スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

ホームレスの人と話す

2005-05-04 05:02:52 | コラム
スウェーデンに来てから数週間ほど経った頃、私と同じ頃に来たドイツ人の学生がこう言ってきた。「ドイツでもスウェーデンは福祉国家だって聞いていたけれど、公園や酒屋の前でホームレスやアル中の人を見かけてビックリした。」 そう、いくら発達した福祉国家でも、どうしてもそのセーフティーネットから抜け落ちてしまう人は出てきてしまうようだ。とくに、バブルがはじけた91年には失業率が3%から8%を超えるまでに急上昇し、経済的に窮地に陥る者が続出した。


ヨーテボリに日々通学していると、駅の構内や、駅前の広場、デパートの前で手に雑誌を掲げて、売っている人がいる。複数の人が違う場所に立っているが、手にしている雑誌はどうも共通しているようなので、何か組織だったものなのかと、ずっと気になっていた。いつも見かけるのだけれど、立ち止まって買っている人を見たことがなかったので、ちょっとかわいそうな気がしていた。



今日は帰りの電車までに時間があったので、駅前の広場に立つおじさんに話しかけてみた。手にして売っているのは「FAKTUM」という雑誌。内容は、ホームレスの人の生活や社会の現状などを扱っているという。発行しているのは、ホームレスの人やアルコール中毒からの更生を努力する人の支援をしている市民団体らしい。このおじさんはこの雑誌を市民団体の編集部から15krで買い取って、街頭で30kr(450円)で販売する。差額が彼の収入となり、生計を立てるのらしい。彼は失業とそれに続くアルコール依存のために、家族も住宅も失ったことがあるのらしい。現在、この市民団体に出会い、自ら自立していくために、こうした街頭販売をしているのらしい。雑誌の表紙には「乞食ではなくて、働いているのだよ」と書かれている。人にお金を乞うのではなく、自ら社会的活動をして自らを養っていくことで、失われた自尊心を取り戻そうというわけだ。自立しようと努力するものを支援するのがこの市民団体の趣旨らしい。


上の表紙の片隅に書かれた言葉:「乞食じゃなくて働いているのだよ」
その上には「ヨーテボリの"UTELIV"のことなら何でも任せて!」と書かれている。若者が夜にハブやディスコに出かけて、社交をすることを"UTELIV"(=out life)という。一方で、住む場所を失いホームレスの生活をすることを俗に"UTELIV"と言ったりする。この二つの意味をかけたのだ。



もちろん私の感覚からすると、街頭で孤独に立ち続けて、名も知られていない雑誌を売り続けることが、どこまで自尊心の回復につながるのか、私の想像の範疇を超えてしまうが、持つものすべてを失って、社会のどん底に落ち込んでしまった人々にとって、これからのための第一歩なのかもしれない。

雑誌はもちろん深刻な問題を扱ったものだけれど、読むと顔がしかめっ面になってくるような深刻な書き方ではなくて、読みやすいレポタージュや、ホームレスの人による体験談であったり、自分の生き方が変わった話などを、面白おかしく、時に、真面目に、時にシニカルに書いていて、面白かった。

今日話をしたおじさんはÅke(オーケ)という人で、自分が書いたちっちゃな記事も今月号に載っているよと教えてくれた。

“誰かが私にこう語りかけてきた。「あなたがホームレスだなんてありえない。だって、あなたはいつも嬉しそうにしているじゃない。」人はホームレスになれば、いつも惨めで悲しそうにしていなければいけない、ってことだろうか? (オーケ)”

今日買った今月号は今日発売のできたてホヤホヤらしい。毎月発行するというので、来月また買うよ、と約束して別れた。

雑誌「FAKTUM」のホームページ(スウェーデン語)

税務署前、23時。

2005-05-02 05:01:09 | コラム
前に書いたとおり、5月2日は確定申告の締め切り。早め早めに提出しようと思っていても、私のおっちょこちょいは相変わらずで、当日の夜遅くになってから、まだ提出してないことに気がついた! こんな性格は一生、直らないかもね。

で、雨の中を駆け足で5分ほど、税務署まで向かうと、こんな小さなヨンショーピンの夜中23時にもかかわらず、車がひっきりなしに税務署のほうに向かってくるではないか。おまけに、税務署のほうも職員を庁舎の前に二人待機させておいて、滑り込みセーフで駆け込んでくる人から、申告票を受け取っていた。私みたいに、最後の最後にならないと腰を持ち上げない人もやっぱりいるんですね。安心しました。

スウェーデンはインターネットも最大限に利用されていて、数年前からインターネットで「電子」確定申告ができるようになった。インターネットで税務署のホームページに接続し、各戸に送られてくる申告用紙に書かれた暗証番号と国民背番号を打ち込んでログインするだけだ。もしくは、電話でも自動的にできるし、携帯メールでもできる。税務署の税金計算に修正を加えたり、所得控除を自分で申請したりするときには、ちょっと面倒になるが、それでも「電子個人証明書」をパソコンにダウンロードした上で、税務署のホームページにアクセスすれば、それも可能になる。

滑り込みで当日になってから「電子」確定申告をしようとする人も多数いたみたいで、当日はサーバーがパンクしてしまって機能しなくなった。私も何度も試すけれど「電子個人証明書」が取得できないので、断念して、書類による申請となった。

5月1日 メーデー

2005-05-01 06:30:56 | コラム
今日はメーデー。

知られているように、スウェーデンでは労働者の政党、社会民主党が1930年代以降のほとんどの期間に政権についてきた。スウェーデンは「建国記念日」が国民の休日でないのに、この「メーデー」は国民の休日という面白い国なので、政治的な好き・嫌いを別として、このメーデーにも触れておきたい。

(私がこれまで感じたところだと、現在のスウェーデン人は「国威」とか「国の誇り」という言葉に対しては、ものすごく控えめな国民性だと思います。逆に第二次大戦中はドイツ・ナチスに共感する人もかなりいたようですが。ヨーロッパを席巻したナチズムに対する反省のおかげで、その後、大きな反動が起こったのでしょうか・・・? ちなみに「建国記念日」である6月6日は今年から国民の休日になりました。)



毎年5月1日にはスウェーデンの各地でデモ行進と集会が催される。一つは中央労組のLOと社民党が共同で行うデモ集会。もう一つはもともと共産党で現在は名前を変えた左党が行うデモ集会。それぞれの町で、この二つのデモ集会は別々に行われる。スウェーデンの社会民主党は1920年の終わりから1930年の始め、政権獲得に際して、革命路線の放棄と現実路線を導入を宣言して支持を伸ばし、政権に就いた。この時点で、共産党からは一線を画すようになった。共産党は90年代に入ってからイメージを改めるために、左党と名前を変えたし、社民党と閣外協力する形で政権側についている。(支持率は現在、それぞれ約33%と約7%)

メーデーには社民党も左党も、有力な国会議員を各地の集会に送り込む。閣僚が今年はどこの町に登場するのか、首相は今年は何をしゃべるのかがニュースの注目するところとなる。ここヨンショーピンには労働生活大臣Hans Karlssonがやってきた。首相Göran Perssonは今年はマルメ。スウェーデンのEU加盟に懐疑的な住民が多いといわれるスウェーデン北部の中核都市ウメオ(Umeå)には、社民党の女性党員でブリュッセルにあるEU委員会の副委員長を務めるMargot Vallströmを送り込んで、EUのイメージアップを図った。ストックホルムの社民党本部・労組本部前の集会では、中央労組の委員長である女性が講演した。

ヨンショーピンではまず社民党と中央労組がデモのあとに集会を開いた。集会を興味本位でちょこっと覗いてみたけれど、集まったのは200人くらいだろうか。労働生活大臣が講演するものの、雰囲気はあまり冴えない。集まったのは中年から退職者がほとんどで、若者は見かけない。その集会の横を今度は左党主催のデモが通過していく。こちらは逆に若者が多かったのは興味深い。社会や世の中の不公正に関心があって、革新運動に関わりたいという若者にとって、社民党というのは高齢者のグループであまり「ナウい」感じがしない。逆に、左党やそれに連なる若者団体は、ちょっとした「過激さ」も相まって若者を惹きつけやすいという傾向があるようだ。知り合いをたまたま見つけて話しかけてみる。普段知っている人が意外なところでアクティブだったりして、面白い。左党は第三世界との連帯、特に、イスラエルとの紛争が続くパレスチナの問題に関心を持っており、そのためもあって、移民やパレスチナ人も支持者の中に多い。

ヨンショーピンの集会はずいぶん小規模だったが、私が冴えないと感じたのは、それだけが理由では無さそうだ。長年、政権についてきた社民党は化石と化しつつある。社会問題に対するのらりくらりとした対応がやたらとメディアに批判されているし、自分の力を自在に操ろうとする首相の傲慢な態度が反感を買っている。特に、スマトラ島沖地震の対応をうまくできなかったことや、難民申請者の受け入れの拒否などが急激な支持低下の原因だ。「社民党は自らの内閣の批判をする以外に、批判の矛先を向ける対象があるのか」という皮肉も聞かれるほどだ。今日のマルメの講演でも、首相は「歯科治療の充実」をひょいと持ち出し、今後取り組んでいくと宣言した。2006年秋に総選挙があるので、それを意識した人気取り政策なのがミエミエで、またまたおかしなことになってきた。

一方、左党はというと、女性を中心に人気の高かった前党首が税金スキャンダルで退陣してから、ドグマ的な共産主義を唱える男性が党首となった。ちょうどのその頃、公共テレビのドキュメンタリー番組が、共産党が80年代に入ってからも東ドイツやソ連の共産党と太いパイプを保っていたことをスクープしたこともあって、その後、支持率が急低下。党内でも、新党首を中心とする「伝統派」、現実路線を歩む「改革派」、それから前党首を中心とする「フェミニズム派」に三分裂してしまった。今年の5月1日はそんな内紛以後、初めてのメーデーとなったのだ。

この日は休日なので、ごく普通のスウェーデン人にとってはごく普通の休日だ。メーデーに関わりたくない人は、「春を祝う日」として、自分たちで別のイベントを企画したりしている。学生にとっては、前日のパーティー開けの、二日酔いの一日となる。