SHOUTS TO THE SOUL !!   岡崎 陽

根っからのネガティブ人間。
無能、ノミの心臓が語るブログ。

短篇小説 俺の秘密

2015年03月31日 16時57分37秒 | Weblog
遠い昔、そう、物心がついたころ。

そのころの記憶、覚えているかい?

普通は殆ど忘れていると思う。

もしも、覚えていると言っても、おぼろげに・・いや、自分勝手に事実を曲げているかもしれない。

俺はある出来事を鮮明に覚えているんだ。

あの日はお正月だった。

近所の人が集まって、餅つきをした。

そして、突きたての餅をみんなで食べていたんだ。

俺は近所の友達と遊んでいた。

そんなときに突然近所のおばさんが大声で「どうしたのよ、なにやっているのよ・・」

その叫び声が聞こえた方を見ると、近所の人が全員が寄り添うように固まっていた。

俺はその様子を遠巻きに見ていたんだ。

そのうちにその人たちの中から、さかさまにされたおじいさんが出てきた。

おじいさんは口からあんこをダラダラと、垂らしていた。

そう、おじいさんはあんこ餅を喉に詰まらせたんだ。

みんなお騒ぎで背中叩いたり、揺さぶったりしていたけど、そのうちにおじいさんはピクリとも動かなくなってしまった。

救急車が来て、運ばれていった。

そのとき、臭ったんだ。

餅の匂いでもない、たき火の匂いでもない、独特な嫌な臭いだった。

おじいさんは亡くなった。

その後、ときどき、年に数回、あのときと同じ嫌な臭いがしたことがあった。

それは町の中、多くの人とすれ違う時に臭った。

俺が小学生のときに近所のおばさんと会ったときに、おばさんからその匂いがしたんだ。

おばさんは化粧香のような香水のような香りに混ざって、あの嫌な臭いがしたんだ。

その3日後、おばさんは亡くなった。

俺は子供心にあの匂いは死の匂いだと、気が付いたんだ。

その後も、時折、その匂いをかいだ。

時には老人、時には若い人と、様々だけど、だからって、その匂いを発する人が死ぬかどうかなんて、知りたくもなく、ただ臭うだけのことだ。

きっと家族や、身近な人から臭ったら、気を付けろとか、体の具合悪くないか?などと言うのが精いっぱいだろうけどな。

「あんた死ぬよ」なんて口が裂けても言えないよな。