「茶碗の中の宇宙」 東京国立近代美術館

東京国立近代美術館
「茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術」 
3/14~5/21



約450年間に渡って続く樂茶碗の系譜を辿ります。東京国立近代美術館で開催中の「茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術」を見てきました。


長次郎「黒楽茶碗 銘 大黒」 桃山時代 個人蔵 重要文化財

会場に入るとそこは闇。初代長次郎の深遠な世界が待ち構えていました。樂焼のルーツに当たる素三彩に始まり、黒樂、赤樂が並んでいます。全部で14点です。展示室はかなり暗く、目が慣れるまでに時間がかかりました。まず目を引くのは「銘 大黒」です。通称「利休七種」とも称される7碗のうちの1つ。黒樂とはいえ、わずかに柿色を帯びています。ざらついた表面には星空を見るかのようでした。まさに静謐。これぞ長次郎を代表する作品と言えるかもしれません。

赤樂では「銘 無一物」が魅惑的です。先の「大黒」に比べれば、胴が少しせり上がり、いささか引き締まった造りをしています。口縁もやや鋭い。一部に霧のような膜が現れています。雲を連想しました。とはいえ、表情は寡黙です。さも瞑想を誘うようでもあります。惹きつけてやみません。


本阿弥光悦「赤樂茶碗 銘 乙御前」 江戸時代 個人蔵 重要文化財

展示は基本的に年代順です。冒頭の長次郎から家祖田中宗慶を経て、二代常慶、三代道入、四代一入、五代宗入と続きます。なお樂家は全てが世襲ではありません。「養子を迎え、親戚関係を結び、その子に総てを伝える」(解説より)という一子相伝を基本としています。そして六代、七代へ。宗入が本阿弥家、ないし尾形家と血縁関係にあることから、光悦と乾山の参照もありました。現代では当代の吉左衛門が旺盛に制作しています。さらに次の世代の長男篤人の作品までを網羅していました。

内省的な長次郎から一転して華やかなのが三代道入でした。造りも全般的に薄い。軽快です。黒釉も格段に照りが増します。モダニズムと呼んでも良いかもしれません。


三代道入「黒樂茶碗 銘 青山」 江戸時代 楽美術館 重要文化財

目立つのが黒樂の「銘 青山」でした。ともかく目立つのが胴の白抜きです。山に見立てたのでしょうか。何らかの小動物がちょこんと座っているように見えます。口縁は茶色を帯びています。見込みには細かい粒が浮き上がります。まるでシャンパンの泡のようでした。

赤樂では「銘 僧正」が楽しい。柿色というよりも、仄かにオレンジ色をしています。そして市松模様が装飾的でした。また口縁に歪みがあります。それも動きを表すためのものでしょうか。道入の器の景色は実に多様です。いずれの器もが各々に個性を表現しています。

いわゆる揺り戻しもあったのでしょう。五代宗入は長次郎様式に再び接近しました。黒樂の「銘 亀毛」の質感はマット。道入作に見られる光沢感はありません。むしろ鉄肌のように重厚です。腰も低く、胴も厚い。ただ下部に僅かなくびれがありました。いささか艶かしい。これが宗入の新たな感覚なのかもしれません。

九代了入が樂に新たな世界を切り開きます。すなわち削りです。ともかく作品の至るところにヘラの跡が刻み込まれています。黒樂の「銘 巌」はどうでしょうか。胴の部分は面取りです。よって鋭い。光のある釉薬は道入を志向したのでしょうか。「白樂筒茶碗」はヘラの跡が縦方向に流れています。明確に動きが現れました。このヘラの導入は後の樂家にも影響を与えたそうです。十代旦入、十一代慶入、十二代弘入、十三代惺入にまで受け継がれました。


ラストは当代です。十五代吉左衛門の展示が充実しています。

再び暗室です。冒頭の長次郎のスペースを思い起こさせます。作品は恭しく独立ケースに収められていました。東京国立博物館の法隆寺宝物館の雰囲気に近いかもしれません。


十五代楽吉左衛門「焼貫黒樂茶碗 銘 巌烈は苔の露路老いの根を噛み」 平成16年 楽美術館

当代の作品を見て感じるのは、前衛的であり、詩的でもあるということです。金彩や銀彩も導入。形は時に大きく屈曲します。手に収めることが出来るのでしょうか。土の感触も強く、岩石や鉱石をそのまま削り出したような質感もありました。また脆さを感じさせるものも興味深いところです。儚くも雅やかです。突如、炎が起こり、水が流れ出します。装飾的世界の中に自然の景色が垣間見えました。

私が最初に茶碗、ないし樂焼に魅せられたのが、2006年に三井記念美術館で行われた「赤と黒の芸術」でした。

以来10年以上。樂茶碗を見る機会はしばしばありましたが、これほどのスケールでの展示は久々でした。「私が生きている間に二度とこれほどの規模の展覧会は開催できない」と述べるのは当代吉左衛門です。確かに充実しています。あながち誇張ではありません。

会期最初の土曜日に見てきましたが、館内は思いの外に盛況でした。

4月11日からは東京国立博物館で「茶の湯」展もはじまります。それにあわせ、両館会期中、竹橋の国立近代美術館と上野の国立博物館を結ぶ無料のシャトルバスも運行されます。

東京の春を彩る茶に関する2つの展覧会。ひょっとすると後半は混み合うかもしれません。



会場出口に撮影コーナーと題し、長次郎作をアルミ合金で複製した茶碗の展示がありました。



ただし成分が異なるからか、本物より約200グラム重いそうです。触ることも可能です。手に馴染ませてみるのも面白いかもしれません。

「定本 樂歴代―宗慶・尼焼・光悦・道樂・一元を含む/淡交社」

5月21日まで開催されています。おすすめします。

「茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術」 東京国立近代美術館@MOMAT60th
会期:3月14日(火)~5月21日(日)
休館:月曜日。但し3/20、3/27、4/3、5/1は開館。3/21(火)は休館。
時間:10:00~17:00
 *毎週金曜日は20時まで。
 *入館は閉館30分前まで
料金:一般1400(1200)円、大学生1000(800)円、高校生500(300)円以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *当日に限り「MOMATコレクション」、「マルセル・ブロイヤーの家具」も観覧可。
住所:千代田区北の丸公園3-1
交通:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分。
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