ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

周産期医療の立て直しのためには病院の集約化が必要

2008年03月29日 | 地域周産期医療

周産期医療の立て直しのためには、基本的には、周産期や救急に対応できる病院を集約化するという基本方針で医療提供体制を変えていくしかないと思います。現在はその変革の途上にあります。病院数が減少する過程では強い抵抗があるのは当然ですが、地域住民や行政に病院集約化の重要性を理解してもらうことが重要です。

****** ネット上の談話内容より抜粋

吉村泰典 談

(日本産科婦人科学会理事長)

(前略)

 今はまだ50代、60代の産婦人科開業医がお産を扱っています。しかし10年後は彼らが引退し、誰もお産が扱えなくなってしまうんです。私が教授になってから医局員のうち二十数人が開業しましたが、お産を扱っている人はいない。私たちは、これから先、誰がお産を扱うかという問題に直面しているのです。

 では、周産期医療を立て直すには、具体的にどうすればよいのか。私は、お産や救急に対応できる病院を集約化することが、何より大切だと思っています。

 日本には10万人につき220人程度の医者がいるとされています。米国では230人ぐらいです。医師不足が叫ばれていますが、そんなに騒ぐほど医者が少ないわけではありません。ところが、10万人当たりのベット数で比べてみると、日本は米国の5倍ぐらいある。病院も10倍ぐらいあるかもしれません。医師が足りないというよりは、病院の数が多いのです。

 だから、ただ医師の数を増やすよりも、現在のパイでどのようにシステム作りをしていくかという視点が必要です。でなければ、医師を増やしても、10年後には再び医師が余ってしまうといった事態にもなりかねません。だからこそ、お産や救急に対応できる病院を集約化すべきだと思うのです。病院を集約化し、その病院に患者さんに足を運んでもらうという考え方です。

 例えばの話ですが、あなたが下北半島の大間に住んでいるとしたら、病院を集約化すると、大間でお産をすることは困難になります。その場合は、妊婦が青森市に出てきて、1 カ月なりの滞在日数分の滞在費を行政などから補助として受け取って、そこで生むわけです。お産時の給付金を手厚くして、子供を生む人がお金をかけずに産める仕組みを作れば、病院の集約化にも対応可能なはずです。これからは、お産のあり方を見直し、女性に子供を産んでもらえるようにシステム作りをしないといけないのです。

 もちろん病院の集約化は、どこかの病院をなくすことにつながります。それには強い抵抗があるでしょうから、「国」として方針を決めて進めないと実現しません。よく言われることですが、周産期医療の受益者は明日の社会です。妊娠してもお産ができないという状態では、明日の社会はありません。学会としては、行政や国に重要性を分かってもらうために様々な働きかけをしなければならないと思っています。

(引用終わり)

****** 読売新聞、2008年3月28日

妊婦受け入れ改善、厚労省が産科病床数の上限撤廃

 産科医不足で、全国の産科医療機関が相次いで閉鎖されるなか、厚生労働省は、現在診療を受け入れている産科医療機関の能力を最大限に活用するため、地域ごとに設定されている病床の上限数から、産科病床を例外的にはずすことを決め、27日、各都道府県に通知した。

 医療機関の病床数については、医療法により各都道府県が地域ごとに必要な基準病床数を設定。この基準より実際の病床数が多いベッド過剰地域では、新たな増床は原則として認められない。基準病床数は診療科に関係なく全体の総数で決められているため、受け入れに余力がある産科の医療機関が増床を申し出ても、ほかの診療科の病床が多い場合、この規制により、認められなかった。

 同省では、医療法の施行規則の一部を改正し、出産を扱う医療機関の病床は、基準病床数を超えていても新たな増床を認めることにした。各医療機関の要望を受け、都道府県の医療審議会で必要と認められた場合、都道府県と国が協議した上で許可する。

 これを受け、愛育病院(東京都港区)では産科病床を増やす方針を表明している。

 中部地方の産科医院では周囲の病院が医師不足などで産科を閉鎖したため、妊産婦が殺到。増床を申し出たが、県はこの地域がすでに基準病床数を超えていることから認めなかった。今回の決定を受け、同医院では「今までベッド数が足りなくて、受診制限をせざるを得なかった。増床が認められれば、もっと多くの妊婦が受け入れられる」と話している。

(読売新聞、2008年3月28日)


産科崩壊に対する緊急支援策

2008年03月28日 | 地域周産期医療

私が母校の産婦人科に入局した二十数年前は、県内に1人医長体制の病院がまだ多く存在してました。当時の大学医局の目標は1人医長体制の関連病院の常勤医数を2人以上の体制にすることでした。3人以上常勤医がいる病院は別格の存在でした。ましてや、常勤医4人体制とか5人体制など夢のまた夢の世界でした。

従って、当時の社会情勢であれば、医師が足りなくなって困っている病院に、教授のツルの一声で産婦人科医を1人派遣すれば、産科診療体制を何とか維持することが可能でした。

しかし、今では社会情勢が大きく変化し、病院の産科診療を継続していくためには、常勤の産婦人科医が少なくとも4~5人は必要な時代になってきました。実際問題としては、5人体制であっても十分とは言えません。小児科医や麻酔科医のサポートも絶対に必要です。

ですから、現在の産科医不足の問題を解決するためには、どこかから1人の産婦人科医を調達してくるような一時しのぎの対応だけでは全く不十分です。産婦人科医の総数がすぐには増えそうにない現状では、当面の緊急避難的な対策として、『全県的な視野で病院を集約化(重点化)し、医師を適正に再配置する』以外には問題は解決しないと思われます。しかも、手遅れになる前に早急に実行に移す必要があります。それには、地域住民の理解と協力が不可欠です。


お産休止・制限 全国で77カ所、厚労省が緊急調査

2008年03月25日 | 地域周産期医療

産科部門が閉鎖の危機に直面し、医師の緊急派遣を必要としている病院は非常に多いです。医師派遣元の大学病院でも、医師を派遣する余裕がだんだんなくなってきています。将来の担い手である新人の勧誘活動はもちろん非常に大切ですが、新たに産婦人科医を養成するのには相当に長い時間を要します。まずは、今、現場で働いている産婦人科医達がこれ以上離職しないで済むような対策を、迅速かつ強力に実行に移す必要があると思われます。

****** 共同通信、2008年3月25日

77カ所でお産中止や制限 1月以降、24都府県で 7カ所に緊急派遣を検討 医師不足が主因、厚労省

 全国の産科医療機関のうち24都府県の77カ所で今年1月以降、お産を休止したり、お産取り扱い件数を制限したりすることを決めたことが25日、厚生労働省の緊急調査で分かった。

 開業医の高齢化や、勤務医の異動、退職に伴う人手不足が主な原因。同省はこのうち福島、群馬、長野、静岡、沖縄の5県7カ所について「それぞれの地域でのお産継続は困難」と判断、近隣の大学病院からの医師派遣などの対策を決めた。

 身近な「お産の場」が深刻な危機に直面している実態が浮き彫りになった。日本産科婦人科学会も独自調査で医療機関110カ所で緊急医師派遣が必要としており、舛添要一厚労相は同日の閣議後会見で「抜本的、構造的改革に向け着実に歩を進めたい」と述べた。

 調査は1月24日、厚労省が各都道府県に対し、1月以降にお産休止や制限を実施、計画している医療機関の報告を指示。3月24日までの報告を集計、25日に開かれた厚労、文部科学、総務の3省による「地域医療に関する関係省庁連絡会議」に報告した。

 それによると、お産を「休止」または「休止予定」としたのは病院と診療所を合わせ22都府県計45カ所に上った。都道府県別では静岡(6カ所)が最も多く、岐阜(5カ所)、栃木と愛知(4カ所)が続いた。

 里帰り出産を断るなど、「制限」または「制限予定」としたのは10県32カ所。最多は神奈川の12カ所で秋田7カ所、愛知4カ所が続いた。

 休止と制限の両方について報告があったのは、秋田、埼玉、長野、静岡、愛知、島根、広島、佐賀の8県。

 厚労省は77カ所のうち70カ所について「大規模病院などへ集約化した結果でお産の場は確保される」(8カ所)、「近隣の医療機関で対応することで、地域でお産を継続できる」(62カ所)など対応が取られているとして、深刻な影響はないとみている。

 残りの7カ所は、医師派遣などの対策を取ることを決定。内訳は▽県立南会津病院(福島)▽富士重工業健康保険組合総合太田病院(群馬)▽伊那中央行政組合伊那中央病院(長野)▽飯田市立病院(同)▽国立病院機構長野病院(同)▽藤枝市立総合病院(静岡)▽公立久米島病院(沖縄)

(以下略)

(共同通信、2008年3月25日)


大野病院事件 論告求刑公判

2008年03月22日 | 大野病院事件

コメント(私見):

今回の論告求刑の検察側の見解では、周産期医学や胎盤病理学の我が国における最高権威の鑑定や証言の数々、日本医学会日本医師会を含む多くの関連団体・学会から提出された声明・抗議文などをすべて、『それらの団体に所属する医師の証言には、一定方向の力が働いている。結果ありきで任意性に劣る』と一蹴しておいて、癒着胎盤の経験に乏しい専門外の医師の鑑定だけを唯一の判断の根拠としています。

おそらく、今までの裁判の過程で、検察も自分達の間違いに気が付いているはずです。そうだとすれば、間違いを公式に認めて謝罪し、この裁判を即刻中止すべきです。こんなことをやっていたんでは、日本の医療がどんどん崩壊していくのも当然の成り行きです。この国の医療裁判のあり方自体を根本から見直す必要があると思われます。

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癒着胎盤で母体死亡となった事例

第1回公判 1/26 冒頭陳述
第2回公判 2/23 近隣の産婦人科医 前立ちの外科医
第3回公判 3/16 手術室にいた助産師 麻酔科医
第4回公判 4/27 手術室にいた看護師 病院長
第5回公判 5/25 病理鑑定医
第6回公判 7/20 田中憲一新潟大教授(産婦人科)
第7回公判 8/31 加藤医師に対する本人尋問
第8回公判 9/28 中山雅弘先生(胎盤病理の専門家)
第9回公判 10/26 岡村州博東北大教授(産婦人科)
第10回公判 11/30 池ノ上克宮崎大教授(産婦人科)
第11回公判 12/21 加藤医師に対する本人尋問
第12回公判 1/25 遺族の意見陳述

論告求刑公判 3/21

【今後の予定】 
5/16  弁護側の最終弁論

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周産期医療の崩壊をくい止める会のホームページ
 第十三回公判について(08/3/21)

ロハス・メディカル ブログ
 福島県立大野病院事件論告求刑公判(1)

産科医療のこれから:第13回大野事件公判!

大野病院事件について(自ブロク内リンク集)

****** 共同通信、2008年3月24日

産科医に禁固1年求刑 福島県立病院の患者死亡

 福島県大熊町の県立大野病院で2004年、帝王切開手術を受けた女性=当時(29)=が死亡した事故で、業務上過失致死などの罪に問われた産婦人科医加藤克彦被告(40)の論告求刑公判が21日、福島地裁(鈴木信行裁判長)であり、検察側は「安易な判断で医師への社会的信頼を害した」として禁固1年、罰金10万円を求刑した。

 弁護側は無罪を主張しており、5月16日に最終弁論をして結審する。

 検察側は論告で、大量出血は十分に予見できたと結論付け「胎盤を子宮からはがす『はく離』が困難になったと認識した時点で、子宮摘出に移行すべきだった」と指摘。「『はく離に器具を用いたことはよくなかったかも』と捜査段階で述べるなど異状死を未必的に認識しながら、警察に届けなかった」と主張した。

 その上で「基本的な注意義務に反し過失は重大。公判で器具の使用をめぐって供述を変えるなど責任回避のため、なりふりかまわぬ態度に終始している」と批判した。

 論告によると、加藤被告は04年12月17日、手術の際、無理に胎盤をはがせば大量出血する恐れがあったのに、子宮摘出など危険回避の措置を怠り、はく離を続けて大量出血で女性を死亡させた。異状死だったのに24時間以内に警察に届けなかったとして医師法違反にも問われた。

▽県立大野病院事件

 県立大野病院事件 福島県立大野病院で2004年、女性が帝王切開手術中に大量出血し死亡。県警は06年、「癒着胎盤」を無理にはがしたとして、業務上過失致死容疑などで執刀した産婦人科医の加藤克彦被告を逮捕。各地の医師会から「難しい症例で不当」と抗議が相次いだ。深夜・長時間労働で訴訟リスクも高いため、診療から撤退する産科医不足に事件が拍車を掛けたとされる。医療事故の原因を究明する「医療事故調」創設検討のきっかけにもなった。

(共同通信、2008年3月24日)

****** m3.com医療維新、2008年3月24日

福島県立大野病院事件◆Vol.9

検察の求刑は禁固1年、罰金10万円

起訴事実通りに事実認定、「医師の過失も、結果も重大」

 福島地裁で福島県立大野病院事件の論告求刑が3月21日行われ、検察は被告の加藤克彦医師に対して、業務上過失致死罪で禁固1年、医師法第21条違反で罰金10万円をそれぞれ求刑した。検察は「産婦人科医としての基本的注意義務を怠っており、過失の程度は重大。また夫と子供を持つ女性の死亡という結果も重大である」とし、「厳正に対処する必要がある」と述べた。

 公判後の記者会見で、主任弁護人の平岩敬一氏は、「禁固1年罰金10万円の求刑は、予想よりはやや厳しいものだが、想定の範囲内。検察は自らの都合のいい事実だけを並べて組み立て、求刑している。次回5月16日の最終弁論では、その一つひとつに対して反論していく」との見解を示した。

 論告求刑を端的に形容するなら、「昨年1月の初公判における冒頭陳述をもう一回聞いたようなもの」(公判を傍聴していた人の意見)というのが一番妥当だろう。これまでの計12回の公判で、加藤医師の弁護人は、周産期医療や胎盤病理の専門家の鑑定書を提出し、証人尋問を行い、起訴事実への反論を展開した。しかし、検察は後述するように、これらの鑑定書・供述について、「中立性・正確性が保証されているとはいえず、首是しがたい」などとして、起訴事実にほぼ近い事実認定の下、求刑をした。

「論告要旨」は約160ページに及ぶ

 この日、27席の一般傍聴席を求めて並んだのは、171人。初公判時は26席に対して349人が並んだことを考えるとやや少ないものの、報道陣も多数取材に来ており、世間、そして医療界の関心の高さがうかがえた。

 公判は午後1時30分開廷、途中10分の休憩をはさんで、午後6時20分まで行われた。検察の「論告要旨」は160ページを超すものだった。これを計4人の検察官が交代に読み上げた。

 加藤医師は、業務上過失致死罪と医師法第21条違反に問われている。これらに対して、(1)どのような事実認定をしたか、(2)その事実認定に何の証拠を用いたか――という視点から論告求刑を検証する。

 検察による業務上過失致死罪の事実認定は、以下のように要約できる。これは起訴事実と変わっていない。

 1.死亡した女性は、帝王切開手術の既往があり、全前置胎盤だった。加藤医師は、手術前に、超音波検査などを行っており、癒着胎盤のリスクが高いことを予想できた。遅くても手術開始後、用手的剥離が困難になった時点で、癒着胎盤である認識したことが認められる。

 2.癒着胎盤は、子宮後壁から前壁にかかる、嵌入(かんにゅう)胎盤である。

 3.用手的剥離が困難になった時点で、そのまま剥離を続ければ大量出血の危険性があるため、子宮摘出術に切り替えるべきだったが、それを怠った。クーパーによる剥離を行い、結果的に大量出血を招いた過失がある。

 4.死因は大量出血による出血性ショックであり、心室細動に至り、死亡した。死亡結果と加藤医師の過失と因果関係があることは明らか。

「医療界が抗議している中では中立性が保障できず」

 これらの事実認定の根拠としたのは、「入院カルテ中の麻酔記録と、手術経過を記した医師記録」、さらには起訴前に実施された病理鑑定と鑑定、加藤医師をはじめとする関係者に取り調べを行った際の供述調書だ。

【警察・検察が依頼した鑑定】

 ・病理鑑定医:患者死亡直後の2004年12月末に摘出子宮の組織検査を実施、2005年6
  月に富岡警察署(県立大野病院の地元警察署)に鑑定書を提出、2007年1月に同鑑定
  に対する検察からの照会に対して回答。

 ・鑑定医:2005年10月に鑑定書を提出。

【弁護側が依頼した鑑定】

 ・病理鑑定医:2006年11月に鑑定書、2007年8月に鑑定書追加を提出。

 ・鑑定医A:2006年12月と2007年9月にそれぞれ鑑定意見書を提出。

 ・鑑定医B:2006年3月に意見書、2007年1月に鑑定意見書、同10月に鑑定意見書追加を提出。

 公判では弁護側が別途依頼した鑑定書を提出したが、検察は、(1)鑑定に使用した資料(各種診療記録類、病理組織のプレパラートなど)は不十分なものである、(2)2006年2月の逮捕、3月の起訴後に実施したものであり、立場上、被告に不利な内容を書きにくい状況にあった――などの理由から疑問視した。特に、(2)の点について、「日本産科婦人科学会などが、(加藤医師の逮捕・起訴に対して)抗議声明を出している中で、学会に反する結論を導きにくく、過失を認める供述もしにくい。中立性・正確性を期待することはできない」という見解を示した。

 さらに加藤医師をはじめ、関係者の公判前の供述調書と、公判での証言が一部異なる点があったが、「自己の責任を回避している」「被告人を有利に導きたいという考えから、事実に反する証言をした」などとして公判での証言には問題があるとし、供述調書を尊重した。

院長は産科の専門外、要否の判断は本人 

 次に医師法第21条違反について。当時の県立大野病院のマニュアルには、「医療過誤が疑われる場合に、院長が届け出る」となっていた。

 大野病院の院長は帝王切開手術後、「過誤はあったのか」と加藤医師に尋ねたが、加藤医師は「ない」と答えている。したがって、(1)院長は産科の専門外であり、届け出の要否を判断するのは加藤医師である、(2)そもそも本来、異状死の届け出は死体を検案した医師が行うものであり、加藤医師はそのことを知っていた――などと事実認定された。

 21条の関連では、弁護側が異状死に詳しい法律家の意見書提出や証人尋問を求めたが、一切認められていない。結果的に、21条については、加藤医師と院長への尋問以外の証拠はない。

「最初から結論ありき」は弁護側か検察か

 前述の通り、検察は、医療界が加藤医師の逮捕・起訴に強く抗議している現状にあって、弁護側が提出した鑑定書、手術関係者や鑑定人の公判での証人尋問は信頼性に欠けるとした。「最初から一定の結論を想定して、鑑定を行っている」(検察)。

 しかし、この日の論告求刑では、「最初から結論あり」は検察の方であると解釈できる場面があった。その象徴は以下の点である。

 検察は、「クーパーで無理に胎盤を無理に剥離したことが、大量出血を招いた」としている。前述のように検察は「麻酔記録」に依拠している。だが、血圧や脈拍の記載は正しいとしながらも、出血状況については、(1)出血→出血の吸収→出血量の計測→報告→麻酔記録への記載という過程を経る、(2)本手術の手術経過から判断しても、麻酔記録の記載と、実際の出血状況は必ずしも対応していない――などの理由から、「必ずしも実際の出血状況を記載しているわけではない」としているのである。

 その上で、「用手的剥離を約2分、続いてクーパーで14時40分から約10分間胎盤剥離を行い、クーパー剥離開始時に既に約2000mL(羊水込み)の出血があり、剥離終了後の14時55分ごろまでには約5000mL(羊水込み)に達していた」とし、「クーパーによる剥離開始を境に、1分間当たりの出血量が著しく増加した」と結論付けている。

 しかし、加藤医師が術後に書いた手術記録に「約15分。約5000mL」との記載があるなど関係すると思われる証拠はあるものの、麻酔記録には14時52分時点での出血量は「約2555mL」と記載されている。

 術前の診断から、帝王切開手術、死亡に至るまでの一連の流れで、「誰の意見、何の書類、どんな記載を証拠として採用するか」によって、「いったい何が起こったのか」という事実認定が、つまり加藤医師の過失の有無、および死亡との因果関係の有無が、当然ながら変わり得る。さて裁判所は、何を証拠とし、いかに事実認定するのだろうか――。

 次回の公判は5月16日で、弁護側の最終弁論が行われる予定になっている。判決は、今夏か秋ごろになる見通しだ。

 なお、論告求刑の最後に、検察は「情状関係」を述べ、厳しい対処を求める検察の姿勢がうかがえた。この点については、「被告は医師の社会的信頼を低下させた」で紹介する。

(m3.com医療維新、2008年3月24日)

****** m3.com医療維新、2008年3月24日

福島県立大野病院事件◆Vol.10

「被告は医師の社会的信頼を低下させた」

検察が“医療崩壊”を加速しかねない論告求刑を展開

 橋本佳子(m3.com編集長)

 福島県立大野病院事件の論告求刑が3月21日に行われたが、その最後の場面で検察は、約15分にわたり、「情状関係」を読み上げた。

 被告の加藤克彦医師の2006年2月の逮捕、3月の起訴に対しては、周知の通り、日本産科婦人科学会をはじめ、多くの医療関係団体が抗議声明を出した。しかし、検察にとっては、こうした現状は全く関係ないものだったのだろう。「情状関係」は、“医療崩壊”を加速させかねない内容だが、以下にあえて紹介する。

【3月21日検察の論告求刑「情状関係」】
 (※検察が読み上げたものを書き取った内容のため、完全に再現したものではなく、概要であることをご了承ください)

 本件は、産婦人科医の被告が、29歳の妊婦の第二子の帝王切開手術において、クーパーで無理に胎盤剥離を行い、大量出血を来して死亡させた業務上過失致死罪と、異状死の届け出をしなかった医師法21条違反の事案である。

 産婦人科医としての基本的注意義務を怠っており、過失の程度は重大。胎盤を用手的剥離する際、剥離を継続すれば大量出血し、生命の危険があることを十分に予見しながら、子宮摘出術に切り替える注意義務を怠った。安易にクーパーを用いて無理に剥離を行い、大量出血させ、被害者を死亡させた。

 帝王切開の既往がある前置胎盤の症例では、癒着胎盤の確率は24%と高い。被告人は、被害者が帝王切開既往で、全前置胎盤であり、胎盤が前回の切開創に付着していると認識していた。手術時、子宮前壁に血管の怒張があり、超音波検査で、このことを確認していた。さらに臍帯を引いても胎盤がはがれず、用手的剥離の際は、徐々に子宮と胎盤の間に指が入らなくなった。

 癒着胎盤については、無理に剥離すると、大量出血、ショックで死亡の原因となること、癒着胎盤を認めた場合には子宮摘出手術に切り替えることは、基本的な産婦人科の教科書などに書いてある知見。先輩医師からも、2万mLほどの大量出血の症例を聞いていた。

 産婦人科医としての基本的な知見からも、術前・術中の様々な状況などからも、大量出血の可能性を十分に予見できた。しかし、「手で剥離できない場合でも、剥離を継続しても大量出血しない場合もあり得るだろう」などとして、母体と児の生命の安全を委ねられた産婦人科医としては安易・短絡な判断により、クーパーで無理に剥離を行った。

 その結果、広範囲から湧き出るような出血となり、午後2時55分ごろには約5000mLもの大量出血になった。最終的な出血量は約2万445mL。午後2時55分ごろには、血圧は上が約50、下は約30まで下がり、出血性ショックになった。これは基本的注意義務に著しく違反した悪質な行為であることは明らかであり、被告の過失の程度は重大である。

 本件の結果も重大である。被害者は、夫と3歳の子供を持つ29歳の女性。第二子の誕生を心待ちにしていた。出産後、対面して、「小さい手だね」と声をかけた。しかし、その後、予期せず死亡し、最後に夫や子供に声をかけることもできなかった。今後、長い将来のあったはずの女性であり、何物にも代えがたい生命を奪った結果は重大であり、被害者の無念が察せられる。

 遺族との示談などは行われていない。被告人は公判で、自己の手技について、適切な行為であると主張している現状では、その見込みも乏しい。

 被害者の遺族は、手術開始から4時間経過して初めて、蘇生措置が行われていることを知らされた。さらに出血死した現実をいきなり突きつけされ、深い悲しみを抱き、被害者感情は厳しい。「まさか亡くなるとは思わなかった。今、蘇生しているとの言葉を聞き、衝撃を受けた」「子供たちが不憫で、母親を奪った被告人は絶対に許せない。厳重な処罰を望む」などしている。突然、被害者を失った遺族が、こうした感情を抱くのは当然。

 被告人は、自己の責任回避のため、供述を変えるなどしており、遺族に対して、真摯な反省をしているとは認められない。例えば、用手的剥離が困難になった状況、クーパーの使用目的、剥離中の出血や血圧低下の状況などについて、捜査段階の供述、手術当日の遺族への説明や手術記録などから変えており、信用できない弁解に終始している。こうした責任回避の行為は、本件の遺族だけでなく、わが国の患者全員に医師への信頼を失わせ、医療の発展を阻害する行為であり、非難に値する。

 被告は被害者を自ら検案し、その異状を認識していたが、医師法に基づく届け出も怠った。警察が本件を知ったのは、約3カ月後の2005年3月31日に、事故調査委員会の調査結果が公表され、報道されたのがきっかけである。24時間以内に届け出が行われなかったために、手術関係者の記憶は曖昧になり、胎盤もなくなるなど証拠も散逸、捜査に支障を来した。

 医療は侵襲行為を伴うもので、産婦人科手術は母体と児の生命に対する危険性を内包し、産婦人科医には高度の注意義務が課せられる。医師は社会的信頼を負うもので、患者の生命・身体の安全を全面的に委ねられる存在であり、その行為には重い責任が課せられる。しかし、被告人は安易な判断により、産婦人科医としての基本的な注意義務に違反し、医師に対する社会的な信頼を失わせた。

 さらに、術前のインフォームド・コンセントは不十分であるとされた。大量出血の状況などの報告も遅れたため、元気な姿を待ちわびていた遺族に最悪の事態を伝えることになり、遺族感情を厳しいものにした。この行動も医師の社会的信頼を低下させた。

 大量出血に至り、家族への説明の余裕がない状況になったものの、院長らが応援医師を依頼するかとの話があったが、必要がないと断った。これは不可解であり、専門家として重い社会的信頼を負う立場であるという認識を持っていたのが疑問だ。

 以上から、大野病院の産科医長として地域医療の大きな一端を担ってきたことなどを考慮しても、厳正に対処する必要がある。

(m3.com医療維新、2008年3月24日)

****** OhMyNews、2008年3月22日
http://www.ohmynews.co.jp/news/20080321/22400

産婦人科医に禁固1年、罰金10万円を求刑

大野病院事件、業務上過失致死と医師法21条違反で

                                                    軸丸靖子

 福島県立大野病院産婦人科で2004年12月、帝王切開手術を受けた女性が出血多量で死亡し、執刀した同院産婦人科医の加藤克彦医師が業務上過失致死と医師法21条違反(異状死の届け出義務)に問われた事件で21日、論告求刑があり、検察は「産婦人科医として基礎的な注意義務を怠った執刀医の責任は極めて重い」として、禁固1年、罰金10万円を求刑した。

 起訴状などによると、事件は、加藤医師が帝王切開手術で女児を取り上げた後、胎盤を娩出しようとしたがはがれず、クーパー(手術用はさみ)を使うなどして子宮と剥離させたが、出血が止まらず、死亡させたというもの。

 検察は、帝王切開の既往があった女性の癒着胎盤は予見可能だったにも関わらず、加藤医師が十分な医療体制を取らずに手術を行ったこと、癒着が分かった時点で速やかに子宮摘出に移るべきだったのに無理なクーパー使用を続けて大量出血を起こさせたこと――などを医師の過失として起訴。一方の弁護側は、「ミスはなかった」と医師の過失を全面否定し、争っている。

 論告で、検察は、加藤医師がこれまで法廷で行った証言は、警察や検察の取り調べでの任意供述とは変わっており、信用できないと重ねて主張。また、弁護側証人は同事件に抗議声明を出している医学界の意向を強く受けており、中立性や信頼性に欠けることを指摘した。

 その上で、求刑の理由として、

 「(用手剥離の)手指が入らないほど強い癒着胎盤だったのに、クーパーを使って無理な胎盤はく離を10分以上にわたって続け、次々とわき出るような出血を起こさせたのは、医師として基礎的な注意義務違反である」

 「癒着胎盤の無理な剥離には大量出血のリスクがあるので、直ちに子宮摘出すべきというのは産婦人科医として基本的な知識。大量出血を予見する事情は多数存在したのに、回避しなかったのは、被告は医師として安易な判断をしたといえる」

と、加藤医師の判断ミスを断定した。

 さらに、これまでの公判では触れなかったが、加藤医師が廊下で待っていた女性の家族に説明をしていなかったことについても触れ、

 「出産の喜びを期待して廊下で待っていた家族を、手術開始から4時間、何の説明もなく待たせ、いきなり『すみません、亡くなりました』と最悪の現実を突き付けた。それが遺族の厳しい感情を呼び起した」

と、医師の説明不足が患者家族の不安と怒りをあおったと糾弾。

 「被告は、公判が始まって以降、自分の責任を回避するために、クーパー使用にいたった供述を変遷させた。なりふり構わず、事実をねじ曲げようとする被告人の言動からは、遺族に対する真摯な態度はうかがわれず、厳しく追及されるべきである」

と結論付けた。
 
 また、書面審理のみだった医師法21条違反に関しては、

 (1)癒着胎盤自体で妊婦が死亡するわけではなく、被告の過失による失血死なのだから「異状死」にあてはまるのは明らか

 (2)被告は自分の無理な胎盤はく離によって大量出血が起きたことを認識していた。死亡後の検案も自ら行っており、失血が死亡原因であることを認識していた

 (3)被告は手術直後、「クーパーを使ったのが良くなかったのでは」と考えていたが、病院長に過失の有無を問われたときは「ミスはなかった」と答えた。病院長は産婦人科は専門外なため、被告の回答を信用して異状死の届け出はしなくていいと判断した

 (4)医師法21条は憲法38条(自己に不利益な供述は強要されない)に違反するとの意見があるが、過去の最高裁判決に照らして違憲ではない

――などの理由を挙げ、業務上過失致死とともに医師法21条違反も成立すると主張した。

「法廷での被告の証言は信用できない」

 論告で、検察が再三強調したのは、加藤医師がこれまでに法廷で行った証言の任意性の欠如と、警察・検察が取った同被告の供述調書の信頼性だ。

 加藤医師は、法廷でこれまで、警察・検察の取り調べのあいだは「長時間の取り調べで頭がぼーっとしたこともある」「訂正すると取調官が不機嫌になった」「違うところも訂正してもらえなかった」と、供述調書はすべてが事実ではないと主張していた。

 これに対し検察は、「被告は供述調書の読み上げを受け、サインもしている」「取り調べ中に長時間で疲れたなどの不満はなかった」「被告は弁護人との接見も行っており、弁護人から供述に関するアドバイスも受けていた」として、供述調書には任意性が認められると反論。

 特に、公判開始以降、加藤医師が「そうは言っていない」と否定した胎盤剥離の際の描写、『胎盤をはがそうと指3本を入れたが、徐々に入らなくなり指2本に、やがて2本も入らなくなり、指1本も入らなくなった』という表現について(第7回公判参照)、

 「被告は、供述と公判では発言を変遷させている。自己の責任回避のための事実のねじまげで、信頼できない」

と、繰り返し言及し、法廷での証言よりも、取り調べでの供述の方が信頼性が高いとした。


「抗議声明出した団体の会員の証言は任意性に劣る」

 もう1つ、検察が攻めたのは、弁護側が立てた証人の中立性だ。

 弁護側はこれまでの公判で、周産期医療や胎盤病理の専門家にカルテや麻酔記録、胎盤の顕微標本などの鑑定を依頼し、「加藤医師の医療行為は妥当だった」とする証言を得てきた。

 これに対し、検察側は、「この事件に関しては日本産婦人科学会など多数の学会が抗議声明を出している。それらの団体に所属する医師の証言には、一定方向の力が働いている。結果ありきで任意性に劣る」と主張。

 ・大阪府立母子保健総合医療センター検査科の中山雅弘主任部長が行った鑑定について
 「証人は、わずか4時間弱で、子宮片や顕微標本の観察、標本の写真撮影という多くの作業を行っている。撮影した写真をプリントアウトしたものを元にした鑑定では、写真の資料価値は限定的。試料の吟味に十分な時間が持てないまま、結果を優先させた鑑定に過ぎない」

 ・東北大学の岡村州博教授(周産期医学)が行った鑑定について
 「実際の事実関係に即した鑑定結果とはいえない。証言内容はことさらに被告に肩入れする内容で、被告人の過失を否定する立場から書かれている」

 ・宮崎大学医学部産婦人科の池ノ上克教授が行った証言について
 「胎盤はく離をいったん始めたら完遂するという証言だったが、本件がそれに当てはまるかについては明言していない」

などと、証人1人ひとり発言内容を細かく否定した。

  ◇

 医師不足や救急医療の崩壊に拍車をかけたとして全国的な注目を集めた同事件の求刑とあって、この日は27の傍聴席を求めて171人の傍聴希望者が並んだ。検察の論告は160ページにわたり、4人の検察官が順番に5時間がかりで読み上げた。

OhMyNews、2008年3月22日


飯田市立病院 里帰り分娩受け入れの再開

2008年03月21日 | 飯田下伊那地域の産科問題

この4月から、飯田市立病院の産婦人科医の体制が、従来の5人体制から、2人ないし3人体制まで急減する見込みとなったため、昨年11月に開催された「第6回産科問題懇談会」(会長・牧野光朗南信州広域連合長)にて、4月からの飯田市立病院における里帰り分娩の受け入れ中止を決定しました。

その後、産婦人科医の体制がほぼ従来通りの体制まで復活できる見通しがたったので、6月から里帰り分娩の受け入れを再開することになりました。もともと5月までは里帰り分娩の予約が従来通り入っていたので、結局は、診療規模は従来通りのままで維持されることになります。

いずれにしても、このようなぎりぎりの産婦人科医数の体制のままでは、突然誰か一人が辞めると言い出したとたんに大騒ぎとなってしまいます。現状のような不安定な状況からは、なるべく早く脱却したいと思っています。

****** 信州日報、2008年3月19日

飯田市立病院 里帰り出産の初回予約 6、7月分ほぼ埋まる

 飯田市立病院は17日、里帰り出産の予約受け入れを部分的に開始した。午前8時半から10時半にかけて電話による問い合わせが集中したものの目立った混乱はなく、予約件数もほぼ埋まった。同院は「申し込まれた方には十分対応できる。初回としては無事に乗り越えられた」と感触を語っている。

 里帰り出産の一部制限緩和は、産科問題懇談会(牧野光朗会長)が10日に発表した直後から同院に「早く予約したいがどうすれば良いか」「8月は満杯のため受けられないと聞くが、どうにかならないか」などの問い合わせが寄せられた。

 6、7月分を対象とした17日からの予約受け入れは、飯伊出身の妊婦や家族などから問い合わせが集中したものの当初の2時間でピークをほとんど終えた。

 市立病院は出産予約件数を1ヵ月当たり70件の目安とし、里帰り出産は地元在住者の予約件数が70件を超えない場合に受け付ける。希望者は出産予定月の5ヵ月前の1~7日の間で予約を入れる(土日祝日は除く)。受付時間は午前8時半から午後5時まで。

 6、7月分は24日までを予約期間とするが、8月は既に70件を超えているため受け付けない。9月分は4月1日から7日まで、10月分は5月1日から7日まで、11月分は6月2日から9日まで、12月分は7月1日から7日までの間でそれぞれ受け付ける。

(信州日報、2008年3月19日)


産科医不足に関係する最近のニュース

2008年03月17日 | 地域周産期医療

全国的な産科医不足のため、産科医確保はなかなか困難な状況にあります。国全体の産科医数が激減している現状の医療環境において、今後も産科医療の質を確保していくためには、各医療圏内の限られた人数の産科医が協力して産科救急にきちんと対応できる医療体制を確立する必要があります。

例えば長野県の場合には、『地域中核病院における産婦人科勤務医数が、最近4年間だけで3割減ってしまった!』という非常にショッキングな調査結果が、本年1月6日の信濃毎日新聞の第1面に掲載されました。地域中核病院の産婦人科勤務医数は予想をはるかに超えるスピードで減少し、多くの地域中核病院が相次いで産科部門の休廃止に追い込まれています。現時点で何とか稼動している産婦人科であっても、今後、勤務医の離職を補充することができなければ、その時点で産科部門を休廃止せざるを得なくなります。

『地域の産科医療を、今後どのような形で担ってゆくのか?』について、それぞれの地域でよく話し合い、行政(国、県、市)、医師派遣元の大学、地元医療関係者、地域住民などが一致協力し、地域の産科医療を支えあい守っていく必要があると思います。

****** 静岡新聞、2008年3月17日

「病院銀座」浜松も“お産難民”の危機

 「病院銀座」と呼ばれ、全国的にも医療資源に恵まれた地域とされてきた浜松市内で、産科医不足などの影響から“お産難民”が出かねない状況になっている。市内8カ所の総合病院のうち3カ所で分娩(ぶんべん)を扱えず、開業医の高齢化や後継者不足から分娩を取りやめる診療所も相次いでいる。市周辺部からの“難民流入”もこの状況に拍車を掛け、現場の医師らは危機感を強めている。

 「若い担い手を望んだのだが…」。同市中区の産科医(65)は開業20年の節目に閉院を決意した。2月下旬に分娩の扱いを既にやめ3月末で廃業する。65歳の同僚医師も同時にやめるという。「さまざまな要因が重なった」としながらも、高齢化と後継者不在を閉院の主な理由に挙げる。

 市産婦人科医会などによると、分娩を扱っていた市内の診療所14カ所のうち、今年に入って3カ所が閉院や分娩休止の方針を打ち出した。残る診療所も分娩制限をし始めている。東区のある診療所の看護師は「定員満杯で分娩希望者を断らざるを得ず、妊娠7―8週で仮予約しなければ分娩を受け付けられない状況」と話す。

 診療所だけでなく、総合病院も深刻だ。市内の中規模病院で唯一分娩を扱う遠州病院の本年度の分娩数は561件(3月12日現在)。既に昨年度の266件から倍増した。分娩施設が少ない中東遠や北遠、湖西など市外からの分娩希望者の流入が一因となっている。稲本裕副院長(県産婦人科医会理事)は「医師の当直が月7回という過酷な労働状況が続いている」と説明する。

 市産婦人科医会や浅野仁・県西部浜松医療センター周産期センター長の調査によると、平成18年の市への出生届7814件に対し市内の分娩総数は8331件。この差の500件は、市外からの分娩希望者と里帰り出産とみられる。新たに分娩を取りやめる3診療所の分娩総数が約850件で、19年の総合病院の分娩総数が前年より600件増えたことを考慮すると「現時点で浜松市の分娩受け入れ可能状況に赤ランプが点灯してもおかしくない」(浅野センター長)という。

 産婦人科の開業医でもある山口智之・市医師会長は「産科の問題はもはや、市域を越えて考えるべき課題」と指摘する。

(静岡新聞、2008年3月17日)

****** 静岡新聞、2008年3月14日

産科医、藤枝市立病院に派遣へ 県医療対策協が了承

 県医療対策協議会が14日午前、静岡市内で開かれ、国と県が検討している志太榛原地域への産科医の派遣を了承した。6月までに常勤の産科医3人が全員退職する藤枝市立総合病院に、医師1人が最長で1年間、派遣される見通しとなった。派遣に伴う費用負担は、県と藤枝市立総合病院を合わせると5000万円程度という。

 今回の医師派遣は、年間800件前後の分娩(ぶんべん)を行っている藤枝市立総合病院の産婦人科が7月から分娩休止に追い込まれる事態を受けて、国が特例措置として県に打診した。国は今後、国立病院や大規模な病院に呼び掛けて、派遣医師の選定を急ぐ。

 派遣は国主導で進める「医師派遣制度」に準じて行われる公算が大きい。費用負担の内訳は、国と県が折半で、医師を派遣する病院に診療体制強化の名目で約2300万円補助する。藤枝市立総合病院は派遣元病院に遺失利益分として上限3000万円を補償するほか、派遣医師の人件費の拠出が必要と見込まれる。

 県は協議会の席上、医師派遣に当たって地元の焼津、島田、牧之原、藤枝の各市長と病院長、産科医らの合意を得られたことを説明した。

 同協議会の委員からは「全国的な産科医不足の中、1つの突破口にはなる」「分娩は24時間対応。医師1人が派遣されても診療体制が厳しいことは変わらず、最低でも2人以上は必要ではないか」などの意見が出た。

 改正医療法に基づく同協議会の開催は今回初めて。県内の医師不足の現状や課題を協議した。議事に先立ち、会長に岡田幹夫県医師会長を選出した。
 
浜松医大学長再派遣前向き 「2人体制に」

 県医療対策協議会の委員を務める浜松医大の寺尾俊彦学長は、14日の同協議会で、藤枝市立総合病院への医師派遣に関し、「国を通して産科医1人が派遣されるならば、浜松医大としても、もう1人派遣できるよう努力したい」と述べ、診療の2人体制に前向きな考えを示した。

 寺尾学長は「藤枝の住民の皆さんから(再派遣を求める)嘆願書をいただいている。実際問題、産科医が1人だけいても難しい。私としても何とか2人体制にしたい」と述べた。常勤か非常勤かについては「学内で調整中」などとして明言しなかった。

(静岡新聞、2008年3月14日)

****** 読売新聞、静岡、2008年3月15日

藤枝市立病院 国から産科医派遣

浜松医大も複数の非常勤

 県医療対策協議会が14日、静岡市駿河区のホテルで開かれ、6月末までに常勤産科医師3人が退職する藤枝市立総合病院に対し、国による医師派遣を受け入れることを決めた。現在の派遣元の浜松医大も同日、複数の非常勤医師を派遣する考えを明らかにし、地域の中核病院で出産が扱えない事態は避けられる見通しになった。ただ、多胎や早産など危険性の高い出産への常時対応には、さらなる医師確保が必要となっている。

 同協議会の委員は県内の病院長、首長、学識者など17人。この日は今年度唯一の会合で、来年度の医師確保事業と藤枝市立総合病院の産科医確保について協議した。

 県によると、国の医師派遣は、来年度から最長1年間、志太地区に1、2人の産科医を大学や病院から派遣する特例措置。派遣は1人にとどまる可能性が高いという。

 受け入れ病院は、派遣元病院に医師1人当たり上限3000万円と人件費を負担する。国と県も、派遣元病院の診療体制強化の補助金など約2350万円を半額ずつ負担する。

 会合では「1人だけの派遣では出産は満足に扱えない」「1年間は短すぎる」などの意見が出たが、地域の産科医療を守るためとして、受け入れた。

 同病院は、出産前後の母子への比較的高度な緊急対応ができる「地域周産期母子医療センター」。この機能維持は医師1人ではできない。

(読売新聞、静岡、2008年3月15日)

****** 毎日新聞、静岡、2008年3月15日

藤枝市立総合病院:産科医受け入れへ 県医対協が承認

 藤枝市立総合病院で6月までに産科医全員が退職する問題で、県は14日、静岡市内で開いた県医療対策協議会で、同病院に産科医1人の派遣を受けることを承認した。

 国が受け入れを打診していた。県によると、派遣期間は最長1年間。派遣元の病院に対する補助金約2360万円は国と県が半分ずつ負担する。また、医師がいなくなることによる派遣元病院の減収を補てんするため、藤枝病院側から3000万円程度を支払うことになる見込み。

 協議会の委員で、藤枝病院から産科医引き上げを決めた浜松医科大の寺尾俊彦学長は「ご迷惑をおかけして申し訳ない。2人体制でできるようにしたい」と述べ、国からの派遣医とは別にもう1人医師を確保するよう努力する考えを示した。【鈴木直】

(毎日新聞、静岡、2008年3月15日)

****** 読売新聞、福島、2008年3月17日

ドクターヘリ活用模索

 県立南会津病院(南会津町)は今月末、南会津郡で唯一あった産婦人科を医師不足のために休診する。妊婦の容体が急変した場合は郡外の病院へ搬送することになるが、その際にドクターヘリを活用する案が浮上している。(冨田良子)

 「実際に地域から産科医がいなくなるわけだから、有効活用したらどうか」。2月25日に県庁で開かれた「へき地医療支援総合調整会議」で、小山菊雄・県医師会長は、周産期医療へのドクターヘリの活用を県側に提案した。後任のめどが立たないまま、常勤医師2人が3月末で退職する南会津病院を念頭に置いたものだ。

 南会津郡の面積は、神奈川県とほぼ同じ約2341平方キロ・メートル。破水や切迫早産など周産期医療が必要な妊婦を救急車で会津若松市の病院に運ぶ場合、最低でも1時間、雪道では倍の時間がかかる。これに対し、1月28日から運航が始まったドクターヘリは時速約180~200キロで飛ぶため、医師が処置をしながら、救急車より短時間で搬送できる。郡内の町村からも活用を求める切実な要望が相次いでいる。

 だが、ドクターヘリに産婦人科医に搭乗してもらうとなると、出動に備えて診療予定を入れずに待機する医師を確保する必要があり、医師不足の現状では実現は困難だ。県内の医師数は2006年までの10年間で約1割増えたが、産婦人科医は逆に2割近く減っている。ドクターヘリが配備された県立医大付属病院でも、産婦人科医12人は日常の診療で手いっぱいで、「ヘリに待機させる余裕はない」(病院経営グループ)。

 このため、妊婦を搬送するとしても、通常と同様、救急医が搭乗する態勢になる可能性が高い。千葉県では、この態勢で2001年からヘリの妊婦搬送を始めた。06年にはドクターヘリ搬送件数607件のうち、12件で妊婦を搬送した。「少しでも妊婦の危険を軽減するため、医療の集約化が進む今はヘリの妊婦搬送は必要」と同県医療整備課の担当者は話す。

 ただ、ヘリによって搬送時間を短縮できたとしても、受け入れる病院がなければ意味がない。千葉県では、速やかに高度な周産期医療を提供できるよう、日本産婦人科医会千葉支部などが妊婦の入院や手術に対応できる県内の15病院を指定。いずれかの医療機関が必ず受け入れることを合意した「母体搬送システム」をつくっている。こうしたシステムは、福島県では十分機能はしていない。

 福島県では、ドクターヘリの活用に向けて今月中にも病院や医師との具体的な検討の場を設けていく方針で、県医療看護グループでは、「危険なお産の発生に備え、きちんと議論しなければならない」としている。

 ドクターヘリ 人工呼吸器や除細動器などの医療機器を備える。救急医と看護師が搭乗し、現場やヘリ内で処置しながら県内8か所の搬送先指定医療機関に運ぶ。患者に生命の危機があったり、搬送に時間がかかったりする場合に地元の消防署が出動を要請する。夜間や吹雪など視界が悪い時には飛べない。

(読売新聞、福島、2008年3月17日)

****** 読売新聞、神奈川、2008年3月9日

県の「医師バンク」スタート

産科医限定 効果に疑問も

 深刻化する産科医不足を解消しようと、県が今月から、出産や育児のために現場を離れた産科・産婦人科医を対象とした「医師バンク」の運用を始めた。県内でも、お産のできる医療機関や常勤医の減少傾向が続いており、医師不足に悩む医療機関との間を仲介し、復職をあっせんする。だが、過酷な勤務に復職をためらう現状や、病院同士の人材争奪も激しさを増しており、新バンクには課題も多い。(溝口 徹)

■10年で半分離職

 医師バンクは、今月3日、県医師会に委託して始まった。復職希望者をホームページなどで募集。希望者は、勤務地や、常勤・非常勤などの勤務形態、当直の可否などの希望、過去の勤務履歴などを登録。同時に医療機関も勤務条件などを登録する。この中から医師会が条件に見合った相手を紹介することになる。

 狙いは、出産、育児のために現場を離れた女医たちだ。県によると、県内の医療機関に勤める女医は2006年末現在で、3136人と全体の2割だが、近年は、産科医の若手で女医が多く、20歳代では3分の2が女医という。だが、せっかくの人材も出産や育児で休職、就業後10年以内に離職する産科の女医は、ほぼ半分という状況だ。

■苦戦するバンク

 似たような医師バンクを運用する他の自治体では、思うように求職者が集まらず、産科医探しが難航している。06年10月に始めた千葉県では、登録5人のうち、産科医はゼロ。昨年6月に創設した群馬県でも、採用6人、登録3人の計9人の中に産科医はいない。

 千葉県医療整備課では「民間のドクターバンクと競合しており、大半の産科医には個々の病院が直接、スカウトに入っている」と分析。群馬県医務課は「産科医はどこも血眼で探しており、全体数も減っているので難しい」とこぼす。

 横浜市内の病院に勤める産科医の女性(42)は、「職場を離れた同世代の人も、条件が整えば仕事を続けたいと思っているが、家庭の事情、夜間の対応を考え、復帰をためらっている」と明かす。

 この女医も2児を育てており、現在は当直勤務に入っていないが、出産前は月6~7回の当直、5~6回の夜間自宅呼び出し待機があるなど、勤務は過酷だった。「当直を少なくすることがまず第一だが、勤務医に余裕がない現状では、柔軟に対応してくれる職場を探すのは難しい。夜間の保育施設を整えるなどサポートが欲しい」と指摘する。

■しわ寄せは…

 県によると、産科・産婦人科の常勤医は03年度の434人から07年度には404人に減少した。お産ができる施設も、03年度の181件から、07年度には153件と約15%の減少。医療圏別では、県央(大和市など)や県北(相模原市)以外は、いずれも減少した。特に中小規模の診療所の休診が多く、その分、地域の中核となる公立病院にしわ寄せが行っている。

 藤沢、茅ヶ崎両市などの湘南東部では、18施設から7か所も減った。この影響でお産の取り扱いが急増した茅ヶ崎市立病院は、今年から出産予約を制限すると発表した。大学病院が派遣した医師を引き揚げる動きも出ており、厚木市立病院では、大学病院が派遣していた産科医を引き揚げたため、産婦人科を休診した。

 いずれも、お産が増えたのに、医師の手当てが出来ず、当直や急な呼び出しが増え、医師1人当たりの負担が増えたためだ。「過酷な勤務でうつになる医師も少なくない」と、県内の医療関係者は指摘している。

(読売新聞、神奈川、2008年3月9日)

****** 読売新聞、石川、2008年3月15日

山中温泉医療センター 産科休診へ

医師確保できず7月から

 加賀市山中温泉上野町の山中温泉医療センターは、常勤医が確保できず、7月から産科を休診する。

 同市病院管理部によると、産婦人科の常勤医を派遣する金沢医科大から派遣停止の申し出があった。6月末までの分娩(ぶんべん)は、同大からの非常勤医で対応するが、常勤医の確保は難しく、7月以降は産科を休診せざるを得ないという。婦人科は非常勤医が対応する。

 同市では、加賀市民病院の産婦人科が、医師の退職で2006年7月から休診していたが、4月からは福井大から常勤医1人と非常勤医の派遣を受けて再開する。常勤医が病気療養のため今年1月から休診していた小児科も、金沢大から医師の派遣を受け4月から再開する予定。

(読売新聞、石川、2008年3月15日)

****** 室蘭民報、2008年3月15日

伊達赤十字病院・小児科常勤医不在、産婦人科分べん休止

 伊達赤十字病院(前田喜晴院長、374床)は14日、小児科常勤医が4月から不在となり、入院診療ができなくなると発表した。今年1月から産科診療を縮小していた産婦人科は4月から分べんの取り扱いをやめる。

 同病院の小児科は、常勤医1人と出張医1人の2人体制で診療を続けてきたが、医局などの小児科医不足を理由に北大が2人を引き揚げ、4月以降は平日のみ日替わりの出張医を派遣する方針に切り替えた。

 後任の常勤医のめどは立っておらず、伊達市にも協力を求めて医師の募集に力を入れたが、「現時点での確保は難しい」と判断し、小児科診療の縮小を決めた。入院を必要とする患者は室蘭・日鋼記念病院など近隣の病院を紹介する。平日外来診療、救急外来診療は従来通り。

 産婦人科は、産科常勤医1人が昨年末に退職し、今年1月から経産婦を対象に月10件程度の出産に制限していたが、札幌東豊病院からの医師派遣も今月末で終了するため、分べんの取り扱いを休止する。

 前田院長は「胆振西部では唯一の出産できる病院だったが、その機能を失うことは誠に残念。できるだけ早く医師を確保し、通常の診療体制に戻したい」としている。

(室蘭民報、2008年3月15日)

****** 北海道新聞、2008年3月14日

出産診療に初の指針 産婦人科学会、医会 トラブル抑止狙う

 出産診療をめぐるトラブルを防止するため、日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会は、出産の適切な診療方法を示したガイドライン(指針)を初めてまとめた。あらゆる出産施設で一定水準以上の医療の質を確保するとともに、相次ぐ医療訴訟を抑止するのが狙い。出産にかかわるトラブルの多発は、若手医師らの「産科医離れ」の一因とみられており、医師不足が深刻な道内の関係者からも注目を集めそうだ。

 指針は、両学会の代表者二十四人で構成するガイドライン作成委員会(委員長・水上尚典北大教授)が作成。二〇〇六年から二年間かけて、現場の医師らの意見を聞きながらまとめた。

 指針では「妊娠初期の血液検査項目は?」「(妊婦から)投与された薬物の胎児への影響について質問されたら?」「妊娠十二週未満の流産診断時の注意点は?」など六十三項目の設問に対し、Q&A方式で治療法や注意点を簡潔に明記した。

 それぞれの治療法には「A」(実施を強く勧める)、「B」(勧められる)、「C」(考慮する)の三段階で推奨度を明示し、詳しい解説や根拠となる文献名も併記した。医療施設の設備などによって、示された治療法が困難な場合は、対応可能な施設に紹介や搬送するよう求めている。

 出産診療については、学会などが定めた指針はなく、診断や治療は、医師や医療機関によってばらつきがある。医療訴訟の際には、医師の診療が適切だったかどうかの判断が問題となるケースが多く、警察や司法界からも明確な指針を求める声が出ていた。

 水上教授は「訴訟の多発などで、産婦人科を目指す医師が少なくなっており、指針を示すことでトラブルを減らしたい。患者にとっても適正で安全な医療が受けやすくなるはず」と話す。

 指針は助産師らにも活用してもらい、産科医不足の改善に役立てたい考えだ。

(北海道新聞、2008年3月14日)

****** 河北新報、2008年3月12日

産科医不足問題で大館の現状視察 社民・福島党首

 社民党の福島瑞穂党首は11日、秋田県大館市と北秋田市の病院3カ所を視察し、産科医不足の問題について医療関係者と意見交換した。大館市では、「里帰り出産」を担う病院がなくなった現状を目の当たりにし、「国が医師を確保するように国会で主張していく」と述べた。

 大館市内で唯一、分娩(ぶんべん)を受け入れている市立総合病院では、常勤の産科医が3人しかおらず、2006年9月に里帰り出産を休止した。同病院の武内俊院長は「医師1人の分娩件数は年間150件が上限と言われるのに、うちは200件に上る。里帰り出産は受け入れられない」と窮状を訴えた。

 06年に産科医が不在となった大館市立扇田病院では、大本直樹院長が「産科医をサポートする麻酔科医や小児科医がいなくなったため、結果的に産科医不在の事態につながってしまった」と、医師の退職が相次いだ経緯を説明した。

(河北新報、2008年3月12日)

****** 秋田魁新報、2008年3月11日

県北で産科医療の現場を視察 社民・福島党首

 社民党の福島瑞穂党首が11日、同党の「産声の聞こえる街づくり」プロジェクトの一環で大館市と北秋田市の病院を訪れ、産科医療の現場を視察した。会見では「医師不足で現場が悲鳴を上げていることを実感した。国レベルでの医師確保を目指したい」と述べた。

 産科医不足が深刻な県北部を対象に選び、北秋中央病院(北秋田市)や、2006年8月に産婦人科を休診した大館市立扇田病院、同市立総合病院を視察した。

産科医不足 深夜・長時間労働や分娩(ぶんべん)事故に伴う訴訟リスク、子育てによる女性医師の休職などを背景に産科医が減少。2006年2月に、福島県警が帝王切開した妊婦の死亡をめぐり県立大野病院の産科医を業務上過失致死容疑などで逮捕したことも影響しているとされる。各地で妊婦の救急搬送先が見つからない事例も相次ぎ、背景に産科医不足が指摘された。国は分娩事故で医師に過失がなくても補償金を支払う「無過失補償制度」の創設や、中核病院への集約化による地域医療ネットワークづくりなどの対策を進めている。

(秋田魁新報、2008年3月11日)

****** 中日新聞、福井、2008年2月27日

じっくり会話、妊婦に安心感 助産師外来の県内先駆者に聞く

 産科医不足を解消するため、正常な妊婦の問診や保健指導を助産師が担う「助産師外来」の開設に向けた動きが県内でも広がりつつある。2005年にいち早く導入した県済生会病院の助産師外来の設立に尽力した主任助産師の三反崎(みたさき)宏美さん(38)に、メリットや思いを聞いた。 (谷悠己)

 「何かと悩みの多い妊婦にとって健診は一番の楽しみ。ゆっくりと話ができる環境をつくりたかった」。出産を経験し現在も双子を妊娠している三反崎さんは、開設の動機をこう語る。

 県内でも産科医不足は深刻だ。休止する郊外の産科が増えた影響で妊婦は都市部に集中。同院でも医師が1件の健診にかけられる時間は長くて15分ほどだ。助産師が健診を担ってケアの質を高めるのと同時に多忙な医師の救済にもつながっている。

 同院の助産師外来は、20週目以降の妊婦健診を助産師が医師と交互に行う。助産師は40分から1時間かけて妊婦と向き合い、ときにはおなかにエコーを当てて胎児の動きを観察し続ける。「こんなに小さくても指をしゃぶっている、と涙を流す人もいます」(三反崎さん)。

 開設当初は妊婦だけでなく医師からも「料金を取る健診を助産師が担当するのは…」といぶかる声が根強かったが、認知度は徐々に上がり、06年は424件のお産に対して延べ110人が助産師外来を利用した。

 三反崎さんは「少子化や晩婚化が進み一つ一つのお産の重要性が高まっている今、妊婦には多くの選択肢が必要。最終的には健診した助産師がお産も担う院内助産所を開ければいいが、現状では助産師も人材不足で難しい。行政のリードで県内の助産師確保や病院間の人的交流が進むことを願っている」と話す。

◆開設へ動き拡大

 国は2008年度予算案の新規事業で院内助産所や助産師外来の開設支援を盛り込んでいる。県は07年度から先駆けて助産師外来の開設を目指す病院の研修費を補助する事業を始め、効果が表れ始めている。

 昨年10月、県内5つの病院の医師と助産師が、地方都市における助産師外来と院内助産所の設置事例として岩手、宮城県の病院を視察した。ことし1月には助産師外来に定評のある杏林大付属病院(東京都)で講義と病院実習に参加し、6病院の延べ40人が最先端の取り組みを学んだ。

 研修に医師と助産師を派遣した市立敦賀病院は「08年度中にも開設したい」と意欲を見せ、県立病院も早期の開設を目指し検討している。

(中日新聞、福井、2008年2月27日)

****** 毎日新聞、2008年3月15日

助産所:法改正で1割が廃業の危機 嘱託病院確保できず

 お産を取り扱う全国の助産所の約1割が、4月以降に義務付けられている嘱託医療機関の確保ができず、廃業に追い込まれる可能性があることが分かった。

 07年4月の医療法改正で、お産を扱う助産所は、緊急搬送先確保のため嘱託の産科医と産科医療機関の届け出が義務化され、今年3月末で猶予期間が切れる。

 しかし厚生労働省の調査では、今月7日現在、来年度もお産を扱う予定の助産所284施設のうち、9施設は医師と医療機関の両方、18施設は医療機関が決まっていないという。都道府県別の内訳は▽神奈川8▽大分4▽北海道3▽青森、福島、大阪各2--などとなっている。

 また2月時点の調査では、お産を扱う予定だった助産所は297施設あり、医療機関の確保をあきらめて既に廃業したり、出産以外の保健指導などに業務を切り替えた施設もあるとみられる。

 助産所と医療機関との連携が進まない背景には、産科医の不足や、異常分娩(ぶんべん)を引き取ることによる訴訟リスクの懸念がある。厚労省医政局は「分娩施設がこれ以上減らないよう、嘱託医と嘱託医療機関が同一でも構わないなどの弾力的な運用で、続けられない助産所をゼロに近づけたい」としている。【清水健二】

(毎日新聞、2008年3月15日)

****** 読売新聞、2008年3月14日

助産所1割 廃業危機…「嘱託医療機関」確保が難航

 助産師がお産を扱う「助産所」に4月から義務づけられる「嘱託医療機関」の確保が難航している問題で、いまだに助産所の1割近くが確保できずにいることが14日、わかった。今月末までに引受先が見つからなければ出産を扱えず、廃業を余儀なくされる可能性もある。

 共産党の小池晃参院議員の質問主意書に対する答弁書で明らかになった。それによると、全国284か所の助産所で今月7日現在、嘱託医療機関を確保できていないところは27か所(約9・5%)。うち9か所は、異常分娩(ぶんべん)などに対応する「嘱託医」の確保もできていない。産科医不足などが原因と見られ、都道府県別に見ると、嘱託医療機関確保ができていない助産所は、多い順に神奈川県が8か所、大分県4か所、北海道3か所――となっている。

 昨年春に施行された改正医療法では、お産を扱う助産所は、産科や産婦人科、小児科があり、入院施設を備えた医療機関を嘱託として確保することを義務づけた。今年3月末までの確保が求められている。

(読売新聞、2008年3月14日)


飛び込み出産の増加

2008年03月15日 | 地域周産期医療

どの産科施設でも、その施設のスタッフと設備の規模に応じて、自ずと患者受け入れ数の限界が存在します。施設の許容量を超えて無制限に患者を受け入れてしまえば、安全な医療ができなくなってしまいます。分娩の予約数が受け入れ限界に達した場合、その月の予約はそれ以上に増やすことはできませんから、分娩予約の受け付けは一定数で中止せざるを得ません。スタッフが激務に耐えかねてどんどん辞めてしまうような事態となれば、その施設の産科部門は閉鎖せざるを得ません。いったん閉鎖されてしまった産科施設を、また一から立ち上げて業務再開までこぎつけるのは至難の業だと思います。ですから、施設の限界以上に業務量が増え過ぎないように、常に最大限の配慮をしていく必要があります。

『飛び込み出産』の場合は、妊娠中に妊婦健診を受けず、妊娠満期に陣痛発来して初めて、救急車などを利用して病院を受診する想定外のケースです。もしも今後『飛び込み出産』の件数がどんどん増えていき、どの医療機関もその受け入れを拒否できないということになれば、それだけで地域における産科崩壊の大きな要因となり得ます。健康教育の充実や健診の公費負担拡充などが求められていますが、中には第一子の時も第二子の時も『飛び込み出産』で医療費全額未払いのままというような悪質なケースもあり、なかなか解決の難しい問題だと思われます。非常に悪質なケースでは、重大な犯罪行為として厳罰に処す必要もあると考えます。

****** 読売新聞、2008年3月14日

飛び込み出産の増加 貧困と知識不足 健診の公費負担拡充を

 妊娠中の定期的な健診である妊婦健診を受けないまま、出産のため医療機関を突然訪れる未受診妊婦の飛び込み出産が全国で増加傾向にある。【生活情報部・月野美帆子】

 未受診妊婦の存在は、昨年8月に奈良県の妊婦が救急搬送中に死産した問題でクローズアップされた。その後、全国各地で妊婦の救急搬送の受け入れ不能が明らかになった。背景には、未受診妊婦側が救急搬送を依頼しても、母体や胎児の状態がわからないとして、病院側が受け入れを敬遠する構図がある。

 読売新聞が今年1月、高度な産科医療機能を持つ全国の医療機関を対象に行った調査では、67施設から回答があり、昨年1年間に301人の未受診妊婦の飛び込み出産があった。「以前よりも未受診妊婦が増えた」とする医療機関は、回答した67か所中、20か所あった。

 日本産科婦人科学会の産婦人科医療提供体制検討委員会委員長で北里大医学部教授の海野信也医師はこの調査結果から推定して、「全国的には年間1000人~2000人の未受診妊婦がいるのではないか。産科医療の現場が混乱する大きな要因で対策が必要」と指摘する。

 妊婦が未受診のまま飛び込み出産に至る要因は、貧困と情報・知識の不足にある。

 読売新聞の調査では、妊婦が未受診になった理由は「経済困窮」が最も多く、146人いた。また107人が未婚者だった。

 健診・出産には数十万円の費用がかかり、未婚であれば負担は一段と重い。調査でも、出産費用の一部または全額を病院に払っていない未受診妊婦は98人いた。健診費用の公費負担を拡充することが、何より求められている。

 負担軽減のため、国は今年度中をめどに、妊婦健診を公費負担する回数を5回程度に増やすよう通知している。だが、公費で何回負担するかは自治体の裁量に任されている。厚生労働省が昨年行った全国調査によると、都道府県別平均では1・3回~10回と、自治体間の格差が大きいことが判明している。

 公費負担による健診回数が最少レベルだった兵庫(1・4回)、奈良(1・6回)にある病院は、読売新聞の調査に対し、過去5年に比べ未受診妊婦の数が「増えた」と答えていた。

 費用補助が充実したとしても、当事者に利用可能な情報として伝わらなければ意味がない。

(以下略)

(読売新聞、2008年3月14日)


地域産科医療提供システムの構築(飯田下伊那)

2008年03月13日 | 飯田下伊那地域の産科問題

現在、県内のいたるところで地域の産科医療提供体制が厳しい状況に追い込まれつつあり、産科医療を提供する体制を今後も維持・継続していくために、各地域で協力して新しい医療提供システムを構築していく必要に迫られています。

産婦人科医の数は急には増やすことができませんので、行政や住民とも一致協力して地域の状況にマッチした産科医療提供システムを作り上げ、それを迅速かつ強力に実行に移していく必要があります。

それと同時に、若手の産婦人科医を増やし育成していく努力を、今後も地道に継続していくことが非常に重要だと思います。

****** 南信州新聞、2008年3月12日

里帰り出産受け入れへ 飯田市立病院 月70件を超えない範囲で

 飯田下伊那地方の産科医療体制について考える「第7回産科問題懇談会」(会長・牧野光朗飯田市長)が10日夜、飯田市役所で開かれた。飯田市立病院は、昨年11月から原則中止としてきた里帰り出産について、4月以降、全体の分べん件数が月70件を超えない範囲で受け入れることを明らかにした。

 市立病院は昨年、常勤医師が5人から3人に減る可能性があったことから、里帰り出産と他地域在住者の出産を制限。ところがことし4月、信州大学から常勤医師1人の派遣が決まり、別の常勤医師も非常勤の形で残るため、里帰り出産の再開を決めた。他地域在住者の出産は中止のまま。

(以下略)

(南信州新聞、2008年3月12日)


里帰り分娩制限の一部解除について

2008年03月11日 | 飯田下伊那地域の産科問題

地域周産期母子医療センターとして、地域のハイリスク妊娠・分娩を常時受け入れる立場にあり、婦人科診療も行っている関係上、ローリスク分娩の受け入れ数はある程度制限せざるを得ないと判断しています。科の存続を第一に考えて、あまり無理のない範囲内でローリスク分娩の受入枠を設定する必要がある考えています。

****** 中日新聞、長野、2008年3月11日

飯田市立病院の里帰り出産 一部受け入れへ

 飯田市立病院は、4月から里帰り出産の一部制限を発表していた問題で、1ヶ月の飯田下伊那地域内の出産予約件数が70件を超えない場合に限り、満たない人数分だけ里帰り出産を受け入れることを決めた。10日に飯田市役所で開かれた産科問題懇談会で発表した。

 里帰り出産を希望する場合は、出産予定月の5ヶ月前の土日を除く1日から7日に予約する。今年4月と5月、8月はすでに70件を超える出産予約があるため受け付けず、予約件数が五十数件となっている6月と7月は、3月17日から24日まで里帰り出産の予約を受け付ける。他地域住民の出産は、当初通り受け付けない。

(以下略)

(中日新聞、2008年3月11日)


連携強化病院への医師重点配置

2008年03月09日 | 地域周産期医療

かつては、小~中規模の産科施設が県内に数多く存在しました。しかし、最近では産科施設数が激減しているため、稼動している少数の産科施設に地域の妊婦さん達が集中するようになってきて、1施設当たりの分娩件数は従来と比べて明らかに増加傾向にあります。

施設の分娩件数を増やすためには、産科医や助産師などの増員が必要です。例えば、施設の分娩件数が倍増するのであれば、産科医や助産師の数も倍増させる必要があります。施設で請け負う仕事量だけがどんどん増えて、スタッフの増員が不十分であれば、当然、その施設の運営に破綻が生じます。

県全体の産科医療体制が完全に破綻し機能停止してしまう前に、産科医の連携強化病院への重点配置(集約化)を早急に完了させる必要があると考えます。

****** 中国新聞、2008年3月8日

6病院に医師重点配置 山口県が産科・小児科対策計画

24時間体制を確保 具体策は圏域で協議へ

 山口県は、勤務医不足の深刻な小児科、産科の医療体制を確保するため、医師を基幹病院に集める「集約化・重点化」の計画をまとめた。小児科、産科ともに六病院を基幹の「連携強化病院」に指定して優先的に医師を配置する。他の公的な病院からの医師の振り向けや機能移転など具体策は今後、地域ごとに協議する。

 集約化・重点化は厚生労働省の方針を受け、県、山口大、県医師会などでつくる県医療対策協議会が昨年度から検討を始めていた。勤務医の負担が重くなる中、小児科、産科医療を二十四時間体制で提供するために必要と判断した。

 小児科では、集約化する地域を二次医療圏をベースに五つ設定。連携強化病院は岩国医療センター(岩国市)徳山中央病院(周南市)県立総合医療センター(防府市)山口赤十字病院(山口市)山口大付属病院(宇部市)済生会下関総合病院(下関市)の六病院。それぞれ医師が五、六人と少なく、八人以上を目標にした。

 連携強化病院は、入院が必要な患者の二十四時間の受け入れや新生児医療に加え、地域の診療所や病院に対し外来や研修など支援も担う。他の公的な九病院を「連携病院」とし、場合によっては医師も含め医療機能を強化病院に移転する。

 産科も地域を五つに分け、連携強化病院に周産期母子医療センター機能を持つ、小児科と同じ六病院を指定。医師七人以上の配置を目標にした。他の十一の公的病院への連携病院の指定は、一~三人しかいない医師が移ると正常分娩を取り扱えなくなるため見送った。

(以下略)

(中国新聞、2008年3月8日)


地域の産科医療体制を維持していくために

2008年03月04日 | 地域周産期医療

『自科の診療規模(分娩件数、手術件数など)をどの程度に設定するべきなのか?』は非常に難しい問題だと思います。

『診療規模を現状程度に維持してほしい』という地域住民や病院事務方の強い要求(願望)があり、その要求にはできる限り応えたいという思いもある一方で、ここで無理をして常勤医が1人でも減ってしまえば、科閉鎖の危機となってしまい取り返しがつきません。

多くの病院の産婦人科が相次いで休廃止に追い込まれているこの厳しい医療環境の中にあっては、科を存続させることこそが、結局は地域住民の利益に最もつながるのは明らかで、今は『科の存続』を最優先に考えていく必要があります。

冷静に情勢を分析し、慎重かつ臨機応変に事態に対処していく必要があると思います。

****** 信濃毎日新聞、2008年2月29日

上伊那3公立病院 医師不足の影響・・・

伊那中央に患者集中 病床利用率100%超える日も、昭和伊南・辰野は収益悪化

 上伊那地方の3公立病院で医師不足の影響が顕著になっている。昭和伊南総合病院(駒ヶ根市)と辰野総合病院(辰野町)の医師引き揚げで伊那中央病院(伊那市)に患者が集中し、病床利用率が100%を超える日が出始めた。逆に昭和伊南と辰野は医業収益が悪化し、預金を取り崩すなどの対応を迫られている。上伊那広域連合長の小坂樫男伊那市長は、運営の一本化も検討する考えを示している。

 昭和伊南と辰野は2005年度以降、信大医学部の医師引き揚げなどにより、計4診療科で手術や入院を休止。辰野はさらに外科と整形外科の常勤医が1人ずつとなり、大掛かりな手術は困難な状況だ。

 このため、伊那中央に患者が集中している。06年度に85・1%だった病床利用率は、07年4月-08年1月は87・1%に上昇。自宅で過ごす患者が増える年末年始を過ぎ、今年1月28日-2月26日の30日間平均は95・3%に達した。

(以下略)

(信濃毎日新聞、2008年2月29日)