ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

先天性心疾患(CHD)の胎児診断

2011年08月30日 | 周産期医学

congenital heart disease: CHD

【発生頻度】 CHDの発生頻度は出生児100人に1人で、重症CHD児はその3分の1である。CHDは最も頻度の高い先天異常であり、乳児死亡原因の第1位である。

【胎児診断の目的】
・ 十分な術前情報により、手術成績向上に寄与する。
・ 合併症の予防により、後遺症の軽減と医療コストの削減に寄与する。
・ 出生前に妊婦および家族へ十分な説明ができる。

【現状】
・ 四腔断面像(four chamber view)に著しい異常をきたす疾患は高率に診断できる。(単心室、Ebstein奇形など)
・ 四腔断面像に所見が乏しく、流出路に異常所見のあるCHDの診断率は低い。(完全大血管転位症、両大血管右室起始など)

【治療】
・ 動脈管依存性CHD: 動脈管開存により肺血流が保たれている症例では、プロスタグランジンE投与によって、手術の適応となるまで動脈管を開存させる。
・ 卵円孔狭窄: バルーン心房中隔裂開術。
・ 大動脈全狭窄、肺動脈弁狭窄: バルーン弁形成術。
・ 高度の心拡大、心不全、呼吸不全を来す疾患では呼吸管理、抗心不全治療を行う。

● 超音波・ルーチンスクリーニング

胎児心エコー検査ガイドライン

Standard 2D Ultrasound Examination of the Heart

1)左右の決定法
 モニター画面の右側に児頭、左側に足がくるような長軸断面をとる。プローブを反時計方向に回転させる。背骨を時計の文字盤の12時とすると、3時方向が左、9時方向が右になる。

2)腹部断面
・ 胃泡の位置を確認する。

Stomach

・ 内臓錯位(心臓と胃が逆サイド):ほぼ100%心奇形が合併、他の奇形も多い
・ 内臓逆位(心臓、胃ともに右サイド):10~20%に心奇形が合併

Outflowview

3)four chamber view(4CV) 四腔断面像
・ 心胸郭断面積比 cardiothoracic area ratio(CTAR):正常35%以下
・ Cardiac Axis(脊椎-胸骨を結ぶ直線と心房中隔-心室中隔を結ぶ直線が作る角度): 正常 45° ±20°

4cv

4chamberview_2

4)five chamber view(5CV)
・ 4CVに大動脈も含めたview

5cv

5chamber_view_2

5cv1

5)three vessel view(3VV)
・ 肺動脈、大動脈、上大静脈が左前から右後ろに向かって一直線に並ぶ。大きさが肺動脈>大動脈>上大静脈の順番

3vv

3v_view

Cardiac_image5_3_vessel_view

6)three vessel trachea view(3VTV)
・動脈管と大動脈弓が下行大動脈で合流し、これらの血管の外側に気管をみる。

3vtv

3vt_view

3vtv

Matsui H et al., Circulation. 2008; 118: 1793-1801. Fig. Magnification of the 3-vessel and trachea view showing the pulmonary trunk (PA) leading into the arterial duct (D). The isthmus (I) is measured as shown by the line just before it enters the descending aorta and the duct measured opposite it (line). L indicates left; R, right; and Ao, aorta.

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問題 胎児心臓超音波検査法・四腔断面像で異常所見がみられる心奇形はどれか。1つ選べ。

a. Fallot四徴症
b. 完全大血管転位症
c. 両大血管右室起始
d. 小さな心室中隔欠損
e. Ebstein奇形

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正解:e

Ebstein奇形の胎児心エコー: 四腔断面像で右房が拡大し、僧帽弁に比べ、三尖弁が右室内に下降しているように見える。

Ebsteinecho

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問題 心奇形のうち四腔断面像で異常を示さないのはどれか。1つ選べ。

a. 心内膜床欠損
b. Ebstein奇形
c. 完全大血管転位症
d. 単心室
e. 動脈管早期閉鎖

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正解:c 

完全大血管転位の胎児心エコー:四腔断面像は正常所見。左室から肺動脈(血管が分岐する)が、右室から大動脈(血管がアーチを描く)が出ていることを確認する。正常では肺動脈が大動脈の左前方を走るが、完全大血管転位症(complete TGA)では大動脈が左前方を走る。合併する心室中隔欠損(VSD)、肺動脈狭窄症(PS)、動脈管開存(PDA)を描出し、各型の分類をする。

Tga1

Ctga


先天性十二指腸閉鎖症

2011年08月30日 | 周産期医学

congenital duodenal atresia

【頻度】 6,000~10,000人に1人。

【合併疾患】 Down症候群の合併が多い(30%)。先天性食道閉鎖症、輪状膵、腸回転異常症、鎖肛、先天性心疾患などを合併することもある(合併疾患の頻度は50%)。

【概念】
・ 十二指腸が発生する過程の異常による。
・ 膜様型、索状型、離断型、多発型があり、膜様型と離断型が多い。
・ 膜に孔があり通過が可能なものを狭窄症という(閉鎖症の約半分の頻度)。
・ Vater開口部の肛門側の閉塞であることが多い
・ 低体重児に多い。

【症状】 
・ 羊水過多
・ 嘔吐(閉鎖部位がVater開口部より口側にある十二指腸閉鎖では、嘔吐物に胆汁が含まれず、Vater開口部以下の閉鎖では胆汁性嘔吐が認められる)
・ (上腹部に限局した)腹部膨満
・ 出生後24~48時間以内に胎便排出がない(胎便排泄遅延)、閉塞が乳頭開口部より遠位ならば灰白色便

【検査】
・胎児超音波検査:胃泡と閉塞部位より口側腸管の拡張がみられれば腸閉鎖の疑いが濃厚である。羊水過多を認める。現在では、出生前診断で見つかることが多い。

Duodenal_atresia2  

Da1

・X線写真:double bubble sign。
腸回転異常症の診断には注腸造影検査が必要。

Duodenal_atresia1
double bubble sign

【治療】
・ 経鼻胃管による持続吸引で減圧
・ 輸液
・ 手術: 十二指腸十二指腸吻合(ダイアモンド吻合)

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問題 羊水過多をきたす胎児異常はどれか。1つ選べ。

a. 十二指腸閉鎖
b. 腹壁破裂
c. 臍帯ヘルニア
d. Hirschprung病
e. 鎖肛

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正解:a


胎児発育不全(FGR)

2011年08月29日 | 周産期医学

fetal growth restriction (FGR)

[概念] 本来のFGRとは、胎児が何らかの理由で「本来発育すべき大きさ」に育ってないことである。しかしながら、個々の胎児の「本来発育すべき大きさ」を知る方法がないため、妊娠中の胎児推定体重が、該当週数の一般的な胎児体重と比較して明らかに小さい場合をFGRと称している。

【FGRの診断基準】 胎児体重基準値の-1.5SD値以下を当面の目安とし、その他の所見(羊水過少の有無、胎児腹囲など)や、再検による経時的変化の検討から、総合的にFGRの臨床診断を行うことを勧める。(産婦人科診療ガイドライン・産科編2011)

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産婦人科診療ガイドライン・産科編2011

CQ309 胎児発育不全(FGR)のスクリーニングは?

Answer

1. FGRのスクリーニングのため、健診ごとに子宮底長を測定する。(C)

2. 妊婦全例に対して、妊婦30週頃までには超音波による胎児計測を行い、必要に応じて再検する。(B)

3. FGRの危険因子(表)を有する妊婦では、危険因子を除去するよう指導し、より慎重な胎児発育評価を行う。(C)

4. FGRの診断には、出生時体重基準曲線ではなく、胎児体重基準値を用い、-1.5SD値以下を診断の目安とする。そのほか胎児腹囲などの所見、あるいは再検による経時的変化の検討から、総合的にFGRの臨床診断を行う。

(表)FGRの危険因子
・ 内科的合併症: 高血圧、糖尿病、腎疾患、炎症性腸疾患、抗リン脂質抗体症候群、膠原病、心疾患、など
・ 生活習慣: 喫煙、アルコール・大量のカフェインの摂取など
・ その他: light for gestational age(LGA)児分娩既往、妊娠前のやせ、妊娠中の体重増加不良、など

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胎児体重の妊娠週数ごとの標準値

Hyo13

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子宮内胎児発育曲線
EFWによる基準値(実線±2.0SD、破線±1.5SD)

Efw

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標準化された胎児体重推定式(日本超音波医学会)

EFW=1.07 x BPD3 + 0.30 x AC2 x FL

BPDの測定方法
・測定断面:胎児頭部の正中線エコーが中央に描出され、透明中隔腔と四丘体槽が描出される断面
・測定方法:探触子に近い頭蓋骨外側から対側の頭蓋骨内側までの距離を計測

ACの測定方法
・測定断面:胎児の腹部大動脈に直交する断面で、胎児の腹壁から脊椎までの距離の前方1/3から1/4の部位に肝内臍静脈および胃泡が描出される断面
・測定方法:エリプス法による上記断面の外周をACとする

FLの測定方法
・測定断面:大腿骨の長軸が最も長く、両端の骨端部まで描出される断面
・測定方法:大腿骨化骨部分両端のエコーの中央から中央を計測する

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子宮底長に関してFGRスクリーニングとしての有用性を疑問視する意見もある。毎回超音波検査を実施する場合には、子宮底長計測は省略できる。

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産婦人科診療ガイドライン・産科編2011

CQ310 胎児発育不全(FGR)の取り扱いは?

Answer

1. 以下の検査項目を参考に、原因を検索する。
・ リスク因子に関する再確認(CQ309参照)(B)
・ 胎児形態異常・胎盤臍帯異常の精査(超音波など)(B)
・ 妊娠高血圧症候群関連検査(血圧、蛋白尿、各種血液検査など)(C)
・ その他母体疾患(糖尿病、甲状腺機能異常、抗リン脂質抗体症候群など)に関する検査(C)
・ 先天感染異常診断のための母体血清学的検査(C)

2. 複数の形態異常、当該疾患に特徴的な形態異常、および高度FGRを認める場合には、染色体異常も疑う。染色体検査については妊婦の意志を尊重する。(B)

3. 分娩時期の決定には、以下の検査を必要に応じて行い、その結果を参考にする。
・ NST(non-stress test)、CST(contraction stress test)、BPP(biophysical profile)(B)
・ 超音波パルスDoppler法による胎児臍帯動脈血流測定など(B)
・ 超音波による胎児計測(推定体重や頭部発育)の推移(C)

4. 分娩中は分娩監視装置を用い、連続的胎児心拍数モニタリングを行う。(B)

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FGRの分類

①均衡型(symmetrical type) 発育不全型
・妊娠初期から発育が障害されるため、均整のとれた発育障害となる
・染色体異常、胎内感染、胎児奇形 など
・頻度:20~30%、児の予後は不良

②不均衡型(asymmetrical type) 胎児栄養失調型
・胎盤血流障害に起因した栄養障害によって生じる
・血流再配分が生じる結果、頭囲の発育は正常範囲にあるが躯幹の小さい不均衡な発育を示す
・妊娠後期で発症することが多い
・胎盤梗塞、前置胎盤、臍帯付着異常、妊娠高血圧症候群、多胎、母体合併症妊娠、喫煙 など
・頻度:70~80% 、児の予後は比較的良好

Fgr

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normal small

10パーセンタイル未満または-1.5SD未満であっても正常な胎児を、normal smallとよぶ。

基準より体重が少なくても超音波検査や染色体検査で異常所見を示さない場合、normal smallの可能性が高い。

母体が低身長の場合と高身長の場合とでは児の発育は異なるであろうと推測される。母体低身長例では、-1.5 SDを下回る可能性もあり、このような場合には、symmetrical type を呈する。

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FGRの子宮内管理に必要な胎児well-beingの評価方法

①胎児心拍数モニタリング:
 26~28週では、胎児評価に対するコンセンサスは得られてない。この時期の未熟な胎児の場合には、accelerationが認められないことをもってnon-reassuring とは評価できない。

②超音波断層法:
 推定体重、羊水量、胎児心拡大

③超音波パルスドプラ法:
 臍帯動脈拡張期末期血流の途絶、逆流

臍帯動脈血流における拡張期の途絶・逆流の出現は、胎児胎盤循環不全を示唆する重要な所見である。

FGR例においてこれらの所見が認められた群の周産期死亡率は極めて高率であり、厳重な周産期管理を要する。

Zu007

Tozetsu

Fgr1

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asymmetrical type FGR
娩出時期の決定

①軽症例:
 CST・胎児心拍数モニタリングによる評価

②重症例:
 ・不可逆的な状況に陥る前に娩出を決定することが重要である。
 ・2週間以上の頭囲発育停止例では娩出を考慮する。
 ・BPSによる評価を参考にすることができる。

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symmetrical type FGR
児娩出の時期や方法について

・妊娠初期の胎児感染や多発奇形による問題も絡み、必ずしも早期娩出や帝王切開によって予後の改善が期待できるとは限らない。

・児の状況によっては、救命が困難な場合もあり、このような場合には、帝王切開の回避もまた必要である。

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問題 Asymmetrical tpe の胎児発育不全をきたしやすいのはどれか。1つ選べ。

a. 妊娠糖尿病
b. 胎位異常
c. 風疹感染
d. 血液型不適合妊娠
e. 妊娠高血圧症候群

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正解:e

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問題 胎児発育不全の際に行う検査として適切でないのはどれか。2つ選べ。

a. 胎児心拍数陣痛モニタリング
b. 羊水ポケット測定
c. 胎児肺動脈・頭囲比測定
d. 胎児中大脳動脈収縮期最高血流速度測定
e. 臍帯動脈pulsatility index 測定

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正解:c、d

S: 収縮期最高血流速度
D: 拡張末期血流速度
Mean: 平均血流速度
Resistance Index (RI) = (S-D)/S
Pulsatility Index (PI) = (S-D)/M

臍帯動脈でのRI値、PI値の正常値は、いずれも妊娠20週以降は妊娠週数とともに低下する。FGRや妊娠高血圧症候群などでは、胎児胎盤循環の増悪が進行するにつれて、臍帯動脈のRI値、PI値が高値となり、終末には臍帯血流の途絶やさらには逆流がみられるようになる。

******

問題 誤っているのはどれか。1つ選べ。

a. 妊娠週数を問わず出生体重が4000g以上の児を巨大児という。 
b. light for date(LFD)児とは妊娠週数の標準体重の10パーセンタイル未満の出生児を指す。
c. small for date(SFG)児とは体重だけでなく、身長が5パーセンタイル未満の出生児を指す。
d. Ⅰ型(symmetrical)FGR の原因の一つに染色体異常がある。
e. Ⅱ型(asymmetrical)FGR の原因の一つに妊娠高血圧症候群がある。

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正解:c

LFD 児: 体重が10パーセンタイル未満の新生児
SFD 児: 身長体重ともに10パーセンタイル未満の新生児

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問題 胎児発育不全(FGR)で正しいのはどれか。1つ選べ。

a. 胎児推定体重が15パーセンタイル未満をいう。
b. symmetrical type の発生要因は子宮胎盤循環不全である。
c. 喫煙妊婦ではsymmetrical typeが多い。
d. 予後はasymmetrical type よりもsymmetrical type の方が不良である。
e. 発生頻度ではasymmetrical type よりもsymmetrical type の方が多い。

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正解:d

① symmetrical type 発育不全型
・ 妊娠初期から発育が障害されるため、均整のとれた発育障害となる
・ 染色体異常、胎内感染、胎児奇形 など
・ 頻度:20~30%、児の予後は不良

② asymmetrical type 胎児栄養失調型
・ 胎盤血流障害に起因した栄養障害によって生じる
・ 血流再配分が生じる結果、頭囲の発育は正常範囲にあるが躯幹の小さい不均衡な発育を示す
・ 妊娠後期で発症することが多い
・ 胎盤梗塞、前置胎盤、臍帯付着異常、妊娠高血圧症候群、多胎、母体合併症妊娠、喫煙 など
・ 頻度:70~80% 、児の予後は比較的良好

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問題 SFD(small for date)の新生児で起こりにくいのはどれか。1つ選べ。

a. 低体温
b. 低血糖
c. 小球性貧血
d. 低カルシウム血症
e. 高ビリルビン血症

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正解:c


原始反射(新生児反射)

2011年08月24日 | 周産期医学

Primitive Reflexes (Newborn Reflexes)

【定義】 原始反射は脊髄・脳幹に反射中枢をもち、胎生5~6か月より発達し、脳の成熟とともに消失し始め、さらに高次の神経機構(中脳・大脳皮質)の完成により抑制されていく反射である。

原始反射が存在する時期には、その反射が関与する随意運動はみられず、その随意運動が出現すると、その原始反射は消失する。

【原始反射の診断的意義】

①存在すべき時期に誘発できない: 脳障害

②反射に左右差がある: 上腕神経叢麻痺(分娩麻痺)、鎖骨骨折

③消失すべき時期に存在する: 脳障害

【原始反射の種類】

モロー反射 Moro reflex 
背臥位から児を座位方向に半ばまで引き上げ、頭部を後方に落とすと、児は手を開いたまま腕を急速に開排伸展する。ついで腕を内転させる。反射は通常4か月で消失する。

Moro_2

Moro1

手掌把握反射 palmar grasp 
検者の手を新生児の手掌にあてると反射的に把握する。通常4~6か月で消失する。

Graspreflex

Grasp

足底把握反射 plantar grasp 
新生児の足底を圧迫すると足指が屈曲してくる。独歩確立前(9か月頃)消失する。

Sokutei

・ 歩行反射(自動歩行) stepping refkex 
足を床につけ身体を前に傾けると、歩行する。6~8週で消失する。

Stepreflex

Stepping_reflex

・ 定位反射(踏み出し反射) placing reflex
新生児の片方の足を足背を机の端にこすると下肢が屈曲してまたいで机に足をつく。

Placing

非対称性緊張性頚反射 
 asymmetric tonic neck reflex (ATNR)
 
頭部および体幹を正中線に対称的に置いた後に、頭部を一側に向けると顔の向いている側の上下肢が伸展し、後頭部側の上下肢が屈曲する(弓矢をひく姿勢)。生後4~6か月ころ消失する。

Tonicneck

Atnr

追いかけ反射(索餌反射) rooting reflex 
児の上下の口唇・左右の口角を触れると口を開き頭を刺激側に向ける。

Rooting

吸啜(きゅうてつ)反射 sucking reflex 
検者の小指を口の中に入れると規則的な吸啜運動がみられる。

Sucking

・ 背反射(Garant 反射) Galant reflex
腹臥位に抱いた状態で、脊柱に沿ってこすると体幹を同側に傾ける。

Galantreflex

腹這い反射 crawl reflex
うつ伏せの状態で一方の足の裏へ圧力を加えると、上肢と下肢を使って這う動きが誘発される。

Pronecrawl

Crawlr

引き起こし反射 traction response 
仰臥位で両手首を握り、ゆっくり坐位まで引き起こすと頚・肩・上肢の筋肉を使って、あたかも引き起こされるのに協力するかのように肘を屈曲し、半屈位で維持する。

Tractionresponse

Tractionresponse1

****** 参考:

Babinski徴候(Babinski sign) 足の裏をとがったもので踵から爪先にむけてゆっくりとこする。足の親指が足の甲(足背)の方にゆっくり曲がる(拇指現象)。他の4本の指は外側に開く(開扇現象)。成人では錐体路障害を示す病的反射だが、出生時には存在し2歳ごろに消失する(生理的Babinski徴候陽性)。

Babinskis_sign

Babinskinewborn


平日夜間および休日における超緊急帝王切開への取り組み

2011年08月11日 | 周産期医学

第63回日本産科婦人科学会学術講演会 一般演題抄録

【演題名】 平日夜間および休日における超緊急帝王切開への取り組み

【目的】 当院では、平日夜間および休日(時間外)の緊急手術は自宅待機の手術室スタッフを招集して実施している。そのため、時間外では超緊急帝王切開であっても帝切決定から児娩出までに1時間以上かかる例も少なくなかった。そこで、時間外において超緊急帝切の準備が短時間にでき児を安全に娩出するために、院内にいるスタッフを緊急招集して手術を開始するシステム(新システム)を構築し、定期的にシミュレーションによるトレーニングを実施している。新システムの実績について報告する。

【方法】 2003年1月から2010年12月までの8年間に当院で分娩した6496症例の中で超緊急帝切となった症例について、頻度、適応、手術を実施した時間帯、帝切決定から児娩出までの時間などについて調査した。

【成績】 超緊急帝切は計18例で、施行率は0.28%(18/6496)、全帝切例の1.1%(18/1602)であった。適応は重症の常位胎盤早期剥:8例、重症の持続性胎児徐脈:7例、子宮破裂:2例、臍帯脱出:1例であった。麻酔方法別では、全身麻酔が16例、腰椎麻酔が2例であった。36週未満が6例、胎児発育不全が2例、陣痛促進中が2例、リトドリン点滴中が2例、時間外に実施した手術は9例であった。新システム導入後の時間外の超緊急帝切は4例で、いずれの症例でも帝切決定から児娩出までの時間は30分以内であった。

【結論】 当院における超緊急帝切は、関連各科の協力体制により、時間外でも帝切決定から概ね30分以内に児が娩出されている。超緊急帝切の適応疾患は分娩360例に1回の頻度で発生しており、その約半数は時間外に実施されている。各病院の事情に応じて、24時間体制で超緊急帝切に対応するための院内のシステムを整備しておく必要がある。

******

超緊急帝王切開(extremely emergent cesarean section)とは、方針決定後、他の要件を一切考慮することなく、全身麻酔下で直ちに手術を開始し、一刻も早い児の娩出をはかる帝王切開である。  

超緊急帝王切開の適応となる疾患: 重症の常位胎盤早期剥離、子宮破裂、持続性徐脈、臍帯脱出、前置血管破裂など


直腸肛門奇形(鎖肛)

2011年08月10日 | 周産期医学

anorectal malformation(imperforate anus)

【病態】 先天的な肛門形成異常で、肛門の位置異常、会陰部に瘻孔が開口しているもの、肛門が欠如しているものなど、外観はさまざまである。

Imperforateanus

画像1 画像2 

【疫学】 発生頻度は5000人に1人で、男児にやや多い。

【病型】 直腸盲端の高さと恥骨直腸筋群との位置関係によって、低位中間位高位に分類される。男児では高位・中間位、女児では低位が多い。

Imperforateanus1

【合併奇形】 本症の50%に合併奇形を認める。腎奇形(水腎症、膀胱尿管逆流症など)、心奇形、食道閉鎖症、十二指腸閉鎖症、椎体異常など。

【診断】
会陰部の注意深い視診: 本来の肛門の位置に肛門がない。あるいは肛門の位置に異常がある。瘻孔がある場合はそこから胎便が出てくる。会陰や陰囊の皮下に胎便の透見できる索状物があることもある。男児の場合、瘻孔の位置は肛門窩から陰囊、陰茎背面の間、女児の場合、肛門窩から膣前庭までの間のどこにでもありえる。また、肛門が外見的には正常に見えてもその奥の肛門管や直腸に狭窄があるものも直腸肛門奇形の一つである。

倒立位X線撮影(invertography、Wangensteen-Rice法): 廔孔を伴わない例において、直腸盲端の位置を確認し、病型診断するために行う。ガスが直腸まで到達していなければ診断できず、また盲端部に胎便がたまって誤診することもあるため、近年はより直接的な診断が可能である超音波検査やMRI検査が行なわれる。

瘻孔造影: 廔孔を有する症例では、瘻孔からバルーンカテーテルを挿入して造影を行い、直腸盲端を描出し、瘻孔の長さを計測する。

【治療】
● 低位型では、多くの場合、新生児期に根治手術(一期的肛門形成術)を行う。中間位・高位型では人工肛門を造設後、乳児期に肛門形成術を施行する。従来、後方矢状切開直腸肛門形成術(Pena手術)が広く行われてきたが、近年では、鏡視下手術も行われてきている。

Imperforateanusope

● 術後の排便機能は低位型・中間位型ではほぼ良好であるが、高位型では半数以上に便失禁がみられ、必ずしも良好とはいえない。


Hirschsprung病類縁疾患

2011年08月09日 | 周産期医学

Pseudo-Hirschsprung's disease

腸管壁神経節細胞が存在するが、Hirschsprung病と同様に消化管の運動機能に異常を示す疾患の総称。

多くの異なる病因・病態より構成される疾患群である。本疾患群の発生頻度は非常に低く、病因・病態についても不明な点が多く、また、報告者によって診断基準や概念が異なることもある。

【症状】 Hirschsprung病と同様、胎便の排泄遅延や腹満、胆汁性嘔吐などの新生児期の消化管通過障害、さらに腸炎、巨大結腸、慢性便秘などの原因となる。

【分類】 組織学的に、神経節細胞の数や形態に異常がある場合と、神経節細胞には全く異常を認めない場合がある。

Hirschsprung病類縁疾患の分類
1.腸管壁神経節細胞の組織学的形態異常あり    
 a)神経節細胞減少症 (hypoganglionosis)
 b)神経節細胞未熟症(immature ganglionosis)
 c)IND(Intestinal neuronal dysplasia) 
2.腸管壁神経節細胞の組織学的形態異常なし    
 a)CIIPS(chronic idiopathic intestinal pseudo-obstruction syndrome)    
 b)MMIHS(megacysitis microcolon intestinal hypoperistalsis syndrome)

【診断】 診断基準はいまだコンセンサスを得られてない。

新生児期に排便障害や腹部膨満症状が続くのにもかかわらず、検査所見(注腸造影、直腸粘膜生検、肛門内圧検査)上Hirschsprung病に矛盾する結果を得た場合には、Hirschsprung病類縁疾患の可能性を考慮する。

注腸検査: Hirschsprung病に特徴的な狭小部やcaliber changeは認められないことが多く、直腸からS状結腸にかけての拡張像が認められることが多い。

【治療】
内科的治療: 腸管蠕動不全に対し、消化管運動促進剤としてクエン酸モサプリド(ガスモチン)、エリスロマイシン、大建中湯などが用いられる。栄養管理は可能であれば経腸栄養剤で、それでもイレウス症状や腸炎を発症する場合には中心静脈栄養を併用する。

外科的治療: 消化管の減圧と経腸栄養のために腸瘻造設が行われる。減圧用の胃瘻が置かれることも多い。

腸管蠕動不全が恒常的に続く症例に対しては、小腸移植も適応となるが、現時点では小腸移植の成績は必ずしも満足できるものではなく、リスクとベネフィットを十分に検討する必要がある。

【予後】 未だ治療法が確立されておらず、予後不良の場合が多い。神経節細胞未熟症では成長にともない神経節細胞は成熟するが、神経節細胞減少症では神経節細胞の数が増えない。 


Hirschsprung病

2011年08月08日 | 周産期医学

Hirschsprung's disease

【病態】 肛門側腸管の壁内神経節細胞(Auerbach神経叢およびMeissner神経叢)が先天的に欠如するため腸管の蠕動運動が起こらず、腸閉塞症状をきたす。

Hirschsprung3
腹部の外観

【疫学】 本症の発生頻度は約5000人に1人で、低出生体重児が5%と少ないのが特徴である。男女比は3~4 :1と男児に多いが、病変範囲が長くなるほどほど女児の占める割合が高くなる。

本症の70%は孤立例だが、家族内発生が3~5%にみられる。12%に染色体異常を合併し、うち90%以上はDown症候群である。また、18%に他の奇形を合併し、心奇形や消化管奇形、口唇・口蓋裂、多・合指症などを認める。合併奇形は無神経節腸管の長い例や家族内発症例に多く見られる。

【臨床症状】 病変の長さにより臨床症状の程度に差がある。

本症の90%に胎便排泄遅延を認め、新生児例では腸管ガスの貯留が顕著で、胆汁性嘔吐をみることが多い。時に難治性腸炎を併発し、進行すると敗血症に陥る危険性がある。約 5%に消化管穿孔がみられ、穿孔部位としては盲腸や虫垂が多い。新生児期に原因不明の結腸穿孔をみた際には本症も考慮する。

無神経節腸管が非常に短い症例では、難治性の便秘症として管理され乳幼児期以降、場合によって成人になってから来院、診断されることもある。

【病型分類】 無神経節腸管の範囲により、short segment type(下部直腸に限局)、rectosigmoid type(S状結腸まで)、long segment type(S状結腸より口側の結腸に及ぶもの)、entire colon type(全結腸に及ぶもの)、extensive type(回腸終末部を越えて口側小腸に及ぶもの)に分類され、short segmentおよびrectosigmoid typeが本症の約80%を占める。

※ long segment typeの約50%にRET遺伝子異常が存在するといわれる。(家族内発生)

【診断】

● 直腸診で挿入した指を引き抜くと、多量のガスや水様便の噴出をみることがある。(explosive evacuation)

● 腹部単純X線検査:
腹部全体に腸管ガスの増加、拡張を認めるが、直腸は拡がらずガスが貯留しないため骨盤内のガスは欠如する。

Hirschsprung1

● 注腸造影:
無神経節部腸管はnarrow segmantとして描出され、その口側腸管は拡張し、典型例では巨大結腸(megacolon)を呈する。この腸管口径の変化(caliber change)が特徴的所見である。

Hirschsprung2
?: caliber change(+)

※ 無神経節部腸管が全結腸に以上に及ぶ病型では、典型的なnarrow segmant がみられずに鉛管状を呈する。

● 直腸肛門内圧検査:
正常例においては、直腸が伸展されると内肛門括約筋が弛緩して肛門管内圧が低下する。これは直腸肛門反射と呼ばれ、壁内神経を介して伝達される局所反射である。Hirschsprung病ではこの反射が欠如する。

※ 新生児期では正常児でも反射が出にくい場合があるので注意を要する。

● 直腸粘膜生検:
粘膜下層の神経節細胞欠如と、アセチルコリンエステラーゼ陽性の外来神経線維増生により確定診断が得られる。

【治療】 本症と診断されれば外科的治療が必要となる。

・ 根治手術(結腸pull-through手術): 肛門側の無神経節腸管を切除し、口側の正常腸管を引き下ろして肛門部に吻合する。

※ 基本術式として、Swenson法、Duhamei法、Soave法がある。今日ではこれらの術式を応用した鏡視下手術が標準術式となりつつある。

・ 無神経節部腸管が長く、浣腸や洗腸で排便コントロールが困難な場合には、人工肛門を造設し、乳児期(体重6~7kg)になってから二期的に根治術を行う。

【予後】 病変が全結腸以上に及ぶ症例を除くと死亡率は2%程度であり、予後は良好といえる。しかし、広範囲無神経節症においては排便管理や栄養管理に難渋し、腸炎による敗血症から死に至る例もある。


先天性横隔膜ヘルニア(CDH)

2011年08月07日 | 周産期医学

congenital diaphragmatic hernia

・ 横隔膜の先天性欠損部部位から腹腔内臓器が胸腔内に脱出する。

・ 8割が左側に発生し、脱出臓器は小腸、結腸、脾臓、胃、肝臓などであるが、肝脱出例は重症例が多い。欠損部位は後外側に多い(Bochdalek孔ヘルニア)。

・ 肺低形成による新生児遷延性肺高血圧(PPHN)を伴う。

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Congenitaldiaphragmatichernia

Dherniabefcr

【発生頻度】 2000~3000人に1人で、性差はない。

【合併奇形】 腸回転異常症、心奇形、染色体異常など。

【診断】

・ 出生前診断例が増加している。

本症は、右側で脱出臓器が肝臓のみの場合を除けば、超音波検査で異常を指摘しやすい疾患である。羊水過多をきっかけとすることが多いが、より早期に超音波のスクリーニングで指摘されるケースも増えている。さらに胎児MRIを撮影することによって、解剖学的な異常はおおむね出生前に診断できるようになった。

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胎児超音波検査: 胃(st)と心臓(hrt)が胸腔内に認められる

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胎児MRI: 胸腔内に腸管像を認める

・ 胸腹部単純X線写真: 患側胸腔内の消化管ガス像と縦隔の健側偏位を認める。

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left-sided congenital diaphragmatic hernia

Leftcdh
left-sided congenital diaphragmatic hernia

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right-sided congenital diaphragmatic hernia

【治療】

・ 出生前診断症例では、予定帝王切開あるいは計画分娩を考慮し、出生後に外的な刺激を避けるように管理する。分娩方法は、世界的には経腟分娩が標準であるが、日本では出生直後から万全の体制で新生児の治療に当たれるよう、帝王切開が選択されることも多い。いずれにせよ、本疾患の管理に習熟したスタッフが待機する環境での計画分娩が望ましい。

・ 初療: 経鼻胃管を挿入し、胃内の減圧により肺圧迫を減圧する。鎮静し、気管挿管を行い呼吸管理を開始する。

・ PPHNに対しては、高頻度振動換気法(HFO)、一酸化窒素(NO)吸入療法、体外式膜型人工肺(ECMO)などを考慮する。

・ 手術: 胸腔内に脱出した臓器を腹腔へ還納して横隔膜の孔を閉鎖する。欠損孔が小さい場合には直接縫合できるが、これができないときにはゴアテックスなどの人工布を縫着することが多い。後者の場合、ヘルニアが再発することが多い。

※ 近年、鏡視下手術が導入されつつある。適応に関しては検討が待たれる。

Cdhope

【予後】 本症全体の救命率は60~70%であるが、肺低形成の程度によって予後が大きく異なる。一般的には、肝脱出例、妊娠早期から発見されたもの、羊水過多を伴うもの、超音波で計測した肺が小さいものなどが予後不良因子とされている。また、染色体異常や重篤な心奇形を合併している場合も、予後不良である。


多胎妊娠

2011年08月03日 | 周産期医学

Multiple Pregnancy

[定義] 子宮内に複数の胎児が存在する状態をいう。

2児の場合:双胎(twins)
3児の場合:三胎または品胎(triplets)
4児の場合:四胎または要胎(quadruplets)
5児の場合:五胎または周胎(quintuplets)

わが国における多胎妊娠が起こる頻度は胎児数をnとすると
1/100n-1~1/120n-1とされる。

[疫学] 日本では諸外国と比べて多胎妊娠の頻度は少ない。最近の双胎の出生数は全出生数の1.8%を占める。

最近、日本の多胎妊娠の頻度は増加している。移植胚数制限により、四胎、五胎の妊娠例は減少してきたが、双胎、品胎は依然として増加傾向にある。

[誘因] 排卵誘発、体外受精胚移植(IVF-ET) 

多胎妊娠率:hMG-hCG療法は20~30%、クロミフェン療法は4~8%、IVF-ETは10%である。 

※体外受精の結果発生する双胎のほとんどは二卵性である。近年の不妊治療の進歩とともに、二卵性双胎の頻度が上昇している。

[卵性による双胎の分類]
①一卵性双胎(monozygotic twins)
・ 1つの卵細胞が1つの精子と受精した後に2個の胎芽に分割し、それぞれが1個体として発育するものを一卵性双胎という。

・ 頻度:0.4%(人種、遺伝要素などにかかわらずほぼ一定)

・ 膜性診断:DD双胎、またはMD双胎、またはMM双胎

②二卵性双胎(dizygotic twins)
・ 同時に2つの卵細胞が排卵され、別々に受精・着床し、発育したものを二卵性双胎という。

・二卵性双胎の頻度:人種や遺伝要素などに関係しており、黒色人種、白色人種、黄色人種の順に多いといわれる。母体の年齢とともに増加する傾向がある。わが国における二卵性双胎の自然頻度は、0.2~0.3%と推測されている。 近年の不妊治療の進歩とともに、二卵性双胎の頻度が上昇している。

・ 膜性診断:ほぼすべてがDD双胎(二卵性の一絨毛膜双胎例の報告もある)

[膜性による双胎の分類]
1.一卵性双胎
①二絨毛膜二羊膜双胎(DD: dichorionic diamniotic twins)
 受精後3日以内に分離(25~30%)

②一絨毛膜二羊膜双胎(MD: monochorionic diamniotic twins)
 受精後4~7日に分離(70~75%)

③一絨毛膜一羊膜双胎(MM: monochorionic monoamniotic twins)
 受精後8日以降に分離(1~2%)

・ 一絨毛膜双胎では1つの胎盤を両児で共有するため、胎盤の吻合血管により血流不均衡を生じ、5~15%に双胎間輸血症候群を発症する。

・ MM双胎は、臍帯相互卷絡による血行障害が多いため予後は極めて悪い。以前は約50%以上の周産期死亡率であったが、近年では、より正確な画像診断や新生児管理の向上により20%前後まで改善されている。

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2.二卵性双胎
 ほぼすべてがDD双胎

※ 一般に二卵性双胎はDD双胎となるが、近年では二卵性の一絨毛膜双胎例も報告されている。

[超音波検査による膜性診断]
 多胎妊娠管理のためには、膜性診断がきわめて重要であり、妊娠初期に十分に観察する必要がある。妊娠7 週以前では、羊膜が見づらく、妊娠週数が進むと絨毛膜が相対的に薄くなるとともに、別々だった羊膜が重なり合うために膜性診断が困難となる。妊娠10 週前後に経腟超音波検査にて膜性診断を行う。

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産婦人科診療ガイドライン・産科編2011

CQ701 双胎の膜性診断の時期と方法は?

Answer

1. 双胎の絨毛膜性診断は妊娠10週ごろまでに行う。(A)

2. 超音波検査により、絨毛膜及び、羊膜の数を数えることにより行う。(A)

1) 絨毛膜の数と胎嚢の数は等しいため、胎嚢が2つ確認できれば二絨毛膜双胎と診断し、胎嚢が1つであれば一絨毛膜双胎と診断する。

2) 両児を隔てる隔膜が厚いとき(絨毛膜)は二絨毛膜双胎と診断する。

3) 一絨毛膜双胎の場合、両児を隔てる薄い隔膜(羊膜)が確認できれば一絨毛膜二羊膜双胎と診断する。

4) 一絨毛膜の場合、両児を隔てる薄い隔膜(羊膜)が確認できなければ一絨毛膜一羊膜双胎を疑い繰り返し精査する。

3. 妊娠14週以降など絨毛膜と羊膜が癒合し直接膜の数を数えることができない場合は、隔膜の子宮壁からの起始部の形状、胎盤の数、性別などを参考に膜性を診断する。(B)

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膜性診断における卵黄囊の数の意義は?

従来、卵黄囊の数と羊膜の数は一般的には一致していると考えられていたが、一絨毛膜双胎の15%程度に卵黄囊の数と羊膜の数が一致しない症例があるとの報告や、卵黄囊が2個存在する一絨毛膜一羊膜双胎の報告もあり、卵黄囊の数は膜性診断の補助として利用するにとどめ、正確な膜性診断は膜の数を数えることが原則と考えるべきであろう。

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(図1) 双胎膜性診断のステップ

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超音波による妊娠初期の膜性診断

①二絨毛膜二羊膜双胎(DD双胎) 

一卵性の25~30%と二卵性のほぼすべてがDD双胎とな。

絨毛膜は超音波検査では胎嚢の外周に白く厚い線状の構造として描出される。羊膜は絨毛膜に比して薄い膜様の構造であり、絨毛膜の内側に細い線様のエコー像として描出される。胎児(胎芽)と胎児(胎芽)の間に絨毛膜が存在すれば二絨毛膜双胎である。

妊娠初期に胎嚢が2つ確認できれば二絨毛膜と診断してよい。
絨毛膜の数=胎嚢の数

Dd

Ddtwin_2

②一絨毛膜二羊膜双胎(MD双胎) 

胎児(胎芽)と胎児(胎芽)の間に厚く白い絨毛膜が存在せず、薄い羊膜のみが存在すればMD双胎である。

Md

Mdtwin_2

③一絨毛膜一羊膜双胎(MM双胎)

胎児(胎芽)間に隔膜が存在せず、両児を取り囲むように羊膜と絨毛膜が確認できればMM双胎と診断できる。

羊膜の走行が確認しづらい場合でも、臍帯相互巻絡が確認できれば間違いなく一羊膜双胎である。

Mm

Mmtwin

Mmtwin_2

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(表1) second trimester 以降での膜性診断

Secondtrimester

Twinpeak
λ-sign、twin-peak sign: 子宮壁に接して隔膜の起始部が三角形になる

Mdtwin
T-shape:膜の起始部が薄い膜状の形態

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[双胎妊娠の合併症]
母体合併症: 切迫早産、妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群、HELLP症候群、急性妊娠脂肪肝など。

※ 双胎の常位胎盤早期剥離、HELLP症候群、あるいは子癇では、単胎に比し先行する妊娠高血圧症候群が認められない例が多いのが大きな特徴の一つである。また、双胎妊娠では単胎妊娠に比してHELLP症候群の発症率が高く、その危険は単胎妊娠の10倍以上である可能性が指摘されている。さらに、双胎妊娠においては単胎妊娠と比較して、血小板数低下、肝機能障害、尿酸値上昇、アンチトロンビン活性低下の発生頻度が高く、またこれらの検査異常はHELLP症候群にしばしば先行する。妊娠後半期では、これら検査を適宜行い、肝機能障害が新たに出現するか増悪して、HELLP症候群の発生リスクが高いと判断される場合は、原則急速遂娩とすることで予後改善に寄与する可能性がある。

胎児合併症: 双胎間輸血症候群(羊水過多症、羊水過少症)、双胎一児死亡、胎位異常(懸鉤など)、胎児奇形、胎児発育不全など。

[双胎妊娠の管理]
・ 多胎妊娠では、単胎妊娠と比べて周産期死亡率が高く、母体や胎児の合併症が多いため、妊娠・分娩の管理が重要となってくる。

・ 一絨毛膜双胎では、重篤な合併症がおこることが多く、厳重な管理が必要となる。一絨毛膜双胎の中でもMM双胎は、二絨毛膜双胎に比べて特に厳重な管理が必要である。

管理入院 (通常は妊娠28週頃より必要に応じて)
・ 栄養摂取:単胎妊娠+300kcl/日
・ 切迫早産徴候があれば子宮収縮抑制剤を投与
・ 妊娠高血圧症候群の予防と治療

※ 双胎妊娠の周産期死亡率は37~38週が最も低く、その後は増加する。また、37週以降分娩双胎児の周産期死亡率は40週以降分娩単胎児に比して6倍以上高い。そのため、双胎37週以降は単胎よりも胎児well-beingに注意する必要がある。双胎を何週で誘発すべきかについてはデータがまだ充分にない。

[双胎妊娠における分娩方法の選択] 
どちらか一児でも、明らかなIUGR や胎児心拍パターン異常などがある場合には帝王切開となる。両児ともにwell-being を確認できている場合は、胎位の組み合わせ、推定体重および在胎週数に応じて、分娩様式を検討する。

1)膜性
一 絨毛膜一羊膜双胎(MM双胎)では、臍帯相互巻絡によるリスクから帝王切開を選択する.。

2)在胎週数と推定体重 
各施設のNICU の有無や新生児管理の状況により異なるため、一定の基準はない。1500 g 以上、32週以上では分娩様式による周産期死亡率および合併症に差は認めなかったと報告された。

3)胎位の組み合わせ 
①頭位─頭位、②頭位─非頭位、③非頭位─頭位、④非頭位─非頭位がある。  

分娩様式の基準は施設によって異なるが、頭位─頭位の場合は経腟分娩が選択され、先進児が非頭位の場合は帝王切開が勧められている。  

新生児仮死に関連する周産期死亡率および合併症は、「経腟分娩群」および「第2子帝王切開群」では、「両児とも帝王切開群」に比較して増加するとの報告がある。  

頭位─非頭位の経腟分娩では、第1子娩出後の第2子緊急帝王切開発生リスクは23% と、頭位─頭位での第2子緊急帝王切開発生リスク約7%に比較して高率となるため、経腟分娩を施行するにあたっては迅速に帝王切開が行える状況下で分娩を管理する。

非頭位─頭位で経腟分娩を試行した場合、両児の顎が互いにロックすることで分娩が進行できない状態(懸鉤)となることがある。

※ 三胎以上の多胎妊娠では、低出生体重児や胎位異常が多いため、帝王切開で児を娩出することが多い。

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産婦人科診療ガイドライン・産科編2011

CQ702 一絨毛膜双胎の取り扱いは?

Answer

1. 高次施設に紹介するか、または連携しながら診療する。(B)

2. TTTSや無心体双胎の可能性を念頭に管理し、妊婦や家族にもそのりすくについて説明する。(B)

3. 妊娠14週頃までに、二羊膜(MD)か一羊膜(MM)かの鑑別をする。(B)

4. 二羊膜(MD)では羊水量不均衡と胎児発育に注意し、少なくとも2週間ごとの超音波検査を行う。(C)

5. 一羊膜(MM)では臍帯相互巻絡による胎児突然死の危険性について妊婦や家族にも説明する。(C)

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産婦人科診療ガイドライン・産科編2011

CQ705 双胎の一般的な管理・分娩の方法は?

Answer

1. 妊娠後半期においては早産徴候について十分注意する。(A)

2. 妊娠後半期には、妊娠高血圧症候群、HELLP症候群、血栓症等の発症率が高いので、それらを考慮して検査等を行う。(C)

3. 37週以降双胎は同時期単胎よりも胎児well-beingに注意する。(B)

4. 分娩様式について定説はないが胎位により以下の方法を参考とする。(C)
 1) 両児が頭位:経腟分娩
 2) 第一子が頭位・第二子が非頭位:単胎骨盤に分娩法に準じる
 3) 第一子が非頭位:予定帝王切開

5. 経腟分娩時には、両児の心拍数モニタリングを行う。(B)

6. 経腟分娩の際には、第一子分娩後の第二子心拍数と胎位を確認する。(B)

7. 分娩後出血と周産期血栓塞栓症発症に注意する。(C)

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懸鉤(interlock、locked twins):
骨盤位―頭位の組み合わせで経腟分娩を行った場合、まれに両児の顎が互いにロックし分娩が進行できない状態(懸鉤)になることがある。MM双胎に多いとされ、すみやかに帝王切開を行う。

Interlock

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産婦人科診療ガイドライン・産科編2011

CQ703 一絨毛膜双胎において、双胎間輸血症候群(TTTS)や無心体双胎を疑う所見は?

Answer

1. 一児に羊水過多傾向、他児に羊水過少傾向を認めたらTTTS発症を疑い精査する。(B)

2. 双胎一児死亡と診断されていた児に発育が認められるときは無心体双胎を疑い精査する。(B)

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双胎間輸血症候群(TTTS)

twin-twin transfusion syndrome

【定義】TTTSとは、双胎の一児から他児へ何らかの原因により血液が移行し、供血児(donor)では循環血液量減少、尿量減少、羊水過少をきたす腎不全型を示し、受血児(recipient)では循環血液量増加、尿量増加、羊水過多をきたす心不全型を示す症候群である。

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【診断】 羊水過多児、過少児の最大羊水深度が、それぞれ>8cm、<2cmで、同時にみられた場合にTTTSと診断する。

羊水過多・羊水過少をきたす疾患(胎児消化管閉鎖、泌尿器疾患、前期破水など)は除外される。

【頻度】 TTTSは一絨毛膜二羊膜(MD)双胎の5~15%に発症し、一絨毛膜一羊膜(MM)双胎での発症はまれである。

TTTSは胎盤上での吻合血管の存在が必須であるために二絨毛膜二羊膜(DD)双胎での発症はまずない。

【予後】
・ 周産期死亡率は60~100%におよぶ。
・ 受血児は循環血液量の増加により心拡大を起こし、うっ血性心不全となる。悪化すると胎児水腫となる。また、尿量の増加によって羊水過多となる。
・ 供血児は循環血液量の減少からFGRとなる(stuck twin)。また、尿量減少によって羊水過少となる。
・ 受血児、供血児ともに胎児機能不全に陥り、子宮内胎児死亡となることがある。

※ TTTSは16週未満にも発症する。早期発症TTTSは放置すれば極めて予後不良なので、発症有無確認のために一絨毛膜双胎では頻回の外来受診(少なくとも2週間に1回以上)が勧められる。

【治療】
(1) 体外生活が可能な時期(妊娠26週以降)であれば娩出後に新生児治療を行う。

(2) 妊娠26週未満の治療法
① 羊水除去(AR: aminio reduction)
・ 子宮内圧の減圧により妊娠期間を延長し児の生存率を改善する。
・ ARによる成績は児生存率60%、神経学的後遺症を残す割合は25%である。

② 胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(FLP: fetoscopic laser photocoagulation)
・ FLPは、TTTSにおいて供血児と受血児との間の胎盤吻合血管をYAGレーザーにより凝固・遮断させる方法である。TTTSの原因と考えられている吻合血管を遮断することで、両児間の血流不均衡を是正できる根治療法で、近年注目されている。
・ 欧米と日本でのFLPとARの治療成績を比較した報告をまとめると、少なくとも一児が生存する割合は80%対60%とFLPがやや上回る程度であるが、助かった児がその後神経学的後遺症を残す割合が5%対25%というようにFLPの方が有意にすぐれていると言える。
・ 欧州における前方視的無作為試験でも、Stage Ⅰ~Ⅳにおいて、FLPはARに比較して児生存率を上昇させ、神経学的後遺症を減少させた。
・ 米国での前方視的無作為試験では、FLPのARにたいする有用性は示されなかったが、レーザー手術の治療成績が悪く、手術手技の未熟によるためと考えられた。
・ 本邦においても26週未満TTTSに対してFLPが限られた施設で行われており、児生存率80%、流産率5%、神経学的後遺症5%前後と良好な成績である。

****** TTTSのStage分類(Quintero)

Ttts

注1:Stage Ⅰは、「供血児の膀胱がみえること」かつ「血流異常がないこと」。
注2:血流異常は、1) 臍帯動脈拡張期途絶逆流、2) 静脈管逆流、3) 臍帯静脈の連続する波動のいずれかを、供血児および受血児のどちらか一方に認めれば、stage Ⅲと診断してよい。
注3:血流異常を認めるが供血児の膀胱がみえるものは、Stage Ⅲ atypical と亜分類し、膀胱がみえないStage Ⅲ classical と区別する。
注4:供血児および受血児のどちらか一方に胎児水腫を認めればStage Ⅳと診断する。血流異常や供血児の膀胱の確認は問わない。
注5:供血児および受血児のどちらか一方が胎児死亡となったものはStage Ⅴと診断する。血流異常、胎児水腫の有無、膀胱の確認は問わない。

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本邦におけるFLPの適応と要約
Jpan Fetoscopy Group(JFP)

適応:
・TTTSである(MD双胎、羊水過多>8cm、羊水過少<2cm)
・妊娠16週以上、26週未満
・Stage Ⅰ~Ⅳである

要約:
・未破水である
・羊膜穿破・羊膜剥離がない
・明らかな切迫流早産兆候がない(頸管長20mm以上を原則とする)
・重篤な胎児奇形がない
・母体が手術に耐えられる(重篤な合併症がない)
・母体感染症がない(HIVは禁忌)
・研究的治療であることを納得し同意している

※ 適応は病態の厳密な評価後に決定されるので、病態の評価は超音波・ドプラ検査に習熟した施設で行われ、FLP施行可能な施設への紹介はそれら施設を介して行われている。

※ 本邦でのFLPは、現在、Japan Fetoscopy Group(JFG)に所属する7施設(北海道大学、宮城県立こども病院、国立成育医療センター、聖隷浜松病院、国立長良医療センター、大阪府立母子医療センター、徳山中央病院)にて行われている。

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不均衡双胎(discordant twins)

・ 一般に、双胎で児の体重差が大きい児の25%以上を呈した場合、discordant twinsと診断される。
・ 胎盤内の血管吻合を介する血流移行が成因と一般的には理解されやすいが、出生した児のヘマトクリット値も、大きい児が必ずしも多血症で小さい児が貧血とは限らない。胎盤内血管吻合のない二絨毛膜二羊膜性双胎でもdiscordant twinsは起こりえる。
・ concordant twinsと比較してdiscordant twinsでは、羊水過多症、前期破水、早産、帝王切開分娩が高率に合併する。

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stuck twin現象

[定義] 二羊膜双胎に認められる現象で、一児は非常に重症な羊水過少の腔内で子宮壁に接して存在し胎動も制限され、他児は重症の羊水過多の腔内に存在する。

[頻度] 双胎の8%に合併し、一絨毛膜二羊膜双胎の35%に出現する。大部分は双胎間輸血症候群(TTTS)に合併している。

[予後] 本現象は両児にとって危険な現象であり、特に小さい方の胎児の生存率は20%以下である。

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無心体双胎(acardius anceps)

・ 無心体双胎は1絨毛膜双胎において一児の心臓が欠如(もしくは痕跡心臓)しているが,吻合血管(動脈~動脈吻合)により健常児からの血流で無心体が栄養されている状態である。1絨毛膜双胎の1%もしくは35000分娩に1例とまれな疾患である。

・ 無心体双胎は、無心体児が健常児から供給される血流で生存するため、健常児に心負荷がかかり、羊水過多、胎児水腫をきたす予後不良な疾患である。

・ 妊娠初期に1絨毛膜双胎の一児死亡と診断されていた児に発育が認められるときは、無心体双胎を疑い精査することが大切である。

・ 血流ドプラ検査にて無心胎児の臍帯動脈血流が通常とは逆行性に(胎盤から無心体への拍動する血流)存在することが確認されると診断できる。

・ 治療法としては、無心体児の臍帯血流遮断術が行なわれる。侵襲度の低い方法として超音波ガイド下ラジオ波凝固術がある。(実施施設:国立成育医療研究センター周産期診療部など)

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双胎における流早産、周産期死亡率

・ 平均妊娠持続期間は、単胎で39週、双胎で35.1週、三胎で32.7週、四胎で28.7週と、多胎妊娠では早産となることが多い。

・ 周産期死亡率(出産1000対)は、単胎で5.9、双胎で75.0、三胎で75.4、四胎で102.9である。

・ DD双胎に比較して、一絨毛膜双胎では周産期死亡率が5倍高いとされている。

・ MM双胎では50%に臍帯の相互卷絡が起こるため、MD双胎に比較して周産期死亡率が高い。

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双胎一児死亡

・ 胎盤循環が完成した妊娠中期以降に、一絨毛膜双胎の一児に子宮内胎児死亡を生じた場合、他方の児が脳障害きたしたり死亡したりすることがある

・ 胎盤を共有しない二絨毛膜双胎の場合、双胎一児死亡が起きても生児への影響はほとんどない。

・ 妊娠初期に双胎一児死亡が生じた場合、死亡児は消滅してしまうことが多く、これをvanishing twinという。

・ 妊娠中期以降では、まれに死亡児がミイラ化して紙様児(fetus papyraceus)となり、分娩時まで残存することがある。

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産婦人科診療ガイドライン・産科編2011

CQ704 双胎一児死亡時の対応は?

Answer

1. 二絨毛膜双胎の場合、母体DICに注意しながら待機的管理を行う。(B)

2. 一絨毛膜双胎の場合、児の貧血とwell-beingに注意しながら待機的管理を行う。(C)

3. 一絨毛膜双胎の場合、最善を尽くしても生存児の神経学的後遺症・周産期死亡のリスクが高いことを、妊婦および家族に説明する。(C)

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・ 二絨毛膜双胎の一児が死亡しても急速遂娩を考慮する必要はないと考えられている。母体のDIC発生が危惧されるものの、その発生頻度は非常に低いと考えられている。

・ 一絨毛膜双胎一児死亡後の他児予後は、約50%がintact survival、約50%が死亡もしくは脳障害を有すると推定するのが妥当と考えられる。一児死亡確認後の生存児急速遂娩が生存児予後改善に寄与するとのエビデンスはない。したがって現時点では、一絨毛膜双胎一児死亡の場合、児の貧血、well-beingに注意しながらの待機的管理が勧められる。ただし、生存児がすでに成熟している場合、早期娩出の有益性に関するエビデンスはないものの早期娩出も考慮される。一絨毛膜双胎一児死亡においても、母体DIC発生が危惧されるものの、その発生頻度は非常に低いと考えられている。

・ 胎児Hb値の推定には、胎児中大脳動脈の最大血流速度(middle cerebral artery peak systolic velocity, MCA-PSV)測定が有用である。

****** 一絨毛膜双胎一児死亡時におけるインフォームドコンセントの際、重要と思われる2つの問題:

(1) TTTSにおいて、受血児が胎内死亡した場合と供血児が胎内死亡した場合で、生存児の予後に差があるか?

Answer: 一児死亡後のIUFD、出生児の頭蓋内病変、いずれも供血児が先に胎内死亡した症例で予後良好であった。

(2) 一絨毛膜双胎において、妊娠22週以前一児死亡例でも生存児脳障害発生はあるか?

Answer: これまで妊娠22週未満の一児死亡に限定して生存児脳障害の発生率を調査した報告はなく、一児死亡の発生時期によって生存児の神経学的予後が異なるかどうか不明である。現時点では、妊娠22週未満の一児死亡であっても重篤な神経学的異常を呈する場合があるとしかいえない。


なんとなく元気がない

2011年08月01日 | 周産期医学

Not doing well

意義: 新生児の異常徴候の一つ。明らかな異常が現れる前の活動性の低下や、末梢循環不全などの早期所見の可能性が高い。新生児のケアをする母親や看護師の指摘が契機になる場合が多い。新生児の異常を早期に現す代表的なサインである。

Not doing well (なんとなく元気がない)と思われる状態: 
いつもと比べて活気がない、動きが少ない、啼泣が弱い、傾眠傾向、筋緊張が低い、皮膚色不良(チアノーゼ、蒼白、黄疸)、四肢末端の冷感、哺乳力低下、腹部膨満、易刺激性、体温異常(発熱、低体温)、呼吸不整、無呼吸、頻脈、除脈。

考えられる疾患: 重篤な感染症(髄膜炎、敗血症)、頭蓋内出血、心不全、先天性代謝異常、低血糖など、幅広い病態が考えられる。

検査・対応: 
・ 妊娠分娩の経過を再度確認し、新生児のバイタルサインを確認する。さらに、児を保育器に収容して注意深く観察し、バイタルサインをリアルタイムでモニタリングすることも必要である。
・ 検査としては、CRP、血算、血糖、電解質、ビリルビン、血液・咽頭ぬぐい液培養、血液ガス分析、検尿、胸部X線検査、心臓や脳の超音波検査など行い、異常の原因を検索する。

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問題

Not doing well (なんとなく元気がない)に該当するのはどれか。

a 姿勢は大腿を外転させ、おしりや膝、足首、肘、そして肩を心地よく動かして、左右対称で横たわっている。
b ずっと泣いている。
c 顔に何かが触れるとそれを口で追い、吸い始める。
d 皮膚の色は、黄疸もチアノーゼもなく、蒼白でも多血の色でもない状態。

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正解:b