「具体展」 国立新美術館

国立新美術館
「具体-ニッポンの前衛 18年の軌跡」
7/4-9/10



国立新美術館で開催中の「具体-ニッポンの前衛 18年の軌跡」へ行って来ました。

「人のまねをするな。」、「これまでにはなかったものを作れ。」 。

それこそ「言うは易く行うは難し」ではありませんが、実際に取り組むとなるとそう簡単にいくものではありません。


吉原治良「黒地に赤い円」1965年 兵庫県立美術館

しかしながら今から遡ること60年前、一人の作家の号令の元、まさに奇想天外、これまでにはなかった表現で一時代を築き上げた芸術グループがいました。

それが具体です。リーダーは戦前から関西を拠点に前衛美術家として活動してきた吉原治良(1905-1972)。

1954年、吉原の「われわれの精神が自由であるという証を具体的に提示する。」を掛け声に、主に彼の居住していた芦屋の作家が集まり、新たなる芸術運動が始まりました。

構成は以下の通りです。

第1章 プロローグ 1954年
第2章 未知の美の創造 1955-1957年
第3章 ミスターグタイ=吉原治良
第4章 「具体」からGUTAIへ 1957-1965年
第5章 新たな展開 1965-1971年
第6章 エピローグ 1972年


展示は一冊の冊子、「具体」創刊号から始まります。

ここで吉原は今までの美術の概念にとらわれることなく、それでいてダダ的でもない、あくまでも前向きでかつ未知の表現を目指すことを高らかに宣言します。

当初の具体の活動は屋外でのパフォーマンスです。

芦屋公園を舞台に開催されたのは、「真夏の太陽にいどむ野外モダンアート実験展」と「野外具体美術展」です。

会場ではその一部が再現されていますが、時に大仰で、またそもそも一体何のためにあるのかすら分からないような作品は、確かに観客の好奇心を刺激したに相違ありません。

また双方向、ようは体験型の作品が目立つのもポイントです。

白い筒に入って空を見上げる村上三郎の「作品:空」(1956年)や、不安定な木を並べた嶋本昭三の「この上を歩いて下さい」(1955年)などは、おおよそ美術の範疇として捉えられるであろう領域を超えています。

さらに面白いのがアクション性です。

白髪一雄の「赤い丸太」(1955年)では、ひたすら作家が丸太へ釘を打ちつけた痕跡のみが残され、それがそのまま作品となっています。


白髪一雄「天雄星豹子頭」1959年 国立国際美術館

具体の魅力の一つに作家の執拗でかつ闇雲なまでの行為、またそれを裏打ちする熱い情念も挙げられますが、こうした初期のパフォーマンスにこそ顕著に現れていると言えるのかもしれません。

さて屋内の絵画表現においても具体は新境地を切り開きます。


嶋本昭三「作品」1955年 兵庫県立美術館

素材に一般的な絵具だけでなく、塗料や新聞紙などを用い、強い物質感を帯びた作品を次々と生み出しました。

また描き方も絵筆だけに収まりません。

その極地とも言えるのが金山明の「作品」(1957年)です。


金山明「作品」1957年 北九州市立美術館

なんとこの無数に乱れる線描、実は作家自らの制作した機械によって自動で引かれています。

それこそ具体の覇者、白髪一雄は絵具を足で塗りつけたことでも知られていますが、言わば絵画における「誰も思いつかなかった方法」は、多くの作家たちによって様々に繰り広げられていきました。

またそうした奇抜な絵画とも関係し、光や色に対して強い関心を持っていたのが、先だって都現美でも回顧展のあった田中敦子や山崎つる子などです。


田中敦子「作品」1960年 depot Anthony et Celia Denney aux Abattoirs, Toulouse

田中は色とりどりの蛍光管で作った「電気服」(1956年)での舞台パフォーマンスを行います。


山崎つる子「ブリキ缶」1955年 個人蔵

山崎つる子は並べたブリキの缶に光沢感のある塗料を塗り、ライトを当てるなどして色と光に鮮やかな作品を作りました。

会場では初期の舞台パフォーマンスを映像でも紹介していますが、それを見ると当時の雰囲気を味わえるかもしれません。

さてこうした具体に大きな転機をもたらしたのが、フランスの美術批評家のミシェル・タピエです。

1960年頃に来日したタピエは具体の活動に関心を抱き、パリやNYでも紹介したいと考えます。

そこでポイントとなるのがパフォーマンスの扱いです。

当時はまだ日本人が海外へ出ることもままならなかった時代、それこそ作家自身がNYなりに向かうのは困難を極めました。

よってタピエは持ち運びの容易な絵画に目をつけたわけです。

タピエによって具体はGUTAI、つまり国際的にも知られることになりましたが、彼との出会いによって活動は絵画表現的な志向へと大きく変わっていきました。

さて具体における吉原の地位を知ることが出来るのは、芦屋に作られた常設の展示館、「グタイピナコテカ」です。

吉原の父親は製油会社の社長を務めていましたが、1962年、大阪・中之島にあったその蔵を展示館へと変えてしまいます。

実のところ具体における吉原の力は大きく、時に彼の目に止まらないものは出品出来なかったというエピソードも残されています。

結果的に高速道路の建造のために取り壊されてしまいますが、具体の中核的施設さえも吉原がいたからこそ成り得たと考えると、やはり具体は吉原に始まり吉原に終わったとしてもあながち間違いではないのかもしれません。


松谷武利「Work'65」1965年 兵庫県立美術館

さて前後しますが、具体をGUTAI化されたタピエ、とある絵画表現上の一潮流を具体のメンバーに持ち込むことになります。

それがアンフォルメルです。タピエはアジアにおいてアンフォルメルを成し遂げたグループこそが具体だと述べます。

すると具体の表現はさらに転換、ともかくこの頃の一部の作品は、一目見るだけでも分かるほどアンフォルメルの影響が強くなります。

またもう一つ具体を変えていったのが、当時の絵画においてムーブメントを巻き起こしていた「クールな抽象」です。


今井祝雄「白のセレモニー・HOLES#6」1966年 兵庫県立美術館

1965年頃を境に、これまでの物質感も強いエネルギッシュな作品が、言わばシステマティックでクールなものへと変化します。

これは具体の活動にマンネリを感じた吉原がメンバーを入れ替えたことにも由来しますが、ともかくも作品は初期の具体とは似ても似つきません。


今中クミ子「作品」1966年 財団法人駒形十吉記念美術館

具体は吉原が亡くなった1972年に解散しますが、僅か20年弱の間に目まぐるしく移った表現の変遷も、また大いに注目すべきだと言えそうです。

ラストはテクノロジーと大阪万博です。

と言ってもこのテクノロジー、鍵カッコ付き、ようはあくまでも当時が未来的だとイメージしたSF的世界としても差し支えありません。

一例がヨシダミノルの「Bisexual Flower」(1970年)です。


ヨシダミノル「Bisexual Flower」1970年 個人蔵

暗闇に浮かび上がる透明なプラスチックの花、ブオーという音とともに大きく花開く様子は殆ど不気味ですが、これは言うまでもなく液体と機械によって動いています。

けばけばしいまでの蛍光色に、間違いなく実在しない無機的な機械の花、その異世界の光と動きは、60~70年代の近未来の一つのイメージとも捉えられるのではないでしょうか。

そしてその集大成とも、また言葉は適切ではないかもしれませんが、逆に成れの果てとも取れるのが大阪万博でのパフォーマンスです。

万博では会場のEXPO広場で「具体美術まつり」と称する各種パフォーマンスが行われましたが、(その記録映像が紹介されています。)やたらに巨大な「親子ロボット」にオモチャの犬を使った「101匹」などは、現代の観点から一方的に云々するのも問題があるとはいえ、もはや滑稽の一言に尽きます。

もちろん漫才ならぬ、どこか吹き出してしまうような可笑しさも具体の魅力かもしれませんが、必ずしも全てではないものの、初期の挑戦的なパフォーマンスに比べると、アイデアしかり、どこか何かを失ってしまった故の寂しさを感じてなりませんでした。

会場入口、何やら破れた布地のようなものが垂れていますが、これももちろん作品です。

過去の具体展でも恒例であったという入口を突き破るパフォーマンス、本展でもオープニング時に、元・具体会員の村上三郎の子息の村上知彦氏によって行われました。

そのパフォーマンスの映像は会場の他、yotubeにもあがっています。

gutai


この単純ながらも何かに緊張感を持って対峙し、そして未来を切り開いていく行為、さらにはその生々しいまでの痕跡、これこそが具体の最大の魅力ではないでしょうか。

かつて殆ど偶然的に見た兵庫県立美術館の具体展(2004年)で圧倒されて以来、いつか更なる回顧展をと望んでいましたが、こうした形で実現されて思わず胸が熱くなりました。もちろん関東では初の具体回顧展です。

閑散とした会場にはエアコンも効いてそれこそ寒々としていましたが、この具体の熱気、是非とも味わってみて下さい。

9月10日までの開催です。もちろんおすすめします。

「具体-ニッポンの前衛 18年の軌跡」 国立新美術館
会期:7月4日(水)~9月10日(月)
休館:火曜日。
時間:10:00~18:00 *金曜日は20時まで開館。
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
万博のパフォーマンス (テツ)
2012-08-26 19:32:43
>そしてその集大成とも、また言葉は適切ではないかもしれませんが、逆に成れの果てとも取れるのが大阪万博でのパフォーマンスです。

ずばり適切なお言葉。私も同感です。
なんかチカラ抜けてしまいましたね。

でも面白く貴重な展覧会でした。

 
 
 
Unknown (はろるど)
2012-09-01 21:02:56
@テツさん

こんばんは。

>チカラ抜けてしまいました

そうですね。具体の運動を吉本に例えている方をツイッター上で見かけましたが、あのパフォーマンスに関してはそのようなところがあるかもしれません。

>面白く貴重な展覧会

同感です!史的変遷をよく踏まえての見事な構成でした。
 
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