「ドイツの日本のガイドブックに、「日本人に南京大虐殺の話はタブー」って書いてあるけど、僕達“gaijin”はそれを受け入れるべき?」
ドイツ人の友人トーマスさんから先日こんな質問を受けました。
実は、この質問の前に私達が話題にしていたのはドイツ(他周辺国)にある『ホロコースト否認を禁じる法律』。
トーマスさんは、「ホロコースト否認論者はネオナチで、言論の自由の問題はあるにしても、例外的にこの法律は必要。」と言います。
これに対して私は、「法律のあるなしに関係なく、人に人種差別の気持ちがある限りネオナチはいくらでも出てくる。それに第二次世界大戦のこの悲劇は、ナチスやドイツだけでなく、欧米の他の国にも原因はある。この法律があることによって、他の国が自分達も実はユダヤ人(およびロマ人や同性愛者等)絶滅について間接的加害者の部分があったということから目をそらしてしまう。よって、法律は反対。」という意見。
また、こうした法律が及ばない日本でも、1995年に「ナチスドイツがユダヤ人を差別・迫害したことは事実でも、彼らを絶滅しようとしていたという証拠がない」「ガス室は捏造」という記事を掲載した雑誌『マルコポーロ』が廃刊に追い込まれた事件がありました。これはユダヤ人団体の圧力によるものですが、ユダヤ人の悲劇に同情する私でも、この事件には疑問を感じずにはいられませんでした。
とはいえ、私が問題にしているのは、「言論の自由が脅かされる法律はいけない」ということの前に、「法律があっても人の心まで規制できない」ということが一番。これにはトーマスさんも納得してくれました。
「それにしても法律の前に、日本は戦争責任にきちんと向き合わないばかりか、当時のことに興味を持たない人が多すぎる。ドイツとはその点が大違いですね。」
納得してくれたトーマスさんにこう書き送ったあとに彼が発したのが冒頭の質問です。彼はこの質問を私にしたいけど、して良いものかどうか悩んで遠慮していたと言います。
トーマスさんはその少し前、『ジョン・ラーベ』という、南京大虐殺のときに中国人を救ったドイツ人が主人公の映画を観たそうです。この映画は日本から香川照之などが出演していますが、日本では上映をされません。そのことが上のガイドブックのアドバイスと重なって気になっていたようです。
「「日本人に南京大虐殺の話はタブー」というのはどうでしょう。むしろ、一部の人達を除いては、戦争自体・南京大虐殺について関心がない人の方が多くて話が続かないから、勘違いされている部分もあるかもしれませんね。『ジョン・ラーベ』の映画については、配給会社や映画館が右翼などに抗議されることを嫌って、という部分もあるでしょうが、日本では観客を動員できないというのも理由だと思います。」
良心的日本人をも描いた南京大虐殺を題材とした中国映画『南京・南京』が日本の“小さな映画館”で上映されることになるだろうということも伝えつつ、私はそう答えました。
『タブー』について汚名返上はしたものの、『ドイツのホロコースト否認を禁止する法律』を守ろうとするドイツとは対象的な日本に複雑な気持ちを抱きながら。