中国が年内の設立をめざすアジアインフラ投資銀行(AIIB)をめぐり、これまで参加に慎重な立場を取ってきた安倍政権内部から、参加論が出てきた。
中国が「創始メンバー国」の締め切り日とする今月末が迫り、英国やフランスなど主要7カ国(G7)からも、参加表明が相次いでいるからだ。

 麻生太郎財務相は20日の記者会見で、AIIBについて、融資の基準や組織の運営などで透明性が確保された場合、
「少なくとも中に入って、どういう(出資)割合にしていくかを協議する可能性はある」と語った。
「政治や経済といった意味から慎重に判断したい」と付け加えたものの、政権幹部が参加の可能性に言及したのは初めて。
21日にソウルで開かれる日中韓外相会談でもAIIBが議題にのぼる可能性がある。

 AIIBをめぐる情勢は、この1週間で急変した。
英国が12日に参加を表明すると、
17日に独仏伊が追随。
20日にはオーストラリアが参加の方針を固めたと地元紙が報じ、
中国政府はスイスが参加表明したと発表した。
東南アジア諸国連合(ASEAN)各国を含め、参加表明は30カ国以上にのぼる。

 相次いで創始メンバーに名乗りを上げるのは、AIIBの融資案件の入札などで事実上、参加国の企業が優位に立ち、ビジネスチャンスが広がるとみるからだ。
アジアのインフラ需要は、日米が主導するアジア開発銀行(ADB)の融資では、とてもまかない切れない。

 「日本企業と技術面で戦うのは欧州企業だ。米国べったりは戦略ミスだ」
(官邸幹部)などと、日本企業が不利になると心配する声が政権内からも漏れる。

 とはいえ、日本が参加するハードルは高い。
欧州各国はアジア域外のため、当初の出資金(500億ドル)の4分の1を各国で分担すれば済む。
だが、域内の日本の場合、参加するには残りの4分の3の一定割合を負担するため、数千億円規模が必要ともいわれる。
最大の出資者になる中国が融資などの決定権を握る組織に「巨額の血税を投入するなど、国会を通らない」(財務省幹部)。
歩調を合わせる米国に「抜け駆け」する形で参加する選択肢も、考えにくい。

 安倍晋三首相は20日の参院予算委員会
「中国の発展はチャンスだが、AIIBには課題がある。そんな中で慎重に検討していきたい」と述べるにとどめた。(細見るい、鯨岡仁

■雪崩打つG7、米の誤算

 米政府内部には、AIIBが一定の基準を満たせば関与することに前向きな意見もある。
だが、中国の勢力拡大を懸念する米議会は、自国が主導する国際通貨基金(IMF)改革すら認めておらず、現状ではAIIBへの出資を認める可能性は低い。

 「英国やドイツがそこまで参加に前のめりだったとは思わなかった。中国は明らかにうまくやった」。
ある米政府関係者は、「誤算」を認める。

 その中国は、相次ぐ参加表明にわく。
「AIIBのはつらつとした勢いは、中国外交の国際社会での影響力を示している」。
19日付の中国共産党機関紙・人民日報は、欧州主要国が加わる事態をこう表現した。
国有メディアは連日、成果を強調する報道を続ける。

 昨年10月時点でAIIB設立に同意したのは、途上国を中心に21カ国。
そのままでは格付けが低く抑えられて資金調達で不利と言われたが、信用力のある欧州勢の参加で、心配は薄れつつある。

 次の期待は、韓国や豪州などアジア・太平洋域内で経済規模の大きい国の参加表明だ。
日本についても、「交渉の状況は逐一知らせている」(楼継偉財務相)と、扉が開かれていることを強調する。

 設立に向けた各国との協議では、日米が「不透明だ」と指摘する組織運営や融資の基準について、高い透明性を求めてくることは確実だ。
「幅広い国が参加すれば、国際標準に合わせる可能性は高まる」(世界銀行中国担当局長をつとめた米ブルッキングス研究所のデビッド・ダラー氏)との見方が広がる。

 前アジア開発銀行研究所長の河合正弘・東京大特任教授は
「現状では投票権の50%近くを中国が持つ可能性があり、融資案件を勝手に選ぶことが可能だ。中国が組織運営のあり方を見直さない限り、交渉の結果、参加しない選択肢もある」
と指摘する。(ワシントン=五十嵐大介、上海=斎藤徳彦)