「ルドンとその周辺 夢見る世紀末」 三菱一号館美術館

三菱一号館美術館
「ルドンとその周辺 夢見る世紀末」
1/17-3/4



フランスの城館に100年以上も秘蔵されていたルドンの大作、「グラン・ブーケ」がついにベールをぬぎました。三菱一号館美術館で開催中の「ルドンとその周辺 夢見る世紀末」へ行ってきました。

闇を刻む黒から一転、「グラン・ブーケ」を含む色彩豊かな世界と、幻想と夢の中に多様なイメージを開花させたルドンですが、本展はその画業をほぼ回顧展形式で楽しめる内容と言っても差し支えありません。

世界有数とまでいわれる岐阜県美術館のルドン・コレクションと、今回、三菱一号館に新たに収蔵された「グラン・ブーケ」をあわせ、全140点ものルドン、もしくは象徴主義の画家らの絵画が一堂に会しました。

構成は以下の通りです。

第一部 ルドンの黒
第二部 色彩のルドン
第三部 ルドンの周辺


冒頭は「ルドンの黒」、ようはルドンが画業の前半に手がけていた木炭の素描と版画の作品が登場します。


オディロン・ルドン「夢のなかで 悲しき上昇」(1879年)

ルドンはいわゆる黒の時代以前から、鉛筆やペンにより自然を写生することを習慣的に続けていました。

そこで重要なのは樹木のモチーフです。

「森の中の男」(1865年)や「樹」(1865年頃)でも見られるように、ルドンは大きな樹木とそこへ寄りそう人物を好んで描いています。

彼の初の石版画集「夢のなかで」(1979年)の表紙も木であることに気づかれた方も多いのではないでしょうか。

この版画集で早くもルドンの夢、また無意識の世界への強い関心を伺うことも出来ますが、そのイメージの源泉にはあくまでも自然があったというわけでした。

ポーに捧げた二番目の版画集「エドガー・ポーに」(1882年)では、さらにルドンの神秘主義的な傾向を見ることが出来ます。


オディロン・ルドン「夢のなかで 幻視」(1879年)

ルドンと言えば植物と人物の頭部、また目を融合させた奇異なモチーフでもよく知られていますが、その元になっていたのが、彼が出入りしていた知識人サークルの一員である植物学者のアルマン・クラヴォーでした。

またルドンはさらに師のロドルフ・ブレスダンのロマン主義的な銅版画の影響を受けています。

実は今回の展覧会ではこのブレスダンやモローなど、ルドンの画風と関わりのある画家の作品が紹介されているのも重要なポイントです。

非常に精緻な描写の元、自然の中に物語的とも伝奇的ともいえる要素を取り込んだブレスダンの作品こそ、ルドンが本来見ようとしていた自然の世界であったのかもしれません。

さて黒の時代で重要なのは、彼がいかに光と色彩を獲得したのかということではないでしょうか。


オディロン・ルドン「夢想 日の光」(1891年)

実際に「夢想」(1891年)や「光」(1893年)を見ていると、闇から光へと移りゆくルドン変化を知ることが出来ます。

それを象徴するのが、暗がりの中に光に満ちた女性の顔を描いた「女の横顔」(1885年頃)ではないでしょうか。顔から灯る光はいつしか画面全体へと広がり、それが色を得て、ルドンの「色彩の時代」へ進んでいきました。


オディロン・ルドン「眼をとじて」(1900年以降)

さて色彩のルドンで忘れられないのが、「オフィーリア」(1901-02年頃)です。

闇から光が差し込み、また画面手前の緑色の織りなす色彩空間の中を、彼の妻をモチーフにしたともいわれる「眼をとじて」風の女性が横たわっていました。

また後半生に集中的に描き、それこそ「グラン・ブーケ」にも連なる色鮮やかな花の絵も魅惑的ではないでしょうか。

とりわけ得意とするパステルを用いた「青い花瓶の花々」(1904年頃)の美しさは際立っているといえるかもしれません。ブルーの滲みる花瓶からは、それこそこぼれ落ちそうなほどに花々が咲き誇っています。またモネの睡蓮を思わせるような淡いピンクと水色の背景の色も印象に残りました。

そして目玉の「グラン・ブーケ(大きな花束)」(1901年)です。


オディロン・ルドン「グラン・ブーケ(大きな花束)」(1901年)

1897年、フランスのドムシー男爵は、ブルゴーニュ地方にある城館内の36平方メートルにも及ぶ食堂装飾をルドンに依頼します。

ルドンはその巨大な壁面を18分割し、色彩豊かな植物画による大パノラマを築きました。

ともかくチラシにもサイズが記載されているように、縦2.5メートル、幅1.6メートルという大きさに圧倒された方も多いのではないでしょうか。

もはや官能的でありかつ生気に満ちた花々は、それこそ青い花瓶からもこぼれ落ちるほどに咲き乱れています。

この作品こそ当地のドムシーの城館に2010年まで掲げられていたという伝説の一枚に他なりませんが、ともかくは取り外されてから僅か2年という短い期間で、ここ日本で見られるとはまさか思いもよりませんでした。

ちなみに三菱一号館ではこのブーケの展示に全力を傾けています。写り込みのないケース、そして暗がりから色の浮き上がってくる照明と、まさにこの上ない環境で楽しむことが出来ました。


マックス・クリンガー「版画集『手袋』 誘拐」(1881年)

さて後半の「ルドンの周辺」では、先ほど挙げたブレスダンの他に、ムンク、クリンガー、そしてゴーギャンなどの作品も展示されています。

率直なところゴーギャンとルドンに関係があったとは意外な印象を受けましたが、実は彼らには深い交流がありました。


ポール・ゴーギャン「ステファーヌ・マラルメの肖像」(1891年)

特にゴーギャンはルドンの黒を高く評価していましたが、ルドンもゴーギャンの死に際し、彼の横顔をモチーフにした作品を描いたそうです。ルドン以外の画家でお気に入りの作品を探すのも展覧会の醍醐味かもしれません。

本展は巡回展ですが、「グラン・ブーケ」は三菱一号館のみ出品とのことで、図録に図版が掲載されていません。しかしながらそれを補うのがブーケの特製リーフレットです。


「グラン・ブーケ」の特製リーフレット

ここではドムシー城の壁画全体の図版と、ブーケの解説が記されています。価格は一部、200円です。これはおすすめ出来るのではないでしょうか。

「もっと知りたいルドン/高橋明也/東京美術」

またルドンに関しては同館館長の高橋明也氏による「もっと知りたいルドン」(東京美術)が大変参考になります。本展出品の作品も掲載されています。是非ご覧ください。

会期末に入り、会場も賑わっていました。なお通常休館日の月曜、会期最終週の2月27日に限り開館するそうです。水・木・金の夜間開館(20時まで)とあわせて狙い目になるのではないでしょうか。


オディロン・ルドン「神秘的な対話」(1896年頃

それにしても出品元の岐阜県美術館のルドン・コレクションの充実ぶりには感心させられました。一度は訪ねてみたいものです。

3月4日まで開催されています。おすすめします。

「ルドンとその周辺 夢見る世紀末」 三菱一号館美術館
会期:1月17日(火)~3月4日(日)
休館:月曜日。但し2月27日(月)は開館。
時間:10:00~18:00(火・土・日・祝)、10:00~20:00(水・木・金)
住所:千代田区丸の内2-6-2
交通:東京メトロ千代田線二重橋前駅1番出口から徒歩3分。JR東京駅丸の内南口・JR有楽町駅国際フォーラム口から徒歩5分。
コメント ( 5 ) | Trackback ( 2 )
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コメント
 
 
 
ルドン展 (葉悦)
2012-03-02 14:57:17
コンニチワ、はじめまして。

「ルドンとその周辺 夢見る世紀末」の記事、
知らなかったことが書かれていて、
興味深く読ませて頂きました。

ルドンは不思議な魅力をもつアーティストですね。
展覧会に行けないのが残念です。

 
 
 
Unknown ()
2012-03-04 01:45:55
版画集夢の中での画像とキャプション対応が取り違っている気がします。悲しき上昇と幻視が逆です。

おせっかいですが・・・
 
 
 
Unknown (はろるど)
2012-03-09 20:17:14
@葉悦さん

こんばんは。コメントありがとうございます。

>不思議な魅力

同感です。
元々黒のルドンが好きだったのですが、今回のブーケで色彩のルドンも素敵だなと。
見惚れました。


@叡さん

ご指摘ありがとうございます!
お恥ずかしい限りで…早速訂正させていただきました!
 
 
 
ルドンに恋して (コニコ)
2012-03-18 13:37:26
はじめまして。TBをありがとうございました。
この展覧会、落ち着いてルドンとその親交のあった人々をじっくりみられて、とても良かったですね。

おすすめの「もっと知りたいルドン」をぜひ読んでみようと思います♪
 
 
 
Unknown (はろるど)
2012-03-27 21:41:13
@コニコさん

こんばんは。こちらこそコメントをありがとうございます。

>「もっと知りたいルドン」

書かれたのが館長の高橋先生なので間違いありません。
本当に良く出来ております。
是非!
 
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