SHOUTS TO THE SOUL !!   岡崎 陽

根っからのネガティブ人間。
無能、ノミの心臓が語るブログ。

短編小説その2

2013年01月14日 08時10分34秒 | Weblog
彼は去年、肺炎をこじらせて、高熱による脳の疾患を患い、精神を壊したと聞いた。

部屋で1日中テレビを見て・・・いや観ていない、その視点は定まっていなかったようだ。

しかし、笑い、泣き、時にはひれ伏すようにうなだれているのを見て

家族は彼を精神病院に入院させた。

入院半年後、友人である俺は彼を見舞いに病院を訪れた。

彼はよだれをたらし、にやけながらテレビの前に座っていた。

俺は無言で彼の肩に手を置き、ほんの数分その状態で彼を観察した。

小刻みに肩を震わせている。

服の上からでも骨ばった体は痩せていることがわかる。

フケが付いている襟足は汚れ、病院の不潔感がうかがえた。

彼は俺の存在に気付かないようだ。

俺はこの場にいる理由が思いつかず彼に背を向けた。

その時、彼は小さな声で・・そう俺だけに聞こえるほどの小さな声で、「・・・もう帰るのか?・・・」

確かにそう言った。

俺が振り返ると、彼は俺を凝視して、小さく親指を立てた。

「ここは天国だ、俺の作ってきたわずらわしいしがらみから、解放された。

俺を追い詰める会社も、勝手に俺の稼ぎをすべて食い尽くす家族や、やかましい雑踏そして、不安な将来・・

それらの全てから解放された俺は今、至高の人生を謳歌している。」

そう、彼は病人を装うことで自由を手に入れた。


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