スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

極右グループに対する大規模な反対集会

2013-12-28 01:34:45 | スウェーデン・その他の社会
極右グループとそれに反対するグループがストックホルム郊外にある団地の広場で衝突した、というニュースがあったのは12月15日(日)のこと。第一報が報じられたのは、昼2時のラジオ・ニュース。その後、夜にかけて公共テレビの全国ニュースでも取り上げられた。


報道では、「極右に反対するグループがデモを行ったが、途中から脱線・暴走」、「対立する極左と極右のグループが衝突」、「警察は両グループを引き離すことに失敗」などという表現が使われていたため、私もてっきり、暴力行使も辞さない極右と極左が衝突して、殴り合いの喧嘩をした、という印象を受けた。

しかし、その後、当時の状況がより詳しくなるにつれて、全く異なる事実が明らかになった。


【実は住民による平和的な集会だった】

場所は、シャルトルプ(Kärrtorp)と呼ばれるストックホルム郊外の団地。地下鉄が走っており、駅もある。外国のバックグランドを持つスウェーデン人(移民一世・二世)が比較的多い地区だ。最近、この地区で極右の若者が多く見かけられたり、鉤十字や差別表現などの落書きが目立つようになっており、地区の住民は大きな不安を感じていた。自分たちの住むこの地区で、極右グループが幅を利かせるなんてゴメンだ。そこで、ある住民の発案により、地区の広場(地下鉄駅の近くで人通りが多いところ)で集会を開き、極右・ネオナチグループの活動を私たちは容認しないという意思表示をしようということになった。

当日は、子供連れの家族や、乳母車を押す若い夫婦、高校生、高齢者など一般住民が200人以上も集まった。町を練り歩くデモというより、大勢で一か所に集まって意思表示をするということで「マニフェステーション」という表現が適しているだろう。非常に穏やかで平和的なものだった。

そこに、突如として爆竹や空砲が鳴り響き、黒い服を来た30人ほどの若者が姿を現した。彼らは、住民による平和的な集会によって、自分たちの存在が脅かされたと感じて集まってきた(と、メディアのインタビューに後ほど答えている)。手には棒やガラス瓶を持ち、住民に殴りかかったり、瓶を投げつけたり、蹴ったりした。これに対し、ストックホルム県警の準備は十分ではなく、集会の警備をしていたのは僅か6人の警官だった。住民とそれを襲おうとする若者の間に割って入ろうとするも多勢に無勢。広場はたちまち大混乱に陥った。子供を抱えて逃げる人、近くの映画館に逃げこむ人・・・。


しばらくして多数の警官が応援に駆けつけ、極右の若者を次第に広場の外に追い込み、うち26人を逮捕した。また、この混乱の途中から、極左の若者も話を聞きつけて乱入してきて、ナイフをもって極右の集団に襲いかかったため、混乱に拍車がかかった。負傷者は4人(うち2人は警官)。逮捕された極右の若者の半数は10代。その他もほとんどが20代だった。極左の若者も1人逮捕されている。


【スウェーデン社会の反応】

この事件の後、まず非難を受けたのはストックホルム県警だった。極右グループの不穏な動きがあるという情報があったにも関わらず、集会の警備が十分ではなかったからだ。また、公共テレビのニュース報道も大きな批判を浴びた。暴力行使も辞さない極右と極左の過激派同士の衝突だったという印象を与え、事の重大さを矮小化する報道を、意図的ではないにしろ、してしまったからだ。

しかし、人々の怒りはそれ以上に、一般の住民による平和的な街頭集会に暴力で挑んできた極右の若者グループに対して向けられた。シャルトルプ(Kärrtorp)の住民に共感するデモや集会が、その後、スウェーデン各地で開かれた。私は12月19日(事件から4日後)はヨーテボリにいたけれど、夜6時から大きなデモが街の中心部で見かけた。松明を手に持ち、少なくとも1000人はいるのではないかと思うほど、長いデモ行進だった。(ちなみに、このようなデモ集会に参加しているのは、外国のバックグランドを持つ人だけとは限らない。むしろ、それ以外のスウェーデン人のほうが多い気がする。)

クリスマスを控えた時期に、スウェーデン各地でこのようなデモ集会が開かれたわけだが、その中でも一際大きかったのは、事件から1週間後に、現場となったシャルトルプ(Kärrtorp)で開催された集会だった。「過激派の暴力や差別は許さない、という意思表示のためにみんなで集まろう!」とFacebook上で呼びかけがあり、たちまち18,000人が「いいね!」を押した。その後、主要政党の国会議員なども参加を表明。

当日の12月22日(日)は、15,000-20,000人の人々がストックホルム内外からシャルトルプに集まった。町の広場にはもちろん入りきらないため、近くの競技場に誘導され、大きな集会となった。極右による妨害は今回はなかったようだ。国会議員も、極右であるスウェーデン民主党を除くすべての国政政党が参加した。





クリスマスを前にした慌ただしい時期に、これだけ多くの人が一つの意思表示のために集まったのはとても良いことだと思う。私の友人も何人か参加して写真をFacebookで見せてくれた。一方で、そのような動きをよく思わない人々もスウェーデンにいることも忘れてはならない。スウェーデン民主党の支持率は7~9%を推移している。

最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (中野多摩川)
2014-01-02 07:40:25
日本での在特会のデモとそれに対するカウンターデモを連想させます。
返信する
Unknown (Poscom)
2014-02-07 03:34:50
>中野多摩川
日本のカウンターデモはかなり暴力的だと思う。もちろん暴力はふるってないんだけど…。攻撃的、というべきか。スウェーデンのカウンターデモはなんか愛と余裕があるように感じる。
返信する

コメントを投稿