「横浜トリエンナーレ2011」(後編・日本郵船海岸通倉庫) 横浜美術館、日本郵船海岸通倉庫

「横浜トリエンナーレ2011 OUR MAGIC HOUR」
横浜美術館、日本郵船海岸通倉庫(BankART Studio NYK)
8/6-11/6



「前編・横浜美術館」の記事に続きます。横浜トリエンナーレ2011へ行ってきました。

横浜美術館から巡回バスに揺られること約10分、馬車道近くの日本郵船海岸通倉庫こと「BankART Studio NYK」こそが、今回のトリエンナーレのもう一つのメインスペースです。


ソン・ドン+イン・シウジェン「Chopsticks3」

こちらは前回のトリエンナーレでも会場です。作家数は約30弱と浜美に比べると少なめですが、主に映像を中心に見応えのある作品も点在していました。

そしてその映像として一番に挙げたいのがクリスチャン・マークレーの「The Clock」に他なりません。本作は今年のヴェネツィア・ビエンナーレで金獅子賞を受賞したということで前々から話題となっていた作品ですが、上映時間は何と24時間に及びます。


クリスチャン・マークレーの「The Clock」(参考図版)

しかも映画で淡々と進行するドラマは実際の時間とリンクしています。つまりは開催中、トリエンナーレの会場時間の部分しか鑑賞出来ないわけですが、まだ確定ではないものの、他の部分も楽しめる上映会という話もあるそうです。

ゆったりとしたソファに座り、今の時間と同じ流れで進む映像を見ていると、不思議と現実と物語がない交ぜになってきます。映画の時計のあるシーンから切り取られたいくつもの物語は、まさにその時間を伝えつつも、今までにない映像体験を生み出していました。


アピチャッポン・ウィーラセタクン「プリミティヴ」

また映像としてまとまった形で紹介されているのが、アピチャッポン・ウィーラセタクンです。彼はタイの監督として初めてカンヌでパルムドールを受賞したことでも知られているそうですが、今回は8本の映像や写真を用いて、タイの60~80年代の農村の生活をテーマとした作品を展開しています。鬱蒼とした森を思わせる映像空間はどこか混沌しています。時に激しさを増す映像は心を揺さぶってきました。

さて森とありましたが、NYKの空間演出自体にそうした森や自然を感じさせる面があるかもしれません。


ヘンリック・ホーカンソン「倒れた森」

ヘンリック・ホーカンソンの「倒れた森」はその名の通りに巨大な木を会場へと持ち込みました。


戸谷成雄「洞穴体5(ミニマルバロック)」

そしてその森に対抗するかのように立ちはだかるのが、戸谷成雄の「ミニマルバロック」です。四角いキューブの表面には無数の襞が刻み込まれ、所々空いた隙間からは中の空洞を覗き込むことが出来ます。コンクリートむき出しのNYKの空間に一つの異界を持ち込みます。その存在感は際立っていました。

また森や木ではなく、水に由来する作品を展開するのがイスラエル人アーティスト、シガリット・ランダウです。


シガリット・ランダウ「死視」

タイトルに死とあるのは死海のことで、立体作品には死海の塩を用い、映像には死海に浮かべたスイカの様子を映しています。サークル状に連なるスイカが解けてゆく時、作家自身が姿を現しました。水と人間、そして自然の産物が緩やかに結びつきます。死の海は新たな形で再生を果たしました。


カールステン・ニコライ「フェーズ」

光のグラデーションで涼感を誘うのがカールステン・ニコライの「フェーズ」です。これは暗室を細かい霧で満たし、そこに映し出した光線で様々な形を見せるものでしたが、三次元として浮かびあがる光の帯はどこか有機的です。霧とともに肌へまとわりつく光の触感を楽しみました。


山下麻衣+小林直人「大地からスプーンを生み出す」

柏のTSCAでも印象深かった山下麻衣と小林直人が再び砂鉄の山を築いています。その途方もない作業は映像を見れば一目瞭然ではないでしょうか。鋳造されたスプーンはあたかも山の頂きに靡くフラッグのように誇らし気でした。


ミルチャ・カントル「聖なる花」

その他では野口美佳の写真シリーズや、鏡を割り込み、またライフル銃を万華鏡のように仕立てたミルチャ・カントルの作品なども印象に残りました。


リヴァーネ・ノイエンシュワンダー「プロソポピーア」

総じて浜美ほど全体を貫くストーリーはないかもしれませんが、自然や社会問題などを扱うメッセージ性の強い作品が多かったかもしれません。その点でこれまでのトリエンナーレの展示の雰囲気を残すのはやはりここNYKの方でした。

ところでNYKでも映像を展示したピーター・コフィンがYCCことヨコハマ創造都市センターにて、「ミュージック・フォー・プランツ」なるプロジェクトを展開しています。


ピーター・コフィン「グリーンハウス」

これはコフィンの制作した「グリーンハウス」と呼ばれる植物の生い茂った温室の中で、様々なパフォーマーらがライブ演奏を繰り広げるプロジェクトです。その音楽はあくまでも植物に聴かせるためにあるという点がまた興味深いところですが、当然ながら人間も植物に並んで聴くことが可能でした。

なお私が伺った内覧時はEYEが演奏していましたが、会期中には他のアーティストも多数登場します。

8/20(土) 大友良英
9/17(土) ジム・オルーク
10/1(土) 蓮沼執太
10/29(土) テニスコーツ


各日とも開始は17:30、参加費無料、予約不要で先着100名です。

まだ始まったばかりということもあるのか、横浜中心部全体で盛り上がる雰囲気にはほど遠い様でしたが、このトリエンナーレ本展示の他にもいくつかの連携プログラム特別連携プログラムが用意されています。そちらとあわせて一日で横浜のアートシーンを楽しむのも良いかもしれません。


横浜トリエンナーレ・オープニング・レセプション

なおトリエンナーレは横浜美術館に準じ、8月と9月は毎週木曜が閉場日です。(10月以降は10/13、10/17の各木曜のみ閉場。)ご注意下さい。

横浜美術館、及びBankARTなどを巡る無料循環バスが、おおよそ15分程度の間隔で運行されています。

[横浜美術館]→BankART→新港ピア→[横浜美術館]→日ノ出町(降車のみ)→黄金町→[横浜美術館]

美術館のバス乗降場は建物の裏手、またBankARTも施設からやや離れた場所にありました。現地ではガイドの方が目印の旗を持っておられますが、念のために場所等を館内スタッフに確認した方が良いかもしれません。

出来れば再訪するつもりです。11月6日まで開催されています。

*関連エントリ(横浜美術館会場の感想をまとめてあります。)
「横浜トリエンナーレ2011」(前編・横浜美術館)

「ヨコハマトリエンナーレ2011 OUR MAGIC HOUR - 世界はどこまで知ることができるか?」 横浜美術館、日本郵船海岸通倉庫(BankART Studio NYK)、その他周辺地域
会期:8月6日(土)~11月6日(日)
休館:8月、9月の毎週木曜日、及び、10月13日(木)、10月27日(木)
時間:11:00~18:00
住所:横浜市西区みなとみらい3-4-1(横浜美術館)、横浜市中区海岸通3-9(BankART)
交通:みなとみらい線みなとみらい駅5番出口徒歩5分(横浜美術館)、みなとみらい線馬車道駅6番出口徒歩4分(BankART)。会場間無料バスあり。

注)写真の撮影と掲載は主催者の許可を得ています。なお本展は一部作品を除き、会期中も写真の撮影が可能(フラッシュ、動画不可)です。
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