ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

深刻化する地域医療の現状

2007年07月30日 | 地域医療

現状のままであれば、今後、地域中核病院から、産婦人科、小児科、麻酔科、外科、救命救急センターなどの多くの診療科がさみだれ式に次々に消滅していくことが予想されます。

今は何とか必死で持ちこたえている診療科でも、所属医師の頭数が増えず平均年齢も年々上がっていくような状況が続けば、その診療科が5年後、10年後も存続しているような保障は全くありません。

地域医療は、ここ1~2年が何とかなればいいというようなものではありません。5年後、10年後も地域中核病院の機能を存続させ、さらに発展させていく必要がありますが、県や大学など、どこにお願いに行っても、みんな困り果てているだけで、誰も助けてはくれません。

地域医療の存続のために、今、我々は何を実行しなければならないのか?よく考えて、地域で一丸となって、真剣に取り組んでいく必要があると思います。

**** 朝日新聞、香川、2007年7月19日

病院・医師の努力限界/県内の医師確保

 曜日ごとの外来診察の医師名を知らせる掲示板に「医大医師」のプレートがかかる。坂出市文京町1丁目にある同市立病院の産婦人科窓口。本来なら他科と同じく、具体的に個人の担当医師名を紹介するところだ。

 昨年6月末で常勤医師が退職し、年に約200件あった分娩(ぶん・べん)など産科診療を取りやめざるをえなくなった。今は香川大の医師に非常勤で週2回程度来てもらい、婦人科外来のみ続けている。

 体調を崩して同病院に入院した長男(2)に寄り添っていた市内の主婦辻日出未さん(22)は現在、妊娠3カ月。長女も長男もここで産んだが、3人目はほかの病院を探さないといけない。市内に別の産婦人科もある。だが、早産体質なので、いざというとき自宅から遠いと不安だ。「少子化の時代に頑張って産んでいるのに。どうしよう」

 県内の医師数は増えてはいるものの、産婦人科をはじめ、いくつかの診療科は減少傾向にある=表参照。新しい産婦人科の常勤医を探している砂川正彦院長(55)だが、「大学の医局にも、どこにも医師がいない」と話す。

 勤務医の仕事が年々激務になっているうえ、福島県の病院で昨年、帝王切開した女性を死亡させたとして産婦人科医が逮捕された影響も大きい、とみる。「一生懸命やっても逮捕される。飲酒運転で死亡事故を起こすよりも裁判で賠償額が多いこともあった。社会状況が医師には非常にマイナスに働いている」

     ■

 県立中央病院(高松市番町5丁目)の救命救急センターは、救急患者の最後のとりでだ。年間約3100人(05年)が救急車で運ばれてくる。その救急専従医2人が退職し、今年4月からゼロに。今は麻酔科、外科などの医師5人がチームを組んで救命に当たる。

 センターで昨年3月、心肺停止患者の受け入れを拒否したことが問題になった。そのとき松本祐蔵院長(61)は、改善策として「センターの人員態勢を強化したい」とコメントした。でも現実は逆行している。

 大学の医局に派遣を再三かけ合ったが、補充のめどはたっていない。大学頼みではおぼつかないと、今秋にも今いる医師が救急専門医の資格をとることを検討している。松本院長は「若い救急医を病院自ら何とか育てていかないと、どうしようもない」と話す。

     ■

 参院選を前に、政府は緊急医師確保策を打ち出した。その一つが国がプールした医師の派遣。ただ、第1陣の7人が派遣されたのは北海道、岩手など。「香川には来てもらえないでしょう」「そんなに(派遣の)医師を集められるのか」と県の担当者や医療関係者は冷ややかだ。

 医療費抑制の流れの中で医師数は簡単には増えそうにない。診療機能の分担・集約化を図ろうにも、既得権の調整は容易ではない。「県内医療がどうなるのか、もうギリギリの段階。県民のみなさんに医療の現状をもっと知ってほしい」(県立中央病院の松本院長)、「一人の医師の頑張り、一病院の努力ではどうにもならなくなっている」(坂出市立病院の砂川院長)。現場は悲痛な叫びを上げている。【東孝司】

(朝日新聞、香川、2007年7月19日)


お医者さんたちの受難 (東京新聞)

2007年07月28日 | 医療全般

コメント(私見):

患者満足度を高めるための病院側の不断の努力は必要ですが、すべての患者さんに対して100%の満足を得るなんてことは絶対に無理な話ですし、患者さん側からのクレームは最近ますます増えていく傾向にあり、それをゼロにすることは不可能だと思います。

特に、外来の受付窓口の事務職員などは、苦情や抗議の嵐の矢面に立たねばならない立場にあって、そのストレスのために心身とも疲れ果てて職場を辞めて行く人も少なくありません。

医療従事者たちが燃え尽きないで今の仕事を続けていくためには、どうしたらいいのでしょうか?理不尽なクレームへの対応も業務の一部と割り切って、勤務時間内に自分のやるべきことをしっかりやったら、定時できっぱりと仕事から離れ、後は気持ちを切り替えて、自分の生活を十分に楽しみ、24時間仕事に引きずられ続けないことが大切だと思います。いくら体育会系の頑張り屋さんでも、1人医長で24時間365日仕事から離れられないような生活を強いられ、すべてのクレームに対して当事者として対応していたら、ストレスが蓄積するばかりで、当然、そのうち燃え尽きてしまうでしょう!

また、話し合いではどうしても立ちゆかない相手とは交渉の場からきっぱり立ち去る覚悟も時に必要ですし、病院として対応しきれない迷惑行為や診療妨害などに対し、『転院勧告』、時には『警察への通報』、『逆提訴』などの毅然とした対応が必要となる場合もあり得ます。

****** 東京新聞、2007年7月25日

お医者さんたちの受難

 病院内での暴力や暴言、恫喝(どうかつ)など「院内暴力」をよく耳にするようになった。

 加害者が患者や家族、面会人の場合と病院職員の場合とがあるが、最近増えてきたのは前者という。筆者が入院・手術を受けたことのある東京医科大学病院はその一つ。具体例を紹介すると-。

 最も多いのが外来患者からの暴力で、長い待ち時間にいらいらし、やっと順番が回ってきたとき「お待たせしました」と詫(わ)びなかった医師に腹を立て足蹴(げ)りした。

 糖尿病で通院中の患者が食事療法に取り組まないので医師が「このままでは失明しますよ」と忠告したところ「失明したら(医師の)目をくりぬく」と言って脅した。

 診察が順番通りではないとして大声を出して他の診察を妨害したり、ナイフを振り回す患者や「夫はマスコミ関係者だ。これからそちらへ行くのでタクシー代を払い、すぐに診察しろ」と電話で無理難題を吹っかける患者も。身の危険を感じ、一人で診察できなくなった女医もいる。

 「自分流の理屈をまくし立て、金銭や謝罪を要求するケースが増えている」と病院。直接の暴力など悪質なケースは月数件、暴力に至らない苦情まで含めると二百件近い。

 病院が迷惑行為や診療妨害に対して、転院勧告、場合によっては警察へ通報することを決めたのは当然だろう。

 米国での診療経験が長いコラムニストの李啓充医師は「米国では患者の権利を保障する代わりに患者の義務も求めている」と指摘する。

 患者の視点を離れ医療従事者の視点に立つと、世間ではあまり知られていない生々しい「院内暴力」の実態が見えてくる。【日比野守男】

(東京新聞、2007年7月25日)

****** 毎日新聞、2007年7月24日

損害賠償:「患者の請求不当」 医師側の慰謝料認定--地裁判決 /千葉

 八街市の耳鼻咽喉科医院の男性医師(49)が適切な治療をしたにもかかわらず、同市内の男性患者(67)から不当な損害賠償を要求されたとして、男性に200万円の慰謝料を求めた訴訟の判決が23日、千葉地裁であった。菅原崇裁判長は「治療は適切で、金銭の請求に正当性はない」とし、男性に30万円の支払いを命じた。原告側弁護人によると、患者のクレームが不当だなどとして医師側の慰謝料が認められるケースは異例だという。

 判決によると、医師は06年5月、男性が耳を虫に刺されたと訴えて受診した際、帯状疱疹と診断。その後、男性の顔に神経マヒが発症、男性は治療が不適切だったととして、同院に約20回、「170万円を支払えば話は終わる」とする文書を送付した。

 判決は「帯状疱疹との診断や治療薬の選択は適切。医師は金銭を要求する文書の送付などで相当程度の畏怖を感じた」と指摘した。【山本太一】

(毎日新聞、2007年7月24日)

****** 共同通信、2007年7月10日

お産の満足、意思疎通が鍵 厚労省研究班が指針

 「いいお産ができた」と満足するかどうかを左右する重要な要素は、出産施設側との密接な意思疎通―。厚生労働省研究班が出産した女性への調査を基に、施設向けの指針を作った。

 満足と答えた人は80%で、1999年調査の84%から減少しており、主任研究者の島田三恵子・大阪大教授(母子保健学)は「施設側が改善に役立てるだけでなく、これから出産する女性が施設を選ぶ際の参考になれば」と話している。

▽1万人にアンケート

 研究班は2005年9―12月に、大学病院、一般病院、診療所、助産所の計570施設で出産した約1万人にアンケートし、454施設の3852人が回答。正常もしくは危険性の低い妊娠・出産で、施設側のどんな対応が、出産に関する満足度や「また同じ施設で産みたい」という感想につながっているかを分析した。

Mannzokudo

 満足度が高かったのは、妊娠中は「悩みや疑問に誠意をもって答えてくれた」ことや「何でも話せる雰囲気がある」「心身の状態が自分で理解できる」ことで、出産時では「自分が尊重されたと感じる」「十分な経過説明がある」などだった。 妊娠から産後まで同じ助産師が担当したり、出産直後に母子が接触し同じ部屋で過ごしたりするのも、重要なプラス要因だった。

 意外なことに、多くのマタニティークリニックが力を入れている部屋や食事、設備の充実ぶりは、満足度とほとんど関係がなかった。

▽満足度は助産所

 これらの結果から研究班は指針で、最も重要なのは「施設側とのコミュニケーション」と指摘した。一方で、島田教授は「満足度の高い項目の多くは、施設にマンパワーがないとできない。産科医が減っている現状では、ますます実現が困難になるのではないか」と懸念している。

 施設別では、満足と答えた人の割合が最も高かったのは助産所の94%で、次いで診療所83%、一般病院77%、大学病院76%だった。大学病院は医学的な理由でやむを得ず利用するケースが多いため、もともと満足度で不利な面もある。

 島田教授は「いろいろわがままが言える助産所に人気が集まるのは、理解できる。問題は安全性で、大学病院などとの連携は欠かさないようにしてほしい」と注文を付けている。

(共同通信、2007年7月10日)

****** AERA、2007年6月4日号

「感情労働」時代の過酷

 体を使う肉体労働。

 頭を悩ませる頭脳労働。

 そして、感情を切り売りするが如き感情労働の時代が来た。

 教育も医療もまるでサービス産業だ。

 時にクレーマーと化すひと相手の仕事に灰にならずに、やりがいを達成する道はあるのか。

 (AERA編集部・浜田奈美)

    ◇ ◇ ◇

 いきなりワタクシゴトで恐縮だが、私は数年前、上司からこう言われたことがある。

 「ハマダくん、もう少し楽しそうに仕事してくれないと、僕も困るんだがなあ」

 記者なんて会社の中でどんな顔して働こうが勝手でしょう、と言いたいところを我慢して、

 「仕事はきちんとやってますよ」

 と仏頂面で答えたら、上司は渋面と苦笑いの中間ぐらいの表情で沈黙していた。

 しかしいま思えばそんな強気な回答も、こんな無粋な業界だから許されただけのことかも知れない。なぜならいま世間では、あらゆる職種に「コミュニケーション能力」が求められ、模範的な「接遇力」が要求されているようである。

 例えば、こういう事例がある。

 2002年、札幌市内の病院で、患者の世話をする介護員として4年余り勤務していた20代の女性契約職員が、「笑顔がない」「不満そうなオーラがでている」ことを理由に、病院側から契約更新を拒否された。その後、病院側の対応を不服として、札幌地裁に病院を訴え、一審で勝訴。控訴審判決でも、勝訴している。

 06年4月には、東急東横線渋谷駅で、30代の男性駅員が、切符を出さずに改札を通り過ぎた男性を呼びとめて事情を聴こうとしたところ、男性から暴言を浴びせられつばをはきかけられた。駅員は怒りのあまり男性を殴ってしまい、諭旨解雇処分になっている。

 分別ある労働者たるもの、いかなる状況下でも、適切な表情で倫理的にふるまうことが、アタリマエと目されている。

 でも、それって本当に「アタリマエ」なんだろうか――。

●患者様へのサービス

 神奈川県内の大学病院で働く看護師のケイコさん(28)は、自分は看護師に向いていないと、思い悩む日々を送っている。

 病院も生き残りをかけて利潤追求に精を出す時代だ。検査につぐ検査、手術につぐ手術、そして患者さんや家族に詳細な説明をしなければならず、本来業務であるはずの看護もままならない。同僚は次々とやめ、コスト削減に伴う人減らしで、1人当たりの夜勤も月に10回近くになる。そのうえ患者や家族に対する「接遇サービス」まで、マニュアル化されている。

 そういう心身ともギリギリの状態で頑張っているのに、たまに見舞いに来ては患者の世話もせずに帰ったり、見舞いに来るなり「きちんと体を洗え」などと文句を並べたてる家族たちをみると、ケイコさんはいらだちを隠せない。

 最近はこんなことがあった。朝から手術が重なり大忙しの日に、いつもケイコさんにトイレ介助を任せる男性患者が執拗にナースコールを鳴らし続けた。病室に走っていくと、ナースコールを押し続けていたのは患者ではなく、その妻だった。在宅療法も可能な患者だが、この妻が「世話をし切れない」と言うので入院している。妻はケイコさんの顔を見ると面倒くさそうに、

 「看護婦さん、この人がおしっこおしっこって、うるさいのよ」

 ケイコさんの怒りは爆発。

 「今日は忙しいから介助は無理だと申し上げたはずです!」

 そして後で冷静に考えて、「自分の未熟さ」を猛省したそうだ。

 ケイコさんは本当に「未熟」なのだろうか。

 看護の領域などで知られる、「感情労働」という言葉がある。

 「肉体労働」「頭脳労働」と並ぶ言葉で、人間を相手とするために高度な感情コントロールが必要とされる仕事をさすものだ。1980年代に、アメリカの社会学者が、当時の航空会社の客室乗務員の労働実態を、典型的な「感情労働」であり、「感情の搾取」にあたると指摘。まず、社会学の用語として広まった。

 平たく言えば、働き手が表情や声や態度でその場に適正な感情を演出することが職務として求められており、本来の感情を押し殺さなくてはやりぬけない仕事のことだ。

●不特定多数を相手に

 そしてここにきて、この「感情労働」があらゆる職種に広がり始めている。『感情と看護――人とのかかわりを職業とすることの意味』(2001年、医学書院)などの著書で、看護の現場に感情労働の概念を伝えた武井麻子・日本赤十字看護大教授は、近著『ひと相手の仕事はなぜ疲れるのか』で、看護や介護職、接客業や電話相談業、クレーム処理など、様々な職業で過酷な感情労働が求められている現状を指摘した。大手書店ではビジネスの書棚にも置かれ、出版元の大和書房には、サービス業や銀行員など、様々な業種の読者から反響が寄せられた。

 武井教授はこう語る。

 「ひと相手の仕事は昔からあっただろうと、働く側の問題点を指摘する声もありますが、一概にそうではないと考えます。以前は、顧客が常連や顔なじみであることが多く、ある程度の親密さや信頼感がありましたが、今は気質も好みも分からない不特定多数の人を相手にしなければなりません。しかも瞬間芸的なスピードで、感情労働が求められています」

 不特定多数に対する、瞬間芸的な感情労働。元電器量販店店員の青木詠一さん(42)が日々、売り場で直面した苦情の嵐は、まさしくそれだった。

 10年以上前に買ったテレビが故障し、「欠陥商品だ」と怒鳴り散らす客。保証書を自分が紛失しておきながら、「無料で修理に応じろ」と詰め寄る客。入荷待ち商品の「お客様控え」の渡し方が気に食わなかったと言ってパート店員を罵倒し続ける客。帰省中に買った商品を帰りの新幹線で使おうとして部品が足りないことに気づき、「すぐもってこい」と車内から電話をしてきた若い男性……。

●お客様は神様?

 青木さんがクレームの数々をブログにつづったところ反響は大きく、04年、その内容が『それでもお客様は神様ですか?』(大和書房)という1冊の本にまとめられた。こう振り返る。

 「異動までの15年ほどを苦情処理に費やしましたが、苦情の質は徐々に変わってきました。来店ではなく、携帯電話やメールなどによる間接的な形が増えたためか言葉が暴走し、陰湿化しています」

 感情労働の過酷さの背景に浮かび上がる、消費者サイドの「変貌」。いまもっともその変化が大きく、どんどん「感情労働化」している職業は、教師だろう。

 首都圏の高校教員のケンジさん(47)が数年前まで勤務していた高校は、いわゆる「底辺校」。暴力事件も日常茶飯事で、教師への暴力も珍しくなかった。例えば掃除をさぼっていた男子生徒をケンジさんが呼びとめたところ、生徒はいきなりつかみかかり、

 「ぶっころされてえのか?」

 ケンジさんはとっさに腕を後ろに組み、殴られることを覚悟しながら冷静になるよう説得した。殴られても、あくまでひるまず冷静に。それが、経験上の「対処策」だ。一方で、問題行動の多い生徒も進級できるよう、学力の問題などについて本人や親に働きかけたが、砂漠に水をまくような作業だった、という。

●自分を責める教師

 ある日、教頭から、いきなり辞職願を出した後輩教員の説得を任された。理由を言わないという。ケンジさんと2人きりになって後輩はようやく、自分が長い間、生徒たちにいじめを受けていたことを告白した。掃除用具用ロッカーに閉じこめられたり、大型のゴミ箱に放り込まれたり。それでも「自分の指導力不足」と自責していた。ケンジさんが教頭に報告し、対応を迫ると、教頭はこう言った。

 「まあ、指導力不足でしょう」

 後輩はそのまま辞職した。

 大阪大学大学院人間科学研究科の小野田正利教授は、学校などでの保護者対応の難しさについて研究している。題して「いちゃもん学」だ。

 教授は05年、関西の888の小・中・高校、幼稚園、養護学校の管理職を対象に、「保護者対応の現状に関する調査」アンケートを実施。約6割にあたる507施設から回答が寄せられた=下のグラフ。

 「大いに難しさを感じる」と答えたのは小学校の43%を最高に平均で4割近く、「少し難しさを感じる」と合計すると、難しさを感じている管理職は、小学校で9割、中学、高校で8割超と、軒並みハイスコアを記録した。

 給食の準備で忙しい時間帯、担任教員に「急ぎの電話」を入れ、

 「うちの子、風邪ぎみだから薬をちゃんと飲ませてよね」

 と命令する母親。運動会前日、

 「明日の天気は雨のようだが、なぜ雨の確率の低い日に設定しなかったのか?」

 と電話で詰問する親。運動会の場所とりで前夜から門前に並び、近隣住民から注意を受けると「学校の対応が悪い」とキレる親。

●「いちゃもん化」社会

 小野田教授は、学校に対する保護者や近隣住民の要求が刻々と「いちゃもん化」する底流にあるものは、現代ニッポンの「コンビニ・ファミレス文化」と考える。

 「例えばコンビニでは立ち読みだけして出ていく客にも、店員が『ありがとうございます』と言いますし、ファミレスでは小さな子供が1人で来ても『いらっしゃいませ』『何になさいますか』と声をかける。本来なら『立ち読みやめんかい』『キミ1人で来たらあかんで』でしょう。こういう奇怪なコミュニケーションの積み重ねが、消費者サイドに間違った権利意識を植え付けてしまっている」

 確かにコンビニやファミリーレストランが社会に定着する以前の「店」と「客」の関係性は、今よりずっと人間的で直接的であり、画一的にマニュアル化されてはいなかった。その分、客の側も緊張感があった。つまり小野田教授の言う「権利意識」とは、何であれ「消費者」は丁寧に扱われることがサービスの最低基準だという、ある種ゆがんだ意識である。

 精神科医の和田秀樹氏は、「超消費社会」がキーワードだと指摘する。

 「生産が消費に追いつかなかった時代はモノを作った側が強かったけれど、モノがあふれて消費不況が慢性化した今ではサービス合戦しかない。その構図から『お客様』の側にものすごい甘えが許される環境ができて、月並みなサービスでは満足できない消費者たちがたくさん育っちゃった」

 現代の「安全神話」の弊害もある。緩和ケア、そして神経科病棟の現場で看護師長を務めながら、エッセイストとしても活躍する宮子あずささんは、「緩和ケア」や「心のケア」という言葉のもたらす安心感に、違和感を感じてきた。

 「緩和ケア病棟で接するご家族の中に、親御さんが末期がんだというのに『落ち込んでいるので、前向きにしてやってください』などと言う方もいます。確かに医療は発達しましたし、緩和ケアも充実しつつあります。それでも、いつの世も病は苦しく、死は恐ろしいもののはずなんですが」

●つらさを多角的に見る

 超消費社会と、消費者意識の変容が生み出す、おびただしい量の過酷な感情労働。この流れを変える手立ては、ないのだろうか。

 和田氏は、まず「振り子」を適正位置に引き戻すことだと考える。

 「学校と生徒、企業と消費者という関係性は、かつては立場がまったく逆だった。例えばヒ素ミルク事件で会社はつぶれなかった。そういう不適切な過去の力関係から、振り子が逆サイドに振れて、大きく振れ過ぎた。そろそろ振り子を適当な場所に戻して、『そこを超えるとただのクレーマーだぜ』ってラインを確立しないと、どんどんおかしなことになる」

 さきの宮子さんは、感情労働のつらさの「形」を、働き手が認識できるしくみづくりが大切だと言う。

 「個人の精神的な訓練も必要ですが、精神論では対処できないケースにも多く直面します。ですからつらい局面で、環境や感情を多角的に見る力がつけば、精神的に少し楽になれる。私の場合、それは言語化することでした」

 武井教授は月1回、全国の看護師や保健所の保健師による「事例研究会」を開催するほか、看護師同士のセルフヘルプグループ的な活動を続けている。いずれも、事例研究という本来の目的に加え、体験を発表し、出席者と共有することがストレスマネジメントにつながるという考えだ。

 全国に33のコールセンターを抱える「ベルシステム24」では、06年2月から全社的なメンタルヘルス対策を充実させた。社内に「ゆとり推進チーム」を発足。心理学をベースにした自己認識を促す研修を、これまでに50回以上開催し、1000人近くが参加した。担当の秋山司人材マネジメント局長はこう語る。

 「ポイントは、ストレスを内にためずに周囲に語れるシステムづくりです。そのためにはまず自分自身の傾向や状態を分析する力をつけ、職場内でストレスを吐き出せる環境整備が必要と考えました」

 研修の骨組みは、労働省(現・厚生労働省)が00年に示した労働者のメンタルヘルス対策「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」を受けたもの。指針は四つのケアを求めている。

 (1)セルフケア

 (2)管理監督者によるラインケア

 (3)職場・会社全体の「事業場内ケア」

 (4)社外の専門家との連携など「事業場外ケア」

 同社では今後、徐々に(2)から(4)の研修を充実させていくという。

●自分をたっぷり満たす

 では個々の感情労働者は、どうしたら燃え尽きずに済むだろう。

 独居老人の後見などを請け負う都内の福祉事務所を運営する女性(48)は、契約しているソーシャルワーカーたちに「定時終業」と「オフの充実」を徹底させる。

 「時間内にやるべきことをしっかりやったら定時できっぱり仕事から離れ、後は趣味などで自分を満たすように言います。24時間、仕事に引きずられないための切り替えの訓練になりますし、他人の気持ちや不幸を受け止めるには、充実していないと続きません」

 近著『日本人はなぜ劣化したか』(講談社現代新書)で、日本人の共感力やモラルが劣化していると指摘した精神科医の香山リカさんは、医師として、ある防御策を学んだという。

 「ポイントは『当事者として巻き込まれないこと』です。患者からの感情的な意見や怒りを受け止める時、私個人ではなく、医師としての立ち位置を大事にしています。いわゆるメタの視点ですね」

 とはいえ、個人ではどうにも対処できないケースはやはりある。女性向けコミュニティーサイトの運営などを手がける「イー・ウーマン」の佐々木かをり社長は、自社と取引先の双方が勝者になれる「win・win」のコミュニケーション方法を心がけている。しかしそれでも「残念なケース」はある、と語る。

 「相手によかれと思って施すことが、まったく伝わらないリスクは常にあります。自分がしたことが直接の相手と違う人から返ってくるなど、うれしいことがあるからこそ、施し続けることができる。でも、どうしても立ちゆかない相手とは、交渉の場からきっぱり立ち去る潔さも、覚悟しておかなくてはなりません」

(文中カタカナ名は仮名)

【AERA、2007年6月4日号】


医師足りず、消える産科 「妊婦の不安何とかして」 (共同通信)

2007年07月24日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

私の居住地の周辺の病院でも、産婦人科の閉鎖、分娩取り扱い中止が相次ぎ、社会的に大問題となってきています。今は、まだ産婦人科や小児科の問題だけが大きくクローズアップされている段階ですが、実際問題として存亡の危機に直面している診療科は、麻酔科、救命救急センター、外科、内科など、非常に多くの診療科に及んできつつあります。現状では、問題が解決に向かうような要素に乏しく、今後、ますます地域医療の状況は厳しくなってゆくものと予想されます。

最近の報道記事を読むと、これは当地域だけの特殊な事情ではなく、全国各地で同様に、地域医療が非常に厳しい状況に陥っているのがよくわかります。

この問題は、国全体の医師養成数の不足、病院勤務医の過剰労働、医事紛争の激増、女性医師の問題、新臨床研修制度、大学医局の医師派遣機能の低下など、国全体の現医療体制に起因する構造的な問題であり、一医師、一病院、一自治体、一医療圏の努力だけではなかなか解決できない非常に大きな問題です。

この問題の解決のためには、今後、日本の医療体制全体を抜本的に改革していく必要があると考えられます。

****** 共同通信、2007年7月23日

医師足りず、消える産科 「妊婦の不安何とかして」

 「もし病院に間に合わず、車の中で生まれたら...」。徳島県海陽町の池内真喜子(いけうち・まきこ)さん(28)は、妊娠7カ月のおなかを見てため息をついた。近くの県立海部病院の産科が8月以降存続するかどうか分からず、車で1時間20分の阿南市の病院に転院したためだ。

 徳島県牟岐町の県立海部病院は、人口計2万5000人の県南部三町で唯一の産科を持つ。だが、2人いた常勤産科医の1人が2005年3月に退職。残る1人も昨年7月で病院を去り、徳島大が1年に限って医師を交代で派遣してきた。その期限が間もなく切れる。

 「なるべく自然分娩(ぶんべん)がいいけれど」。池内さんは陣痛促進剤による計画分娩も考え始めた。

 派遣による存続はリスクと背中合わせだった。「この1年、12人のお産でたまたま急変がなかったが、医師1人体制で事故があったら大問題」と県の塩谷泰一(しおたに・たいいち)病院事業管理者。徳島大の苛原稔(いらはら・みのる)産婦人科教授も「常勤の小児科医がいないなど、お産に十分な体制ではない」と指摘する。

 3人の子を持つ海陽町の中島育代(なかしま・いくよ)さん(35)はこの問題を機に、地元で妊婦サークルをつくった。妊婦自身がお産に関する知識を深めようと、消防署員を招いて緊急時の搬送の話を聞くなど活動を続けてきた。「産科がなくなったらもう次のお産はしないという人もいて残念。政治は、今いる妊婦の不安を何とかしてほしい」

 深刻化する一方の医師不足。選挙を前に政府・与党は緊急医師確保対策を発表、5道県に7人の派遣が決まったが"焼け石に水"の状態だ。

 孤軍奮闘する医師の負担を軽減し、高度な医療に対応できるようにするため、小さな病院を統合する「集約化」の動きも各地で進んでいる。

 2度目の大地震に見舞われたばかりの新潟県魚沼地域。県は4つの県立病院を再編し、1つの基幹病院を新設する構想だ。新潟大と連携し、県外からの研修も招いて医師不足解消を狙う。

 一方で1946年から高齢者の健康を支えてきた県立松代病院(十日町市)などは、統合後は県立病院ではなくなる。「少なくとも、今までと同じ治療が受けられるようにしてほしい」。お年寄りのささやかな願いだ。

(共同通信、2007年7月23日)

****** 毎日新聞、岐阜、2007年7月21日

医師不足 広がる地域格差

 恵那市内で唯一、分べんを扱っていた「恵那産婦人科」を今年5月、22年間務めてきた1人の産婦人科医が辞めた。

 一杉明員(あきかず)医師、60歳。「今夜、自分の身に何かあったら、患者はどうなるのか」。1人で24時間対応しなくてはならない緊張と体力が、還暦を迎えた自分にはなくなっていた。考え抜いた末の結論だった。

 1人の産婦人科医が年間に扱う分べん数は100~150件が理想と言われる。一杉医師は平均約450件に及んでいた。一杉医師の退職で、同医院は閉院に追い込まれた。いま恵那市には、分べんできる産婦人科は存在しない。

   ◇

 土岐市立総合病院は、唯一の常勤医だった産婦人科部長(39)の退職で、今年9月から産婦人科を休診することを決めた。後任が見つかり次第、再開する予定だが、医師確保の見通しは立っていない。飛騨市民病院でも今年4月、常勤医が11人から6人に減り、小児科の常勤医がいなくなった。

 医師不足の進展にあせる県は同月、「県地域医療対策協議会」を設立し、医療関係者らとともに医師確保や病院支援などの議論を始めた。だが「国の医療費削減と医師数抑制政策が招いた結果。県や病院ができることはほとんどない」との声が上がる。

 医師の卵が研修先を選ぶ「研修医制度」も医療の地域格差を招いた。医学部生は卒業後4年間、研修医として勤務するが、選ぶのは最先端の医療技術を学べる都市部の病院が多い。結果、地方には研修医が来ず、現場の医師の負担が重くなっている。土岐市立総合病院の加藤靖也事務局長は「地方の医師不足の波は止められない。ならば、地方の中核都市に医師を集めて手厚い医療体制を整える方が、医師の負担も減り患者にも充実した医療を提供できるのではないか」と話す。

   ◇

 一杉医師は今年6月から、中津川市民病院(中津川市)で勤務を始めた。3人の医師が常勤している。「患者に責任ある医療を提供できる。恵那を辞めてよかった」と思うという。

 今月、同病院で出産した母親は以前、一杉医師が恵那で取り上げた赤ちゃんだった。「赤ちゃんが母親になるまで、医師としてずっと成長を見守れる。地方医療だからこそ味わえる感動とやりがい」。自分の口から出た言葉と現実とのギャップに、一杉医師はうつむいてしまった。【中村かさね】

(毎日新聞、岐阜、2007年7月21日)

****** 毎日新聞、滋賀、2007年7月20日

医師確保、地方の努力で--「南高北低」、県内地域間で偏り

 「元々、病院が少ない地方なのに、医師が不足しているのを知って、不安になりました」。公立高島総合病院(高島市勝野)で今月、次男を無事に出産した栗東市内の女性(24)は、しみじみと振り返った。この病院を選んだのは、夫(32)の実家に近いためだが、産婦人科をたった1人の医師が支える現状を見て、県内の「医療格差」を実感した、という。

 同病院は昨年4月、産婦人科に1人しかいなかった常勤医師の退職で、出産の受け入れ中止に追い込まれた。新任の産婦人科医を何とか見つけ、今年5月下旬から再開したが、休診前と同様に1人の医師が昼間に15~20人の外来をこなし、急な出産に備えて連日24時間態勢で待機する。「明るく、気さくな先生に疲れがたまっているように見えました」。この女性は新任の医師を気遣った。

 「できるなら、あと1人でも2人でも子どもがほしい」と願う。だが、医師不足で条件に合う出産の場が県内で見つかるか分からない。高島市内の友人が昨年、産科休診のあおりを受け、大きなおなかをさすりながら大津市まで片道1時間かけて通院する姿が浮かんだ。

  ◇  ◇  ◇

 県内の「南高北低」問題は従来、雇用など経済的側面で語られる傾向が強かった。しかし、その地域間格差は医療分野にも広がっている。大津市や湖南地域など県南部は産婦人科医を確保できるが、他の地域は徐々に減り、湖東などの公立病院では最近、出産の受け入れ中止が相次いでいる。

 市民病院を建て替え、昨年10月にオープンした近江八幡市立総合医療センター。民間資金などを活用した全国初のPFI方式の公立病院だが、産婦人科の常勤医師3人のうち2人が今月中に退職する。このため、既に予約している患者を除き、来年以降の出産の新規受け入れを先月下旬から中止。彦根市立病院でも4人いた産婦人科医が今年3月に1人になり、分べんの取り扱いを中止し、同市内の主婦らが「地域間の医療格差の是正」などを求める署名を県に提出する事態になった。

  ◇  ◇  ◇

 県が昨年8月、県内7保健所ごとの各医療圏で、産婦人科医の配置状況を調査すると、前回(03年)に比べ、大津市が3人増の32人に増加。湖南は現状維持の23人のままだったが、湖東は15人から9人に激減。湖西は3人から1人、湖北は8人から7人に減っていた。

 県医療制度改革推進室は、04年の「新臨床研修制度」導入により、研修医が都市部の大病院などに偏ったと分析。「県内の地域間でも医師の配置バランスが崩れている」と危機感を強めている。

 このため、同室は今年4月、「医師確保支援センター」を新設。「安心できる医療を各地域で実現するため、県として医師不足は看過できない」として、医師確保の情報収集や、出産などで退職した女性医師の復職支援に乗り出した。

 しかし、県や各市町にも医療格差を解消する有効な手だては見えていない。ある公立病院の関係者は「国の医療政策に翻弄(ほんろう)される地方は、経営の合理化や地道な医師確保の努力で踏ん張り続けるしかないんです」と言葉に力を込めた。【近藤修史】

(毎日新聞、滋賀、2007年7月20日)

**** 朝日新聞、香川、2007年7月19日

病院・医師の努力限界/県内の医師確保

 曜日ごとの外来診察の医師名を知らせる掲示板に「医大医師」のプレートがかかる。坂出市文京町1丁目にある同市立病院の産婦人科窓口。本来なら他科と同じく、具体的に個人の担当医師名を紹介するところだ。

 昨年6月末で常勤医師が退職し、年に約200件あった分娩(ぶん・べん)など産科診療を取りやめざるをえなくなった。今は香川大の医師に非常勤で週2回程度来てもらい、婦人科外来のみ続けている。

 体調を崩して同病院に入院した長男(2)に寄り添っていた市内の主婦辻日出未さん(22)は現在、妊娠3カ月。長女も長男もここで産んだが、3人目はほかの病院を探さないといけない。市内に別の産婦人科もある。だが、早産体質なので、いざというとき自宅から遠いと不安だ。「少子化の時代に頑張って産んでいるのに。どうしよう」

 県内の医師数は増えてはいるものの、産婦人科をはじめ、いくつかの診療科は減少傾向にある=表参照。新しい産婦人科の常勤医を探している砂川正彦院長(55)だが、「大学の医局にも、どこにも医師がいない」と話す。

 勤務医の仕事が年々激務になっているうえ、福島県の病院で昨年、帝王切開した女性を死亡させたとして産婦人科医が逮捕された影響も大きい、とみる。「一生懸命やっても逮捕される。飲酒運転で死亡事故を起こすよりも裁判で賠償額が多いこともあった。社会状況が医師には非常にマイナスに働いている」

     ■

 県立中央病院(高松市番町5丁目)の救命救急センターは、救急患者の最後のとりでだ。年間約3100人(05年)が救急車で運ばれてくる。その救急専従医2人が退職し、今年4月からゼロに。今は麻酔科、外科などの医師5人がチームを組んで救命に当たる。

 センターで昨年3月、心肺停止患者の受け入れを拒否したことが問題になった。そのとき松本祐蔵院長(61)は、改善策として「センターの人員態勢を強化したい」とコメントした。でも現実は逆行している。

 大学の医局に派遣を再三かけ合ったが、補充のめどはたっていない。大学頼みではおぼつかないと、今秋にも今いる医師が救急専門医の資格をとることを検討している。松本院長は「若い救急医を病院自ら何とか育てていかないと、どうしようもない」と話す。

     ■

 参院選を前に、政府は緊急医師確保策を打ち出した。その一つが国がプールした医師の派遣。ただ、第1陣の7人が派遣されたのは北海道、岩手など。「香川には来てもらえないでしょう」「そんなに(派遣の)医師を集められるのか」と県の担当者や医療関係者は冷ややかだ。

 医療費抑制の流れの中で医師数は簡単には増えそうにない。診療機能の分担・集約化を図ろうにも、既得権の調整は容易ではない。「県内医療がどうなるのか、もうギリギリの段階。県民のみなさんに医療の現状をもっと知ってほしい」(県立中央病院の松本院長)、「一人の医師の頑張り、一病院の努力ではどうにもならなくなっている」(坂出市立病院の砂川院長)。現場は悲痛な叫びを上げている。【東孝司】

(朝日新聞、香川、2007年7月19日)

****** 毎日新聞、岡山、2007年7月9日

医療制度の変化が生んだ医師不足 

「病院が頑張って呼ぶしかない」

 20畳ほどの座敷で、十数人の母親たちが幼い子どもを遊ばせ、育児話に花を咲かせている。

 備前市の子育て支援拠点事業「わくわくるーむ」。NPO法人「ひこうせん」が委託を受け運営し、乳幼児を抱いた母親が集まる。女性たちの多くは、岡山市、兵庫県赤穂市の病院に通い、出産した。備前市内には産婦人科がないためだ。

 第二子を妊娠中の30代主婦は、結婚を機に備前市に移り住んだ。初めての妊娠の時、市内に産婦人科がないのに気付き、他の母親はどうしているのか市役所まで聞きに行ったという。岡山、赤穂両市にある病院は、車で20~30分かかる。「初めての出産だと、急な痛みが正常なものか、それとも異常なのか判断がつかない。一刻も早く診てほしかった」と振り返る。「産婦人科が市内に3軒くらいあれば。最低でも1軒はほしい」というのが母親たちの理想だ。

 地域の中核、市立備前病院にも産婦人科はない。竹中史朗事務長は「産婦人科医の派遣も求めていない」という。どういう事情なのか。「激務に加えて、医療事故のリスクも高いため、産婦人科医そのものが減っている。頼んでも来てもらうのは無理だろう。出生率の低下に加え、民間のサービスと競争するのは経営的に苦しい面もある」

 県の調べでは、05年は県内29市町村のうち、5市と全14町村すべての医療機関が出産を扱った経験がなかった。

 もっとも、医師不足に悩むのは産婦人科だけではない。「地方の病院は、あらゆる診療科で医師の確保に追われている」と話すのは、県西部にある公立病院の事務長だ。その原因は、04年から始まった卒後臨床研修制度にあると指摘する。これまで大学の医局が中心だった研修先を、学生が自由に選べるようになったため、医局員が減少。大学から医師の派遣が期待できなくなったという。

 長年、医局人事に携わってきた岡山大の内科臨床教室の教授は、「医局が担っていた医師派遣の役割は徐々に薄れ、今後は教育機関としての性格が強くなっていく。これからは地域や病院が頑張って医師を呼ぶしかない」と予測する。

 岡山大大学院医歯薬学総合研究科などは06年、医師免許取得後の初期臨床研修(2年)を終え、後期研修に入る医師を対象に研修プログラムを紹介するNPO「岡山医師研修支援機構」を設立した。現在、主に中四国の約350病院が加入しプログラムを売り込む。教授によると「30代前半ぐらいまでの若手には、専門医の資格が取れる施設が魅力。そのためには指導医と整った医療設備が必要」という。

 とはいえ、医師にとって魅力的な研修プログラム、加えて報酬など待遇面を充実させるのは、地方の病院にはなかなか厳しい。前出の公立病院は県中心部の病院と研修プログラムで連携しているが、研修医が居着いてくれるかは未知数だ。

 事務長がつぶやく。「病院は命を守るところ。あってはいけないところに格差がある。3年だけでも地方勤務を義務付けられないのだろうか」

(毎日新聞、岡山、2007年7月9日)

****** 産経新聞、2007年6月1日
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/opinion/54654/

参議院議員、国際政治学者・舛添要一 

2007年を医療ルネサンス元年に

無過失補償制度など態勢整備へ一歩

 ≪医師を増やせばいいか≫

 日本各地で、医療ミス、医師不足、産婦人科の閉鎖などが話題となり、医療をめぐる訴訟も急増している。私たちにとって最も大切なのが健康であり、不幸にして病に罹(かか)ったり、けがをしたりしたときには、いかにして早く回復させるかを考えねばならない。政治の課題もそこにある。

 私は、ふるさとの北九州市に住む認知症(当時は痴呆(ちほう)症と呼んでいた)の母を7年間にわたって遠距離介護した体験があり、それがきっかけで政治家に転身した。そこで、国民の健康を守ることを自分の政治活動の主軸に据えてきたし、教育と医療については、貧富の差による差別が絶対にあってはならないと考えている。

 母を看取った現在は、子育てに奮闘しているが、それだけに介護問題とともに、産婦人科や小児科をめぐる諸問題にも積極的に取り組んでいる。医師不足の問題については、自民党の特命委員会や政府・与党協議会のメンバーとして対策案の取りまとめに当たっているし、自民党の参議院選挙公約でも、医師不足対策は特筆される予定である。

 しかし、問題は単に医師の数を増やせばよいというほど、単純ではない。日本の医療体制全体にメスを入れて抜本的に改革することが不可欠であり、医療サービスの受け手、つまり患者にとっても、また提供側、つまり医師や看護師にとってもプラスとなるような改革を模索する必要がある。いわば、日本の医療ルネサンスという夢を皆で協力して実現させたいと思う。

 ≪産科・小児科の深刻事態≫

 2006年2月18日、福島県立大野病院の産婦人科医が医療事故に関して業務上過失致死罪および医師法違反容疑で警察に逮捕され、全国の医師たちに衝撃を与えたことは記憶に新しい。この医療事故とは、2004年12月17日に、患者が帝王切開中に大量出血して死亡した件である。この事故は、癒着胎盤という極めてまれなケースで事前診断が困難であり、かつ予想外の大量出血であり、医療ミスではない。このような患者に対して適切な対応ができないシステムこそを問題とすべきなのである。

 ≪「医療崩壊」の現場から≫

 この事件以来、産婦人科医や分娩(ぶんべん)実施施設の数が激減しており、極めて深刻な事態となりつつある。産婦人科と並んで問題なのが小児科であり、医師不足問題の中でもこの2つの科が目立っている。医師不足問題の背景には、病院勤務医の過剰労働と賃金面でも恵まれない状況がある。当直勤務が多く、夜間や休日に患者が集中する状態は過酷である。患者の生命を救うという医師の使命感にのみ頼るには限界がある。さらには、近年における医療紛争の激増はいつ訴えられるかわからないという不安を増大させ、医師になる気を喪失させてしまう。最近は女性医師がとりわけ産婦人科や小児科で増えており、彼ら自らが出産・育児で離職することも医師不足に拍車をかけている。また、大学の医局の医師派遣機能も低下している。

 以上は、医療提供者側から見た諸問題であるが、医療サービスの受益者側からみても多くの問題がある。たとえば、3時間待って3分しか診てもらえない。単なる風邪なのに山ほど薬をもらうといった不満からはじまって、適切な治療が提供されているのだろうかといった根本的な疑問すら抱かせるような医者の対応もある。医療事故に遭った人たちは(1)原状回復(2)真相究明(3)反省謝罪(4)再発防止(5)損害賠償-という5つの願いを持っている(「医療被害防止・救済システムの実現をめざす会」資料)。このような願いを実現させるためにも、医療ルネサンスが必要なのである。

 昭和大学医学部産婦人科主任教授の岡井崇氏が、産婦人科の現場の深刻な実態を『ノーフォールト』(早川書房)という書で告発している。広範な国民に理解してもらいたいという気持ちで、小説の形で「医療崩壊」の現場をリポートしている。

 岡井教授も提案しているように、無過失補償制度を導入することも一つの解決策である。政府・与党は昨年度の補正予算と今年度予算で、とりあえず産科について無過失補償制度を創設する前提となる調査を開始できるように1億2000万円の予算措置を講じたところである。さらには、医療事故に関わる死因究明制度の検討のため1億3000万円の手当てをした。

 これらは端緒にすぎないが、多角的に問題を検討して、2007年を日本の医療ルネサンス元年とすべく全力をあげたいと思う。(ますぞえ よういち)

(産経新聞、2007年6月1日)<script src="http://www.assoc-amazon.jp/s/link-enhancer?tag=tyamablogocnn-22&amp;o=9" type="text/javascript"></script> <noscript></noscript>


医師不足  広がる地域格差/岐阜

2007年07月23日 | 地域周産期医療

****** 毎日新聞、岐阜、2007年7月21日

医師不足 広がる地域格差

 恵那市内で唯一、分べんを扱っていた「恵那産婦人科」を今年5月、22年間務めてきた1人の産婦人科医が辞めた。

 一杉明員(あきかず)医師、60歳。「今夜、自分の身に何かあったら、患者はどうなるのか」。1人で24時間対応しなくてはならない緊張と体力が、還暦を迎えた自分にはなくなっていた。考え抜いた末の結論だった。

 1人の産婦人科医が年間に扱う分べん数は100~150件が理想と言われる。一杉医師は平均約450件に及んでいた。一杉医師の退職で、同医院は閉院に追い込まれた。いま恵那市には、分べんできる産婦人科は存在しない。

   ◇

 土岐市立総合病院は、唯一の常勤医だった産婦人科部長(39)の退職で、今年9月から産婦人科を休診することを決めた。後任が見つかり次第、再開する予定だが、医師確保の見通しは立っていない。飛騨市民病院でも今年4月、常勤医が11人から6人に減り、小児科の常勤医がいなくなった。

 医師不足の進展にあせる県は同月、「県地域医療対策協議会」を設立し、医療関係者らとともに医師確保や病院支援などの議論を始めた。だが「国の医療費削減と医師数抑制政策が招いた結果。県や病院ができることはほとんどない」との声が上がる。

 医師の卵が研修先を選ぶ「研修医制度」も医療の地域格差を招いた。医学部生は卒業後4年間、研修医として勤務するが、選ぶのは最先端の医療技術を学べる都市部の病院が多い。結果、地方には研修医が来ず、現場の医師の負担が重くなっている。土岐市立総合病院の加藤靖也事務局長は「地方の医師不足の波は止められない。ならば、地方の中核都市に医師を集めて手厚い医療体制を整える方が、医師の負担も減り患者にも充実した医療を提供できるのではないか」と話す。

   ◇

 一杉医師は今年6月から、中津川市民病院(中津川市)で勤務を始めた。3人の医師が常勤している。「患者に責任ある医療を提供できる。恵那を辞めてよかった」と思うという。

 今月、同病院で出産した母親は以前、一杉医師が恵那で取り上げた赤ちゃんだった。「赤ちゃんが母親になるまで、医師としてずっと成長を見守れる。地方医療だからこそ味わえる感動とやりがい」。自分の口から出た言葉と現実とのギャップに、一杉医師はうつむいてしまった。【中村かさね】

(毎日新聞、岐阜、2007年7月21日)


大野病院事件 第6回公判

2007年07月21日 | 大野病院事件

コメント(私見):

大野病院事件の第6回公判が昨日行われました。今回は、鑑定書を作成した田中憲一教授(新潟大学医学部産科婦人科学講座)の証人尋問が行われました。

田中教授のご専門は婦人科腫瘍学であり、『周産期は専門でないので、一般的な産婦人科専門医としての知識でしか鑑定できない』とご自身が述べられています。

また、田中教授ご自身が『約30年前の若手医局員だった時代に、新潟大病院で手術助手として癒着胎盤を経験したことがある』と証言されたようです。その後は、大学で研究者として、婦人科腫瘍学の研究一筋に打ち込んでこられたわけですから、『ご自身での癒着胎盤例の執刀経験は、未だ一度もない』ものと推察いたします。

従って、今回の鑑定書は、実質的には、専門外の一医師による文献的考察という位置付けになるとも考えられます。今後、周産期医学の専門家によって正式に鑑定書が作成される必要があると考えられます。

裁判は法律の専門家達によって行われます。法律の専門家達は、医学に関しては全くの素人の集団ですから、いきなり『癒着胎盤!』などと訳の分からないことを言われても、一体全体何のことやらさっぱり見当もつかないことでしょう。鑑定書の記載内容(この場合は癒着胎盤に関する専門家の意見)が裁判の動向を大きく左右するわけですから、鑑定を依頼するのであれば、ちゃんとその道の専門家に依頼してもらわないと困ります。田中教授ご自身も、この鑑定書の記載内容が、まさか後にこんな大きな問題になろうとは、鑑定書を作成した当時は全く予感もされてなかったことと思われます。

参考:鈴木 寛(参議院議員)・現代医療問題に関する対談集: 医療崩壊への処方箋

福島県立大野病院の医師逮捕事件について(自ブロク内リンク集)

Lohas Medical Blog
 福島県立大野病院事件第六回公判(0)
 
福島県立大野病院事件第六回公判(1)
 福島県立大野病院事件第六回公判(2)

New! 第六回公判(07/7/20) 傍聴記録詳報
(周産期医療の崩壊をくい止める会のホームページ)

****** 朝日新聞、2007年7月21日

大野病院事件公判

「子宮摘出が原則」 鑑定書作成医が証言

 県立大野病院で04年に女性(当時29)が帝王切開手術中に死亡した事件で、業務上過失致死と医師法(異状死体の届け出義務)違反の罪に問われた、産科医K被告(39)の第6回公判が20日、福島地裁(鈴木信行裁判長)であった。県警の依頼で鑑定書を作成した新潟大学医学部の田中憲一教授が証人として出廷し、癒着胎盤を無理にはがした場合の危険性などについて証言した。

 田中教授は、同大医学部付属病院産科婦人科長で、主に婦人科の腫瘍学を専門にしている。検察側は、胎盤の癒着を認識した時点で、はがすのを中止し、子宮摘出に移るべきだったと主張。弁護側は止血のために剥離が必要だったとして争っている。

 田中教授は検察側の主尋問に、「無理に胎盤を剥離すれば、大出血する恐れがあり、剥離が困難な場合は続けず、原則的に子宮を摘出した方が良い」と証言。K医師が子宮摘出に移ったタイミングは「ちょっと遅かった」とした。早期に子宮摘出をしていれば、「救命可能性はあった」と検察側の主張に沿った意見を述べた。

 ただし、田中教授は一般論として「癒着の範囲が狭い場合は、はがして良い事例もある」とした上で、癒着範囲をどう判断するかは「手術する医師による」とした。

 また、K医師が手術用ハサミの先端を使って胎盤をはがしたことの当否は「判断しかねる。周産期が専門の医師が証明するなら使用しても良いと思う」と述べた。

(朝日新聞、2007年7月21日)

****** 読売新聞、2007年7月21日

鑑定書作成医師が証言 大野病院事件公判

 大熊町の県立大野病院で2004年12月、帝王切開手術で女性(当時29歳)を失血死させたなどとして、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われている産婦人科医、K被告(39)の第6回公判が20日、福島地裁(鈴木信行裁判長)であり、加藤被告の処置を検証する鑑定書を作成した産婦人科医の田中憲一・新潟大教授に対する証人尋問が行われた。

 田中教授は、K被告の逮捕後、女性に対する検査や手術中の処置の是非などについて鑑定。検察側主張の有力な根拠になっている。

 田中教授は、K被告が手術前の超音波検査で撮影した子宮内部の写真から「子宮前壁で胎盤と子宮の癒着を疑っていいと思った」と証言。そのうえで胎児を取り出した後の処置について「胎盤のはく離は困難で時間もかかっており、(大量出血を防ぐため)子宮摘出に移行してもよかったのではないか」と述べた。はく離の際に手術用ハサミを使った点も否定的な見解を示した。

 次回8月31日は、初めてK被告に対する被告人質問が行われる。

(読売新聞、2007年7月21日)

****** 毎日新聞、2007年7月21日

大野病院医療事故:鑑定教授は手術処置に疑問呈す--第6回公判 /福島

 県立大野病院(大熊町)で04年、帝王切開手術中に女性(当時29歳)が死亡した医療事故で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた同病院の産婦人科医、K被告(39)の第6回公判が20日、福島地裁(鈴木信行裁判長)であった。手術処置の妥当性などを鑑定した新潟大教授が「胎盤を手ではがせなかった時点で、子宮を摘出すべきだった」と証言し、胎盤はく離後に子宮を摘出した加藤被告の処置に疑問を呈した。一方で「術者が可能だと判断すれば、はく離を継続することもある」とも語り、執刀医の裁量を認めた。

 鑑定した教授は胎盤はく離に約15分かかっているとし、病理鑑定で癒着胎盤の範囲が広かったことを挙げ「子宮摘出に移るべきだった」と述べた。また、K被告が術前に行った超音波検査の画像から「癒着胎盤を疑ってもいいと思う」と証言し、癒着胎盤が予見可能だったことを指摘した。

 次回は8月31日で、被告人質問が行われる。【松本惇】

(毎日新聞、2007年7月21日)

****** 福島民友、2007年7月21日

「無理にすべきでなかった」 県立大野病院医療事件公判

 大熊町の県立大野病院で2004(平成16)年12月、帝王切開で出産した女性=当時(29)=が死亡した医療事件で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた産婦人科医K被告(39)の第6回公判は20日、福島地裁(鈴木信行裁判長)で開かれた。

 起訴事実の根拠となる鑑定書を作成した産婦人科専門医の検察側証人尋問が行われた。医師は、最大の争点となっている癒着胎盤のはく離中止義務について、「胎盤は血流が豊富で大量に出血するため、癒着部分を無理にはがすべきではなかった。はく離の際のクーパー(手術用はさみ)使用も適切でない」と検察側の主張を裏付ける証言を行った。さらに、癒着胎盤の診断について、女性の診察時に加藤医師が行った超音波診断の写真から「癒着がうかがえる」とし、MRI(磁気共鳴画像装置)などで詳しく検査する必要があったとした。また、出血が続くなかで子宮摘出に移行した時期についても「早い時期に(摘出を)判断するべきだった」とし、判断の遅れを指摘した。

 一方、弁護側は、同医師は出産を専門に扱う周産期医療の専門家ではないとしたうえで、癒着の部位や範囲について具体的に把握しないまま鑑定をし、弁護側が分析方法を疑問視した別の病理鑑定を参考にして鑑定書を書いたことを問題視した。

(福島民友、2007年7月21日)

****** 福島放送、2007年7月21日

医療過誤で証人が「はく離中止すべき」

大熊町の県立大野病院医療過誤事件で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた大熊町下野上、産婦人科医K被告(39)の第6回公判は20日、福島地裁(鈴木信行裁判長)で開かれ、検察側主張の支えとなる鑑定書を作成した新潟大医学部教授の証人尋問を行った。

教授は、最大の争点である癒着胎盤への措置について「胎盤のはく離が困難になった時点ではく離を中止し、直ちに子宮摘出に移るべきだった」と起訴事実に沿った証言をした。

(福島放送、2007年7月21日)

****** OhmyNews、2007年7月21日

「癒着胎盤を疑ってもいい徴候あった」

福島県立大野病院事件第6回公判、専門医が検察側有利の発言

軸丸 靖子

 帝王切開手術を受けた女性が死亡し、執刀した同院の産婦人科・K医師が業務上過失致死などに問われている福島県立大野病院事件の第6回公判が20日、福島地裁で開かれた。

 今回出廷したのは、事件後に福島県警から依頼を受け、鑑定書を作成した新潟大学医学部産科婦人科学の田中憲一教授。検察側証人として唯一、産婦人科専門医として鑑定を行った同教授は、「術前検査のエコー写真から、胎盤の癒着があるとの診断はできないが、疑ってもいい徴候(ちょうこう)は認められる」と述べた。

 尋問ではまず、産婦人科学の一般論として

 「(胎盤と子宮筋膜が)強固に癒着している場合は、執刀医は無理な胎盤剥離(はくり)を継続すべきではない。(手術用はさみなど)器具を使った剥離もすべきではない。無理な剥離になる場合は、剥離を中止し、子宮を摘出すべきだ」

 とし、子宮収縮を促すために胎盤剥離を継続したK医師の判断は誤りとする検察側の主張に合致する証言をした。

 さらに、この女性のケースに関しては、術前エコー検査の写真から

 「(子宮筋層と胎盤のあいだに)血流があると疑われる所見が認められる」

 と、子宮筋層深くに胎盤絨毛(じゅうもう)が入り込む陥入胎盤もしくは穿通(せんつう)胎盤とみられる癒着が疑われる所見が見られることを指摘。

 胎盤剥離におよそ15分と時間がかかっていることなどからも、胎盤の癒着は広範囲で深いものであったとして、無理な剥離がその後の大量出血の引き金になったとする検察側主張を裏付けた。

 これに対し弁護側は、同教授が産婦人科のなかでも婦人科腫瘍が専門で、周産期が専門ではないこと、癒着胎盤の症例を経験したのは約30年前に助手として立ち会った1例しかないこと。さらに、作成された鑑定書(以下、田中鑑定)は、産婦人科学の教科書や文献、福島県立医大の病理医・杉野隆医師による鑑定書(同、杉野鑑定)を参照して書かれたものである点を追及。

 何をもってどの程度を「無理」というのか、「剥離は無理」という判断は誰がするのかについて、

 「術者(執刀医)の判断」
 「ケース・バイ・ケース。もう1人子供が欲しいという患者の希望がある場合は、できるだけ(胎盤を剥離して)子宮を残すようにする」
 「癒着の範囲が狭いとか、深さはどのくらいかと聞かれても、何とも言いようがない」

と、現場は教科書どおりにはいかないことを示唆する証言を引き出した。

 また、同教授は「自分の鑑定書に変更はない」と明言したが、参照にした杉野鑑定は、先の公判で一部変更されていることには「(変更は)知りません」と言葉をつまらせる場面もあった。

 なお、田中鑑定はこれまで証拠採用されていなかったが、今公判の冒頭で、単位や日付、出血量、字句などの誤記20カ所以上について訂正が行われたのち、証拠採用された。

 今回で検察側証人尋問は終了する。次回は8月31日に、被告への本人質問が行われる。

OhmyNews、2007年7月21日)

****** 河北新報、2007年7月20日

福島・大野病院事件 胎盤剥離見極め困難 産婦人科医証言

 福島県立大野病院(大熊町)で2004年、帝王切開中に子宮に癒着した胎盤を剥離(はくり)した判断の誤りから女性患者=当時(29)=を失血死させたとして、業務上過失致死罪などに問われた産婦人科医K被告(39)の第6回公判が20日、福島地裁であった。検察側提出の医学鑑定書を作成した大学教授(産婦人科医)が証人に立ち、争点である子宮と胎盤の癒着状況について「どれだけ深く入り込んでいるかは、手術中に医師には分からないだろう」と述べ、剥離をどこまで続けていいかどうかの判断の難しさを指摘した。

 教授は「剥離が困難な際は無理に続けるべきではないが、どんな場合が困難かは医師の判断に委ねられる」と述べた。

 公判の冒頭、自身を「周産期が専門ではなく、一般の産婦人科医」とした教授は、検察側が過失の一つに挙げる剥離時のクーパー(医療用ばさみ)使用について「鑑定時には、クーパーを剥離に使うとする文献は見なかった。最近、周産期の専門家からそういう方法もあると聞いた」と証言した。

(河北新報、2007年7月20日)

****** NHK福島、2007年7月20日

大野病院裁判で鑑定医が証言

県立大野病院の産婦人科の医師が、帝王切開の手術で女性を死亡させたとされる事件の裁判で、死因などの鑑定を行った医師が証人として法廷に立ち、「胎盤を手ではがすのが困難だと認識した時点で子宮摘出に移るのが妥当だった」と証言しました。これに対し弁護側は、「ハサミを使って胎盤をはがした判断に問題はなかった」と反論しました。

 大熊町にある県立大野病院の産婦人科の医師、K被告(39)は3年前、帝王切開の手術の際に女性の胎盤を無理にはがし、大量出血を引き起こして死亡させたとして、業務上過失致死などの罪に問われています。

 これに対し、被告と弁護側は無罪を主張しています。

 20日、福島地方裁判所で開かれた6回目の裁判では、死因などを鑑定した医師が検察側の証人として法定に立ち、争点の1つになっている手術の内容の妥当性などについて証言しました。

 このなかで鑑定医は、「胎盤を無理やりはがせば大量出血のおそれがあることは明らかで、手で胎盤をはがすのが困難だと認識した時点で、子宮を摘出することが妥当な方法だった」などと証言しました。

 これに対し弁護側は、「はがすのが困難かどうかは現場で手術をしている医師が判断することだ。手術用のハサミを使って胎盤をはがす方が安全で妥当だった」などと反論しました。

 次の裁判は来月31日に開かれ、K医師への被告人質問が行われる予定です。

(NHK福島、2007年7月20日)

*** Lohas Medical Blog、2007年7月20日~21日

Lohas Medical Blog
 福島県立大野病院事件第六回公判(0)
 
福島県立大野病院事件第六回公判(1)
 福島県立大野病院事件第六回公判(2)

傍聴希望者は90人と落ち着いたが、いつもの一番大きな1号法廷が使えないとのことで、傍聴券はたった15枚。そして今回も見事に外れ、でも分けてもらえて傍聴できることになりました。詳報は後ほど。

帰りの東北新幹線のダイヤが乱れたりして、事務作業を片付けているうちに、少々作業着手が遅くなったが、ご報告する。

いつものように逐語再現は周産期医療の崩壊を食い止める会にやがて掲載されるので、そちらを御覧いただきたい。

本日は検察側の医学鑑定書を書いた田中憲一・新潟大医学部産科婦人科学教室教授の証人尋問。6回目にして初めて検察側の描くストーリーにはまるピースが出てきた。一般人からすると文句のつけようのない鑑定人に見え、これを覆すのは容易でないように思えるが、しかし果たして、実際のところ鑑定書を書くにふさわしい人物だったのか、という点は後ほど弁護側が指摘する。

この日は、地裁が改装中とかで、いつもの1号法廷が使えず、隣の2号法廷を使うとのこと。隣とはいえ、かなり狭くなった。傍聴席から手を伸ばせば被告の背中に届く距離だ。おまけに傍聴席が少ない!長椅子にビニールテープを張って4分割したものが3×3。関係者席や記者席を除くと、たったの15。次回の加藤医師本人の尋問まで2号法廷とのことだ。ハッキリ言って検察側証人のうち二大ヤマ場と思うのだが何とも間が悪い。

それはともかく田中教授の尋問の報告に移ろう。紺のスーツ姿で伏し目がちに登場した田中教授は、身長こそ170センチあるかどうかに見えるが、学生時代は柔道でもしていたのだろうかという、ずんぐりガッチリした体格。普段はきっと声が大きいに違いないと思った。だが尋問に対する答えはか細く、速記者から「先生もう少し大きい声で話していただけますか」と注文をつけられていた。

ともかく肝と思われる部分を再現していこう。尋問するのは途中から加わって毎回ソフトにポイントを重ねている検事。

 検事  産科婦人科には専門分野が4つあるそうですね。
 田中教授  はい。
 検事  4つとは何ですか。
 田中教授  周産期、腫瘍、生殖、婦人科内分泌です。
 検事  証人のご専門は何ですか。
 田中教授  腫瘍です。

(中略)

 検事  証人は本件以外にも医療事件の鑑定書を書いたことはありますか。
 田中教授  あります。
 検事  本件を除いて何件ですか。
 田中教授  7件です。
 検事  すべて産科婦人科の分野ですか。
 田中教授  はい。
 検事  腫瘍以外の分野について鑑定したことはありますか。
 田中教授  異なるものもあります。
 検事  それは何件ですか。
 田中教授  6件です。
 検事  腫瘍は1件のみということですか。
 田中教授  そうです。

皆さんは、医療訴訟の検察側鑑定書が専門外の人によって書かれていることが多いとご存じだったろうか。私は知らなかったので非常に驚いた。たしかに誰が何を専門にしているか、外部から調べるのは骨が折れるし、適任の人が必ずしも引き受けてくれると限らないから、仕方ない面もあるとは思うが、しかし当事者の立場になってみると納得いかない。

 検事  本件は福島県警から鑑定の依頼を受けましたね。
 田中教授  はい。
 検事  どのような経緯で依頼を受けたのですか。
 田中教授  警察署の刑事さんが来て依頼されました。
 検事  証人に依頼する理由を何か言っていましたか。
 田中教授  私が過去に行った鑑定の鑑定書が立派だったことと、困っているからというようなことを言いました。

(中略)

 検事  何に関しての鑑定をほしいとのことでしたか。
 田中教授  帝王切開で亡くなった妊婦さんの死因についてとのことでした。
 検事  どう対応しましたか。
 田中教授  周産期は専門でないので、一般的な産婦人科専門医としての知識でしか鑑定できないけれど、それでよろしいかと尋ねました。
 検事  警察は何と言いましたか。
 田中教授  お願いしますと言われました。

前回の証人だった病理鑑定書を書いたS講師と同様、自らの鑑定が何を引き起こすか、予感すらしなかったのに違いない。

この後、一般論としての癒着胎盤の説明や用手剥離の方法、胎盤剥離と子宮収縮の関係、剥離困難な場合にどうするべきかなどが尋問された。

そして田中教授自身が若手医局員だった時代に、新潟大病院で手術助手として経験した癒着胎盤症例の話を経て、いよいよ検察側の有罪立証のピースにはまる部分へと入る。

 検事  癒着胎盤に関して近年何か傾向がありますか。
 田中教授  増えているようです。
 検事  理由は何ですか。
 田中教授  わが国で帝王切開が増えていることによると思います。
 検事  なぜ帝王切開が増えると癒着胎盤が増えるのですか。
 田中教授  最初の帝王切開の傷痕に次回以降の出産の際に胎盤が付着するからです。
 検事  前置胎盤の場合はどうですか。
 田中教授  ?(メモ不完全)。
 検事  前回帝王切開だと癒着胎盤の確率は上がりますか。
 田中教授  そうだと思います。
 検事  前置胎盤だと癒着の確率はどうですか。
 田中教授  前置胎盤の場合にも増えるのではないかと思います。

(略)

 検事  前回帝王切開で前置胎盤だと、癒着の確率が上がるということはありますか。
 田中教授  あります。
 検事  どの程度の確率ですか。
 田中教授  文献によって違いますが3~25%と言われています。
 検事  事前に検査で診断することは可能ですか。
 田中教授  ある程度は可能だと思います。
 検事  どのように検査しますか。
 田中教授  超音波診断かMRIを用います。

(中略)

 検事  本件で癒着胎盤を疑わせる所見はありませんでしたか。
 田中教授  ありました。

過失致死罪が成立するには、予見できた可能性、回避できた可能性がなければならない。これまで検察側は証人尋問の誰からも、このピースを出すことができていないと思う。

 検事  どこにありましたか。
 田中教授  12月3日と6日のエコー写真には、癒着胎盤を疑ってもいいと思われました。
 検事  その他の資料には癒着を疑わせるものはありましたか。
 田中教授  ありませんでした。

しばらくエコー写真のどこに疑念があったかのやりとりがあり

 検事  K医師はどのようにすべきであったと思いますか。
 田中教授  MRIを撮っても良かったのでないかと思います。
 検事  妊婦に対してMRIは悪影響を与えますか。
 田中教授  この週数であれば基本的にないと思います。
 検事  12月17日に帝王切開をしているのですが、検査で他に分かる方法はなかったでしょうか。
 田中教授  この患者さんは前置胎盤ということになっているのですが、前置胎盤というのは分娩直前に診断を行うことになっているので、帝王切開直前にもう一度検査をする方が良かったと思います。

K医師が手段を尽くさなかったということになる。だが、この点こそ『医療崩壊』との関連で、実に本質的なものを含んでいるので後ほど改めて考察する。
この後、尋問は本件の胎盤剥離に関してへと移る。

 検事  被告人はどんな処置が必要だったと思われますか。
 田中教授  質問の意味が分かりません。
 検事  児娩出後に胎盤の用手剥離を行ったが、それが困難になってきたときにどうするべきだったと思いますか。
 田中教授  それは分からないですね。そのことだけでは何とも言いようがありません。
 検事  この用手剥離の途中で剥離が困難・不可能になってきたときに剥離を続けるべきでしょうか。
 田中教授  それはK先生がやっておられて困難・不可能と判断されたのであれば、剥離をやめて子宮摘出に移るべきだったと思います。
 検事  それはどのような状態から判断できますか。
 田中教授  どれ位癒着が残っているかも判断材料になると思います。

(中略)

 検事  本件で胎盤剥離を途中でやめて子宮摘出に移行できたと思いますか。
 田中教授  それは分かりません。

(中略)

 検事  この時点で子宮摘出へ移行が可能だったと思われますか。
 田中教授  どの時点ですか。
 検事  剥離が困難・不可能になった時点です。
 田中教授  それはどこか分かりませんよね。
 検事  (K医師の)供述調書を前提にすると
 田中教授  その前後であれば子宮摘出は可能だったと思います。
 検事  その時点で子宮摘出していれば救命の可能性はありましたか。
 田中教授  可能性はあったと思います。

このやりとりにより、回避可能性もあったと証言されたことになる。

 検事  実際には、胎盤剥離後に子宮剥離をしたのは、ご存じですか。
 田中教授  はい。
 検事  子宮摘出の時期は適切だったと思いますか。
 田中教授  私はちょっと遅かったのでないかと思っています。胎盤剥離後、出血をコントロールできないと思った時点で、直ちに子宮摘出へ移るべきだったと思います。

(以下略)

このように検察が大きくポイントを取って、午前中の主尋問が終わった。昼食休憩を挟み、弁護側がどう盛り返したかは稿を改めることにする。

午後1時半に弁護側反対尋問で公判再開。尋問するのは平岩代表弁護人。いつも浪々と美声で尋問する。対する田中教授、午前より一層声が小さくなる。

 弁護人  ご専門は婦人科腫瘍ですね。
 田中教授  はい。
 弁護人  主として婦人科腫瘍の診療に携わってきたのですね。
 田中教授  はい。
 弁護人  帝王切開、全前置胎盤、癒着胎盤、すべて周産期の領域ですね。
 田中教授  はい。
 弁護人  依頼されて本件について鑑定書を書いたのですね。
 田中教授  はい。
 弁護人  周産期は専門外だと思いますが、専門外のことについて、なぜ鑑定書を書いたのですか。
 田中教授  警察に依頼されたからです。
 弁護人  周産期専門の先生に頼むべきでないか、とは言わなかったのですか。
 田中教授  そのようなことは申しませんでした。
 弁護人  一般の産婦人科専門医としての知識で鑑定書を書くと伝えたとおっしゃいましたね。
 田中教授  はい。
 弁護人  日本産科婦人科学会には平静16年当時、会員数にして約1万6千人の会員がいませんでしたか。
 田中教授  定かではありませんが、そうだと思います。
 弁護人  産婦人科専門医は全国に1万2千人いたのではありませんか。
 田中教授  定かではありませんが、そうだと思います。
 弁護人  被告人のK医師も産婦人科専門医であることはご存じですね。
 田中教授  はい。
 弁護人  産科婦人科領域で5年の臨床経験があれば専門を問わずほとんど産婦人科専門医になれるのではありませんか。
 田中教授  はい。
 弁護人  最高裁判所の医事関係訴訟委員会から日本産科婦人科学会が依頼されて鑑定人候補を推薦するために鑑定人リストを作っていて200数十人のリストがあるのをご存じですね。
 田中教授  はい。
 弁護人  そのリストに載っているのは、教授、准教授、院長といった専門分野ごとの第一人者ではありませんか。
 田中教授  そうだと思います(少し声が裏返る)。
 弁護人  証人ご自身も婦人科腫瘍分野で鑑定人リストに載っていませんか。
 田中教授  昨年までなっていました。
 弁護人  本件の場合、周産期分野ご専門の方が鑑定するべきではありませんでしたか。
 田中教授  はい。
 弁護人  警察官はこのことについて何も言わなかったのですか。
 田中教授  特に何も言いませんでした。
 弁護人  証人が周産期分野で信頼をおく方はどなたですか。
 田中教授  名前を挙げるのですか。
 弁護人  はい。
 田中教授  東北大学の岡村先生、福島県立医大の佐藤先生、北里大の海野先生、昭和大の岡井先生、宮崎大の池ノ上先生、それから名誉教授になってしまいますが大阪大の〓先生と九州大の〓先生(メモ不完全)です。
 弁護人  本件はそのような方たちが鑑定書を書くべきだったと思いませんか。
 田中教授  思います。
 弁護人  今お名前の出た岡村先生と池ノ上先生については弁護側の依頼で鑑定書を書いていることをご存じですか。
 田中教授  知りません。
 弁護人  今回の鑑定をおやりになったのは刑事上の責任を問うことを考えてですか。
 田中教授  私は医学上、安全な診療をするにはどうしたらよいかという観点で行いました。

田中教授が鑑定を書くにふさわしかったかどうかは、もはや裁判所の判断に委ねるしかない。ただ厚生労働省が現在行っている死因救命の検討委員会でも樋口委員(東大教授)から問題提起されていることだが、何を目的にするかによって「真相」は異なる。刑事事件の証拠とするなら、「疑わしきは罰せずで謙抑的でないといけない」。再発防止をめざすなら、「その時点では専門家の判断として仕方なかったかもしれないが、数か月とか年とか経って考えれば、こういう選択肢があったのでないか。今考えれば本当はこちらだろう、そういうことまで考えたうえ」なのである。田中教授は明らかに後者の観点から鑑定しているのに、前者である刑事司法の場で証拠とされてしまっている。一般の医療者にとっては、こんなTPOの使い分けなど思いもよらないだろうし、もし使い分けたとすると今度は患者・家族から、「二枚舌」と不信感を招くに違いない。この問題は、この訴訟とは別に皆で考えないといけない。

この後しばらく証人が若手医局員時代に、新潟大病院で経験した癒着胎盤症例に関する尋問が続き、そして、ここからは田中教授がどの程度、身を入れて鑑定したかを問う尋問に入っていく。

 弁護人  鑑定を依頼された時点で病院の事故調査報告書が出ていましたね。
 田中教授  はい。
 弁護人  それに依拠すればよいとは考えませんでしたか。
 田中教授  参考にはなると思いました。
 弁護人  児娩出から胎盤剥離終了までに5000ミリリットルの出血があったと鑑定書に書いてありますが、記憶にございますか。
 田中教授  はい。
 弁護人  これは羊水込みですね。
 田中教授  だと思います。
 弁護人  事故調査報告書にも5000ミリリットルの出血があったと記載があります。これはご記憶にありますか。
 田中教授  あります。
 弁護人  では最も客観的な原資料の麻酔チャートではどうなっているか。麻酔チャートを示します。2555と記載されているのはお分かりですね。
 田中教授  はい。
 弁護人  このような原資料でなく調査報告書に依拠した理由は何ですか。
 田中教授  カルテにも5000ccと書いてありました。
 弁護人  患者の全身状態をリアルタイムで最も正確に記載してあるはずの麻酔チャートに依拠しなかった理由は何ですか。
 田中教授  麻酔チャート自身には胎盤剥離終了時の正確な血液量は書いてなかったと思います。10分後くらいに7500と書いてあるので、胎盤娩出の時には5000ccくらいだと判断しました。

(中略)

 弁護人  エコー検査というのは、同じ場所でもプローベ(探触子)を当てる角度や強度によって見え方が変わるものではありませんか。
 田中教授  そうです。
 弁護人  術者がその変化を継続的に見ながら総合的に判断するものではありませんか。
 田中教授  そうです。
 弁護人  エコーの写真というのは検査のごく一部に過ぎないのではありませんか。
 田中教授  そうです。
 弁護人  12月3日の写真に癒着胎盤を疑わせる所見があるとおっしゃいましたね。
 田中教授  疑ってもよいということです。
 弁護人  このような(田中教授が論拠とした)血流はごく一般的に見られるものではありませんか。
 田中教授  見られることもあります。
 弁護人  ならばどうして癒着を疑うことができるのですか。
 田中教授  前回帝王切開で全前置胎盤ですから癒着の確率が高いです。

(中略)

 弁護人  (田中教授自身が実際には)癒着胎盤のエコーを一度も見たことがないのに、どうしてその判断に誤りがないと言えるのですか。
 田中教授  私の判断が必ず正しいとは思っておりません。ただ診療はしておりませんけれど、日常的に疑って検査しなさいと若い人に申しております。
 弁護人  12月6日のエコー写真でも、やはり癒着を疑うべきですか。
 田中教授  そうではなく12月3日のエコーと併せて、疑ってもよいということです。

(中略)

 田中教授  この血流がどういうものか同定するのが目的ではなく、種々の所見があれば疑ってもよいということです。

この方法論は医学的には全く正しいのだと思う。しかし社会制度としての医療の方法論としてはどうか。疑わしいことを常に100%潰していったら、医療費がいくらあっても足りない。どこかで専門家が自己の責任で線を引かざるを得ない。そして、その線引きをストイックに引き受けてくれている医療者がいたからこそ、奇跡的に日本の安い医療は維持されてきたのだと思う。田中教授は「疑ってもよい」と証言するが、後からなら何とでも言えるし、K医師が線引きするためかけた労力以上に、鑑定に労力をかけただろうか。結果論的に刑事で裁けば、線を引く専門家がいなくなる。それこそ医療崩壊でないか?

(中略)

 弁護人  鑑定書で、子宮前壁に癒着があったことは明らかであると書かれていますがご記憶はありますか。
 田中教授  はい。
 弁護人  病理のS博士の鑑定書を前提にしたのではありませんか。
 田中教授   参考にはしました。

ここから前回袋叩きに遭ったS鑑定を、田中教授がどこまで参考にしたか明らかにさせ、ついでに田中教授の鑑定書の信ぴょう性も疑わせようとの尋問が繰り返されたが、検察・弁護どちらにも、あまり得るところはなかったと思う。そして

 弁護人  剥離が困難なほど胎盤が癒着しているかどうかというのは、施術中にはなかなか判定できないものではありませんか。
 田中教授  そうでしょう。
 弁護人  であれば、それは術者の判断に委ねられているのが、臨床の現場ではありませんか。
 田中教授  そうです。
 弁護人  「剥離を中断して子宮摘出にうつるべきとされている」という表現が鑑定書にありますが、これは文献からの引用ですか。
 田中教授  文献を参考にした私の文章です。
 弁護人  「止血操作するとされている」とありますが、その際に胎盤剥離を中断すべきですか。
 田中教授  ケース・バイ・ケースだと思います。
 弁護人  ケース・バイ・ケースの判断は誰が下すのですか。
 田中教授  術者だと思います。
 弁護人  本件でいえば加藤医師ですか。
 田中教授  そうです。

この後、クーパー使用の是非について少しやりとりがあり、それから死因につながったと見なされている大量出血が、胎盤剥離によってもたらされたのでなく、羊水塞栓に起因する産科DIC(血液凝固因子が失われ出血が止まらなくなる)の症状として現れたに過ぎないのでは、という弁護側の見立ての尋問も行われたが、田中教授はこれには取り合なかった。そして弁護側による蜂の一刺し。

 弁護人  証人の証言は基本的に医学文献に基づくものですね。
 田中教授   そうです。

文献を調べてもらうだけなら、大学教授に鑑定を頼む意味があるのか?個人的には、ここがこの日のハイライトだった。

15分の休憩を挟み、反対尋問の続きが少しあって、検察側の再主尋問である。

 検事  産科婦人科についての鑑定をする際、専門性はどの程度必要でしょうか。
 田中教授  案件によると思います。
 検事  案件によると言いますと。
 田中教授  質問内容によると思います。
 検事  具体的にはどのようなことでしょうか。
 田中教授  私の知識とかけ離れた専門性ならお受けできないと言います。
 検事  かけ離れるとは、たとえばどういうことですか。
 田中教授  たとえば新生児のことなどは分かりません。
 検事  高度な専門性を必要とすること、ということでしょうか。
 田中教授  そうです。
 検事  今まで鑑定された7件について専門性はどのように判断されたのですか。
 田中教授  一般的な産婦人科のことと判断しました。
 検事  実際にやってみて専門性が必要になったことはありませんか。
 田中教授  引き受けてみてから、これは無理だというのが一件ありました。
 検事  その際は結論として鑑定書を出さなかったわけでしょうか。
 田中教授  そうです。
 検事  本件の場合はどうですか。
 田中教授   一般的な癒着胎盤のことでしたし、立派な調査報告書もありましたので、それを参考にすれば鑑定できると思いました。
 検事  やってみてどうでしたか。
 田中教授  一般的な産婦人科医であれば答えられることでした。
 検事  調査報告書の結論を引き写しましたか。
 田中教授   参考にはしましたが、引き写したわけではありません。
 検事  証人ご自身ですべて書かれたわけですね。
 田中教授  そういう部分もありますし、調査報告書を活用・参考にした部分もあります。

この辺をどう解釈するかは個人の自由だと思う。

 検事  エコー写真から癒着を疑ってもよいとい判断をしたのは何を根拠にしたのですか。 
 田中教授  種々の論文があります。
 検事  それらをご覧になった。
 田中教授  はい。
 検事  参考にもした。
 田中教授  はい。
 検事  エコーの判断はご自分だけでされましたか。
 田中教授  勤務している施設の専門医に相談しました。

(後略)

ついで弁護側の再反対尋問。

 弁護人  エコー検査というのは動画ではありませんか。
 田中教授  そうです。
 弁護人  エコー写真というのは、いわば一時停止の状態を写真に撮ったものですね。
 田中教授  そうです。

(後略)

この日の尋問だけ取り出しても検察がポイントを上げていると思う。そのうえ、この後さらに大きなポイントが検察に入る。田中教授が鑑定書を真正に作成されたものであると認めたことにより、この日の証言以上にK医師の過失を強く印象づけるような、その鑑定書が証拠採用されたのだ。刑事訴訟法上は止めようのないことではあるが、これによって検察の描くストーリーは維持された。なるほどこれがあったから公判を取り下げなかったのだな、と思った。どうやら、この裁判まだまだ長引きそうである。

(Lohas Medical Blog、2007年7月20日~21日)


福島県立大野病院の医師逮捕事件について(自ブロク内リンク集) 

2007年07月21日 | 報道記事

自ブログ内リンク集

2006/02/19 癒着胎盤で母体死亡となった事例

02/21 今後の周産期医療の方向性について
02/23 医師の集約化、地域連携、および次世代の育成
02/25 母体死亡事例の少し詳しい経緯
02/26 話題となっている母体死亡事例に関する私見
02/28 続・今回の母体死亡事例に関する私見

03/01 癒着胎盤について
03/03 癒着胎盤の定義について
03/03 福島県の地元紙の報道内容
03/05 癒着胎盤に関する個人的な経験談
03/06 東京都医師会の声明文
03/06 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会からのお知らせ
03/06 神奈川県産科婦人科医会の抗議声明
03/06 福島県産婦人科医会からのメッセージ
03/08 母体死亡となった根本的な原因は?(私見)
03/08 朝日新聞記事: 産科医逮捕に困惑 時時刻刻
03/09 浜通り3医師会が大野病院の医師逮捕で声明文
03/09 加藤医師を支援するグループの声明
03/10 朝日新聞記事、県立病院医師逮捕/応援の提案応ぜず
     大阪府保険医協会の抗議声明
     新生児医療連絡会の声明
03/10 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会の抗議声明
03/10 福島県立大野病院の医師起訴についての報道(3月10日)
03/11 福島県立大野病院の医師起訴についての報道(3月11日)
03/11 福島県立医大:佐藤章教授のコメント
03/12 今後、産科医療はどうなってしまうのだろうか?
03/12 医師法21条の解釈
03/14 医師の拠点集約へ
     全国保険医団体連合会の抗議声明
03/14 TBSのニュース:手術ミス?産婦人科医逮捕で波紋広がる
03/14 茨城県産婦人科医会の抗議文
03/15 加藤先生、保釈のニュース
03/15 朝日新聞記事(福島) 医師逮捕・詳細(上・中)
03/15 大分県産婦人科医会の抗議声明
03/15 福岡県産婦人科医会の抗議声明
03/16 朝日新聞記事(福島) 医師逮捕・詳細(下)
03/16 日本産科婦人科学会と日本婦人科医会の合同記者会見
03/17 報道: 福島県立医大医師会の声明
03/17 読売新聞記事: 医療ニュース
03/18 周産期医療の崩壊をくい止める会が厚労相に陳情書を提出
03/18 河北新報: 医療界反発 異論も噴出
03/23 福島県立大野病院事件に対する日本医師会の考え
03/23 岩手県産婦人科医会の抗議声明
     広島県医師会の声明文
     厚生労働省 定例事務次官記者会見概要 2問目
03/24 新聞報道: 今後の地域医療(福島県)
03/27 報道記事:全国周産期医療連絡協議会の声明
          山口県支部の声明
   栃木県支部の声明
03/28 町長ら、大野病院に産婦人科医の確保を要望
03/29  日本医師会のホームページ
    福島県立大野病院の医療事故問題について

04/01 青森県臨床産婦人科医会の抗議声明
04/03 千葉県産科婦人科医会の声明
04/04 「周産期医療の崩壊をくい止める会」が緊急会見
04/08
産科医逮捕に高まる“抗議”
04/11 横浜市医師会・横浜市産婦人科医会の抗議声明
   北海道産婦人科医会・北海道産科婦人科学会の声明
04/12 朝日新聞:医療事故 揺れる検証法
04/14 神戸市中央区医師会の声明
  日産婦学会群馬地方部会・日産婦医会群馬県支部の声明
04/17 朝日新聞:医師逮捕事件 富岡署を表彰
04/19 福島県警察本部長のスピーチ
04/20 日本医師会:唐澤会長、木下常任理事記者会見:
  大阪府保険医協会:不当な表彰の撤回求め要求書提出

05/01 福島市で地方公聴会(衆議院厚生労働委員会)
05/02 AERA:医療と司法
05/05 河北新報:県立大野病院事件の産科医療への影響
05/09
報道記事:地方公聴会(衆院厚生労働委員会)
05/12 福島県内医療関係四団体共同声明
05/14 
朝日新聞社 論座:中立の強み
05/15 朝日新聞社説:医療事故 教訓を生かしてこそ
05/17 日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会:
    県立大野病院事件に対する考え
    毎日新聞:医師逮捕に抗議、県保険医協会/岩手
05/18 大野病院の妊婦死亡 「公判前整理手続き」適用
         福島県立大野病院の医療事故に関わる要望書
05/20 毎日新聞:「医療判断制度を」医学部長会議が声明
05/23 全国医学部長病院長会議声明(全文掲載)
05/25 茨城県医師会 萎縮医療に陥らないために
         日本産科婦人科学会が厚生労働大臣と意見交換・
         医療紛争解決に中立機関を要望
05/26 読売新聞:日本の制度不備を痛感
05/27 読売新聞:医療事故 摘発どこまで
05/30 日本医学会会長:『妊婦さんは喫煙しないでください』

06/05 朝日新聞 論座: 事故は避けられなかったのか
06/13 福島県警察医会:大野病院医療事故の問題点指摘
06/30 大野病院事件「表彰」は妥当?(県議会一般質問)

07/09 大野病院医療事故:産婦人科医弁護団の動き(毎日新聞)
07/12 大野病院事件に関する地元紙の報道
07/22 県立大野病院事件、第1回公判前整理手続き、福島地裁
07/28 公判概略について

08/13 大野病院医療事故:初公判11月以降に 第2回公判前手続き、争点絞り込めず(毎日新聞)

09/17 大野病院医療事故:裁判所が争点初提示 初公判12月に (毎日新聞)
09/21 日本周産期・新生児医学会の声明文
09/25 公判概略について(06/9/23)

10/13 初公判は来年1月26日に 福島の病院医療事故
10/24 公判概略について(06/10/19)

12/08 日本医学会、声明文
12/16 県立大野病院事件 公判前整理手続き終了

07/01/08 公判概略について(06/12/19)
01/25 県立大野病院事件あす初公判「癒着胎盤」対応最大の争点 (読売新聞)
01/26 福島県立大野病院の医師逮捕は不当
01/27 福島県立大野病院事件・初公判の報道
01/28 県立大野病院事件、初公判の翌日の報道
01/29 加藤先生の初公判後のインタビュー記事
01/31 第一回公判について(07/1/30)

02/01 福島県立大野病院事件、冒頭陳述の要旨(Ohmy News)
02/03 緊急特集 揺れる産科医療/周産期医療の悪循環に警鐘 (Japan Medicine)
02/11 枝野議員と柳沢厚労相との質疑応答(国会衆院予算委)

02/18 あれから1年

02/22 ブログ上で大野病院・加藤医師の支援の動き広がる(医療タイムス、長野)
02/24 大野病院事件 検察側証人が被告に理解示す証言(読売新聞)

03/17 大野病院事件 第3回公判

04/28 大野病院事件 第4回公判

05/26 福島県立大野病院事件・第五回公判

07/21 大野病院事件 第6回公判

08/31 大野病院事件 第7回公判

09/29 大野病院事件 第8回公判

10/27 大野病院事件 第9回公判

11/30 大野病院事件 第10回公判

12/22 大野病院事件 第11回公判

08/1/25 大野病院事件 第12回公判

02/18 あれから2年

03/22 大野病院事件 論告求刑公判

05/17 大野病院事件 弁護側の最終弁論
05/21 福島県立大野病院事件 「無罪」と最終弁論で弁護側が改めて主張 (m3.com医療維新)
05/28 大野病院事件の影響

06/03 産婦人科医を追い込む国が少子化をますます加速させる!
06/11 逮捕、裁判、産科崩壊。そして患者だけが取り残された―。(女性自身)

08/05 特集「大野病院事件判決」(共同通信)
08/07 シンポジウムのお知らせ(大野病院の判決日、福島に集まりましょう!)
08/09 全国医師連盟 大野病院事件判決に向けて声明 「患者・家族救済制度」設立を要望
08/12 大野事件から三次試案を振り返る、医療再生への道探る―医療制度研究会
08/16 大野病院事件 8月20日に判決
08/20 大野病院事件 産婦人科医 加藤克彦被告に無罪判決 (速報)
08/21 大野病院事件 産婦人科医 加藤克彦被告に無罪判決 (詳細)
08/22 癒着胎盤をどう処置すべきだったか?(朝日新聞・時時刻刻)
08/28 大野病院事件: 検察側が控訴断念の方向で最終調整
08/29 加藤先生の無罪が確定へ!

09/04 加藤先生の無罪確定
09/21 大野病院事件の教訓
09/26 福島県立大野病院事件を無駄にしないために

10/02 大野病院医療事故:医師の懲戒処分取り消し 事故調報告書は訂正せず
10/11 刑事裁判は○か×かを決めるゲーム

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●2005年3月の報道●
http://goby.jp/m/archives/000444.html (mariboo's blog

***** Yahoo!ニュース - 毎日新聞、福島(2005年3月31日)

大野病院医療ミス:無理な処置で大量出血、医師不足も死亡原因に--県事故調 /福島

 大熊町下野上の県立大野病院(作山洋三院長)で帝王切開の手術中に妊婦が亡くなった医療ミスで、県の事故調査委員会(委員長、宗像正寛・県立三春病院診療部長)は30日の会見で、無理な処置が大量出血を招き、医師不足も死亡の原因になったと結論づけた。【岩佐淳士】
 ◇県「誠意持ち遺族に対応」
 調査報告によると、妊婦は胎盤が子宮内部の筋肉にくっつく癒着胎盤の状態だったため、執刀医は胎盤を子宮から手ではがし切れず、手術用のはさみではがした。
 その間に約5000ミリリットルの出血があり、止血や輸血をしたが間に合わず、心室性不整脈を起こして死亡した。出血は無理に胎盤をはがしたためで、すぐに子宮摘出すべきだったという。さらに、医師不足で、医師の応援や輸血体制が十分でなかったことも要因とした。
 宗像委員長によると、癒着胎盤は2000~4000人に1例程度。はさみで胎盤をはがす方法は通常あり得ないといい、「胎盤の剥離(はくり)が難しい時点でやめていれば助かる可能性は高かった」と指摘している。
 手術は執刀医(産婦人科専門医)と助手(外科医)、麻酔医(麻酔科専門医)と看護師数人で行われた。執刀医は、30代の男性で産婦人科の専門医として、9年目。
 記者会見で県病院局の秋山時夫局長は「今後事故防止に努め、遺族に対して誠意を持って対応したい」と述べ、作山院長とともに頭を下げた。

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報告書(県立大野病院事故調査委員会)の全文

「houkokusho.pdf」をダウンロード


この難局に地域としていかに対応していくか?

2007年07月19日 | 地域医療

地方の病院で医師確保がだんだん難しくなってきて、医師不足により存亡の危機に直面している地域中核病院も少なくありません。

しかし、『増大する医療費の抑制を図る』という名目で、『病床数の適正化、すなわち病院の数を現在の半分にまで減少させる』という政策を厚生労働省が掲げている以上、『今後、相当数の病院が姿を消していく!』のが、国の規定方針と考えられます。

従って、この難局に対して、個々の病院、自治体だけで個別に対応していこうとしても、今後の見通しは非常に厳しいと思います。

従来の医療圏の枠にはこだわらず、長期的な視野に立って、地域全体で今後いかに対応していくのか?を検討する必要があると思います。

**** 医療タイムス、長野、2007年7月12日

産婦人科、整形外科の維持が困難に 
~昭和伊南、助産所やお産制限も検討

 常勤医の相次ぐ退職や信大からの派遣医の引き揚げなどを受け、昭和伊南総合病院(千葉茂俊院長)がその対応に追われている。産婦人科では、信大が来年3月末に医師2人を引き揚げる予定で、整形外科では現在4人いる常勤医が退職などによって8月末までに1人に減少する。同院は、「伊那中央病院などの近隣病院や地元医師会などに協力を要請し、現在の医療体制を維持できるように努めていきたい」としている。

 年間500件のお産を取り扱っている産婦人科は、院内助産所の設置や里帰り出産の制限、医師確保などを視野に、現在の分娩件数を維持していく方向で検討している。帝王切開などの外科的処置が必要な患者の対応については、伊那中央病院と今後さらに協議を重ねていく方針だ。ただ、伊那中央病院でも産科医が不足していることから、同院では地域内における産科医療体制の再編案がまとまった時点で、信大や関係機関に再び協力を要請していくとしている。

 また、整形外科に関しては外来患者のみの受け入れを軸に、入院や複雑な手術が必要な患者は伊那中央や飯田市立などの近隣病院に受け入れを要請していく考え。一方、小児科は現在常勤2人体制となっているので、医師数が減少しないよう病院として現状維持に努めていく。

 同院の福澤利彦事務長は「地域医療体制を維持していくためにも、さまざまな方法を検討していきたい」としている。

■日曜日の1次救急患者を開業医が診察

 医師数の減少に伴い、同院では5月から同院の救命救急センターで日曜日に受け入れる1次救急患者の処置を開業医に委託している。協力しているのは上伊那医師会南部地区の開業医8人で、原則1人が希望した日に勤務している。

 同院が日曜日に受け入れる1次救急患者は約20~30人。担当した開業医は午前8時~午後5時までセンターに常駐し、専門外の患者が来院した場合には、オンコールで該当する診療科の勤務医が駆けつけるシステムになっている。

 同院では、「開業医の戦士方の協力で勤務医の負担が大幅に軽減できている」としている。

(医療タイムス、長野、2007年7月12日)

****** 伊那毎日新聞、2007年7月13日

全員協議会で千葉院長らが説明 飯島町議会

 駒ケ根市の昭和伊南総合病院の深刻化する医師不足を受け12日、飯島町議会は議会全員協議会を開き、昭和伊南総合病院の千葉院長、福沢事務長らを招き、病院の現況と当面の対応について説明を受けた。

 説明では整形外科の常勤医4人が新規開業や派遣元の信州大学の異動で、8月末には1人になる。産婦人科は常勤医2人が来年3月で信大に引き揚げになるため、以降は常勤医師がゼロになる見込み。

 対策として、伊那中央病院、飯田市立病院などと協力、連携するとともに、日直は近隣の開業医の協力を得て、なんとかやりくりしていく-とした。

 これを受けた質疑で、議員からは「医師の絶対数が不足しているのか」「まずは近所の開業医を受診するなど、1次医療と2次医療のすみわけ意識が必要では」「院内産院への取り組みは」など質問や意見が出された。

 また、「一部住民が不安を煽るような会議が持たれている。医師不足は全国的なこと、昭和伊南病院だけの問題ではない。誤解を受けるような言動は慎もう」と言った意見もあり、町議会として、町広報や議会報を通じて、町民に正しい情報を伝える。勤務医の負担軽減に向け、1次医療と2次医療のすみわけを呼び掛ける-などを確認した。

(伊那毎日新聞、2007年7月13日)

****** 長野医報、2007年7月1日

地域医療崩壊への道か?
    ~医師不足の現状~

昭和伊南総合病院 院長 千葉茂俊

 当院に限らず、地方の中小都市の公立・公的病院の勤務医不足が加速している。それは、新臨床研修制度の開始された3年前から始まった。そして、年毎に顕著になってきているし、極端な地域格差となって現れている。最近の医療の混迷振りを、マスコミは、「医療崩壊」と呼んでいるが、その要因の多くが地方の病院の医師不足による。東北、北海道地域では、既に報道されている通りである。

 地方の各病院は、これまで基本的に大学医局からの医師派遣に頼っていたために、医師の大学への引き揚げで、もろに影響を受けたのである。これは、新制度によって、大学の医局への入局者が極端に減少したせいもあるが、従来の医局制度が機能しなくなったことが大きい。

 というのも、「医局の決定により、各地域に行き渡るように医師を供給する態勢」が壊れてしまったからである。すなわち、大学在籍の医師数が減り、大学の各講座は、地方病院から医師を引き揚げざるを得なくなったのである。そして、そのターゲットは、まず小都市の病院となった。

 この他に、勤務医不足に拍車をかけている要因は、主に、①過重労働、②診療所開業による病院辞職、および③より良い病院(条件の良い病院)を求めての転院、等である。

 まず①であるが、勤務医の過重労働は日常化している。地方の基幹病院としての役割を果たすために、医師は、通常の診療のほかに、ウィークデーの当直、祝土日の日直が割り当てられている。それに加えて、緊急時には、当然ながら専門範囲の診療や手術が入る。もちろん、年中365日予定の立つ時間などには全く関係なしにである。

 医師不足になるもう一つの大きな要因は、②の勤務医の診療所開業のための辞職が大きい。これは、日常化している過重労働に疲弊した結果ということもできる。また、無理の出来ない年齢に達したことを実感してのこともある。元気な医師であっても、いずれ加齢の影響は免れない。マスコミでは、無責任な表現で「燃え尽き症候群」とか、あまり感心しない言葉、「立ち去り型サボタージュ」とか、様々な表現がなされている。

 しかし、考えるまでもなく、自分の全人生をかけ、全て投げ打って医療に打ち込めというのは、本来無理である。家庭が成り立たなくなったり、人間的な生活が出来なくなっても、患者のために頑張れと、誰も言うことは出来ない筈である。

 ③は、医師がある程度自由に勤務病院を自分で選べることになった現状では、給料を上げることも、勧誘のひとつかもしれないが、私は、③がそれ以上の条件だと思っている。特に、地元出身でない者の多い医師側からすれば、魅力のない病院や地方に来る必然性はないのである。

 快適な職場での勤務は、働く者の誰もが望んでいる。すなわち、施設が適切かどうか、新しい基準に準じた環境か、医師のみならずその家族が生活する環境、住居は適切であるのか、居住する町の学校、文化施設に満足できるのか等、公私を含めて働き生活する環境面がトータルで満足できるのかが、医師誘致には欠かせない。

 云々と記した理由は、大学の医局の権威が低下し、いわゆる民主的となり、若い医師が比較的選択して病院を選べる仕組みになったからである。医師自身が適切と考えなかったり、家族が賛成しなかったりしたら、赴任してくれないことになる。

 大学病院自体が医師不足で悲鳴を上げている現状では、関連病院の医師引き揚げに動くのは、止めることが出来ない流れである。さらに悪いことに、人口の少ない地方病院がより割を食ってしまう。それが、またまた残された医師の負担増につながってゆくという悪循環となっている。

 この状態が長く続き、対策が遅れれば相当の病院が姿を消すことになるだろう。今のところ、厚生労働省自身が、対策を講じることはない筈である。

 というのも、増大する医療費の抑制を図るという名目で、病床数の適正化、すなわち病院の数を現在の半分にまで減少するという政策を掲げているからである。現在の療養病床38万床は、平成24年までに15万床まで減らす方針が決定している。次に、一般病床90万床も、いずれ、50~60万床に減少するだろうと言われているのだから。

 現在、人口の少ない地域の医療崩壊を回避するドラスティックな方策を見出すことは極めて難しい。となると、この難局を乗り切るには、地域の医療人全体の手堅い連携以外に道は残されていないのかもしれない。それには、地域住民が現状を理解し、支える気持ちを示してくれることも大きな要素である。

(長野医報、2007年7月1日)


産科医不足 横浜でも深刻

2007年07月17日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

神奈川県の産科の状況が厳しいことは、以前より、繰り返し報道されてきました。横浜市でも、他市からの『お産流入』が顕著になり、かなり深刻な状況のようです。

参考:

神奈川県の産科医療の状況

厚木市立病院 出産受け入れ停止へ

神奈川県の産科医不足の状況

分娩予約は抽選 閉院も続々 “お産難民”深刻に

神奈川:どこで産むの?
神奈川:自治体 危機感薄く
神奈川:近所の医院も分娩受けず

衆議院厚生労働委員会 奥田美加先生発言

****** タウンニュース、2007年7月12日

産科医不足 横浜でも深刻

4年間で20人減、他市からの「お産流入」も顕著に

Yokohama  「自宅の近くで出産できない」「産科が見つからない」-。横浜市内で産科不足の窮状が顕著になっている。市内の医師数はここ数年横ばいの状況の中、なぜ「産科医」が足りないのか。横浜市産婦人科医会の明石敏男会長に、現状を聞いた。

 神奈川県産婦人科医会のまとめによると、横浜市内の分娩件数は平成16年に33238件だったが、17年に31722件に減少、一転、昨年は33023件と増加している。しかし、平成14年から18年の4年間で、産科医師数は211人から191人に20人減、医師一人あたりの分娩件数は172・9人と増え、分娩件数の増加と「産科医不足」が数字として明らかになっている。

 「産科医不足の現状はとても深刻」と明石会長は語る。産科は24時間体制の勤務状況と、出産時に予見できない事態もあり、訴訟のリスクが高い。「体力・精神的な負担も多く、開業医が産科を辞めてしまうケースが多い」という。病院の産科においても、厳しい勤務状況に対して待遇が伴わないため辞めてしまう。昨年度、市内の医大を卒業後、産科の医局に入ったのは4大学で7人。開業医の高齢化や後継不足も伴い、産科医が増える見込みは少ない。

 そして市内で顕著なのは他市からの流入だ。横浜南部では横須賀市など以南から、横浜北東部では川崎周辺から病院・診療所(開業医)の「お産ができる病院」探して流入するケースが増加。今まで一人年間100~200件の分娩を扱っていた開業医も、今までの倍以上の分娩件数に立ち合わなければならないという。「分娩予約は半年先まで満杯」という診療所も多い。打開策として、助産師の増員などでしのいでいるが、実際にお産の診療を行うのは産科医。件数が増えても、人件費までカバーしきれないのが現状だ。県産婦人科医会の調査では、横浜市内の分娩取扱施設が5年後には7施設の減、産科医数も4人減と予測。明石会長は「産科を辞めた地域のお産をカバーすることで精一杯」とその悪循環を懸念する。

 市では今年度予算で、緊急産科医療対策費として約800万円を計上。医療機関へ助成し、「健診は診療所、出産は病院」という役割分担で産科医不足を補う。病院勤務の産科医も減る中で、現状に対する早急な対策になるのか。産科医・母親ともに安心して出産に臨める体制となることが望まれる。

(タウンニュース、2007年7月12日)

****** 神奈川県産科婦人科医会HPより

神奈川県内産婦人科志望医師激減についての緊急アピール

                2006年11月29日

 神奈川県産科婦人科医会会長   八十島唯一
 神奈川県産科婦人科医会副会長 東條龍太郎
 神奈川県産科婦人科医会副会長   平原史樹
                         (横浜市立大学医学部教授)  
 聖マリアンナ医科大学教授 石塚文平
 北里大学医学部教授    海野信也
 東海大学医学部教授    三上幹男

 本県内において一昨年来、急速に進行している産婦人科医師不足、更には、病院、診療所での分娩取扱い中止が相次ぐ中、昨年にも増して、産婦人科専攻希望医師が激減しております。本年4月本県で初期研修を修了した約600余名の医師のなかから産婦人科を専攻した医師は全県でわずか12名でしたが、明年4月からの次年度は激減してわずか7名の見込みとなっております。

 私たちはこの理由として、現在の最善の医療を尽くしても避け得ない妊娠・分娩に伴う不幸な結果に対しての診療不信、さらにつづく訴訟、また、産婦人科医師不足のため、不眠不休で終夜勤務をしても、そのまま朝から通常勤務、手術へと入らざるを得ないという過酷極まりない勤務環境があると考えています。現在、神奈川県内の産婦人科医の勤務環境は、全国レベルで指摘されている過酷さの平均からもさらに劣悪な状態となっており、皆で必死に支えているのが現実です。現在県内の分娩扱産科医療機関はマンパワーとしても、施設としても許容能力を超えており、母児の生死にかかわる緊急救急対応に際して東京、関東近県の医療機関を何時間も探し回って依頼することが頻繁に発生しており、他県で発生している送院の遅延による不幸な事例がいつ本県で発生してもおかしくない逼迫した状況であります。私たちは誠実に最善は尽くしておりますが、許容能力を超えたことは診療上不可能であります。すでに、その深刻な問題点と改善へ向けての諸提言は各方面に重ね重ね切実に訴えているところです。

 県民の皆様におかれましては、今現在、県内すべての地域で産婦人科医療が許容限界をこえていることに十分ご理解賜り、ご協力をお願いするとともに、関係各機関、行政へも重ね重ねではありますが、ご理解と早急なご対応をお願いたします。
 以上関係行政機関、報道関係に公表をいたしました。                        

神奈川県産科婦人科医会HPより)


地方における医師の確保と育成について

2007年07月15日 | 地域医療

日本では、これまで長年にわたり、地方の医師派遣の役割は大学の医局が担ってきました。しかし、最近、特に地方においては、多くの診療科で大学の医局員数が減少し、大学医局に医師派遣機能を果たすだけの人的余裕が徐々に失われつつあり、おそらく、将来的には大学の役割もだんだん変化し、教育機関としての役割に特化され、大学から地方病院への医師派遣は今後あまり多くを期待できなくなっていくものと予想されます。

従って、今後は、地域で必要な医師は、地域で自力調達し、地域で育成していく以外にないような厳しい時代に突入していくのかもしれません。

若手医師を呼ぶためには、専門医資格が取れる施設であることが必須条件です。そのためには、指導医陣の確保、医療設備の整備、豊富な症例数などの条件が絶対に必要となります。現状では、そのような条件を満たす病院が地方には少なく、若手医師が都会の病院に集中しやすい状況になっています。

個々の病院の努力だけで、この状況を一気に変革しようとしても、絶対に無理です。将来的に地域で必要な人材は地域で確保・育成できるようになることを目指して、地域で一体となって、この問題に長期戦で取り組んでいく必要があると思います。


周産期2次医療体制の充実

2007年07月13日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

高リスク妊娠・分娩を管理できる『産科2次施設』のバックアップ体制があって初めて、低リスク妊娠・分娩を扱う『産科1次施設』群の存在も可能となります。

しかし、現実の社会では、全国各地の『産科2次施設』が相次いで閉鎖に追い込まれていて、国家レベルの大問題となっています。

万一、地域で唯一の『産科2次施設』が閉鎖に追い込まれた場合には、その地域にある『産科1次施設』がすべて存続困難となってしまいます。

産科空白地域となってしまってからではもはや手遅れです。地域の未来のためにも、周産期2次医療体制は何としてでも死守する必要があります。『今は何を最優先しなければならないのか?』について、地域全体でよく話し合ってみる必要があると思われます。

追記(2007年7月14日):

県内一産科医さまのコメント

  多様な一次施設が存在し、身近な場所で分娩を、というのは理想です。ただ、上田では、2次施設であるべき独立行政法人長野病院で、常勤麻酔科医がいないために2次病院たりえていません。産婦人科も引き揚げの話がちらほらと出ているようです。
  その結果、別の医療圏に属する篠ノ井病院・佐久病院・こども病院等に搬送をしなくてはならないという事実に対し、上小地域はどうすべきなのか、議論はまずそこから始まらなければならないのではないでしょうか。
  産科一次施設というのは、二次施設という親亀の上の子亀のようなものです。親亀こければ子亀もこける、という事実をまずは正しく認識しなくてはならないと思います。
  『反権力を気取る人々』にとって、「大学医局という権力の横暴に抵抗する」「助産師を抑圧する医師と戦う」という構図は美談に見えるかもしれませんが、そのようなイデオロギーが議論を歪めることのないように期待します。

参考:

産科・小児科の重点配置を提言 (長野県産科・小児科医療対策検討会)

上田市産院・廣瀬副院長 産科の集約化を非難

南信州新聞社:「院内助産院」勧める意見も

上田でお産の課題話し合う

東信地域の厳しい産科医療の状況について

「バースセンター」構想 上田の母親ら「集い」発足

****** 河北新報、2007年6月23日

助産師の力を生かすには/専門性高め地域密着を

上田市産院副院長 広瀬健さん(57)

 長野県の上田市産院は、市立の産婦人科専門病院だ。市内で最も多く分娩を扱っていた施設が2005年、存廃に揺れた。医師を送っていた信州大から引き揚げの通告を受けた。大学は医局員不足を理由に、拠点病院へ配置換えする集約化を進めていた。

 産院の危機に、長野県内の別の病院に勤めていた広瀬さんは決断する。医局に異動を志願し、翌年4月に着任した。現在は常勤医2人と非常勤医1人の体制で、以前より多い年約700件のお産を受け入れている。

 「大学側の勝手な理由で、産む場所がなくなることに怒りを感じた。母乳育児に力を入れる産院は県内で唯一、ユニセフ(国連児童基金)とWHO(世界保健機関)の『赤ちゃんにやさしい病院』に認定されている。地域に愛されている施設を、閉鎖に追い込むわけにはいかなかった」

 「高リスク分娩を引き受ける大病院に医師を集めることは必要だが、そこに正常出産まで集中すると、妊婦へのケアが手薄になりがちで、かえって危険性も増す。集約化ではなく、分散化こそ周産期医療を救う鍵になる」

 上田市では、助産師が正常出産を扱う「バースセンター」の構想が浮上。子育てが一段落した市民が中心となり、市に設置を働き掛けている。

 「助産師は英語でmidwife。『女性と共にいる人』の意味がある。お産がうまくいかない最大の要因はストレスで、助産師がずっと付き添っていれば安心感が増すだけでなく、早期に異常が見つけられる。適切なケアを受け、満足のいくお産が経験できると、子育てや家族の在り方にも良い影響を及ぼす」

 「上田市と近郊の約2000件のお産のうち400件程度をセンターが担えば、医師の負担はぐんと減る。医師が集まりやすくなり、自治体の医療費も削減できる。モデルとして育て、東北など医師不足の地域に有効だということを示したい」

 国がまとめた新医師確保総合対策は、助産師を活用する体制整備も盛り込んだ。上田市産院の場合、助産師は常勤が12人。助産師だけで赤ちゃんを取り上げることはないが、妊婦を手厚く支援している。

 「医師が足りないから助産師を使うという発想は浅はかだ。今の助産師は技術や知識のレベルがばらばらで、お産を任せられない人もいる。再研修の義務化や、業務監査などの仕組みをつくらなければいけない。助産師を本当に生かし、用いるには、医師と対等になれるぐらいの専門・高等教育が必要だ」

 順調な経過の妊婦も急変する可能性がある。現状では、医療処置が迅速に受けられない助産所での出産は時に危険を伴うという指摘は医師、助産師の双方から出ている。

 「病院が助産所を畏縮(いしゅく)させているから、搬送が遅れて症状が悪化する。大病院、診療所、助産所、自宅のどこであれ、地域で産む人全員にセーフティーネットが求められている。医療機関は情報を共有し、医療が必要な場合は直ちに搬送できる体制を整える。行政は搬送設備やシステムを整備すべきだ」

 「人生が多様であるように、お産も柔軟でいい。改正医療法で廃業せざるを得ない助産所があり、このままでは助産所で産みたいという少数派の声がかき消されてしまう。医師、助産師の連携を人間性あふれるものにしたい。困っているときに助け合うのは、人として当たり前ではないか」

広瀬健さん 長野県出身。諏訪赤十字病院など勤務。医師集約化に問題意識を持ち、全国で講演活動をしている。

(河北新報、2007年6月23日)

****** 中国新聞、2007年5月24日

産科医療体制の在り方は

上田市産院(長野) 広瀬副院長に聞く

 各地で進む「産科の集約化」に異議を唱え、全国行脚している医師がいる。長野県の上田市産院の広瀬健副院長(57)。上田市産院は、集約化のため、閉院の危機に追い込まれたが、母親たちの反対運動が起こって存続した産院でもある。四月に倉敷市内で講演した広瀬医師に、集約化の問題点を聞いた。

 「分散化」こそ安心高める

 -- 一番の問題点は何ですか。

 産科のケアや処置が「流れ作業」になりやすい。集約化は産科医師不足の対応策で、ケアや処置の効率化が狙い。大病院のスケールメリットを生かして、少ないスタッフで多くの妊婦をみる仕組みだ。

 集約化が進んだ英国では、次から次にお産をこなす大病院に「ブロイラー工場」との批判も強まり、産科医師も疲弊。今年四月には、身近な地域で助産師が出産を担う態勢に方向転換すると表明した。日本は、英国の来た道をたどろうとしているようにも見える。

 --集約化で、緊急時に複数の医師が対応できるようになれば、安全性が増すのではないですか。

 ハイリスクの妊婦対策として、高次医療機関への医師の集約は必要。しかし、正常分娩を大きな病院に集めれば、むしろ危険性は増す。継続的なケアで異常を招かないように支える助産行為が難しくなる。

 どんなお産にも「正常からの逸脱」はあり得るが、妊婦が集中するとケアが手薄になり、発見も遅れやすい。むしろ助産師が付き添えば、トラブルの発見は早まり、適切な対応が取れる。

 --今後の在り方は。

 集約化は、「安全に産むこと」だけに固執する医療側の事情を優先させたシステムで、産む側の視点が欠落している。どこで産むかを選ぶ権利すらない。お産は、母親になるための「通過儀礼」。女性が、母親として生まれ変わり、親子のきずなを培う過程でもある。家族、社会の在り方にも影響する。

 妊娠、出産、産後を通して助産師がサポートすると、母親の満足度は大きく高まる。身近な地域での助産師主導のマタニティーケアを、産科医療体制が支える仕組みづくりこそ進めるべきだ。集約化ではなく、「分散化」で産科の危機は救える。

(中国新聞、2007年5月24日)


昭和伊南総合病院 産婦人科常勤医ゼロに

2007年07月11日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

長野県・上伊那医療圏の中核病院の一つである昭和伊南総合病院・産婦人科の常勤医が、来年4月以降はいなくなってしまう見通しであることが公表されました。同時に、この秋以降、同病院の整形外科の常勤医が1人だけになってしまうので、整形外科的な救急対応が難しくなる見込みであること、小児科の存続が厳しい状況にあること、なども公表されました。昭和伊南総合病院と伊那中央病院の代表者らが集まって、今後のこの地域の医療体制をどうするのか?についての話し合いが始まったとのことです。

地元新聞を読むと、昭和伊南総合病院で産婦人科の常勤医がいなくなった後に、病院にとり残されてしまった助産師達による『院内助産所』の設置も検討されているとの記事がありました。

しかしながら、産婦人科の常勤医不在の病院での『院内助産所』では、緊急時の医学的対応が病院内では全くできなくなるので、分娩経過中に何か少しでも異常が発生するたびに、他の病院に緊急母体搬送しなければならないことになってしまい、その助産所が病院の中に存在する意義が全くありません。

『地域の貴重な人的医療資源を有効に活用する』という観点から言えば、今後、近隣の病院での分娩件数が激増することも十分に予想されますので、できることならば、昭和伊南総合病院の助産師の方々に近隣の病院に移籍していただき、今まで同様に大活躍していただく方が、地域全体から見れば、より意義深いのではないか?とも思われます。今後、関係者間で十分に話し合っていく必要があると思われます。

いずれにせよ、この問題は一つの医療圏内の話し合いだけでは簡単に解決できそうにありません。従来の医療圏の枠にこだわらず、長期的な視野に立って、今後の対応を考えていく必要があると思います。

参考:長野県・上伊那地域の産科医療の状況

産科・小児科の重点配置を提言 (長野県産科・小児科医療対策検討会)

****** 信濃毎日新聞、2007年7月10日

昭和伊南病院 産婦人科常勤医ゼロに

 来年4月 院内助産所を検討

 昭和伊南総合病院(駒ヶ根市)は9日、信大から派遣されている産婦人科の常勤医2人が来年4月に引き揚げられていなくなる見通しを明らかにした。緊急処置として来年4月以降、院内に助産所を設置、自然分娩(ぶんべん)は助産師資格を持つ院内の看護師が担当し、帝王切開などの場合は伊那中央病院(伊那市)の医師に依頼する方向で検討を始めたという。

 整形外科、秋から1人

 また、常勤医3人の整形外科は8月に2人、9月に1人に減る見込みを示した。整形外科の治療が必要な救急患者の受け入れは、命に別状がない限り伊那中央病院や飯田市立病院(飯田市)に依頼する考えも示した。

 昭和伊南総合病院の説明に対し、伊那中央病院事務部は「現状のままでは産婦人科、整形外科とも人員や施設に余裕がなく(受け入れは)厳しい」。飯田市立病院事務局は「状況を見て受け入れるかどうか判断することになる」としている。

 昭和伊南総合病院の千葉茂俊院長が、同日開かれた伊南行政組合議会全員協議会で説明。「少ない医療人員を最大限に生かして窮地を乗り切りたい」と理解を求めた。来年4月以降、臨時(パート)の産婦人科医を確保することを検討しているが、地域に腰を据えた医師でなければ抜本的対策にならないとみている。

 同病院産婦人科のお産の扱い件数は年間約500件。院内助産所を設置しても100~150件しか取り扱えないといい、千葉院長は「ほかの対応策も考える必要がある」と指摘。他地域では里帰り出産の受け入れを制限している病院もあるとした。

 昭和伊南総合病院は今後、伊那中央病院とつくる検討組織で協議を進める方針だ。

(信濃毎日新聞、2007年7月10日)

****** 長野日報、2007年7月10日

昭和伊南総合病院 診療体制一部見直し

 伊南行政組合議会全員協議会は9日開き、同組合が運営し、医師不足に悩む昭和伊南総合病院(駒ケ根市)の今後の診療体制について、理事者や病院関係者が説明した。開業による勤務医の離職が相次ぐ整形外科は、現在3人の常勤医が9月から常勤1人臨時1人となるが、手術、入院、救急いずれも対応していく。県の方針による連携強化病院の医師集約で、来年4月から産科は臨時1人となる見通しで、院内産院の設置を検討していく。

 整形外科は外来も入院可能だが、常勤医が2人になる8月から複雑な手術を必要とするケースや、長期入院が必要な患者は他院を紹介することで対応する。千葉茂俊院長は、「複雑骨折など整形の重傷な救急はそれほど多くない」と述べ、従来の24時間、全員体制での救急受け入れは存続させ、重傷者は救急隊の判断で転院搬送する―とした。

 産科はこれまで医師2人で年間平均500例の出産を扱ってきた。千葉院長は、自然分娩(ぶんべん)が可能なケースを対象に、助産師による院内産院の設置を検討していることを説明。「伊那中央病院のバックアップ、助産師のモチベーションにもよるが、その場合年間、100例から150例を扱えるのではないか」と述べた。

 中原正純組合長は、南部医師会を通じ、開業医に日直協力してもらっていること、6月に県と信大医学部に要望を行ったことなどを報告。「『伊那中央・昭和伊南病院―病々連携による医療を守る対策委員会』(仮称)をつくり、両院長が中心になって地域医療を守るための取り組みを進めている」と述べ、住民の不安を和らげるために最大の努力をする―とした。

 福沢利彦事務長は、今年4月から3人いた小児科医師が2人になったが、現状維持に向け努力する―とした。

 議会側からは、昭和伊南と伊那中央の救急体制の違いは調整できるのかや、今回の措置が恒常的なものかなどの質問が出た。中原組合長は「今回の措置は緊急避難的なもの」と述べた上で、将来的には伊那中央と昭和伊南が特徴を生かしながら存続していく方法を探るしかない―とした。

(長野日報、2007年7月10日)

****** 伊那毎日新聞、2007年7月10日

昭和伊南病院が今後の動向説明

 整形外科、産婦人科、小児科の存続を心配する声が住民から上がっていることを受けて昭和伊南総合病院(千葉茂俊院長)と病院を運営する伊南行政組合(組合長・中原正純駒ケ根市長)は9日、駒ケ根市役所で開いた伊南行政組合議会全員協議会で病院の当面の動向と対応について説明し、伊那中央病院などと協力、連携して上伊那の地域医療を守るために全力で取り組んでいきたい―とする方針を示して理解と協力を求めた。

 同病院では整形外科の常勤医師がこれまで4人体制だったのに対して、新規開業や派遣元の信州大の異動で他病院に移るなどの理由で3人の医師が6月から相次いで減少。8月末には1人となる。これにより複雑な手術や長期入院が困難になることから、患者をほかの病院に紹介したり、重傷の救急搬送患者は伊那中央、飯田市立の各病院に受け入れてもらわざるを得ない状況となる。

 産婦人科は、常勤医師2人を派遣している信州大が08年3月での引き揚げを決めたことで以降の常勤医師はゼロとなる見込み。当面は臨時(パート)の医師でしのぐ考えだ。引き揚げは信州大でも深刻化が進む医師の絶対数不足からやむを得ない措置として決定され、通告を受けたもの。

 小児科は3人体制だった医師が今年4月から2人となっているが、引き続き現状維持に努めたいとしている。

 日直についても医師数の不足により5月以降、近隣の開業医の協力を得て何とか遣り繰りしている。

 中原組合長は「この状態では地域医療は守れない。経営的なことも含め、将来は上伊那広域で、場合によっては飯田との連携も視野に入れながらやっていくべきだ」として、広域連携の必要性を強調した。

(伊那毎日新聞、2007年7月10日)

****** 中日新聞、2007年7月10日

重傷者 他院搬送へ 

昭和伊南総合病院 院内産院設置も検討

 伊南行政組合は9日、組合が運営する昭和伊南総合病院(駒ヶ根市)の整形外科が医師不足に陥る8月以降、骨折など危険度の低い重傷者は近隣の伊那中央病院(伊那市)と飯田市立病院(飯田市)の両病院へ救急搬送する方針を明らかにした。

 組合によると整形外科の常勤医は7月末で開業のため1人が辞め、8月末には信大から派遣されていた医師1人も他の病院へ異動するため、9月から1人体制になる。

 外来は臨時医師1人を新たに雇うことで1診または2診を維持するが、8月以降は複雑な手術や長期入院を要する患者は伊那中央か飯田市立に紹介する。救急患者の受け入れも24時間体制で行うが、脳や心臓などの緊急手術を要する急患を除き、整形外科の重傷者は両病院へ搬送する。

 産婦人科の常勤医2人も来年3月末で信大が引き揚げるため、4月以降は伊那中央と連携してお産に対応する。助産師の資格を持つ看護師が代わりにお産を扱う「院内産院」の設置が可能か、信大とも今後検討する。

 これらの課題を協議するため伊那中央や信大、県衛生部の関係者を含めた対策委員会を6月下旬に設置した。組合長の中原正純駒ヶ根市長は「上伊那の医療を守るため、病院のすみ分けや機能特化のあり方も考えなくてはいけない」と話した。【平井剛】

(2007年7月10日)

****** 信濃毎日新聞、2007年7月11日

昭和伊南病院・医師不足で 市民有志の会発足 実情説明求め要望書提出へ

 伊南4市町村の市民有志による「昭和伊南総合病院の充実を進める会」が9日、発足した。4市町村の共産党議員が中心で「住民と一緒に考えたい」としている。病院側に医師不足の実情など詳しく説明を求め、要望を提出するなどしていく方針。

 JR駒ヶ根駅前ビル「アルパ」で開いた会合で、同党所属の伊南行政組合議員が、同日の全員協議会で病院側から「来年4月に産婦人科の常勤医がいなくなる」「整形外科は9月に常勤1人に減る」と説明があったことを報告。出席者から「地域の人が病院を頼れなくなってしまう」との意見が相次いだ。重症患者を24時間体制で受け入れている救命救急センターについても「きちんと機能するのか」と心配する声があった。

(信濃毎日新聞、2007年7月11日)

****** 中日新聞、2007年7月11日

行政と情報の共有を 昭和伊南総合病院医師不足問題 住民が考える会

 医師不足などの問題を抱えた昭和伊南総合病院の今後を考える「昭和伊南総合病院の充実を進める会」が9日夜、駒ヶ根市内で発足した。

 前県議の林奉文代表が中心となって呼び掛け、伊南地域の住民25人が出席した。

 同病院は整形外科の医師不足で8月から一部の重傷者を他の病院へ救急搬送することを決め、産婦人科では来年3月末に常勤医2人が退職して、お産が扱えない恐れが出てきている。

 会では病院を運営する伊南行政組合に医師の確保やお産、救命救急の維持を要請し、病院の現状や医師の実態などを住民に広く公開するように求めていく。

 林代表は「住民にとっても深刻な問題であり、行政任せにせず、情報を共有し一緒に考えていく必要がある」と述べた。【平井剛】

(中日新聞、2007年7月11日


種子島唯一の産科閉鎖へ 支援整わず「継続は危険」

2007年07月10日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

種子島の年間250件の分娩を1人で担当してきた医師が12月で島内での診療活動をやめるため、今後、島内では出産ができなくなる恐れが出ているそうです。

緊急時には、鹿児島県か自衛隊のヘリコプター出動を要請し、陸路を含め片道3時間以上かけて鹿児島市内の病院に搬送しなければならないそうですが、今年は上半期だけで8回もヘリ搬送があったとのことです。ヘリ搬送は手続きが煩雑で、要請した医師側に問い合わせも多く、それらの雑務にすべて1人だけで対応しながら治療に集中するのは非常に困難だったようです。

分娩の経過中には、一定の確率で誰にでもさまざまな異常が発生する可能性があります。それらの異常がいつ誰に起こるのか?を発症前に予測することは困難です。母児の救命のためには、異常が発症してから30分以内の迅速かつ適切な医学的対応が不可欠と言われていますが、緊急時でも2次施設までの搬送に必ず3時間以上かかってしまうような体制下では、異常が発生した時点で母児の救命をあきらめざるを得ないような事態も時に避けられないでしょう。

産科2次医療体制の整ってない地域では、分娩を取り扱う業務に従事すること自体が、(医療従事者側にとっても)極めて危険なことになってしまいます。緊急時のバックアップ体制がなく、この一人の医師にすべてが押しつけられてきたのが問題だったと思います。市立病院に産婦人科を設置できなかったのであれば、この池田医院を市を挙げて全面的にバックアップする体制を確立する必要があったと思います。

現状の社会情勢下では、この医師が、種子島で今まで通りの診療活動を今後も継続していくのが非常に困難になってきたことは十分に理解できます。

****** 共同通信、2007年7月9日

種子島唯一の産科閉鎖へ 支援整わず「継続は危険」 ピンチ打開、めど立たず

 人口約3万4000人の鹿児島県・種子島で唯一の産婦人科が12月で診療をやめ、島内で出産ができなくなる恐れが出ていることが6日までに分かった。1人でほぼすべてのお産を担当する開業医が、緊急時の支援体制が不十分なことや医療過誤訴訟の増加を理由に、現状での医療継続は危険だと判断したためだ。

 島の一市二町は対策委員会を設置。島内2カ所の総合病院のどちらかに産婦人科を新設することなどが検討されているが、医師確保のめどは立たず、島のお産はピンチの状態。全国的に医師不足が問題となる中、国内有数の離島で持ち上がった事態に、島民や医療関係者には波紋が広がっている。

 閉鎖を予定しているのは西之表市にある池田医院。島内の年間250件ほどの出産のほぼ100パーセントを、池田速水(いけだ・はやみ)医師(39)が1人で手掛けてきた。

 池田医師によると、緊急時には母親は島内の別の病院に搬送し治療が可能。しかし、島には新生児の治療施設がないため鹿児島県か自衛隊のヘリコプター出動を要請、陸路を含め片道3時間以上かけ鹿児島市内の病院に搬送する。ことしは上半期に8回搬送があった。

 ヘリ搬送は手続きが煩雑で、要請した医師側に問い合わせも多く、1人で対応しながら治療に集中するのは困難という。

 新生児用のモニターなど、全身を管理する設備が島内にないことにも常に不安を感じるといい、池田医師は「唯一の産婦人科が救急指定でもない開業医というのは危険すぎる。安全を確保できず中途半端な病院ならない方がいい」と話す。

 「若い世代の定住のためにも産婦人科は必要」とする西之表市などは6月、鹿児島県に医師確保や施設整備を求める要望書を提出。県はホームページや地元医師会で医師を募集する一方、近く種子島の現状を厚生労働省に訴える予定。

 厚労省は「県でどうしても確保できない場合、正式要請があれば国の緊急医師派遣制度での派遣も検討する」としている。

 9月に池田医院で第1子を出産予定の主婦小山綾(おやま・あや)さん(27)は「夫とは、あと2人は欲しいと話している。島で安心して出産できなくなるのが心配です」と話している。

▽種子島

 種子島 鹿児島市の南東約100キロにある大隅諸島の島。面積は約440平方キロで人口約3万4000人。島の南端には宇宙航空研究開発機構の種子島宇宙センターがある。鹿児島空港から航空機で約30分、鹿児島港から高速船で約1時間半。西之表市と中種子町、南種子町の島内一市二町に総合病院は2施設あるが、いずれも産婦人科はない。

中途半端ならない方がいい 閉鎖決めた池田医師

 鹿児島県・種子島の唯一の産婦人科、池田医院の池田速水(いけだ・はやみ)医師(39)に閉鎖の理由を聞いた。

 --父の代から約40年続く医院をなぜやめるのか。

 「島には新生児用の救急医療施設がない上に、緊急時の搬送システムも整っていない。唯一の産婦人科が救急指定でもない開業医という現状は危険すぎる」

 --どうすれば島でお産を続けられるか。

 「ヘリ搬送の体制改善などとともに、新生児集中治療室(NICU)のような高度な施設と開業医との中間的な施設がまずは必要。将来は島の救急指定病院に産婦人科を新設するのが理想」

 --お産ができない島になることについては。

 「担当している妊婦さんには謝るしかないが、中途半端な病院ならない方がいい。無責任だという批判も受けているが、この状況を放置してきた行政にも一因がある。周産期医療の充実は自治体や医師会が共同で取り組むべき課題だ」

 --自治体に望むことは。

 「県に対しては、ヘリコプター搬送をはじめとした緊急時の仕組みづくり。産婦人科医確保で島内の市町が医師会などと協議会を開催しているが、議論の経過を住民にもオープンにしてほしい」

 --国に対しては。

 「少子化対策と言うが、出産が増えればそれだけ異常妊娠などの数も増える。そのリスクをどれだけ想定しているのか。緊急時に確実に専門医が診る仕組みが必要」

 --離島で医師を続ける苦労は。

 「人対人、という医療の原点に戻り、たくさんのことを学んだ。最新の技術は島外で得るしかないが、学会に参加するために鹿児島大から代診の医師に来てもらったりしなくてはならなかった」

深刻さ増す離島の医師不足 派遣制度も「一時しのぎ」 「表層深層」種子島唯一の産科、閉鎖へ

 唯一の産婦人科が今年いっぱいで姿を消す見通しになった鹿児島県の種子島。島内での出産ができなくなり、妊産婦は高速船でも1時間半かかる本土への通院、入院を強いられる。県は来週、厚生労働省に財政支援措置を要望し、同省は始まったばかりの「緊急医師派遣制度」の適用も検討する構えだが、派遣医師の確保などは容易ではない。離島の深刻な医師不足がまた表面化した。

 ▽「池田があるから」

 種子島の西之表市にある池田医院はベッド17床を備え、年間約250人という島内での出産のほとんどすべてを扱ってきた。池田速水院長(39)は3年前に島へ戻り、診療に当たるうち「お産の安全性を保てない」と思った。その後、先代の父親(78)が病気になり、島の産科医は事実上1人になった。

 「『種子島には産婦人科は池田があるからいいや』ですまされるのか?」。5月28日に開かれた自治体や地元医師会との会合に合わせ、池田院長は出席者に文書を配布した。

 赤ちゃん専用の救急搬送システムなどの必要性を説き、「島の周産期医療体制を支えるのは個人単位の仕事ではなく、県を巻き込んでの自治体、医師会などの団体単位で取り組むべき問題だ」と、島のお産を開業医に任せきりにしてきた行政への思いをにじませた。

 池田院長はもう1つの背景事情を挙げた。「どんなに努力しても結果が悪ければ、訴訟の対象になる時代だ」。福島県立大野病院で2004年、帝王切開手術を受けた29歳の患者が死亡し、執刀した産婦人科医が業務上過失致死と医師法違反の罪で起訴されたことなどが念頭にある。

 ▽1人体制

 昨年4月、総合病院への常勤産婦人科医の派遣が打ち切られ、お産の危機に陥った島根県・隠岐島。今年4月に赴任した加藤一朗医師(34)が、出産経験があって経過に問題のない妊婦に限って出産を扱っている。4月以降、13人が病院で出産したのに対し、24人を本土に送り出した。

 「お産はいつ何が起こるか分からない。突然、危険な状況になることもある。1人体制には限界がある。池田医院の閉院は理解できる」と加藤医師。「何よりも患者が困る。自治体は今後どうするか真剣に考える必要がある」と言う。

 離島やへき地で深刻化する医師不足に押され、政府・与党は5月31日、緊急医師確保対策を打ち出し「『地域の医療が改善されたと実感できる』実効性がある対策」とうたった。

 ▽焼け石に水

 これを受け、6月には緊急医師派遣制度の第1号として北海道、岩手、栃木、和歌山、大分の5道県にある6病院に、全国の国立病院などから募った医師7人を送ることを決めた。だが派遣期間は3~6カ月と短く、2~3週間ごとに別の医師が交代するため"一時しのぎ"の色彩が濃い。

 「困っている病院は何十倍もある。とてもじゃないが、焼け石に水」。7人の派遣に対する加藤医師の実感だ。

 同様の取り組みは昨年9月、国立病院機構が独自に実施。東北地方の3病院に医師を交代で派遣したが、派遣される医師の同意が得られなかったり、派遣元の病院が人手不足に陥ったりし、半年間で頓挫した。

 「苦しい病院が、もっと苦しい病院に救いの手を差し伸べているのが実情。恒久的な医師不足解消にはつながらない。大学の医学部定員増など新たな医師の養成には時間がかかる」。厚労省の担当者は、医師不足解消の難しさを認めた。

(共同通信、2007年7月9日)


周産期医療システムの整備

2007年07月07日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

『県南部の産科医療は大淀病院が担っていました。年間で250~300件の出産がありました。なのに数十年にわたり、産婦人科医が1人しかいませんでした。外来、手術、当直を毎日繰り返す。病院で寝泊まりして、土日も休めない。県南部のお産を個人の奉仕精神に頼っていたことが問題でした。』

分娩経過中には一定の確率で誰にでもさまざまな異常が発生する可能性があります。それらの異常がいつ誰に起こるのか?を発症前に予測することは非常に困難です。母児の救命のためには、異常が発症してから30分以内の迅速かつ適切な医学的対応が不可欠です。

分娩中の異常が発症してから、あわてて対応可能な医療機関を探し始めて、受け入れ先医療機関がなかなか見つからなくて苦労するような分娩環境下では、異常が発生した時点で母児の救命をあきらめざるを得ないような事態もいつかは必ず起こることでしょう。

従って、周産期医療システムが未整備の地域では、分娩を取り扱う業務に従事すること自体が、(医療従事者側にとっても)極めて危険なことになってしまいます。

****** 毎日新聞、2007年7月4日

Speaking:そこが聞きたい 

「大淀病院問題」契機に産科医療整備へ

奈良県医療審産婦人科部会長・小林浩さん

 大淀町立大淀病院で昨年8月、五條市の○○○○さん(当時32歳)が分娩(ぶんべん)中に意識不明となり、転送先探しが難航し搬送先で死亡した問題で、産科医療の問題点がクローズアップされた。県は総合周産期母子医療センターの整備を予算化し、体制改善に向けた取り組みが進んでいる。センター建設拠点の県立医大産婦人科で医師、看護師確保にもあたっている小林浩教授(52)に現システムの問題点やセンター開設の課題を聞いた。【高瀬浩平】

 不安解消へ医師増員に全力

 ――大淀病院問題で、県内の産科医療体制の未整備を指摘する声が多方面からありました。

 ◆この問題が明らかになった時点で、奈良が総合周産期母子医療センターが整備されていない8県の一つだったことは確かです。しかし必ずしも医療水準が低いわけではありません。北部に人口が集中し、南部は山間地。人口の分布が不均衡で、センターを作るには地理的制約があるのです。県北部は医師も多く問題ありません。

 ――大淀病院の産科休診で、県南部でお産ができる病院がなくなりました。妊婦の方々には不安の声があります。

 ◆県南部の産科医療は大淀病院が担っていました。年間で250~300件の出産がありました。なのに数十年にわたり、産婦人科医が1人しかいませんでした。外来、手術、当直を毎日繰り返す。病院で寝泊まりして、土日も休めない。県南部のお産を個人の奉仕精神に頼っていたことが問題でした。
 医師を増やし、大淀病院か県立五條病院で産科を再開させたい。県立医大や和歌山県内の病院から医師を派遣、サポートすることが必要です。
 病院でなく、助産師にお産を頼む人もいます。異常が起きた時には専門性の高い病院への搬送を事前に説明しておけば、妊婦は安心できます。安心のためには高度な医療が必要。だから集約化は避けて通れません。

 ――総合周産期母子医療センターは当初予定より遅れて来年5月に開設されます。なお残る課題は何ですか。

 ◆医師と看護師の確保です。新たに医師6人、看護師約30人が必要です。医師は私の責任で集めます。県内の関連病院から呼ぶと病院側が困ってしまうので、全国各地に足を運んでいます。医師不足の中、獲得競争は激しい。関西出身の中堅クラスの医師に直接会い、「臨床だけでなく研究もできる」「新薬や新治療法にも取り組む」と説得しています。待遇だけでなく、やりがいを感じてもらえるよう環境整備に努めます。
 看護師については、県立医大看護学科の学生にぜひ残ってもらいたい。大阪の病院に通う看護師が多いのが現状です。待遇を良くすれば、県内に戻ってくれるでしょう。

 ――今後の産科医療体制はどう運用していくべきでしょうか。

 ◆病院間の連携や役割分担を徹底させることです。県立医大はハイリスクの患者を受け入れる医療機関ですが、正常な分娩の件数が年々増えているのが現状。2年前に比べて倍増し、年間700件以上にも達する勢いです。県内にお産ができる病院が減り、大学病院がやらざるを得ないからです。それでは大学病院として本来の役割が果たせません。正常な分娩は地域の診療所や病院で対応すべきです。
 大学病院として、地域の病院の医師を対象にした勉強会を毎月開いて支援しています。多くの医師が同じ考え方で治療すれば連携しやすいからです。

 ――問題の根本には医師の産婦人科離れがあると思います。食い止められますか。

 ◆産婦人科離れの最大の原因は、04年からスタートした新しい臨床研修制度です。内科や外科などいろいろな診療科を2年間経験することが義務付けられ、週に100時間も働く産婦人科の大変さが分かり、敬遠されているのだと思います。(産婦人科医が業務上過失致死容疑で逮捕された)福島県立大野病院の事件のように捜査の手が入るようになったことも大きいです。
 今後も産婦人科医離れは続くと思います。しかし、日本の産科医療の水準は世界一だということをもっと理解してほしい。多くの母子の命を助けているんです。3、4年後にはもっとシステムが良くなります。若い医師には将来の夢やビジョンを示していきたいですね。

 ◇総合周産期母子医療センター
 周産期は、母子ともに異常が起こりやすい妊娠22週から生後7日までの期間のこと。合併症妊娠、重症妊娠中毒症、切迫早産などハイリスクの妊婦を24時間体制で受け入れる。県の計画では来年5月、新生児集中治療室(NICU)10床を増やし、暫定的な運用を開始する。11年度以降に県立医大病院に新病棟を建設し、NICU51床、母体・胎児の集中治療管理室(MFICU)18床を設ける予定。

 ■人物略歴
 
小林浩さん 1955年生まれ。87年、浜松医大で博士号取得。89年、ドイツ・ミュンヘン工科大留学。03年10月、浜松医大助教授に就任し、05年6月から奈良県立医大教授。06年11月、県医療審議会産婦人科医療部会長として、県内の産婦人科医療体制のあり方を検討する中心的役割を担う。婦人科悪性腫瘍の治療と基礎研究を手掛ける。

(毎日新聞、2007年7月4日)

****** 読売新聞、2007年6月29日

妊婦の脳血管障害調査 全国2000施設で…国立循環器病センター 発症リスク解明へ

 出産時などに妊婦が起こす脳血管障害の実態を解明するため、国立循環器病センター(大阪府吹田市)は7月から、発症状況やその後の母子の容体に関する全国調査に乗り出す。奈良県大淀町の町立大淀病院で、出産中の妊婦(当時32歳)が脳出血で搬送先の同センターで死亡するなど、各地で脳血管障害の死亡例が報告されているが、発生頻度や死亡率などは分かっていなかった。発症につながるリスクを明らかにし、処置に関するガイドラインを作成する。

 対象は全国の周産期施設や救命救急センターなど約2000施設。昨年1年間に妊娠に関連して脳血管障害を引き起こした患者のカルテを基に、発症状況や画像診断までの時間、開頭手術など外科的治療の有無、母子のその後の状態などを聞く。出産時の年齢や血圧のほか、喫煙や片頭痛、糖尿病の有無なども調べ、脳血管障害を起こしやすい危険因子を探る。

 今年度中に結果をまとめる方針で、調査を担当する同センターの池田智明・周産期治療部長は「同様のケースは意外と頻発しているのではと思っている。実態を詳しく調べ、死亡を減らしたい」としている。

(読売新聞、2007年6月29日)


医師不足対策

2007年07月05日 | 地域医療

経済協力開発機構(OECD)がまとめた加盟国の人口10万人当たりの医師数のデータを見ると、全体平均は290名ですが日本は200名で、日本の医師数は加盟国の中では最低クラスです。従って、日本の医師数そのものが足りてないのは明らかで、長期的な医師不足対策としては、日本の医師数そのものを増やす(医師養成数を増やす)必要があります。

しかし、医学部の入学定員を増員しても、その効果が現れるまでには10年近くを要しますから、医師不足の即効薬とはなり得ません。

医師不足に対する当面の対策としては、現状の少ない医師を何とかうまくやりくりし、地域医療を維持していくようにいろいろ工夫していく必要があります。例えば、医師の拠点病院への集約化、地域における病診連携システムの構築、勤務医の労働環境や待遇の改善、ワークシェアリング、院内保育所の整備など、さまざまな対策を同時並行的に推進していく必要があります。

個々の病院でも、あの手この手で新人医師を増やすよう努力する必要があります。即戦力となる経験豊富な中堅医師に来てもらえたら大いに助かるのは間違いありませんが、そういう医師はどこでも引っ張りだこでしょうから、リクルートはなかなか難しいと思われます。即戦力にはならなくても、初期研修医、後期研修医に多数応募してもらって自前でも専門医を養成していけるように、病院の研修態勢を整備する努力も大切です。

ただ、この新人獲得競争では、自分の所属する診療科だけが独り勝ちすればいいというものではありません。例えば、ある病院の産婦人科医が倍増したとしても、新生児科医、麻酔科医などがいなくなれば、その病院では周産期医療を維持することは絶対に不可能です。また、外科医、泌尿器科医、病理医、放射線科医(読影、治療)などがいなくなれば、婦人科腫瘍をちゃんと扱うこともできなくなってしまいます。要するに、各診療科にバランスよく新人が参入してくれないと困ります。従って、研修態勢整備や新人勧誘には、病院の総力を挙げて真剣に取り組んでいく必要があります。

また、今、地域の医療を支えている基幹病院の勤務医達が職場を辞めないでも済む勤務環境を作ることが非常に大切です。例えば基幹病院の産婦人科の場合だと、少なくとも7~8人は産婦人科医が常勤している必要があります。それでも、週に1回は当直業務をこなす必要があり、他の診療科に比べると激務です。

その上で、医学生、初期研修医、後期研修医たちをしっかりと教育し、彼らを地域の中でベテラン医師にまで育て上げていく後進育成システムを各地域の中でしっかりと確立していく必要があります。

誰も地域医療の崩壊を望んでいるわけではありませんが、基幹病院が診療を年々縮小し、勤務医の平均年齢が年々上がって、頭数もだんだん減っているような地域では、数年以内にその地域の医療が完全に崩壊する可能性もあります。

国も県も大学も、今後我々が進むべき道の指針はいろいろと示してくれますが、決して直接救済してくれるわけではありません。それぞれの地域で、何とかして自力で道を切り開いていく必要があります。


「バースセンター」構想 上田の母親ら「集い」発足 (信濃毎日新聞)

2007年07月04日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

上小医療圏(上田市周辺)の産科医療の実態が今どうなっているのか?については、報道記事で公表されている以上のことは全く分かりませんが、今のところ、この地域で正常分娩の受け入れ施設が不足して困っているという情報はあまり伝わってきません。

現在、この地域で一番問題となっているのは、分娩が異常化した場合の救急搬送の受け入れ施設が医療圏内でなかなか見つかりにくいことだと聞いています。

正常分娩か?異常分娩か?は、分娩が終了して初めて言えることです。例えば、常位胎盤早期剥離、弛緩出血、子癇、脳出血などは、正常分娩だと思っていても、一定の確率で誰にでも起こり得るわけで、これらの異常がいつ誰に起こるのか?を発症前に予測することは非常に困難です。母児の救命のためには、発症してからの迅速かつ適切な医学的対応が不可欠です。

どの医療圏の産科医療の状況も非常に厳しくなってきています。産科2次医療体制を充実させることは、どの医療圏においても、地域で一丸となって取り組んでいくべき最重要課題の一つだと思われます。

参考:長野県・東信地域の産科医療の状況

****** 信濃毎日新聞、2007年7月4日

安心してお産できる仕組みを 上田の有志「集い」発足

 お産を担う医師の不足を受けて、上田市の母親ら市民有志が3日までに、「安心してお産と子育てができる地域をつくる住民の集い」(志摩修吾会長)を発足させた。医療機関と連携しながら、助産師がお産を担う「バースセンター」を地域ごとに設けるよう市などに提言する考えだ。地域でお産を支える新たな仕組みを整える狙いで、県内では珍しい取り組みとなる。6日には諏訪中央病院(茅野市)の鎌田実・名誉院長を招いてお産について考える講演会を開く。

 医師不足の対策として、国は医師を拠点病院に集約する方針を示している。これに対して、「住民の集い」事務局の片桐直希さん(62)は「集約化では病院が遠くなる上、お産が集中して十分なケアができなくなる」とし、「身近な地域で安心してお産ができるよう考えていかなくてはならない」としている。

 現在の構想では、バースセンターには助産師が常駐し、逆子などの心配がない「正常出産」を担当する。日ごろから地域の医療機関(産科・産婦人科)と連携しながら、「異常出産」となりそうな場合は妊婦を医療機関に移す。また、医療機関を訪れた妊婦には自宅近くのセンターを紹介し、どちらで出産するか選んでもらうなど補い合う仕組みだ。講演会や勉強会を通じて、設置場所や助産師の人数などを探っていく。

 県内では、分娩(ぶんべん)を行っている医療機関が2001年の68から05年には53に減少。上田市では信大が派遣医師を引きあげる方針を示したことで、市産院の廃止問題が浮上。住民の署名運動で存続が決まった経過がある。

 講演会では、鎌田名誉院長が「いのちの誕生もいのちの終わる時も選べる地域になりたい」をテーマに講演。市産院の広瀬健副院長と猪俣理恵助産師が意見を述べる。質疑応答の時間も設ける。

 午後6時から上田市の上田中央公民館。会費500円、定員150人。参加申し込みは片桐さん(電話090・3200・1164)へ。

(信濃毎日新聞、2007年7月4日)