上発地村から

標高934mぐらい日記

タイ ベトナム旅行記 3日目 敏腕バイヤーS氏奮闘編

2016年04月13日 | Weblog
アムパワーの朝は早かった。
6時前に起きるとそのままロビーに向かい「サワディーカップ」とあいさつしてからお布施用の黄色い花と飲み物を受け取る。
昨日のチェックインの時に、「明朝お坊さんが船に乗って托鉢に来るんだけど、お布施されますか?」とおじさんに訊かれたので、S氏が是非お願いしますと頼んでおいたのだ。僕らはお坊さんが来るまで涼しげなアムパワー川をゆっくり眺め、深呼吸をして朝の空気を思う存分吸い込んだ。じつに気持ちが良い、気持ち良すぎてS氏はそのまま川に足をつけてしまっている。
間もなく一人用の船に乗った黄土色の「糞掃衣」着たお坊さんが櫂を漕いででやってきた、人力なのでスピードはゆっくり。ここで船にいすゞ製のエンジンがついていて爆音をあげながら坊さんがやって来たらお布施はなかっただろうな。俺とS氏は鉢にお供えを入れ静かに手を合わせる。お坊さんはありがたいことに僕らにむけお経をあげてくださった。その後おもむろに上流へむかってゆっくり舟を漕ぎだした。あとには舟の残した引き波と櫂が水に刺さる音と鳥の鳴き声だけ。この三つが逆に静寂さをきわだだせている。人間と動物と自然が程良く調和している世界がここにはあった。舟が去った後、S氏は日本で見せたことのないような表情になっていた。それは安堵というか呆けてしまったというか、至極穏やかな顔になり「今日一日は悪い事できないな…」とポツリのたまう。
禊された後はバイキングで朝食。目玉焼きにサラダとトーストがあってなんかちょっとうれしかった。器も紺色模様の西洋チックな食器でかわいい。足元には白い子猫がまとわりついてきてこれまたなんともはや… 
名残惜しいが今日はバンコクでの買い付け仕事が残っている。僕らは素敵なおかまおじさんオーナーと素敵なオープンホテル「バーンラックゲストハウス」に別れを告げ、ソンテクに乗りアムパワーを後にした。バイクのサイドカーに乗ってるちっちゃい姉弟を横目にバンコク行きの長距離乗り合いハイエースタクシー乗り場に向かう。サイドカーに卵が山積みなんてのも走ってたが、朝の納品に向かうおばちゃんなんだろう、こういった個人マーチャントが未だに多いってのは、合理化された日本の流通に無いおおらかな配達風景がそこここに残っててなんとも素晴らしい。
そうこうしながらソンテク(貨物車改造タクシー)は長距離タクシー乗り場へ到着。ちょうど目の前のバンコク便が出るところでそれに乗ろうとするが、金を渡した兄ちゃんが次の便に乗ってくれと言ってきた。そこは百戦練磨のS氏、旅慣れている。兄ちゃんにわざと渋い顔を見せ、なんとか乗らせてくれるよう強く要求した。彼は大きめのスーツケースを持っているため料金割増になったが、なんとか直前の便に乗らせてもらえた。これでずいぶん時間短縮できたのでバンコクでは時間に余裕ができそうだ。
それにしても横浜銀蠅の翔に似た長距離タクシーの運ちゃんはかなりの強者だった。空いてそうなレーンを見つけてはジグザグに走行し、その判断がことごとく当たっている。だんだん昼に近付いてくるにつれバンコク市内の道は混んでんできたのだが、銀蠅の翔は俺はプロだぞ任せとけと言いたげな運転で時間通りにタクシーターミナルに到着した。
到着地ビクトリーモニュメントから買付け場所であるプラトゥーナム市場へはバスで行こうと話していたのだが、目的のバスがなかなか見つからない。しかたなくタクシーをつかまえ大きな荷物と一緒に乗り込む。ここにきてタクシーの冷房は非常にありがたい、昼時のバンコクは東京並みのネットリする暑さ、このままずっと乗っていてもいいぐらい涼しい車内だったが、タクシーはあっという間にプラトゥーナムのパラディアムワールドショッピングモールへ到着。そのまままた涼しい店内に入り、S氏の得意先の仕入れ商店に顔を出した。馴染み客が来たので女店主もうれしそうに出迎えてくれた。ここでは主に衣料品の仕入れをする予定なのだが、商品を眺め出したS氏はお気楽タイバッパ―から敏腕バイヤーへと顔つきが急変、俺はもはや邪魔ものでしかない。小休止していた椅子から立ち上がり、店内をぶらついてくるとS氏に告げその場から立ち去った。
モール内はけっこうシャッターが閉まっていてあんまり繁盛している店がないようにみえる。真珠やアクセサリー、衣料品、靴やバックなど様々、問屋のような小売り店のような店が並んでいたが、日本同様マッサージ店も多かった。タイ人も疲れていて癒しが必要なんだろうな。
一時間ちょっとぶらぶらしてからさっきの店に戻るとS氏は買付が終わっていた。昼すぎていたのでまず僕らは腹ごしらえのためS氏お気に入りのチキンライス屋へ、チキンライスといってもケチャップ味ではない。カオマンガイという料理で、ソースはナンプラーにニンニクとお酢を混ぜた感じの味付け。おススメというだけあって美味かった。ここの気候にはここの料理がマッチする。昼食後は支払いのため両替所に向かった。相変わらず外はネットリ暑いが店舗の中はちょうどよくクーラーが効いている。タイに来る前は店ん中もどうせ暑いんだろうなと思っていたが、いいほうに期待を裏切られた。その後衣料品問屋に戻って支払いを済ませ、仕入れ商品をバックパッキングし、次の訪問国ベトナムに向かうためドンムアン空港を目指す。しかし今このタイミングでなければタイ式マッサージは受けられない。もう足もクタクタ、荷物も重い。S氏と話し合い通りがけのマッサージ店に入ろうということで一致、重い荷物をひきずりながら店を見つけ入った。
S氏はタイ古式マッサージ、俺はオイルマッサージをやってもらうことに。一時間程だったが足のむくみが和らぐ。もう少し強めにやってほしかったがS氏がいないとタイ語が話せない、やはり彼の存在は大きかった。その後カレー店で小腹を満たしたのだが、リサーチせずに入った店だったのでたいして美味くなかった。こういうのもたまにはしょうがないだろう。日本の店でもよくある事だ。カレー店を出てからタクシーをつかまえ、今度こそドンムアン空港へ、S氏がコミュニケーションをとったところタクシーの運ちゃんは普段タイ軍隊に勤務しているらしい。休みの日はタクシーに乗って稼いでるということだったが日本じゃそんなのありえない。しばらくS氏は運ちゃんと会話してたのだが、彼の様子を見て「この運ちゃんなんか薬やってんじゃないか?目がおかしいぞ?!」とか言ってひとりでうけていた。確かに「ニューハーフ大好き!最高!」と脈絡も無く何度も叫んでいたし、俺の事をヤクザとかマフィアとか言って終始上機嫌だった。軍隊生活が長いと趣味志向がそっちに傾くのだろうか。こわいこわい…
99万キロも走っているトヨタを運転するニューハーフ好き軍人タクシーは上機嫌のままドンムアン空港に到着。タイの自由奔放さに後ろ髪引かれつつ、夜8時時発のエアーアジアに乗ってベトナムへと旅立った。飛行機の窓から眺めるバンコクの街の明かりが遠ざかり、1時間半もするとホーチミンの街の明かりが見えてきた。明かりは似てるようでも全然違う国なんだよな。何事もディープに入り込んでいかないとその国のほんとうの姿は見えてこない。タイからベトナムに、思いはすでに切り替わっていた。

怒涛の東南アジア旅はまだまだ続く…