「中西夏之展」 DIC川村記念美術館

DIC川村記念美術館
「中西夏之 韻 洗濯バサミは攪拌行動を主張する 擦れ違い/遠のく紫 近づく白斑」
2012/10/13-2013/1/14



DIC川村記念美術館で開催中の中西夏之展、「韻 洗濯バサミは攪拌行動を主張する 擦れ違い/遠のく紫 近づく白斑」のプレスプレビューに参加してきました。

1950年代より半世紀に渡って「絵画とは何か。」を問い続ける画家、中西夏之(1935~)。

かつてパフォーマンスから舞台芸術を手がけていたという経歴からしても、その全貌を俄かに知ることは困難かもしれませんが、今、DIC川村記念美術館にて、中西の主に絵画へ焦点を当てた展覧会が行われています。


202展示室風景

展示と作品の時間軸は3つ。まさにタイトルにもあるように初期、1950~60年の「韻」と1960年代の「洗濯バサミは攪拌行動を主張する」、そして2010年前後の近作、「擦れ違い/遠のく紫/近づく白斑」です。

そしてそれぞれのシリーズを「共振」(展覧会概要より引用。)させることによって、表現の根底を探る内容となっていました。

さて展示はT字型のモチーフが印象的な「韻」から始まります。


右:「韻 '60」1959-60年 ペイント・エナメル・砂、合板 広島市現代美術館 他

ともかくはその重厚な質感、砂を混ぜた塗料を盛ったマチエール、そして言うまでもなくT字型のモチーフに注目です。

中西は活動の当初、絵画において形の全てを線で捉えることには違和感を覚え、やがて線を破線に、さらには連なる点へと変化させていくようになりました。

その破線、もしくは点は、線によって分けられる内と外の関係を曖昧にし、どこかアンフォルメル的な画面を生み出していきます。

その中で現れたのがT字型です。それはスプレーガンと筆でT字を型取り、画面上をさながら細胞、皮膜的に覆っていくものですが、中西は一貫してT字を周縁へ拡散していくような表現をとっています。

また拡散のキーワードは時代が進んでの「洗濯バサミは攪拌行動を主張する」でも重要です。


「洗濯バサミは攪拌行動を主張する」1963/93年 洗濯バサミ、紐、カンヴァス(5点組) 個人蔵

中西はこの頃、洗濯バサミを体に挟むといったパフォーマンスも行っていましたが、そのハサミを今度は絵画上へ展開。ハサミの密な部分と粗な部分が反復し、そこに光の陰影が加わることで、独特の質感を帯びた「絵画」を作ることに成功しました。

ちなみに中西は元々、人間の身体に関心があり、根本的に画家は人を描くものだと考えていたそうです。


「ドローイング」1959-60年 インク、紙 個人蔵

その一つの表れとして残っているのが、最初期のドローイング。確かに人の姿が描かれていました。

さて二番目のメインの大きなフロア、203展示室へ進むと、そこはまさに紫と白の斑点の浮遊する世界。中西の近作の絵画が一堂に展示されています。


203展示室風景

まず興味深いのは展示の仕方、壁に掛けられている作品を除けば、何れもがキャスターの付いたイーゼルの上に設置されているではありませんか。

近作の「擦れ違い/S字型還元」もご覧の通り。これは人がすれ違う瞬間、行き来する人の未来と過去を対照的に捉え、それを一つの絵画へ立ち上げた作品とのことですが、確かに起立する面はそうした時間や空間を繋ぐ接点、ようは窓であると言えるのかもしれません。


手前:「擦れ違い/S字型還元」2012年 油彩、カンヴァス 個人蔵

またその起立する作品群はまさに空間を仕切る屏風絵のよう。見る側の立ち位置によって風景は大きく変化していきます。

中西は本来的に自然に存在するのは水平面であって、人間が介入することで初めて垂直面が生じ、その垂直へどう介在するのかが絵画制作であるとも考えています。そうした垂直性を強く意識した展示も、見るべきポイントなのかもしれません。


手前:「背・白 edge-2009 c」2010年 油彩、木炭、カンヴァス 個人蔵

さて絵画を特徴付ける紫と白と地のグレー、その塗り方にも興味深いものがあります。中西は絵を描く上で長い筆の先に刷毛を付け、なるべく垂直に筆を置くようにしているそうですが、確かに白い斑点は絵具を上から垂らしたように盛り上がっています。

また地のグレーは上から塗ったものではなく、一度下地として白を塗った後、拭き取ることで表れた色だそうです。

なおこのグレーに関連し、いくつかの絵画において興味深い関係が。


「中央と後方」、及び「中央と後方 地塗反転」 2009年 油彩、カンヴァス いずれも個人蔵

と言うのも壁に掛けられた「中央と後方」の4点の作品。実は一番左と左から三番目、そして左から二番目と一番右が、それぞれのイメージ、さらには白とグレーの関係においても『反転』しているのです。

つまり前者の例を挙げると一番左の「中央と後方 地塗反転-1」は左から三番目の「中央と後方-2」を写して描いています。


「中央と後方-2」2009年 油彩、カンヴァス 個人蔵

また写真ではわかりにくいかもしれませんが、塗りにおいても、本来的に拭き取って生まれるグレーの部分へにあえてグレーを加えています。つまり下地が絵具の層へと転換しているのです。


「中央と後方 地塗反転-1」2009年 油彩、カンヴァス 個人蔵

もちろんトレースなりして描いているわけではないので、厳密な写しではありませんが、このように作品同士を連鎖、反復させていくことで、言わば連続性を生み出させるとともに、全体として共鳴する何かを探っているというわけでした。

さて千葉市美との提携企画の情報です。10月末から始まる須田悦弘展にあわせ、両展会期中の土日、相互を結ぶ無料のシャトルバスが運行されます。

[DIC川村記念美術館~千葉市美術館無料シャトルバス]
運行日:11/3(土)~12/16(日)までの毎週土・日曜日。
時刻表:千葉市美術館発12:00/14:00 → DIC川村記念美術館着、DIC川村記念美術館発13:00/15:00→千葉市美術館着

また半券を提示するとそれぞれの割引サービスを受けられます。

[千葉市美術館「須田悦弘展」(10/30-12/16)との連携]
チケット半券(有料券)を提示すると入場料を割引。
千葉市美術館:一般1000円→700円、大学生700円→490円
DIC川村記念美術館:一般1200円→1000円、学生・65歳以上 1000円→800円

天井から陽の光も差し込む空間で向き合う白やグレー、そして紫の浮遊する絵画。その中を縫うように歩く体験は思いがけないほどに豊かです。


203展示室風景

移りゆき、また共鳴し合いながら連鎖する絵画の生み出した美しき世界、是非とも体験して下さい。

カタログの発行は11月初旬になるそうです。(それまでは館内で予約受付。)

2013年1月14日まで開催されています。

「中西夏之 韻 洗濯バサミは攪拌行動を主張する 擦れ違い/遠のく紫 近づく白斑」 DIC川村記念美術館@kawamura_dic
会期:2012年10月13日(土)~2013年1月14日(月・祝)
休館:月曜日。但し12/24、1/14は開館。年末年始(12/25-1/1)。
時間:9:30~17:00(入館は16時半まで)
住所:千葉県佐倉市坂戸631
交通:京成線京成佐倉駅、JR線佐倉駅下車。それぞれ南口より無料送迎バスにて30分と20分。東京駅八重洲北口より高速バス「マイタウン・ダイレクトバス佐倉ICルート」にて約1時間。(一日一往復)

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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