スウェーデンに来てから数週間ほど経った頃、私と同じ頃に来たドイツ人の学生がこう言ってきた。「ドイツでもスウェーデンは福祉国家だって聞いていたけれど、公園や酒屋の前でホームレスやアル中の人を見かけてビックリした。」 そう、いくら発達した福祉国家でも、どうしてもそのセーフティーネットから抜け落ちてしまう人は出てきてしまうようだ。とくに、バブルがはじけた91年には失業率が3%から8%を超えるまでに急上昇し、経済的に窮地に陥る者が続出した。
ヨーテボリに日々通学していると、駅の構内や、駅前の広場、デパートの前で手に雑誌を掲げて、売っている人がいる。複数の人が違う場所に立っているが、手にしている雑誌はどうも共通しているようなので、何か組織だったものなのかと、ずっと気になっていた。いつも見かけるのだけれど、立ち止まって買っている人を見たことがなかったので、ちょっとかわいそうな気がしていた。
今日は帰りの電車までに時間があったので、駅前の広場に立つおじさんに話しかけてみた。手にして売っているのは「FAKTUM」という雑誌。内容は、ホームレスの人の生活や社会の現状などを扱っているという。発行しているのは、ホームレスの人やアルコール中毒からの更生を努力する人の支援をしている市民団体らしい。このおじさんはこの雑誌を市民団体の編集部から15krで買い取って、街頭で30kr(450円)で販売する。差額が彼の収入となり、生計を立てるのらしい。彼は失業とそれに続くアルコール依存のために、家族も住宅も失ったことがあるのらしい。現在、この市民団体に出会い、自ら自立していくために、こうした街頭販売をしているのらしい。雑誌の表紙には「乞食ではなくて、働いているのだよ」と書かれている。人にお金を乞うのではなく、自ら社会的活動をして自らを養っていくことで、失われた自尊心を取り戻そうというわけだ。自立しようと努力するものを支援するのがこの市民団体の趣旨らしい。
上の表紙の片隅に書かれた言葉:「乞食じゃなくて働いているのだよ」
その上には「ヨーテボリの"UTELIV"のことなら何でも任せて!」と書かれている。若者が夜にハブやディスコに出かけて、社交をすることを"UTELIV"(=out life)という。一方で、住む場所を失いホームレスの生活をすることを俗に"UTELIV"と言ったりする。この二つの意味をかけたのだ。
もちろん私の感覚からすると、街頭で孤独に立ち続けて、名も知られていない雑誌を売り続けることが、どこまで自尊心の回復につながるのか、私の想像の範疇を超えてしまうが、持つものすべてを失って、社会のどん底に落ち込んでしまった人々にとって、これからのための第一歩なのかもしれない。
雑誌はもちろん深刻な問題を扱ったものだけれど、読むと顔がしかめっ面になってくるような深刻な書き方ではなくて、読みやすいレポタージュや、ホームレスの人による体験談であったり、自分の生き方が変わった話などを、面白おかしく、時に、真面目に、時にシニカルに書いていて、面白かった。
今日話をしたおじさんはÅke(オーケ)という人で、自分が書いたちっちゃな記事も今月号に載っているよと教えてくれた。
“誰かが私にこう語りかけてきた。「あなたがホームレスだなんてありえない。だって、あなたはいつも嬉しそうにしているじゃない。」人はホームレスになれば、いつも惨めで悲しそうにしていなければいけない、ってことだろうか? (オーケ)”
今日買った今月号は今日発売のできたてホヤホヤらしい。毎月発行するというので、来月また買うよ、と約束して別れた。
雑誌「FAKTUM」のホームページ(スウェーデン語)
ヨーテボリに日々通学していると、駅の構内や、駅前の広場、デパートの前で手に雑誌を掲げて、売っている人がいる。複数の人が違う場所に立っているが、手にしている雑誌はどうも共通しているようなので、何か組織だったものなのかと、ずっと気になっていた。いつも見かけるのだけれど、立ち止まって買っている人を見たことがなかったので、ちょっとかわいそうな気がしていた。
今日は帰りの電車までに時間があったので、駅前の広場に立つおじさんに話しかけてみた。手にして売っているのは「FAKTUM」という雑誌。内容は、ホームレスの人の生活や社会の現状などを扱っているという。発行しているのは、ホームレスの人やアルコール中毒からの更生を努力する人の支援をしている市民団体らしい。このおじさんはこの雑誌を市民団体の編集部から15krで買い取って、街頭で30kr(450円)で販売する。差額が彼の収入となり、生計を立てるのらしい。彼は失業とそれに続くアルコール依存のために、家族も住宅も失ったことがあるのらしい。現在、この市民団体に出会い、自ら自立していくために、こうした街頭販売をしているのらしい。雑誌の表紙には「乞食ではなくて、働いているのだよ」と書かれている。人にお金を乞うのではなく、自ら社会的活動をして自らを養っていくことで、失われた自尊心を取り戻そうというわけだ。自立しようと努力するものを支援するのがこの市民団体の趣旨らしい。
上の表紙の片隅に書かれた言葉:「乞食じゃなくて働いているのだよ」
その上には「ヨーテボリの"UTELIV"のことなら何でも任せて!」と書かれている。若者が夜にハブやディスコに出かけて、社交をすることを"UTELIV"(=out life)という。一方で、住む場所を失いホームレスの生活をすることを俗に"UTELIV"と言ったりする。この二つの意味をかけたのだ。
もちろん私の感覚からすると、街頭で孤独に立ち続けて、名も知られていない雑誌を売り続けることが、どこまで自尊心の回復につながるのか、私の想像の範疇を超えてしまうが、持つものすべてを失って、社会のどん底に落ち込んでしまった人々にとって、これからのための第一歩なのかもしれない。
雑誌はもちろん深刻な問題を扱ったものだけれど、読むと顔がしかめっ面になってくるような深刻な書き方ではなくて、読みやすいレポタージュや、ホームレスの人による体験談であったり、自分の生き方が変わった話などを、面白おかしく、時に、真面目に、時にシニカルに書いていて、面白かった。
今日話をしたおじさんはÅke(オーケ)という人で、自分が書いたちっちゃな記事も今月号に載っているよと教えてくれた。
“誰かが私にこう語りかけてきた。「あなたがホームレスだなんてありえない。だって、あなたはいつも嬉しそうにしているじゃない。」人はホームレスになれば、いつも惨めで悲しそうにしていなければいけない、ってことだろうか? (オーケ)”
今日買った今月号は今日発売のできたてホヤホヤらしい。毎月発行するというので、来月また買うよ、と約束して別れた。
雑誌「FAKTUM」のホームページ(スウェーデン語)