もいらっしゃるのではないでしょうか。



Y市とは横浜市のことで、この橋も横浜駅近くの新田間川(現、派新田間川)にかかる月見橋がモデルとなっています。川の右手奥に見える大きな建物は国鉄の工場です。煤けた白の照る重厚な月見橋と、不気味に連なった国鉄の黒い跨線橋、そしてうっすらと橋を川面に写した川などが、まるでパズルをはめ込んだようにがっちりと組み合わされています。実に堅牢な雰囲気を漂わせる作品です。

私が松本の名を意識したのは、つい最近、昨年に世田谷美術館で開催された「ルソー展」を見てからのことでした。その展覧会では、メインのルソーよりも、この「Y市の橋」を含んだ数点の松本に強く感銘したことを覚えています。描かれた戦中の記憶を確かに伝えていながらも、いつの時代にも共通な賑やかな都市の影にある寂し気な光景を見事に描き切っているのではないでしょうか。橋の上などをとぼとぼと歩く、まるで影絵のような描写の人物からは、それこそ喧噪の渦にのまれつつも日々を健気に生きる都市生活者の悲哀を感じます。また、キャンバス上を削り取るような彫りの深い線描や、荒々しくも確固とした画肌も魅力的でした。作品にかけた画家の想いを感じ取れるような作品です。

「Y市の橋」は、これを含めて4バージョン(油彩)が確認されています。そのうち岩手県立美術館蔵の作品もまた有名ですが、つい先日、それとほぼ同じ構図の板絵が三重で発見されました。報道によれば、三重県立美術館蔵の「建物」(1947)をX線調査したところ、その作品の下の層から「Y市」が発見されたのだそうです。ちなみに同美術館では3月末まで、そのX線写真と「建物」を公開しています。

まだ松本の作品をまとめて拝見したことがありません。いつかは回顧展などに接することが出来ればと思います。

*関連リンク
「建物」下に別の絵あった エックス線撮影でわかる(Yomiuri online)
松本竣介油彩画《建物》の下の層から《Y市の橋》が発見されました。(三重県HP)
「橋の概要 月見橋」(横浜市西区HP)
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