都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「松園と美しき女性たち」 山種美術館 11/19
山種美術館(千代田区三番町)
「生誕130年 松園と美しき女性たち」
10/8~11/27
上村松園(1875-1949)の生誕130周年を記念して開催されている展覧会です。山種美術館の所蔵する上村の美人画約18点の他、小倉遊亀や伊東深水などの作品も並びます。心なしか、いつもより観客が多いように思いました。うっとりと美人画に見入る。心安らぐ一時を堪能出来る展覧会でもあります。
上村松園の美人画が素晴らしいのは、女性の何気ない所作の淑やかさが、清楚な静謐感を持ちながら、実に端正にサラッと描かれている点にあるのではないでしょうか。誰しもが持つような、その人が最も美しく見える所作。上村は、女性のそんな仕草を描くのに極めて長けています。「庭の雪」に見る女性のしおらしさ。姿勢を少し前屈みにして、仄かに雪の舞う中を佇み、または歩いている様子。ピンク色の可愛らしいかんざしに調和するかのような、しっとりとした頬紅の艶やかさ。全てが気品を持ちながらも、また優し気な表情をたたえて、穏やかに見せてきます。この味わい。惹かれないはずがありません。
構図はどの作品も実にシンプルですが、それもまた、描かれた女性の淑やかさを際立せることになるようです。女性の周りを包み込むかのように、ゆったりととられた余白。その中でも一際目立っていたのは「牡丹雪」でしょうか。画面上部と右側に、大胆にとられた余白部分。傘を手にした女性が二名、湿り気を帯びながら落ちてくる牡丹雪に打たれています。ポツポツと、半ば無造作にも見える点にて表現される雪は、その余白の広さによって、さらに奥行き感を深めるようです。また、傘に降り積もる雪の白さも絶品です。そしてもちろん、女性の表情とその姿勢も素晴らしい。特に、右側の女性が裾を少し捲っている様には、どこか恥じらいを感じさせるような美しさを見せていました。
透き通るような白い肌を纏う着物も絶品です。着物はどれも落ち着きがあって、決して華美になり過ぎることがありません。淡い藍色や芝色にて、透明感を見せながら、薄く、厚みを持たないで描かれる着物の質感。絵柄も、構図に合わせたかのようにシンプルです。代表作「砧」に見る、薄い水色の着物の見事なこと。まるで肌の白みが着物へと浸透しているかのようです。
淡く美しい絵具の味わいは、例えば「新蛍」における簾の表現にも、その魅力を十二分に感じることができます。簾に透き通って見える女性の視線の先には、可愛らしい一匹の蛍。そして、簾の柔らかい丸みを帯びた表現と、女性の立ち姿の双方に見る曲線美。それらが、この淡い絵具にて絶妙に折り重なるのです。また、もう一点、簾が印象的な「夕べ」では、女性の持つ扇がまさに月のように朧げに照りだします。これにも惹かれました。
上村松園の作品以外では、小倉遊亀の二点、「舞う」(芸者と舞妓)が深く印象に残りました。こちらは、上村とは一転して、絵具がたっぷりと使われ、艶やかで瑞々しい質感を楽しむことが出来ます。見所はやはり、芸者と舞妓の両者が纏う着物の絵柄でしょうか。特に「芸者」の着物は、黒字に鮮やかな竹がダイナミックに配されて、左手を振り上げて舞う芸者の動きと連動します。白い帯びに力強く描かれた太い竹と、足元の水辺の絵柄へ向かって流れるように配された竹林の様子。着物の中で、ある種の美的世界が構築されています。
最後に、上村松園自身が述べた言葉を引用します。
「私は大てい女性の絵ばかりを描いている。しかし、女性は美しければよい、という気持ちで描いたことは一度もない。一点の卑俗なところもなく、清澄な感じのする香高い珠玉のような絵こそ、私の念願とするところのものである。」(山種美術館発行「山種美術館の上村松園」より。)
会場にて一枚の写真に目が止まりました。それは、上村が扇をスケッチする様子を捉えたものです。(撮影は、かの木村伊兵衛。)姿勢を正し、険しい表情を見せながら扇を描く上村の様子。その厳しい眼差しには、「もの」を見抜く強い意思が感じられました。今月27日までの開催です。
「生誕130年 松園と美しき女性たち」
10/8~11/27
上村松園(1875-1949)の生誕130周年を記念して開催されている展覧会です。山種美術館の所蔵する上村の美人画約18点の他、小倉遊亀や伊東深水などの作品も並びます。心なしか、いつもより観客が多いように思いました。うっとりと美人画に見入る。心安らぐ一時を堪能出来る展覧会でもあります。
上村松園の美人画が素晴らしいのは、女性の何気ない所作の淑やかさが、清楚な静謐感を持ちながら、実に端正にサラッと描かれている点にあるのではないでしょうか。誰しもが持つような、その人が最も美しく見える所作。上村は、女性のそんな仕草を描くのに極めて長けています。「庭の雪」に見る女性のしおらしさ。姿勢を少し前屈みにして、仄かに雪の舞う中を佇み、または歩いている様子。ピンク色の可愛らしいかんざしに調和するかのような、しっとりとした頬紅の艶やかさ。全てが気品を持ちながらも、また優し気な表情をたたえて、穏やかに見せてきます。この味わい。惹かれないはずがありません。
構図はどの作品も実にシンプルですが、それもまた、描かれた女性の淑やかさを際立せることになるようです。女性の周りを包み込むかのように、ゆったりととられた余白。その中でも一際目立っていたのは「牡丹雪」でしょうか。画面上部と右側に、大胆にとられた余白部分。傘を手にした女性が二名、湿り気を帯びながら落ちてくる牡丹雪に打たれています。ポツポツと、半ば無造作にも見える点にて表現される雪は、その余白の広さによって、さらに奥行き感を深めるようです。また、傘に降り積もる雪の白さも絶品です。そしてもちろん、女性の表情とその姿勢も素晴らしい。特に、右側の女性が裾を少し捲っている様には、どこか恥じらいを感じさせるような美しさを見せていました。
透き通るような白い肌を纏う着物も絶品です。着物はどれも落ち着きがあって、決して華美になり過ぎることがありません。淡い藍色や芝色にて、透明感を見せながら、薄く、厚みを持たないで描かれる着物の質感。絵柄も、構図に合わせたかのようにシンプルです。代表作「砧」に見る、薄い水色の着物の見事なこと。まるで肌の白みが着物へと浸透しているかのようです。
淡く美しい絵具の味わいは、例えば「新蛍」における簾の表現にも、その魅力を十二分に感じることができます。簾に透き通って見える女性の視線の先には、可愛らしい一匹の蛍。そして、簾の柔らかい丸みを帯びた表現と、女性の立ち姿の双方に見る曲線美。それらが、この淡い絵具にて絶妙に折り重なるのです。また、もう一点、簾が印象的な「夕べ」では、女性の持つ扇がまさに月のように朧げに照りだします。これにも惹かれました。
上村松園の作品以外では、小倉遊亀の二点、「舞う」(芸者と舞妓)が深く印象に残りました。こちらは、上村とは一転して、絵具がたっぷりと使われ、艶やかで瑞々しい質感を楽しむことが出来ます。見所はやはり、芸者と舞妓の両者が纏う着物の絵柄でしょうか。特に「芸者」の着物は、黒字に鮮やかな竹がダイナミックに配されて、左手を振り上げて舞う芸者の動きと連動します。白い帯びに力強く描かれた太い竹と、足元の水辺の絵柄へ向かって流れるように配された竹林の様子。着物の中で、ある種の美的世界が構築されています。
最後に、上村松園自身が述べた言葉を引用します。
「私は大てい女性の絵ばかりを描いている。しかし、女性は美しければよい、という気持ちで描いたことは一度もない。一点の卑俗なところもなく、清澄な感じのする香高い珠玉のような絵こそ、私の念願とするところのものである。」(山種美術館発行「山種美術館の上村松園」より。)
会場にて一枚の写真に目が止まりました。それは、上村が扇をスケッチする様子を捉えたものです。(撮影は、かの木村伊兵衛。)姿勢を正し、険しい表情を見せながら扇を描く上村の様子。その厳しい眼差しには、「もの」を見抜く強い意思が感じられました。今月27日までの開催です。
コメント ( 5 ) | Trackback ( 0 )
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TB&コメントありがとうございます。
私が山種美術館を訪れたのは小雨降る日でしたので、美術館や展示された美人画がそういった湿気をやわらかく受け止めているような感じがしました。何より松園の女性の美しさを再認識することができた良い展覧会でした。
「庭の雪」は最晩年の作品ということで、その芸術が凝縮された絵と思います。凛とした美、愛らしさ、女性を包む静寂、そして白い肌とほんのり色づいた頬にえもいわれぬ美を感じました。
着物も落ち着いた色合いですが、僅かに見える襦袢の赤が艶やかで非常に効果的でした。
上村松園の美人画を観るたびに、絵画のもってる力の大きさを考えさせられます。現実には絵に描かれたような女性に会うことは無いのですが、絵に中で日本の女性の美しさを感じ、心が洗われ、和やかな気持ちになります。美術館の中にいるだけでこんな気分になれるのですから、絵画は有難いです。これは鏑木清方の美人画でもいえます。
“牡丹雪”は絶品ですね。私も二重丸です。綺麗な色使い、細密に描かれた着物の模様、動きのある人物描写と余白をたっぷりとった構図。代表作の中でも五本の指にはいると思ってます。27日はMOAの“日本画名品展”を観てきます。今年最後の熱海ドライブです。
こんばんは。TBとコメントありがとうございます。
>「庭の雪」は最晩年の作品ということで、その芸術が凝縮された絵
そうですよね。
私と一緒に出向いた連れも、この絵には一目惚れでした。
あまりにも美しい作品です。
>僅かに見える襦袢の赤が艶やかで非常に効果的
そうなんですよね。
淡い着物に、時折ちらほらと鮮やかな柄が見えて…。
うっとりするような作品ばかりでした。
@いづつやさん
コメントありがとうございます。
>絵に中で日本の女性の美しさを感じ、心が洗われ、和やかな気持ちになります
私も初めて上村松園の作品をまとまって見たので、
この展覧会には本当に満足しました。
心洗われるという表現がぴったりですよね。
>27日はMOAの“日本画名品展”を観てきます。今年最後の熱海ドライブ
良いですねえ!
またいづつやさんのレポート、
楽しみにしております!
ニアミスでしたね...
松園の絵は素直に美しい、というか、何の小細
工もないけれど美しい、というか、シンプルに
美しい、というか、てらいなく美しい、という
か、普通に美しい、というか、とにかく美しく
思いました。
# 山種の次回展もわくわくします...
>松園の絵は素直に美しい、というか、何の小細
工もないけれど美しい、というか、シンプルに
美しい、というか、てらいなく美しい、という
か、普通に美しい、というか、とにかく美しく
思いました。
もう仰る通りで!
あのシンプルさは、
他にかえ難いものがありますよね!