熨斗(のし)

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古里の歴史が終わる時ー7(信仰)

2020-05-22 23:36:48 | ひとりごと

信仰と言えばこんなことがあった。

ばあさんの茶飲み友達にトシばあさんがいた。

ある日、トシばあさんはいつものようにお茶を飲みに上って来た。

ところがその日のトシばあさんはいつもとちょっと様子が違っていた。

真昼間だというのに提灯を下げている。

「塩を貸してくれんかな?」

昨日もそんな事を言ってきたが・・・、また言い出した。

ばあさんが

「昨日貸したのにどうしたんな。昨日持って行ったじゃねえかな。」

そんな事を言いながらお茶を飲み、又提灯をぶら下げて帰ったのだが、

その日はそのまま家には帰らなかった。

「神様の仰せで狐が憑いたんじゃ!」

トシばあさんの息子のミネさが言い出した。

「氏神様に祈祷をせねば!」衆が氏神様に集められた。

たった五戸のだ。行けるものは皆氏神様の前に集合した。

ミネさは神主でもないのだが、神主らしく重々しく祈祷を終えると、

持ってきたお盆の上に、これも用意して来た45枚の小さな紙切れを散らした。

ミネさは大きな声で「エイッ!!」と掛け声をかけると、お盆の上に御幣を近づけ、

御幣に引き寄せられるように付いて来た紙を見て、「ばあさんは南南東の方向にいる」とか言いだした。

五戸のは俄かに大騒動になり、そこらここらの聞き込みから始まった。

もう秋も深まり朝は霜も降るような日が続いていた。

「トシばあさんはもう生きちゃぁおらんぞ」そんな噂も広がっていた。

聞き込みの話しでは、青木ヶ沢から一里ほど離れた柿の沢辺りで、ちいさな婆さまが首に手拭いを巻いて、

提灯をぶら下げてとっとことっとこ下って行った。と、柿の沢の衆に聞いて来た。

それが神様の仰せの方向であったかどうかは知らないが、

3日目にどこかの田んぼの藁塚でうずくまっているところを見つけたらしい。

履物も履かず手足は霜焼けで赤く腫れて、提灯はなかったらしい。

見つけたの若い衆が藁塚の戸板に乗せて担いで運んできた。

ミネさが言うには・・

その時はまだ狐に憑りつかれておった。ミネさが土間で祈祷をすると狐は抜けて、

寝床に運ぶ時にはすっかり軽くなって、いつもの婆さんの優しい顔に戻っておった、と。

それは神様が言う事だでほんとうだと将司さも言っておった。

だが、それから半月くらいして婆さまは死んだ。

 

この事件の前にも、「下」に嫁に来たミツさんは若い頃から肺を病み、

「下」は大地主だもんだから、の子供たちは交代でお百度参りを頼まれて、

山の氏神様まで木の根が這うような山道を何度も何度も上り下りさせられ、

その都度、俄か神主のミネさが氏神様に籠っては、

「お池の水を飲ませてあげてくれ」とか、「蝮が効くから蝮を捜してこい」

とか言われ、蝮探しまでさせられたが、

ミツさんは若くして亡くなってしまった。

 

つづく