「後藤純男展」 三越日本橋本店ギャラリー 1/8

三越日本橋本店新館7階ギャラリー(中央区日本橋室町1-4-1)
「後藤純男展」
2005/12/27~2006/1/15

日本橋三越にて開催中の、「今日の日本画壇を代表する画家」(三越より。)という後藤純男氏の個展です。展示作品は約50点。どれも日本や中国の名勝が雄大に描かれた、まさに日本画の王道と言えるような作品ばかりでした。

私が一番感銘したのは、「百済観音」(1990)です。悠久の時の重みを伝える観音様が一体、ただあるがままに、静かに立っている姿が描かれています。その顔の表情は実に穏やかで、一抹の憂いもなく、見る者を優しく包み込むかのようです。また、観音様の背景も、おそらく寺院の暗がりを表現しているのかと思われますが、金箔が観音様の後光のように美しく照っていて、あたかも今、観音様が彼岸の場から出現して来たような気配すら漂わします。これは見事です。

さて、展示作品の殆どは、この「百済観音」を除けば、大自然の景色などが半ば写実的に描写されているものが多いのですが、氏の作品において特徴的なのは、奥村土牛を思わせるようなたっぷりとした瑞々しい顔料の質感と、全体の青みがかった配色が、場の空気感を巧みに伝えてくれることです。特に寒々とした光景から、冷気を引き出すことには長けていて、冬景色を描いた作品は大変に魅力的に映ります。横3メートル、縦1メートルはあろうかと思われる長大な画面の「知床早春」(1996)は、凍り付いた険しい知床の山々と、そこに打ち寄せる流氷の姿が、まもなく訪れるであろう春を予感させながら見せてくれる作品です。全く生気のない凍った木々を前景にして、光を表現する金地に映えた氷の海や山々を、奥行き感を持って表現する。この奥行き感と景色の広がりは、例えば「天山南路キジル塩水渓谷」(2005)などでも同様に見られて、それがまた氏の魅力の一つとなっていますが、それらはどれも、まるで景色に取り込まれてしまうような臨場感すら持ち合わせています。

会場の初めの方に展示されていた、冬山を描いた「寒冷譜」(1971)も興味深い作品です。半ば抽象的な雪山の岩肌と木々が交錯する、どこかキュビズムを思わせるような画面構成と、白や青などの絵具の味わいによる寒々しい雰囲気。これに限っては、他の作品に見られたような奥行き感はなく、むしろ山がこちら側に迫出してくるような圧迫感すら感じさせますが、岩肌や木々と象る線が、これまた他では見られないような躍動感を持っていて、まるで画面全体をシャープに切り刻んで解体するかのように描かれています。

国内では久々の本格的な展覧会とのことです。15日までの開催です。
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