ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

Chronic abruption-oligohydramnios sequence (CAOS)

2011年05月22日 | 周産期医学

Chronic abruption-oligohydramnios sequence (CAOS) was defined by the following criteria: (1) clinically significant vaginal bleeding in the absence of placenta previa or other identifiable source of bleeding, (2) amniotic fluid volume initially documented as normal, and (3) oligohydramnios (amniotic fluid index ?5) eventually developing without concurrent evidence of ruptured membranes.

CAOSの診断基準 (1998年、Elliotらにより提唱された)
①前置胎盤などの明らかな出血源なく性器出血が持続し、
②発症の当初は羊水量が正常で、
③明らかな破水の証拠がないにも関わらず、最終的には羊水過少(AFI≦5)となる。

常位胎盤早期剥離はらせん動脈の破綻により生じ、急速に経過すると考えられている。そのため、母児共に重篤となり、絨毛膜板にヘモジデリンが沈着する前に分娩となる。一方、CAOS は胎盤外壁につながる静脈叢の破綻が原因で慢性早剥となると考えられている。静脈性早剥は通常、母子のバイタルに変化がこないので、出血した血液の退縮時に血漿成分が腟内に漏れ出て、pH 試験陽性より破水と誤診されることがある。広範囲の絨毛膜下血腫が胎盤機能不全と胎児の腎還流障害を起こし、羊水過少の原因となっていると考えられる。また、血性羊水の吸引が繰り返され、遊離鉄による肺障害をもたらすと考えられている。

絨毛膜下血腫は日常的に遭遇する疾患だが、その予後に関しては一定の見解が得られていない。絨毛膜下血腫が長期化し、血腫が増大して慢性早剥となる症例が存在する。CAOS を提唱したElliot らの臨床統計によると、26,440 分娩中40 例(0.15%)に慢性早剥を認め、慢性早剥40 例中24 例(60%)にCAOS を認めたと述べている。すべての絨毛膜下血腫がCAOS へ移行するわけではなく、そのリスク因子も不明である。

CAOS の症例では、平均在胎期間は妊娠27~28 週と言われ、生後に慢性肺疾患、壊死性腸炎、頭蓋内出血などに至る症例が多い。

Elliot らは、CAOS を出血開始時期で2 群に分け、慢性早剥をコントロールとしてその予後を比較検討している。出血が20 週以前のCAOS 症例の初回出血の平均週数は15.2 ± 2.0 週に対し、コントロール群(慢性早剥群)では16.1 ± 1.7 週と有意差を認めなかったが、分娩週数はCAOS 症例が26.1 ± 3.9 週に対し、コントロール群(慢性早剥群)では33.0 ± 5.3 週と、CAOS 症例は有意に分娩週数が早かった。20 週以降に発生したCAOS 症例はコントロール群(慢性早剥群)に比較して初回出血の平均週数や分娩週数等に有意差は認めなかった。 

CAOS の原因が不明である以上、治療法として特別なものはなく、一般的な切迫流産・早産治療に準ずる。

****** 文献

Elliot JP, Gilpin B, Strong TH Jr, et al. Chronic Abruption-Oligohydramnios Sequence. J Reprod Med 1998; 43: 418-422

中山摂子、安達知子、中林正雄: Chronic abruption-oligohydramnios sequence(CAOS)、 産婦人科の実際 2008; 57: 1933-1937

湯澤映、三浦理絵、熊坂諒大ら:慢性早剥羊水過少症候群(CAOS)の3 症例、青森臨産婦誌 2009;24:67-75


呼吸窮迫症候群(RDS)

2011年05月19日 | 周産期医学

respiratory distress syndrome

● 概念

呼吸窮迫症候群(RDS)は、未熟性による肺サーファクタントの産生障害の結果生じる広範性無気肺である。

● 病態生理

肺サーファクタント(表面活性物質)はⅡ型肺胞上皮細胞で合成・分泌される。肺の未熟性に基づく肺サーファクタントの不足がRDSの原因である。胎児は通常妊娠34週以降に肺サーファクタントを産生するので、それ以前に出生した早産児ではRDSの頻度が高くなる。肺サーファクタントの不足により、肺胞の拡張不全をきたし、低酸素症、換気不全となる。肺血管抵抗上昇による肺血流減少と肺胞上皮障害により、さらに肺サーファクタント活性が阻害され悪循環を生む。

● 危険因子

1500g未満の極低出生体重児、在胎32週以前の早産児(肺サーファクタントの産生はおおむね34週以後)、胎児機能不全、帝王切開児、母体糖尿病、双胎第二児、男児。

動脈管開存症(PDA)の併存が高頻度で見られる。

● 抑制因子

前期破水、子宮内感染、子宮内胎児発育遅延など

● 症状

出生直後からみられるが、進行性無気肺のために生後数時間頃に症状がより著明となる。

多呼吸(60/分以上)、陥没呼吸チアノーゼ呻吟。 

呻吟は、声門を閉じ加減にして自ら呼気終末陽圧呼吸(PEEP)を加え、肺胞の虚脱を防ごうとするために発するうなり声である。また、新生児、特に未熟児の胸郭は柔らかく、RDSによる肺コンプライアンス低下時は、著明な陥没呼吸がみられる。

生後2~3日が極期で、適切な治療がないと死亡する。

肺胞上皮細胞機能が病態を上回れば、内因性の肺サーファクタントの分泌が起こり、快方に向かう。

● 検査

①マイクロバブルテスト(stable microbubble test)
肺サーファクタントが直径15μm以下のマイクロバブルを安定させることを利用したもので、採取した羊水または胃内容液をカバーガラス上でピペットを用いて十分泡立て、4分間静置後、顕微鏡下に1mm2中の直径15μm以下の安定した気泡の数を数え、5視野の気泡の数を平均し判定する。

判定基準
0: 陰性(Zero)
1: 微弱(Very week)
2~10: 弱(Week)
11~19: 中間(Medium)
20以上: 強(Strong)

陰性~弱: RDSの危険性が高い
中間: RDSの危険性はほとんどない
強: RDSの可能性なし

羊水のstable microbubble < 5、胃内容液のstable microbubble < 10 の場合には、RDS発症の可能性が極めて高い。

②胸部X線
気管支透亮像(air bronchogram):肺胞の虚脱(=無気肺)および末梢細気管支の拡張により、気管支が浮き出る像。

Airbronchogram_2
           気管支透亮像

網状顆粒状陰影(reticulo-granular pattern):拡張した肺胞と虚脱した肺胞(=無気肺)とが混在した像

Reticulogranular
           網状顆粒状陰影

・ 最重症例の肺野はすりガラス状陰影ground glass opacity、含気がほとんどなくなった状態)となり心肺境界が不鮮明になる。

Rds
           すりガラス状陰影

・ RDSのX線分類 (Bomsel, 1970)
Ⅰ度 わずかにreticulogranular patternが認められる。
    肺の透亮性は正常で、air bronchogramは認められない。
Ⅱ度 肺全体に明らかなreticulogranular patternを示す。
    肺の透亮性は軽度減少し、air bronchogramが心陰影を
    超えてわずかに認められる。
Ⅲ度 肺全体に強度のreticulogranular patternを認める。肺の
    透亮性は減少し、肺全体にわたりair bronchogramが
    認められる。心陰影境界は不明瞭。
Ⅳ度 両肺野は完全に濃厚なground glass opacityとなり、
    心陰影境界の判別は不可能。

③血液ガス分析
PaO2(動脈血酸素分圧)の低下、PaCO2(動脈血二酸化炭素分圧)の増大、アシドーシス。

※ 最終的なRDSの診断は、臨床症状と検査の結果から総合的に判断される。明らかに児が呼吸不全の状態であるのに、RDSが確定診断されるまで人工肺サーファクタントの補充を待つ必要はない。RDSが確定診断されていなくても、診断的治療として人工肺サーファクタント補充を試みる価値がある。

● 治療

①人工肺サーファクタント補充療法:
人工肺サーファクタント(サーファクテン?)は、生食(120mg/4mL)によく懸濁して、120mg/kgを気管内に注入する。全肺野に液をゆきわたらせるため、4~5回に分け、1回ごとに体位変換する。1回ごとの注入にあたって、100%酸素でバギングしながら、経皮酸素分圧をモニターし、80mmHg以上にあることを確認する。初回投与の時期は、生後8時間以内が望ましい。

②呼吸管理:持続的気道陽圧法(CPAP)、人工換気

③輸液:アシドーシスを補正する。

※ PDA併存例の場合、RDSが治療によって改善すると肺血管抵抗が低下するため、動脈管を介しての左→右シャントが増大して心不全を来たす恐れがある。RDSの治療とPDAの治療とを並行して進めることが重要である。

※ RDSの予防は未熟児出生を防ぐことであるが、未熟児出生が予測されるときは、母体にベタメタゾンを投与(リンデロン®12mg を24時間ごと計2回筋注)し胎児肺成熟を促進することが推奨されている。

******

・ 呻吟(しんぎん)とは?
呻吟とは、呼気時にウーウーと唸るような声を伴って呼吸する状態をいう。これはコンプライアンスの悪い肺で呼吸するときに、呼気時に声門を締めて胸腔内を陽圧に保って肺が虚脱するのを防ごうという合目的な呼吸である。呻吟はRDSの場合に特徴的とされる。

・ 陥没呼吸とは?
陥没呼吸とは、吸気時に剣状突起部・胸骨下や胸骨上、肋骨間が陥没する呼吸のことで、膨らみの悪い肺や上気道狭窄の場合に出現する。未熟児の胸郭は柔らかく、RDSによる肺コンプライアンス低下時は、著明な陥没呼吸がみられる。

・ 肺コンプライアンスとは?
横軸に肺を伸展させる圧力(ΔP)、縦軸に肺の容量変化(ΔV)をとると、圧-量曲線が得られる。この傾き(ΔV/ΔP)を肺コンプライアンス(C)と呼ぶ。肺コンプライアンスが高いことは、伸展しやすい肺であることを意味する。 RDSでは肺コンプライアンスが低下し肺は硬くなる。

****** 問題

新生児呼吸窮迫症候群でみられるのはどれか。3つ選べ。
a 呻吟
b 嗄声
c 咳
d 多呼吸
e チアノーゼ

正解:a、d、e

a. RSDでは呻吟(呼気時うめき声)が認められる。呻吟はSilvermanのretractionスコアの一項目である。
b. 嗄声はPDA術後の反回神経麻痺などで認めることがある。
c. 咳はRDSの症状ではない。
d. RDSでは多呼吸、陥没呼吸が認められる。
e. 低酸素症によるチアノーゼが認められる。

Silverman

****** 問題

新生児呼吸窮迫症候群について正しいのはどれか。3つ選べ。
a 生後3~4日目に発症する。
b 肺コンプライアンスの増加を伴う。
c 肺血管抵抗は上昇している。
d アシドーシスは呼吸性および代謝性の要素をもつ。
e 胸部X線写真で両肺野に網状顆粒状陰影をみる。

正解:c、d、e

a RDSは生後数時間で発症し、進行性に悪化する。
b RDSでは肺コンプライアンスが低下し、肺は硬くなる。
c 肺胞は虚脱し、肺血管抵抗は高くなる。
d 当初呼吸性アシドーシスが前景にあるが、次第に混合性となる。
e RDSのX線所見: 網状顆粒状陰影、気管支透亮像、スリガラス様陰影。

****** 問題

新生児呼吸窮迫症候群に有効な治療はどれか。2つ選べ。
a 低体温療法
b 血液浄化療法
c 高圧酸素療法
d 持続的気道陽圧法(CPAP)
e 肺サーファクタント補充療法

正解:d、e

a 低体温療法は、RDSに対して無効かつ有害である。
b 血液浄化療法は、RDSに対して無効である。
c 高圧酸素療法は、未熟児網膜症の危険があるため早産児においては使用されない。
d CPAPは肺胞の虚脱を防ぎ肺容量を保つのに有用である。
e RDSの原因はサーファクタント産生不足であり、サーファクタント補充療法が有用である。

****** 問題

 出生直後の新生児、在胎週数28週、出生体重980g、Apgarスコア6点、呼吸数80/分、陥没呼吸を認める。保育器に収容し、挿管して人工呼吸を開始した。
 全身管理として適切なのはどれか。2つ選べ。
a 保育内温度を28℃とする。
b 動脈血O2分圧を150mmHgに保つ。
c 1日輸液量を150ml/kgとする。
d 5%ブドウ糖液の輸液を開始する。
e 処置前後の手洗いを励行する。

正解:d、e

未熟児が出生直後より呼吸困難を呈している場合は、まずRDSを考える。呼吸困難を呈した超低出生体重児に対する適切な全身管理を問われている。
a 低出生体重児では、生後10日間は保育器温度を32℃以上とする必要がある。
b 新生児に対する呼吸管理においては、PaO2は60~80mmHgが理想的である。
c 出生直後の輸液量は1日あたり50~80ml/kgとする。
d 輸液は5%ブドウ糖で開始することが多い。
e 入院時にはスタッフだけでなく家族にも感染防止のために手洗い励行を行う。

****** 問題

成熟児と比べて未熟児に起こりにくいのはどれか。
a 肺出血
b 一過性多呼吸
c 呼吸窮迫症候群
d 胎便吸引症候群
e Wilson-Mikity症候群

正解:d

a 肺出血は低出生体重児、PIH母体からの出生児、SFD児で頻度が高い。
b 胎児の肺内に存在した液体(肺液)の吸収遅延状態。未熟児の方が起こりやすい。
c RDSはサーファクタントの欠乏による呼吸障害で、未熟児に起こりやすい。
d MASは、羊水に排出された胎便を肺に吸引して起こる病態であり、未熟児には少ない。
e Wilson-Mikity症候群の発症は出生体重1500g以下がほとんどで、成熟児にはみられない。


長野県臨床研修病院等合同説明会

2011年05月16日 | 地域医療

http://www.pref.nagano.jp/eisei/imu/rinsyosetumei/kaisai23.htm

5月15日(日)13時~16時、長野バスターミナル会館(長野市)にて、全国の医学生、研修医等を対象とした『長野県臨床研修病院等合同説明会』が開催されました。

長野県の病院での臨床研修に興味のある医学生(主に5年生、6年生)が、全国各地から大勢集まりました。飯田市立病院からも、副院長(神経内科医師)、産婦人科医師、1年目研修医2名、事務職2名の総勢6名が参加しました。当院のブースにも大勢の医学生達が訪れてくれて大盛況でした。長野県出身で故郷の病院での研修を希望している学生、信州の山が好きで長野県の病院での研修に興味のある学生、産婦人科の臨床実習などで当院に来てくれた顔見知りの信州大の学生など大勢訪れてくれました。この4月より研修が始まったばかりの1年目研修医の2人も、新人研修医の視点から病院の様子を懇切丁寧に説明してくれて大活躍でした。

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開善寺の藤(フジ)、牡丹(ボタン)

2011年05月14日 | 南信州観光名所めぐり

今朝はここ二~三日降り続いていた雨がやっとあがり、久々のいい<wbr></wbr>天気だったので、開善寺(飯田市上川路)に行ってきました。

開善寺は鎌倉時代末期に創建され、1335年に小笠原貞宗が中国<wbr></wbr>から高僧を招いて繁栄させたと伝えられる古刹です。国重要文化財<wbr></wbr>の山門「瑠璃閣」や国重要美術品の鐘楼「吼雲楼」のほか、境内に<wbr></wbr>は藤棚や牡丹苑などがあり、四季折々の姿が楽<wbr></wbr>しめます。

降り続いた雨の影響で牡丹の花は若干しおれてしまったものの色の<wbr></wbr>鮮やかさは健在でした。一方、藤の花はちょうど満開で見頃を迎<wbr></wbr>えてました。

****** 藤(フジ)

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****** 牡丹(ボタン)

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****** 鐘楼

鐘楼は国重要美術品に認定されている。

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****** 開善寺山門 

瑠璃閣ともいわれる単層唐様建築の山門は、国重要文化財に指定されている。

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月川温泉(下伊那郡阿智村)の花桃

2011年05月08日 | 南信州観光名所めぐり

長野県下伊那郡阿智村にある月川(つきかわ)温泉は、南信州の花桃の里として知られてます。今日はゴールデンウイークの最終日で、家族で月川温泉の花桃を見にでかけました。1週間前に行った時はまだ蕾の状態でした。今年の四月は低温傾向が続き、花桃の開花が昨年より1週間以上遅れた状況でしたが、五月に入って気温も上がってきて花桃も次々に開き始め、今日はちょうど見頃を迎えてました。月川温泉では約千本の花桃が見られます。赤、白、ピンクの三色の花が咲き誇り、同じ枝に違う色をつけるものもありました。

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胎便吸引症候群(MAS)

2011年05月08日 | 周産期医学

meconium aspiration syndrome

[定義] 胎便吸引症候群(MAS)は、胎内あるいは出生直後に、児が胎便により汚染された羊水を気道内に吸引することで生じる呼吸障害である。

[症状]
・ 多くは胎児機能不全(NRFS)、新生児仮死を伴い、羊水混濁を認める。
・ 出生直後から多呼吸、チアノーゼを呈し、胸郭は著しく膨隆する。
・ 重症例では、化学性肺炎、気胸、新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)を併発する。

[発生機序]
・ 成熟した胎児が低酸素状態となると、迷走神経反射により腸管蠕動運動の亢進と肛門括約筋の弛緩が起こり、羊水中に胎便を排出し、羊水が混濁する。

・ 胎内で低酸素状態のために起こるあえぎ呼吸、または出生時の第一呼吸で、児が胎便汚染羊水を気道内に吸引すると、胎便による肺サーファクタントの不活化や気道閉塞と炎症が生じ、呼吸障害が引き起こされる。

[頻度] 羊水への胎便排泄(羊水混濁)は分娩の10~15%でみられる。胎便を排泄した児のおそらく5%が分娩中にその胎便を吸引し、MASを発症する。少ない量の羊水から分娩された過期産児では、あまり希釈されていない胎便が気道閉塞を起こす傾向があるため、症状はより重度となる可能性が高い。

[発症時期] 在胎36週以前では排便反射が確立されていないため、早産児には少ない。正期産児、特に過期産児にみられることが多い。

[診断]
・ 症状: 羊水混濁、出生直後の呼吸障害が存在する。
・ 気管内吸引により胎便が証明されれば診断が確定する。
・ 尿中のビリベルジン(胎便由来の色素)を証明する。
・ 胸部X線の異常所見: 気道に吸引された胎便による全肺野の炎症像を認める。

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[治療]
生理食塩水(あるいは肺サーファクタント製剤)による気管内洗浄を実施する。
・ 呼吸障害に対して、酸素投与あるいは人工換気を実施する。
・ 中枢神経障害に対しては、抗けいれん薬、鎮静薬を投与する。
・ PPHNに対して、一酸化窒素吸入療法、ECMOを必要とする場合がある。

****** 問題

 出生直後の新生児、41週5日、3200gで出生した。分娩時間第Ⅰ期14時間、第Ⅱ期1時間40分。羊水混濁があり、胎盤は黄染していた。臍帯動脈血pH 7.25。Apgarスコア5点(1分)、7点(5分)。泣き声が弱く、軽度のチアノーゼを認めた。口腔内を吸引し、酸素を投与したところ、チアノーゼは改善し泣き声も強くなった。約10分後、再びチアノーゼと多呼吸が出現した。聴診上、心雑音はないが、呼吸音は両側とも減弱している。
 まず行うべき処置はどれか。
a 足底叩打       b マスクによる人工換気
c 気管内洗浄      d 人工サーファクタント投与
e アシドーシスの是正

****** 

正解:c

正期産、胎便、新生児仮死、チアノーゼ、呼吸障害などより、MASの診断は容易である。まず気管内洗浄を行う。
a. 仮死で自発呼吸が全く出ない場合に足底叩打することがあるが、本症例では無意味である。
b. MASの場合、まず気管内洗浄を行ってから人工換気を行わないと、胎便を抹消気道に押し込むことになり、かえって事態を悪化させることになる。
c. 気管内洗浄後に人工呼吸管理をすることが多い。
d. 人工サーファクタントを用いて気管内洗浄する施設もあるが、まず行うべき処置としては不適切である。
e. アシドーシスの是正も結果的に必要となることが多いが、まず行うべき処置ではない。 


新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)

2011年05月07日 | 周産期医学

persistent pulmonary hypertension of the newborn

出生後の適応不全症候群で、出生後の肺動脈の拡張が不十分なために起こる肺高血圧症の結果、動脈管と卵円孔を介する右→左シャントによるチアノーゼが続く疾患である。

※ 以前は胎児循環遺残症(PFC: persistent fetal circulation)と呼ばれていた。

Pphn_2

PPHNの病態生理:
・ 肺動脈の低形成、血管壁筋層の肥厚、肺動脈の感受性亢進が素因としてあり、新生児仮死、胎便吸引症候群、低酸素症などが誘因となり、肺血管抵抗が増大しPPHNとなる。
・ PPHNは、正期産児または過期産児に生じる。

PPHNの臨床症状:
・ 呼吸障害の程度に比べてチアノーゼが著明である。
・ 新生児仮死、胎便吸引症候群、肺低形成などに続発することが多い。
・ 動脈管を介して右→左シャントした血液が流れる下肢にチアノーゼがより強くみられる(differential cyanosis)。
・ 三尖弁逆流による心雑音を聴取する。

PPHNの診断:
先天性心疾患によらない右→左シャントの存在により診断される。したがって、心臓超音波検査は診断のために必須である。

PPHNの治療:
・ 基礎疾患に対する治療・酸素投与とアシドーシスの補正
・ 一酸化窒素(NO)吸入療法
 【選択的に肺動脈を拡張させる】
・ 患児にストレスをかけない管理
・ 難治性の場合は、ECMO(体外式膜型人工肺)が用いられる。

cf. 先天性チアノーゼ型心疾患
・ 大血管転位症
・ 総動脈幹症
・ Fallot四徴症の重症型
・ 三尖弁閉鎖症
・ 総肺静脈還流異常


2011年度の長野県内主要病院の卒後3年目の後期研修医採用状況

2011年05月01日 | 地域医療

信州大附属病院の卒後3年目の後期研修医採用は、今年度(4月1日現在)、過去最高となる64人(昨年度:56人)であったことが判明しました。全国的な傾向についてはよくわかりませんが、長野県においては、専門研修を多くの指導医を擁する大学病院でスタートさせようという機運が再び高まりつつあるようです。県全体の長期的な視野で見れば、これは非常にいい傾向だと思います。

医師不足に悩む地方弱小病院が、それぞれ独自に苦労に苦労を重ねて一から医師集めをしなければならないようでは、1年後、5年後、10年後の見通しは全く不透明で、今後、まともな医療レベルを維持できる筈がありません。

やる気満々の多くの優秀な若い医師達が大学病院に結集し、県全体の医療レベルが向上していくのは非常に望ましい傾向だと思っています。彼らの成長の過程で、県内各地の病院でそれぞれ思う存分に腕を振るって大活躍してもらいたいと思います。

地域基幹病院の医師確保対策としては、大学病院と良好な関係を維持し、大学病院から派遣された若い医師達が思う存分大活躍できる環境を整備していくことが非常に重要だと思います。

******

以下、医療タイムス社の調査、4月1日現在

・信州大付属病院 64人
 小児科:7人
 内科(2):6人、
 麻酔科蘇生科:6人
 外科(2):5人
 産科婦人科:5人
 糖尿病・内分泌代謝内科:4人
 脳神経外科:4人
 皮膚科:3人
 整形外科:3人
 内科(3):2人
 循環器内科:2人
 精神神経科:2人
 放射線科:2人
 外科(1):2人
 泌尿器科:2人
 耳鼻咽喉科:2人
 形成外科:2人
 高度救命救急センター:2人
 臨床検査部:2人
 眼科:1人

・佐久総合病院 14人
・相澤病院 6人
・諏訪赤十字病院 4人
・長野赤十字病院 4人
・長野市民病院 2人
・飯田市立病院 2人
・伊那中央病院 1人

信大病院の卒後3年目の後期研修医採用数の推移:
 07年度以前:40人前後
 08年度:53人
 09年度:54人
 10年度:56人
 11年度:64人

※ 飯田市立病院で初期研修2年目を終えた医師達(卒後3年目)の進路も、今年度は全員が信州大でした。内訳は、小児科2名、内科1名、産婦人科1名、耳鼻咽喉科1名、形成外科1名などでした。また、昨年度に飯田市立病院麻酔科で後期研修をスタートさせた医師1名が、今年度、卒後4年目で信州大麻酔科に入局しました。

2010年度の長野県内主要病院の卒後3年目の後期研修医採用状況