「特集 河鍋暁斎」 美術手帖

いよいよ今月末、三菱一号館美術館で始まる「河鍋暁斎展」。「狂っていたのは、俺が、時代か?」とは何ともチャレンジングなサブタイトルです。楽しみにされている方も多いのではないでしょうか。


「特集 河鍋暁斎」 美術手帖
http://www.bijutsu.co.jp/bt/

その展覧会を目前にしての企画です。美術手帖の最新号で「河鍋暁斎」が特集されています。



コピーは「この絵描き、天下無敵。」。全体の監修を務めるのは山下裕二先生です。冒頭、田附勝氏による写真から目を引かれるもの。暁斎画をこれでもかというほどにクローズアップ。山下先生が暁斎の特徴として挙げる「二重性」のうち、「巨大×細微」における「細微」、つまり暁斎画の細部の繊細な筆致を目の当たりにすることが出来ます。

それにしても山下先生、何とも暁斎愛に満ちてはいないでしょうか。と言うのも、かつて京博で回顧展の行われた暁斎ですが、次に例えば東博で開催すればどのような展示をするのか。その具体的なプランまでを披露しています。さらには「勝手に重文指定」として、暁斎画に重文がないのはけしからんと、全9点の作品をまさに勝手に重文に認定しているのです。

さて今回の「河鍋暁斎」特集。実に幅広い視点が盛り込まれているのも特徴です。各方面で活躍するアーティストらが暁斎の魅力を語りに語っています。

まずはしりあがり寿さんです。題して「新富座妖怪引幕が出来るまで」。暁斎畢竟の大作の「新富座妖怪引幕」の制作プロセスを漫画化しています。実は私もこの作品、かつて成田山の書道博物館で見たことがありますが、僅か4時間で描き上げたとは到底思えないほどに充実。全17メートルにも及ぶ大画面に至極圧倒された記憶があります。それをしりあがりさんは、注文主である仮名垣魯文に着目し、暁斎との2人のやり取りを軽妙洒脱、面白おかしく表しました。



暁斎に「最高の評価」を与えている山口晃さんも登場します。山下先生との対談です。河鍋暁斎記念美術館を訪ねて「放屁合戦絵巻」や「美人図」の下絵などを鑑賞。暁斎の頭に3Dとなっているはずのモチーフが、画面では平面的になっていることなどを指摘しています。時には日本美術全般に話を広げては、暁斎の魅力についてさっくばらんに語っていました。

なおここに登場する河鍋暁斎記念美術館ですが、ご存知の方も多いのではないでしょうか。

場所は埼玉の西川口です。暁斎専門の美術館としても知られ、肉筆から下絵、画稿などを含め3000件も有しています。そして館長は暁斎を曽祖父に持つ河鍋楠美氏です。誌面でも暁斎が河鍋家でどのように語り継がれたのかや、美術館の設立などについてインタビュー形式で触れています。暁斎に最も近しい人物による貴重な証言として重要だと言えそうです。

読み物として私が特に面白く感じたのは、西尾康之さんによる「暁斎が本当に描きたかったものとは?」でした。



ここで西尾さんは暁斎の下絵、とりわけ線、さらには筆の太さや墨の濃さにまで言及しては、暁斎画を分析。また「女人群像」の描写から、暁斎は衣服にフェティシズムがあったのではないかとも述べています。

さらに暁斎は山姥をむしろ普通の女性として描こうとしていたのではないかも指摘。また「九相図」でも、死を死としてではなく、むしろ「華やか」であり、「自由になること」であると考えていたのではないか。そのようにも語っていました。

木下直之氏の「呑み、笑い、騒いでわかる 暁斎の時代の絵」も興味深いのではないでしょうか。



暁斎の時代にあった書画会を出発点に、現代の美術の在り方にまで引き付けて論じたテキストです。書画会の即興性が近代以降、消えてしまった一方で、現代のライブパフォーマンスに蘇っているのではないかという箇所も面白い。展示空間としての絵馬堂と美術館、さらには暁斎の春画についても踏み込んでいます。

ほかには20代の頃から暁斎が好きだったという天明屋尚さんのインタビューや、暁斎の年記に沿った「河鍋暁斎物語」なる漫画もありました。端的に展覧会に準拠した特集ではありません。

一号館での展覧会に向けても読んでおきたいのが「エシゾチズムを超えてー暁斎と外国人たち」です。



テキストは今回の企画を担当された三菱一号館美術館の野口玲一氏です。ここで暁斎と外国人、特に一号館美術館ともゆかりのあるジョサイア・コンドルに着目。海外の日本美術の受容を踏まえつつ、暁斎とコンドルの師弟関係について触れながら、相互に与えた影響などについて論じています。

またラストには一号館の暁斎展をはじめ、この夏、暁斎画を見られる展覧会もリストアップ。暁斎に関する書籍も紹介していました。



「画鬼・暁斎ーKYOSAI 幕末明治のスター絵師と弟子コンドル」@三菱一号館美術館
URL:http://mimt.jp/kyosai/
会期:2015年6月27日(土)~9月6日(日)

なお暁斎は次号の芸術新潮でも特集(6/25発売予定)があるそうです。私も読み始めたばかりですが、この美術手帖と芸術新潮の2大美術誌での特集を経ての暁斎展。大いに期待出来るのではないでしょうか。

「美術手帖2015年7月号/河鍋暁斎/美術出版社」

美術手帖2015年7月号、「特集 河鍋暁斎」は全国の主要書店で発売中です。まずはお手に取ってご覧下さい。

「特集 河鍋暁斎」 美術手帖(美術出版社)
内容:江戸から明治へと時代が大きく転換する頃、伝統技術を駆使した仏画や美人画、妖怪や骸骨が踊るユーモラスな戯画、春画まで、あらゆるものを描ける人気絵師がいた。自己表現を超えて、庶民に寄り添い、絵師として生きた河鍋暁斎は、いかにして時代の変化と名声の浮き沈みを乗り越えて、再び評価されるに至ったのか?多才が故にとらえがたい、その実態に迫る。
価格:1728円(税込)
刊行:2015年6月17日
仕様:192頁
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