ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

日本の周産期死亡率:過去、現在、未来

2006年03月30日 | 出産・育児

「周産期死亡数」とは、「妊娠満22週以降の死産数と、生後1週間未満の早期新生児死亡数を合計した数」をいいます。「周産期死亡率」とは、「出生1000に対して妊娠満22週以降の死産率と生後1週間未満の早期新生児死亡率を加えたもの」をいいます。

日本における周産期死亡率は年々減少し、過去20年間で約4分の1、過去10年間で約2分の1に減少し、平成16年の周産期死亡率は3.3(妊娠満28週以降の死産率:2.2、早期新生児死亡率:1.1)です。最近の日本の周産期死亡率の少なさは、群を抜いて世界一の水準となっています。それは、日本の周産期医療が世界に誇れる勲章と考えられます。

かつては日常茶飯事だった死産や新生児死亡も、近年では非常にまれなこととなりました。しかし、世界で一番少ない早期新生児死亡率とは言っても、1年間に111万人生まれる中に、1184人の早期新生児死亡があり(平成16年)、それらを分娩に立ち会った産婦人科医の責任として処罰や莫大な賠償金請求の対象にしようとする動きが近年ますます強まってきました。

そのため、現在、日本では、多くの現役の産婦人科医達が産科の現場からどんどん離れています。また、若い新人医師が産婦人科を専門とすることを嫌う傾向が非常に顕著となっています。全国的に、産婦人科医数の減少、高齢化が急激に進行しており、いまや日本では、産婦人科医は絶滅危惧種とまで言われています。

多くの産科施設が分娩取扱いを中止して、都会でも田舎でも産科施設がどんどん減っており、日本全国に産科空白地帯が急速に広がりつつあります。この国で、現在の周産期死亡率の水準を、今後も維持してゆくことは非常に難しいのではないか?と多くの人が考え始めています。

参考:諸外国の周産期死亡率(出生千対),年次別


町長ら、大野病院に産婦人科医の確保を要望

2006年03月28日 | 報道記事

****** 個人的な感想

地元の人達は、今回の事件のことを一体全体どう考えているのでしょうか?

大学から派遣されて今まで献身的に地域医療に貢献してきた1人の産婦人科医が不当に逮捕されても、それに対してはただ傍観するのみで何の行動も起こさず、代わりの産婦人科医を派遣するように要望するだけとは、一体全体どういうことなんでしょうか?

また、小児科医も麻酔科医もいない病院の1人の産婦人科医を2人に増やしただけで、はたしてまともな集約化と言えるのでしょうか?その程度の消極的な集約化策では、実質的に現状と何ら変わりがないと思われます。新たなる犠牲者を出さないためにも、むしろ、その病院の1人の産婦人科医もいったん大学に引き上げて、小児科医や麻酔科医のいるセンター的な病院に産婦人科医を集約化すべきだと考えます。

******* 毎日新聞、2006年3月28日

大野病院医療ミス:産婦人科休診 医師確保で県に町村会が要望書 /福島

 県立大野病院の産婦人科医が逮捕・起訴され、同病院の産婦人科が今月11日から休診している問題で、周辺町村でつくる双葉地方町村会(会長・横山蔵人浪江町長)の町村長と助役らが27日、県と県立医大に対し、同病院に産婦人科、小児科の常勤医師を確保するよう申し入れた。
 要請書では「医師不足が地域住民に大きな不安と危機感を抱かせている」などとしている。要請に対し、川手晃副知事は「全県内で医師は足りないが、できるだけ対応したい」と述べるにとどまった。
 同病院では、産婦人科医が逮捕された後、県立医大産科婦人科学講座から医師派遣を受けたが、打ち切られた。また、同地方の病院で唯一小児科のあった双葉厚生病院の小児科医が今月末で退職する。【坂本昌信】

******** 朝日新聞

「産婦人科医、確保を」
2006年03月28日

 県立大野病院の産婦人科が休診になっている問題で、大熊町の志賀秀朗町長ら双葉郡の町長・村長など9人が27日、県庁を訪れ、佐藤栄佐久知事に対し、同病院に産婦人科の常勤医を確保するよう要望した。また、同病院に小児科を開設して小児科医を派遣するよう求めた。

 同病院の産婦人科は、唯一人の常勤医が、手術ミスで女性を死亡させたとして逮捕された後、県立医大が産婦人科医の派遣を取りやめたため、休診になっている。双葉地方町村会の渡部宏・常務理事によると、現在、同郡で病院に勤める産婦人科医は、民間の双葉厚生病院の1人のみ。また、双葉厚生病院の小児科医が今月末に退職し、県立大野病院には小児科がないため、同郡内の病院勤務の小児科医はいなくなるという。

 志賀町長らは、県庁の前に県立医大を訪れ、高地英夫・学長あてに、県立大野病院に小児科医と産婦人科医を派遣し、双葉厚生病院に小児科医を派遣するよう、要望を行った。

****** 福島民報(3月28日)

産科医1人、隣町派遣/福医大地元要望受け調整/大野病院医師逮捕

 県立大野病院(大熊町)の産婦人科医師の逮捕、起訴を受け、県立福島医大は大野病院に近い双葉厚生病院(双葉町)に産婦人科医を1人派遣する方向で調整を進めている。27日、双葉地方町村会(会長・横山蔵人浪江町長)の要望を受けた県立福島医大の菊地臣一医学部長が明らかにした。
 双葉厚生病院には現在、産婦人科医1人が勤務している。もう1人派遣して2人体制とすることで、双葉地方の産婦人科医療の水準を維持したい考え。現在、派遣時期を含めて詰めの調整をしている。
 県立大野病院の産婦人科は、医師の逮捕、起訴を受け、今月11日から休診となっている。
 27日は横山浪江町長らが福島市の県立福島医大を訪ね、県立大野病院への産婦人科医と双葉厚生病院への小児科医の常勤医師派遣を求めた。
 菊地学部長は、産婦人科と小児科医療について「医療レベルは高度化し、細分化している。(地域ごとに)集約化が必要だ」との認識を示した。
 横山町長らはまた、県庁で川手晃副知事に要望した。川手副知事は「県全体で医師が不足している。できる限り対応したい」と答えた。


長野県の分娩施設 5年間で20施設減少

2006年03月28日 | 地域周産期医療

3月21日に、全国的な産科医師不足問題を考えるシンポジウム(安心してお産ができる体制作りのために)が長野市内で開かれ、金井誠・信州大学医学部産婦人科講師が、長野県産婦人科医会が行った県内の産婦人科医療供給体制の実態調査の結果を発表した。

** 以下、金井講師の発表内容の要約 **

調査は昨年、産婦人科常勤医がいる長野県内の医療機関119施設を対象に行い、107施設から回答があった。回答施設のうち分娩を取り扱っている施設は、病院35、有床診療所18の計53施設で、全体の半数程度にとどまった。分娩取扱い施設は年々減少し続けており、この1年間で8施設、過去5年間までさかのぼると20施設が中止した。

分娩施設減少の要因である産科医不足について、産科2次施設(小児科医が常勤し、2005年中に転院搬送依頼を受けたことがある)における産婦人科医師動向からみると、04年は「産休や育休」「県内で開業」などによって10人が退職、05年は「他大学の人事で県外へ異動」「結婚などにより県外に流出」などによって12人がそれぞれ退職した。さらに06年春には「他大学の人事で県外へ異動」などにより7人が退職を予定。これを合わせると3年間で29人が2次病院から離任することが見込まれ、「今後も分娩に携わる人材や施設の減少が危惧される」と金井講師は話した。

これに対し、こうした退職分の補充は0203年に信大へ新たに入局した14人と、0305年に県外から流入した4人と信州大の人員削減でカバーした。しかし、今後は2次病院からの離職が続いても「どこにも補充する人員がいない」(金井講師)状況。このため金井講師は、近い将来、県内で産婦人科医療供給が崩壊する地域が広範囲に出現する可能性を示唆した。

今回のアンケート調査でも、「近い将来に分娩を中止する可能性がある」と回答した施設が、分娩取扱い施設の約3割にあたる15施設に上っており、金井講師は、周産期医療に関わる医師だけでなく、助産師や看護師、行政、地域住民などによる地域周産期医療対策会議を立ち上げる必要性を強調した。


報道記事:全国周産期医療連絡協議会の声明

2006年03月27日 | 報道記事

*** 共同通信、社会ニュース
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060327-00000179-kyodo-soci

逮捕、起訴は疑問と声明 周産期医療の医師団体

 福島県立大野病院で帝王切開を受けた女性が死亡し、医師が逮捕、起訴された医療事故で、全国周産期医療連絡協議会は27日、「不幸な出来事が医師個人の責任として問われたこと、逮捕、起訴にまで至ったことは疑問」などとする声明を厚生労働省や捜査当局に提出したと発表した。
 同協議会は、妊娠後期から新生児早期までの周産期の診療に当たる医師ら約50人で組織。
 声明では、逮捕、起訴は「産科を志す医学生の減少や全国的な産科医不足に一層拍車を掛ける。地域の周産期医療が崩壊し、安全で安心なお産ができる地域が激減してしまう」とした。
 さらに「最善を尽くし診療に当たっても、一定の頻度で不幸な出来事が起こることは避けられない」と指摘し、再発防止には周産期医療システムの改善などの施策が必要と要望した。

(共同通信) - 3月27日17時58分更新

******** 全国周産期医療連絡協議会
http://mf-med.umin.jp/

高次周産期産科医療を担う医師からの声明

はじめに、亡くなられた患者様とそのご遺族に対して心より哀悼の意を表します。

お産や手術に際して、担当した患者様が亡くなられる事は、ご家族と同様に、私たち周産期医療に携わるものにとっても大変残念で悲しい事であり、現代医療の限界を痛感させられるものです。

さて、福島県の県立病院において帝王切開中の大量出血により患者様が亡くなられた件で、帝王切開術を担当した産科医師が逮捕・起訴されました。このこと(逮捕・起訴)につきまして、全国各地域において周産期医療をささえる責務のある高次周産期医療施設の集まりである本会としても、日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会の共同声明ならびに、新生児医療連絡協議会の声明を強く支持せざるを得ません。


世界に誇れる日本の周産期医療において最善を尽くし診療に当たったとしても、ある一定の頻度で不幸な出来事が起こることを避けることはできません。このことは、一般の産科医療施設のみならず、3次あるいは2次施設としての総合・地域周産期母子医療センターにおいても同様です。今回の不幸な出来事が一人の医師個人の責任として問われたことには疑問を抱かざるを得ません。

さらに今回のことが、近年問題となっている産科を志す医学生の減少、全国的な産科医不足や産科医療施設の閉鎖に一層拍車をかけ、地域の周産期医療が崩壊し、妊婦さんたちが安全に、安心してお産ができる地域が激減してしまうのではないかとたいへん危惧しております。

今回の件に対して、適切な医学的見解に基づいた判断により、周産期医療システムの改善も含めた再発防止に向けた最善の施策を講じるために、国民の皆さん、妊婦さんとそのご家族、医療機関、行政機関に最大限のご協力をいただくよう、強く要望致します。

2006316

全国周産期医療(MFICU)連絡協議会
代表 末原則幸
会 員 一 同

******** 山口県支部声明
http://www.jaog.or.jp/JAPANESE/MEMBERS/sibu/35yamaguchi/news/news060324.pdf

         抗議声明

福島県の県立病院で平成16年12月に腹式帝王切開術を受けた女性が死亡したことに関し、手術を担当した医師が業務上過失致死罪で逮捕、勾留、起訴された件に関して、抗議声明します。

はじめに、本件で亡くなられた患者様、および遺族の方々に心からお悔やみを申し上げます。

 この医療事故に関しては、福島県により事故調査委員会が開催され、すでに報告書が作成され、関係者の処分が行われています。また、当該医師はその後も同病院にて勤務を続けていることから、証拠隠滅や逃亡の恐れはなく、逮捕、勾留の必要性は全く認められなかったと考えられます。

 癒着胎盤は術前の診断が極めて難しく、また治療の難度が高い疾患です。本件においては、医療事故調査委員会の報告によると、患者から子宮温存の希望があったため、子宮摘出の判断に遅れが生じたとされていますが、当該医師は手をこまねいていたわけでなく、胎盤剥離部位の縫合、ガーゼによる充填圧迫、子宮動脈血流遮断、そして最終的に子宮摘出という処置を試みています。

  今回のように診療上ある一定の確立で起こり得る不可避な事例に対し、その状況下において、できる限りの処置を行なったにもかかわらず、刑事責任を問われ逮捕、起訴されるようなことが許されれば、今後は、産婦人科医療だけにとどまらず、すべての医療が萎縮し、医療レベルの低下を招き、ひいては国民の不利益になるものと考えます。

 ここに、医療に携わっている我々の社会的使命によって、強く抗議します。

平成18年3月24日
日本産婦人科医会山口県支部長    伊東武久
日本産科婦人科学会山口地方部会会長 杉野法広

******** 栃木県支部声明
http://www.tochigi-og.org/visitors/fukushima01.html

福島県産婦人科医不正逮捕事件について

                         声明文

福島県立大野病院の産婦人科医師の逮捕事件に抗議

 先ずは、今回ご逝去された患者様とご家族並びに親族の皆様に対して深甚なる哀悼の意を捧げたいと思います。
 去る2004年12月17日に福島県立大野病院産婦人科で帝王切開手術を受けた患者が、不幸にも予知することが極めて困難な癒着胎盤による出血多量で死亡し、担当医師が業務上過失致死と医師法21条(異状死の届出義務)違反で2006年2月18日に逮捕され、起訴されました。1年以上経過した後に「証拠隠滅のおそれ」等を理由としての拘留は、多くの医療関係者が驚愕するとともに、なぜ今逮捕なのかと疑問に感じております。
 この事件は、国が医師法の21条の「異状死」の定義、判断を明確に示さず、解釈を現場の医師に委ねたことに、大きな要因があります。医師が扱わなければならない疾患の中には、最善の治癒と考えて施した手術でも、時に予見できない合併症などがあります。
 今、全国的に医師不足が社会問題になっており、とりわけ産婦人科や小児救急の担い手不足が深刻でありますが、産婦人科医療の特殊性に何ら配慮することなく、結果だけで医師個人に責任転嫁した福島地検および福島県警の過剰行使に強く憤りを感じる次第です。
 我々は、今回の不当逮捕に対し強く抗議するとともに速やかに医師法21条の改正もしくは明確な解釈を示していただき、今後、二度とこのような事件が起こることのないよう医療の改善に向けて全面的な支援を表明いたします。

平成18年3月23日
日本産婦人科学会栃木地方支部会長 鈴木光明
日本産婦人科医会栃木県支部長       野口忠男


産科 厳しい現実に尻込み

2006年03月26日 | 地域周産期医療

いまや、産婦人科の新人医師の7割は女性という時代になっています。また、卒後研修の最初の頃は産婦人科志望だった女性研修医が、2年間の卒後研修期間中に産婦人科医達の激務ぶりを目の当たりにして、途中から他科志望に変わってしまう事例も少なくないように聞いてます。

これからは、女性医師が産婦人科を一生の仕事として選択しても、結婚・出産・子育てと仕事を無理なく両立できて、子育てをしながらでも、仕事を中断しないで、十分な研修・臨床経験を積んで、医師として成長してゆけるような魅力ある職場環境に変えていかなければならないと考えています。

******* 読売新聞、2006年3月25日

産科 厳しい現実に尻込み

 「産科や小児科の現場を見て、尻込みしました」

 医師になって2年間、今月まで金沢大などで臨床研修を受け、来月から内科に進む島田幸枝さん(26)は、複雑な表情で語る。

(中略)

 島田さんは今月結婚した。いずれ子供が欲しいが、仕事も中断せずに続けたい。産婦人科や小児科は魅力的だが、仕事と家庭を両立できるだろうか。

 「産科や小児科では、若い間は身を粉にして働けるかもしれないが、燃え尽きてしまいそう」。結局、内科医を目指すことにした。

 日本産科婦人科学会の調査では今春、臨床研修を終え、大学や研修指定病院の産婦人科に入る医師は約310人。最近数年に比べ1割以上減った。東北地方12人、北海道7人、北陸9人など、特に地方は少ない。

 調査をまとめた藤田保健衛生大産婦人科教授の宇田川康博さんは「現場を体験して進路を決められる研修は、研修医には望ましいが、働く環境が厳しい産婦人科や小児科の医師不足を加速させてもいる」と話す。

 全国の80大学病院の産婦人科のうち、入局予定者ゼロは14か所あった。金沢大もその一つだ。

 同大産婦人科医局長の田中政彰さんは「島田さんのように、熱心に産科研修に取り組んだ人に来てもらえないのは残念だ。魅力ある産婦人科診療の体制をどう整えるかが問われている」と言う。

 今春、産婦人科に新たに入る医師の7割が女性だ。それだけに女性が働きやすい環境作りが望まれる。産科や小児科を志す医師をどう育て、支えていくか。課題は多い。(田村良彦、坂上博、中島久美子)

 大学産婦人科への入局予定者数 今年1月の日本産科婦人科学会調査で「ゼロ」と回答したのは、旭川医、弘前、東北、東海、富山、金沢、愛知医、京都府立医、島根、山口、産業医、福岡、久留米、琉球の14大学。一方、10人以上だったのは、慶応、昭和(各14人)、東京(12人)の都内3大学だった。

(2006年3月25日  読売新聞)

今後の地域の周産期医療のあり方は?

2006年03月24日 | 地域周産期医療

****** 私見

地域の拠点病院への産婦人科医の集約化を実行しようとする時には、集約化される病院と撤退する病院とを決めなければなりません。その時、撤退する病院の地元住民の反対運動が必ず巻き起こると思います。しかし、将来のビジョンなく、ここ1~2年を何とか持ちこたえるだけの、単なる一時しのぎの人気取りの政策だけでは何にもなりません。

地域の周産期医療を絶滅の危機から守り、10年後、20年後も持続可能な地域周産期医療体制を確立するために、今やらねばならないことを断固実行してゆかねばなりません。

産婦人科医2~3人の体制では、どうしても過重勤務になってしまい長続きしないと思います。これから産婦人科医を集約化して新たに周産期センターを作るとすれば、やはり産婦人科常勤医10人体制くらいが理想的な規模だと思われます。当直はせめて週1回程度で、当直の次の日は非番になるような勤務体制を組める規模が望ましいと思います。(いきなりすべての産科施設を産科医10人体制にするのは現実的に無理だとしても、せめて最低5人体制程度にはしないとシステムの長期的な維持が難しいと思います。)

****** 毎日新聞

応援継続を要望--三春町長

 県立大野病院(大熊町)の医療事故をめぐり、産婦人科医の1人勤務体制が課題となっている問題で、三春町の鈴木義孝町長は20日、県立三春病院(三春町)への県立医大からの産婦人科医の応援を継続するよう佐藤栄佐久知事に要望書を提出した。

 三春病院は、県立病院としての廃止決定を受け、07年4月から町立病院に移行する。現在、産婦人科は常勤医1人と県立医大からの派遣1人の2人体制で運営している。

 要望書は「県立医大では、医師不足から医師派遣取りやめや地域の拠点病院への集約化に向けて検討すると聞いている。仮に現体制が維持できないままに移譲を受けるようになれば、地域住民に不安が広がり、町の病院開設に危機感を持つ」と訴えている。

 これに対し、佐藤知事は「体制についてはこれから検討するので、三春病院についてどうなると決まっているわけではない」と即答を避けた。鈴木町長は「田村地域で産婦人科があるのは三春病院だけ。しっかりした体制を組んだ上で病院の移譲を受けたい」と重ねて要望した。【上田泰嗣】

毎日新聞 2006年3月21日


岩手県医師会、広島県医師会の抗議声明

2006年03月23日 | 大野病院事件

岩手県医師会会長  石川 育成
     日本産科婦人科学会岩手地方会
              会長  杉山 徹
     岩手県産婦人科医会
              会長  小林 高

抗議声明

 はじめに、平成16年12月、福島県大野病院にて帝王切開を受けられ、お亡くなりになられた方とご遺族に対し、心よりの哀悼の意を捧げます。
 平成18年2月18日、この帝王切開術を執刀した加藤克彦医師が業務上過失致死および医師法違反の容疑で逮捕、その後起訴されました。すでに福島県では事故調査を行い、報告書が作成されたうえで処分も終了し、加藤医師はその後も大野病院唯一の産婦人科医として献身的に 勤務し続けており、「逃亡のおそれ」、「証拠隠滅のおそれ」とする福島県警の今回の逮捕・起訴理由は到底我々には理解出来ないものであります。また、医師法違反の容疑は、異状死を警察に届出なかったこととされますが、そもそも異状死の概念や定義が曖昧な上に、今回は医学的に予測困難な癒着胎盤が原因であり、医療行為の過失がすべての原因とは考えられず、届出義務は生じないものと判断します。岩手県医師会、日本産科婦人科学会岩手地方会、岩手県産婦人科医会は、今回の逮捕・起訴が不当と判断し、また、司法の介入に正当性がないことに対して強く抗議いたします。
 業務上過失致死容疑は、癒着した胎盤を無理に剥離して大量出血をきたし、死に至らしめたということですが、癒着胎盤はすべて予見できるわけではなく、臨床の場で予見困難な場合は用手的に剥離を試みることが通常に行なわれます。医学的な見地からは胎盤の一部が剥離困難で強度な癒着があった場合、剥離を中止すべきか、剥離を進めるべきかを判断し、その結果を予見することは非常に困難であります。さらに、大野病院の置かれた環境、輸血供給の現状での加藤医師の判断は妥当な範囲内であったと考えられます。すなわち、医師の裁量権の範疇であり、業務上過失致死容疑には該当しないものと考えます。
 我々医師は日常の診療において、日夜いかなる状況に於いても最善の医療を提供することを目標としております。しかし、医学の発展があっても、分娩周辺期の不幸な事象を完全にゼロにすることはできず、残念ながら、医療ミスとは別に今回の件のようにある一定の確率で不可避かつ不幸な事態は起こり得ます。どれだけ努力しても、結果論で責任を問われ、逮捕、起訴されるようであれば、もはや産婦人科医は危険性を伴うであろう分娩に対し、積極的な介助を行うことは不可能となり、これは患者さんにとっても不幸なことだろうと考えます。さらに、現実的には、産婦人科を志す医師の減少に拍車がかかり、地域医療への影響も大きく、過疎地域においては分娩ができない事態へと発展すると推察できます。 
 繰り返しになりますが、今回の事件において加藤克彦医師は最善を尽くしたと考えます。不幸な結果は真摯に受け止めなければなりませんが、最善を尽くした医療結果に対して刑事罰を課さねばならない過失があるとは到底思えません。警察や司法に適切な医学的考察に基づく再考をしていただくよう要請致します。
 以上、私たちはここに加藤克彦医師を支援するとともに、逮捕、起訴に対して強く抗議するものであります。

******* 広島県医師会の声明文

福島県立大野病院産婦人科医逮捕・起訴について

 声明文

 まずは、今回お亡くなりになった患者様とそのご家族の皆様には衷心より哀悼の意を表します。

 去る2004年12月福島県立大野病院産婦人科医師が行った帝王切開術において癒着胎盤のため大量出血を来たし、その結果児は救命できましたが、残念ながら必死の努力にも拘わらず母親は死亡しました。これに関連して執刀医が業務上過失致死および医師法違反で2006年2月18日逮捕され3月10日には起訴されました。
 大量出血の原因となった癒着胎盤という疾患は、約1万の妊娠にひとりというまれなもので、また術前診断も困難で、かつ産科疾患の中でも治療が特に難しいとされています。母体の死亡という非常に残念な最悪の結果となりましたことに対しましては、医学の無力さと限界を感ぜざるを得ません。そして、今回のこの不幸な結果は、特に治療上過失とされるような行為があったという訳ではないと確信しております。もちろん医学的には反省や再発防止を含んだ議論があるのは認めますが、直ちに逮捕されなければならない事例とは思えません。また、起訴理由になっている異状死の報告義務違反についても、執刀医である加藤克彦医師は患者の死亡が確認されたすぐ後に上司である院長に報告しており、院長はその時点では「医療過誤による異状死とはいえず、報告の義務はない」と判断されていることより、少なくとも加藤医師については異状死報告義務違反には当たらないと考えます。
 さらに、2004年12月に発生したこの事例について1年2ヶ月も経ってからの逮捕の理由のひとつが「証拠隠滅のおそれ」とのことでありますが、すでに2005年4月には証拠物件であるカルテ等は差し押さえなどの処分もなされていますし、その後も同医師は大野病院において産婦人科診療に当たっておられますので、上記のような理由で逮捕する根拠は薄弱というほかなく、警察権の過剰行使といっていいのではないかと思います。
 医師が扱わねばならない多くの疾患の中には、時に予見できない合併症や予見できたとしても、それをはるかに凌駕するような合併症が起こることは避けがたいことであります。結果論でああすればよかった、こうすれば良かったというのは、神ならぬ身の一般臨床医にとってあまりに酷な要求であり、「判断ミスは許さない」、「結果が悪ければ逮捕」というのではわれわれ医師は今後前向きに治療をすすめることができなくなり、ひいては医療レベルの低下を来たし、結局は患者さんへの不利益につながるものと思います。
 以上に述べた理由から、このたびの逮捕はリスクのある難病に対して真摯に診療をおこなう医師たちのやる気をそぐような処遇であり、いわば不当逮捕とも言えるのではないかと考えており、まったく容認することはできません。私たち広島県医師会常任理事会は福島地検および福島県警が加藤医師に対する起訴をただちに取り下げることを強く要求するものであります。私たちは今後、こういった事例が二度と起こらぬように、中立的な立場で適正な医学的根拠に基づいた判断の上で事の是非を判定できるようなシステムが構築されることを強く望むとともに、それに向かって努力していきたいと思っています。

平成18年3月20日広島県医師会常任理事会


福島県立大野病院事件に対する日本医師会の考え

2006年03月23日 | 大野病院事件

日本医師会ホームページ、日医白クマ通信(3月23日)

福島県立大野病院事件で日医の考えを説明

 福島県立大野病院で帝王切開手術の執刀(平成16年12月)を行った産婦人科の医師が、医師法第21条違反と業務上過失致死の疑いで逮捕・起訴された問題で、櫻井秀也・寺岡暉両副会長ならびに藤村伸常任理事は、3月22日、記者会見を行い、この問題に対する日医の考えを説明した。

 記者会見では、まず、藤村常任理事が、a.関係各所への事実関係の確認等を行うとともに、弁護士を現地へ派遣して調査を行ったこと、b.「医師法第21条の問題」は全会員に関連のあるものとして適確な対応が必要であるが、詳細が不明なため、慎重に対応することを確認したこと―など、これまでの日医の対応を報告。

 そのうえで、櫻井副会長が、今回の件に関する問題点として、次の3点(「医師が逮捕されてしまったこと」「逮捕の容疑として、業務上過失致死が挙げられていること」「医師法第21条に規定されている異状死の届出義務違反に問われていること」)を指摘するとともに、診療中の患者さんが医療上の事故によって死亡した疑いのあるような場合には、第三者機関に届け出ることのできる仕組みを構築することを求めた。

 今後の対応については、寺岡副会長が、「当面の対応としては、『診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業』を全国規模に広げ、事例届出の窓口の一元化を図るべき」としたほか、藤村常任理事は、会内に委員会を立ち上げ、医師法第21条の廃止の是非を含めた検討を4月にも開始することを明らかにした。


産科医不足問題、長野でシンポ

2006年03月23日 | 地域周産期医療

産科医不足が深刻化する中、県内の産婦人科を持つ病院や診療所の半数で、医師の高齢化などを理由にお産の取り扱いをしていないことが分かりました。これは長野県産婦人科医会(厚生労働省の特別研究班)が長野市で開いたシンポジウムで報告したものです。調査は常勤の産婦人科医がいる県内の全ての病院と診療所119施設を対象に行なわれ、回答のあった107施設のうち、医師の高齢化などを理由に分べんを扱っていないとした施設は54施設で、およそ半数に上っています。また、現在分べんに対応している53の施設の中で15の施設が「今後、分べんの取り扱いを止めたり、医師が減少したりする可能性がある」と答えていて、産科医不足の深刻さを浮き彫りにしています。

********信濃毎日新聞(3月22日)

「安心のお産を」産科医不足問題、長野でシンポ

 全国的な産科医師不足問題を考えるシンポジウムが21日、長野市内で開かれた。厚生労働省は、医師確保が難しい地域で医師を中核病院に集約させる方針を示しており、参加者から「産む側の声に耳を傾けて」といった訴えが相次いだ。

 シンポジウムは厚労省産婦人科医療提供体制の緊急的確保に関する研究班の主催。産科休止を巡る動きが広がっている県内で住民の声を聞こうと企画した。母親、医療、行政関係者ら約150人が参加した。

 この日報告された県産婦人科医会の調査(昨年12月)によると、回答があった107施設のうち、20施設が過去5年間で産科を休止、53施設が現在、お産を受け入れている。県内では緊急手術などを受け入れる2次医療施設(地域の中核的な総合病院)で扱うお産が全体の53%を占めるが、そこに勤務する医師86人のうち、今春に開業や県外への異動で7人が退職予定。15施設は産科休止や医師減少の可能性が「ある」と回答し、産科医不足が進む見通しになっている。

 調査をまとめた信大医学部の金井誠講師は「医師の補充は難しく、産科医療体制が崩壊する地域が出てしまう。医療関係者や住民による地域ごとの対策会議を設け、具体案を考えていくべきだ」と提案。上田市産院の存続運動に取り組んだ桐島真希子さんは「大病院でのお産は流れ作業のイメージがある。医師の集約が避けられないならば、母親の声を聞いて安心してお産できるよう考えてほしい」と訴えた。

(以下略)


産科問題について地域住民との意見交換

2006年03月23日 | 飯田下伊那地域の産科問題

産婦人科医がどんどん減って、地域の産科施設が激減している今、何も対策を講じなければ、早晩、地域から産婦人科機能が消滅してしまうことは確実です。地域の産婦人科機能を維持するためには、今、地域としてどう対策を講じたらいいのか?ということを地域全体で考えるべき時だと思います。

***** 中日新聞、長野 (3月22日)

医師ら住民と意見交換 飯田で産科問題懇談会

 飯田下伊那地方の産婦人科病院が相次いで産科をやめている問題で、南信州広域連合や地元の産科医師らが対応を話し合う産科問題懇談会が二十日夜、飯田市役所で住民の意見を聞く会を初めて開いた。出席した出産経験者からは、飯田市立病院だけでなく、開業医など多様な産み方ができる体制づくりを求める意見が相次いだ。

 意見を聞く会のメンバーは、飯伊地方の保健師や保育士、育児サークル、松川町の下伊那赤十字病院の存続運動をする「心あるお産を求める会」などの女性十九人。産科問題懇談会の医師らから「当事者の母親からも意見を聞くべきだ」との意見が出たことから開かれた。

 出席した母親らからは、「飯田市立病院への集約も大事だが母親が産み方を選べる環境にしてほしい」、「助産師をもっと活用してはどうか」、「検診と出産する病院が違うのは、妊婦にとって不安が大きい」などの意見が出された。

 また、二月から飯田市立病院へ産科医一人が信州大学から派遣されていることに対し、「下伊那日赤に回すことはできないか」とする要望が出された。

 これに対し、市立病院の産婦人科医師は「一人増えて四人でも足りない。市立病院を十年、二十年後もお産が続けられる核となる病院にしていくことが必要」と答えた。 【西尾玄司】


本年度の医学部産婦人科への新規入局状況

2006年03月20日 | 地域周産期医療

************ 感想

新規入局者の獲得競争では、地方大学産婦人科は相当な苦戦を強いられているようです。この逆風の中で、一人でも新規入局者を獲得できでば、値千金の大手柄です。研修受け入れ先の大学の関連病院としても、若手医師にとって魅力のある研修病院に大変身してゆく必要があると考えています。

3月23日に追加投稿

*********毎日新聞、社会ニュース(3月23日)

<産婦人科医>志望4割減 不規則勤務、訴訟リスク…

 04年度に必修化された2年間の臨床研修制度を終えて4月から大学で産婦人科を専門に選ぶ若手医師は、制度発足前に比べ4割も減ることが日本産科婦人科学会(日産婦、武谷雄二理事長)の調査で分かった。勤務条件の悪さや出産トラブルによる訴訟が多いことが敬遠材料になっている。福島県立大野病院で起きた帝王切開手術中の死亡事故で、産婦人科医が業務上過失致死などの罪に問われ、学会内には「さらに希望者が減る」との懸念もある。

 調査は今年1~2月に全国81大学の産婦人科医局を対象に実施した。研修を終え、4月以降に医局に入る医師数やその減少の理由を聞いた。

 81大学の産婦人科医局に入局する医師は合計で210~212人と推計された。臨床研修制度の発足前の年間約350人に比べ4割減だった。

 特に、北海道や東北、信越地区と九州の大学で減少が目立った。

 志望者が減った理由について16大学は「臨床研修制度でほかの診療科を経験し、負担の多い診療科を敬遠するようになったため」と回答。夜間や休日の出勤が多いなど勤務条件の悪さや訴訟のリスクが高いことを挙げる回答も目立った。

 「(勤務条件のいい)麻酔科や皮膚科、形成外科に人気が集中し、志望者の1人が麻酔科に変わった」(信州大)や「入局を勧めたが、(勤務がきついと)拒否された」(山口大)など、リクルートの難しさを指摘する意見も寄せられた。

(以下略)

(以上、毎日新聞より引用)

******* デーリー東北新聞社、2006年3月19日(日)

弘前大産婦人科教室への入局者3年連続ゼロ

 弘前大医学部産婦人科学教室(旧・医局)への二〇〇六年四月の入局予定の医師がいず、〇四年度から三年連続で入局者ゼロとなる見通しであることが、十八日分かった。東北六県の大学医学部でも、入局予定者は合計で、わずか八人にとどまる。激務や医療訴訟の多さなどが背景にあり、産婦人科医不足はますます深刻な状況になっている。

 同日、弘前市で開かれた青森県臨床産婦人科医会で、弘前大の横山良仁講師が明らかにした。
 それによると、東北地方の医学部がある六大学の産婦人科学教室への〇六年四月の入局者見込みは、福島県立医科大が最多の四人、岩手医科大は二人、秋田大と山形大はそれぞれ一人。弘前大と東北大はともに三年連続で入局者がゼロだった。
 全国的にみても、産婦人科へ入局予定の医師は二百十人。〇三年度の四百十五人と比べ、ほぼ半減する。また約三分の一が首都圏の大学に入局する見通しで、都市への偏在に拍車がかかる。
 十八日の医会には約七十人が出席。医学生や研修医、医師の代表者が「産婦人科医獲得を目指して」をテーマに意見を発表した。
 医学生は「忙しくて訴訟が多いというマイナスイメージが大きい」、「(産婦人科は)学生時代の実習で広く学ぶことが困難で、興味を持つことができない。改善が必要」と訴えた。医師からは「地域の偏在は何もしなかった厚生労働省のミス」、「安心して働くことができる環境をつくることが大事だ」と指摘した。

**********東奥日報 2006年3月19日(日)

産婦人科への新規入局 弘大ゼロ

 二〇〇六年度、東北地方の六大学の医学部産婦人科に新規入局する若手医師は計八人にとどまり、うち弘前大学はゼロであることが日本産婦人科学会の調査で分かった。新規入局者は全国で二百十人と、三年前に比べ半減。地方大学の産婦人科が先細りする一方で、全体の三分の一余りの七十三人が東京都での勤務を予定しており、不均衡な一極集中も浮き彫りになった。

 調査は三月で二年間の卒後臨床研修を修了する研修医の入局意向を把握するため、同学会が二月、全国八十一大学付属病院の教授、総医長、医局長に対しアンケート形式で実施した。回収率は100%。十八日に弘前市の弘前プラザホテルで開かれた「県臨床産婦人科医会」で、弘前大学医学部の産婦人科医師が発表した。

 調査によると、来年度の医学部産婦人科入局見込み者は全国二百十人。二〇〇四-〇五年度は卒後臨床研修制度のスタートに伴い、全国的に新規入局者がいないため比較できないが、〇三年度の四百十五人に比べると半減した。地区別では東京都七十三人、関東(東京都を除く)二十八人、大阪府十人、中部三十六人、九州十四人、東北八人、北海道五人など。東北地方八人の内訳は弘前大学ゼロ、岩手医科大学二人、東北大学ゼロ、秋田大学一人、山形大学一人、福島県立医大四人となった。

 〇一-〇三年度をみると、弘前大学は毎年三人ずつ入局し、東北六県では十八-二十四人の新規入局者がいただけに来年度は大きく減員することになる。これは過重勤務、訴訟の多さなどにより産婦人科を敬遠する傾向が強まったことや、研修先を選択できるようになった卒後臨床研修制度により、若手医師の都会志向や大学病院離れが一気に顕在化したものとみられる。


医師不足に危機感 東北6大学シンポ 地域医療の課題探る

2006年03月19日 | 地域周産期医療

************ 私見

東北地方では、県や大学の枠を超えて、地域医療を崩壊の危機から守り、医療の安全性を確保するためにも、自治体病院の再編・集約化を強力に推進し、医療体制を変革していこうという気運が高まっているようです。しかし、これを実行に移そうとする時には、総論賛成・各論反対の地域住民の反対運動によって医療体制変革が阻止され、結局は地域医療の崩壊がますます加速化される結果となってしまうことも危惧されます。各県の実情に応じて、地域(周産期)医療体制の崩壊を阻止するために、いま我々は何をしなければならないかを、医療側、行政側、住民側で、よくよく話し合ってゆかねばならないと思います。

****** 河北新報、東北ニュース、3月19日

医師不足に危機感 東北6大学シンポ 地域医療の課題探る

 東北の地域医療の将来像を探るシンポジウム「東北6大学医学部 地域医療の取り組み」が18日、仙台市青葉区の勝山館で開かれた。地方の医師不足や都市部への集中といった問題について、「東北は医師数が絶対的に足りない。現場で働く医師が燃え尽きないような改善策が急務だ」などの意見が上がった。

 主催は東北大大学院医学系研究科。シンポでは弘前、岩手医、東北、秋田、山形、福島県立医の6大学医学部の地域医療担当の教員が取り組みを紹介、パネル討論で大学の枠を超えて意見を交わした。

 各県で進められている自治体病院の再編について、弘前大の新川秀一教授が「総論賛成、各論反対というのが現状。100床規模の病院が幾つもあるより、統廃合してネットワークを作った方が、若い医師が地方に集まるはず」と訴えた。

(以下略)

(河北新報、3月19日)

******

~安心してお産ができる体制作りのために~

いま何をすべきか、県民のみなさまと産婦人科医療を考えるシンポジウム

日時:平成18年3月21日(火:祝日) 13:00-16:00

場所:長野県農協ビル アクティーホル
    
(JR長野県から徒歩約10分)
長野県南長野北石堂町1177番地3
TEL: 026-236-3600  FAX: 026-236-3525
http://www.janis.or.jp/users/jabill/

シンポジウム内容:日本と長野県における産婦人科医療の現状
と今後の対策について

         司会:北里大学医学部産婦人科 教授 海野信也

1) 全国の状況と日本産科婦人科学会が考える対策
日本産科婦人科学会 産婦人科医療提供体制検討委員会委員長
            北里大学医学部産婦人科 教授 海野信也
2) 全国的な産科医不足の現状と厚生労働省の立場
厚生労働省雇用均等・児童家庭局 母児保健課 課長 佐藤敏信
3) 長野県の現状(実態調査報告)と課題
             信州大学医学部産婦人科 講師 金井 誠
4) 長野県における行政の立場から
                      長野県衛生部長 高山一郎
5) 住民の立場から
      『いいお産』を望み上田市産院の存続を求める母の会
                         育児サークル「ビーンズ」 代表 桐島真希子
6) 長野県における将来の展望と対策
                      長野県産婦人科医会会長 
            信州大学医学部産婦人科 教授 小西郁夫
7) 総合討論

   主催: 平成17年度厚生労働科学特別研究事業
    『産婦人科医療提供体制の緊急的確保に関する研究』班
   共催: 厚生労働省、長野県、長野県産婦人科医会

参加費および事前登録は不要です。どなたでもご自由に参加可能で
すので、なるべく多くの方々のご参加を願っております。

           このシンポジウムに関するお問い合わせ先:
                信州大学医学部産婦人科 金井 誠
                                    〒390-8621 長野県松本市旭3-1-1
                           TEL: 0263-37--2719  FAX: 0263-34-0944


河北新報: 医療界反発 異論も噴出

2006年03月18日 | 報道記事

****** Yahoo!ニュース-河北新報、東北ニュース

医療界反発 異論も噴出 福島県立大野病院の医師逮捕、起訴

 福島県大熊町の県立大野病院の産婦人科医加藤克彦被告(38)が、帝王切開手術で同県楢葉町の女性=当時(29)=を死亡させたとして、業務上過失致死と医師法違反の罪で逮捕、起訴された事件が波紋を広げている。日本産科婦人科学会などが「難度の高い手術で刑事責任を問われたらメスは持てない」などと反発、支援の募金や署名も始まった。一方で専門家や市民から、医療界の主張を疑問視する声も上がっている。

 「女性は重度の癒着胎盤という数千例に一例の難しい症例。絶対助けられたと言えるのは一握りの医師だけだろう」

 日本産科婦人科学会常務理事の岡井崇・昭和大教授は、同学会などが16日、東京都内で開いた会見でこう強調した。

 各地の関係団体も「逮捕の理由は不透明」(宮城県保険医協会)などと声明を発表している。

 加藤被告は胎盤を無理にはがし失血死させた業務上過失致死罪と、異状死を24時間以内に警察に届けなかった医師法違反の罪に問われた。

 福島地検は「血管が集中する胎盤をはがせば失血死することは予見できた」と立証に自信を示す。逮捕については「遺体を検分できず、関係者の口裏合わせを防ぐ必要があった」と説明した。

 異例の展開を専門家も注視する。弁護士で医療過誤訴訟に詳しい南山大の加藤良夫教授(医事法)は「医療界は長年、『くさいものにふた』と医療事故を隠し、被害者救済、再発防止に消極的だった。そこで最近、警察が動きだしたという歴史的経過がある。警察の過度の介入は避けるためにも、医療界は自浄作用を発揮しないといけない」と指摘。

 届け出義務がある「異状死」の解釈論争については「医療の安全を高めるためにも、遺族らも納得できる事故調査・被害救済の第三者機関をつくることが大切。患者の視点を抜きに、異状死の線引きを議論してもあまり生産性はない」と話す。

 加藤被告は同病院産婦人科に1人で勤務、年間約200件の出産をほぼ1人で担当していた。学会は「過重な負担に耐えてきた医師個人の責任を追及するのはそぐわない部分がある」と主張する。

 一方、地元の福島県双葉郡では、学会などの抗議に「身勝手だ」と憤る住民もいる。

 ある保育所の女性保育士(51)は「人の命を預かる仕事だから万全の準備をするのは当然」と怒りをあらわにする。別の保育士も「実情を知る医療界が、1人体制の厳しさや危険性を今になって言い出すのはおかしい」と疑問を投げ掛けた。

[帝王切開死亡事件] 2004年12月17日、大野病院で加藤被告が帝王切開した女性が、大量出血により失血死した。福島県警は県事故調査委員会が05年3月、(1)癒着胎盤の無理なはく離(2)医師の不足(3)輸血の遅れ―が原因とする調査結果を公表した後、捜査に着手。今年2月18日に同被告を逮捕、福島地検が3月10日起訴した。

(河北新報) - 3月18日7時4分更新

「周産期医療の崩壊をくい止める会」が厚生労働大臣に陳情書を提出

2006年03月18日 | 報道記事

*************** 私見:

『この患者さんを絶対に助けたいと思って、臨床現場で医師達が正当な救命の努力をしても、その結果として患者さんの命を助けられなければ、担当した医師達が次々に逮捕され有罪になってゆく!』というような社会になってしまったら、今後、医師はこの国では救命活動が一切できなくなってしまいます。

今回のような悲劇が今後も繰り返されないように、早急に法律を整備して、国全体の(周産期)医療システムを改革していかなければならないと思います。

****** Yahoo!ニュース、共同通信

「医師不足が背景」と訴え 福島の医療事故で厚労相に

 福島県立大野病院で帝王切開を受けた女性が死亡し、医師が逮捕、起訴された医療事故で、福島県立医大産婦人科の佐藤章教授らが17日、「へき地医療が抱える医師不足などが背景だ」と再発防止策を取るよう訴える陳情書を川崎二郎厚生労働相に提出した。賛同する医師ら6520人の名簿も添えられた。
 陳情書は、この事故が産婦人科医が一人しかいない地域の病院で起きたことを指摘。一定の確率で起こり得る不可避な出来事に対し、専門医として全力の治療を施した医師ですら刑事責任を問われるのなら「ハイリスク患者のたらい回しが全国に広がることになる」とした。

(共同通信) - 3月17日20時31分更新

****** Yahoo!ニュース-毎日新聞

<医療過誤>福島県立医大医師グループが厚労相に陳情書

帝王切開手術中に患者を死なせたとして福島県立大野病院の産婦人科医が業務上過失致死と医師法違反の罪で逮捕・起訴された事件を受け、福島県立医大の医師らが17日、医療体制整備などを求める陳情書を、6520人の署名を添えて川崎二郎厚生労働相に提出した。「システムの問題として対策を考えるべき」と訴えている。

(毎日新聞) - 3月18日0時46分更新

****************

          陳情書

                        平成18年3月17日

厚生労働大臣
川崎 二郎先生

 6520人の賛同人と共に、この陳情書を提出いたします。

 周産期医療の崩壊をくい止める会

 代表
  佐藤 章
  福島県立医科大学医学部産科婦人科学講座 教授
 
  高久 史麿
  日本医学会 会長

  黒川 清
  日本学術会議 会長

陳情書
「chinjousho.pdf」をダウンロード

資料
「shiryou.pdf」をダウンロード

福島産科医師不当逮捕に対し
陳情書を提出するホームページ


読売新聞記事: 医療ニュース

2006年03月17日 | 報道記事

YOMIURI ONLINE 医療ニュース

福島の産科医起訴、医療現場反発

手術の死「医師個人の責任問えるのか」

 福島県大熊町の県立大野病院の産婦人科医が、帝王切開手術で妊婦を失血死させたとして逮捕、起訴された事件で、日本産科婦人科学会などが16日、会見し、「故意や悪意のない医療行為に対し、個人の刑事責任を問うのは疑問」と抗議、医療現場に波紋が広がっている。

 この事件は、女性(当時29歳)の帝王切開を執刀した医師(38)が、子宮に癒着した胎盤を無理にはがして大量出血させ、死亡させたとして、業務上過失致死と医師法(異状死体の届け出義務)違反の疑いで逮捕され、今月10日、福島地裁に起訴された。医師は14日に保釈された。

 福島地検の片岡康夫・次席検事は「血管が密集する胎盤を無理にはがせば、大量出血することは予見できたはず。はがせないものを無理にはがした医師の判断ミス」と起訴理由を説明している。

 これに対し、同学会は会見で、〈1〉胎盤の癒着は数千例に1例と極めて少数で、事前の診断は難しい〈2〉胎盤をはがすかどうかは個々のケースや現場の状況で判断すべきだ〈3〉適切な処置をしても救命できないことがある――などと反論した。

遺族「予見できたはず」

 一方、亡くなった女性の父親(55)は「事故は予見できたはずだ。危険性が高い状態で、大きな病院に転送すべきだったのに、なぜ無理に(手術を)行ったのか」と不信を隠さない。

 学会の反発の背景には、「地方の産科医不足が加速する」との懸念がある。

 起訴された医師は、03年に福島県立医大から派遣され、大野病院で唯一の産婦人科医として年間200件余のお産を手がけていた。

 同様の「1人医長」の病院は少なくない。産科婦人科学会の昨年の調査では、全国の大学病院が医師を派遣する関連病院のうち、17%は常勤の産科医が1人だけだった。東北や九州、東海・北陸では20%を超え、地方ほど診療体制が貧弱だ。

 常勤医1人では医師が24時間、拘束されて疲弊するうえ、患者の急変時などに十分な処置ができない恐れもある。就労環境の厳しさに加え、出産を巡る訴訟も多いことから産科医は年々減り、大学が医師派遣を打ち切る例も相次いでいる。

 国も、1人体制などの病院から、産科医を地域の中核病院に集める方針を打ち出しているが、多くの地域では、医師を引き揚げられる地元自治体の反対などで、医師の集約はスムーズに進んでいない。

 医療事故が起きた際の原因究明システムの課題も浮上した。米国では、州ごとに医療事故を監視する公的機関があり、専門家が調査し、医師免許取り消しなどの処分を行う。一方、日本では「医療事故の真相解明は“かばいあい体質”の医療界には期待できず、司法に頼るしかない」という患者側の声も根強く、米国のような医療事故調査の第三者機関が求められそうだ。

 福島県立大野病院の事故を巡る経過

 2004年12月 帝王切開を受けた女性が死亡

 2005年 3月 県の事故調査委員会が事故報告書を公表。これを報道で知った福島県警が捜査に着手。

 2006年 2月 県警捜査1課と富岡署が18日、執刀した医師を逮捕。

       3月 福島地検が10日、医師を福島地裁に起訴。

(2006年3月17日  読売新聞)