都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「都路華香展 後期展示」 東京国立近代美術館(その2)
東京国立近代美術館(千代田区北の丸公園3-1)
「都路華香展 後期展示」
1/19-3/4
「その1」より続きます。東京国立近代美術館で開催中の都路華香展です。前回のエントリでも触れた「波」以外にも、微笑ましい人物や動物たちの描写に魅力が感じられました。そのほのぼのとした風情と、それでいて斬新な構図感は、さながら「なごみの琳派」(「ほのぼの琳派」とも称されるようです。中村芳中など。)の意匠を見る思いもします。その表現は多様です。
「不老仙鶴図」(1916年頃)では、比較的初期の「杉林白鶏」(1890年)にあるような精緻な描写は鳴りを潜め、もっとソフトタッチに佇む水辺の鶴たちが長閑な風情で表現されています。ふんわりとたくわえた羽毛と、その太い首ののびる様は何やらアヒルのようです。そしてここでも鳥の模様が抽象化されたような波が、鶴の背後に果てしなく広がっています。また、「春雪図」(1918年頃)や「雪中小禽図」(1918年頃)でも見せた萌葱色が鮮やかに光っていました。これはまさに華香の色と言えるのかもしれません。
そのにこやかな表情には、月並みですがまさに癒しという言葉がピッタリかもしれません。白い眉とひげをたっぷりたくわえた老人の登場する「寿仙人」(1917年頃)や「埴輪」(1916年頃)は、温和な雰囲気に満ちあふれた作品です。前者では手前に描かれた鹿が、まるでおすわりをする犬のように描かれ、後者では埴輪たちにも一つ一つの生命が宿っているかのように伸びやかに立っています。東京展のチラシの表紙を飾った「達磨図」(1917年頃)も、決して笑っているわけでははないものの、どこかぼんやりとした、滑稽な風情を醸し出していました。
「好雨帰帆図」(1919年頃)は、その帆が幾重にもリズミカルに反復する美しい作品です。風を大きく受けて、堂々と進む船団の姿が目に焼き付きます。淡い墨だけを用いていながら、これほどに力強く感じられるのは、やはり大きく帆へクローズアップしたその面白い構図によるのではないでしょうか。冴えています。
その他、後期に出品されたものの中では、幻想的な星空の中で威容を誇る「白鷺城」(1919年)や、印象派の作品の如く墨絵が色を生み出す「残雪」(1929年頃)なども心に残りました。
久しぶりに図録を購入しました。次の日曜日までの開催です。最大級におすすめしたいと思います。(2/10鑑賞)
関連リンク
割引引換券
展示替えリスト
*関連エントリ
「都路華香展 前期展示」 東京国立近代美術館
「都路華香展 後期展示」 東京国立近代美術館(その1)
「都路華香展 後期展示」
1/19-3/4
「その1」より続きます。東京国立近代美術館で開催中の都路華香展です。前回のエントリでも触れた「波」以外にも、微笑ましい人物や動物たちの描写に魅力が感じられました。そのほのぼのとした風情と、それでいて斬新な構図感は、さながら「なごみの琳派」(「ほのぼの琳派」とも称されるようです。中村芳中など。)の意匠を見る思いもします。その表現は多様です。
「不老仙鶴図」(1916年頃)では、比較的初期の「杉林白鶏」(1890年)にあるような精緻な描写は鳴りを潜め、もっとソフトタッチに佇む水辺の鶴たちが長閑な風情で表現されています。ふんわりとたくわえた羽毛と、その太い首ののびる様は何やらアヒルのようです。そしてここでも鳥の模様が抽象化されたような波が、鶴の背後に果てしなく広がっています。また、「春雪図」(1918年頃)や「雪中小禽図」(1918年頃)でも見せた萌葱色が鮮やかに光っていました。これはまさに華香の色と言えるのかもしれません。
そのにこやかな表情には、月並みですがまさに癒しという言葉がピッタリかもしれません。白い眉とひげをたっぷりたくわえた老人の登場する「寿仙人」(1917年頃)や「埴輪」(1916年頃)は、温和な雰囲気に満ちあふれた作品です。前者では手前に描かれた鹿が、まるでおすわりをする犬のように描かれ、後者では埴輪たちにも一つ一つの生命が宿っているかのように伸びやかに立っています。東京展のチラシの表紙を飾った「達磨図」(1917年頃)も、決して笑っているわけでははないものの、どこかぼんやりとした、滑稽な風情を醸し出していました。
「好雨帰帆図」(1919年頃)は、その帆が幾重にもリズミカルに反復する美しい作品です。風を大きく受けて、堂々と進む船団の姿が目に焼き付きます。淡い墨だけを用いていながら、これほどに力強く感じられるのは、やはり大きく帆へクローズアップしたその面白い構図によるのではないでしょうか。冴えています。
その他、後期に出品されたものの中では、幻想的な星空の中で威容を誇る「白鷺城」(1919年)や、印象派の作品の如く墨絵が色を生み出す「残雪」(1929年頃)なども心に残りました。
久しぶりに図録を購入しました。次の日曜日までの開催です。最大級におすすめしたいと思います。(2/10鑑賞)
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*関連エントリ
「都路華香展 前期展示」 東京国立近代美術館
「都路華香展 後期展示」 東京国立近代美術館(その1)
コメント ( 3 ) | Trackback ( 0 )
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ポスターが可愛かったからというのが理由で、実際あの達磨さんは玄関に飾りたい雰囲気です。
巧い絵よりなごみ系の作品に惹かれました。
愛着を感じたので、私も図録を買いましたよ。
私も前期後期行ってきました。
図録にある素敵な作が東京にこない寂しさもありましたが、日本画の新しい試みも感じられ、なんというたっぷりとした、おおらかな絵を描く人だろうと、感じ入りました。一幅の癒しを描けるようになるまでは、
やはり、様々な苦難を乗り越えたからなのでしょう。
それでも人柄の真面目さが滲んでいました。
洋と和の融合もすんなり見られました。
私も滅多に買わない図録を買ってしまいました。
こんばんは。コメントありがとうございました。
>巧い絵よりなごみ系の作品に惹かれました。
同感です。
結構作風の変遷が激しいのですが、
その中でも柔らかい感触のものが良かったですね。
>私も図録を買いました
そうでしたか。
私も図録を購入した展覧会は今年初めてです!
@あべまつさん
こんばんは。コメントありがとうございます。
>図録にある素敵な作が東京にこない寂しさ
内容が素晴らしいだけに、これは本当に残念ですよね。
折角広いスペースがあるのですから、
京都展をそのまま持ってきていただきたかったです。
>一幅の癒しを描けるようになるまでは、
やはり、様々な苦難を乗り越えたからなのでしょう。
それでも人柄の真面目さが滲んでいました。
そうかもしれません。
図録の解説を拝見する限りでは、
なかなか紆余曲折のある道程ということのようです。
この展覧会が再評価の切っ掛けになればと思います。
>洋と和の融合も
近代日本画で、
これほどその融合を見せた方もそうおられないのではないでしょうか。
非常に興味深いです。