「ピカソと20世紀美術」 東京ステーションギャラリー

東京ステーションギャラリー
「富山県立近代美術館コレクションから ピカソと20世紀美術」
3/21-5/17



東京ステーションギャラリーで開催中の「富山県立近代美術館コレクションから ピカソと20世紀美術」を見てきました。

1981年に開館した富山県立近代美術館。20世紀美術のコレクションに定評があるそうです。

その富山から東京に作品がやってきました。出品は63点、うち約10点はピカソです。ほかはダダやシュルレアリスム、そして戦後の現代美術作品で占められています。

タイトルに「ピカソ」とあったので、半分はピカソ展かと思っていましたが、実際のところは後半の「20世紀美術」、特に第2次大戦後の抽象美術に重きの置かれた展覧会でした。

あえてピカソ以外の作品を追ってみます。まずはジャック・ヴィヨンの「フラジョレットを吹く男」です。「キュビズムを発展させた」(キャプションより)といわれる画家ですが、緑や赤、黄色と、幾何学的な線を構成させた地が面白いもの。中央にはトランペットのような楽器を吹く男の姿が描かれていますが、半ば解体するかのような身体はベーコンのようでもあります。ちなみにヴィヨンですが、かのデュシャンの兄だそうです。


マン・レイ「桃」 1972年 富山県立近代美術館

そのデュシャンはダダのセクションで紹介されていました。作品は1点、「トランクの箱」です。またここではマン・レイの「桃」やコーネルの「ホテル・フローレンス」も興味深い。ともに箱型の作品ですが、マン・レイでは、文字通り桃を模したプラスチックのオブジェと、おそらくは雲をイメージした脱脂綿が組合わさっています。隣のコーネルの小宇宙を連想させるものがありました。


マックス・エルンスト「森と太陽」 1927年 富山県立近代美術館

シュルレアリスムではミロ、エルンスト、アルプ、デルヴォーらが各1点ずつ出ています。うち惹かれるのはデルヴォーです。タイトルは「夜の汽車」、お馴染みの夜汽車と裸婦を描いたものですが、これがまさに画家の表現を濃縮したような作品で面白い。手前は室内、天井にはほぼシンメトリーのシャンデリアが吊られています。女性は3名です。バーでしょうか。うち1人、黄色いドレスを着た女性は、取り澄ました様子でカウンターに腰掛けています。ほかの2名は裸婦です。1人はソファに仰向けになって寝そべり、もう1人は画面の手前、右側に立っています。

奥の扉の向こうにはテールランプの灯る夜汽車、さらには高層ビルの並ぶ風景が広がっています。時計は深夜0時10分、ちょうど日付の変わった頃なのでしょう。また壁には大きな鏡が設置され、室内、裸婦を映し出しています。シャンデリアから放たれる白い光は眩しいもの。壁にはっきりと光の広がる様が描かれています。室内、外の汽車、鏡の中の世界。空間も人物も互いに関係し合うようで、していないようでもある。デルヴォーならではのどこかトリッキーな空間構成、はたまた押しこめられたような詩情を感じ取れる一枚でもありました。

さて後半は第2次大戦以降の戦後美術です。これが私としては思いの外に魅惑的に映りました。

ベン・ニコルソンの「1961(赤のない静物)」にピエール・スーラージュの「絵画」、そしてサム・フランシスの「ブルー・イン・モーション3」などは目を引くのではないでしょうか。またハンス・ハルトゥングが2点あるのもポイントです。

1つ目は「T.1962-U6、刷毛を用いたのか、黒を背景に、細く、引っ掻き傷のような黄色の線がいくつも連なっています。もう1点は「T.1987-H41」です。背景は白、画面右はほぼ白のまま、左には青や黒の絵具が縦に伸びています。キャンバスを立て掛けて、上から垂らしたのでしょうか。絵具を流したような痕跡がありました。

いわゆる立体の寄せ集め技法、アッサンブラージュの作家も取り上げられています。筆頭はルイーズ・ネヴェルソンです。DIC川村記念美術館のBLACKS展でも印象深かった作家、作品は「スカイ・リフレクション」です。拾った木片や調度品などを箱状に積み上げています。そして黒一色で統一。一つ一つのパーツには細かな彫刻も施されています。

「BLACKS ルイーズ・ニーヴェルスン|アド・ラインハート|杉本博司」 DIC川村記念美術館(はろるど)

マリソールの「サリー・ディーンズの肖像」やアルマンの「ヴァイオリンの怒り」もアッサンブラージュとして捉えられなくもありません。アルマンはヴァイオリンを解体、バラバラにしてはアクリルのボックスに落としこんでいます。

リヒターの大作「オランジェリー」も見応えがあるのではないでしょうか。オレンジや青のストローク行き来する平面、絵具はまるで風に舞う木の葉のように散り、時には大きな渦を巻くかのようにのびています。美しい色の交錯とストロークの躍動感。ちなみにタイトルのオランジェリーとは、作品が最初に展示されたのがオランジェリー美術館であることに由来するそうです。


ロバート・ラウシェンバーグ「ソヴィエト/アメリカン・アレー」 1988-89年 富山県立近代美術館

ラストはドナルド・ジャット、ジョセフ・コスースといった1990年代の作品が続きます。突き詰めてしまえば富山県立近代美術館の引っ越し展に過ぎませんが、少なくとも同美術館のコレクションをまとめて見られる良い機会ではあります。現代抽象好きの私にとっては見入る点も多い展覧会でした。

なおピカソのうち4点は東京ステーションギャラリーの所蔵品でした。何でも今回、初公開だそうです。

「増補新装 カラー版 20世紀の美術/美術出版社」

館内は空いていました。5月17日まで開催されています。

「北陸新幹線開業記念|富山県立近代美術館コレクションから ピカソと20世紀美術」 東京ステーションギャラリー
会期:3月21日(土)~5月17日(日)
休館:月曜日。但し1/12は開館。年末年始(12/29~1/1)、1/13(火)。
料金:一般1000円、高校・大学生800円、中学生以下無料。
 *20名以上の団体は100円引。
時間:10:00~18:00。毎週金曜日は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで
住所:千代田区丸の内1-9-1
交通:JR線東京駅丸の内北口改札前。(東京駅丸の内駅舎内)
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