麦畑

太陽と大地と海は調和するミックスナッツの袋のなかで

工房月旦5月号

2023-08-02 21:56:51 | 短歌記事

 

未来4月号から1年間、工房月旦を執筆しています。
担当は、さいとう・池田・大島・田中、各選歌欄です。

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工房月旦5月号    鈴木麦太朗

  焼香をおえてきて外すネックレス冬の肌
  にぬくもりていて    丸山さかえ 
 温度という表現の難しいものをうまく扱っ
ている。ていねいに詠んでおり状況がよくわ
かる。
  パーオーン象の形の坂戸市に猫と暮らし
  て三十五年       茂木 敏江 
 岩田正の《イヴ・モンタンの枯葉愛して三
十年妻を愛して三十五年》を踏まえているの
かもしれない。大胆な初句が印象的だ。
  いずこまで走る列車かコンテナは同じ高
  さに運ばれてゆく    谷口ひろみ 
  黙つてる人と会話をする人のゐる土曜日
  の美容院なり      高崎れい子 
 あたりまえのことをあえて述べる技法が冴
えている二首。谷口作品、五十両くらい続く
ようなおそろしく長い貨物列車を想像した。
高崎作品、美容院に行ったことは無いが理髪
店も同様だ。しゃべる人はしゃべるし、しゃ
べらない人はしゃべらない。
  たびたびの故障を越えて四年生・木本が
  ぐいと押し出す襷    紺野ちあき 
 箱根駅伝の襷リレーの場面を詠んだ歌。下
句の力強い表現がいい。木本選手の熱い気持
ちが伝わってくる。
  軽やかな契りのやうにお互ひの煙草を一
  本交換し合ふ      酒匂 瑞貴 
 儀式めいていて魅力的な場面だ。同姓どう
しの行為のような気がする。比喩が効いてい
て何かセクシュアルな印象もある。
  うたごえを響かせてみんなよく笑う壁が
  微かにふるえて撓む   和田 晴美 
 デイサービスの部屋の状況。みんな楽しく
歌っているのだが、下句にどこか不穏な感じ
があり考えさせられる歌となっている。
  車窓にはガラス張りの製薬会社み通しの
  よいことは良いこと   太代 祐一 
 「製薬会社」という具体がいい。製薬業界
の諸問題や錠剤の透明なパッケージなどを想
像させる効果がある。
  生まれてもだいじょうぶかと訊かれても
  答えられないかんぴょう巻きは 西村曜
 「生まれても」から、かんぴょう巻きを噛
んだときに、かんぴょうがとび出す様を想像
した。ほのぼのとした可笑しみがいい。
  山茶花が散ったり咲いたりしてるまにあ
  なたはあなたから遠ざかる 藤田正代 
 評は難しい。だがいい歌だ。上句の景の助
けを借りつつ下句の意味を咀嚼してゆく。そ
の思考の過程こそ、この歌を楽しむ醍醐味と
言えよう。
  朝焼けに向かいて歩く朝焼けの消えて朝
  日の見える丘まで    村山 寿朗 
 早朝の散歩の場面であろう。三回あらわれ
る「朝」が効果的で、丘までの道行きの軽快
な足取りがつぶさに感じられる。
  卓上のベルをチンチン鳴らすにも味を出
  さんかわが役どころ   三田村広隆 
 批評会で時間を知らせる役を仰せつかった
作者。単にベルを鳴らすだけでなく、そこに
気持ちを込めたいという心情が面白い。
  モンブランのてっぺんに乗る剥き栗の伝
  え続ける和菓子の風味  岡田 淳一 
 下句の意外性のある視点に立ち止まった。
確かにモンブランの上に乗っている栗は和菓
子的な味わいがあるような気がする。
  この酒がおれを長生させるよね思いて今
  日も笑顔であおる    先村 義之 
 大いに共感した。結句が実にいい。

 

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