う~ん、10月に入ってから記事エントリ数が激減してますね。こりゃいかん。
ブラジル音楽専門店たるもの、もっと積極的に情報発信せねば。
というわけで思いつき企画「ワタシの好きな1枚シリーズ」。その壱だけで終わらないようにしたいものです。
売り物としては在庫で残っていないのですが、知る人ぞ知る女性シンガーソングライター、ファチマ・ゲヂス(Fatima Guedes)の93年作、"Pra bom entendedor..."を。
この人はレイラ・ピニェイロとシモーネ・ギマランエスのちょうど中間点にあたるようなクセのある声質の持ち主で、なかなかブラジル音楽入門者の方には受け入れられない傾向にあるのですが、はっきり申しますと、ものすごい傑作だと思います。
店主は96年末に初めてブラジルに行った際、友人のブラジル人ドラマーから現地で「これをやろう。お前なら絶対気に入るはず」と言ってプレゼントしてもらったのがこのCD。白状すると、本当の意味で気に入るのに5年の歳月を要しました(笑)。それくらい当時のワタシの耳は未熟だったというわけですね。なんせやれスカンキだとかやれチンバラーダだとか騒いでいた頃ですから・・・。
で、この盤、何が凄いかというと、もう作詞・作曲・編曲・演奏陣から全てにおいて極上アコースティックMPBの要素が思い切り凝縮されているわけであります。
まず1曲目のスエリ・コスタ作、"Violão"から。エリオ・デルミーロの美しいギター1本をバックにファチマが歌い上げます。パウロ・セーザル・ピニェイロによる詩がこれまた美しすぎ。拙訳ご容赦。
ある日
わたしは見た
道の途中
横倒しになった木を
それは丸太ではなく
松の一枚板だった
それを一人の職人が
女体の形に彫っていた
そのあと
わたしは見た
夜のさなか
あの職人が
月の光を集め
銀色の弦を紡ぎだしていくのを
それらはぴんと張られ
露わな女体を震わせた
そして最後に職人は
この木でできた女に
心を埋め込んだ
そして彼女を抱き締め
素敵な名を与えたのだった
かくして
ヴィオラゥンが生まれた
もうギターファンにはたまらない歌詞ですね。弾き語りとかしたくなってきませんかこういう歌。松の木?てことは表板?とか思ってしまうアナタとワタシは立派なギターフェチ。さて、2曲目はギンガによる一度聴いたら絶対耳にこびりついて離れない変態フレヴォ、"Vô Alfredo"。ギンガのギターワークとスザーノのパンデイロが強烈そのものです。どうやったらこんな作曲ができるんでしょうか。毎回思うんですがちょっとおかしいです、ギンガって人。
その他参加ミュージシャンとしてはクラウヂオ・ジョルジ(ギター)の名がありますね。この人の名前がクレジットされてたら、まずその内容には安心していいです。も、最高です。それからベースにはシザゥン・マシャードにアルトゥール・マイアがほぼ半々で担当。これで粘り腰サウンドも保証されました。ジルソン・ペランゼッタの名前も見られます。
4曲目には我が兄貴レニーニの"O silêncio das estrelas"が入ってます。正直言って兄貴のオリジナルヴァージョンより数倍カッコいい。なんつったってレニーニ&スザーノがバックで演奏してるンですから。あの伝説の名盤「Olho de peixe(通称ウオノメ)」を製作した同年の録音ですよ。ていうか年代的に考えるとむしろこれこそがオリジナルと呼ぶにふさわしい。もう目頭が熱くなります。
次にヂジャヴァン(わざわざそういう書き方すんな)の"A rota do indivíduo (Ferrugem)"ではなんとヂジャヴァン(笑)本人がギター弾いてます。ここでのファチマの歌、そして演奏の「間」は本当に素晴らしい。
少しおいてセルジオ・サントス作曲の粋なサンバも良い味わいを出してます。そしてハイライトはファチマ本人の作曲による"Silenciosa"。これは間違いなく泣けます。ハンモックに揺られながら優しく頭を撫でられているような安らぎ感・そよ風感。ちょっと世の中にお疲れ気味の方など一気にぶわッと来ちゃうかもしれません。かと思うと直後にまたあの変態ギンガおじさんが今度は自身の歌をも披露してファチマとデュエットする曲まであったりしてもう一筋縄ではいきません。その他も挙げていくとキリがない佳曲揃いであります。
しかしながらサンバタウンでは、そのあまりにパッとしないジャケのせいか当初なかなか売れず、耳の肥えたお客さんに店主の手持ち盤を聴いてもらい「おお、これは!」と唸られた時には既に残念ながら在庫ゼロ、入手が極めて困難な状態になっていました(なんつってもVelasレーベルですから)。もう取り寄せは無理かなあと先日このアルバムを店でかけながら調べていたら、意外や意外、廃盤にはなっていないようです。早速オーダーしてみようと思います。タイトルは「良き理解者へ・・・」という意味ですが、皆さんにも彼女の音楽の良き理解者になっていただきたいと祈りつつ、ほんのちょびっとだけCD発注する店主ゼジであります。